説明

触媒粒子を担持した延伸ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜またはテープの製造方法およびオゾン除去用フィルタ

【課題】触媒粒子を担持した延伸ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜またはテープの製造方法を改良すること。
【解決手段】本発明による触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜またはテープの製造方法は、テープ状多孔質PTFEを用意する工程と、該テープ状多孔質PTFEに触媒粒子の溶液または分散液を含浸させる工程と、当該溶媒または分散媒を実質的に除去する工程と、該触媒粒子を含有するテープ状多孔質PTFEをさらに縦方向(MD)および/または横方向(TD)に延伸する工程とを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒粒子を担持した延伸ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜またはテープの製造方法、およびそのような多孔質膜を含むオゾン除去用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
触媒は、化学的組成物を変化させ、或いは汚染物を分解除去するため、種々の用途に使用されている。触媒を使用する際の一般的な問題として、触媒と処理されるべき流体の間の反応に利用できる触媒面積を最大化しつつ、触媒を容易かつ安定に装着、すなわち固定化することがある。触媒は、粉末その他の粒子形態において最大限の触媒面積を提供し得るが、処理されるべき流体が触媒面積の全体を自由に流れることが可能なように触媒粒子が配置されない限り、触媒能を十分に発揮することはできない。
【0003】
触媒粒子を収容して固定化するための基材として、延伸PTFE材料を使用することが知られている(特許文献1)。延伸PTFE材料は、ノードまたは結節とフィブリルとからなる微細多孔質マトリックス構造を有し、その微細孔の内部に触媒粒子を閉じ込めることにより、触媒粒子を安定に固定化することができる。特許文献1によると、延伸PTFE多孔質マトリックスは、濾過用途において、処理されるべき流体と触媒粒子との接触面積を最大化することを可能にする改良された内表面、すなわち多孔性を提供する。また、延伸PTFE多孔質マトリックスは、発泡剤や気孔発生剤等の化学試薬を使用しない機械的延伸加工で形成されるため、その後固定化される触媒粒子の化学的汚染が回避される点でも有利である。さらに、延伸PTFE多孔質マトリックスは、一般に引張強度等の機械的特性が高いことから、取り扱い性に優れ、かつ、使用時に損傷を受けにくい触媒収容基材となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平11−505469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の触媒粒子を収容した基材は、まずPTFE分散体と触媒粒子を混合してスラリーを調製し、続いて該スラリーを乾燥させて粉末とし、該粉末に潤滑剤を加えてペースト状にし、該ペーストを押出・圧延成形によりテープ状にし、最後に該テープを延伸して多孔質化させることにより製造される。しかしながら、この従来の製造方法には、押出・圧延成形されるペーストに含まれる触媒粒子が原因で、成形品に欠点が生じ、また成形加工性が悪くなるという問題がある。さらに、触媒粒子を含有する状態でテープを延伸すると、高延伸倍率が実現できず、特に欠点がある場合にはさらに延伸倍率が低くなり、得られる多孔質マトリックスの強度が不十分となる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜またはテープの製造方法であって、成形時に欠点が生じにくく、成形加工性も良好となる方法を提供することである。
本発明の別の目的は、触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜またはテープの製造方法であって、高倍率延伸を可能とし、ひいては該膜またはテープの強度が一層向上される方法を提供することである。
本発明のその他の目的は、下記の課題を解決するための手段その他の記載から明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、
(1)テープ状多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用意する工程と、
該テープ状多孔質PTFEに触媒粒子の溶液または分散液を含浸させる工程と、
当該溶媒または分散媒を実質的に除去する工程と、
該触媒粒子を含有するテープ状多孔質PTFEをさらに縦方向(MD)および/または横方向(TD)に延伸する工程と
を含んでなる、触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜またはテープの製造方法が提供される。
【0008】
さらに本発明によると、
(2)前記テープ状多孔質PTFEが、PTFE微粉末のペースト状物をテープ状に押出成形し、必要に応じて該押出テープをさらに圧延加工し、さらに該押出テープを乾燥することにより多孔質化されたものである、上記(1)に記載の方法が提供される。
【0009】
さらに本発明によると、
(3)前記テープ状多孔質PTFEが、前記乾燥工程に続いて、さらに前記押出テープをMDまたはMDとTDに予備延伸することにより多孔質化されたものである、上記(2)に記載の方法が提供される。
【0010】
さらに本発明によると、
(4)前記TDへの全延伸倍率が1.5〜300倍の範囲内にある、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0011】
さらに本発明によると、
(5)前記MDへの全延伸倍率が1.2〜200倍の範囲内にある、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0012】
さらに本発明によると、
(6)前記触媒粒子が、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化チタン、白金、パラジウムおよびアルミナからなる群より選ばれた少なくとも1種のオゾン分解触媒を含む、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(7)上記(6)に記載の方法で製造された、オゾン分解触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜を含んでなる、オゾン除去用フィルタが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、触媒粒子を含有しないPTFEをテープ状に成形するため、成形時にテープに欠点が生じにくく、成形加工性も良好となる。また本発明によると、成形されたテープに含まれる欠点が無い、または少ないため、その後の高倍率延伸が可能となり、結果として比較的強度が高い延伸PTFE多孔質膜またはテープが得られる。さらに本発明によると、触媒粒子の溶液または分散液の含浸工程後にテープ状PTFEを延伸するため、延伸後のPTFE多孔質膜に触媒粒子を含浸させた場合に起こる溶媒または分散媒による膜収縮が無く、安定した孔径が得られる。また本発明によると、触媒粒子を含浸させるため、PTFE多孔質膜に触媒粒子を均一に分布させることができる。さらに本発明によると、触媒粒子の溶液または分散液の触媒粒子濃度を高めることができるため、溶媒または分散媒の所要量を削減することができ、ひいては溶媒または分散媒を除去するのに要するエネルギーを節約することができる。また本発明によると、触媒粒子を含浸する際の多孔質PTFEがテープ状であるため、膜含浸用の幅広の含浸装置が不要となり、製造装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発明例と比較例で得られた各延伸PTFE多孔質膜の透気度を示す棒グラフである。
【図2】発明例と比較例で得られた各延伸PTFE多孔質膜のMDおよびTDにおける比強度を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜またはテープの製造方法は、テープ状多孔質PTFEを用意する工程と、該テープ状多孔質PTFEに触媒粒子の溶液または分散液を含浸させる工程と、当該溶媒または分散媒を実質的に除去する工程と、該触媒粒子を含有するテープ状多孔質PTFEをさらにMDおよび/またはTDに延伸する工程とを含んでなる。
【0017】
テープ状多孔質PTFEを用意する工程自体は公知であり、例えば、特公昭51−18991号公報に記載の方法に従いテープ状多孔質PTFEを調製することができる。すなわち、例えば、分散重合法等により重合されたPTFEの微粉末と、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット等の潤滑剤とを混合して得られるペースト状物をテープ状に押出成形し、さらに該押出テープを乾燥することにより多孔質化されたPTFEテープを得ることができる。PTFE微粉末は、ダイキン工業株式会社からポリフロン(登録商標)F−104として市販されているものをそのまま使用することもできる。必要に応じて、押出成形されたテープ状物の厚さを調整するため、常用の方法で、乾燥前の押出テープを圧延加工することができる。その後、押出テープまたは押出・圧延テープを、例えば200℃で乾燥させて潤滑剤を除去することにより、テープ状PTFEを多孔質化することができる。
【0018】
上記乾燥工程のみでは上記特性を達成できない場合には、乾燥工程に続いて、押出テープまたは押出・圧延テープを、常用の方法でMDまたはMDとTDに予備延伸することにより多孔質化すればよい。予備延伸倍率は、上記特性を達成できるような範囲内とすればよく、原料PTFEの特性にもよるが、MDにおいて数倍〜約20倍が目安となる。予備延伸は、一般にPTFEの融点付近(250〜350℃)の温度で実施される。TDへの予備延伸も可能であるが、その場合、後述する含浸工程における溶剤収縮による孔径の縮小を考慮して、予備延伸倍率が高くなりすぎないようにすることが望ましい。延伸方法の詳細については、上記特公昭51−18991号公報を参照されたい。このように、本発明においては、触媒粒子を含有しないPTFEをテープ状に成形するため、成形時にテープに欠点が生じにくく、押出または圧延における加工性も良好となる。さらに、成形されたテープにはほとんど欠点が無いため、後述する含浸後の延伸工程において高倍率延伸が可能となり、最終的に強度が高い延伸PTFE多孔質膜またはテープを得ることができる。なお、後述する含浸工程前のテープ状多孔質PTFEの特性としては、概ね、厚さ0.02mm〜3mm、気孔率20〜95%、平均孔径0.01〜20μmの範囲内にあればよい。
【0019】
次いで、上述のように用意されたテープ状多孔質PTFEに、触媒粒子の溶液または分散液(以下、「触媒分散液等」という。)を含浸させる。触媒粒子の種類に限定はなく、用途に応じて種々の触媒粒子を使用することができる。一例として、本発明による触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜またはテープをオゾン除去用フィルタとして使用する場合、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化チタン、白金、パラジウム、アルミナ等に代表されるオゾン分解触媒を単独または組み合わせて使用することが企図される。本発明において使用できる触媒粒子は、オゾン分解触媒に限定されるものではなく、本願明細書に接した当業者であれば実施可能なその他の触媒粒子を容易に認識することができる。
【0020】
触媒分散液等に用いられる溶媒または分散媒(以下、「分散媒等」という。)としては、使用される触媒粒子を良好に溶解または分散させることができるものであれば特に限定はなく、例えば、エタノール、プロパノール、ヘキサン、水等を使用することができる。元来PTFE多孔質膜は耐薬品性に優れるため、そのような観点で分散媒等が制限されることはない。一方、PTFE多孔質膜は本質的に疎水性であるため、含浸処理を促進するためには疎水性の分散媒等を使用することが好ましい。また、PTFE多孔質膜に触媒粒子を均一に分布させるためには、触媒粒子の溶液を使用することが好ましい。触媒粒子の分散液を使用する場合には、PTFE多孔質膜に触媒粒子を均一に分布させるため分散液中の触媒粒子の粒径を、触媒粒子同士が凝集しない範囲で可能な限り小さくすることが好ましい。例えば、分散液中の触媒粒子の平均粒径は、含浸されるテープ状多孔質PTFEの上記平均孔径よりも有意に小さく、かつ、0.001〜0.1μmの範囲内とすることが好ましい。また、触媒粒子の分散液を調製するに際し、クエン酸等の分散助剤を使用してもよい。
【0021】
触媒分散液等における触媒濃度は、後述する延伸工程における延伸倍率を考慮しつつ、最終的に得られる延伸PTFE多孔質膜において望まれる触媒担持量に応じて、適宜調整することができる。例えば、延伸工程において延伸倍率を10倍に設定することにより膜面積が10倍大きくなる場合、単位面積当たりの触媒担持量は延伸前後で10分の1に減少するため、テープ状多孔質PTFEに所期の触媒担持量の10倍量の触媒が含浸されるように高濃度の触媒分散液等を使用することが望まれる。具体的には、触媒分散液等における触媒濃度を0.1〜10質量%の範囲内で任意に調整できることが好ましい。このように、本発明によると触媒分散液等の触媒濃度を高めることができるため、分散媒等の所要量を削減することができ、その後の工程において分散媒等を除去するのに要するエネルギーを節約することができる。また、延伸工程前のテープ状多孔質PTFEは、含浸対象面積が小さいため、延伸後のPTFE多孔質膜を含浸工程に供する場合と比べて重力によるPTFEのたわみが小さくなり、より均一な含浸を実現することができる点でも有利である。
【0022】
触媒分散液等を含浸させる方法については、触媒分散液等の中にテープ状多孔質PTFEを浸漬する方法、触媒分散液等をテープ状多孔質PTFEに塗布し、または吹付ける方法等、当業者であれば適宜選択することができる。また、触媒分散液等の含浸工程は、大気雰囲気中、室温において行うことができるが、多孔質PTFEからの脱気を促してその気孔内への触媒分散液等の浸入を促進するため、減圧を適用することが好ましい。
【0023】
テープ状多孔質PTFEに触媒分散液等を含浸させた後、触媒を含有する多孔質PTFEを乾燥させることにより、当該分散媒等を実質的に除去する。乾燥は、使用した分散媒等を効率よく蒸発させる条件下で行えばよく、大気雰囲気中、分散媒等の沸点以上の温度に加熱する方法や、減圧を適用してより低温で処理する方法等、当業者であれば適宜選択することができる。分散媒等を実質的に除去することにより、テープ状多孔質PTFEの微細気孔の内表面に触媒粒子が均一に析出または付着する。その後さらにテープ状多孔質PTFEへの触媒担持量を増加させるため、上述の含浸工程と分散媒等除去工程を1回以上繰り返すことも可能である。
【0024】
本発明によると、上述の分散媒等除去工程を経て得られた触媒粒子を含有するテープ状多孔質PTFEを、さらにMDおよび/またはTDに延伸する。MDとは縦方向を意味し、MD延伸はテープ状多孔質PTFEを長さ方向に延伸する伸長加工をさす。またTDとは横方向を意味し、TD延伸はテープ状多孔質PTFEを幅方向に延伸する拡幅加工をさす。MD延伸とTD延伸は、いずれか一方のみを実施してもよく、またMD延伸とTD延伸を両方実施する場合には、いずれの順序で実施することも、両方同時に実施することもできる。TD延伸を含むことによりテープ状多孔質PTFEから多孔質PTFE膜を形成することができる。TD延伸は、押出時のテープの幅を基準として、全延伸倍率(予備延伸を施した場合には予備延伸倍率を合計した倍率、以下同じ)が1.5〜300倍の範囲内にあることが好ましく、さらに3〜200倍の範囲内にあることがより好ましい。MD延伸は、押出時のテープの長さを基準として、全延伸倍率が1.2〜200倍の範囲内にあることが好ましく、さらに2〜100倍の範囲内にあることがより好ましい。全延伸倍率が好適な範囲内にある延伸PTFE多孔質膜またはテープは、ノードまたは結節とフィブリルとからなる微細多孔質マトリックス構造を有し、その均一に分布した微細孔の内部に触媒粒子が均等に分散され、かつ、安定に保持される。また、処理されるべき流体が通過することになる微細孔の大きさ、すなわち平均孔径は、MDおよび/またはTDへの全延伸倍率を上記範囲内で変化させることにより容易に制御することができる。本発明による延伸PTFE多孔質膜またはテープは、一例として、厚さ0.001mm〜0.5mm、気孔率5〜95%、平均孔径0.005〜20μmの範囲内の特性を示すことができる。
【0025】
上述したように、特許文献1に記載の触媒粒子を収容した基材は、PTFE分散体と触媒粒子を混合して得られたペーストを押出・圧延成形によりテープ状にし、その後該テープを延伸して多孔質化させている。すなわち、PTFEの中実部に触媒粒子が含まれた状態でPTFEを延伸させるため、高延伸倍率が実現できず、特に押出成形時に触媒粒子が原因で生じた欠点がある場合には、実現可能な延伸倍率がさらに低くなる。一方、本発明による触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜またはテープの製造方法では、テープ状多孔質PTFEの中実部ではなく微細気孔の内表面に触媒粒子が付着している状態でPTFEを延伸させるため、触媒粒子の存在がPTFEの高倍率延伸に与える影響がほとんどない。さらに本発明による方法では、押出成形の際に触媒粒子が含まれないため、押出テープに含まれる欠点がほとんど無く、その後の高倍率延伸が可能となり、得られる延伸PTFE多孔質膜またはテープの引張強度等の機械強度が一層高くなる。
【0026】
さらに、本発明によりテープ状多孔質PTFEに触媒分散液等を含浸させた後にMDおよび/またはTDに延伸することには、別の重要な意義がある。多孔質PTFEに触媒粒子を担持させる場合、MDおよび/またはTDに延伸した後の延伸PTFE多孔質膜等に触媒分散液等を含浸させる手順も考えられる。しかしながら、延伸PTFE多孔質膜等は、触媒分散液等の分散媒等との接触により膜収縮を起こし、その結果孔径が縮小し、膜強度も低下するおそれがある。また、延伸PTFE多孔質膜等は非常に柔軟で破損し易いため、触媒分散液等を含浸させる際の取り扱いが困難である。一方、本発明による方法では、取り扱いが容易なテープ状多孔質PTFEの段階で触媒分散液等を含浸させ、その後にテープ状PTFEを延伸するため、上述の分散媒等による膜収縮が無く、安定した孔径が得られ、その上高い膜強度を実現することができる。このように本発明は、多孔質PTFEに触媒分散液等を含浸させることと、含浸後に延伸工程を実施することとが相乗的に作用することにより、従来法では得られない高い機械強度を示す触媒担持PTFE多孔質膜を実現するものである。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
特公昭51−18991号公報に記載の方法に従いテープ状多孔質PTFEを調製した。具体的には、1000gのPTFE微粉末(旭硝子製CD−123)に220gのソルベントナフサ(出光興産製)を配合してPTFE微粉末ペーストを形成した。このペーストを押出成形機に装填し、幅20cm、厚さ1mmのテープ状に押出した。押出PTFEテープを連続的に乾燥機に導入し、温度200℃で乾燥処理を施すことによりソルベントナフサを除去した。引き続き、乾燥後のPTFEテープを連続的に延伸装置に導入し、温度300℃でテープ進行方向(MD)に延伸倍率8倍で予備延伸することにより、予備延伸PTFE多孔質テープを形成して巻き取った。
【0029】
触媒粒子として1gの二酸化マンガン(MnO)(和光純薬製)をボールミルにて粉砕後、1Lのエタノールに濃度1wt/vol%で分散させて、触媒粒子の分散液を調製した。上記予備延伸PTFE多孔質テープを巻き出して、連続的に上記触媒粒子分散液中に導入し、室温で滞留時間1分の浸漬処理を施すことにより、予備延伸PTFE多孔質テープの微細気孔の内表面に触媒粒子を0.1g/m付着させた。浸漬処理後の予備延伸PTFE多孔質テープを連続的に乾燥機に導入し、温度120℃で滞留時間1分の乾燥処理を施すことによりエタノールを除去した。引き続き、乾燥後の予備延伸PTFE多孔質テープを連続的に上記延伸装置に導入し、温度300℃でテープ幅方向(TD)に延伸倍率10倍で延伸することにより延伸PTFE多孔質膜を形成した。さらに、延伸PTFE多孔質膜を、連続的に380℃で熱処理することにより多孔質構造を固定化(ヒートセット)した後、巻き取った。得られた延伸PTFE多孔質膜に含まれる二酸化マンガンの付着量は0.01g/mであった。
【0030】
(比較例1)
実施例1と同様にして予備延伸PTFE多孔質テープを形成した。次いで、予備延伸PTFE多孔質テープを連続的に上記延伸装置に導入し、温度300℃でTDに延伸倍率10倍で延伸することにより延伸PTFE多孔質膜を形成した。さらに、延伸PTFE多孔質膜を、連続的に380℃で熱処理することにより多孔質構造を固定化(ヒートセット)した後、巻き取った。
【0031】
触媒粒子として0.1gの上記二酸化マンガンを1Lのエタノールに濃度0.1wt/vol%で分散させて、触媒粒子の分散液を調製した。上記延伸PTFE多孔質膜を連続的に上記触媒粒子分散液中に導入し、室温で滞留時間1分の浸漬処理を施すことにより、延伸PTFE多孔質膜の微細気孔の内表面に触媒粒子を0.01g/m付着させた。浸漬処理後の延伸PTFE多孔質膜を連続的に上記乾燥機に導入し、温度120℃で滞留時間1分の乾燥処理を施すことによりエタノールを除去した。
【0032】
(比較例2)
1000gの上記PTFE微粉末に触媒粒子として2gの上記二酸化マンガンを配合し、2wt%の二酸化マンガンを含有するPTFE微粉末を調製した。特公昭51−18991号公報に記載の方法に従い上記PTFE微粉末に220gの上記ソルベントナフサを室温で配合してPTFE微粉末ペーストを形成した。このペーストを上記押出成形機に装填し、幅20cm、厚さ1mmのテープ状に押出した。押出PTFEテープを連続的に上記乾燥機に導入し、温度200℃で乾燥処理を施すことによりソルベントナフサを除去した。引き続き、乾燥後のPTFEテープを連続的に延伸装置に導入し、温度300℃でMDに延伸倍率8倍で予備延伸することにより、予備延伸PTFE多孔質テープを形成して巻き取った。引き続き、予備延伸PTFE多孔質テープを連続的に上記延伸装置に導入し、温度300℃でTDに延伸倍率10倍で延伸することにより延伸PTFE多孔質膜を形成した。さらに、延伸PTFE多孔質膜を、連続的に380℃で熱処理することにより多孔質構造を固定化(ヒートセット)した後、巻き取った。得られた延伸PTFE多孔質膜に含まれる二酸化マンガンの付着量は0.01g/mであった。
【0033】
(対照例)
触媒粒子の分散液を含浸させる工程とその分散媒を除去する乾燥工程を省略したことを除き、実施例1と同一の手順によって、触媒を含まない通常の延伸PTFE多孔質膜を作製し、これを対照試料とした。
【0034】
(透気度)
実施例、比較例および対照例の各延伸PTFE多孔質膜について、透気度を測定した。透気度は、延伸PTFE多孔質膜の試料を内径16mmのO型治具に固定し、該膜の片面側を空気で1.5kPa加圧した際に該膜を透過する空気量を膜式流量計(エステック製FILM FLOW METER)で測定した。結果を図1に示す。図1が示すように、延伸PTFE多孔質膜に触媒分散液を含浸させた比較例1は、実施例1と比べて透気度が顕著に低かった。また、PTFE微粉末ペーストに触媒粒子を配合させた比較例2も、実施例1と比べて透気度が有意に低かった。一方、テープ状多孔質PTFEに触媒分散液等を含浸させた後に延伸工程を施した実施例1は、触媒粒子を含まない通常の延伸PTFE多孔質膜(対照)に匹敵する透気度を有していた。
【0035】
(引張強度)
実施例、比較例および対照例の各延伸PTFE多孔質膜について、引張強度を測定した。引張試験機としては島津製作所製AG−1用い、試験片形状はJIS K 7127−1989準拠5号試験片とした。引張試験のチャック間距離は80mmとし、引張速度200mm/分、温度23℃、湿度50%RHの試験条件で、各試料についてそれぞれMDとTDの引張強度を測定した。結果を図2に示す。図2が示すように、PTFE微粉末ペーストに触媒粒子を配合させた比較例2は、実施例1と比べてMDとTDのいずれにおいても引張強度が顕著に低かった。また、延伸PTFE多孔質膜に触媒分散液を含浸させた比較例1は、特にTDにおいて実施例1よりも引張強度が有意に低かった。一方、テープ状多孔質PTFEに触媒分散液等を含浸させた後に延伸工程を施した実施例1は、MDとTDのいずれにおいても、触媒粒子を含まない通常の延伸PTFE多孔質膜(対照)よりも有意に高い引張強度を有していた。
【0036】
(オゾン分解能)
実施例、比較例および対照例の各延伸PTFE多孔質膜を使用して、オゾン分解能を測定するためのオゾン除去用フィルタを作製した。熱可塑性接着剤(セメダイン製HM712)を用い、上記各延伸PTFE多孔質膜を25cm×5mの大きさに切り出し、厚さ0.08mmの焼戻アルミニウム箔(東洋アルミニウム製)の一方の面(25cm×5m)に接着した。次いでこのラミネートした多孔質膜/箔を切断して幅20mmのストリップにし、次いでギア式プリーツ加工機を用いてプリーツ加工し、約1.8mmのプリーツ高さを設けた。このプリーツ加工した層を真直ぐなプリーツ加工していない層の上に載置し、この2つの層を巻き、直径約50mmの螺旋状フィルタにした。この形状は、50m/分の空気流速で水柱2.54mmの圧損を生じた。このフィルタに、50m/分の空気速度で1ppmのオゾンガス含有空気を流した。試験中の室温は21〜24℃に維持し、試験チャンバ内の空気の湿度は、試験中10%RH以下とした。オゾンガス発生器としてOrec Modelo VI−0 Ozonator(アリゾナ州フェニックスのOrec社より入手)を使用し、ガス流中にオゾンを発生させ、濃度1ppm、流速50m/分で上記フィルタを通過させた。オゾンガス測定器としてOrec Model DM−100モニターを使用し、フィルタの上流と下流でオゾン濃度を測定し、その減少量からオゾン分解率を求めた。結果を以下に示す。
オゾン分解率
対照 0%
実施例1 91%
比較例1 76%
比較例2 79%
【0037】
対照は、二酸化マンガンを含まないので、オゾン分解率は0%である。延伸PTFE多孔質膜に触媒分散液を含浸させた比較例1も、PTFE微粉末ペーストに触媒粒子を配合させた比較例2も、実施例1と比べてオゾン分解率が有意に低かった。一方、テープ状多孔質PTFEに触媒分散液等を含浸させた後に延伸工程を施した実施例1は、91%という高いオゾン分解率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、触媒の固定化が必要とされる様々な技術分野において利用することができる。特に、延伸PTFE多孔質膜が元来有する高い機械特性、耐薬品性等を保持しつつ高い触媒活性を実現し得る点で、本発明が産業の発達に寄与する貢献は顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用意する工程と、
該テープ状多孔質PTFEに触媒粒子の溶液または分散液を含浸させる工程と、
当該溶媒または分散媒を実質的に除去する工程と、
該触媒粒子を含有するテープ状多孔質PTFEをさらに縦方向(MD)および/または横方向(TD)に延伸する工程と
を含んでなる、触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜またはテープの製造方法。
【請求項2】
前記テープ状多孔質PTFEが、PTFE微粉末のペースト状物をテープ状に押出成形し、必要に応じて該押出テープをさらに圧延加工し、さらに該押出テープを乾燥することにより多孔質化されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記テープ状多孔質PTFEが、前記乾燥工程に続いて、さらに前記押出テープをMDまたはMDとTDに予備延伸することにより多孔質化されたものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記TDへの全延伸倍率が1.5〜300倍の範囲内にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記MDへの全延伸倍率が1.2〜200倍の範囲内にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒粒子が、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化チタン、白金、パラジウムおよびアルミナからなる群より選ばれた少なくとも1種のオゾン分解触媒を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で製造された、オゾン分解触媒粒子を担持した延伸PTFE多孔質膜を含んでなる、オゾン除去用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−222542(P2010−222542A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74617(P2009−74617)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】