説明

触媒組成物及び芳香族炭化水素の製造方法

【課題】軽質炭化水素の芳香族炭化水素製造反応に適した触媒組成物及びこれを用いた芳香族炭化水素の製造方法の提供。
【解決手段】ガリウム原子を含有する結晶性アルミノシリケートとアルミナとを含有する組成物であって、組成物中のアルミナを構成する、27Al−MASNMR法により定量される4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比が0.5未満であり、(1)組成物中のガリウム原子と、組成物中の結晶性アルミノシリケートの骨格内の、29Si−MASNMR法により定量されるアルミニウム原子のモル比が0.45以上であるか、又は、(2)組成物中のガリウム原子と、組成物の原料として用いられる結晶性アルミノシリケートの骨格内の、29Si−MASNMR法により定量されるアルミニウム原子とのモル比が0.45以上である触媒組成物と、炭素数2〜7の炭化水素を含有する原料と、を接触させて芳香族炭化水素を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質炭化水素から芳香族炭化水素を製造する反応に適した触媒組成物及びその触媒組成物を用いた、炭素数2〜7の炭化水素を主成分とする軽質炭化水素原料から芳香族炭化水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体触媒を使用する場合、触媒の取扱性、反応流体の偏流防止及び圧力損失の低減等を目的として、成形された触媒を使用するのが一般的である。従来、結晶性アルミノシリケート等のゼオライトを触媒として用いる場合、ゼオライトの成形性が非常に悪いため、アルミナなどをバインダーとして配合してゼオライトを含有する触媒組成物とし、これを成形して用いることが多い。この際用いられるバインダーとしては、ゼオライトの反応特性に悪影響を及ぼさず、成形性及び成形された触媒組成物の機械的強度を向上させることが求められるが、ベーマイトに代表されるアルミナバインダーは、成形性及び成形体の機械的強度向上の効果は大きいものの、バインダー自身が酸性質を有することに起因する問題があった。すなわち、例えば、炭素数7以下の軽質炭化水素の脱水素や芳香族化反応のようなコーキングの生じやすい反応系では、バインダーの酸性質により、より多くのコーキングが起こり、触媒寿命が低下するという問題があった。一方、バインダーとしてのシリカは、酸性質を有しないが機械的強度が弱く、押出成形性も悪いという欠点があった。
【0003】
アルミナの酸性質を制御するために種々の試みがなされているが(例えば下記非特許文献1、及び特許文献1〜4を参照。)、これらは全てアルミナを酸性質担体として用いるために酸性質を付与する検討であり、アルミナの酸性質を抑制する検討はこれまでほとんど行われていない。
【非特許文献1】Roberto Rinaldi, Fred Y. Fujiwara, Wolfgang Holderich, Ulf Schuchardt, Journal of Catalysis 244 92-101 (2006)
【特許文献1】特開2004−74075号公報
【特許文献2】特開2004−113898号公報
【特許文献3】特開平10−296081号公報
【特許文献4】特開平10−174844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、結晶性アルミノシリケートを含む触媒組成物において、成形性、機械的強度を十分なものとするアルミナをバインダーとして用い、酸性質が抑制されて反応に際してコーキングを十分抑制することが可能であり、且つ反応の活性及び選択性に優れる触媒組成物は知られていなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、結晶性アルミノシリケートを含む触媒組成物の酸性質が抑制されて軽質炭化水素を芳香族化する反応に際してコーキングを十分に抑制することが可能であり、且つ該反応に対して高活性、高選択性を有する触媒組成物の提供、及びそのような触媒組成物を用いた軽質炭化水素を含む炭化水素類を原料とする効率的な芳香族炭化水素の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のガリウムを含有する結晶性アルミノシリケートと、特定のアルミナとを含む組成物からなる触媒組成物が、軽質炭化水素を芳香族化する反応に際して、コーキングによる劣化が大幅に抑制され、且つ該反応に対して高活性、高選択性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ガリウム原子を含有する結晶性アルミノシリケートと、アルミナと、を含有する組成物であって、該組成物中のアルミナを構成する、27Al−MASNMR法により定量される4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比が0.5未満であり、該組成物中のガリウム原子と、該組成物中の前記結晶性アルミノシリケートの骨格内の、29Si−MASNMR法により定量されるアルミニウム原子のモル比が0.45以上であることを特徴とする触媒組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、ガリウム原子を含有する結晶性アルミノシリケートと、アルミナと、を含有する組成物であって、該組成物中の前記アルミナを構成する、27Al−MASNMR法により定量される4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比が0.5未満であり、該組成物中のガリウム原子と、該組成物の原料として用いられる結晶性アルミノシリケートの骨格内の、29Si−MASNMR法により定量されるアルミニウム原子とのモル比が0.45以上であることを特徴とする触媒組成物を提供する。
【0009】
本発明の触媒組成物においては、上記結晶性アルミノシリケートが、ペンタシル型ゼオライトであることが好ましい。
【0010】
また、本発明の触媒組成物においては、上記結晶性アルミノシリケートが、全粒子の質量を基準とする粒子径0.05〜20μmの範囲の粒子の含有率が80質量%以上のものであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の触媒組成物においては、上記結晶性アルミノシリケートが、該結晶性アルミノシリケートの質量を基準として、アルミニウム原子を0.1〜2.5質量%及びガリウム原子を0.1〜5.0質量%含有することが好ましい。
【0012】
本発明の触媒組成物においては、上記結晶性アルミノシリケートが結晶性アルミノガロシリケートであることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記本発明の触媒組成物と、炭素数2〜7の炭化水素を含有する原料と、を接触させる工程を備えることを特徴とする芳香族炭化水素の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の触媒組成物は、軽質炭化水素を主成分とする原料から芳香族炭化水素を製造する反応に用いた場合、高い活性及び選択性を有し、且つ従来の触媒組成物に比較してコーキングによる劣化が抑制される。また、本発明の芳香族炭化水素の製造方法によれば、コーキングによる触媒の劣化が抑制されることにより、触媒の寿命が大幅に延長され、効率的な芳香族炭化水素の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の触媒組成物に用いるアルミナとしては、該触媒組成物としての機械的性質(強度、耐摩耗性、成形性)を保持できるものであれば特に限定されないが、ベーマイト、カタロイドAP(触媒化成工業(株)製、商品名)などが挙げられる。
【0017】
本発明の触媒組成物に含有されるアルミナを構成するアルミニウム原子においては、27Al−MASNMRを用いて分析した4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比(4配位アルミニウム原子/6配位アルミニウム原子)が0.5未満であれば特に限定されないが、好ましくは0.1以上、0.5未満、さらに好ましくは0.3以上0.45未満が望ましい。
【0018】
27Al−MASNMR(Magic Angle Spinning Nuclear Magnetic Resonance)分析は、公知の方法によって行うことができる(例えば非特許文献1参照。)。触媒組成物中のアルミナ由来の4配位アルミニウム原子及び6配位アルミニウム原子に帰属される27Al−MASNMRシグナルは、塩化アルミニウム水溶液を基準として、それぞれ、55〜60ppm、0ppm付近に観察される。このシグナルの面積比から、4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子のモル比を算出できる。それぞれのシグナルの面積算出時にはスピニングサイドバンドは含めない。
【0019】
本発明の触媒組成物中に含有されるアルミナを構成する4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比を、上述したような範囲とする方法としては特に限定されないが、例えば、ベーマイトをアルミナ前駆体として用いる場合には、ガリウムを含有する結晶性アルミノシリケートとアルミナとを含有する組成物から得られる成形体の焼成温度と時間で制御することができる。焼成温度及び時間は、好ましくは400〜650℃にて0.5〜10時間、さらに好ましくは450〜600℃にて1〜5時間が望ましい。また焼成の際の雰囲気としては、乾燥空気、水蒸気含有空気、あるいは水蒸気などが好ましく、これらの気体は流通下に用いることが好ましい。これらの気体の流量は焼成処理される触媒組成物の量等に応じて適宜選択することができる。
【0020】
本発明の触媒組成物中に含有されるアルミナを構成する4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比を上述したような範囲とする別の方法の例としては、MAl3−xO4(Mは2価の金属、Zn、Mg、Mn、Feなど、0<x≦1)の構造を有する2元系スピネル化合物をバインダーとして使用することがあげられる。これは4配位サイトを2価の金属イオンが占めることで酸性質の発現を抑制するものである。Mとしては2価の金属であれば特に限定されないが、Zn、Mg、Mn、Feなどが好ましい。また、xは特に限定されないが、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.8以上が望ましい。
【0021】
本発明の触媒組成物中に含有されるアルミナを構成する4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比を上述したような範囲とするさらに別の方法の例としては、コランダム構造を有するαアルミナをバインダーとして使用することがあげられる。αアルミナの前駆体としては特に限定されないが、ダイアスポアなどが好ましい。
【0022】
本発明の触媒組成物に含有されるガリウムを含有する結晶性アルミノシリケート(以下、「ガリウム含有結晶性アルミノシリケート」という。)の構造としては特に限定されないが、ペンタシル型ゼオライトが好ましく、中でもMFIタイプ及び/又はMELタイプの結晶構造体を有するゼオライトがより好ましい。MFIタイプ、MELタイプのゼオライトは、“The Structure Commission of the International Zeolite Association”により公表された種類の公知ゼオライト構造型に属する(Atlas of Zeolite Structure Types, W.M.Meiyer and D.H.Olson (1978). Distributed by Polycrystal Book Service, Pittsburgh, PA, USA)。
【0023】
本発明の触媒組成物に係るガリウム含有結晶性アルミノシリケートとしては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウム原子が組み込まれたもの(以下、「結晶性アルミノガロシリケート」という。)や、結晶性アルミノシリケートにガリウムを担持したもの(以下、「ガリウム担持結晶性アルミノシリケート」という。)や、その双方を含んだものが使用されるが、好ましくは少なくとも結晶性アルミノガロシリケートを含むものが望ましい。
【0024】
結晶性アルミノガロシリケートは、SiO、AlO及びGaO構造が骨格中において四面体配位をとる構造を有し、水熱合成によるゲル結晶化や、結晶性アルミノシリケートの格子骨格構造中にガリウム原子を挿入する方法、又は結晶性ガロシリケートの格子骨格構造中にアルミニウム原子を挿入する方法で得ることができる。
【0025】
ゲル結晶化法は、結晶性アルミノガロシリケートを調製する方法として、目的とする量のアルミニウム原子及びガリウム原子を同時に含有させて結晶性アルミノガロシリケートを調製できるので簡便かつ優れた方法である。ゲル結晶化法による結晶性アルミノガロシリケート合成には、必須成分としてアルミナ源、シリカ源、及びガリア源を含むスラリー状の水性混合物を水熱合成条件に保持することにより得ることができる。例えば、アルミナ源としては、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩、アルミン酸ソーダ等のアルミン酸塩、アルミナゲル等を用いることができる。シリカ源としては、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム等のケイ酸塩、コロイド状シリカ、シリカ粉末、溶解シリカ、水ガラス等を用いることができ、また、ガリア源としては、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩や酸化ガリウム等を用いることができる。更に、アルミナ源、ガリア源として、ボーキサイト鉱床、亜鉛鉱床等の鉱床からの抽出精練の過程で得られるアルミニウム、ガリウムを含んだ溶液あるいは水酸化物を使用することも可能である。目的とする結晶性アルミノガロシリケートの結晶化速度を速め、純度を良くするために有機添加物やアルカリ金属、アルカリ土類金属源も使用できる。有機添加物としては、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリプロピルメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、モルホリン等のアミン類、エタノールアミン、ジグリコールアミン、ジエタノールアミン等のアミノアルコール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、ピナコール等のアルコールや、有機酸、エーテル、ケトン、アミノ酸、エステル、チオアルコールあるいは、チオエーテル等を用いることができる。さらに、水熱合成条件下で、上記の有機添加物を生成するような化合物を使用することもできる。アルカリ金属源、アルカリ土類金属源としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩等を用いることができる。原料中には、上記の化合物の他に、pH調整剤として、硫酸、硝酸等の鉱酸を含んでもよい。上記の各々の原料となる一種以上の化合物を含む水性原料混合物は、140℃以上、好ましくは150〜250℃の温度、自己圧下で、1時間〜7日程度、好ましくは2時間〜5日間撹拌しながら保持することにより結晶化操作を行う。このような結晶化条件の採用により、反応活性にすぐれた結晶性アルミノガロシリケートを効率よく得ることができる。140℃未満の結晶化温度でも結晶化時間を長くすることにより反応活性にすぐれた結晶性アルミノガロシリケートを得ることができるが、経済的ではない。また、この結晶性アルミノガロシリケートのゼオライト結晶相は準安定相にあるので、一旦生成した結晶が長時間水熱合成条件に置かれた場合、目的としない他の相が生成混入する可能性もあるので、水熱合成条件下に長時間置くことは好ましくない。
【0026】
結晶性アルミノガロシリケートの化学的特性の1つとして酸性質が挙げられる。一般に酸量はアンモニア、ピリジン等の塩基性物質を用いた昇温脱離や吸着熱測定等により測定することができるが、結晶性アルミノガロシリケートでは、アルミニウム、ガリウムの量に見合う酸量が測定されており、アルミニウム、ガリウムがゼオライト結晶構造中のアニオン性骨格構造中にあることが示されている。
【0027】
ガリウム担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。ガリウムを担持するに際して使用するガリウム源としては、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩や、酸化ガリウム等を好ましく用いることができる。
【0028】
本発明の触媒組成物に含有されるガリウム含有結晶性アルミノシリケートの粒子径は、0.05〜20μm、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.5〜5μm、特に好ましくは1〜3μmの範囲の粒子の含有率が、全粒子の質量を基準として80質量%以上であることが望ましい。反応分子の大きさと結晶性アルミノシリケートの細孔の寸法がほぼ同じである場合、結晶性アルミノシリケート細孔中では、分子の拡散速度は遅くなる。従って、粒子直径が20μmを超えるよう大きな粒子では、細孔深部の活性点に反応分子が接近し難く、活性点が反応中有効に使用されなくなり、また外表面でのコーク析出により、細孔入口がコークでふさがれて細孔深部が有効に使用されなくなり、活性・選択性が低下する。
【0029】
水熱合成によって結晶性アルミノシリケートを得る場合、生成粒子の大きさに影響を与える因子としては、シリカ源の種類、第4級アンモニウム塩等の有機添加物の量、鉱化剤としての無機塩の量・種類、ゲル中の塩基量、ゲルのpH及び結晶化操作時の昇温速度、温度や撹拌速度等が挙げられる。これらの条件を適当に調節することにより、上述した粒径範囲の結晶性アルミノシリケートを得ることができる。
【0030】
本発明の触媒組成物に含有されるガリウム含有結晶性アルミノシリケートの芳香族化反応に対する触媒活性は、その組成によって影響を受ける。高い反応活性を得るためには、該結晶性アルミノシリケートの質量を基準として、アルミニウム原子を好ましくは0.1〜2.5質量%、より好ましくは0.1〜2.0質量%含有することが望ましい。また、同基準にて、ガリウム原子を好ましくは0.1〜5.0質量%、より好ましくは0.1〜3.0質量%含有することが望ましい。また、SiO/(Al+Ga)モル比は17〜600が好ましく、より好ましくは19〜250、さらに好ましくは25〜200の範囲が、反応活性を長時間にわたって高く保持する上で望ましい。また、SiO/Alのモル比は32〜870が好ましく、より好ましくは35〜300であり、SiO/Gaのモル比は36〜2000が好ましく、特に好ましくは40〜500である。
【0031】
さらに、本発明の触媒組成物に含有されるガリウム含有結晶性アルミノシリケートの組成としては、500℃以上の焼成物の酸化物のモル比により、下記式(1)で示されるものが好ましい。
aMO・bAl・Ga・cSiO (1)
【0032】
式(1)中、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属元素を表わし、xはMがアルカリ金属のときは2を示し、Mがアルカリ土類金属のときは1を示す。また、a〜cはそれぞれ以下の数を示す。
a:(b+1)±3.0、好ましくは(b+1)±2.0の正数。
b:0.04〜62.5、好ましくは0.1〜14.0。
c:36〜2000、好ましくは40〜500。
【0033】
MASNMR(Magic Angle Spinning Nuclear Magnetic Resonance)分析により、結晶性シリケートの結晶構造中に存在する元素及びその組成について有益な情報を直接あるいは間接的に得ることができる。例えば、結晶性アルミノシリケートにおいては、アニオン性骨格構造中の四面体配位のAlについての情報が27Al−NMRにより得られる。また、構造中の(SiO)に隣接する4個の四面体(TO;T=Al,Ga,Si)に関する情報が29Si−NMRにより得られる。本明細書中に示す結晶性アルミノガロシリケートにおいても、27Al−NMR、71Ga−NMRにより骨格構造中の四面体配位のAl,Gaの存在が示され、29Si−NMR分析の情報から結晶構造中のSiO/(Al+Ga)モル比が計算された。この値は、元素分析の結果から得られた値と良く一致した。
【0034】
結晶性アルミノガロシリケートの化学的特性の1つとして酸性質が挙げられる。一般に酸量はアンモニア、ピリジン等の塩基性物質を用いた昇温脱離や吸着熱測定等により測定することができる。結晶性アルミノガロシリケートでは、アルミニウム、ガリウムの量に見合う酸量が測定されており、アルミニウム、ガリウムがゼオライト結晶構造中のアニオン性骨格構造中にあることが示されている。
【0035】
また、本発明の触媒組成物に含有されるガリウム含有結晶性アルミノシリケートは、所望に応じ、一般的に結晶性アルミノシリケートを触媒成分として用いる場合に施される種々の活性化処理を施すことができる。すなわち、本発明の触媒組成物に含有されるガリウム含有結晶性アルミノシリケートは、前記水熱合成等の方法によって製造されたものの他、その変性化処理または活性化処理によって得られるものをも包含するものである。例えば、結晶性アルミノガロシリケートを塩化アンモニウム、フッ化アンモニウム、硝酸アンモニウム、水酸化アンモニウム等のアンモニウム塩を含む水溶液中でイオン交換してアンモニウム型とした後に、アルカリ金属やアルカリ土類金属以外の金属イオンを含む水溶液中でイオン交換したり、あるいはその水溶液を含浸させてアルカリ金属やアルカリ土類金属以外の所望金属を導入することができる。また、前記アンモニウム型のガリウム含有結晶性アルミノシリケートを空気、窒素または水素雰囲気中で200〜800℃、好ましくは350〜700℃の温度で3〜24時間加熱することによりアンモニアを除去して酸型の構造に活性化することができる。また、酸型触媒を水素または水素と窒素の混合ガスにて上記の条件で処理してもよい。さらに、酸型触媒を乾燥条件下にアンモニアと接触させるアンモニア変性を施してもよい。本発明で用いる触媒組成物は、一般的には、炭化水素原料と接触する前に、前記の活性化処理を施して使用するのが好ましい。
【0036】
本発明の触媒組成物の全質量に占める前記アルミナ及びガリウム含有結晶性アルミノシリケートの含有量は特に制限されないが、アルミナは好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは20〜40質量%、ガリウム含有結晶性アルミノシリケートは、好ましくは40〜95質量%、より好ましくは50〜90質量%、さらに好ましくは60〜80質量%である。
【0037】
本発明の触媒組成物中のガリウム原子と、29Si−MASNMRを用いて分析した当該触媒組成物中に含有される結晶性アルミシリケートの骨格内アルミニウム原子とのモル比は、0.45以上であれば特に限定されないが、好ましくは0.45〜1.0、さらに好ましくは0.5〜0.8の範囲であることが望ましい。
【0038】
上記本発明の触媒組成物中のガリウム原子と、29Si−MASNMRを用いて分析した該触媒組成物中に含有される結晶性アルミノシリケートの骨格内アルミニウムのモル比は、蛍光X線分析や、化学発光分析によって求められる当該触媒組成物全体のケイ素原子及びガリウム原子の含有量のモル比と、該触媒組成物中の29Si−MASNMR測定により得られる結晶性アルミノシリケート骨格内のケイ素原子/アウミニウム原子のモル比から以下の式(2)で求めることができる。
ガリウム原子/骨格内アルミニウム原子(モル比)=(組成物中のガリウム原子/ケイ素原子モル比)×(結晶性アルミノシリケート中のSi/Al比)) (2)
【0039】
なお、結晶性アルミノシリケートを含有する触媒組成物の29Si−MASNMRスペクトルにおいては、ケイ素原子にアルミニウム原子が0〜4個隣接するシグナルがそれぞれ観察される。これらをそれぞれ、Si(0Al)、Si(1Al)、Si(2Al)、Si(3Al)、Si(4Al)と記載すると、それぞれのシグナルは、ポリジメチルシロキサンを基準として、−110、−105、−100、−95、−90ppm付近に観察される。これらのシグナルの面積から、以下の式(3)により結晶性アルミノシリケートの骨格内ケイ素原子/アルミニウム原子のモル比を算出できる。このシグナルの面積算出時にはスピニングサイドバンドは含めない。
【数1】

【0040】
アルミナとガリウム含有結晶性アルミノシリケートを含有する組成物は、押出成形、スプレードライ、打錠成形、転動造粒、油中造粒等の方法で粒状、球状、板状、ペレット状等の各種成形体とすることができる。また、成形時には、成形性を良くするために有機化合物の滑剤を使用するのが望ましい。
【0041】
一般に、アルミナとガリウム含有結晶性アルミノシリケートとの組成物の成形は、ガリウム含有結晶性アルミノシリケートのアンモニウムイオン等によるイオン交換工程に先立って行なうこともできるし、またガリウム含有結晶性アルミノシリケートをイオン交換した後に行うこともできる。
【0042】
また、本発明の触媒組成物には、前述したアルミナ、ガリウム含有結晶性アルモノシリケートの他に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、特に限定されないが、アルミナボリア、シリカ、シリカアルミナ、リン酸アルミニウム等の無機酸化物、カオリンやモンモリロナイトなどの粘土鉱物、無機リン化合物や有機リン化合物などが挙げられる。その添加量は、特に制限されないが、触媒組成物中に50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下となるよう加えられる。
【0043】
なお、本発明の触媒組成物中に、上記添加剤としてケイ素もしくはケイ素及びアルミニウムを含有する成分が含有される場合には、該組成物の29Si−MASNMR分析による前記結晶性アルミノシリケートの骨格内ケイ素原子/アルミニウム原子のモル比の算出が困難となる。この場合、該組成物の原料として用いられる結晶性アルミノシリケートの29Si−MASNMR分析による、同骨格内ケイ素原子/アルミニウム原子のモル比を用いて、前記本発明の触媒組成物中のガリウム原子と、29Si−MASNMRを用いて分析した該触媒組成物中に含有される結晶性アルミノシリケートの骨格内アルミニウムのモル比が算出される。
【0044】
本発明の触媒組成物に含有されるガリウム含有結晶性アルミノシリケートがガリウム担持結晶性アルミノシリケートを少なくとも含む場合、結晶性アルミノシリケートへのガリウム成分の担持は、アルミナとの組成物を形成する前に行うこともでき、あるいは結晶性アルミノシリケートとアルミナとの組成物を成形した成形体に対して行うこともできる。後者の場合においては、ガリウム成分は結晶性アルミノシリケート上に担持されるのみならず、一部はアルミナ上にも担持される。さらに、本発明の触媒組成物が結晶性アルミノシリケート及びアルミナ以外の添加剤を含有する場合には、ガリウム成分はこの添加剤上にも担持されてよい。本発明の触媒組成物における、「組成物中のガリウム原子」との記載は、ガリウム含有結晶性アルミノシリケート中のガリウム原子だけではなく、上記のような、場合により添加剤を含むアルミナ中のガリウム原子を含むことを意味する。
【0045】
また、本発明の触媒組成物には補助成分として金属成分を担持させて用いることができる。補助成分としての金属成分は、ガリウム含有結晶性アルミノシリケートに担持させたり、アルミナやその他の添加剤に担持させたり、その両方でも構わない。また、ペンタシル型ゼオライトをアルミナで成形する際に、第3成分として添加することもできる。このような補助金属成分としては、例えば、脱水素能を有する金属や炭素析出を抑制する効果のある金属が挙げられる。補助金属成分の具体例としては、触媒活性を向上させるものとして、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、アルミニウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、アンチモン、ビスマス、セレン等が挙げられる。これらの金属は、単独の他、2種以上を組合せて用いることもでき、その担持量は金属換算で0.1〜10質量%である。金属担持方法としては、イオン交換法、含浸法、物理混合等の公知の技術をいることができる。また、ペンタシル型ゼオライトの合成時に、補助成分として前記金属成分を添加することで、補助成分金属を含有させることもできる。また、反応に際してのコークの堆積の抑制効果を持つ補助金属成分として、マグネシウム、カルシウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ルテニウム、イリジウムの中から選ばれる1種以上の金属を担持させることができ、その担持量は、金属換算で0.01〜5質量%である。
【0046】
本発明の芳香族炭化水素の製造方法においては、上述した触媒組成物と、炭素数2〜7の炭化水素を含有する原料と、を接触させて芳香族炭化水素を製造する。ここで、本発明で用いる原料は炭素数2〜7の軽質炭化水素を含むものであり、原料中の炭素数2〜7の軽質炭化水素の含有量は特に限定されないが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に好ましくは60〜100質量%である。
【0047】
また、炭素数2〜7の軽質炭化水素としては特に限定されないが、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、また、パラフィン、オレフィンのいずれでも構わない。さらにはこれらの混合物でも構わない。このような炭化水素の具体例としては、炭素数2から7の直鎖状脂肪族飽和炭化水素(エタン、プロパン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン)、分岐状脂肪族飽和炭化水素(イソブタン、2−メチルブタン、2,2−ジメチルブタン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン)、環状脂肪族飽和炭化水素(シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、1−メチルシクロペンタン、1,1−ジメチルシクロペンタン、1,2−ジメチルシクロペンタン、1,3−ジメチルシクロペンタン、シクロヘキサン、1−メチルシクロヘキサン等)、直鎖状脂肪族不飽和炭化水素(エチレン、プロピレン、ノルマルブテン、ノルマルペンテン、ノルマルヘキセン、ノルマルヘプテン等)、分岐状脂肪族不飽和炭化水素(イソブテン、2−メチルブテン、2−メチルペンテン、3−メチルペンテン、2−メチルヘキセン、3−メチルヘキセン等)、環状脂肪族不飽和炭化水素(シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン等)、プロパンやブタンを主成分とする液化石油ガス、炭素数5〜7のパラフィンを主成分とするナフサ留分中の沸点100℃以下の軽質留分(ライトナフサ)、流動接触分解装置(FCC)からのC4留分、エチレンクラッカーのラフィネート等が挙げられる。
【0048】
次に、本発明の芳香族炭化水素の製造工程は特に限定されないが、主に以下の5つの工程を有することが好ましい。
(a)転化反応工程
(b)反応層流出物の気液分離工程
(c)分離ガスからの水素分離工程
(d)分離液からの芳香族炭化水素の分離工程
(e)原料軽質族炭化水素とリサイクルガスとの混合工程
【0049】
(転化反応工程)
この工程には、少なくとも前述した触媒組成物を保持する反応層が直列にn個配列され、さらに当該反応層間に、反応層からの流出物の加熱手段として、加熱炉などが設けられている。原料の軽質炭化水素と、後述するリサイクルガスとの混合物を反応層に通過せしめて、その混合物を芳香族炭化水素へ転化させる工程である。この工程における好ましい反応条件は、反応層入り口温度として350〜650℃、水素分圧0.5MPa以下、原料のガス空間速度100〜2000hr−1である。
【0050】
本発明に係る転化反応工程における反応層入り口温度は、一般的には350〜650℃が好ましい範囲であるが、原料の軽質炭化水素がノルマルパラフィンを主成分とする場合には450〜650℃、イソパラフィンを主成分とする場合には400〜600℃、オレフィンを主成分とする場合には350〜550℃がさらに好ましい温度範囲となる。
【0051】
転化反応工程で用いられる反応器としては特に限定されないが、例えば、固定床型反応器、CCR型反応器、流動床型反応器などが挙げられる。固定床やCCR型反応器を用いる場合は、前述した触媒組成物を保持する反応層が少なくとも直列にn個(nは2以上の整数)配置され、さらに該反応層間に、または該反応層に、前段反応層からの流出物への加熱手段として、加熱炉などの加熱装置が設けることが好ましい。また、この直列に配置されたn個の反応層の内、1段目反応層の触媒量が全体の触媒量の30容量%以下、好ましくは1〜30容量%、より好ましくは2〜30容量%、さらに好ましくは2〜28容量%になるように配置することが好ましい。直列に配置された反応層の数nが3以上の場合には、1段目反応層の触媒量が全体の触媒量の60/n容量%以下になるようにするのが好ましい。これにより、最終的に得られる芳香族収率が向上する。さらに反応層の数nは2以上であれば特に限定されないが、多過ぎても効果は変わらず、経済性が悪くなる。従って、nとしては2以上8以下が好ましく、より好ましくは3以上6以下が望ましい。
【0052】
また、本発明に係る転化反応工程においては、一定の反応層入り口温度で運転することもできるし、所定の芳香族収率が得られるように、反応層入り口温度を連続的又は段階的に上昇させて運転することもできる。芳香族収率が所定範囲を下回ったり、反応層入り口温度が所定温度範囲を超えるようになると、反応器を新しい触媒が充填された反応器又は再生された触媒が充填された反応器に切り替えて反応を継続する。触媒の再生は空気、窒素、水素又は窒素/水素混合ガス等の気流中で200〜800℃好ましくは350〜700で加熱処理することにより行うことができる。本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、好ましくは、前記触媒組成物を保持した反応層を含む、2系列の固定床反応装置を用いて行われる。この場合、各系列の反応装置は直列に並んだ複数の反応層から成り立っている。軽質炭化水素を含有する原料を一方の系列の反応器に導入して反応を進めながら、他方の系列の反応器中の触媒を再生処理に付する。これらの2系列の反応器で交互に1〜10日間隔で反応/再生を行うことにより、例えば1年間の連続運転を行うことができる。また、サイクリック運転のように、反応に使用されている系列の反応器の一部又は全部を他系列と切り替えて反応を継続して行なうことも可能である。そして各1〜10日の反応の1サイクルごとに反応温度を5〜20℃程度連続又は段階的に上昇させて芳香族収率を40〜75%重量%の所定範囲に保持することが好ましい。
【0053】
なお、前記芳香族収率Rは、次の式(4)で表わされる。
R=A/B×100(%) (4)
A:転化反応生成物中の全芳香族炭化水素の質量
B:原料中のエタンを除く炭素数2〜7の脂肪族及び/又は脂環族炭化水素の質量
【0054】
脂肪族及び/又は脂環族炭化水素が芳香族炭化水素へ転化する際には、脱水素を伴う反応が進行するので、反応条件下では水素を添加しなくても反応に見合う水素分圧を有することとなる。意図的な水素の添加は、コークの堆積を抑制し、再生頻度を減らす利点があるが、芳香族の収率は、水素分圧の増加により急激に低下するため必ずしも有利ではない。それ故、水素分圧は0.5MPa以下に抑えることが好ましい。
【0055】
本発明に係る転化反応工程には、後続の分離工程からリサイクルガスとして循環されるメタン及び/又はエタンを含む軽質ガスを存在させることが望ましい。このメタン及び/又はエタンを含む軽質ガスの存在下に転化反応を行うことで、触媒上へのコーク析出を抑制し、長時間にわたって芳香族収率を高く維持することができる。反応系へ循環される全軽質ガス(リサイクルガス)の循環量は、炭化水素供給原料1質量部当り、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜3質量部にすることが望ましい。
【0056】
(反応層流出物の気液分離工程)
この工程は、前記転化反応工程からの流出物を、1個又は2個以上の気液分離器からなる気液分離帯域に導入し、比較的高圧下で気液分離し、芳香族炭化水素を主成分として含む液体成分(高圧分離液)と、水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の軽質ガス(高圧分離ガス)とに分離する工程である。分離条件としては、温度は通常10〜50℃、好ましくは20〜40℃であり、圧力は通常0.5〜8MPa、好ましくは1〜3MPaである。反応層流出物は、この気液分離工程に導入される以前に、低温の原料炭化水素と間接熱交換させて冷却し、また必要に応じ、気液分離工程及び軽質ガスからの水素を分離する工程の負荷を軽減するために、軽質ガスの一部を分離することができる。
【0057】
(分離ガスからの水素分離工程)
この工程は、前記気液分離工程で分離された高圧分離ガスから水素を選択的に分離し、メタン及び/又はエタンを含むリサイクルガスを得る工程である。この場合の水素分離方法としては、従来公知の方法、例えば、膜分離方法や深冷分離方法等が用いられる。水素の選択的分離効率の点からは膜分離方法の使用が好ましいが、リサイクルガスとして深冷分離方法からのオフガスを利用する場合は、膜分離方法からのオフガスと比べて未反応プロパンを最大限に反応させることができるので、芳香族炭化水素収率で1〜3質量%高くできる利点がある。どちらの方法を採用するかは、経済的見地から判断される。膜分離装置としては、例えば、分離膜として、ポリイミドや、ポリスルホン、ポリスルホンとポリジメチルシロキサンとのブレンド体を用いたもの等が市販されている。この工程で得られたリサイクルガスの一部は、全循環ガス量を一定範囲に保持するために、系外へ排出される。高純度の水素を回収するために、好ましくは回収系として膜分離装置又はPSA(吸・脱着分離装置)を膜分離装置の後段に設置する。後段の装置の選択は、経済的見地から決められる。
【0058】
(分離液からの芳香族炭化水素の分離工程)
この工程は、前記気液分離工程で得られた高圧分離液から芳香族炭化水素と低沸点炭化水素ガスとを分離する工程であり、その装置としてはスタビライザー(蒸留塔)が用いられる。塔頂留分として分離された低沸点炭化水素ガスは、C3〜C4の炭化水素からなるもので、リサイクルガスとして用いられる。
【0059】
(原料軽質炭化水素とリサイクルガスとの混合工程)
この工程は、原料軽質炭化水素に対して、前記水素ガス分離工程で得られたメタン及び/又はエタンを含むリサイクルガスおよび前記芳香族炭化水素分離工程で分離された低沸点炭化水素ガスを混合する工程であり、この混合は配管内で行うことができる。この混合物は前記転化反応工程に導入される。原料軽質族炭化水素1質量部当りの前記リサイクルガスおよび低沸点炭化水素ガスの混合割合は、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜3質量部である。このように、メタン及び/又はエタンをリサイクルガスとして使用することにより、次のような効果が得られる。すなわち、脱水素環化による芳香族化反応は吸熱反応であり、その為に触媒層温度は低下し芳香族化反応に不利となる。メタン及び/又はエタンは、この反応条件下では芳香族化しないので不活性ガスと見なせる。メタン及び/又はエタンを加熱することにより、これが熱供給媒体として働き、触媒層の温度低下を抑制し、芳香族化反応を有利に進め、芳香族炭化水素収率を向上できる。また、リサイクリングにより原料の転化反応で生成する水素の分圧を低下させ、芳香族化反応を有利に進めることができ、その結果、芳香族炭化水素収率を向上できる。更に、反応層でのガス速度が増大するので(GHSVが大きくなる)、反応基質と触媒活性点との接触時間が短くなり、コーク状物質を与える過剰反応が抑制できる。その結果、反応経過時間と共に起こる活性低下を抑制でき、芳香族炭化水素収率を高い水準で維持できる。商業装置においては、リサイクルガス比は経済的見地から決められなければならない。
【0060】
本発明の芳香族炭化水素の製造方法を実施する場合のフローシートの一例を図1に示す。原料の軽質炭化水素とリサイクルガスである軽質炭化水素ガスとの混合物6は、触媒組成物が直列にn個(nは2以上の整数)配列された反応層を有する転化反応工程1に供給されて芳香族炭化水素に転化され、次いで気液分離工程2で芳香族炭化水素を主成分として含む液体成分(高圧分離液8)と軽質ガス(高圧分離ガス9)とに分離される。高圧分離液8は芳香族炭化水素の分離工程4で低沸点炭化水素ガス13を分離除去して、芳香族炭化水素14が回収される。
【0061】
また、転化反応工程1の一例を図2に示す。図2では、1段目の反応器16と2段目の反応器17が直列に配置され、原料脂肪族炭化水素とリサイクルガスである軽質炭化水素ガスとの混合物18(図1では混合物6に該当)は加熱炉などの加熱手段19により加熱され、1段目の反応器16に導入されて転化反応が行われる。1段目の反応器16には、全体の触媒量の30質量%以下の触媒が配置されている。1段目の反応器流出物21は加熱手段20で再加熱され、2段目の反応器17に導入されて再び転化反応が行われる。2段目の反応器17からの反応器流出物22は、これを再び加熱炉などの加熱手段で再加熱し、第3本目の反応器へと導入してもよいし、最終的な反応器流出物として図1に示した反応器流出物の気液分離工程2へ導入してもよい。なお、反応器16と反応器17には、それぞれもう1系列の反応器16’及び反応器17’を設けて、2系列の反応器で交互に反応および触媒上に堆積したコークの燃焼除去による再生を行うことにより連続運転を実施する事ができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例に基いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(合成例1:結晶性アルミノガロシリケートの合成)
硅酸ナトリウム〔Jケイ酸ソーダ3号、SiO:28〜30質量%、Na:9〜10質量%、残部水、日本化学工業(株)製〕1,706.1gおよび水2,227.5gからなる溶液(A)と、Al(SO・14〜18HO〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕64.2g、Ga(NO・nHO〔Ga:18.51%、添川理化学(株)製〕32.8g、テトラプロピルアンモニウムブロマイド369.2g、HSO(97質量%)152.1g、NaCl26.6gおよび水2,975.7gからなる溶液(B)とをそれぞれ調製した。次いで、上記溶液(A)の中に室温で攪拌しながら溶液(B)を徐々に加えた。得られた混合物をミキサーで15分間激しく攪拌し、ゲルを解砕して乳状の均質微細な状態にした。次に、この混合物をステンレス製のオートクレーブに入れ、温度165℃、時間72hr、攪拌速度100rpmの条件で自己圧力下に結晶化操作を行った。この結晶化操作終了後、生成物を濾過して固体生成物を回収し、約5リットルの水を使用して5回洗浄と濾過を繰り返した。濾別して得られた固形物を120℃で乾燥し、更に550℃、空気流通下で3時間焼成した。
得られた焼成物は、X線回析の結果、MFI構造を有するものであり、またMASNMR分析による、SiO/Al(モル比)、SiO/Ga(モル比)、SiO/(Al +Ga)(モル比)は各々64.8、193.2、48.6であった。またこの結果から計算された骨格構造中に含有されるアルミニウム元素は1.32質量%、ガリウム元素は1.16質量%であった。
得られた生成物に対し、1グラム当りに5mlの割合で30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱攪拌後、ろ過、水洗した。この操作を4回繰返した後、120℃で3時間乾燥してアンモニウム型結晶性アルミノガロシリケートを得た。
【0064】
(実施例1)
合成例1で得られたアンモニウム型結晶性アルミノガロシリケートを空気雰囲気下で780℃にて3時間焼成した後、バインダーとして、アルミナパウダー〔Cataloid AP、触媒化成工業(株)製、商品名〕を、結晶性アルミノガロシリケート:アルミナパウダーの重量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃で3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物1を得た。
この触媒組成物を乳鉢で砕き、粉末にし、3.2mmφのMAS−NMR測定用サンプル管に充填し、核磁気共鳴測定装置(Varian社製、VNMRS−500)を用いて回転数15000Hz、パルス幅23.8°、繰り返し時間5秒、積算回数128回で測定を行い、1mol/l塩化アルミニウム水溶液を基準として、ケミカルシフト65ppmおよび0ppm付近のシグナルの面積比(Area65ppm/Area0ppm)を求めたところ、0.45であった。
また、同じ粉末を、6mmφMAS−NMR測定用サンプル管に充填し、核磁気共鳴測定装置(Varian社製、VNMRS−500)を用いて回転数8000Hz、パルス幅23.8°、繰り返し時間10秒、積算回数1024回で29Si−MASNMR測定を行い、ポリジメチルシロキサンを基準として、−110ppm及び−105ppm付近にそれぞれSi(0Al)、Si(1Al)に相当するシグナルが観察された。このシグナルの面積から、骨格内Si/Alモル比を求めたところ、38であった。
また粉末の蛍光X線分析より触媒組成物中のケイ素原子及びガリウム原子の含有量はそれぞれ29.1、0.93質量%であった。従って、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比は0.49と算出された。
また、固定床流通式反応装置を用い、3gの触媒組成物1を反応器に充填して、ノルマルブタンを原料とした、触媒の簡易寿命試験を実施した。試験条件は、反応温度540℃、常圧、GHSV 515hr−1の条件で1時間反応を行った後、装置に直結されたガスクロマトグラフにより生成物の組成分析を行い、初期の原料転化率、芳香族収率を求めた。その後、GHSV 5150hr−1に変えて4時間反応を行った後、再度GHSV 515h−1に戻して、30分反応した後、先ほどと同様に生成物の組成分析を行い、簡易寿命試験後の原料転化率、芳香族収率を求めた。初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ99.9%、58.0質量%、0.99、0.92であった。
【0065】
(実施例2)
市販のMFI型ゼオライト(NaMFI40、Si/Al(モル比)=15、ズードケミー触媒製、商品名)100gに500mlの30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗した。この操作を4回繰返した後、120℃で3時間乾燥してアンモニウム型MFIゼオライトを得た。このアンモニウム型MFIゼオライト50gに250mLの0.1mol/l硝酸ガリウム水溶液を加え、100℃で4時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で780℃3時間焼成して、ガリウム担持MFIゼオライトを得た。蛍光X線分析より、Si、Al、Ga元素の含有量はそれぞれ、40.5、2.6、1.4質量%であった。このガリウム担持MFIゼオライトを、バインダーとして、アルミナパウダー〔Cataloid AP、触媒化成工業(株)製、商品名〕を、ガリウム担持ゼオライト:アルミナパウダーの質量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物2を得た。
この触媒組成物2の4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.46であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.51であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ99.9%、58.0質量%、0.99、0.93であった。
【0066】
(実施例3)
市販のMFI型ゼオライト(NaMFI40、Si/Al(モル比)=15、ズードケミー触媒製、商品名)100gに500mlの30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗した。この操作を4回繰返した後、120℃で3時間乾燥してアンモニウム型MFIゼオライトを得た。このアンモニウム型MFIゼオライト50gに250mLの0.1mol/l硝酸ガリウム水溶液を加え、100℃で4時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗し、120℃で3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃3時間焼成して、ガリウム担持MFIゼオライトを得た。蛍光X線分析より、Si、Al、Ga元素の含有量はそれぞれ、40.5、2.6、1.4質量%であった。得られたガリウム担持MFIゼオライト20gに0.1規定リン酸水素ナトリウム水溶液5mLを含浸させた後、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で780℃にて3時間焼成してリン担持ガリウムMFIゼオライトを得た。蛍光X線分析より、Si、Al、Ga、P元素の含有量はそれぞれ、40.5、2.6、1.4、0.7質量%であった。次に、バインダーとして、アルミナパウダー(Cataloid AP、触媒化成工業(株)製、商品名〕を、リン担持ガリウムMFIゼオライト:アルミナパウダーの質量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物3を得た。
この触媒組成物3の4配位アルミニウム原子と、6配位アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.43であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.51であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ99.0%、57.5質量%、0.99、0.91であった。
【0067】
(実施例4)
(ZnAlバインダーの合成)
硝酸アルミニウム0.2molと硝酸亜鉛0.1molを1Lの水に溶解し、攪拌しながら、エタノールを100g添加し、さらに攪拌して混合溶液とした。この混合溶液にアンモニア0.85molを含む25%アンモニア水57.8gを加えて沈殿を生成させた。この沈殿を含む液から水とエタノールを除去した後、得られた固体を400℃で5時間焼成後、さらに700℃にて5時間焼成して粉末を得た。
(ZnAlバインダーを用いた成形触媒の調製)
合成例1で得られたアンモニウム型結晶性アルミノガロシリケートに、上記で得られた粉末を、結晶性アルミノガロシリケート:上記粉末の質量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃で3時間乾燥後、空気雰囲気下で780℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物4を得た。
この触媒組成物4の4配位アルミニウム原子と、6配位アルミニウム原子の比を実施例1と同様に測定した結果、0.05であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.49であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ99.9%、58.0質量%、0.99、0.92であった。
【0068】
(実施例5)
(ダイアスポアの合成)
ギブサイト(日本軽金属製、BHP39)に種結晶として中国産ダイアスポア鉱石を30質量%加え、1規定NaOH水溶液中、390℃にて13日間水熱合成した。析出した固体を水洗、乾燥後550℃にて5時間焼成し、粉末を得た。
(ダイアスポアバインダーを用いた成形触媒の調製)
合成例1で得られたアンモニウム型結晶性アルミノガロシリケートに上記で得られた粉末を、結晶性アルミノガロシリケート:粉末の質量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃で3時間乾燥後、空気雰囲気下で780℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物5を得た。
この触媒組成物5の4配位アルミニウム原子と、6配位アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.01であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.49であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ99.9%、58.0質量%、0.99、0.93であった。
【0069】
(比較例1)
合成例1で得られたアンモニウム型結晶性アルミノガロシリケートにバインダーとして、アルミナパウダー(Cataloid AP、触媒化成工業(株)製、商品名)を、結晶性アルミノガロシリケート:アルミナパウダーの重量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で780℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物4を得た。
この触媒組成物4の4配位アルミニウム原子と、6配位アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.52であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.49であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ99.0%、58.0質量%、0.96、0.88であった。
【0070】
(比較例2)
合成例1で得られたアンモニウム型結晶性アルミノガロシリケートにバインダーとして、アルミナパウダー(Cataloid AP、触媒化成工業(株)製、商品名)を、結晶性アルミノガロシリケート:アルミナパウダーの質量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物7を得た。
この触媒組成物7の4配位アルミニウム原子と、6配位アルミニウム原子の比を実施例1と同様に測定した結果、0.45であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.32であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率、さらには簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ97.0%、48.0質量%、0.99、0.92であった。
【0071】
(比較例3)
市販のMFI型ゼオライト(NaMFI40、Si/Al(モル比)=15、ズードケミー触媒製、商品名)100gに500mlの30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗した。この操作を4回繰返した後、120℃にて3時間乾燥してアンモニウム型MFIゼオライトを得た。このアンモニウム型MFIゼオライト50gに250mLの0.1mol/l硝酸ガリウム水溶液を加え、100℃で4時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成して、ガリウム担持MFIゼオライトを得た。蛍光X線分析より、Si、Al、Ga元素の含有量はそれぞれ、40.5、2.6、1.4質量%であった。このガリウム担持MFIゼオライトを、バインダーとして、アルミナパウダー(Cataloid AP、触媒化成工業(株)製、商品名)を、ガリウム担持ゼオライト:アルミナパウダーの質量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で780℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物8を得た。
この触媒組成物8の4配位アルミニウム原子と、6配位アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.53であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.51であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ99.9%、58.5質量%、0.96、0.89であった。
【0072】
(比較例4)
市販のMFI型ゼオライト(NaMFI40、Si/Al(モル比)=15、ズードケミー触媒製、商品名)100gに500mlの30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗した。この操作を4回繰返した後、120℃にて3時間乾燥してアンモニウム型MFIゼオライトを得た。このアンモニウム型MFIゼオライト50gに250mLの0.1mol/l硝酸ガリウム水溶液を加え、100℃で4時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成して、ガリウム担持MFIゼオライトを得た。蛍光X線分析より、Si、Al、Ga元素の含有量はそれぞれ、40.5、2.6、1.4質量%であった。このガリウム担持MFIゼオライトを、バインダーとして、アルミナパウダー(Cataloid AP、触媒化成工業(株)製、商品名)を、ガリウム担持ゼオライト:アルミナパウダーの質量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物9を得た。
この触媒組成物9の4配位アルミニウム原子と、6配位アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.46であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.27であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ98.4%、42.0質量%、0.99、0.93であった。
【0073】
(比較例5)
市販のMFI型ゼオライト(NaMFI40、Si/Al(モル比)=15、ズードケミー触媒製、商品名)100gに500mlの30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗した。この操作を4回繰返した後、120℃にて3時間乾燥してアンモニウム型MFIゼオライトを得た。このアンモニウム型MFIゼオライト50gに250mLの0.1mol/l硝酸ガリウム水溶液を加え、100℃で4時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗し、120℃で3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成して、ガリウム担持MFIゼオライトを得た。蛍光X線分析より、Si、Al、Ga元素の含有量はそれぞれ、40.5、2.6、1.4質量%であった。得られたガリウム担持MFIゼオライト20gに0.1規定リン酸水素ナトリウム水溶液5mlを含浸させた後、120℃で3時間乾燥後、空気雰囲気下で550℃にて3時間焼成してリン担持ガリウムMFIゼオライトを得た。蛍光X線分析より、Si、Al、Ga、P元素の含有量はそれぞれ、40.5、2.6、1.4、0.7質量%であった。次に、バインダーとして、アルミナパウダー(Cataloid AP、触媒化成工業(株)製、商品名)を、リン担持ガリウムMFIゼオライト:アルミナパウダーの質量比が70:30となるように混合し、さらに水を加えて十分に練った後、押出成形し、120℃にて3時間乾燥後、空気雰囲気下で780℃にて3時間焼成し、これを16〜28メッシュのサイズにそろえ、触媒組成物10を得た。
この触媒組成物10の4配位アルミニウム原子と、6配位アルミニウム原子のモル比を実施例1と同様に測定した結果、0.54であった。
また、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比も実施例1と同様に測定した結果、0.51であった。
また、固定床流通式反応装置を用い、実施例1と同様に初期活性評価および簡易寿命評価を行い、初期の原料転化率および芳香族収率さらに、簡易寿命評価後の原料転化率、芳香族収率の初期に対する比を求めたところ、それぞれ98.5%、55.5質量%、0.96、0.88であった。
【0074】
実施例1〜5及び比較例1〜5の結果を表1にまとめた。4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子のモル比が0.5未満であり、ガリウム原子と骨格内アルミニウム原子のモル比が0.45以上であれば、高い芳香族収率が得られると共に、寿命試験後の活性低下が小さいことが表1から明らかである。
【0075】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の方法を実施する場合のフローシートの1例を示す図である。
【図2】本発明における転化反応工程の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1…転化反応工程
2…反応器流出物の気液分離工程
3…高圧分離ガスからの水素分離工程
4…高圧分離液からの芳香族炭化水素の分離工程
5…原料脂肪族炭化水素
6…原料脂肪族炭化水素とリサイクルガスである軽質炭化水素ガスとの混合物
7…反応器流出物
8…気液分離工程で分離した高圧分離液
9…気液分離工程で分離した高圧分離ガス
10…水素分離工程で分離した水素を主成分とするガス
11…水素分離工程で分離したオフガス
12…全循環ガス量を一定範囲に保持するために系外に排出されるガス
13…高圧分離液から分離された低沸点炭化水素ガス
14…高圧分離液から分離された芳香族炭化水素
15…リサイクルガス
16…1段目の反応器
16’…1段目の反応器のもう1系列の反応器
17…2段目の反応器
17’…2段目の反応器のもう1系列の反応器
18…原料脂肪族炭化水素とリサイクルガスである軽質炭化水素ガスとの混合物
19、20…加熱炉などの加熱手段
21…1段目の反応器からの反応器流出物
22…2段目の反応器からの反応器流出物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウム原子を含有する結晶性アルミノシリケートと、アルミナと、を含有する組成物であって、
前記組成物中の前記アルミナを構成する、27Al−MASNMR法により定量される4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比が0.5未満であり、
前記組成物中の前記ガリウム原子と、前記組成物中の前記結晶性アルミノシリケートの骨格内の、29Si−MASNMR法により定量されるアルミニウム原子のモル比が0.45以上であることを特徴とする触媒組成物。
【請求項2】
ガリウム原子を含有する結晶性アルミノシリケートと、アルミナと、を含有する組成物であって、
前記組成物中の前記アルミナを構成する、27Al−MASNMR法により定量される4配位アルミニウム原子と6配位アルミニウム原子とのモル比が0.5未満であり、
前記組成物中のガリウム原子と、前記組成物の原料として用いられる結晶性アルミノシリケートの骨格内の、29Si−MASNMR法により定量されるアルミニウム原子とのモル比が0.45以上であることを特徴とする触媒組成物。
【請求項3】
前記結晶性アルミノシリケートが、ペンタシル型ゼオライトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記結晶性アルミノシリケートが、全粒子の質量を基準とする粒子径0.05〜20μmの範囲の粒子の含有率が80質量%以上のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記結晶性アルミノシリケートが、該結晶性アルミノシリケートの質量を基準として、アルミニウム原子を0.1〜2.5質量%及びガリウム原子を0.1〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記結晶性アルミノシリケートが結晶性アルミノガロシリケートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の触媒組成物と、炭素数2〜7の炭化水素を含有する原料と、を接触させる工程を備えることを特徴とする芳香族炭化水素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−233601(P2009−233601A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84394(P2008−84394)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】