説明

触媒製品及びその製造方法

【課題】無効な触媒金属量を減らし触媒金属の使用量を削減できるようにする。
【解決手段】担体となるNiの多孔質金属箔2の表面部に酸化被膜3を形成する。酸化被膜3の表面に触媒金属4としてのPtを直接付着させて担持させ、この際、Ptはスパッタリング法によりナノ粒子状に付着させて触媒製品1を製造する。担体を表面積の大きい多孔質金属箔2として、酸化被膜3を形成させた表面に触媒金属4を直接付着させるようにすることで、母材内部に担持されて触媒反応に関与しなくなる無効な触媒金属4量を減少させると共に、触媒金属4をナノ粒子状とすることにより比表面積を増大させる。多孔質金属箔2の表面部に予め酸化被膜3を形成させることで、多孔質金属箔2の母材酸化物が触媒金属4を被覆して触媒機能が低下する虞を防止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に触媒金属を担持してなる触媒製品、及び、該触媒製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に使用されているガス反応触媒のような触媒製品を製造する場合、従来は、セラミック等を母材とする担体を、触媒金属を溶かした溶剤(溶液)に一旦浸漬させて、上記担体に溶剤中の触媒金属を吸着させ、しかる後、焼成等を行なうことにより上記担体に触媒金属を担持させるようにする手法が主流となっている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
又、導電性金属の金属素線からなる金網の表面に金属粉末を焼結させて粉末焼結層を形成してなる多孔質金属複合体に、白金ベースの触媒金属(白金族金属粉末)を焼結担持させることも従来提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−1119号公報
【特許文献2】特開2003−334444号公報
【特許文献3】特開2003−97253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1、2に示されたように、担体へ触媒金属を担持させる際、担体を、触媒金属を溶かした溶剤に浸漬させて該触媒金属の吸着を行わせるようにする場合には、担体への触媒担持量の制御を行なうことが難しいという問題がある。
【0006】
又、担体の母材内部へ溶媒と共に触媒金属が浸透してしまうため、得られる触媒製品においては、担体の母材表面にて触媒反応に関与する有効な触媒金属の量に対し、母材内部に存在しているために触媒反応にほとんど関与しない触媒金属、すなわち、無効な触媒金属が無視できない量となっているのが実状である。
【0007】
そのために、たとえば、触媒金属として白金(Pt)を用いた一酸化炭素(CO)の酸化用の触媒では、従来、触媒機器の体積中のPtの存在密度は約5mg/cmと比較的大きな値となっており、この場合、上記触媒金属として用いるPtのような貴金属は一般に高価であるため、触媒製品の製造コストが嵩むという問題が生じていた。
【0008】
更に、従来、多く用いられているセラミックで成形された担体を使用する場合は、触媒機器の形状に自由度が少ないという問題もある。
【0009】
なお、特許文献3には、多孔質金属複合体に、白金ベースの触媒金属を焼結担持させる考えは示されているが、担体としての上記多孔質金属複合体は、金網と、該金網の表面に金属粉末のスラリーを塗布して焼結させてなる粉末焼結層とからなる構成を有するものであって、多孔質金属箔のような単なる金属製多孔質体とは異なる。又、上記多孔質金属複合体へ白金ベースの触媒金属を担持させる際の具体的な手法は全く記載されていない。したがって、特許文献3に記載されたものからは、金属製多孔質体の表面に、触媒金属を、焼結ではなく直接付着させるようにする考えが何ら示唆されるものではない。
【0010】
そこで、本発明者等は、担体への触媒金属の量を適切に制御すると共に、担体の母材内部に浸透して触媒反応にほとんど関与しない無効な触媒金属の量を減少させて、触媒金属の使用量を削減できるようにするための工夫、研究を重ねた結果、本発明をなした。
【0011】
したがって、本発明の目的とするところは、触媒金属の使用量を削減できて、該触媒金属に要するコストの引き下げを図ることができ、これにより、製造コストを削減できること、母材の酸化物による触媒金属の被覆の発生を防止して触媒性能を維持すること、コンパクトな触媒機器を得ることが可能な触媒製品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に係る発明に対応して、担体となる金属製多孔質体の表面部に被膜を設け、該被膜の表面に触媒金属を担持してなる構成を有する触媒製品とする。
【0013】
更に、上記請求項1に係る発明における金属製多孔質体の被膜の表面に担持させる触媒金属を、微粒子状にした構成とする。
【0014】
請求項1又は2に係る発明における金属製多孔質体の表面部に設ける被膜を、酸化被膜、炭化被膜、窒化被膜、イオン注入により形成させる被膜のいずれかとした構成とする。
【0015】
請求項1、2又は3に係る発明における金属製多孔質体の母材をニッケルとし、且つ触媒金属を白金とした構成とする。
【0016】
又、請求項5に係る発明に対応して、金属製多孔質体の表面部に被膜を形成させる工程と、該工程より得られる金属製多孔質体の被膜の表面に触媒金属を直接付着させて担持させる触媒担持工程とを有する触媒製品の製造方法とする。
【0017】
更に、上記請求項5に係る発明における触媒担持工程にて、金属製多孔質体の被膜の表面に、触媒金属をスパッタリングにより付着させるようにする。
【0018】
請求項5又は6に係る発明における金属製多孔質体の表面に被膜を形成させる工程を、表面酸化処理工程とするようにする。
【0019】
請求項5、6又は7に係る発明における金属製多孔質体としてニッケルを母材とする多孔質体を用い、且つ触媒金属として白金を用いるようにする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)担体となる金属製多孔質体の表面部に被膜を設け、該被膜の表面に触媒金属を担持してなる構成を有する触媒製品としてあるので、担体として金属製多孔質体を用いることに伴い表面積を大きなものとすることができる。又、上記金属多孔質体の表面にのみ触媒金属を付着させて担持させるようにしてあることから、担体である金属製多孔質体の内部に触媒金属が担持されることはない。このため、触媒反応に無効な触媒金属の量を低減させることができて、触媒金属の使用量を削減できることから、該触媒金属に要するコストの引き下げを図ることができて、触媒製品の製造コストを削減できる。
(2)金属製の母材に触媒金属を直接担持させ、酸素が存在している雰囲気で使用する場合には、母材の表面に形成される母材酸化物により触媒金属が被覆されることに起因して触媒性能の低下が生じる虞が懸念されるが、本発明の触媒製品によれば、触媒金属が、母材の酸化物により被覆されて機能低下する虞を防止できるので、触媒性能を維持することができて、本発明の触媒製品を用いた触媒機器の寿命を延ばすことが可能になる。
(3)触媒金属の担体として金属製多孔質体を用いていることから、触媒金属を担持させた後に、塑性加工によりさまざまな形状にすることができ、ガスの流れに合わせた形状に容易に加工できることから、効率よくコンパクトな触媒機器を提供することが可能になる。
(4)金属製多孔質体の表面部に被膜を形成させる工程と、該工程より得られる金属製多孔質体の被膜の表面に触媒金属を直接付着させて担持させる触媒担持工程とを有する触媒製品の製造方法とすることにより、上記(1)に示した如き効果を得ることが可能な触媒製品を製造でき、この際、表面部に被膜を形成してなる金属製多孔質体への触媒の担持は、浸漬法による吸着ではなく、触媒金属を直接付着させるようにしてあるため、無効触媒の原因となる金属製多孔質体内部への触媒金属の担持を未然に防止できる。
(5)金属製多孔質体の被膜の表面に担持させる触媒金属を、微粒子状にした構成とすることにより、触媒金属の粒径を小さくすることに伴い該触媒金属の比表面積を増大させることができるため、触媒金属の使用量の更なる削減化を図ることが可能になる。
(6)上記(4)に示した触媒製品の製造方法における触媒担持工程にて、金属製多孔質体の被膜の表面に、触媒金属をスパッタリングにより付着させるようにすることにより、スパッタリング時間を短時間としたり、印加電圧を制御することで、微粒子化した触媒金属を、金属製多孔質体の被膜の表面にのみ付着させることができると共に、触媒金属の付着量の制御を容易に行うことができる。又、スパッタリング時間を短くすると、工程を連続化させることで生産効率を向上させることが期待できる。
(7)金属製多孔質体の表面部に設ける被膜を、酸化被膜、炭化被膜、窒化被膜、イオン注入により形成させる被膜のいずれかとした構成とすることにより、金属製多孔質体の母材表面に、触媒金属を被覆して触媒性能の低下をもたらすような母材酸化物の発生を防止し得る被膜を形成できる。
(8)金属製多孔質体の表面に被膜を形成させる工程を、表面酸化処理工程とすることにより、上記金属製多孔質体の母材の表面に、母材酸化物による経時的な触媒金属の被覆が生じることを防止するための不動態被膜としての酸化被膜を容易に形成させることができる。
(9)金属製多孔質体の母材をニッケルとし、且つ触媒金属を白金とした構成とすることにより、一酸化炭素の酸化触媒等として使用可能な酸化用の触媒製品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0022】
図1は本発明の触媒製品の実施の一形態を示すもので、担体として金属製多孔質体としての多孔質金属箔2を用いるようにし、該多孔質金属箔2の表面部に、被膜3を形成させ、且つ該多孔質金属箔2における被膜3の表面に、触媒金属4を直接担持させて本発明の触媒製品1を形成して、上記被膜3の存在により、多孔質体金属箔2の母材の酸化物による触媒金属4の被覆を防止できるようにする。本実施の形態では、上記被膜3を、一例として、酸化被膜3とする場合について説明するものとする。
【0023】
上記多孔質金属箔2としては、たとえば、ニッケル(Ni)を母材とするものを用いるようにし、又、触媒金属4としては、たとえば、白金(Pt)を用いるようにする。これにより、上記触媒製品1を、一酸化炭素(CO)等の酸化触媒として用いることができるようにしてある。
【0024】
以下、詳述する。
【0025】
ここで、本発明の触媒製品及びその製造方法の導出について説明する。
【0026】
本発明者等は、触媒製品1における触媒金属4の使用量を削減できるようにするために、先ず、従来の触媒製品のように、セラミック等を母材とする担体を、触媒金属を溶かしてなる溶剤に浸漬させる工程を経ることなく触媒金属の担持を行わせることができるようにするための手法として、担体として表面積の大きい多孔質金属箔を採用すると共に、該多孔質金属箔の表面に、触媒金属を直接付着させることを考えた。
【0027】
かかる考えに基づいて、図4(イ)に示す如く、母材をNiとしてなる多孔質金属箔2の表面に、触媒金属4としてのPtをスパッタリングにより直接付着させてなる触媒製品のサンプル5を製作した。この際、上記触媒金属4であるPtの比表面積を大とすることができるようにするために、一般に実施されているスパッタリングによる被膜形成の場合に比して、多孔質金属箔2に対する触媒金属4としてのPtを付着させる量を大幅に制限し、これにより、多孔質金属箔2の表面に、上記Ptを、ナノオーダーの微粒子(ナノ粒子)状に付着させて担持させるようにした。なお、上記Ptの担持量の制御は、スパッタリングを行う際における印加電圧やスパッタリング時間を制御することにより行なうようにしている。
【0028】
このようにして製造した上記触媒製品サンプル5についてCOの酸化率に関する試験を行った。COが0.4%、Oが8.4%、Heが91.2%の混合ガスを100ml/分で内径φ10mmのパイプに流し、Ptの目付け量(かさ密度)を0.0124mg/cmとした上記触媒製品サンプル5を上記パイプの内側にセットしたところ、従来の触媒金属を溶かした溶剤にハニカム担体を浸漬することで触媒金属の吸着を行わせるようにして製造されていた触媒製品におけるPtの存在密度(約5mg/cm)に比して上記のようにPtの目付け量を0.0124mg/cmと大幅に減少させた状態であっても、上記触媒製品サンプル5は、図5に破線bで示す如く、210℃以上の温度領域で100%のCO酸化率を得ることができることが判明した。
【0029】
しかし、上記触媒製品サンプル5のように触媒金属4としてのPtのナノ粒子の目付け量を大幅に減少させたものでは、300℃のような高温条件に曝すと、図5に二点鎖線b´で示す如く、CO酸化率が低下してしまうという現象が観察された。
【0030】
その原因としては、ナノ粒子状に付着させてある触媒金属4としてのPtと、担体の多孔質金属箔2の母材であるNiとの間で熱拡散が生じていることが考えられた。
【0031】
そこで、上記触媒製品サンプル5と同様に、母材をNiとしてなる多孔質金属箔2の表面に、触媒金属4としてのPtをスパッタリングにより直接付着させて、Ni母材上にPt付着面を作成し、このNi母材上のPt付着面について、常温(20℃)の場合と、大気開放状態で300℃及び400℃にそれぞれ加熱して30分間保持した場合について、表面に存在するPt、O、Niについて調べた。なお、この場合、上記Ptの付着量は、表面に露出されて存在しているPtを検出して標準化した強度を求める関係から、上記触媒製品サンプル5におけるPtの目付け量である0.0124mg/cmよりも大幅に多い所要量、たとえば、70倍程度付着させるようにしてある。
【0032】
その結果、常温の場合は図6(イ)に、又、300℃保持の場合は図6(ロ)に、400℃保持の場合は図6(ハ)にそれぞれ示す如き結果が得られた。なお、図6(イ)(ロ)(ハ)における横軸はエッチング回数を示しており、上記Ni母材上のPt付着面について、一回のエッチングで表層を約10nmずつ除去し、この表層が除去されて新たに露出される表面ごとに、存在しているPt、O、Niの標準化した強度を計測して、縦軸にプロットするようにしてある。よって、横軸の座標が0、すなわち、エッチング回数0の場合が、Ni母材上に作成した元のPt付着面に対応している。
【0033】
図6(イ)より明らかなように、常温の場合、Ni母材上のPt付着面の表面には、Ptは検出されるが、Ni及びOはほとんど検出されていない。これに対し、300℃に保持した場合は、図6(ロ)より明らかなように、Ni母材上のPt付着面の表面におけるPtの検出強度が低下すると共に、Ni及びOが検出されるようになる。更に、400℃保持の場合には、図6(ハ)より明らかなように、Ni母材上のPt付着面の表面に、Ptはほとんど検出されず、NiとOで覆われていることが判明した。
【0034】
これらの結果からは、上記Ni母材上のPt付着面を300〜400℃の高温に曝すと、表面部に、母材であるNiが酸化されて酸化ニッケル(NiO)が生成され、この生成したNiOによってPtの表面が被覆されていることが推定される。
【0035】
したがって、上述したように、図4(イ)に示した如きNi母材の多孔質金属箔2の表面に触媒金属4としてのPtをスパッタリングにより付着させてなる触媒製品サンプル5を、300℃のような高温条件に曝したときに観察される図5に二点鎖線b´で示す如きCO酸化率の低下現象は、図4(ロ)に示す如く、多孔質金属箔2の表面に母材酸化物であるNiOの層(被膜)6が形成されて、この形成されるNiOの層6によって触媒金属4であるPtの表面が被覆されてしまうために、該Ptによる触媒機能が発揮できなくなることが要因であると考えられた。
【0036】
そのために、本発明者等は、上記のような母材酸化物による触媒金属4の被覆の発生を防止するための解決手段として、担体のNi母材の表面に、不動態被膜となるNiOの被膜を予め形成させてからPtを付着させることを考えた。このようにすれば、Ni母材の表面に経時的に新たなNiOの被膜形成が行われることがなくなるため、上記PtがNiOの被膜により被覆される虞を防止できることが期待される。
【0037】
そこで、母材をNiとしてなる多孔質金属箔2の表面に、先ず、母材酸化物であるNiOの被膜を生成させた後、触媒金属4としてのPtをスパッタリングにより直接付着させてPt付着面を作成し、このNi母材表面のNiO被膜上のPt付着面について、常温(20℃)の場合と、大気開放状態で300℃及び400℃に加熱して30分間保持した場合に、それぞれ表面に存在するPt、O、Niについて図6(イ)(ロ)(ハ)に結果を示した手法と同様の手法により調べた。
【0038】
その結果、常温の場合は図7(イ)に、又、300℃保持の場合は図7(ロ)に、400℃保持の場合は図7(ハ)にそれぞれ示す如き結果が得られた。これにより、図7(イ)と図7(ロ)及び図7(ハ)との比較から明らかなように、上記Ni母材表面のNiO被膜上のPt付着面では、300℃及び400℃に加熱して所要時間保持しても、常温の場合と同様に、表面にPtは検出されるが、Ni及びOはほとんど検出されていないこと、すなわち、母材酸化物であるNiOによるPtの被覆が防止されていることが判明した。
【0039】
このことに鑑みて、本発明の触媒製品1は、担体となるNiの多孔質金属箔2の表面部に、予め不動態となる母材の酸化物であるNiOの酸化被膜3を形成させ、該形成された酸化被膜3の表面に、触媒金属4であるPtをナノ粒子状に付着させるものとした。
【0040】
したがって、本発明の触媒製品の製造方法は、図2にフローを示す如く、先ず、金属製多孔質体の表面部に被膜を形成させるための工程としての表面酸化処理工程Iにて、担体となる図3(イ)に示す如きNiの多孔質金属箔2を、空気中にて、たとえば、所要温度に加熱することにより、上記多孔質金属箔2の母材であるNiを酸化させて酸化ニッケル(NiO)を生成させる。これにより、図3(ロ)に示す如く、上記多孔質金属箔2の表面部が、母材酸化物である酸化ニッケル(NiO)による被膜(酸化被膜)3で覆われるようになる。
【0041】
次に、触媒担持工程IIとして、上記多孔質金属箔2の酸化被膜3の表面(図では片面)に、触媒金属4としてのPtを、スパッタリングにより直接付着させて、図1に示した如き触媒製品1を形成するようにする。この際、上記触媒金属4としてのPtがナノ粒子状に付着されるよう印加電圧、スパッタリング時間をそれぞれ制御して、Ptの担持量を適宜調整するようにしてある。
【0042】
このように、上記本発明の触媒製品1によれば、多孔質金属箔2の表面部に形成させた母材酸化被膜3の表面に、触媒金属4をスパッタリングにより直接付着させて担持させるようにしてあることから、担体である多孔質金属箔2の内部への触媒金属4の浸透を防止できて、触媒反応に無効な触媒金属4量を低減させることができる。又、担体を多孔質金属箔2として比表面積の広いものとしてあると共に、触媒金属4としてのPtをナノ粒子状に担持させるようにしてあることから、後述する実施例の結果から明らかなように、該Ptの目付け量を0.0124mg/cmとして、従来の触媒金属を溶かした溶剤にハニカム担体を浸漬することで触媒金属の吸着を行わせるようにして製造されていた触媒製品におけるPtの存在密度(約5mg/cm)に比して大幅に減じた状態であっても、前述の触媒製品サンプル5と同様に、図5に実線aで示す如く、210℃以上の温度範囲で100%のCO酸化率を得ることができる。
【0043】
しかも、上記本発明の触媒製品1では、担体となる多孔質金属箔2の表面に不動態となる酸化被膜3を予め形成させた後、該酸化被膜3の表面に触媒金属4を付着させるようにしてあることから、300℃の高温条件下であっても、触媒金属4と担体である多孔質金属箔2の母材の酸化物生成に伴う触媒金属4の被覆を防止できて、後述する図8の実験結果からも明らかなように、触媒機能低下等の経時変化を防止することができる。このために、触媒性能を維持することができて、本発明の触媒製品を用いた触媒機器の寿命を延ばすことが可能になる。
【0044】
又、多孔質金属箔2の母材表面のみに触媒金属4を担持させることができて、高価な触媒金属を有効に活用できることから、触媒製品1を製造する際に要する触媒金属4の使用量を削減でき、該触媒金属4に要するコストの引き下げを図ることができて、触媒製品1の製造コストを削減することが可能になる。
【0045】
更に、担体として表面部に母材酸化被膜3が形成してある表面積の大きな多孔質金属箔2を用いると共に、触媒金属4をスパッタリングにより付着させて担持させるようにしてあるため、多孔質金属箔表面のみへの有効且つ効果的な触媒金属4の担持が可能となり、触媒性能の向上が期待できる。又、上記触媒金属4の担持をスパッタリング法により行なうようにしてあるため、触媒金属4を容易にナノ粒子(微粒子)化させることができると共に、触媒金属4の担持量の制御を、印加電圧やスパッタリング時間の制御により容易に実施できる。しかも、スパッタリング時間を短くすると、工程を連続化させることで生産効率を向上させることが期待できる。
【0046】
更に又、担体として用いる多孔質金属箔2は、金属製であるため、セラミック等の無機担体に比して熱伝導率が大きく、したがって、熱応力等によるクラック発生といったトラブルが発生する虞が減少することが期待されることから、技術的に有利な触媒製品1とすることができる。又、上記本発明の触媒製品1は、担体を多孔質金属箔2としてあることから、該多孔質金属箔2の有する変形(加工)の容易性に基づき、触媒金属4を担持させた後に、塑性加工によりさまざまな形状にすることができ、ガスの流れに合わせた形状に容易に加工できることから、様々な形状の最終製品を容易に製造することが可能になると共に、効率よくコンパクトな触媒機器を提供することが可能になる。
【0047】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、担体としては、多孔質金属箔2を示したが、所望する表面積が得られるような金属製の多孔質体であれば、板状やその他の形状等、箔以外のいかなる形状のものを用いてもよい。触媒金属4としては、製造する触媒製品1に所望する触媒機能に応じて、Pt以外の触媒金属を適宜選択して用いるようにしてもよい。又、多孔質金属箔2の母材の材質としてはNiを示したが、上記適宜選択される触媒金属4に応じて、母材表面に、触媒金属4を経時的に被覆してしまう虞のないよう所要の被膜を予め形成することができれば、Ni以外の材質のものを用いるようにしてもよい。
【0048】
図2に示した表面酸化処理工程Iにて多孔質金属箔2の表面部に酸化被膜3を形成させる処理条件としては、大気開放条件下にて加熱処理するものとして示したが、使用する多孔質金属箔2の大きさ、形状等に応じて加熱処理するときの温度条件及び処理時間は適宜変更してもよい。更に、担体となる金属製多孔質体の表面部に、該金属製多孔質体の母材表面部に経時的に形成される酸化物の被膜により触媒金属の被覆が生じる虞を防止できるような被膜を予め形成できれば、上記表面酸化処理工程Iにて加熱処理以外により酸化被膜を形成させるようにしてもよく、更には、表面酸化処理に代えて、窒化処理、浸炭のような炭化処理、又は、イオン注入法のような処理により、それぞれ母材表面に、窒化膜、炭化膜、イオン注入により所要原子の導入の行われた被膜を形成させるようにしてもよい。
【0049】
図2の触媒担持工程IIにて、担体としての多孔質金属箔2の酸化被膜3の表面に触媒金属4を付着させる方法としては、該触媒金属4の付着量の制御の行い易さという観点からはスパッタリングにより行なうことが好ましいが、多孔質金属箔2の酸化被膜3表面に対し触媒金属4を微粒子状に付着させることができれば、ガス中蒸発法や、CVD、PVD、真空蒸着等の手法を用いるようにしてもよい。又、多孔質金属箔2の両面に触媒金属4を担持させるようにしてもよい。
【0050】
触媒製品1における触媒金属4の担持量は、所望する触媒機能が得られるようにすれば、用いる触媒金属4の材質等に応じて適宜増減してもよい。又、触媒金属4は、比表面積を大きくするという観点からするとナノ粒子のように粒径の小さい微粒子状にして担持させることが好ましいが、担体である多孔質金属箔2の酸化被膜3の表面にて膜化されていても支障はない。
【0051】
本発明の触媒製品及びその製造方法は、いかなるガス反応触媒に用いる触媒製品とその製造にも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【実施例】
【0052】
(1)
図2に示したフローに従って、Niの多孔質金属箔2の表面部にNiOによる酸化被膜3を形成させた後、該酸化被膜3の表面に、触媒金属4としてのPtをスパッタリングによりナノ粒子状に付着させて触媒製品1を製造した。この際、上記触媒金属4としてのPtの目付け量が0.0124mg/cmとなるようにした。
【0053】
上記触媒製品1を、Ptスパッタ面が内側になるよう円筒状に丸めて内径φ10mmの反応管内に入れてセットし、COが0.4%、Oが8.4%のHeベースの混合ガスを、上記反応管に流した。
【0054】
上記反応管は、炉内に設置して反応管内の雰囲気温度を、20℃/minの昇温率で100℃まで昇温させた後、2.5℃/minにて300℃まで昇温させた。
【0055】
この際、上記反応管の下流側に排出されたガスをCO分析計に取り込み、CO濃度の経時変化から、CO酸化率の経時変化を求めた。
【0056】
その結果を図5に実線aで示す。これにより、本発明の触媒製品1によれば、Pt目付け量(Pt目付け量の導出は、{触媒金属担持量/(試験管断面積×金属箔幅)}による)を0.0124mg/cm(薄膜換算1.4nm、この薄膜換算の導出は、{触媒金属担持量/(Pt密度×金属箔の面積)}による)として、従来の触媒製品に比して触媒金属4の担持量を大幅に減少させた状態であっても、210℃以上で100%のCO酸化率が得られることが判明した。
【0057】
図5中における破線b及び二点鎖線b´は、比較として、Niの多孔質金属箔2の表面に酸化被膜を設けることなく触媒金属4であるPtを上記と同様のPt目付け量となるようスパッタリングにより直接付着させて製造した触媒製品サンプル5(図4参照)である。
【0058】
上記触媒製品サンプル5では、300℃の温度条件に保持することにより、図5に二点鎖線で示す如く、触媒機能の低下が観察されたが、これに対し、本発明の触媒製品1によれば、300℃の温度条件に保持した場合であっても触媒の機能低下が生じないことが判る。
【0059】
(2)
上記(1)と同様に製造した本発明の触媒製品1を300℃の温度条件に保持した場合におけるCO酸化率の変化を、時間軸に対してプロットし、CO酸化率の経時変化について検証した。
【0060】
その結果を図8に実線cで示す。図8における破線dは、比較として、上記(1)に示したと同様の触媒製品サンプル5を300℃の温度条件に保持した場合についてのCO酸化率の変化を、時間軸に対してプロットした結果を示すものである。
【0061】
これにより、本発明の触媒製品1によれば、300℃の温度条件に30分間保持してもCO酸化率はほぼ100%のまま持続されることが判る。これに対し、触媒製品サンプル5では、時間の経過に伴いCO酸化率が減少することが明らかとなった。
【0062】
したがって、本発明の触媒製品1のように担体である多孔質金属箔2の表面部に酸化被膜3を形成し、該酸化被膜3の表面に触媒金属4を担持させることが、高温条件下における触媒機能の低下の防止に効果を発揮することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の触媒製品の実施の1形態を示す概略切断側面図である。
【図2】図1の触媒製品の製造方法のフローを示す図である。
【図3】(イ)は図2の製造方法における原料となる多孔質金属箔を、(ロ)は図2の担体酸化工程にて生成される表面部に酸化被膜を有してなる多孔質金属箔をそれぞれ示す概略切断側面図である。
【図4】多孔質金属箔の表面に酸化被膜を設けることなく触媒金属を担持させた触媒製品サンプルを示すもので、(イ)は概略切断側面図、(ロ)は高温条件に曝したときにとると考えられる状態を示す概略切断側面図である。
【図5】図1の触媒製品のCO酸化率と温度との相関を示す図である。
【図6】Ni母材表面に作成したPt付着面について熱拡散テストを行った結果を示すもので、(イ)は常温の場合、(ロ)は300℃保持の場合、(ハ)は400℃保持の場合をそれぞれ示す図である。
【図7】Ni母材表面のNiO被膜上に作成したPt付着面について熱拡散テストを行った結果を示すもので、(イ)は常温の場合、(ロ)は300℃保持の場合、(ハ)は400℃保持の場合をそれぞれ示す図である。
【図8】図1の触媒製品のCO酸化率の経時変化を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
I 表面酸化処理工程(金属製多孔質体の表面部に被膜を形成させる工程)
II 触媒担持工程
1 触媒製品
2 多孔質金属箔(金属製多孔質体)
3 酸化被膜(被膜)
4 触媒金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体となる金属製多孔質体の表面部に被膜を設け、該被膜の表面に触媒金属を担持してなる構成を有することを特徴とする触媒製品。
【請求項2】
金属製多孔質体の被膜の表面に担持させる触媒金属を、微粒子状にした請求項1記載の触媒製品。
【請求項3】
金属製多孔質体の表面部に設ける被膜を、酸化被膜、炭化被膜、窒化被膜、イオン注入により形成させる被膜のいずれかとした請求項1又は2記載の触媒製品。
【請求項4】
金属製多孔質体の母材をニッケルとし、且つ触媒金属を白金とした請求項1、2又は3記載の触媒製品。
【請求項5】
金属製多孔質体の表面部に被膜を形成させる工程と、該工程より得られる金属製多孔質体の被膜の表面に触媒金属を直接付着させて担持させる触媒担持工程とを有することを特徴とする触媒製品の製造方法。
【請求項6】
触媒担持工程にて、金属製多孔質体の被膜の表面に、触媒金属をスパッタリングにより付着させるようにする請求項5記載の触媒製品の製造方法。
【請求項7】
金属製多孔質体の表面に被膜を形成させる工程を、表面酸化処理工程とする請求項5又は6記載の触媒製品の製造方法。
【請求項8】
金属製多孔質体としてニッケルを母材とする多孔質体を用い、且つ触媒金属として白金を用いるようにする請求項5、6又は7記載の触媒製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−55692(P2006−55692A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237302(P2004−237302)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】