説明

触媒金属析出方法および触媒金属担持体粒子

【課題】簡易な方法で触媒金属担持体の触媒効果を制御すること。
【解決手段】
Aを少なくとも鉛、ストロンチウム、ビスマスまたはバリウムを含む触媒金属(2)とし、Bを少なくともチタン、ジルコニウム、ニオブ、ニッケルまたはマグネシウムを含むものとした場合に、化学式、ABOで表される酸素八面体構造を有する担持体(1)と、前記担持体(1)表面に担持された前記触媒金属(2)と、を有する触媒金属(2)担持体粒子(1)に電子線を照射することで、前記触媒金属(2)担持体(1)粒子から表面に前記触媒金属(2)を析出させることを特徴とする触媒金属析出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸化合物粒子表面に担持された触媒機能を有する触媒金属を析出させる触媒金属析出方法および前記触媒金属析出方法で析出した触媒金属を担持する触媒金属担持体粒子に関し、特に、排ガス浄化作用触媒や燃料電池の電極触媒等として好適に使用される触媒金属担持体粒子および前記触媒金属担持体粒子の触媒金属析出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題への意識の高まりから、自動車等の排気ガスに含まれる物質を還元等の化学反応により無害化、浄化して排出するための排ガス浄化作用がある触媒や、有害な排気ガスを排出しない電気自動車で使用が検討されている燃料電池の電極触媒の製造が行われている。前記触媒として、ポリマーやカーボン等の担体(担持体)に金属を担持させた触媒が従来から使用されており、このような触媒に関する技術として、下記の従来技術が知られている。
【0003】
非特許文献1には、排気ガス等に含まれる水素や一酸化炭素を酸化させて無害化させる触媒として、10nm以下の金(Au)粒子が遷移金属酸化物表面に均一に分散した触媒を利用する技術が記載されている。なお、これらの金属触媒では、触媒の効果を高めるためには表面積が広い方が望ましいため、表面積が広くなるように微粒子化されることが一般的であり、ミクロンサイズ(μmオーダー)〜ナノサイズ(nmオーダー)のものが使用されている。
非特許文献2には、自動車の排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)や一酸化炭素、不完全燃焼の炭化水素を減少させるために使用される排ガス浄化装置において、ペロブスカイト構造(酸素八面体構造)のパラジウム(Pd)を有する触媒を使用し、Pd粒子がペロブスカイト格子に侵入したり離脱することで、金属Pd粒子の成長を抑え、長期間に渡って触媒としての活性を保持することに関する技術が記載されている。
【0004】
特許文献1(特開2007−223891号公報)には、担体としての表面積の広い導電性のカーボンナノチューブの内部に、金属触媒としての白金(Pt)等を分散させた担持触媒に関する技術が記載されている。
特許文献2(特開2004−97925号公報)には、金属酸化物の一例としての酸化ルテニウム(RuO)を担持した光触媒に関する技術が記載されている。
特許文献3(特開2004−217507号公報)には、燃料電池で使用される電極触媒材料として、内部に鉄や銅のような金属を有する鉄タンパク質や同タンパク質を使用して、金属を均一に分散させた活性炭を製造する方法が記載されている。
【0005】
【非特許文献1】M.Haruta、他3名,”水素や一酸化炭素の低温酸化に使用される共沈法による金触媒(Gold Catalysts Prepared by Co-precipitation for Low-Temperature Oxidation of Hydrogen and of Carbon Monoxide)” ,触媒学会誌(The Journal of Catalysis、J. of Catalysis),米国,1989年2月1日,Vol.115,Issue 2,p301−p309
【非特許文献2】Y.Nishimura、他7名,”自動車の排気制御用のパラジウム−ペロブスカイト触媒の自己再生(Self-regeneration of a Pd-Perovskite catalyst for automotive emissions control)” ,ネイチャー誌(Nature),英国,ネイチャー出版グループ(Nature Publishing Group),2002年7月11日,Nature418,p164−p167
【特許文献1】特開2007−223891号公報(「0010」〜「0013」、「0039」〜「0041」(特に、「0041」))
【特許文献2】特開2004−97925号公報(「0007」〜「0008」)
【特許文献3】特開2004−217507号公報(「0008」、「0013」〜「0021」)
【特許文献4】特開平07−272334号公報
【特許文献5】特開平09−318966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
前記従来技術では、担持される金属触媒として、いわゆる貴金属、レアメタル(希少金属)とされる金(Au)・白金(Pt)・パラジウム(Pd)・ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等が使用されている。これらは、現在確認されている埋蔵量が限られており、これらを利用した触媒を使用するためには、量、費用の両面から問題があり、近い将来、代替物質へのシフトは重要課題となっている。
これらの代替物質として、触媒作用があり、埋蔵量が豊富で低コストな一般的な重金属として、鉛(Pb)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。しかし、これらの一般的な重金属は表面が酸化して金属酸化物の膜が形成されやすく、十分な触媒効果を発現させることが困難であるという問題がある。特に、触媒作用を高めるために微粒子化すると表面積が広くなりさらに酸化しやすくなり、触媒としての効果が低下する問題がある。さらに、金属触媒が担持された製品は、実際には、排気ガスの排気路のような高温環境下で使用されることが多く、高温で高い触媒効果を維持できるのは、化学的に安定な貴金属であり、一般的な重金属では触媒効果が低下しやすい問題がある。
【0007】
また、前記特許文献1、3にあるように、金属触媒を、表面積が大きな担体の細孔状の部分に分散させる場合、一様に分散させることが難しく、触媒としての効果が十分でない問題もある。
さらに、金属ナノ粒子を担体表面に均一に形成する技術として、いわゆるクラスターイオンビーム蒸着と呼ばれる方法がある(特許文献4,5参照)。しかし、クラスターイオンビーム蒸着法は、超高真空下で金属ナノ粒子の形成が行われるため、高コストで高い技術が必要であると共に、超高真空下から大気中に金属ナノ粒子が曝されると酸化してしまう問題がある。
すなわち、前記従来技術では、高い触媒効果を持つ触媒を得ることが困難である上に、利用者が得たい高さの触媒効果を持つ触媒を簡易に製造することが困難であった。
【0008】
本発明は、簡易な方法で触媒金属担持体の触媒効果を制御することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明の触媒金属析出方法は、
Aを少なくとも鉛、ストロンチウム、ビスマスまたはバリウムを含む触媒金属とし、Bを少なくともチタン、ジルコニウム、ニオブ、ニッケルまたはマグネシウムを含むものとした場合に、化学式、ABOで表される酸素八面体構造を有する担持体と、前記担持体表面に担持された前記触媒金属と、を有する触媒金属担持体粒子に電子線を照射することで、前記触媒金属担持体粒子から表面に前記触媒金属を析出させることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の触媒金属析出方法において、
触媒金属が溶解された有機溶液に対して、前記有機溶液の有機溶媒が気化し且つ酸素八面体構造を有する触媒金属担持体粒子が結晶化する下限の焼結温度で焼結させることで製造された前記触媒金属担持体粒子から前記触媒金属を析出させることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の触媒金属析出方法において、
有機溶媒としてのエタノールに溶質としてのシュウ酸が溶解された第1の溶液に、有機溶媒としてのエタノールに溶質としてのチタニウムテトラブトキシドが溶解された第2の溶液が混合することで、オキサルチタン酸溶液を製造するオキサルチタン酸溶液製造工程と、
溶媒としての水に水溶性の触媒金属化合物が溶解された第3の溶液を、前記オキサルチタン酸溶液に混合することで、前記触媒金属が溶解されたチタン酸有機溶液により構成された前記触媒金属が溶解された有機溶液を製造する触媒金属含有チタン酸有機溶液製造工程と、
を実行することを特徴とする。
【0012】
前記技術的課題を解決するために、請求項4に記載の発明の触媒金属担持体粒子は、
請求項1ないし3のいずれかに記載の触媒金属析出方法で析出された触媒金属が担持されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、電子線を照射するという簡易な方法で触媒金属を析出させることができ、照射時間やエネルギーの調整によって電子線の照射量を調整することで、触媒金属担持体の触媒効果を制御することができる。また、請求項1に記載の発明によれば、埋蔵量が貴金属に比べて比較的豊富で低コストな鉛、ストロンチウム、ビスマス、バリウムにより低コストな触媒を得ることができる。さらに、請求項1に記載の発明によれば、酸化していない触媒金属により高い触媒効果を得ることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、触媒金属担持体粒子が結晶化する下限の焼結温度で焼結させるという簡易な方法で得られる酸素八面体構造の触媒金属担持体粒子表面に電子線を照射することで、簡易に酸化していない触媒金属を析出させることができる。
請求項3に記載の発明によれば、共沈法により作成された触媒金属を含むチタン酸が溶解された有機溶液を、チタン酸触媒金属化合物が結晶化する下限の焼結温度で焼結させたものに電子線を照射することで、触媒効果を制御することができる。
請求項4に記載の発明によれば、低コストで触媒効果が簡易な方法で制御された触媒を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施例1の金属鉛担持誘電体の概略説明図である。
図1において、本発明の実施例1の触媒金属担持強誘電体の一例としての触媒金属を担持する担持体粒子(以下、「強誘電粒子」)1は、原子Aを少なくとも鉛またはストロンチウムまたはビスマスを含む触媒金属とし、原子Bを少なくともチタン、ジルコニウム、ニオブ、ニッケルまたはマグネシウムを含むものとした場合に、化学式、ABOで表され、酸素八面体構造を有する粒子により構成されている。なお、このような粒子は、一般に強誘電性を有することが多い。
前記触媒金属Aとしては、触媒機能を持つ金属であって、大気中で酸化せずに強誘電体粒子1表面に担持される金属であり、酸素八面体構造を構成して強誘電性を示す重金属として、金属鉛(Pb)、金属ストロンチウム(Sr)、金属ビスマス(Bi)、金属バリウム(Ba)あるいはこれらに別の原子が付加されたものが挙げられる。
【0017】
また、前記原子Bとしては、前記触媒金属Aとの化合物で酸素八面体構造を構成する原子であり、前記チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)が挙げられる。
したがって、このような化合物としては、例えば、PbTiO(チタン酸鉛、触媒金属はPb)や(Pb、Sr)TiO(いわゆるPST:触媒金属はPb)、BaTiO(チタン酸バリウム:触媒金属はBa)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム:触媒金属はSr)、Pb(Zr,Ti)O(いわゆるPZT:触媒金属はPb)、(Bi,Na)TiO(触媒金属はBi)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O(いわゆるPNN:触媒金属はPb)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O(いわゆるPMN:触媒金属はPb)のようなペロブスカイト型の酸素八面体構造を有する化合物が挙げられる。このほかにも、ペロブスカイト型の酸素八面体に類似する酸素八面体構造を有する物質として、BiTI12(いわゆるビスマス層状構造強誘電体:触媒金属はBi)も挙げられる。
なお、強誘電性とは、電場をかけなくても自発分極を有していて、交流電場を印加させると分極子が反転する特性であり、このような強誘電性を有する物質が強誘電体と呼ばれる。
【0018】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた金属触媒Aを担持する強誘電粒子1では、表面に担持された触媒金属2が、触媒としての機能が低下する金属酸化物ではなく、酸化していない触媒金属であり、触媒としての機能を十分に発現することができる。したがって、触媒金属2を担持する強誘電体粒子1を、自動車や自動二輪、あるいは工場施設等の排ガス浄化装置の触媒として使用することで、排ガスを浄化することができる。また、燃料電池の電極に使用する触媒としても使用することができる。このとき、触媒金属2は、埋蔵量が豊富で比較的低コストの鉛やストロンチウムを使用できるので、低コスト且つ大量に、高い触媒効果を持つ触媒を提供することができる。
また、触媒金属を担持する強誘電体1は、強誘電性を有するため、誘電性、焦電性、圧電性が必要な素子、部材、装置に使用可能である。したがって、誘電性、すなわち高い誘電率を利用して、例えば、コンデンサやDRAM等へ使用することができる。また、圧電性を使用して各種の電気機械トランスデューサー(変換器)の素子に利用することができる。さらに、焦電性を利用して、例えば、赤外線検出素子やアクチュエータ、加速度センサ等に利用することができる。すなわち、実施例1の強誘電体粒子1は、強誘電体としての特性を有すると共に、触媒としての機能も有するため、強誘電・焦電・圧電特性に、触媒としての機能が付加された多機能性材料を提供することができる。
【0019】
(金属鉛担持強誘電体(金属触媒である鉛を担持した強誘電体)の作成方法の説明)
図2は実施例1の金属鉛担持誘電体の作成方法の説明図であり、図2Aはオキサルチタン酸溶液製造工程の説明図、図2Bは触媒金属含有チタン酸有機溶液製造工程の説明図である。
次に、触媒金属Aの一例としての鉛(Pb)を使用し、同時にストロンチウム(Sr)を付加した金属触媒2を担持する強誘電粒子1の作成方法について説明する。
図2Aにおいて、有機溶媒の一例としてのエタノール144mlに、共沈法における沈殿剤としての作用を持つシュウ酸の二水和物(H・2HO)を0.02mol/lとなるように溶解させた第1の溶液を作成した。また、有機溶媒の一例としてのエタノール72mlに、チタニウムテトラブトキシド(Ti(OC)を0.01mol/lとなるように溶解させた第2溶液を作成した。そして、前記第1の溶液と第2の溶液とを混合すると、化学反応により、オキサルチタン酸の四水和物(HTO:HTiO(C・4HO)の溶液が216ml作成される。
【0020】
図2Bにおいて、溶媒の一例としての水60mlに、水溶性の金属化合物を0.01mol/lとなるように溶解した第3溶液を作成した。なお、前記金属化合物は、水溶性の金属触媒化合物の一例としての硝酸鉛(Pb(NO)と、他の水溶性重金属化合物の一例としての硝酸ストロンチウム(Sr(NO)とが、総量が0.01mol/lとなるように溶解させている。すなわち、変数をxとした場合に、硝酸鉛:硝酸ストロンチウム=x:1−xとなり、硝酸鉛がx×0.01mol/l、硝酸ストロンチウムが(1−x)×0.01mol/lとなるように設定されている。前記HTO溶液216mlに前記第3溶液60mlを混合すると、化学反応により、触媒金属(実施例1ではPb)を含むチタン酸が溶解された有機溶液の一例として、鉛を含むチタン酸((Pb,Sr1−x)TiO(C・4HO)の有機溶液が作成される。
【0021】
次に、前記鉛を含むチタン酸の有機溶液を、有機物が気化し且つ酸素八面体構造(ペロブスカイト構造)を有する強誘電体粒子が結晶化する下限の焼結温度で焼結させる。実施例1では、チタン酸鉛の焼結温度の下限値である600℃で焼結を行った。前記焼結は、室温から一時間当たり100℃(100℃/hour)で温度を上昇させ、600℃で1時間保持し、1時間当たり100℃で温度を下降させる(−100℃/hour)ことで、有機物を気化させ、強誘電体のペロブスカイト型チタン酸化合物である(Pb,Sr1−x)TiOを結晶化させる。
得られた前記強誘電体を電子顕微鏡(TEM:透過型電子顕微鏡)で観察すると、数十nm〜100nm程度の大きさの(Pb,Sr1−x)TiO粒子(ナノ粒子、強誘電体粒子1)の表面に、2nm以下程度の粒径の微小な粒子(触媒金属2、超ナノ粒子)が担持されていることが観察された。表面に担持されている超ナノ粒子2は、格子定数から、酸化鉛(PbO)ではなく、金属鉛(Pb)であることが確認された。すなわち、真空中ではなく、空気中での焼結で得られた超ナノ粒子2が、酸化鉛ではなく、金属鉛であることが確認された。したがって、前記方法により、強誘電体(Pb,Sr1−x)TiO粒子の表面に触媒金属としてのナノメートルサイズの金属鉛(Pb)粒子が担持された金属鉛担持強誘電体ナノ粒子が得られた。なお、前記変数xとして、x=0.55の場合と、x=7.0の場合の両方で、金属鉛粒子が担持された金属鉛担持誘電体ナノ粒子が得られた。
【0022】
前記強誘電体表面に担持された金属鉛が生成され、酸化しない理由は、科学的には解明されていないが、以下のように考察される。すなわち、強誘電体を結晶化させる際に、結晶化する下限の温度で結晶化させるため、強誘電体内部は単結晶となるが、表面や外周面に多結晶または非晶質のような結晶的に不安定な領域が発生するものと考えられる。そして、前記不安定な領域に、結晶化の過程で、酸素八面体構造から金属鉛が乖離または余剰な鉛原子が析出するなどして、(Pb,Sr1−x)TiOの表面に超ナノ粒子の金属鉛(Pb)が生成、担持されるものと考えられる。そして、超ナノ粒子の金属鉛(Pb)は、結晶的に不安定な領域に発生する格子欠陥(結晶格子の構造上の乱れ)にある電荷と結合して、あたかも安定なPbO(酸化鉛)のように化学的に安定化して、酸化せず、金属鉛のままでいるのではないかと考えられる。また、前記(Pb,Sr1−x)TiOのような鉛含有酸化物系を担持体とすることで,平衡酸素濃度が自発的に調整されて担持体表面が保たれ、触媒作用を持続できるインテリジェント鉛微粒子が実現している。すなわち、表面に担持された鉛粒子が触媒として作用するが、鉛微粒子が触媒としての機能が働きそのうち機能低下した際、平衡が崩れることで担時体から自動的に新たな鉛(Pb)が供給され、自己再生のような機能も有する。
なお、強誘電体表面に生成された超ナノ粒子は、金属ストロンチウム(Sr)ではなく、金属鉛であったが、これは、鉛とストロンチウムとの関係で、鉛の方がストロンチウムに比べて安定化しやすいためであると考察される。
【0023】
(鉛超ナノ粒子の制御方法)
図3は実施例1の鉛超ナノ粒子の制御方法の説明図であり、図3Aは電子線照射前の金属鉛担持強誘電体の説明図、図3Bは電子線が照射されている状態の金属鉛担持強誘電体の説明図、図3Cは電子線が照射された後の金属鉛担持強誘電体の説明図である。
前記金属鉛担持強誘電体の製造方法で得られた超ナノ粒子の金属鉛を担持するナノ粒子強誘電体に対し、超ナノ粒子の金属鉛の粒径や個数を制御する方法について検討を行った。
前記金属鉛担持強誘電体の製造方法で得られた超ナノ粒子2を担持するナノ粒子強誘電体1に対して電子線(電子ビーム)を照射した。実施例1では、前記電子線として、印加加速電圧200kV、波長0.0251Å、ナノ粒子強誘電体1に照射される電子線の電流密度は1.5〜2.0×10[A/m]であった。
【0024】
前記電子線を照射しながら、TEM(Transmission Emission Microscope:透過型電子顕微鏡)で観察すると、ナノ粒子強誘電体表面で、鉛(Pb)の超ナノ粒子の数が増加したり、すでに存在した鉛の粒径が成長することが確認された。そして、照射時間が長くなるほど超ナノ粒子の数や粒径が増加することが確認された。すなわち、照射時間や電流密度等を調整、制御して、供給される電子量を制御することで超ナノ粒子の数や粒径を制御でき、超ナノ粒子の数等の制御により触媒としての機能、効果を高くしたり、低くしたり調整することができる。なお、前記数の増加や粒径の成長に規則性は確認されず、ランダム(不規則)な位置に鉛の超ナノ粒子が生成して数が増加したり、粒径が成長した。また、前記電子線照射では、鉛の超ナノ粒子の粒径は2nm程度が上限であった。したがって、結果的に、十分長い照射時間とすることで、鉛の超ナノ粒子の粒径を2nmに揃えることができる。
前記鉛の数が増加したり、粒径が成長する科学的な理由は解明されていないが、電子が供給されることで結晶的に不安定な鉛(Pb2+)が金属鉛(Pb)として表面に析出する形で金属鉛の数が増加したり、粒径が成長するものと考察される。
【0025】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H05)を下記に例示する。
(H01)前記生成方法において例示した溶媒や沈殿剤等については、例示したものに限定されず、同様の機能を有する任意の材料に変更可能である。一例を挙げると、有機溶媒としてエタノールに替えて、メタノールやプロパノールを使用したり等、適宜変更可能である。また、上記に例示した濃度や有機溶媒の量等も例示した数値に限定されず、変更可能である。
(H02)前記生成方法において、水溶性の金属触媒化合物の一例としての硝酸鉛(Pb(NO)を使用し、他の水溶性重金属化合物の一例としての硝酸ストロンチウム(Sr(NO)を使用したが、これらに限定されず、難溶性でない金属触媒化合物であれば任意のものに変更可能である。例えば、硝酸塩に替えて、塩化物や硫化物等、すなわち、硝酸鉛に替えて塩化鉛(PbCl)としたり、硝酸ストロンチウムに替えて塩化ストロンチウム(SrCl)を使用可能である。
【0026】
(H03)前記実施例において、電子線の印加加速電圧等は例示した値に限定されず、触媒金属を析出可能な任意の電子線に変更可能である。
(H04)前記実施例において、焼結温度は使用する材料に応じて結晶化する下限温度に変更可能である。例えば、SrTiO3は600度程度、BaTiO3は1200度程度、PZTは600度程度とすることが可能である。
(H05)前記実施例において、触媒金属を含むチタン酸が溶解された有機溶液を、共沈法で作成する場合を例示したが、この方法に限定されず、任意の方法で触媒金属を含むチタン酸が溶解された有機溶液を作成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明の実施例1の金属鉛担持誘電体の概略説明図である。
【図2】図2は実施例1の金属鉛担持誘電体の作成方法の説明図であり、図2Aはオキサルチタン酸溶液製造工程の説明図、図2Bは触媒金属含有チタン酸有機溶液製造工程の説明図である。
【図3】図3は実施例1の鉛超ナノ粒子の制御方法の説明図であり、図3Aは電子線照射前の金属鉛担持強誘電体の説明図、図3Bは電子線が照射されている状態の金属鉛担持強誘電体の説明図、図3Cは電子線が照射された後の金属鉛担持強誘電体の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1…担持体粒子、
2…触媒金属。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aを少なくとも鉛、ストロンチウム、ビスマスまたはバリウムを含む触媒金属とし、Bを少なくともチタン、ジルコニウム、ニオブ、ニッケルまたはマグネシウムを含むものとした場合に、化学式、ABOで表される酸素八面体構造を有する担持体と、前記担持体表面に担持された前記触媒金属と、を有する触媒金属担持体粒子に電子線を照射することで、前記触媒金属担持体粒子から表面に前記触媒金属を析出させることを特徴とする触媒金属析出方法。
【請求項2】
触媒金属が溶解された有機溶液に対して、前記有機溶液の有機溶媒が気化し且つ酸素八面体構造を有する触媒金属担持体粒子が結晶化する下限の焼結温度で焼結させることで製造された前記触媒金属担持体粒子から前記触媒金属を析出させることを特徴とする請求項1に記載の触媒金属析出方法。
【請求項3】
有機溶媒としてのエタノールに溶質としてのシュウ酸が溶解された第1の溶液に、有機溶媒としてのエタノールに溶質としてのチタニウムテトラブトキシドが溶解された第2の溶液が混合することで、オキサルチタン酸溶液を製造するオキサルチタン酸溶液製造工程と、
溶媒としての水に水溶性の触媒金属化合物が溶解された第3の溶液を、前記オキサルチタン酸溶液に混合することで、前記触媒金属が溶解されたチタン酸有機溶液により構成された前記触媒金属が溶解された有機溶液を製造する触媒金属含有チタン酸有機溶液製造工程と、
を実行することを特徴とする請求項2に記載の触媒金属析出方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の触媒金属析出方法で析出された触媒金属が担持されたことを特徴とする触媒金属担持体粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−207977(P2009−207977A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52685(P2008−52685)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】