説明

触媒電極の製造方法

【課題】高い触媒活性を有する燃料電池電極用担持触媒の作製方法を提供する。
【解決手段】白金合金担持カーボンの形態の燃料電池用担持触媒の製造方法であって、該白金合金がPt及びFeを含み、白金合金の粒子化がポリオールによる還元作用を利用して行われ、該粒子化における保護配位子が脂肪族カルボン酸及び脂肪族アミンを含み、該保護配位子の除去が水素濃度4〜40%の水素雰囲気下での300〜500℃、30分間〜2時間の熱処理により行われる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒電極の製造方法に関する。具体的には、本発明は、Pt及びFeを含む白金合金担持カーボンの形態の燃料電池用触媒電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は次世代の発電システムとして大いに期待されるものであり、その中で高分子固体燃料電解質を電解質として用いる固体高分子型燃料電池は、リン酸型燃料電池等の他形式の燃料電池と比較して、動作温度が低く、コンパクトに設計することが可能であり、且つ耐久寿命が長いことから、自動車用電源として有望視されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、水素極及び空気極の2つの電極と、これら電極に挟持される高分子固体電解質膜とからなる積層構造を有する。水素極には水素を含む燃料が供給され、空気極には酸素又は空気が供給されることにより、それぞれの電極で生じる酸化・還元反応により電力が取り出される。
【0004】
燃料電池の電極を構成する触媒としては、触媒活性が良好な白金又は白金に別の合金成分(補助金属)を加えた白金合金が広く用いられている(特許文献1)。白金の使用量を抑え、触媒活性を向上させ、また触媒を最大限に利用するための方策として、電極には白金合金担持カーボンが一般に利用されている。特許文献1では、白金合金担持カーボンは、カーボン粒子への白金及び別の合金成分の担持、続く合金化により作製される。
【0005】
燃料電池の性能向上のために、触媒電極の触媒活性の向上が求められている。これに関して、担体特性の改善、合金成分の選択、触媒粒子である白金合金の微細化、分散性の向上などについての試みがなされている。
【0006】
特許文献2には、白金を含む3元系合金触媒の製造方法が記載されている。特許文献2では、合金触媒を300〜500℃で熱処理することにより、L10規則相の結晶構造に相転移させるステップを含む方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−142112号
【特許文献2】特開2004−87454号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、燃料電池の触媒電極の活性向上が求められている。特に、広く用いられる白金合金担持カーボンの活性を改善するための具体的な手段が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明者らは、以下に説明するポリオール還元法を用いたPtFe担持カーボンの作製において、一定範囲の濃度の水素雰囲気下での熱処理を行うことにより、触媒活性を顕著に向上させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
具体的には、本発明は以下の特徴を有する。
〔1〕白金合金担持カーボンの形態の燃料電池用担持触媒の製造方法であって、該白金合金がPt及びFeを含み、白金合金の粒子化がポリオールによる還元作用を利用して行われ、該粒子化における保護配位子が脂肪族カルボン酸及び脂肪族アミンを含み、該保護配位子の除去が水素濃度4〜40%の水素雰囲気下での300〜500℃、30分間〜2時間の熱処理により行われる上記方法。
〔2〕前記保護配位子が、オレイン酸及びオレイルアミンである、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記担持触媒が固体高分子型燃料電池の酸素極用電極のための触媒である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載の方法により製造される担持触媒。
〔5〕上記〔4〕に記載の担持触媒を含む電極を備えた固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりも高い活性を有する燃料電池用触媒電極を作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アミンを保護配位子とするポリオール還元法を用いて作製されるPtFe二元系の担持触媒の製造方法であって、保護配位子の除去を一定濃度の水素雰囲気下で行う方法に関する。
【0013】
本発明において担持触媒とは、金属粒子を担体に担持させたものを意味する。担体としては、カーボンなどの導電体を好適に用いることができる。担体の例としては、活性炭、カーボンブラック、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラファイトナノファイバー、フラーレン、フラーレンナノウィスカー、フラーレンナノファイバー、グラファイト化処理を施したフラーレンナノウィスカー及びフラーレンナノファイバーなどが挙げられる。本発明では、金属粒子はPtFe合金粒子である。
【0014】
Pt錯体とFe錯体とを用いるポリオール還元法は、PtFe合金粒子の合成方法としてよく知られている(Yano et al.,Langmuir,2007,23:6438−6445)。ポリオール還元法とは、ポリオール(多価アルコール)の還元作用により、金属イオンを還元し、ナノサイズの金属粒子を析出させる方法である。ポリオール還元法においては、金属錯体等をエチレングリコールなどのポリオールを含む溶液に溶解し、加熱処理を行って、金属イオンを還元して金属粒子を得る。
【0015】
ポリオールとしては、1,2−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ポリエチレングリコールなどが用いられる。好ましいポリオールは1,2−ブタンジオールである。Pt錯体としてはPt(acac)が用いられ、Fe錯体としてはFe(acac)が用いられる。
【0016】
加熱処理による還元反応に際しては、反応系に保護配位子として脂肪族カルボン酸及び脂肪族アミンを含有させる。これにより生成される合金金属粒子の凝集を防止することができると考えられる。
【0017】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、酢酸、酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘキサン酸、カプリン酸(デカン酸)、ドデカン酸、ペンタデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸などのC2−30飽和脂肪族カルボン酸;オレイン酸、エルカ酸、リノール酸などのC4−24不飽和脂肪族カルボン酸(好ましくはC10−24高級不飽和カルボン酸);セバシン酸などの2価脂肪族カルボン酸などが挙げられる。
【0018】
脂肪族アミンとしては、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン(n−オクチルアミン、2−エチルへキシルアミンなど)、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ラウリルアミン(ドデシルアミン)、トリデシルアミン、ミリスチルアミン(テトラデシルアミン)、ペンタデシルアミン、パルミチルアミン(セチルアミン)、ステアリルアミン(オクタデシルアミン)、オレイルアミンなどのC3−24脂肪族アミン、好ましくはC5−24脂肪族アミン、さらに好ましくはC10−24高級脂肪族アミンなどが挙げられる。
好ましい脂肪族カルボン酸と脂肪族アミンの組み合わせは、オレイン酸とオレイルアミンである。
【0019】
保護配位子の存在下でポリオール還元法により作製した金属粒子を上記のような担体に担持させる。金属粒子の担持は、例えば脂肪族炭化水素、例えばヘキサン、ノナン;脂環式炭化水素、例えばシクロヘキサン、トルエンなどの適切な溶媒に分散させた金属粒子の分散液に、担体粒子を添加し、これにさらに数倍容のメタノール、エタノール又はアセトンを滴下することにより行うことができる(Yashima et al.,J. Colloid Interface Sci.,2003,268(2):348−356)。
【0020】
金属粒子を担体に担持させた担持金属粒子を燃料電池用電極に用いるためには、さらに保護配位子の除去ステップを行うことが必要である。作成された金属粒子の表面を保護配位子が覆っており、これにより反応表面積が小さくなり、十分な触媒活性が得られないためである。保護配位子の除去方法として種々のアプローチが用いられているが、本発明では熱処理によりこれを行う。
【0021】
本発明においては、保護配位子の除去は、水素濃度4〜40%の水素雰囲気下での300〜500℃、好ましくは350〜450℃、30分間〜2時間、好ましくは45〜90の熱処理により行う。水素の希釈ガスとしては、限定するものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスが挙げられる。希釈ガスは好ましくは窒素ガスである。
【0022】
本発明はまた、本発明の方法により作製された担持触媒、及び該担持触媒を含む電極を備えた燃料電池にも関する。
本発明の方法により作製される担持触媒は、燃料電池の電極(酸素極用電極)の触媒層、とりわけ固体高分子型燃料電池の電極の触媒層の製造に好適である。
【0023】
燃料電池の電極の触媒層の形成は、例えば固体高分子型燃料電池の電極の場合、本発明の担持触媒とパーフルオロカーボン系イオン交換樹脂などの高分子電解質膜前駆体とを混合し均一な分散液を得て、該分散液を、パーフルオロカーボン系イオン交換樹脂などからなる高分子電解質膜の両面に塗布して乾燥させた後に、両面を2枚のカーボンクロスまたはカーボンペーパーで密着させるか、あるいは該分散液を2枚のカーボンクロスまたはカーボンペーパー上に塗布して乾燥させた後に分散液が塗布された面が高分子電解質膜と密着するように高分子電解質膜の両面から挟みこむことなどにより形成することができる。
【0024】
本発明の担持触媒は、直接メタノール型燃料電池のメタノール極用電極にも用いることができる。
【実施例】
【0025】
1.PtFe粒子の合成
ポリオール還元法によりPtFe粒子を合成した。ポリオール還元法とは、上記のとおり、ポリオール(多価アルコール)の還元力により、金属イオンを還元し、ナノサイズの金属粒子を析出させる方法である。
【0026】
具体的には、以下の手順により合成を行った:
0.247gの鉄(III)アセチルアセトナート錯体(Fe(acac))、0.12gの白金(II)アセチルアセトナート錯体(Pt(acac))(Pt/Feモル比=3/7)、1.6mLのオレイルアミン、1.7mLのオレイン酸をフラスコに加え、密閉して、減圧下で撹拌した。反応液の沸騰が停止したら、160℃に昇温しながら反応容器内を窒素雰囲気に置換した。撹拌を続けながら160℃にて30分間保持し、続いて230℃まで昇温し、390mgの1,2−ヘキサデカンジオールを加えて、撹拌しながら60分間保持した。室温まで冷却し、撹拌しながら反応液に50mLのへキサンを加え、0℃まで冷却し、0℃にて8時間静置した。
黒色〜濃褐色の粘性のある液体が得られた。
【0027】
2.PtFe粒子の抽出
遠心分離(10,000rpm、5分間、0℃)を行い、上清を回収した。続いて沈殿物に50mLのヘキサンを加えて撹拌した後、0℃まで冷却し、8時間静置し、再度遠心分離(10,000rpm、5分間、0℃)し、上清を回収した。得られた上清は黒色の液体である。最初の沈殿物は濃褐色であったが、再度の抽出により褐色に変化した。
【0028】
粘性の低いPtFeヘキサン分散溶液が得られた(PtFe=0.08g、Pt/Fe質量比:4/1)。透過型電子顕微鏡像から測定すると、得られたPtFe粒子の粒径は3〜4nmであった。
【0029】
3.PtFe粒子のカーボンへの担持
得られたPtFeヘキサン分散溶液に、0.09gのカーボン粉末(Ketjen、粒径:30nm)を加え、400rpmの回転速度で撹拌しながら、室温にて、200mLのエタノールを1mL/分の速度で滴下した。滴下終了後、撹拌を停止し、反応液を静置してカーボンを沈殿させた。
【0030】
4.PtFeカーボンの熱処理(保護配位子の除去)
沈殿したカーボン粉末を濾過により回収し、乾燥させ、熱処理炉で種々の水素濃度の水素雰囲気下、400℃にて1時間加熱した。水素の希釈ガスとしては窒素を用いた。
【0031】
得られたPtFeカーボン24mgを、0.5重量%ナフィオン(登録商標)溶液(エタノール中;デュポン社製)280gに添加し、超音波発生装置を用いて10分間分散処理を行うことにより、触媒インクを調製した。
【0032】
5.電気化学評価
回転ディスク電極(グラッシーカーボン、直径:4.0mm;SEIKO EG&G製)上に、上記で調製したPtFeカーボンインク1μLをシリンジを用いて積載し、自然乾燥させて電極を作製した。この電極について、リニアスイープボルタンメトリー法によって酸素還元電流を測定した。
【0033】
回転ディスク電極装置(SEIKO EG&G製)の容器中に電解液(0.1N HClO)を入れ、室温で保持した。この容器に参照電極(水素電極(RHE))、対電極(Pt)、O吹込み管を設置した。O吹込み管からOを1時間吹き込み、O飽和の状態にした。上記で作製した電極を電解液(0.1N HClCO)に10分間浸漬した後に、ポテンショスタットを取り付けて測定を行った。測定条件は以下のとおりである。電解液:0.1N HClO、参照電極:水素電極(RHE)、対電極:Pt、温度:室温、操作電位(RHEに対して):0〜1.0V、保持時間:1.0Vで120秒間、走査速度:15mV/秒、回転数:400rpm。前処理として、0V←→1.0Vの電位スイープを100回程度繰り返し、同じCV波形を描くことを確認した上で、酸素還元電流の測定を行った。
結果を図1に示す。
【0034】
6.COパルス吸着評価
COパルス吸着法によって、各触媒へのCOの吸着量を測定した。COパルス吸着法は、COガスをパルスで送り、熱伝導度検出器(TCD)の時間積分強度から吸着ガス量を求める方法である。測定にあたっては、水素前処理(80℃、15分間)の後、10%COで吸着ガス量の測定を行い、担持触媒中、Pt1gあたりの吸着ガス量を測定した。
結果を図2に示す。
【0035】
7.透過型電子顕微鏡観察
PtFe/C粉末をカーボン支持膜つきマイクログリッド上に散布したサンプルを、10万倍程度の倍率で観察した。
結果を図3に示す。
【0036】
8.結果
図1に示される通り、940mV(参照電極に対して)での酸素還元電流は、水素濃度4〜40%で処理した触媒において特に高くなっている。また、図2に示したCO吸着量測定でも、同様の傾向が見られる。
【0037】
図2のデータにおいて、COが白金表面に吸着すると考えると、吸着CO量が多いほど白金表面が大きいと言える。すなわち、図1に示した酸素還元電流が大きい触媒では、白金表面積が大きいと考えられる。
【0038】
上記の通り、白金表面積の大きさは、白金の凝集の度合と、触媒中の残存保護配位子の量とに依存すると考えられる。上記の実験では、水素濃度が4%未満の場合は触媒中に残った保護配位子が燃焼せずに白金表面を覆ってしまっていると推測される。一方、40%を超えると、保護配位子が激しく燃焼し、その熱によって粒子の凝集が起こり、白金表面積が減少したと考えられる。
【0039】
図3で透過型電子顕微鏡像から見て取れるように、水素濃度100%で熱処理したPtFeカーボン触媒では、水素濃度40%で熱処理したものと比較して、金属粒子が著しく凝集している。このことから、上記の推測が正しいことが示される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、触媒活性の高い燃料電池用担持触媒を得ることができる。したがって、本発明は燃料電池の分野での有用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】PtFeカーボン触媒における、熱処理時の水素濃度と質量活性との関係を示すグラフである。
【図2】PtFeカーボン触媒における、熱処理時の水素濃度とCO吸着量との関係を示すグラフである。
【図3】水素濃度40%又は100%で熱処理したPtFeカーボン触媒の透過型電子顕微鏡像である。(a)熱処理前、(b)水素濃度40%、(c)水素濃度100%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金合金担持カーボンの形態の燃料電池用担持触媒の製造方法であって、該白金合金がPt及びFeを含み、白金合金の粒子化がポリオールによる還元作用を利用して行われ、該粒子化における保護配位子が脂肪族カルボン酸及び脂肪族アミンを含み、該保護配位子の除去が水素濃度4〜40%の水素雰囲気下での300〜500℃、30分間〜2時間の熱処理により行われる上記方法。
【請求項2】
前記保護配位子が、オレイン酸及びオレイルアミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記担持触媒が固体高分子型燃料電池の酸素極用電極のための触媒である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により製造される担持触媒。
【請求項5】
請求項4に記載の担持触媒を含む電極を備えた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−146980(P2010−146980A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326037(P2008−326037)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】