説明

計測装置、及び計測方法

【課題】本発明の目的は、光学調整をすることなく、基板交換時に発生する照明領域の移動を最大でも計測視野内に抑え込み、全反射照明計測における操作性を向上させることに関する。
【解決手段】本発明は、水平な基準面に対して基板を押し付けることにより、基板の厚さ変化による計測視野内における照明領域の移動を除去することに関する。本発明によれば、基板の厚さ変化による計測視野内における照明領域の移動を除去することができ、煩雑な光学調整が不要となり、高価なXYZステージなどの駆動部を削減できる。従って、全反射照明装置の操作性が向上し、装置の低価格化も可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全反射照明技術に関し、例えば、DNAやRNAなどの核酸の塩基配列を解読するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年から2005年の間に30億ドルの予算を投じたヒトゲノム計画では、解読が最も容易な部分(全体の93%)を予定よりも2,3年早く読み取ることができ、「Nature Reviews,vol5,pp335,2004(非特許文献1)」にみられるように解読に必要な技術や方法を遺産として残した。そうした技術はその後もさらに改良が進み、今日では約2000万ドル($2×107)程度で、実用に耐えられる精度でのゲノム解読が可能となった。それでもなお、この金額では、大規模な塩基配列解読ができるのは、専門の解読センターか、巨額の予算を得た大きな研究プロジェクトに限られる。しかし、配列決定のコストが下がれば、より大量のゲノムを多数扱うことができる。例えば、患者と健常者のゲノムの比較が可能となり、結果としてゲノム情報の価値の向上が期待できる。「ヒトゲノム完全解読から「ヒト」理解へ、pp253、服部正平、東洋書店、2005(非特許文献2)」にみられるように、このような基礎的データの取得は、将来のテーラーメード医療への発展に大きく寄与することが予想される。
【0003】
上述した状況の下、米国立衛生研究所(NIH)が資金援助している「革新的ゲノム配列決定技術」のための2つのプログラムは、2009年までにヒトゲノム解読1人分で10万ドル($1×105)、そしてそれを2014年までに1000ドル($1×103)にすることを目標としている。いわゆる「1000ドルゲノム」解読技術の開発である。
【0004】
既に、「Nature, vol.449, pp627, 2007(非特許文献3)」にみられるように、いくつかの次世代シーケンサが商品化されている。これらの技術は、既に、従来技術の1/10〜1/100のコストを達成している。また、1回の解析により計測可能な塩基数も109オーダーを達成している。しかしながら、これらのシーケンサのコスト面での向上はほぼ頭打ちであり、既に商品化されている装置や方式による$1000ゲノムの達成は困難と予想されている。
【0005】
また、現在市販されている次世代シーケンサは109程度までの塩基配列を解読できるものの、109程度の大量なデータの配列解読のランタイムのみで2,3日以上の時間を要している。医療現場において個人レベルのゲノム配列解読がルーチンワークとなるためには、コストのみならず、配列解読の高速化も必要となる。
【0006】
このような状況の中で期待されている有力なシーケンス技術の1つが、単分子リアルタイムシーケンス法である。酵素反応の現場を直接単分子レベルでリアルタイム計測する方法である。単分子リアルタイムシーケンス法では塩基の伸張が行われる実時間で蛍光検出を行う。従って、塩基配列解読の速度が飛躍的に向上する。また、単分子リアルタイム計測ではPCRによる試料の増幅が不要となり、コストの大幅な削減も可能となる。従って、1000ドルゲノムの達成について、単分子リアルタイムシーケンス法は最も有望視されている技術の1つである。
【0007】
「Next-Generateion Sequencing: Scientific and Commercial Implications of the $1,000 Genome, Kevin Davies, pp41, Insight Pharma Reports(非特許文献4)」では、単分子リアルタイム計測として、ドナー蛍光体で修飾されたポリメラーゼを基板に固定し、核酸の伸張反応に伴うアクセプターヌクレオチドへのエネルギー蛍光移動を計測している。
【0008】
また、細胞内で進行する様々なバイオロジカルプロセスを制御し、リアルタイムで解析する技術としてケージド化合物を挙げることができる。ケージド化合物とは、生理活性分子を光分解性保護基で修飾して一時的にその活性を失わせたものの総称である。生理活性を檻(cage)に入れて眠らせた分子という意味でケージド化合物(caged compounds)という名称が付いている。ケージド化合物にその化合物に最適な波長の光を照射すると、光を当てた瞬間に、当てた場所のみ保護基が外れ、もとの生理活性が発現することになる。つまり、時間的・空間的にダイナミクスな光の照射による化学反応の制御が可能となる。特表2006−503586号公報(特許文献1)、及び米国特許出願公報2007/0059692号明細書(特許文献2)においては、オリゴヌクレオチドのプールを作製するためにケージド化合物を用いている。ただし、この手法は逐次反応を用いており、末端に結合するケージド化合物を反応に伴って順次分解していく方法である。従って、この方法は、リアルタイムでの解析には用いられていない。また、この手法の対象は多分子であり、単分子ではない。
【0009】
また、特開2009−045057号公報(特許文献3)では、全反射照明計測を用いた単分子シーケンス法が開示されている。ここでは、集光レンズとプリズムを用いて基板にレーザを照射し、基板上でレーザを全反射させ、基板上の単分子を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2006−503586号公報
【特許文献2】米国特許出願公報2007/0059692号明細書
【特許文献3】特開2009−045057号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Nature Reviews,vol5,pp335,2004
【非特許文献2】ヒトゲノム完全解読から「ヒト」理解へ、pp253、服部正平、東洋書店、2005
【非特許文献3】Nature, vol.449, pp627, 2007
【非特許文献4】Next-Generateion Sequencing:Scientific and Commercial Implications of the $1,000 Genome, Kevin Davies, pp41, Insight Pharma Reports
【非特許文献5】P.N.A.S. 2006,vol. 103,pp 19635-19640
【非特許文献6】P.N.A.S. 2008,vol. 105,pp 1176-1181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明者が全反射照明計測を用いた単分子シーケンス技術について鋭意検討した結果、次の知見を得るに至った。
【0013】
全反射照明計測の課題として、操作性の悪さが挙げられる。従来の全反射照明計測では、全反射照明される基板を交換した時に、基板の厚さ変化によって照明領域が移動する可能性がある。この場合、正常な計測を行うためには、全反射照明するためのプリズムや集光レンズを調整し、移動した照明領域を計測視野内に再び移動させる必要がある。この調整を手動で実施すると、計測者の負担が大きい。特に、装置の操作方法に熟練していない計測者にとって計測が困難となる。この問題を克服するために、XYZステージを用いることにより照明領域を調整する方法が考えられる。しかし、この方法は、装置全体のコストを大幅に増大させる。また、XYZステージは、ボールネジにグリースを定期的に塗布する必要があるため、メンテナンスの負担も大きくなる。また、XYZステージなどの駆動部分の導入は、故障などのトラブルも引き起こすリスクがある。従って、XYZステージなどの駆動部分を用いることなく、基板交換時に計測視野内の照明領域が移動しない全反射照明装置が求められている。
【0014】
本発明の目的は、光学調整をすることなく、基板交換時に発生する照明領域の移動を最大でも計測視野内に抑え込み、全反射照明計測における操作性を向上させることに関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、水平な基準面に対して基板を押し付けることにより、基板の厚さ変化による計測視野内における照明領域の移動を除去することに関する。
【0016】
例えば、プリズムと基板を一体で保持したプリズムユニットにより、基板下面とプリズム上面の距離を一定に保ち、かつ基板とプリズムを平行に保持する。厚みの異なる基板を計測する場合、基板を保持したプリズムユニットを基準面に押し付けることにより、プリズムの位置は基板の厚み変化分垂直方向に移動する。レーザ光は、プリズムに対して90°で入射するため、プリズムの垂直移動方向に依存せず、空気−プリズム界面で屈折しないで直進する。結果として、基板の厚みが変化してもレーザの光路は同一となり、計測視野内の照明視野の移動を除去できる。尚、好ましくは、プリズム,基板、及びカップリング剤の屈折率は同一あるいはほぼ等しくする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基板の厚さ変化による計測視野内における照明領域の移動を除去することができ、煩雑な光学調整が不要となり、高価なXYZステージなどの駆動部を削減できる。従って、全反射照明装置の操作性が向上し、装置の低価格化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1におけるプリズムと基板を一体保持するプリズムユニットの説明図。
【図2】実施例2におけるプリズムユニットへの基板の装着法についての説明図。
【図3】実施例3におけるプリズムと基板を一体保持するプリズムユニットの説明図。
【図4】実施例4におけるプリズムと基板を一体保持するプリズムユニットの説明図。
【図5】実施例5におけるプリズムと基板を一体保持するプリズムユニットの説明図。
【図6】実施例6におけるプリズムに対するレーザ光の90°入射の説明図。
【図7】実施例7における核酸分析デバイスの説明図。
【図8】実施例7における核酸分析装置の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施例では、試料を保持できる基板と、プリズムと、光源と、検出器と、を備え、計測装置に設けられた基準面に基板表面を押し付けて基板を固定し、プリズムを介して光源からの光を基板に照射し、試料が保持された基板表面において全反射させ、当該全反射照明により生じた光を検出器により検出する計測装置を開示する。
【0020】
また、実施例では、試料を保持できる基板と、プリズムと、光源と、検出器と、検出器に対して所定の位置関係を保つ基準面と、当該基準面に基板表面を押し付ける基板固定器具と、を備え、プリズムを介して前記光源からの光を基板に照射し、試料が保持された基板表面において全反射させ、当該全反射照明により生じた光を検出器により検出する計測装置を開示する。
【0021】
また、実施例では、計測装置に設けられた基準面に基板表面を押し付けて、試料を保持できる基板を計測装置に固定し、プリズムを介して光源からの光を前記基板に照射し、試料が保持された基板表面において全反射させ、当該全反射照明により生じた光を検出器により検出する計測方法を開示する。
【0022】
また、実施例では、プリズムを基板に押し付ける計測装置及び計測方法を開示する。また、基板固定器具が、プリズムを基板に押し付けることを開示する。
【0023】
また、実施例では、液体のカップリング剤を介してプリズムを基板に押し付ける計測装置及び計測方法を開示する。また、プリズムと基板の間に液体のカップリング剤が存在することを開示する。
【0024】
また、実施例では、弾性体の復元力を用いてプリズムを基板に押し付ける計測装置及び計測方法を開示する。また、基板固定器具が、プリズムを基板に押し付ける弾性体を含むことを開示する。
【0025】
また、実施例では、スペーサを介してプリズムを基板に押し付ける計測装置及び計測方法を開示する。また、プリズムと基板の間にスペーサが存在することを開示する。
【0026】
また、実施例では、固体のカップリング剤を介してプリズムを基板に押し付ける計測装置及び計測方法を開示する。プリズムと基板の間に固体のカップリング剤が存在することを開示する。
【0027】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について図面を参酌して説明する。尚、各実施例は適宜組合せ可能であり、当該組合せ形態も本明細書では開示している。
【実施例1】
【0028】
図1を用い、基準面を用いた全反射照明による蛍光測定法について、以下に説明する。
【0029】
本実施例の全反射照明装置においては、光透過性を持つ基板105上面における特定の領域に蛍光体106が固定されている。蛍光体106から発する蛍光をレーザ光104の全反射照明により測定するためには、レーザ光104をプリズム103に垂直に入射させ、カップリング剤111,基板105下面を経て、基板105上面で全反射照明を行う。基板105上面におけるレーザ光104の入射角は臨界角以上である。レーザ光104は、基板105上面の蛍光体106を励起し、生じた蛍光は、対物レンズ101を経て集光される。目的となる蛍光体106を計測視野内で観察するためには、対物レンズ101の光軸112とレーザ光104の交点に蛍光体106を位置出しする必要がある。
【0030】
しかしながら、異なる基板108の厚さは一定ではなく、ばらつきを持つ。従って、基板105を交換して蛍光体106を観察する場合、以下の問題が発生する。例えば、(1)で示すように、交換後の基板108が交換前の基板105よりも厚くなった場合、全反射照明が発生する照明領域は光軸131よりも左へずれてしまう。同様に、基板105より基板108の厚さが薄くなった場合、照明領域が右へずれる。基板105の厚み変化が大きい場合、すなわち照明領域の移動が大きい場合には、照明領域が計測視野外に移動してしまい、計測が不可能となる。より具体的には、基板105の厚さの変化を50μm、レーザ光121の基板105上面への入射角を69°とすると、照明領域は50μm×tan69°=135μmも移動してしまう。仮に、計測視野の大きさを100μm角とすると、照明領域が計測視野外に移動してしまい、計測不能となる。この照明領域の移動を防止する方法として基板の厚さ変化を押さえ込むことが考えられるが、異なる基板間における厚さのばらつきをμmオーダーレベルで完全に無くすことは困難であり、現実的な解決策ではない。
【0031】
また、(2)に示されるように、現状の全反射照明計測においては、計測毎にプリズム113を洗浄し、所定のプリズムホルダにプリズムを固定する。その際、プリズム113上面と基板114下面との間隔が一定ではない可能性がある。これにより、カップリング剤109の厚さが変化し、レーザ光116が通過する光路長が変化する。結果として、照明領域が移動してしまうという問題が発生する。また(3)に示すように、プリズム110が基板117に対して平行に保持されていないと、レーザ光が、空気−プリズム界面で大きく屈折してしまい、照明領域が移動してしまうという問題も発生する。(2),(3)の問題は、プリズム109,110と基板114,117がそれぞれ独立に保持されているために生じる問題である。
【0032】
本実施例では、上記(1),(2),(3)において生じる問題を次のように解決する。水平な基準面102に対して基板105を押し付けることにより、基板105の厚さ変化による照明領域の移動を除去することができる。より具体的には、プリズム103と基板105を一体で保持したプリズムユニット107により、基板105下面とプリズム103上面の距離を一定に保ち、且つ、基板105とプリズム103を平行に保持する。厚みの異なる基板105を計測する場合、基板105を保持したプリズムユニット107を基準面102に押し付けることにより、プリズムの位置は基板の厚み変化分垂直方向に移動する。レーザ光104は、プリズム103に対して90°で入射するため、プリズム103の垂直移動方向に依存せず、空気−プリズム界面にて屈折することなく直進する。結果として、基板105の厚みが変化してもレーザの光路は同一となり、照明視野の移動を除去することができる。
【0033】
上述した手順により、(1)における基板105の厚さばらつきに対しては、基板105上面を基準面102に押し当てることにより、基板105上面が光軸112とレーザ光104の交点に常に位置出しされるようになる。これにより、理想状態においては、照明視野の位置ずれは発生しない。また、位置ずれが発生する場合も、基準面102がない場合と比較して位置ずれを大幅に低減することが可能となる。これにより、基板105の交換時においても、照明領域が計測視野内の同一位置に留まる、或いは照明領域の移動量を低減するという効果をもたらす。(2)については、基板105とプリズム103を一体として保持するプリズムユニット107を用いることにより、両者の間隔を一定に保つことが可能となる。(3)については、プリズム110及び基板117を平行度よく保持するプリズユニット107を用いることにより、照明領域の移動を抑制することが可能となる。
【0034】
なお、基板105,カップリング剤111、及びプリズム103の屈折率は同一、或いは近い値であることが望ましい。具体例の一つとしては、基板105、及びプリズム103の素材を合成石英(屈折率1.46)とし、カップリング剤111の素材をグリセロール(屈折率1.47)とする例を挙げることができる。屈折率が完全に同一であれば、プリズム103,カップリング剤111、及び基板105をレーザ光104が通過する際に屈折は起こらず、レーザ光104は直進する。従って、基板105の厚さが増加する場合はカップリング剤111の厚さが減少することになるが、これらの厚み変化の影響を受けずに照明領域は同一の位置に留まる。
【0035】
また、レーザ光104のプリズム103に対する入射角度は90°とする。理由は後に詳述するが90°入射によってプリズムの水平方向の位置ずれ、及びプリズム103の垂直方向の位置ずれによる影響を除去することが可能となるからである。
【実施例2】
【0036】
本実施例では、図2を用いて、基準面を用いた全反射照明装置における基板装着法について説明する。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0037】
基板交換時における照明領域の移動を除去あるいは抑制するためには、対物レンズ201の光軸203とレーザ光204が交わる交点205と、基板208上の蛍光体209と、の位置を一致させる必要がある。
【0038】
これを達成するため、プリズム206上にカップリング剤207を滴下し、基板208をプリズムユニット210に設置する。これにより、基板208とプリズム206の間はカップリング剤207で満たされる。基板208とプリズム206は、プリズムユニット210で一体化された状態で保持される。プリズムユニット210を上方に移動させ、基準面202に押し付ける。基準面202は高精度に水平状態が出ている。これにより、交点205に対して基板208上の蛍光体209の位置を一致させることが可能となる。従って、理想状態では、計測視野内において照明領域の移動が発生しない。また、実際の計測においても、照明領域の移動を抑制することが可能となる。
【実施例3】
【0039】
本実施例では、図3を用いて、基板を押し付ける機構を有するプリズムユニットについて説明する。以下、実施例1及び2との相違点を中心に説明する。
【0040】
本実施例では、実施例2とは異なり、プリズム302の下には、プリズム302を基板305に対して押し付けるための機構301が存在している。機構301は、バネやスポンジなどを用いて基板305を押し付ける。機構301により、プリズム302を介して基板305は基準面304に押し付けられる。基準面304は、高い平行度を持つため、機構301の押し付けにより、プリズム302が持つ平行度の公差を除去することができる。結果として、基板305およびプリズム302も高い平行度を達成する。なお、基板305とプリズム302の間のカップリング剤303は、プリズム302の押し付けによりプリズム302と基板305の境界で広がる。従って、カップルリング剤303は微量であることが望ましい。プリズム302と基板305との間の距離が機構301の押し付けにより殆どゼロである点が、実施例2との大きな違いである。
【実施例4】
【0041】
本実施例では、図4を用いて、基板を押し付ける機構、及び基板とプリズム間の間隔を保持するためのスペーサを有するプリズムユニットについて説明する。以下、実施例1〜3との相違点を中心に説明する。
【0042】
本実施例では、実施例3と同様に、プリズム402の下には、プリズム402を基板405に対して押し付けるための機構403が存在している。機構403により、プリズム402、及びスペーサ401を介して、基板405は基準面404に押し付けられる。基準面404は高い平行度を持つため、機構403の押し付けにより、基板405、及びプリズム402も高い平行度を達成する。なお、基板405とプリズム402の間の距離はスペーサ401が存在するため一定の距離に保たれる。本実施例の特徴は、基板405とプリズム402の間隔をスペーサ401により一定に保ちながらも、機構403の押し付けにより、基準面404に対する基板405とプリズム402の高い平行度を出す点にある。
【実施例5】
【0043】
本実施例では、図5を用いて、通常溶液であるカップリング剤を固体であるシリコンラバーで代用したプリズムユニットについて説明する。以下、実施例1〜4との相違点を中心に説明する。
【0044】
カップリング剤は、通常、グリセロールなどの液体が用いられるが、これらのカップリング剤は液体である。そのため、プリズム503のレーザ光504の入射面にカップリング剤が流れ出る可能性がある。その場合には、プリズムユニット505からプリズム503を外して超純水でカップリング剤を洗い流した後、プリズム503を乾燥させ、再びプリズム503をプリズムユニット505に装着する必要がある。この作業は煩雑であり、且つ、視野内に照明領域を出すための調整も必要である。これらの作業は操作性を著しく低下させる。本実施例では、液体のカップリング剤の代用として、固体であるシリコンラバー501を用いた。上記実施例と同様に、基板502に対してプリズムユニット505を上方に押し付けることにより、照明領域を移動させることなく計測を行うことが可能となる。本実施例の利点は、液体のカップリングの代用として固体のシリコンラバー501を用いることにより、操作性を大幅に向上できる点にある。
【実施例6】
【0045】
本実施例では、図6を用いて、プリズムに対するレーザ光の垂直入射について説明する。以下、実施例1〜5との相違点を中心に説明する。
【0046】
(1)に示されるように、レーザ光605は、プリズム601の入射面に対して90°の角度で垂直入射する。この状態からプリズム601が水平方向に位置ずれしたとしても、プリズム601,カップリング剤602、及び基板603の屈折率は一定であるため、レーザ光605は直進する。従って、位置ずれが発生した場合においても、蛍光体604は計測視野内の同一位置に留まり、照明視野は移動しない。同様に、(2)では、プリズム611が垂直方向に位置ずれした場合である。この場合においても、レーザ光615は直進するため、計測視野内の照明領域は移動しない。従って、プリズムの水平及び垂直方向の位置ずれに影響されない安定した計測が可能となる。
【実施例7】
【0047】
本実施例では、核酸分析デバイス、及び核酸分析装置について説明する。以下、実施例1〜6との相違点を中心に説明する。
【0048】
図7に、核酸分析デバイスの概要を示す。支持基体701の上に、金属体が格子状に配置されている領域702が複数搭載されている。金属体は、近接した二つの金属体の間にプローブを固定した構造体が該当する。配置の間隔は、解析しようとする核酸試料,蛍光検出装置の仕様によって適切に設定できる。例えば、25mm×75mmのスライドガラスを支持基体501とし、1マイクロ・メートル間隔で格子状に金属構造体を配置した領域702を5mm×8mmとすると、1領域当たり4000万種類の核酸分子を解析でき、その領域を8個程度、支持基体701上に搭載することができる。したがって、例えば、RNAの発現解析に用いる場合には、一細胞当たり約40万分子のRNAが発現していることから、RNAの発現頻度解析をデジタルカウンティングのように十分正確に行うことができ、一枚の基板上で8解析程度行うことができる。
【0049】
本実施例では、流路704を予め設けた反応チャンバー703に、光透過性の支持基体701を押し当てることにより、複数の反応領域を支持基体501の上に設ける。反応チャンバー703には、流路704の溝を予め掘ってあり、デバイス上に張り合わせて使用することになる。具体的に述べると、核酸試料,反応酵素,バッファー,ヌクレオチド基質などを保存・温度管理する温調ユニット705,反応液を送り出す分注ユニット706,液の流れを制御するバルブ707,廃液タンク708から構成される。必要に応じ、温調機を配置し、温度制御を行う。反応開始前に流路704を通じて洗浄液を供給することにより、支持基体上を洗浄することもできる。支持基体上を除去した洗浄液は廃液タンク708に収納される。
【0050】
図8に、核酸分析デバイスが装着される核酸分析装置の概要を示す。本装置では、核酸分析デバイスに対して、ヌクレオチド,蛍光色素を有するヌクレオチド,核酸合成酵素,プライマ、及び核酸試料からなる1種類以上の生体分子を供給する手段と、前記核酸分析デバイスに光を照射する手段と、前記核酸分析デバイス上において前記ヌクレオチド,前記核酸合成酵素、及び前記核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する蛍光検出手段とを備える。より具体的には、カバープレート801と検出窓802と溶液交換用口である注入口803と排出口804から構成される反応チャンバーに前記核酸分析デバイス805を設置する。なお、検出窓802の厚さは0.17mmとする。YAGレーザ光源(波長532nm,出力20mW)806、及びYAGレーザ光源(波長355nm,出力20mW)807から発振するレーザ光808及び809を、レーザ光809のみをλ/4板810によって円偏光し、ダイクロイックミラー811(410nm以下を反射)によって、前記2つのレーザ光を同軸になるよう調整した後、レンズ812によって集光し、その後、プリズム813を介して核酸分析デバイス805へ臨界角以上で照射する。伸長反応時に取り込まれた蛍光体はレーザ光により励起され、その増強された蛍光の一部は検出窓802を介して出射される。また、検出窓802より出射される蛍光は、対物レンズ814(×60,NA1.35,作動距離0.15mm)により平行光束とされ、光学フィルタ815により背景光及び励起光が遮断され、結像レンズ816により2次元CCDカメラ817上に結像される。
【0051】
尚、支持基体701に特に制限はなく、プラスチック,無機高分子,金属,天然高分子、及びセラミックから選ばれる1種又は2種以上の材料を用いることができる。プラスチックとしては、ポリエチレン,ポリスチレン,ポリカーボネート,ポリプロピレン,ポリアミド,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,ポリカルボジイミド樹脂,ポリ塩化ビニル,ポリフッ化ビニリデン,ポリフッ化エチレン,ポリイミド及びアクリル樹脂などを例示することができる。無機高分子としては、ガラス,水晶,カーボン,シリカゲル、及びグラファイトを例示することができる。金属としては、金,白金,銀,銅,鉄,アルミニウム,磁石などの常温固体金属を例示することができる。セラミックとしては、サファイア,アルミナ,シリカ,炭化ケイ素,窒化ケイ素、及び炭化ホウ素などを例示することができる。特に、光透過性に優れ、基材界面の平坦性が高く、且つ、平坦性を保持しやすい石英,水晶,BK−7やSF−2などの各種光学ガラス,サファイアなどが好ましい。
【0052】
また、プライマや核酸合成などのプローブが固定しやすい様に、支持基体701表面に適当な官能基を導入しても良い。この様な官能基としては、アミノ基,チオール基,カルボキシル基,ヒドロキシル基,アルデヒド基,ケトン基などが挙げられる。これらの官能基を導入する方法としては、支持基体701上に適当な酸化物を導入した後、カルボン酸,ホスホン酸,リン酸エステル,有機シラン化合物を反応する方法が挙げられる。また、支持体表面上に、金,銀,水銀,インジウム,パラジウム,ルテニウム,亜鉛などの貴金属を導入した後、有機硫黄化合物,有機セレン化合物、または、有機テルル化合物などを反応させる方法も挙げられる。さらに、プローブを固定するための反応効率を高める手法として、二価性の化合物を用いて、NHS−エステル基,イミドエステル基,スルフィジル基,エポキシ基,ヒドラジド基などの官能基を導入しても良い。これらの支持体最表面に導入された官能基に対して、アミノ基,チオール基,ビオチン基などで修飾されたプローブを供給することで支持基体701上に効果的にプローブを固定化することができる。また、アビジン,デンドロン,クラウンエーテルなどの化合物を介して、プローブを固定しても良い。
【0053】
プローブについても、測定対象の核酸試料を補足できるものであれば特に制限はない。核酸試料を直接補足できる様なプローブとしては、DNA,RNA,PNAなどの核酸、または、酵素などのタンパク質が挙げられる。また、染色体,核様体,細胞膜,細胞壁,ウイルス,抗原,抗体,レクチン,ハプテン,レセプター,ペプチド,スフィンゴ糖,スフィンゴ脂質などを介して、核酸試料を捕捉しても良い。
【0054】
逐次反応方式の場合には、蛍光色素付きヌクレオチドとして、「P.N.A.S. 2006,vol. 103,pp 19635-19640(非特許文献5)」に開示されているような、リボースの3′OHの位置に3′−O−アリル基を保護基として入れ、また、ピリミジンの5位の位置にあるいはプリンの7位の位置にアリル基を介して蛍光色素と結びつけたものが使用できる。アリル基は光照射あるいはパラジウムと接触することにより切断されるため、色素の消光と伸長反応の制御を同時に達成することができる。逐次反応でも、未反応のヌクレオチドを洗浄で除去する必要はない。
【0055】
さらに、本実施例では、「P.N.A.S. 2008,vol. 105,pp 1176-1181(非特許文献6)」に開示されているような、洗浄工程が必要ないことからリアルタイムで伸長反応を計測することも可能である。上記のように、本実施例の核酸分析デバイスを用いて核酸分析装置を組上げることでにより洗浄工程を入れることなく、解析時間の短縮化,デバイス及び分析装置の簡便化が図れる。逐次反応方式のみならず、リアルタイムで塩基の伸長反応を計測することも可能となり、従来技術に対して大幅なスループットの改善が図れる。
【符号の説明】
【0056】
101,201,814 対物レンズ
102,202,304,404 基準面
103,206,302,402,601,813 プリズム
104,116,121,204,605,808,809 レーザ光
105,108,114,117,208,305,405,502,603 基板
106,209,604,614 蛍光体
107,210,306,406,505 プリズムユニット
111,207,303,407,602,612 カップリング剤
112,131,203 対物レンズの光軸
115 基板とプリズムの間隔
205 レーザ光と対物レンズの光軸との交点
702 領域
703 反応チャンバー
704 流路
705 温調ユニット
706 分注ユニット
707 バルブ
708 廃液タンク
801 カバープレート
802 検出窓
803 注入口
804 排出口
805 核酸分析デバイス
806 YAGレーザ光源(波長532nm,出力20mW)
807 YAGレーザ光源(波長355nm,出力20mW)
810 λ/4板
811 ダイクロイックミラー
812 レンズ
815 光学フィルタ
816 結像レンズ
817 2次元CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持できる基板と、プリズムと、光源と、検出器と、を備え、前記プリズムを介して前記光源からの光を前記基板に照射し、試料が保持された基板表面において全反射させ、当該全反射照明により生じた光を前記検出器により検出する計測装置において、
計測装置に設けられた基準面に前記基板表面を押し付けて前記基板を固定することを特徴とする計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の計測装置において、
前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測装置。
【請求項3】
請求項1記載の計測装置において、
液体のカップリング剤を介して前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測装置。
【請求項4】
請求項1記載の計測装置において、
弾性体の復元力を用いて前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測装置。
【請求項5】
請求項1記載の計測装置において、
スペーサを介して前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測装置。
【請求項6】
請求項1記載の計測装置において、
固体のカップリング剤を介して前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測装置。
【請求項7】
試料を保持できる基板と、プリズムと、光源と、検出器と、を備え、前記プリズムを介して前記光源からの光を前記基板に照射し、試料が保持された基板表面において全反射させ、当該全反射照明により生じた光を前記検出器により検出する計測装置において、
前記検出器に対して所定の位置関係を保つ基準面と、
当該基準面に前記基板表面を押し付ける基板固定器具と、を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項8】
請求項7記載の計測装置において、
前記基板固定器具が、前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測装置。
【請求項9】
請求項7記載の計測装置において、
前記プリズムと前記基板の間に液体のカップリング剤が存在することを特徴とする計測装置。
【請求項10】
請求項7記載の計測装置において、
前記基板固定器具が、前記プリズムを前記基板に押し付ける弾性体を含むことを特徴とする計測装置。
【請求項11】
請求項7記載の計測装置において、
前記プリズムと前記基板の間にスペーサが存在することを特徴とする計測装置。
【請求項12】
請求項7記載の計測装置において、
前記プリズムと前記基板の間に固体のカップリング剤が存在することを特徴とする計測装置。
【請求項13】
計測装置に設けられた基準面に基板表面を押し付けて、試料を保持できる基板を計測装置に固定し、
プリズムを介して光源からの光を前記基板に照射し、試料が保持された基板表面において全反射させ、
当該全反射照明により生じた光を検出器により検出する計測方法。
【請求項14】
請求項13記載の計測方法において、
前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測方法。
【請求項15】
請求項13記載の計測方法において、
液体のカップリング剤を介して前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測方法。
【請求項16】
請求項13記載の計測方法において、
弾性体の復元力を用いて前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測方法。
【請求項17】
請求項13記載の計測方法において、
スペーサを介して前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測方法。
【請求項18】
請求項13記載の計測方法において、
固体のカップリング剤を介して前記プリズムを前記基板に押し付けることを特徴とする計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−276489(P2010−276489A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129792(P2009−129792)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】