説明

計測装置

【課題】面発光型半導体レーザによる自己結合効果を利用して測定対象物の状態変化を検出する計測装置を提供する。
【解決手段】センサ100は、光軸から第1および第2の放射角で第1および第2のレーザ光L1、L2をそれぞれ出射する1次シングルモードのVCSEL110と、VCSELを駆動する駆動回路と、VCSELから出射された第1および第2のレーザ光を測定対象物Sに照射したとき、測定対象物Sからの戻り光によって生じる自己結合効果によるインピーダンス変動を検出するインピーダンス変動検出回路120と、検出されたインピーダンスの周波数成分を分析する周波数成分分析回路130と、分析結果に基づき測定対象物Sの距離、速度および移動方向を算出する距離・速度算出回路140とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザを用いて非接触で物体の位置や速さを高精度で検知する計測装置が利用されている。これらの計測装置には、自己結合効果または自己混合効果と呼ばれる、物体で反射または散乱された戻り光による半導体レーザの振る舞いを応用したものが知られている。自己結合効果とは、レーザの戻り光または反射光がレーザ媒体中で増幅され、結果的にレーザ発振状態が変調を受けることである。
【0003】
特許文献1は、2つの半導体レーザを用いた光学計測装置に関し、シートに向かってビームを放射し、シートの移動によって起きるダイオードレーザの自己結合効果とビームのドップラー偏移を用いてシートの移動を測定している。特許文献2は、半導体レーザからのレーザ光をハーフミラーによって2分割し、分割されたレーザ光の戻り光によるビート波を検出し、位置、角度および速度を測定している。特許文献3は、分岐路を有する光導波路を利用してレーザ光を分割し、対象物によって散乱されたレーザ光をレーザダイオードに導き、フォトダイオードによって光強度のドップラー変位周波数で変動する交流成分を検出し、交流成分と2つのレーザ光の照射角度の差から物体の速度を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開表2004−513348号公報
【特許文献2】特開平11−287860号公報
【特許文献3】特開2002−350544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡易な構成で測定対象物の状態変化を検出することができる面発光型半導体レーザを用いた計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る計測装置は、光軸から複数のレーザ光を出射する1次あるいは高次のシングルモードの面発光型半導体レーザ素子と、前記面発光型半導体レーザ素子を駆動する駆動手段と、前記面発光型半導体レーザ素子から出射されたレーザ光を測定対象物に照射したとき、測定対象物の戻り光によって生じる電気信号を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された電子信号に基づき少なくとも測定対象物の移動方向を算出する算出手段とを有する。
請求項2において、前記検出手段は、面発光型半導体レーザ素子のインピーダンス変化に対応する前記電気信号を検出する。
請求項3において、前記検出手段は、前記検出された電気信号から、第1および第2のレーザ光に対応する光強度の変動を表す周波数成分を分析する分析手段を含み、前記算出手段は、分析された周波数成分に基づき測定対象物の速度を算出する。
請求項4において、前記算出手段は、第1および第2のレーザ光のそれぞれの放射角θ、測定対象物の移動速度をv、測定対象物の移動方向をa、第1のレーザ光および第2のレーザ光が測定対象物の移動方向となす角をA、Bとしたとき、レーザ光L1の光路方向の速度成分v1とレーザ光L2の光路方向の速度成分v2とを式(1)、(2)から求め、角Aと角Bの関係を式(3)から求め、角度aと角度Aの関係を式(4)から求め、式(1)と(2)から式(5)を求め、式(3)から式(6)を求め、式(5)と(6)から式(7)を求め、式(1)と(7)から式(8)を求め、式(4)と(7)から式(9)を求める。
【0007】
【数1】

【0008】
請求項5において、面発光型半導体レーザ素子は、基板と、基板上に形成された第1導電型の下部半導体多層反射膜と、活性領域と、活性領域上に形成された第2導電型の上部半導体多層反射膜、上部半導体多層反射膜上に形成された電極層とを含み、電極層には、1次モードの第1および第2のレーザ光を出射する出射窓が形成され、当該出射窓には0次モードのレーザ光を遮蔽する遮蔽部が形成されている。
請求項6において、面発光型半導体レーザ素子は、基板と、基板上に形成された第1導電型の下部半導体多層反射膜と、活性領域と、活性領域上に形成された第2導電型の上部半導体多層反射膜、上部半導体多層反射膜上に形成された電極層とを含み、電極層には、1次モードの第1および第2のレーザ光を出射する出射窓が形成され、当該出射窓内の露出された上部半導体多層膜反射膜には0次モードのレーザ光の出射を抑制する溝が形成されている。
請求項7において、面発光型半導体レーザ素子は、850nmの波長の第1および第2のレーザ光を出射し、第1および第2のレーザ光は、測定対象物として血液中のヘモグロビンを照射し、前記算出手段は、血液の速度を算出する。
請求項8に係る血流計測装置は、前記算出手段により算出された血液の速度を表示する表示部を有する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1と2によれば、複数の半導体レーザを使用する場合、または半導体レーザ光と光学系により分岐する場合と比べ、部品の高精度な位置調整を低減することができる。
請求項3によれば、測定対象物の移動方向を算出することができる。
請求項4によれば、測定対象物の移動方向と速度を計算式により容易に算出することができる。
請求項5と6によれば、複数の半導体レーザを使用する場合、または半導体レーザ光と光学系により分岐する場合と比べ、1次あるいは高次のシングルモードを簡易に形成することができる。
請求項7によれば、複数の半導体レーザを使用する場合、または半導体レーザ光と光学系により分岐する場合と比べ、簡易な構成で血流を計測することができる。
請求項8によれば、2つの半導体レーザを使用する場合、および1つの半導体レーザ光を分岐する場合と比べ、部品点数の少ない低コストの血流計測装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例に係る計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すVCSEL装置の構成を示す図である。
【図3】均一コア光ファイバの分散曲線を示す図である。
【図4A】LP01モードの正規化光パワー分布を示す図である。
【図4B】LP11モードの正規化光パワー分布を示す図である。
【図4C】LP21モードの正規化光パワー分布を示す図である。
【図5】本実施例のVCSELの平面図とそのA−A線断面図である。
【図6A】VCSELの出射領域に形成される遮蔽部の他の例を示す図である。
【図6B】VCSELの出射領域に形成されるトレンチ溝の他の例を示す図である。
【図7】トレンチ溝による1次シングルモードのレーザ光を説明する図である。
【図8】本実施例の他のVCSELの平面図とそのB−B線断面図である。
【図9】測定対象物の速度と移動方向を算出する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施例について説明する。図1は、本発明の実施例に係る計測装置の構成を示すブロック図である。本実施例の計測装置100は、1次シングルモードにより2つのビームに分割されたレーザ光を出射するVCSEL(Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser diode)装置110と、測定対象物で反射または散乱された戻り光によって光強度の変調を受けたVCSELのインピーダンス変化を検出するインピーダンス検出回路120と、検出されたインピーダンス変化の周波数成分を分析する周波数成分分析回路130と、分析結果から測定対象物Sまでの距離、速度、移動方向を算出する距離・速度算出回路140とを備えて構成される。これらの回路120、130、140は、1つの集積回路または半導体チップ上に形成することができる。また、計測装置100は、VCSEL装置110とこのような集積回路を包含した1つのパッケージまたはモジュールとして構成することができる。
【0013】
VCSEL装置110は、図2に示すように、1次シングルモードのVCSEL112とVCSEL112を駆動する駆動回路114とを有する。駆動回路114は、一定の周波数を有する三角波または鋸波のような駆動信号を供給し、VCSEL112を駆動する。VCSEL112は、駆動信号の周波数に応答して光強度を周波数変化させた2つのレーザ光を出射する。1次シングルモードは、1つの横モード発振であり、光軸からの広がり角の変動の少ない2つの単峰性のビームに分割されたレーザ光が出射される。1次シングルモードは、VCSELの出射表面、例えば上部半導体多層反射膜のコンタクト層に溝を加工したり、あるいはコンタクト層上に形成される電極パターンの一部を中央に残すことにより、0次モードのレーザ光を抑制しまたは遮蔽して得ることができる。
【0014】
1次シングルモードのVCSELの作製例として、例えば、「IEICE TRANS. ELECTRON., VOL.E85-C, NO.4 APRIL 2002」が知られている。つまり、1次シングルモードVCSELは、共振器のコア径と、それによって決まる発光パターンに対応した電極の出射口(アパーチャ)の口径と形状(基本モードと2次以上のモードが出ないようフィルタリング)に設計することで作製可能である。
【0015】
図3は、一般的に知られている均一コア光ファイバの分散曲線であ。横軸は、正規化周波数ν、縦軸は、正規化変数bで、各モードにおけるνとbの関係が確認できる。例えば、正規化周波数ν=4の時、b=0.8あたりに01モード(基本モード)が存在し、b=0.5あたりに11モード(1次モード)、b=0.1あたりに21モードが存在することがわかる。正規化周波数νは、VCSELの電流狭窄層の酸化領域の屈折率と非酸化領域の屈折率、コア径(非酸化領域の開口径)から求められる(ν=kn1a(2Δ)1/2 Δ:酸化領域と非酸化領域の屈折率差 a:コア半径)。また、正規化変数bは、図4に示すように各モードの発光パワーの閉じ込め具合を示す。
【0016】
例えば、一次シングルモードのVCSELの設計は次のようにして行われる。
1.設計するVCSELの電流狭窄層の材料系を決める。電流狭窄層の材料系が決まることで、酸化領域と非酸化領域の屈折率が物性的に求められる。本実施例のVCSEL112では、後述するように、電流狭窄層としてAlAsを用いるため、AlAsの非酸化領域と酸化領域の屈折率が物性的に決まる。
2.図3に示された分岐曲線から、一次モード(11モード)発振を実現する正規化周波数νと正規化変数bを決める。正規化周波数νが決まると、1.で決めた電流狭窄層の酸化領域と非酸化領域の屈折率からコア径(2a)が求められる。
3.正規化変数bから、存在する各モードの発光パワー分布を知ることができる。本実施例では、1次シングルモードのVCSELを用いるため、11モードの正規化変数bを得る。
【0017】
図4Aは、LP01モードの正規化光パワー分布を示し、(a)は、b=0.9の場合(光エネルギーが比較的よく閉じ込められている状態)、(b)は、b=0.1の場合(遮断状態に近い)を示している。同様に、図4Bは、LP11モード、図4Cは、LP21モードに正規化光パワー分布を示している。例えば図4Bを参照すると、b=0.9では、光軸に対して広がり角または放射角の小さい2つの単峰性のレーザビームが得られ、b=0.1では、広がり角が大きく単峰性ではあるが傾斜がなだらかなレーザビームが得られる。これにより、正規化変数bに応じた光強度のピークの放射角または光軸からの位置を知ることができるため、これに応じた出射電極パターンあるいはトレンチ溝パターンを決定する。
【0018】
図5にVCSELの平面図とそのA−A線断面図を示す。なお、平面図では、分かり易くするために電極層をハッチングで表示している。VCSEL112は、同図に示すように、GaAs基板200上に、n型の下部半導体多層反射鏡(DBR:Distributed Bragg Reflector)202、活性領域204、p型のAlAs層206、p型の上部半導体多層反射鏡208の順で半導体薄膜を積層している。上部多層反射鏡208の最上層は、p型のGaAsからなるコンタクト層210である。
【0019】
上部多層反射鏡208から下部多層反射鏡202の一部に至るまでエッチングにより環状の溝230が形成され、これにより、基板上に円柱状のポストPまたはメサが形成されている。ポストPは、高温の水蒸気下で熱処理され、ポストP内のAlAs層206の周囲には酸化領域206aが形成され、AlAs層206内に酸化領域206aによって囲まれた光閉じ込め兼電流狭窄層が形成される。
【0020】
ポストPの底部、側面および頂部の一部は、層間絶縁膜212によって覆われている。ポストPの頂部の層間絶縁膜212には、円形状のコンタクトホールが形成され、この上からp側の電極層214がコンタクト層210にオーミック接続されている。p側の電極層214の中央には、レーザ光を出射するための円形状の出射窓216が形成され、出射窓216によってコンタクト層210が露出されている。さらに出射窓216の中央の光軸上には、光を遮蔽する円形の遮蔽部218が形成されている。遮蔽部218は、例えば金属から構成されるが、好ましくは電極層214と同一材料から構成され、電極層214に出射窓216を形成するときに同時に形成される。基板200の裏面には、n側の電極層220が形成される。
【0021】
n型の下部半導体多層反射鏡202は、例えば、Al0.9Ga0.1AsとAl0.3Ga0.7Asとを交互に複数の周期で積層し、各層の厚さは、λ/4n(但し、λは発振波長、nは媒質の屈折率)である。活性領域204は、例えば、アンドープ下部Al0.5Ga0.5Asスペーサ層とアンドープ量子井戸活性層とアンドープ上部Al0.5Ga0.5Asスペーサ層とで構成される。p型の上部半導体多層反射鏡208は、例えば、Al0.9Ga0.1AsとAl0.3Ga0.7Asとを交互に複数の周期で積層し、各層の厚さは、媒質内波長の1/4とである。上部半導体多層反射鏡208の最下層には、低抵抗のp型AlAs層206が含まれ、さらに、上部半導体多層反射鏡208の最上部に、例えば、キャリア濃度が1×1019cm-3となるp型のGaAsコンタクト層210が積層される。p側の電極層214は、例えばAuから構成され、n側の電極層220は、例えばAu/Geから構成される。層間絶縁膜212は、例えばSiNxから構成される。
【0022】
ポストPは、下部半導体多層反射鏡202と上部半導体多層反射鏡208により垂直共振器を構成し、p側の電極層214とn側の電極層220に順方向の駆動電流を印加することで、ポストPの出射窓216から約850nmの波長のレーザ光が基板と垂直方向に出射される。また、VCSEL112は1次シングルモードで動作されるため、出射窓216からは2つのレーザ光が出射される。2つのレーザ光は、光軸からそれぞれ等しい拡がり角で出射される。
【0023】
上記したように、1次シングルモードの発光パワー分布は、図4Bに示すように正規化変数bの値によって異なる。bの値が大きいほど、光閉じ込めが強いため、レーザ光の広がり角度は小さくなり、反対に、bの値が小さいほど、レーザ光の広がり角度は大きくなる。正規化変数bからレーザ光の拡がり角が決定されるため、電極層214の出射窓216の開口径(直径)は、1次シングルモードのレーザ光を透過する大きさに設計される。さらに、遮蔽部218は、光軸上に配置され、1次モードのレーザ光を遮蔽することなく、0次モードのレーザ光を遮蔽するように設計される。例えば、電流狭窄層206の材料がAlAsの場合、酸化領域206aによって囲まれた導電領域のコア径を4ミクロン、遮蔽部218の直径を2ミクロンとすることで一次モードのレーザ光が得られる。これにより、出射窓216からは、光軸に対して広がり角の等しい2つのレーザ光が出射される。
【0024】
なお、遮蔽部218は、必ずしもp側電極層214と同一材料で形成される必要はなく、レーザ光を遮蔽することができる他の金属で構成するものであってもよい。さらに遮蔽部218の形状は、必ずしも円形に限らない。例えば、図6Aに示すように、遮蔽部218aは、光軸を通り電極層214の中心を直線状に延びる形状であってもよく、左右に2つの出射窓216aを形成するようにしてもよい。
【0025】
また、1次シングルモードVCSELは、出射領域に遮蔽部を形成する代わりに溝や孔を形成するものであってもよい。図7に示すように、積層された半導体層の出射面の光軸上にトレンチ溝240を形成する。これにより、光強度がガウス分布の0次モードのレーザ光は、トレンチ溝240によって出射が抑制され、出射面からは図示するような強度分布をもつ1次モードのレーザ光が出射される。
【0026】
図8は、このようなトレンチ溝を出射面に形成したVCSELを示している。VCSELは、図8に示すように、出射窓216の中央の光軸上に円形状のトレンチ溝240が形成されている。トレンチ溝240は、0次モードのレーザ光の出射を抑止し、かつ1次モードのレーザ光を透過する大きさに設計される。トレンチ溝240は、例えば集束イオンビーム(FIB)加工装置を用いて出射表面に形成することができる。トレンチ溝240は、例えば直径が1ミクロン、深さが1ミクロンとすることできる。トレンチ溝240の形状は、必ずしも円形に限らず、矩形状であってもよい。さらに、トレンチ溝240aは、図6Bに示すように、光軸上を延在し2つの出射窓216aが分割されるように電極層に到達する形状であってもよい。
【0027】
次に、インピーダンス変動検出回路120について説明する。駆動回路114は、一定周波数の駆動信号でVCSELを駆動する。VCSEL112から出射された2つのレーザ光が測定対象物Sを照射したとき、測定対象物Sで反射または散乱された戻り光がポストPのレーザ媒質内に戻り、レーザ発振状態が変調される。つまり、レーザ光とドップラー変位された戻り光の周波数、または、位相の差により光強度にビート信号が生じ、このビート信号が駆動信号またはVCSELのインピーダンス変化となって表れる。インピーダンス変動検出回路120は、駆動信号に表れるVCSELのインピーダンス変動を検出する。
【0028】
駆動回路114によりVCSELの光強度を変調することで、発振周波数が変化され、発振周波数と測定対象物Sの移動方向と速度によってドップラー変位された戻り光の周波数との差がビート信号となる。なお、測定対象物Sの距離によって生じる発振周波数と戻り光の位相差もビート信号となる。周波数成分分析回路130は、検出されたインピーダンス変化すなわちビート信号の周波数成分を分析し、2つのレーザ光についてのドップラー変位周波数と位相差を求める。周波数成分分析回路130による解析結果は、距離・速度算出回路140へ提供され、距離・速度算出回路140は、測定対象物Sの距離、速度、方向を算出する。
【0029】
次に、測定対象物Sが一箇所で回転し、センサと測定対象物Sの距離が変わらないため、測定対象物Sの回転の速度測定のみを行うような場合(位相差が生じず、ドップラー変位のみが生じる)を例に、距離・速度算出回路140の詳細な測定原理について説明する。図9は、測定原理を説明する図である。1次シングルモードVCSEL112は、光導波路やハーフミラーなどの光学部材を用いることなく、光軸から2方向に分かれたレーザ光L1、L2を出射する。2つのレーザ光L1、L2の光軸に対する放射角(出射角)θは等しい。2つのレーザ光L1、L2は、それぞれ異なる入射角で測定対象物Sに入射する。
【0030】
測定対象物Sが速度vで移動しているとき、2つのレーザ光L1、L2の反射光は、測定対象物Sの移動速度vに応じて異なるドップラー変位を起こす。測定対象物Sからの反射光の一部がそれぞれ入射時の光路を戻ってVCSELに戻る。異なるドップラー変位を起こした戻り光がVCSELの媒質に戻ると、VCSELのインピーダンスや出射光量が変動する。VCSELのインピーダンスや出射光量は、それぞれのドップラー変位に対応した2つの変動成分(周波数成分)を持ち、2つの周波数成分を分析することで、分割されたレーザ光を含む2次元平面上を、どの方向にどれぐらいの速さで測定対象物Sが移動しているのかという速度情報を得ることができる。距離・速度算出回路140はさらに、速度を微分することによって測定対象物Sの加速度を算出したり、速度を積分することで測定対象物Sが回転した距離を算出することも可能である。
【0031】
次に、具体的な測定方法について説明する。既知の値は、θ、v1、v2である。θは、レーザ光L1、L2の光軸との放射角、v1とv2は、測定対象物Sの速度vのレーザ光L1、L2の光路方向の成分である。速度v1とv2は、観測されるレーザ光L1、L2の各光路の戻り光のドップラー変位周波数f1とf2と、v=λ/2πfの関係式から求められる。
【0032】
距離・速度算出回路140によって最終的に求めたい値は、a、vである。aは、光軸に垂直な法線に対する測定対象物Sの移動方向(角度)、vは、測定対象物の速度である。
【0033】
先ず、レーザ光L1の光路方向の速度成分v1と、レーザ光L2の光路方向の速度成分v2とを、式(1)、(2)より求める。
【0034】
【数2】

【0035】
図9に示す角度Aと角度Bは、式(3)によって求められ、角度aと角度Aの関係は、式(4)によって求められる。
【0036】
【数3】

【0037】
式(1)と(2)から、式(5)が求められる。
【0038】
【数4】

【0039】
また式(3)から式(6)が求められる。
【0040】
【数5】

【0041】
式(5)と(6)から式(7)に示す角度Aが求められる。
【0042】
【数6】

【0043】
式(1)と(7)から式(8)に示す測定対象物Sの速度vが求められる。
【0044】
【数7】

【0045】
そして式(4)と(7)から式(9)に示す測定対象物Sの移動方向が求められる。
【0046】
【数8】

【0047】
このような計算式によって、測定対象物Sの速度と移動方向を算出することができる。本実施例によれば、1次シングルモードVCSELを用いることで、放射角が構造上一義的に決定される2つのレーザ光を容易に得ることができ、従来のように、光導波路やハーフミラーなどの部品の高精度な位置調整をなくすことができる。これにより、部品点数が少なく、工数の少ない低コストな計測装置を得ることができる。
【0048】
上記実施例では、1つのVCSELを用いる例を示したが、複数のVCSELをアレイ状にモノリシックに形成し、測定対象物の複数の箇所を計測するようにしてもよい。複数箇所を計測することで、計測の信頼性を改善することができる。
【0049】
上記のように構成された計測装置は、例えば、血液中のヘモグロビンの速度や量を計測する血流計測装置に適用することができる。波長が850nmのレーザ光は、人体の皮膚を透過し、毛細血管中のヘモグロビンを照射し、ヘモグロビンの表面で反射または散乱された光の一部が戻り光として自己結合効果に寄与し、ヘモグロビンの速度や方向を計測することができる。
【0050】
さらに本実施例の計測装置は、血流計測装置以外の移動体の速度計や角度計として利用することができる。また、上記実施例では、850nmの波長のVCSELの例を示したが、これ以外の波長や構造のVCSELであってもよい。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
214:p側の電極層
216、216a:出射窓
218、218a:遮蔽部
240、240a:トレンチ溝
P:ポスト(VCSELの発光部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸から複数のレーザ光を出射する1次あるいは高次のシングルモードの面発光型半導体レーザ素子と、
前記面発光型半導体レーザ素子を駆動する駆動手段と、
前記面発光型半導体レーザ素子から出射されたレーザ光を測定対象物に照射したとき、測定対象物の戻り光によって生じる電気信号を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された電子信号に基づき少なくとも測定対象物の移動方向を算出する算出手段と、
を有する計測装置。
【請求項2】
前記検出手段は、面発光型半導体レーザ素子のインピーダンス変化に対応する前記電気信号を検出する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記検出された電気信号から、第1および第2のレーザ光に対応する光強度の変動を表す周波数成分を分析する分析手段を含み、前記算出手段は、分析された周波数成分に基づき測定対象物の速度を算出する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項4】
前記算出手段は、第1および第2のレーザ光のそれぞれの放射角θ、測定対象物の移動速度をv、測定対象物の移動方向をa、第1のレーザ光および第2のレーザ光が測定対象物の移動方向となす角をA、Bとしたとき、レーザ光L1の光路方向の速度成分v1とレーザ光L2の光路方向の速度成分v2とを式(1)、(2)から求め、角Aと角Bの関係を式(3)から求め、角度aと角度Aの関係を式(4)から求め、式(1)と(2)から式(5)を求め、式(3)から式(6)を求め、式(5)と(6)から式(7)を求め、式(1)と(7)から式(8)を求め、式(4)と(7)から式(9)を求める、請求項1ないし3いずれか1つに記載の計測装置。
【数9】

【請求項5】
面発光型半導体レーザ素子は、基板と、基板上に形成された第1導電型の下部半導体多層反射膜と、活性領域と、活性領域上に形成された第2導電型の上部半導体多層反射膜、上部半導体多層反射膜上に形成された電極層とを含み、前記電極層には、1次モードの第1および第2のレーザ光を出射する出射窓が形成され、当該出射窓には0次モードのレーザ光を遮蔽する遮蔽部が形成されている、請求項1に記載の計測装置。
【請求項6】
面発光型半導体レーザ素子は、基板と、基板上に形成された第1導電型の下部半導体多層反射膜と、活性領域と、活性領域上に形成された第2導電型の上部半導体多層反射膜、上部半導体多層反射膜上に形成された電極層とを含み、電極層には、1次モードの第1および第2のレーザ光を出射する出射窓が形成され、当該出射窓内の露出された上部半導体多層膜反射膜には0次モードのレーザ光の出射を抑制する溝が形成されている、請求項1に記載の計測装置。
【請求項7】
面発光型半導体レーザ素子は、850nmの波長の第1および第2のレーザ光を出射し、第1および第2のレーザ光は、測定対象物として血液中のヘモグロビンを照射し、前記算出手段は、血液の速度を算出する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項8】
前記算出手段により算出された血液の速度を表示する表示部を有する、請求項7に記載の血流計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−160117(P2010−160117A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3976(P2009−3976)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】