説明

計測装置

【課題】半導体レーザの自己結合効果を利用し、被測定物の状態の変化を容易にかつ正確に計測することができる計測装置を提供する。
【解決手段】血流センサーは、被測定物にレーザ光を照射する半導体レーザ素子と、半導体レーザ素子を変調駆動するための駆動信号を半導体レーザ素子に供給する駆動部120と、駆動信号の第1の半周期において、自己結合効果により変調されたレーザ光の強度に対応する第1の電気信号を検出し、駆動信号の第1の半周期と逆位相の第2の半周期において、自己結合効果により変調された第2のレーザ光の強度に対応する第2の電気信号を検出するビート信号検出部132と、第1の電気信号と第2の電気信号の差分を算出する差分算出回路136と、算出された差分に基づき被測定物の状態変化を計測する計測回路138とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザを用いた被測定物の振動、距離、速度などの計測が知られている。例えば、特許文献1は、レーザドップラーによる速度計測を開示している。特許文献2は、振動計測に関する技術を開示されている。
【0003】
上記特許文献1および2のいずれも、レーザの自己結合効果を利用している。レーザの自己結合効果とは、レーザの戻り光または反射光がレーザ媒体中で増幅され、結果的にレーザ発振状態が変調を受けることである。利得の高い半導体レーザでは、出射されたレーザ光の百万分の一以下の強度の戻り光でも、高いSNR(Signal to Noise Ratio)で、戻り光の状態を観測することができる。
【0004】
戻り光がドップラー効果により周波数シフトを受ける、あるいは、被測定物の反射の位置が変わり位相変調を受けた場合は、その変化に対応して自己結合効果によるレーザの発振状態が変化する。この変化を解析することにより、物体の速度や変位を計測することができる。
【0005】
図9は、従来の一般的な振動計測装置の例を示している。同図に示すように、レーザ装置300は、その内部にレーザ素子LDとレーザ出力状態をモニターするレーザ受光素子(フォトディテクタ)PDとを含み、レーザ素子LDからのレーザ光Lは、レンズ310を介して超音波ホーン320によって振動されるキャピラリ330を照射する。レーザ素子LDの発振状態は、キャピラリ330で反射または散乱された戻り光による自己結合効果によって変調される。変調されたレーザ素子LDの発振状態は、受光素子PDによってモニターすることができる。
【0006】
受光素子PDの出力信号をオシロスコープ340に接続したときの観測波形を図10に示す。縦軸に受光素子の出力電圧(V)、横軸に時間(μs)を示している。図からも明らかなように、受光素子PDの出力信号には、約0.2Vの範囲内に周期の短い複数のピークが表れている。これは、キャピラリ330からの戻り光によってレーザ発振状態が変調され、レーザ光の光強度にビート信号が生じていることを示している。
【0007】
被測定物に向けて照射されるレーザ強度をIin、被測定物の反射率をr、レーザの自己結合効率をαとすると、自己結合効果によって変調された強度は、式(4)に示すIoutとなる。ここで、Δωは測定時にレーザ光周波数を変調したときの発振周波数と戻り光の周波数差であり、Ωは物体反射時にドップラー効果による位相シフト量、Δdは被測定物体の変位量、kは入射光の波数ベクトルである。
【0008】
【数3】

【0009】
式(4)により、被測定物体がドップラー効果を受ける、あるいは、変位しているときには、光強度は、cosの関数で振動する。この周波数から被測定物の変位量や速度を算出することができる。
【0010】
【特許文献1】特開平1−233371号公報
【特許文献2】特開平10−9943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、半導体レーザの自己結合効果または干渉縞を利用し、被測定物の状態の変化を容易にかつ正確に計測することができる計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る計測装置は、被測定物にレーザ光を照射する半導体レーザ素子と、半導体レーザ素子を変調駆動するための駆動信号を半導体レーザ素子に供給する駆動手段と、前記駆動信号の第1の半周期において、自己結合効果により変調されたレーザ光の強度に対応する第1の電気信号を検出する第1の検出手段と、前記駆動信号の第1の半周期と逆位相の第2の半周期において、自己結合効果により変調された第2のレーザ光の強度に対応する第2の電気信号を検出する第2の検出手段と、第1の電気信号と第2の電気信号の差分を算出する算出手段と、算出された差分に基づき被測定物の状態変化を計測する計測手段とを有する。
請求項2において、第1の検出手段は、第1の時刻と第2の時刻の光強度の第1の変化量に対応する前記第1の電気信号を検出し、第2の検出手段は、第3の時刻と第4の時刻の光強度の第2の変化量に対応する前記第2の電気信号を検出する。
請求項3において、第1の変化量および第2の変化量は、それぞれ式(1)および(2)によって表される。ここで、Q1、Q2、Q3、Q4はそれぞれ第1、第2、第3、第4の時刻である。また、被測定物に照射されるレーザ光の強度をI(=I+ΔI)としたとき、Iは、レーザ光の基準発振強度、ΔIは、基準発振強度Iからの変調量、rは、被測定物の反射率、αは、レーザ光の自己結合効率、Δωは、半導体レーザ素子から放出されたレーザ光の発振周波数と反射光の周波数差、Ωは、被測定物の反射時のドップラー効果による位相シフト量、Δdは、被測定物の変位量、kは、反射光の波数ベクトルである。
【0013】
【数4】

【0014】
請求項4において、前記算出手段による差分は、式(3)によって表される、請求項3に記載の計測装置。ここで、基準発振強度I>>変調量ΔI、Q2−Q1≒Q4−Q3<<1である。
【数5】

【0015】
請求項5において、前記駆動信号は、鋸波状の駆動電流である。
請求項6において、前記第1および第2の検出手段は、前記駆動手段の前記駆動信号のインピーダンス変化に基づき前記第1および第2の電気信号を検出する。
請求項7において、計測装置はさらに、半導体レーザ素子から放出されたレーザ光の一部を受光する受光素子を含み、前記第1および第2の検出手段は、前記受光素子から出力された受光信号に基づき前記第1および第2の電気信号を検出する。
請求項8に係る計測装置は、被測定物にレーザ光を照射する半導体レーザ素子と、半導体レーザ素子を変調駆動するための駆動信号を半導体レーザ素子に供給する駆動手段と、半導体レーザ素子と被測定物との間に配置され、レーザ光を透過しかつレーザ光の一部を反射する光学部材と、前記駆動信号の第1の周期において、前記光学部材で反射された反射光と被測定物で反射されたレーザ光との干渉縞を検出し、当該干渉縞に対応する第1の電気信号を出力する第1の検出手段と、前記駆動信号の第1の周期と逆位相の第2の周期において、前記光学部材で反射された反射光と被測定物で反射されたレーザ光との干渉縞を検出し、当該干渉縞に対応する第2の電気信号を出力する第2の検出手段と、第1の電気信号と第2の電気信号との差分を算出する算出手段と、算出された差分に基づき被測定物の状態変化を計測する計測手段とを有する。
請求項9において、計測装置はさらに、半導体レーザ素子と被測定物との間にレンズを含む。
請求項10において、前記計測手段は、血液中のヘモグロビンの速度を計測する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1によれば、従来の計測装置と比較して、自己結合効果を利用して被測定物の状態変化を精度良く計測することができる。
請求項2によれば、時間的に逆位相の電気信号を利用して被測定物の状態変化を精度良く計測することができる。
請求項3によれば、自己結合効果による光強度に対応する電気信号を容易に求めることができる。
請求項4によれば、被測定物の反射率の変化の影響を受けることなく被測定物の状態変化を計測を行うことができる。
請求項5によれば、被測定物の計測を精度良く行うことができる。
請求項6によれば、駆動手段から第1および第2の電気信号を容易に検出することができる。
請求項7によれば、受光素子から第1および第2の電気信号を検出することができる。
請求項8によれば、従来の計測装置と比較して、被測定物の状態変化を精度良く計測することができる。
請求項9によれば、精度良く被測定物の計測を行うことができる。
請求項10によれば、従来の計測装置と比較して、精度良く血液中のヘモグロビンの速度を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
従来の血流センサー等の計測装置は、上記の式(4)を用いて被測定物の速度や振動などの状態変化を計測することが可能である。しかしながら、もし被測定物の反射率rが変化したならば、自己結合効果によって検出された光強度Ioutが変調され、もはや速度や変位量の計測が不可能になるか、ノイズを含む精度の悪い計測となる。例えば、血管中のヘモグロビンの速度を測る血流センサーなどの応用では、容易に反射率が変化するため実用上の困難性がある。
【0018】
本発明の最良の実施の形態では、異なる時間の自己結合効果によるレーザの変調を検出する。このときレーザ光の周波数変調を行うが、時間的に逆位相時の変調信号を検出する。そして、2つの逆位相の信号の差分を取ることにより、被測定物の反射率の変化によるノイズ要因を除去し、精度よく被測定物体の速度あるいは変位等を計測する。また、本発明の構成では、自己結合による信号のSNR(ノイズレベル) が不十分であれば、レンズでレーザ光を被測定物体に結像させることが好ましい。一方、十分なSNRを確保することができる場合には、必ずしもレンズは不要である。
【0019】
以下の実施例は、血液中のヘモグロビンの速度を測る血流センサーを例に説明し、ヘモグロビンのように照射面の反射率が容易に変わりやすい被測定物の速度を精度良く計測する。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明の実施例に係る血流センサーの構成を示すブロック図である。本実施例の血流センサー100は、コヒーレントなレーザ光を出射する半導体レーザ素子を備えたレーザ装置110と、半導体レーザ素子を駆動する駆動部120と、自己結合効果を利用して得られた信号から被測定物の状態変化を計測する計測部130とを含んで構成される。
【0021】
本実施例のレーザ装置100は、好ましくは半導体レーザ素子としてVCSELを用いることができる。図2は、VCSELが形成された半導体チップの平面図、図3は、図2のA−A線断面図である。図2に示すように、半導体チップ200の表面には、レーザ光の発光部となる円筒状のポスト(またはメサ)Pが形成され、かつポストPの頂部には、環状のp側電極240が形成されている。p側電極240は、配線244により円形の電極パッド210に接続される。電極パッド210は、ボンディングワイヤ等の図示しない接続手段によって駆動部120に電気的に接続される。
【0022】
半導体チップ200は、図3に示すように、n型のGaAs半導体基板220上に、Al組成の異なる複数のAlGaAs層を積層したn型の下部DBR222、活性領域224、p型のAlAsからなり酸化領域に囲まれた導電領域を有する電流狭窄層226、Al組成の異なる複数のAlGaAs層を積層したp型の上部DBR228、p型のGaAsコンタクト層230を積層している。基板220上の半導体層をエッチングすることで環状の溝232が形成され、円筒状のポストPが形成される。ポストPの底部、側壁および頂部の一部を覆うように層間絶縁膜234が形成され、ポストPの頂部には、層間絶縁膜234のコンタクトホールを介してコンタクト層230と電気的に接続されるp側電極240が形成される。p側電極240の中央には、レーザ光を出射するための出射窓242が形成される。配線244は、p側電極240から溝232を通りパッド形成領域236まで延在し、そこで電極パッドに接続されている。また、基板220の裏面にはn側電極250が形成されている。ポストPは、下部DBR222と上部DBR228により垂直共振器を構成する。p側電極240とn側電極250に順方向の駆動電流が印加されると、ポストPの出射窓242から約850nmの波長のレーザ光が基板と垂直方向に出射される。
【0023】
図4は、駆動部および計測部の内部構成を示すブロック図である。駆動部120は、VCSELを変調駆動するための駆動信号Sを電極パッド210に供給する。
【0024】
図5は、駆動信号Sの電流波形を説明する図である。縦軸は、レーザ光の強度、横軸は時間である。駆動信号Sは、レーザの基準発振強度をIとしたとき、その基準発振強度を中心に+ΔIと−ΔIの強度変化が繰り返されるような駆動周波数を有する三角波の駆動電流である。図5の例では、時刻t1〜t4が1周期dであり、時刻t0のとき、基準発振強度I、時刻t1のとき、+ΔIの強度、時刻t2のとき、基準発振強度I、時刻t3のとき、−ΔIの強度となるように駆動信号Sが駆動変調される。VCSELでは、駆動電流と発振波長がほぼ線形の関係にあり、駆動電流が大きくなると、それに従い発振波長が大きくなる。従って、ポストPからは、時間的に波長が変化したレーザ光が出射される。なお、駆動信号Sの電流波形は、図5に示すような形状に限らず、これとは波形の異なる鋸波状であってもよい。
【0025】
計測部120は、図4に示すように、ポストPから出射されたレーザ光と被測定物からの戻り光により光強度が変調されたビート信号を検出するビート信号検出部132、ビート信号検出部132によって検出された値を記憶する記憶回路134、時間的に逆位相となるビート信号の差分を算出する差分算出回路136と、差分算出回路136の算出結果に基づき被測定物の状態を計測する計測回路138とを有している。
【0026】
半導体レーザの光強度を変調することで、発振周波数を変化させることができる。これにより発振周波数と戻り光の周波数が異なるためレーザ媒質内で変調が起こり光強度にビート信号が発生する。戻り光の周波数と発振周波数との差が大きければ大きいほど被測定物体の距離が遠いことを意味する。したがって、ビート信号の周波数を解析することで、レーザと被測定物体の距離を測ることができる。
【0027】
図4に示すビート信号検出部132は、駆動回路122の駆動信号Sのインピーダンス変化に基づきビート信号を検出する。すなわち、ポストPからのレーザ光を被測定物に放射したとき、被測定物で反射または散乱された戻り光がポストPのレーザ媒質内に戻り、レーザ発振状態が変調され、レーザ光と戻り光の周波数の差により光強度にビート信号が生じ、このビート信号が駆動信号のインピーダンス変化となって表れる。
【0028】
図4に示すように駆動信号Sの変調周波数が時刻t0からt4までを1周期としたとき、ビート信号検出部132は、時刻t0からt2までの第1の半周期の期間にビート信号の第1の変化量を検出し、第1の半周期とは逆位相となる時刻t2からt4までの第2の半周期の期間にビート信号の第2の変化量を検出する。
【0029】
図4の例では、ビート信号検出部132は、時刻Q1、時刻Q2のときのぞれぞれのビート信号を検出し、検出されたビート信号の値を記憶回路134に格納する。また、時刻Q1から半位相ずれた時刻Q3においてビート信号を検出し、時刻Q2から半位相ずれた時刻Q4においてビート信号を検出し、それぞれのビート信号の値を記憶回路134に格納する。さらにビート信号検出部136は、記憶回路134に格納された時刻Q1、Q2のビート信号の値から第1の変化量を算出し、時刻Q3、Q4のビート信号から第2の変化量を算出する。
【0030】
ビート信号検出部132によって検出された第1および第2の変化量は、次の数式(1)および(2)によって表される。
【0031】
【数6】

【0032】
ここで、被測定物に照射されるレーザ光の強度をI(=I+ΔI)としたとき、Iは、レーザ光の基準発振強度、ΔIは、基準発振強度Iからの変調量、rは、披特定物の反射率、αは、レーザ光の自己結合効率、Δωは、半導体レーザ素子から放出されたレーザ光の発振周波数と反射光の周波数差、Ωは、被測定物反射時のドップラー効果による位相シフト量、Δdは、被測定物の変位量、kは、反射光の波数ベクトルである。
【0033】
差分算出回路136は、上記のようにして検出された第1および第2の変化量の差分|I−I|を算出する。算出された差分は、次の式(3)によって表される。ここで、基準発振強度I>>変調量ΔI、Q2−Q1≒Q4−Q3<<1である。
【0034】
【数7】

【0035】
図6に、ビート信号の変化量の波形と、ビート信号の第1および第2の変化量の差分の波形を示す。数式(1)および(2)で表されるビート信号の第1および第2の変化量は、波形H1のように短い周期でビートを打つ信号である。そして、第1および第2の変化量の差分である数式(3)で表される信号は、波形H2のような正弦波(sin)の信号となる。
【0036】
計測回路138は、算出部136によって算出された式(3)から被測定物であるヘモグロビンの速度や血流量を計測することができる。つまり、レーザの変調周波数Δωでの振動に対して被測定物の変化分がsin(Ωt-kΔd)のビート振動として検出することができる。また、式(3)からは、被測定物の反射率rが除去されることに留意すべきである。これにより、駆動信号Sの1周期内に被測定物の反射率、すなわちヘモグロビンの反射率が変化しても、その反射率の影響を受けることなく、被測定物の状態を高いSNRで計測することができる。
【0037】
なお、上記実施例では、駆動信号Sの1周期内に2つのビート信号の変化量を検出する例を示したが、これに限らず、より多くのビート信号の変化量を検出し、これらの差分を算出しても良い。但し、差分は、互いに逆位相の関係にあるビート信号の必要がある。例えば、複数の計測結果を平均化することで精度の高い計測結果を得ることができる。
【0038】
図7は、本実施例の血流センサーの使用例を示している。血流センサーのレーザ装置110を人体の腕260の近くに位置させ、レーザ装置110の発光部からレーザ光Lを腕に照射する。波長が850nmのレーザ光は、人体の皮膚を透過し、毛細血管中のヘモグロビンを照射する。ヘモグロビンの表面で反射または散乱された光の一部が戻り光として自己結合効果に寄与し、ヘモグロビンの速度が計測される。ヘモグロビンは、血液中を不規則に移動しその反射面が容易に変化するが、計測された式(3)のヘモグロビンの反射率rがキャンセルされているため、従来の血流センサーでは、反射率の変化がノイズとして含まれていたが、本実施例では、そのようなノイズが除去され、ヘモグロビンの速度や血流を精度良く計測することができる。
【0039】
また、計測対象となる信号のSNRが十分でない場合には、レーザ装置110と腕260の間にレンズ270を介在させ、レーザ光Lの集光および戻り光の集光効率を改善するようにしてもよい。さらに上記実施例は、レーザ発振中の駆動信号S2のインピーダンス変動からビート信号を検出したが、これ以外にも、VCSELのレーザ発振状態をモニターする受光素子(フォトディテクタ)の出力信号からビート信号を検出するようにしてもよい(図9および図10を参照)。さらに、血流センサーによる計測結果は、ディスプレイやスピーカなどから出力できるようにしてもよい。
【0040】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。第2の実施例に係る血流センサー100Aは、図8に示すように、ハーフミラー280と干渉縞を検出する検出器290とを有する。レーザ装置110は、第1の実施例のときと同様に、駆動変調されたレーザ光Lを出射する。レンズ270と被測定物260との間にハーフミラー280が配置され、ハーフミラー280は、入射したレーザ光Lの一部を透過して被測定物260を照射させ、レーザ光Lの一部を検出器290へ反射する。これにより、ハーフミラー280からの反射光Rと被測定物260からの反射光Raが干渉し、この干渉縞の変化を検出器290で検出する。これにより、第1の実施例の自己結合効果を利用した計測と同じような計測を行うことができる。第1の実施例の自己結合効果は、レーザ内で干渉してこれが増幅されて光強度変調として検出されるが、第2の実施例ではレーザの外の干渉計によって同じ信号を検出する。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0042】
上記実施例では、単一の半導体レーザ素子を用いる例を示したが、複数の半導体レーザ素子アレイにより被測定物の一定の面積の状態変化を検出するようにしてもよい。さらに上記実施例は、血流センサーを例示したが、これ以外の被測定物の振動、距離、変位の非接触の計測にも適用することができる。さらに上記実施例では、850nmの波長のVCSELの例を示したが、これ以外の波長や構造の半導体レーザ素子を用いるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例に係る血流センサーの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施例の血流センサーに好適に用いられるVCSEL素子の平面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】駆動部および計測部の内部構成を示す図である。
【図5】駆動信号の波形図である。
【図6】ビート信号の変化量、ならびにその差分信号の波形を示す図である。
【図7】本実施例に係る血流センサーの使用例を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係る血流センサーの構成を示す図である。
【図9】従来の振動計測装置の構成例を示す図である。
【図10】従来の振動計測装置の観測波形を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
200:半導体チップ
210:電極パッド
232:溝
236:パッド形成領域
240:p側電極
244:配線
260:被測定物
270:レンズ
280:ハーフミラー
290:検出器
P:ポスト(VCSELの発光部)
S:駆動信号
Q1、Q2、Q3、Q4:時刻
H1:ビート信号の変化量
H2:差分信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物にレーザ光を照射する半導体レーザ素子と、
半導体レーザ素子を変調駆動するための駆動信号を半導体レーザ素子に供給する駆動手段と、
前記駆動信号の第1の半周期において、自己結合効果により変調されたレーザ光の強度に対応する第1の電気信号を検出する第1の検出手段と、
前記駆動信号の第1の半周期と逆位相の第2の半周期において、自己結合効果により変調された第2のレーザ光の強度に対応する第2の電気信号を検出する第2の検出手段と、
第1の電気信号と第2の電気信号の差分を算出する算出手段と、
算出された差分に基づき被測定物の状態変化を計測する計測手段と、
を有する計測装置。
【請求項2】
第1の検出手段は、第1の時刻と第2の時刻の光強度の第1の変化量に対応する前記第1の電気信号を検出し、
第2の検出手段は、第3の時刻と第4の時刻の光強度の第2の変化量に対応する前記第2の電気信号を検出する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
第1の変化量および第2の変化量は、それぞれ式(1)および(2)によって表される、請求項2に記載の計測装置。
ここで、Q1、Q2、Q3、Q4はそれぞれ第1、第2、第3、第4の時刻である。また、被測定物に照射されるレーザ光の強度をI(=I+ΔI)としたとき、Iは、レーザ光の基準発振強度、ΔIは、基準発振強度Iからの変調量、rは、被測定物の反射率、αは、レーザ光の自己結合効率、Δωは、半導体レーザ素子から放出されたレーザ光の発振周波数と反射光の周波数差、Ωは、被測定物の反射時のドップラー効果による位相シフト量、Δdは、被測定物の変位量、kは、反射光の波数ベクトルである。
【数1】

【請求項4】
前記算出手段による差分は、式(3)によって表される、請求項3に記載の計測装置。ここで、基準発振強度I>>変調量ΔI、Q2−Q1≒Q4−Q3<<1である。
【数2】

【請求項5】
前記駆動信号は、鋸波状の駆動電流である、請求項1に記載の計測装置。
【請求項6】
前記第1および第2の検出手段は、前記駆動信号のインピーダンス変化に基づき前記第1および第2の電気信号を検出する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項7】
計測装置はさらに、半導体レーザ素子から放出されたレーザ光の一部を受光する受光素子を含み、
前記第1および第2の検出手段は、前記受光素子から出力された受光信号に基づき前記第1および第2の電気信号を検出する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項8】
被測定物にレーザ光を照射する半導体レーザ素子と、
半導体レーザ素子を変調駆動するための駆動信号を半導体レーザ素子に供給する駆動手段と、
半導体レーザ素子と被測定物との間に配置され、レーザ光を透過しかつレーザ光の一部を反射する光学部材と、
前記駆動信号の第1の半周期において、前記光学部材で反射された反射光と被測定物で反射されたレーザ光との干渉縞を検出し、当該干渉縞に対応する第1の電気信号を出力する第1の検出手段と、
前記駆動信号の第1の半周期と逆位相の第2の半周期において、前記光学部材で反射された反射光と被測定物で反射されたレーザ光との干渉縞を検出し、当該干渉縞に対応する第2の電気信号を出力する第2の検出手段と、
第1の電気信号と第2の電気信号との差分を算出する算出手段と、
算出された差分に基づき被測定物の状態変化を計測する計測手段と、
を有する計測装置。
【請求項9】
計測装置はさらに、半導体レーザ素子と被測定物との間にレンズを含む、請求項1または8に記載の計測装置。
【請求項10】
前記計測手段は、血液中のヘモグロビンの速度を計測する、請求項1または8に記載の計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−68999(P2010−68999A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239445(P2008−239445)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】