説明

計量システム

【課題】実運用時の計量システムの構成を反映して調整を適切に実行する。
【解決手段】本発明の計量システムは、重量演算器が、荷重検出器の条件設定情報が入力されて記憶器に格納する手段と、荷重検出器の出力信号を取得する手段と、取得した荷重検出器の出力信号と記憶器に格納した荷重検出器の条件設定情報とに基づいて調整基準値を算出する手段と、取得した荷重検出器の出力信号が算出した調整基準値により規定される所定範囲内に収まるか否かを判定する手段と、所定範囲内に収まることを判定したときには取得した荷重検出器の出力信号を調整値として記憶器に格納し、所定範囲内に収まらないことを判定したときには所定の警告信号を出力する手段と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計量システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、計量システムは、被計量物が収容又は載置された保持部による荷重を荷重検出器によって検出し、該荷重検出器に接続された重量演算器によって該荷重検出器からの荷重信号を処理して被計量物の重量を所定の表示部に表示するように構成されている。このような計量システムでは、内部機構の経時的変化や周囲の環境変化等による計量精度の低下を抑えるために、零点及びスパン係数の調整が実施される。なお、零点の調整とは、荷重検出器が無荷重状態のときに重量演算器の表示が零となるように調整することを指し、スパン係数の調整とは、荷重検出器に掛かる荷重に応じた表示となるように、重量演算器の入出力特性の勾配(スパン係数)を調整することを指す。
【0003】
特許文献1には、校正適否の判断機能を有する電子天秤に係る発明として、電子天秤の製造段階(調整モード)の校正時には、当該電子天秤の零点及びスパン係数が設定され、通常モードの校正時には、調整モードの校正時に設定された零点及びスパン係数を用いて零点及びスパン係数の計量値を得て、この計量値を許容値と比較した結果に基づいて零点及びスパン係数の更新を行うか否かを判定することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、加熱調理器に係る発明として、加熱調理器は、食品等の重量に応じた信号を出力する重量センサを備えており、加熱開始前に、毎回、重量センサからの信号を読取り、その信号レベルが基準零点からみて所定重量に相当する所定レベルの範囲内にあるときには、その信号レベルに基づいて基準零点を変更設定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−121423号公報
【特許文献2】特開2000−18592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、新たに計量システムが構築されるときや既存の計量システムの構成が変更される場合(例えば荷重検出器や重量演算器の交換等の場合)にも、零点及びスパン係数の調整(以下、零/スパン調整という)が必要である。しかしながら、特許文献1,2では、内部機構の経時的変化や周囲の環境変化を検証する目的で零/スパン調整を実施しているにすぎず、計量システムの構築や変更が行われるときに調整を実施することについて開示も示唆もされていない。それ故に、特許文献1,2では、零/スパン調整の対象とする計量システムの構成が変更される場合を想定しておらず、また、零/スパン調整値が適正か否かを判定するための基準値が零/スパン調整の精度に影響を与える荷重検出器の条件設定情報(性能、仕様、構成条件等)を反映して設定されたものではないので、後日、零/スパン調整値が適正でなかったことが解明できたとしてもその原因を特定することが困難である。
【0007】
なお、計量システムの採り得る形態としてはホッパスケール、コンベアスケール、トラックスケール等があり、これらの形態に応じて計量システムの構成も当然異なっている。例えば、ロードセル(荷重検出器)には、アナログ出力型のロードセル(アナログロードセルと呼ばれる)の他に、アナログ/デジタル変換器を具備したデジタル出力型のロードセル(デジタルロードセルと呼ばれる)が採用される場合がある。また、特許文献1、2のように1つのロードセル/重量センサを使用する形態の他に、複数のロードセルを使用するマルチロードセルと呼ばれる形態が採用される場合もある。さらに、被計量物の保持部を支持してロードセルに掛かる荷重を調整するためのレバーの有無、防爆ユニットの有無、あるいはロードセルに印加される励磁電圧の電源として重量演算器の電源を使用せずに外部電源を使用する等のバリエーションもある。
【0008】
以上のとおり計量システムには様々な形態があり、作業員はこれらの形態から零/スパン調整値がどの程度となるのかを正確に把握した上で調整を行う必要があるが、実際には調整後の零/スパン調整値の把握はできておらず、誤調整を引き起こす要因となっていた。例えば、防爆ユニットを導入する計量システムの場合に作業員は防爆ユニットを設置しないで調整を行う場合や、マルチロードセルの場合に被計量物の保持部に装着されるロードセルの接続個数を間違って調整を行う場合等が想定される。従来は、これらのケアレスミスを把握する術がないので、調整の際に適正とみなされた調整値が実運用時の計量システムの構成を反映した値とはならず、この結果、実運用時に計量ミス等の問題が生じるおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的は、実運用時の計量システムの構成を反映して調整を適切に実行することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のある形態(aspect)に係る計量システムは、被計量物を保持する保持部と、当該保持部に保持された被計量物による荷重に応じた出力信号を出力する荷重検出器と、当該荷重検出器の出力信号に基づいて当該被計量物の重量を演算する重量演算器とを備え、当該重量演算器は記憶器を備えている計量システムであって、前記重量演算器は、前記荷重検出器の条件設定情報が入力されて前記記憶器に格納する手段と、前記荷重検出器の出力信号を取得する手段と、前記取得した荷重検出器の出力信号と前記記憶器に格納した前記荷重検出器の条件設定情報とに基づいて調整基準値を算出する手段と、前記取得した荷重検出器の出力信号が前記算出した調整基準値により規定される所定範囲内に収まるか否かを判定する手段と、前記所定範囲内に収まることを判定したときには前記取得した荷重検出器の出力信号を調整値として前記記憶器に格納し、前記所定範囲内に収まらないことを判定したときには所定の警告信号を出力する手段と、を含むものである。
【0011】
前記計量システムの構成によれば、荷重検出器の条件設定情報を反映して調整値が適正か否かの判定基準となる調整基準値が算出されるので、実運用時の計量システムの構成を反映して調整を適切に実行することができる。
【0012】
前記計量システムにおいて、前記荷重検出器の条件設定情報は、前記荷重検出器の個数、出力、及び容量と、風袋荷重と、前記荷重検出器に印加される励磁電圧とを含み、前記調整基準値を算出する手段は、前記荷重検出器が無荷重の時の前記荷重検出器の出力信号と、前記記憶器に格納した前記荷重検出器の条件設定情報と、に基づいて零点基準値及び/又はスパン係数基準値を算出する手段を含む、としてもよい。
【0013】
前記計量システムの構成によれば、前記荷重検出器の個数、出力、及び容量と、風袋荷重と、前記荷重検出器に印加される励磁電圧とを反映して零点及びスパン係数が適正か否かの判定基準となる零点基準値及び/又はスパン係数基準値が算出されるので、調整の対象とする実運用時の計量システムの構成上の自由度が増すことになる。特に、調整基準値の算出の際に荷重検出器の個数が反映されており、一つの荷重検出器が使用される場合又は複数の荷重検出器が使用される場合のいずれの場合であっても零/スパン調整の良否判定が可能となる。
【0014】
前記計量システムにおいて、前記荷重検出器の条件設定情報は、前記保持部及び前記荷重検出器と前記重量演算器との間に防爆ユニットが設けられるか否かを識別する識別子を含み、前記零点基準値を算出する手段は、前記記憶器に格納した前記識別子に従って、前記防爆ユニットが設けられるか否かによって異なる前記零点基準値及び/又はスパン係数基準値の算出式を適用する、としてもよい。
【0015】
前記計量システムの構成によれば、防爆ユニットが設けられる場合又は設けられない場合のいずれの場合であっても零/スパン調整の良否判定が可能となる。したがって、零/スパン調整の対象となる実運用時の計量システムの構成上の自由度がさらに増すことになる。
【0016】
上記の他に、前記計量システムの構成としては次のような構成であってもよい。
【0017】
前記計量システムにおいて、前記荷重検出器の条件設定情報は、前記荷重検出器に掛かる荷重を調整するレバー比を含み、前記零点基準値及び前記スパン係数を算出する手段とは、前記レバーを使用している場合に、前記記憶器に格納したレバー比を反映して前記零点基準値及び/又は前記スパン係数を算出する手段を含む、としてもよい。この構成によれば、荷重検出器に掛かる荷重を調整するレバー比をも反映して零点基準値及び/又はスパン係数が算出されるので、調整の対象となる実運用時の計量システムの構成上の自由度がさらに増すことになる。
【0018】
前記計量システムにおいて、前記荷重検出器の条件設定情報は、前記荷重検出器がアナログ出力の場合とデジタル出力の場合とで区別して設定され、前記零点基準値及び/又は前記スパン係数を算出する手段は、前記記憶器に格納した前記荷重検出器の条件設定情報に従って、前記荷重検出器がアナログ出力の場合とデジタル出力の場合とで異なる前記零点基準値及び/又は前記スパン係数の算出式を適用する手段を含む、としてもよい。この構成によれば、荷重検出器がアナログ出力の場合又はデジタル出力の場合のいずれの場合であっても零/スパン調整の良否判定が可能となる。したがって、調整の対象となる実運用時の計量システムの構成上の自由度がさらに増すことになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、実運用時の計量システムの構成を考慮に入れて調整を適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の実施の形態における計量システムの構成例を表した概念図である。
【図2】図2はレバーを利用してロードセルに掛かる荷重を調整する形態を説明するための図である。
【図3】図3は防爆ユニットを介したロードセルと重量演算器との間の結線例を示した図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態における重量演算器の構成例を示したブロック図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態におけるロードセル情報の一例を示した図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態における零点調整の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は本発明の実施の形態におけるスパン調整の流れを示すフローチャートである。
【図8A】図8Aは複数のアナログロードセルが設けられたときの重量演算器に入力される当該複数のアナログロードセルの合成出力を説明するための図である。
【図8B】図8Bは複数のデジタルロードセルが設けられたときの重量演算器に入力される当該複数のデジタルロードセルの合成出力を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0022】
[計量システムの構成例]
(基本的な構成)
図1は本発明の実施の形態に係る計量システムの構成例を表した概念図である。
【0023】
図1に示す計量システムは、計量ホッパに収納される被計量物の重量を測定するホッパスケールの形態を例に挙げているが、その他にも、コンベアで輸送される被計量物の重量を測定するコンベアスケールや、載台に車輪が載った状態で車両の重量を測定するトラックスケール等であってもよい。
【0024】
図1に示す計量システムは、計量ホッパ10と、ロードセル(荷重検出器)12と、接続加算箱50と、重量演算器20と、を備えており、計量ホッパ10に収容された被計量物によってロードセル12に掛かる荷重を検出し、ロードセル12と接続加算箱50を介して接続された重量演算器20によってロードセル12からの荷重信号を処理して被計量物の重量を表示するように構成されている。
【0025】
計量ホッパ10は被計量物を保持及び排出するためのゲート11を備えており、当該ゲート11は重量演算器20と通信可能に接続された計量用シーケンサ(図示せず)からの開閉指令に従ってゲート駆動機構を介して駆動される。計量ホッパ10はそれに収納される被計量物を計量するために2つのロードセル12によって支持されている。つまり、図1に示す計量システムは、2つのロードセル12を利用したマルチロードセルの形態を採用しているが、ロードセルの個数は2つに限られない。
【0026】
ロードセル12は、起歪体である4つの歪ゲージを備えており、これらの4つの歪ゲージによって所謂ホイートストンブリッジ回路が構成されている。このホイートストンブリッジ回路に印加される励磁電圧は、通常、重量演算器20に内蔵される励磁電源21から供給されるが、後述の外部電源ユニット40から供給される場合もある。
【0027】
ロードセル12は、アナログ出力型のアナログロードセルとして構成される場合とデジタル出力型のデジタルロードセルとして構成される場合とがある。デジタルロードセルの場合、ロードセル12にはアナログ/デジタル変換器が内蔵される。ロードセル12は接続加算箱50を介して重量演算器20と接続される。なお、接続加算箱50は、ロードセル12それぞれの出力を並列加算するように構成されており、重量演算器20にはロードセル12それぞれの出力の並列加算値が入力される。
【0028】
(レバー)
図1に示されるようにロードセルによって計量ホッパが支持される形態の他に、図2に示されるようにレバーを用いて計量ホッパが支持される形態がある。詳述すると、その左右の両端部が天井に支持されている支持部材15が架設され、計量ホッパ10は支持部材15によって支持されている。レバー14は、その支点が天井に支持されており、その一端(力点)が支持部材15の重心位置と連結され、その他端(作用点)がロードセル12と連結されている。ここで、レバー14において、支点から一端までの長さと、支点から他端までの長さとの比を適切に設定することにより、ロードセル12に掛かる荷重を適切に調整することができる。
【0029】
(防爆ユニット)
図1では、計量システムの付加的な構成要素として、防爆ユニット30が示されている。防爆ユニット30は、重量演算器20の故障等により安全地域に設置されている重量演算器20から過大電圧や過大電流が危険地域に流れ込むことを阻止するように構成されている。
【0030】
図3は防爆ユニットを介したロードセルと重量演算器との間の結線例を示した図である。図3に示すように、重量演算器20からロードセル12に励磁電圧を供給する目的で、重量演算器20の励磁電源21の正極と負極とがそれぞれ電源用中継ケーブル52a,52bを介してロードセル12のホイートストンブリッジ回路の一方の出力端OUTA及び他方の出力端OUTBと接続されている。防爆ユニット30は電源用中継ケーブル52a,52bの一部を取り込んでおり、防爆ユニット30内の電源用中継ケーブル52a,52b上には重量演算器20からの過大電流を制限するための電流制限回路31a,31bが配設されている。
【0031】
また、重量演算器20がロードセル12へ印加される励磁電圧を監視する目的で、ロードセル12のホイートストンブリッジ回路の一方の出力端OUTA及び他方の出力端OUTBとはセンシング用中継ケーブル54a,54bを介して重量演算器20のセンシング用差動増幅器22の一方の入力端及び他方の入力端と接続されている。防爆ユニット30はセンシング用中継ケーブル54a,54bの一部を取り込んでおり、防爆ユニット30内のセンシング用中継ケーブル54a,54b上には過大電流を抑制するための抵抗32a,32bが配設されている。
【0032】
さらに、重量演算器20がロードセル12の出力を取り込む目的で、ロードセル12のホイートストンブリッジ回路の一方の出力端OUTA及び他方の出力端OUTBとは信号用中継ケーブル56a,56bを介して重量演算器20の信号用差動増幅器23の一方の入力端及び他方の入力端と接続されている。防爆ユニット30は信号用中継ケーブル56a,56bの一部を取り込んでおり、防爆ユニット30内の信号用中継ケーブル56a,56b上には過大電流を抑制するための抵抗33a,33bが配設されている。
【0033】
(外部電源ユニット)
図1では、計量システムのその他の付加的な構成要素として外部電源ユニット40が示されている。図3に示すようにロードセル12へ印加される励磁電圧の供給源として重量演算器20に内蔵される励磁電源21が用いられる他に、外部電源ユニット40が用いられる場合がある。この場合、外部電源ユニット40の正極と負極とはそれぞれ電源用中継ケーブル52a,52bを介してロードセル12の一方の出力端OUTA及び他方の出力端OUTBと接続される。また、防爆ユニット30を使用する場合には、図3に示されるように、防爆ユニット30内に電源用中継ケーブル52a,52bの一部が取り込まれ、防爆ユニット30内での電源用中継ケーブル52a,52b上には過大電流を抑制するための抵抗33a,33bが配設される。
【0034】
[重量演算器の構成例]
図4は図1に示す重量演算器の構成例を示すブロック図である。
【0035】
重量演算器20は、センシング用差動増幅器22及び信号用差動増幅器23を含みロードセル12との間のインタフェースを担うロードセルインタフェース24と、ロードセル12から接続加算箱50を介して供給されるアナログ電圧の並列加算値をアナログ/デジタル変換するアナログ/デジタル変換器25と、後述のロードセル情報の設定値、計量に係るプログラム(特に、プログラムパラメータとして用いられる零点やスパン係数)等が格納される記憶器26と、後述のロードセル情報の設定値の入力等を作業員に行わせるための操作器27と、ロードセル出力に基づいて得られた被計量物の重量や、零点調整及びスパン調整の際に作業員に通知するメッセージ(設定情報、警告等)を表示する表示器28と、上記の計量用シーケンサとの間の通信を担う通信インタフェース29と、重量演算器20全体の制御を司るCPU200と、を有する。
【0036】
なお、重量演算器20の基本機能はロードセル12の出力信号に基づいて被計量物の重量を演算してその結果を出力することあるので、重量演算器20は、操作器27、表示器28、通信インタフェース29を具備していなくてもよい。例えば、操作部27を設けずに、通信インタフェース29を介して外部の計量用シーケンサからロードセル情報が入力されるようにしてもよい。また、表示器28を設けずに、重量演算器20が組み込まれた操作盤の表示部や通信インタフェース29を介して外部の計量用シーケンサの表示部等に表示させてもよい。さらに、零点調整及びスパン調整の際に作業員に通知する警告を表示器28に表示させる形態の他に、当該警告を作業員に聴覚的に通知するために音声として出力するように重量演算器20はスピーカを具備してもよいし、当該警告を作業員に視覚的に通知するため重量演算器20は発光素子を具備してもよい。あるいは、重量演算器20は電子メールクライアントを具備し、当該警告をあらかじめ電子メールアドレスが登録された作業員が所有する携帯機器に送信してもよい。CPU200は、互いに協働して分散制御する複数の制御器によって構成されてもよい。例えば、上位の計量用シーケンサとの通信インタフェース処理をCPUが担当し、それ以外の重量演算に係る処理をDSPが担当するようにシステムが構成されてもよい。
【0037】
図5は、ロードセル情報の設定値の一例である。ロードセル情報とは、零点調整及びスパン調整の際の調整基準値の算出に影響を与えるロードセルの条件設定情報であり、図5に示す例では、“ロードセルの個数”,“ロードセルの出力”,“ロードセルの容量”,“風袋荷重”,“励磁電圧”,“防爆モード”,“レバー比分母”,“レバー比分子”の項目が挙げられている。
【0038】
“ロードセルの個数”の項目には、計量ホッパ10等の保持部に実装されるロードセルの個数を設定する。“ロードセルの出力”の項目には、アナログロードセルの場合にはロードセル出力をmV/V単位(励磁電圧(V)当たりの出力電圧(mV))で設定し、デジタルロードセルの場合には出力される1カウントの重みを表示単位以下の桁数で設定する。例えば、デジタルロードセルが1kgに対して0.01kg刻みで出力する場合には“2”を設定する。“ロードセルの容量”の項目には、1個のロードセル当たりの定格容量(kg)を設定する。例えば、定格容量1tのロードセルであって1kg単位で表示する場合には、1000(kg)を設定する。“風袋荷重”の項目には、ホッパゲート10に被計量物を収容せず且つスパン調整用分銅による荷重も無い状態でのロードセルに掛かる荷重(例えば、計量ホッパ10の自重)を設定する。“励磁電圧”の項目には、アナログロードセルに印加される励磁電圧を設定する。なお、デジタルロードセルの場合には、励磁電圧を設定する必要はないので、例えば“0”を設定する。
【0039】
“防爆モード”の項目には、防爆ユニット30を採用する場合には例えば“1”を設定し、防爆ユニット30を採用しない場合には例えば“0”を設定する。なお、デジタルロードセルの場合には防爆ユニット30は適用されない。“レバー比分母”及び“レバー比分子”の項目には、レバー14を使用する場合にはレバー比分母とレバー比分子とをそれぞれ設定し、レバー14を使用しない場合にはそれぞれ“0”を設定するようにする。
【0040】
なお、本実施の形態の場合、以上のロードセル情報の設定は操作器27を介した手入力により実施され、該手入力により設定されたロードセル情報は記憶器26に格納される。記憶器26に格納されたロードセル情報は調整基準値を算出する際に用いられる。調整時に、ロードセル情報から算出された調整基準値と実際に調整された調整値とが比較されることにより、作業員は調整ミス、機械的な干渉、ロードセルの不良などの異常を判別できるようになっている。
【0041】
[零点調整の流れ]
図6は本発明の実施の形態に係る計量システムの零点調整の流れを示すフローチャートである。なお、零点調整とは、上記のとおり、ロードセル12が無荷重状態のときに重量演算器20の表示が零となるように調整することを指す。
【0042】
まず、ロードセル12を無荷重状態にした上で、アナログ/デジタル変換器25はロードセル12から出力されるアナログ電圧をアナログ/デジタル変換する(ステップS600)。そして、CPU200は、アナログ/デジタル変換器25から出力される現在のAD変換値を取得する(ステップS601)。つぎに、CPU200は、取得した現在のAD変換値と、記憶器26にあらかじめ格納されているロードセル情報とに基づいて零点基準値を算出する(ステップS602)。
【0043】
そして、CPU200は、ステップS601で取得した現在のAD変換値が、ステップS602で算出した零点基準値により規定される所定範囲内に収まっているか否かを判定する(ステップS603)。ここで、所定範囲内であれば、CPU200は、ステップS601で取得した現在のAD変換値を調整された零点として記憶器26に格納し(ステップS604)、所定範囲外であれば、CPU200は、ステップS601で取得した現在のAD変換値は調整範囲を超えている旨のエラー表示(警告)を表示器28に表示させる(ステップS605)。
【0044】
[スパン係数調整の流れ]
図7は本発明の実施の形態に係る計量システムのスパン係数調整の流れを示すフローチャートである。なお、スパン係数調整とは、ロードセル12に掛かる荷重に応じた表示となるように、重量演算器20の入出力特性の勾配(つまりスパン係数)を調整することを指す。
【0045】
まず、ロードセル12にスパン調整用分銅の荷重を与えた上で、アナログ/デジタル変換器25はロードセル12から出力されるアナログ電圧をアナログ/デジタル変換する。そして、CPU200は、アナログ/デジタル変換器25から出力される現在のAD変換値と、記憶器26にあらかじめ格納しておいたスパン係数調整用分銅値とを取得する(ステップS700)。つぎに、CPU200は、ステップS700で取得した現在のAD変換値とスパン係数調整用分銅値とに基づいて現在のスパン係数を算出する(ステップS701)。
【0046】
一方、CPU200は、ステップS701で算出したスパン係数と、記憶器26にあらかじめ格納しておいたロードセル情報とに基づいて、スパン係数基準値を算出する(ステップS702)。そして、CPU200は、ステップS701で算出したスパン係数が、ステップS702で算出したスパン係数基準値により規定される所定範囲内に収まっているか否かを判定する(ステップS703)。ここで、所定範囲内であれば、CPU200は、ステップS701で算出したスパン係数を、調整されたスパン係数として記憶器26に格納し(ステップS704)、所定範囲外であれば、CPU200は、ステップS701で算出したスパン係数は調整範囲を超えている旨のエラー表示(警告)を表示器28に表示させる(ステップS705)。
【0047】
[アナログロードセルの場合]
(零点基準値の算出方法)
アナログロードセルの場合、無荷重時のアナログロードセルの出力電圧Vaiは次式により表される。
【0048】
【数1】


ここで、(式1)を説明すると、まず(励磁電圧×ロードセル出力)の項は、アナログロードセルの励磁電圧当たりの出力電圧(mV/V)に実際に印加される励磁電圧(V)を乗算した値であって、秤量(最大重量)時のアナログロードセルの出力電圧のことを表している。例えば、秤量が1000kg、アナログロードセルの出力が2mV/V、励磁電圧が10Vの場合、秤量時のアナログロードセルの出力電圧は20mV/1000kgとなる。
【0049】
つぎに、マルチロードセルの場合、図8Aに示されるように、複数のアナログロードセルが並列に接続された形態となっている。したがって、複数のアナログロードセルそれぞれに同じ励磁電圧が印加され、秤量が複数のアナログロードセルそれぞれに均一に分散されている。図8Aに示す数値例では、それぞれの出力が2mV/Vである4つのアナログロードセルを使用したマルチロードセルの場合であって、4つのアナログロードセルそれぞれに励磁電圧10Vを印加した状態で、4つのアナログロードセル全体として秤量96t(定格容量)が掛かる場合には、秤量時の4つのアナログロードセルの合成出力電圧は20mV/96tとなる。また、4つのアナログロードセルそれぞれには、秤量96tをアナログロードセルの個数である4個で除算した24tが掛かっている。このため、(式1)において、アナログロードセルの個数及び容量を除算している。
【0050】
つぎに、図2に示したようなレバー14が用いられる場合を考慮して、(式1)において、(レバー比分子/レバー比分母)が乗算されている。また、(式1)において、4つのアナログロードセルが支持する保持部(容器、載台等)による荷重(風袋荷重)が乗算されている。
【0051】
以上により、(式1)が導出される。そして、(式1)を用いて無荷重時のアナログ/デジタル変換器25の出力(AD変換値)Cai、つまり零点基準値は、次式により表される。
【0052】
【数2】


(式1)及び(式2)を適用することによって、ロードセルの個数、出力、及び容量と、風袋荷重と、ロードセルに印加される励磁電圧とを反映して零点が適正か否かの判定基準となる零点基準値が算出されるので、零点調整の対象とする実運用時の計量システムの構成上の自由度が増すことになる。特に、零点基準値の算出の際にロードセルの個数が反映されており、一つのロードセルが使用される場合又は複数のロードセルが使用される所謂マルチロードセルの場合のいずれの場合であっても零点調整の良否判定が可能となっている。また、(式1)及び(式2)によれば、ロードセルに掛かる荷重を調整するレバーが採用される場合には、上記のロードセル情報に加えてレバー比を反映して零点基準値が算出されているので、零点調整の対象となる実運用時の計量システムの構成上の自由度がさらに増すことになる。
【0053】
(スパン係数基準値の算出方法)
まず、スパン調整用分銅の分銅値に応じた電圧変化(mv)が次式により算出される。
【0054】
【数3】


(式3)では、零点調整の場合の(式1)における風袋荷重を分銅値に置き換えた点以外は、(式1)と略同じである。この(式3)を用いて、アナログロードセルの場合のスパン係数基準値は次式により算出される。
【0055】
【数4】


(式4)では、分銅値に実測のセンシング電圧を乗算した値に対し、分銅値に応じたAD変換値にmV単位でのAD変換値を乗算した値を除算しており、この結果をスパン係数基準値としている。
【0056】
以上のように、ロードセルの個数、出力、及び容量と、ロードセルに印加される励磁電圧とを反映してスパン係数が適正か否かの判定基準となるスパン係数基準値が算出されるので、スパン調整の対象とする実運用時の計量システムの構成上の自由度が増すことになる。特に、スパン係数基準値の算出の際にロードセルの個数が反映されており、一つのロードセルが使用される場合又は複数のロードセルが使用される所謂マルチロードセルの場合のいずれの場合であってもスパン係数調整の良否判定が可能となる。さらに、零点基準値と同様に、ロードセルに掛かる荷重を調整するレバー比をも反映して零点基準値が算出されるので、調整の対象となる実運用時の計量システムの構成上の自由度がさらに増すことになる。
【0057】
(防爆ユニットが配設される場合)
図3に示したように、防爆ユニット30が配設される場合、センシング用中継ケーブル54a,54b上には電流制限のための抵抗32a,32bが設けられ、信号用中継ケーブル56a,56b上には電流制限のための抵抗33a,33bが設けられる。このため、センシング用差動増幅器22及び信号用差動増幅器23の増幅度が変化する。したがって、防爆ユニット30が配設されているか否かを記憶器26に格納されているロードセル情報における“防爆モード”の有無で識別し、防爆ユニット30が配設される場合には、センシング用差動増幅器22及び信号用差動増幅器23の増幅度の変化を考慮に入れて零点基準値及びスパン係数基準値を算出する。具体的には、零点基準値としては、(式2)において抵抗32a,32b,33a,33bの抵抗値に応じた増幅度の減衰分を表した比例定数を乗算して算出する。同様に、スパン係数基準値としては、(式4)において抵抗32a,32b,33a,33bの抵抗値に応じた増幅度の減衰分を表した比例定数を乗算して算出する。
【0058】
以上により、防爆ユニット30が設けられるか否かによって異なる零点基準値及び/又はスパン係数基準値の算出式が適用されるので、防爆ユニット30が設けられる場合又は設けられない場合のいずれの場合であっても零点調整及び/又はスパン係数調整の良否判定が可能となる。したがって、調整の対象となる実運用時の計量システムの構成上の自由度がさらに増すことになる。
【0059】
[デジタルロードセルの場合]
(零点基準値の算出方法)
デジタルロードセルの場合の零点基準値は次式により算出される。
【0060】
【数5】


なお、デジタルロードセルの場合、アナログロードセルとは異なり、荷重に応じたAD変換値がそのまま出力される。なお、マルチロードセルの場合には、複数のデジタルロードセル出力の加算値となる。例えば、図8Bに示す数値例を用いると、4つのデジタルロードセル全体として秤量96t(定格容量)がかかる場合、4つのデジタルロードセルの合成出力は秤量96tに相当するAD変換値となる。言い換えると、4つのデジタルロードセルそれぞれには秤量96tをロードセルの個数の4個で除算した24tがかかっている。よって、4つのデジタルロードセルの合成出力は、24tに相当するAD変換値の加算値となっており、つまり秤量96tに相当するAD変換値となる。
(スパン係数基準値の算出方法)
スパン係数基準値は次式により算出される。
【0061】
【数6】


(式6)では、レバー14を使用する場合を考慮に入れた上で、分銅値に分銅搭載時のロードセル出力を除算しており、この結果をスパン係数基準値としている。
【0062】
以上のとおり、ロードセル情報はロードセルがアナログ出力の場合とデジタル出力の場合とで区別して設定され、アナログロードセルの場合とデジタルロードセルの場合とでそれぞれ異なる零点基準値及びスパン係数基準値の算出式が適用されており、アナログロードセルの場合又はデジタルロードセルの場合のいずれの場合であっても零点調整及びスパン係数調整の良否判定が可能となる。したがって、調整の対象となる実運用時の計量システムの構成上の自由度がさらに増す。
【0063】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、種々の形態を採り得る計量システムの調整にとって有益である。
【符号の説明】
【0065】
10・・・計量ホッパ
11・・・ゲート
12・・・ロードセル
14・・・レバー
15・・・支持部材
20・・・重量演算器
21・・・励磁電源
22・・・センシング用差動増幅器
23・・・信号用差動増幅器
24・・・ロードセルインタフェース
25・・・アナログ/デジタル変換器
26・・・記憶器
27・・・操作器
28・・・表示器
29・・・通信インタフェース
30・・・防爆ユニット
31a,31b・・・電流制限回路
32a,32b,33a,33b・・・抵抗
40・・・外部電源ユニット
50・・・接続加算箱
52a,52b・・・電源用中継ケーブル
54a,54b・・・センシング用中継ケーブル
56a,56b・・・信号用中継ケーブル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計量物を保持する保持部と、当該保持部に保持された被計量物による荷重に応じた出力信号を出力する荷重検出器と、当該荷重検出器の出力信号に基づいて当該被計量物の重量を演算する重量演算器とを備え、当該重量演算器は記憶器を備えている計量システムであって、
前記重量演算器は、
前記荷重検出器の条件設定情報が入力されて前記記憶器に格納する手段と、
前記荷重検出器の出力信号を取得する手段と、
前記取得した荷重検出器の出力信号と前記記憶器に格納した前記荷重検出器の条件設定情報とに基づいて調整基準値を算出する手段と、
前記取得した荷重検出器の出力信号が前記算出した調整基準値により規定される所定範囲内に収まるか否かを判定する手段と、
前記所定範囲内に収まることを判定したときには前記取得した荷重検出器の出力信号を調整値として前記記憶器に格納し、前記所定範囲内に収まらないことを判定したときには所定の警告信号を出力する手段と、
を含む計量システム。
【請求項2】
前記荷重検出器の条件設定情報は、前記荷重検出器の個数、出力、及び容量と、風袋荷重と、前記荷重検出器に印加される励磁電圧とを含み、
前記調整基準値を算出する手段は、前記荷重検出器が無荷重の時の前記荷重検出器の出力信号と、前記記憶器に格納した前記荷重検出器の条件設定情報と、に基づいて零点基準値を算出する手段を含む、請求項1に記載の計量システム。
【請求項3】
前記荷重検出器の条件設定情報は、前記保持部及び前記荷重検出器と前記重量演算器との間に防爆ユニットが設けられるか否かを識別する識別子を含み、
前記零点基準値を算出する手段は、前記記憶器に格納した前記識別子に従って、前記防爆ユニットが設けられるか否かによって異なる前記零点基準値の算出式を適用する、請求項2に記載の計量システム。
【請求項4】
前記荷重検出器の条件設定情報は、前記荷重検出器の個数、出力、及び容量と、前記荷重検出器に印加される励磁電圧とを含み、
前記調整基準値を算出する手段は、前記荷重検出器にスパン係数調整用分銅による荷重を掛けた時の前記荷重検出器の出力信号と、前記記憶器に格納した前記荷重検出器の条件設定情報と、前記スパン係数調整用分銅の値とに基づいてスパン係数基準値を算出する手段を含む、請求項1に記載の計量システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2013−88311(P2013−88311A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229830(P2011−229830)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000208444)大和製衡株式会社 (535)