説明

計量機器の遠隔校正システム、および方法

【課題】精密計測を行うための基準量を遠隔供給することにより、被校正機関あるいは産業界の利用者の現場における遠隔校正、および、その認証を行う。
【解決手段】計測標準量を通信に適したパラメータに変換し、あるいは通信に適したパラメータとして生成して遠隔地(2)に送り、あるいは通信に適しない場合は輸送に適した形態の計測標準量にして遠隔地(2)に送り、到着した地点において計測標準に復元することにより校正を可能ならしめ、その結果を認証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔地にある計量機器の遠隔校正システム、および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に知られているように、計量器に対する計量標準供給体系は「トレーサビリティ体系」と称されている。
【0003】
従来から現在に至るまで行われている計測標準量の供給方法は、上位の標準(より精度の高い標準)のあるところへ下位(より精度の低い標準)の標準を持ち込んで校正する、いわゆる階層性をもった「持ち込み」標準手法である(例えば、「非特許文献1」に記載されている図2.4「トレーサビリティ体系」参照)。そして、上位の標準を持つ機関から下位の標準を持つ機関に対して校正証明書が発行される。日本の計量標準供給体系としては、JCSS(Japan Calibration Service System)が知られている。
【0004】
より具体的に述べると、「持ち込み」標準のための階層は数段階あり、最上位の校正機関は国立標準研究所である。この最上位の校正機関として、日本の場合には、独立行政法人 産業技術総合研究所の計量標準研究センター(NMIJ)があたっている。
【0005】
一方、諸外国についてみると、米国においては、NISTを中心にSIM net(SIMはInteramerican Metrology Systemからとったもので、netはinternetを介した校正という意味である)と称する遠隔校正の研究が進みつつある。このSIM netは、現段階ではNISTで校正済みの直流電圧,電流,抵抗などの測定機能をもったデジタルボルトメータ(DVM)を中南米諸国を巡回させ、各国の標準との比較結果をインターネットでNISTに報告させている。しかし、情報通信網のサイバーテロに備えてNISTのインターネット・セキュリティ(ファイアウォール)が著しく厳密になっていることから、中南米諸国との校正結果のやり取りに支障が生じている現状である。
【非特許文献1】(社)電子情報通信学会編,(株)コロナ社,都築泰雄著,「電子計測(改定版)」,平成13年1月30日発行,第20刷(改定版),第23頁および第24頁,図2.4「トレーサビリティ体系」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した現状の標準供給体系は、下記の諸問題点を抱えている。
(a)急激な社会変化に対応しにくい、硬直した階層構造をもつ標準供給体系になっている。
(b)校正に要する時間、すなわち校正対象機器を受け付けてから校正作業を実施し、校正証明書を発行するまでの時間、が長い。
(c)海外に進出した企業の現地工場に対して、校正サービスの実施が困難である。
(d)標準供給体系が階層性構造となっていることに起因して、より下の階層になるほど、不確かさが増大していく。
(e)いわゆる「持ち込み」標準であることから、校正が行われたその場所かつその時点でしか、校正値が保証されない。
【0007】
よって本発明の目的は、上述の点に鑑み、計量標準分野において精密計測を行うための基準量を遠隔供給することにより、遠隔校正および認証を可能とする、計量機器の遠隔校正システム、および、計量機器の遠隔校正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成し、かつ、既述の課題(a)〜(e)を解決するために、本発明は、輸送に適した形態の計測標準量にして遠隔地に送り、到着した地点において計測標準に復元することにより校正を可能ならしめ、その結果を認証するものである。
【0009】
本発明の遠隔地にある計量機器を校正するシステムは、高精度の標準を有する標準機関側においては、計測の基準となる物理標準量もしくは化学標準量またはこれらの物理的仲介器を輸送する輸送手段を備え、前記物理標準量もしくは化学標準量またはこれらの物理的仲介器を受け取った当該遠隔地側においては、前記物理標準量もしくは化学標準量またはこれらの物理的仲介器に基づいて被校正機器を校正する校正手段を備え、前記校正手段の不確かさ評価を伴った精密測定の結果による校正の値を、前記高精度の標準を有する標準機関側に備えた認証手段が認証することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の計量機器の遠隔校正方法は、高精度の標準を持つ標準機関において、計測の基準となる物理標準量を通信手段を介して伝送するための伝送可能信号に変換するステップと、前記通信手段を介して所定の遠隔地に伝送するステップと、前記伝送可能信号が到着した目的地の標準機関、あるいは企業において当該計測標準に復元することにより校正を行うステップと、不確かさ評価を伴った精密測定の結果による前記校正の値を、より高精度の標準を持つ標準機関側で認証するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明した通り本発明によれば、精密計測を行うための基準量を遠隔供給することにより、被校正機関あるいは産業界の利用者の現場における遠隔校正、および、その認証を行うことができる。特に本発明によれば、上位の標準機関またはそれに準じる機関から、被校正機関または企業への標準供給を行うに際して、標準供給の階層構造数を低減させることができる他、階層数が少なくなることにより、不確かさの増大を防ぐことができる。
【0012】
また本発明によれば、リアルタイム性があり、かつ低廉な遠隔校正によって測定機器の校正を随時行い、測定機器の内部基準源を高精度に保つメカニズムのコストを大幅に低減することができる(従来の測定機器では、内部基準源を長期間にわたって高精度に保つメカニズムに起因してコスト高になっている)。
【0013】
すなわち、本発明によれば、計量標準を通信技術を利用して遠隔供給(校正)することにより、
1)産業構造の激しい変化に対応した校正時間の短縮化を図ること;
2)安い労働力を求めて海外に進出した企業に対して、現地での高度な校正サービスの実施を可能にすること;
3)通信技術により国家標準から産業界への直接供給を可能にすることにより、階層構造による計量標準供給の不確かさの増大を除くこと;
4)一国内にすべての高精度標準を用意しなくても、地域(アジア地域、ヨーロッパ地域、南北アメリカ地域など)や、世界全体で互いに標準をネットワーク経由で補完しあえること;
5)遠隔校正ネットワークにつながった複数の機関の同一標準量を互いに監視しあい、常に正常動作しているか否かをモニタリングしあえること;
6)校正したその場で、その時点でしか校正値を保証しない従来の「持ち込み校正」と異なり、利用者の現場において校正値を保証することができること;
などの格別な効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施の形態を説明していく。図1は、本発明に係る遠隔校正の概念を示す説明図である。換言すると本図は、インターネット・光通信・GPS関連などの情報通信技術を利用することにより、品質保証の原点である標準供給を迅速かつ廉価かつ正確に実施するための概念説明図である。
【0015】
図1においては、仲介器(移送標準器)によって上位の標準機関(高精度の標準を持つ標準機関)から下位の標準機関(精度の低い標準を持つ標準機関)あるいは産業界への遠隔校正の概念を示している。この仲介器として、(I)周波数に基づく標準量目の遠隔供給、(II)周波数に基づかない標準量目の遠隔供給の二つの分野がある。
【0016】
上記(I)の分野(周波数に基づく標準量目の遠隔供給)は、上位標準機関において、計測の基準となる物理標準を通信手段によって伝達できる信号に変換し、あるいは計測の基準となる物理量を通信手段によって伝達できる信号として生成し、通信手段によって遠隔地に伝送し、その信号が到着した目的地の標準機関、あるいは企業において計測標準に復元することにより校正(不確かさ評価をともなった精密測定)を可能ならしめ、その結果をより高精度の標準を持つ標準機関が認証する。
【0017】
上記(II)の分野(周波数に基づかない標準量目の遠隔供給)は、耐輸送環境特性の優れた仲介器を上位標準機関から下位の標準機関あるいは産業界に輸送環境データを集録しながら輸送し、到着したならその集録データを上位標準機関にインターネット等を経由して送って校正に使用可能かを判断してもらい、可能であれば校正を実施し、その校正データをふたたび上位機関に送付して正常な校正値かどうかを判断してもらい、正常な校正値であるならば上位機関が直ちに校正証明書を発行する(認証する)。
【0018】
実施の形態1(図2参照)
図2は、時間・周波数の遠隔校正について示した説明図である。この実施の形態1では、上記(I)の分野(周波数に基づく標準量目の遠隔供給)における周波数遠隔校正の具体例を示す。
【0019】
本実施の形態では、地点Bにある被校正発振器の周波数bと送られてくる周波数fとの差周波数(b−f)と、A地点にある基準発振器の基準周波数aと送られてくる信号周波数fとの差周波数(a−f)とを比較する。
【0020】
すなわち、通信手段を介して両者の差周波数{(b−f)−(a−f)}=b−aを得る。この差周波数は、基準発振器の周波数aに対して被校正発信器の周波数bのズレを示すものであるから、地点Bにある発信器を校正することできる。
【0021】
また、衛星から電波の到達する地域にある複数の機関においても、同様の遠隔校正が可能である。
【0022】
実施の形態2(図2,図3,図4参照)
図2は、上述の通り、時間・周波数の遠隔校正について示した説明図である。図3は、周波数を基にした標準供給方法を示す説明図である。図4は、周波数標準遠隔供給とリンクした電圧標準遠隔供給の説明図である。
【0023】
この実施の形態2は、上記(I)の分野(周波数に基づく標準量目の遠隔供給)における、周波数および周波数に関連する物理量標準を詳細化したものである。
【0024】
図3および図4に示すように、世界中の主要標準機関のもつ原子周波数基準器のデータが国際度量衡局(BIPM)に集められて平均化され、世界時(UTC)となる。そして、日本の国家標準としての周波数標準もGPSタイムを仲介してUTCによって校正される。すなわち、周波数と時間は逆数の関係にあるので、時間を確定すれば周波数も確定することになる。
【0025】
被校正対象の周波数基準器は、同様にGPSタイムを仲介して、日本の国家標準としての周波数基準器によって校正される。校正された周波数基準器を基にして、周波数と正確に関連付けられる物理量を標準物理量として発生することができる。例えば、量子力学的なジョセフソン効果により発生する直流電圧などを用いることができる。ジョセフソン効果によって導き出される量子化電圧は(1)式によって記述される。
Vn = nf/KJ-90・・・・・(1)
【0026】
ここで、Vnはn番目の量子化された電圧、nは整数、fは超伝導状態にあるジョセフソン接合に照射されるマイクロ波周波数、KJ-90はジョセフソン定数である。すなわち、量子化電圧は周波数に関連付けられた物理量である。
【0027】
また、上記の周波数と正確に関連付けられる直流電圧と比較することのできる物理量(たとえば、熱変換器(Thermal converter)を介して関連付けられる交流電圧)も、遠隔校正が可能である。
【0028】
実施の形態3(図3参照)
この実施の形態3は、上記(I)の分野(周波数に基づく標準量目の遠隔供給)における、周波数および周波数に関連する物理量標準を詳細化したものである。
【0029】
図3に示すように、光通信ファイバループの中で極短パルス光を外部信号に同期させつつ回転させるモード同期ファイバレーザによって、光高調波信号群(その周波数軸での形態は、櫛の歯(“comb”)に似ていることから「光コム」と呼ぶ)を発生させることができる。
【0030】
上記の極短パルス光を同期させる外部信号としては、GPSタイムを仲介して校正された周波数基準器信号を用いることができる。このようにして決まる極短パルス光の周期の逆数が、光高調波信号群の間隔を正確に決める。
【0031】
一方、光高調波信号は上述した周波数の等間隔で発生する(等間隔で発生した光高調波信号の集合を、光高調波信号群と呼ぶ)ので、その信号のどれかを安定な分子共鳴吸収信号(たとえば、近赤外領域の鋭い分子共鳴吸収信号など)にロックさせれば、光高調波信号群の個々の信号が正確な光周波数基準となる。この光周波数基準は光通信ファイバによってどこにでも“配達”され、光波長多重通信や光周波数計測の際の周波数基準になる。すなわち、校正用基準信号の遠隔供給であり、これによって光周波数の遠隔校正が可能になる。
【0032】
実施の形態4(図3参照)
上述した実施の形態3は、光周波数校正用基準信号の遠隔供給について述べたものであるが、周波数と時間は逆数関係にあるので、すなわち時間の供給でもある(図3参照)。また、光周波数間隔が一定ならばその時間周期も一定であるので、いずれかの時点で時刻と関係付ければ光ファイバを経由して時刻の“配達”も可能である。
【0033】
実施の形態5(図3参照)
上述した実施の形態3は、光周波数校正用基準信号の遠隔供給について述べたものであるが、その光は、等間隔の光高調波を含んだ近赤外の広帯域光源とみなすことができる(図3参照)。そこで、この光源を長さ測定用の干渉計(たとえば、従属型低コヒーレンス干渉計(二つの低コヒーレンス干渉計を直列に配置した干渉計)に用いることにより、長さ標準の遠隔供給(遠隔校正)が可能になる。
【0034】
実施の形態6(図3参照)
上述した実施の形態3は、光周波数校正用基準信号の遠隔供給について述べたものであるが、遠隔地に光ファイバを経由して到着した光高調波信号から光学フィルタによって隣り合う2本のスペクトルを抽出することにより、極短パルス光の周期の逆数に相当する周波数を復元できる。極短パルス光の周期はそもそも周波数基準源に同期させたのであるから、遠隔地において周波数基準源の周波数、あるいはその整数倍の周波数を復元することができ、周波数標準の遠隔供給(遠隔校正)が可能になる。
【0035】
実施の形態7(図3参照)
周波数標準の遠隔供給に関して、GPS信号を仲介した空間を伝播する第1の経路と、モード同期レーザ信号を光ファイバで伝播して到着地において光学フィルタによって隣り合う二本のスペクトルを抽出し周波数標準を復元する第2の経路の二重経路で供給し、信号伝達の信頼度を向上させた遠隔校正を行うことができる。
【0036】
実施の形態8(図5参照)
ここでは、図5を参照して、上記(II)の分野(周波数に基づかない標準量目の遠隔供給)について説明する。
【0037】
上位の標準機関から下位の標準機関あるいは産業界への周波数に関連しない物理標準の遠隔供給に際して、それぞれの標準量目の仲介器(移送標準器)を輸送しなければならないが、その特性に影響を与える輸送途中の環境(温度,湿度,気圧,振動加速度,衝撃など)をモニタリングして記録し、目的地に到着後は直ちに上位標準機関が通信手段(インターネットなど)によってその記録を入手して分析し、適切な輸送環境条件範囲であったか否かを判断する。
【0038】
そして、その分析結果が正常な特性が得られる範疇にあると判断されれば、その仲介器を用いて校正作業を実施する。校正データは再び通信手段によって上位機関に送られ、期待される校正値の範囲であるか否かが判断される。
【0039】
その結果、期待される校正値の範囲であれば、直ちに通信手段を介して認証し、校正証明書を与えることができる。
【0040】
実施の形態9
上述した各実施の形態1〜8において、遠隔校正のネットワークを形成することにより、日本国内の標準機関(認定機関を含む)のみならず国際的な標準機関の計測標準を常時相互監視することができる。すなわち、どこかの機関の標準が異常をきたしていないか、あるいは精度が劣っていないかについて、常時相互監視することができる。
【0041】
実施の形態10
上述した各実施の形態1〜8において、遠隔校正のネットワークを形成することにより、日本国内の標準機関(認定機関を含む)のみならず国際的な標準機関の計測標準を常時相互補完することができる。すなわち、どこかの機関の標準の精度が悪くなった場合には、その機関を除くほかの機関の平均値を供給することによって精度を維持できるようにすることができる。
【実施例】
【0042】
上述した各実施の形態を実施するために必要な具体的要素・技術として、以下に列挙する実施例をあげることができる。
【0043】
[1]時間標準の遠隔校正技術の開発について
GPS信号を利用した周波数遠隔校正を行う際、大きく分けると二つの方法がある。
校正する側とされる側が同一のGPS衛星(あるいはそれに準ずる衛星)を観測し、その衛星から受信する信号を媒体として利用するコモンビュー法(実施例1)。
【0044】
発振器の周波数を分周した信号とGPS衛星(あるいはそれに準ずる衛星)から発せられるクロック信号との誤差信号を検出し、その誤差信号がゼロになるように発振器に負帰還することにより正確な周波数を得る方法。
一般に、上記1)の精度が高い。
【0045】
[2]長さ標準遠隔校正技術の開発(波長)について
波長1.5μmの光通信帯域でモード同期ファイバレーザにより超短パルスレーザを発振させ、光周波数の基準になる”光コム”の安定化、および分散シフトファイバ中の非線形効果により”光コム”の広帯域化の実験を行い、1.3〜1.7μmまでのスペクトルの広がりを確認した。通信帯の「光のものさし」の精度評価として、ものさしの目にあたる繰り返し周波数が広い範囲にわたりどれだけの精度を持つか、パッシブな光周波数コムを用いて評価することができる。アセチレン安定化レーザと組み合わせた光周波数計測システムとして不確かさ1ppb(十億分率)〜0.1ppbを目指すことが可能である。
【0046】
[3]長さ標準遠隔校正技術の開発(光ファイバ応用)について
実用長さ標準器の遠隔校正を実現することを目標として、二つの低コヒーレンス光波干渉計(スペクトル幅の広い光源を用いた光波干渉計を二つ製作し、これらを連結したもの)を構成し、3km長の単一モード光ファイバーによってスーパールミネセントダイオード光(波長;800nm付近)による干渉情報を伝送させ、呼び寸法5cmのブロックゲージの測定を0.1μmの精度で行うことが可能である。
【0047】
[4]長さ標準遠隔校正技術の開発(ヨウ素安定化He−Neレーザ)について
通信ネットワークを介したヨウ素安定化He−Neレーザの制御のためにアナログ・デジタル切り替え式制御回路を開発し、双方の方式でヨウ素の吸収信号を確認し、周波数安定化が可能であることを確認した。
【0048】
[5]電気標準遠隔校正技術の開発(直流)について
10K動作可能な32,768個のNbN/TiN/NbNジョセフソン接合集積回路を開発し、また一方で10Kを発生する小型冷凍冷却器を開発した。両者を組み合わせ、16GHzのマイクロ波を照射することにより1Vのジョセフソン電圧を得ることに成功した。これをもとに、ジョセフソン電圧標準としてのシステム化を実施することが可能である。
【0049】
[6]電気標準遠隔校正技術の開発(交流)について
熱電型交直変換器(TC)、高分解能起電力検出回路、ファスト・リバースDC(Fast Reversed DC : FRDC)回路、精密デジタル正弦波発生回路および演算処理ユニットから構成されるAC−DC標準校正システムを実現することが可能である。
【0050】
[7]放射能標準遠隔校正技術の開発について
放射能標準の供給範囲拡大のため、Kr−85やXe−133などのガス状放射性物質標準の遠隔校正を行うことが考えられる。このためには、ガス状放射性物質の絶対測定用ガスカウンタ装置を用い、放射性ガスを高精度で値付ける必要がある。このガスを用いて認定事業者の保持する電離箱システム(特定二次)を比較校正することにより、他のγ線核種同様の遠隔校正が可能となり、持ち運びや封入が困難なガス状放射性物質標準のトレーサビリティ確立と供給の拡大に寄与することが可能である。
【0051】
[8]三次元測定機標準遠隔校正技術の開発について
2台の同型三次元測定機(CMM)を用いて、一方のCMMから他方のすべての機能をインターネットを介して遠隔操作できることを確認した。このシステムとライブカメラシステムを併用して、ボールプレートを使った不確かさ算出の基礎データを取得した。
【0052】
[9]流量標準遠隔校正技術の開発について
国家流量標準設備(石油大流量校正設備)において収録する計測データと画像情報をインターネットを利用してオンラインで他の研究室に送り、遠隔校正を試みることが可能である。
【0053】
[10]温度標準遠隔校正技術の開発について
インターネットを利用した温度の遠隔技能試験技術開発のために、仲介器として振動・衝撃につよい白金抵抗温度計を構成することが可能である。また、熱電対温度分布特性の評価については、熱電対温度分布特性評価装置を用いて、個々の熱電対の素線に部分的に存在する不均質の位置の特定とその大きさの測定を行い、炉の温度分布の違いに起因する温度測定の不確かさを0.1μV以下の分解能で評価することが可能である。
【0054】
[11]分野8.力学標準遠隔校正技術の開発について
圧力標準遠隔校正のために、仲介器としての高精度デジタル圧力計(大気圧領域)であるシリコンレゾナンス型を選定し、シール部をメタル製に替えてゼロ点の安定性を向上させ、実性能の評価をLANにより実施した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る遠隔校正の概念を示す説明図である。
【図2】時間・周波数の遠隔校正方法を示す説明図である。
【図3】周波数を基にした標準供給方法を示す説明図である。
【図4】周波数標準遠隔供給とリンクした電圧標準遠隔供給を示す説明図である。
【図5】周波数を基にしない量の標準供給方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 標準機関または認定事業者
2 産業界または被校正器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔地にある計量機器を校正するシステムであって、
高精度の標準を有する標準機関側においては、
計測の基準となる物理標準量もしくは化学標準量またはこれらの物理的仲介器を輸送する輸送手段を備え;
前記物理標準量もしくは化学標準量またはこれらの物理的仲介器を受け取った当該遠隔地側においては、
前記物理標準量もしくは化学標準量またはこれらの物理的仲介器に基づいて被校正機器を校正する校正手段を備え;
前記校正手段の不確かさ評価を伴った精密測定の結果による校正の値を、前記高精度の標準を有する標準機関側に備えた認証手段が認証することを特徴とする、計量機器の遠隔校正システム。
【請求項2】
請求項1に記載の遠隔校正システムにおいて、さらに加えて、
前記標準機関側および前記遠隔地側の各手段を相互結合するための遠隔校正ネットワークを備え、
前記遠隔校正ネットワークにつながった複数の機関が保有している同一標準を互いに監視する監視手段を備え、該監視手段が校正動作の確認およびその精度の確認を行うことを特徴とする、計量機器の遠隔校正システム。
【請求項3】
計量機器の遠隔校正方法として、
高精度の標準を持つ標準機関において、計測の基準となる物理標準量を通信手段を介して伝送するための伝送可能信号に変換するステップと、
前記通信手段を介して所定の遠隔地に伝送するステップと、
前記伝送可能信号が到着した目的地の標準機関、あるいは企業において当該計測標準に復元することにより校正を行うステップと、
不確かさ評価を伴った精密測定の結果による前記校正の値を、より高精度の標準を持つ標準機関側で認証するステップと、
を有することを特徴とする、計量機器の遠隔校正方法。
【請求項4】
請求項3に記載の遠隔校正方法において、上位の標準機関またはそれに準じる機関から、被校正機関または企業への標準量供給を行うに際して、
最上位の標準機関から直接に最終の被校正機関または企業を遠隔校正することにより標準量供給の階層構造数を低減させることを特徴とする、計量機器の遠隔校正方法。
【請求項5】
請求項3に記載の遠隔校正方法において、さらに加えて、
請求項3に記載の遠隔校正方法を実行するための遠隔校正ネットワークを形成し、該遠隔校正ネットワークにつながった複数の機関が保有している同一標準を相互監視する監視手段を備え、該監視手段が、校正動作の確認およびその精度の確認を行うステップ、
を有することを特徴とする、計量機器の遠隔校正方法。
【請求項6】
請求項5に記載の遠隔校正方法において、
前記相互監視を行う監視手段は、一国内の標準機関間のみならず、国際的にまたがった標準機関間においても相互監視を行うことを特徴とする、計量機器の遠隔校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−263977(P2007−263977A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154940(P2007−154940)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【分割の表示】特願2003−123782(P2003−123782)の分割
【原出願日】平成15年4月28日(2003.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年11月1日 独立行政法人産業技術総合研究所 成果普及部門広報出版部出版室発行の「AIST TODAY 2002.11 Vol.2 No.11」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「計量器校正情報システムの研究開発」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】