説明

記録再生装置

【課題】製造コストの高騰を招くことなく、高密度記録化を図り得る記録再生装置を提供する。
【解決手段】径方向において隣接するデータ記録トラックT(凸部15a)の間にグルーブG(凹部15b:非磁性領域)が設けられた磁気ディスク10(磁気記録媒体)と、磁気ディスク10からの記録データの読み取りが可能に構成された再生ヘッドとを備え、磁気ディスク10は、データ記録トラックTのトラック幅Tw(径方向に沿った長さ)が40nmで、グルーブGのグルーブ幅Gw(径方向に沿った長さ)が40nmとなるように形成され、再生ヘッドは、再生ヘッド幅が50nmとなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体を備えた記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の記録再生装置に搭載される磁気記録媒体として、垂直磁気記録方式による記録データの記録が可能に構成された垂直磁気記録媒体(以下、「磁気記録媒体」ともいう)が特開2002−298336号公報に開示されている。この磁気記録媒体は、軟磁性裏打ち層、下地層、垂直磁性層および保護層が基板(基材)の上にこの順で形成され、全体として円板状に構成されている。この場合、この磁気記録媒体では、その中心部から外縁部にかけて垂直磁性層が連続的に形成されている。また、この種の磁気記録媒体は、磁気ヘッド、ヘッド駆動機構、および制御装置などと共に記録再生装置の筐体内に配設されて、磁気ヘッドにおける記録ヘッドを介してデータ記録トラック(垂直磁性層)に記録データが記録されると共に、磁気ヘッドにおける再生ヘッドを介してデータ記録トラックから記録データが読み取られる。
【0003】
この場合、この種の磁気記録媒体を搭載した記録再生装置では、所定のデータ記録トラックに対する記録データの書き込み時において、そのデータ記録トラックに対して磁気記録媒体の径方向において隣接するデータ記録トラックに対する意図しない書き込み(サイドライト)が生じる事態を回避すべく、各データ記録トラックのピッチ(トラックピッチ)や、記録ヘッドのヘッド幅等が規定されている。また、所定のデータ記録トラックからの記録データの読み取り時において、そのデータ記録トラックに隣接するデータ記録トラックからの意図しない読み取り(クロストーク)が生じる事態を回避すべく、上記のトラックピッチや、再生ヘッドのヘッド幅等が規定されている。
【特許文献1】特開2002−298336号公報(第4−9頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の磁気記録媒体を搭載した記録再生装置(以下、「従来の記録再生装置」ともいう)には、以下の問題点がある。すなわち、従来の記録再生装置では、磁気記録媒体における中心部から外縁部にかけて連続的に形成された垂直磁性層(記録層)に対して記録データの書き込みおよび読み取りを行う構成が採用されている。一方、記録データの増大化、および電子機器の小型化が進む今日では、情報記録媒体の大形化を招くことなく記録可能容量を大容量化するために、記録密度の一層の高密度化が望まれている。このため、ハードディスクドライブ等に搭載される磁気記録媒体においても、そのトラックピッチが一層小さくなる(トラック密度が高まる)傾向がある。
【0005】
この場合、磁気記録媒体の全域に亘って連続的に形成された記録層に各データ記録トラックを所定のトラックピッチで規定して記録データを磁気的に書き込む構成の従来の記録再生装置では、隣接するデータ記録トラックに跨って垂直磁性層が連続しているため、トラックピッチを小さくするほど、前述したサイドライトやクロストーク等が発生し易くなる。また、サイドライトやクロストーク等の発生を回避するためには、所望のデータ記録トラックに記録ヘッドや再生ヘッドを正確にトラッキングさせる必要があり、非常に高精度なトラッキングサーボ制御が必要となる。このため、非常に高精度なトラッキングサーボ制御を実行可能とするために、高精度で動作可能なヘッド駆動機構、および高速な制御処理が可能な制御装置を搭載する必要がある。このように、従来の記録再生装置には、サイドライトやクロストーク等の発生を招くことなく高密度記録化を図るのが困難であると共に、高密度記録化を図る場合には、ヘッド駆動機構や制御処理等の部品コストの高騰に起因してその製造コストの高騰を招くという問題点がある。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、製造コストの高騰を招くことなく、高密度記録化を図り得る記録再生装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく本発明に係る記録再生装置は、径方向において隣接するデータ記録トラックの間に非磁性領域が設けられた磁気記録媒体と、当該磁気記録媒体からの記録データの読み取りが可能に構成された再生ヘッドとを備え、前記磁気記録媒体は、前記データ記録トラックにおける前記径方向に沿った長さが40nmで、前記非磁性領域における前記径方向に沿った長さが40nmとなるように形成され、前記再生ヘッドは、再生ヘッド幅が50nmとなるように形成されている。
【0008】
また、本発明に係る記録再生装置は、径方向において隣接するデータ記録トラックの間に非磁性領域が設けられた磁気記録媒体と、当該磁気記録媒体に対する記録データの書き込みが可能に構成された記録ヘッドとを備え、前記磁気記録媒体は、前記データ記録トラックにおける前記径方向に沿った長さが40nmで、前記非磁性領域における前記径方向に沿った長さが40nmとなるように形成され、前記記録ヘッドは、記録ヘッド幅が60nmとなるように形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る記録再生装置によれば、データ記録トラックにおける径方向に沿った長さが40nmで、非磁性領域における径方向に沿った長さが40nmとなるように形成された磁気記録媒体と、再生ヘッド幅が50nmとなるように形成された再生ヘッドとを備えたことにより、データ記録トラックのトラックピッチを小さくして十分に高密度記録化を図る構成においても、記録データの読み取り時における再生ヘッドのオフトラックに起因するクロストークの発生を回避し得る範囲(再生ヘッドのオフトラック許容量)が十分に広い記録再生装置を提供することができる。したがって、連続的に形成された記録層を有する磁気記録媒体を用いた従来の記録再生装置の高密度記録化に際して必要とされるスペックの高精度なヘッド駆動機構や高速な制御装置と比較して簡易な構成のヘッド駆動機構や制御装置によって記録データの正確な読み取りが可能な記録再生装置を構成することができるため、製造コストの高騰を招くことなく、高密度記録化が実現された記録再生装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明に係る記録再生装置によれば、データ記録トラックにおける径方向に沿った長さが40nmで、非磁性領域における径方向に沿った長さが40nmとなるように形成された磁気記録媒体と、記録ヘッド幅が60nmとなるように形成された記録ヘッドとを備えたことにより、データ記録トラックのトラックピッチを小さくして十分に高密度記録化を図る構成においても、記録データの書き込み時における記録ヘッドのオフトラックに起因するサイドライトの発生を回避し得る範囲(記録ヘッドのオフトラック許容量)が十分に広い記録再生装置を提供することができる。したがって、連続的に形成された記録層を有する磁気記録媒体を用いた従来の記録再生装置の高密度記録化に際して必要とされるスペックの高精度なヘッド駆動機構や高速な制御装置と比較して簡易な構成のヘッド駆動機構や制御装置によって記録データの正確な書き込みが可能な記録再生装置を構成することができるため、製造コストの高騰を招くことなく、高密度記録化が実現された記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る記録再生装置の最良の形態について説明する。
【0012】
最初に、本発明に係る記録再生装置の一例であるハードディスクドライブ1の構成について、図面を参照して説明する。
【0013】
ハードディスクドライブ1は、図1に示すように、磁気ヘッド2、アクチュエータ3、モータ4、制御部5および磁気ディスク10を備え、パーソナルコンピュータ等の各種電子機器に搭載可能に構成されている。磁気ディスク10は、本発明における磁気記録媒体の一例に相当するディスクリートトラック型の磁気記録媒体(パターンド媒体)であって、垂直磁気記録(PMR)方式による記録データの記録が可能に構成されている。また、図2に示すように、磁気ディスク10は、軟磁性層(SUL)12、非磁性層13および記録層14が基材11の上にこの順で形成されて全体として円板状に構成されている。軟磁性層12は、一例として、その厚みが77nmで、その残留磁束密度(Bs)が1.5Tとなるように、軟磁性材料(一例として、FeNi合金等の軟磁性材料)で薄膜状に形成されている。また、非磁性層13は、一例として、その厚みが7nmとなるように、非磁性材料(一例として、MgO等の非磁性材料)で薄膜状に形成されている。さらに、記録層14は、その厚みが7nmとなるように、磁性材料(一例として、FePt合金等の磁性材料で薄膜状に形成され、その異方性容易軸が記録層14の表面に対して垂直方向を向いて揃うように構成されている。また、記録層14は、飽和磁化量(Ms)が800emu/ccで、異方性抗磁力(Hk)が18750Oeで、交換定数(A)が1.0e−7erg/cmで、異方性分散が5度となるように構成されている。
【0014】
また、この磁気ディスク10では、図2に示すように、データ記録トラックTを構成する複数の同心円状の凸部15aと、各データ記録トラックT,Tの間のグルーブG(本発明における非磁性領域の一例)を構成する複数の凹部15bとを有する凹凸パターン15(トラックパターンPt)が形成されている。この場合、図3に示すように、この種の磁気ディスクでは、記録層14の表面から非磁性層13まで達する深さとなるように各凹部15bが形成されている。したがって、各凹部15b,15b間の各凸部15aは、その基端部側(同図における下端部側)が非磁性層13を構成する非磁性材料で形成され、その突端部側(同図における上端部側)が記録層14を構成する磁性材料で形成されている。
【0015】
また、この磁気ディスク10では、図2に示すように、各データ記録トラックT(凸部15a)における径方向に沿った長さ(トラック幅Tw)が磁気ディスク10の内周部から外周部までの全域において、40nmとなるように形成されている。さらに、この磁気ディスク10では、各グルーブG(凹部15b)における径方向に沿った長さ(グルーブ幅Gw)が磁気ディスク10の内周部から外周部までの全域において、トラック幅Twと等しい40nmとなるように形成されている。これにより、この磁気ディスク10では、そのトラックピッチTp(一例として、径方向において隣接する2つのデータ記録トラックTにおける両トラック中心Ctの間の長さ)が80nm(トラック密度314kTPI)となるように構成されている。なお、本明細書では、データ記録トラックTを構成する凸部15aにおいて最も突出している部位(この例では、凸部15aの突端面:図3に示す上面U)の位置と、磁性材料の層(この例では、記録層14)およびその下層(この例では、非磁性層13)の境界面(同図に示す下面L)の位置との間の磁気ディスクの厚み方向における中心(1/2の位置)を含み、かつ、上記の境界面と平行な基準面Xにおけるデータ記録トラックTの径方向の長さをトラック幅Twとする。また、本明細書では、基準面Xにおける凹部15bの径方向に沿った長さ(開口長)をグルーブ幅Gwとする。さらに、上記のトラック中心Ctは、トラッキングサーボ制御用の仮想のトラック中心線(基準線)であって、本明細書では、サーボパターン(図示せず)によって規定されるこの仮想のトラック中心線(基準線)をトラック中心Ctとする。
【0016】
磁気ヘッド2は、図4に示すように、再生ヘッド2rおよび記録ヘッド2wを備え、再生ヘッド2rを構成する再生素子2raと記録ヘッド2wを構成する主磁極部2waおよびリターン磁極部2wbとがスライダ2sの底面に形成されている。なお、同図に示す矢印Aは、記録再生時において磁気ヘッド2に対して磁気ディスク10が移動する方向を示している。したがって、磁気ヘッド2のヘッド走行方向(磁気ディスク10に対する磁気ヘッド2の相対的な移動方向)は、矢印Aとは逆向きとなる。この場合、再生ヘッド2rは、一例として、再生素子2raの再生ヘッド幅Rw(再生素子2raの径方向に沿った長さ)が50nmとなるように形成されている。なお、本明細書では、再生ヘッド2rにおける再生素子2raの底面(磁気ディスク10と対向する面)の幅(磁気ディスク10における径方向に沿った方向の長さ)を再生ヘッド幅Rwとする。一方、記録ヘッド2wは、一例として、主磁極部2waの記録ヘッド幅Ww(主磁極部2waにおける径方向に沿った長さ)が60nmで、主磁極部2waの残留磁束密度(Bs)が2.4Tとなるように構成されている。なお、本明細書では、記録ヘッド2wにおける主磁極部2waの底面(磁気ディスク10と対向する面)の幅(磁気ディスク10における径方向に沿った方向の長さ)を記録ヘッド幅Wwとする。この場合、この種の磁気ヘッド2では、記録ヘッド2wにおける主磁極部2waの底面形状が台形となっている。したがって、本明細書では、主磁極部2waの底面における各部の幅(磁気ディスク10の径方向に沿った方向の幅)のうちの最も長い幅(この例では、台形における径方向に沿った両辺のうちの長い方の辺の長さ)を記録ヘッド幅Wwとする。
【0017】
アクチュエータ3は、ハードディスクドライブ1におけるヘッド駆動機構を構成し、制御部5の制御に従ってアーム3a(図1参照)をスイングさせることにより、アーム3aの先端部に取り付けられている磁気ヘッド2(再生ヘッド2rおよび記録ヘッド2w)を磁気ディスク10上の所定のデータ記録トラックTにオントラックさせる。モータ4は、制御部5の制御に従い、一例として7200rpmの角速度一定の条件で磁気ディスク10を回転させる。制御部5は、ハードディスクドライブ1を総括的に制御する。具体的には、制御部5は、モータ4による磁気ディスク10の回転制御、アクチュエータ3による磁気ヘッド2のトラッキング制御、再生ヘッド2rを介しての記録データの読取り制御、および記録ヘッド2wを介しての記録データの書込み制御などを実行する。
【0018】
このハードディスクドライブ1では、磁気ディスク10に対する記録データの書き込み時において、制御部5がアクチュエータ3を制御して磁気ヘッド2を所望のデータ記録トラックTにオントラックさせ、その状態において、記録ヘッド2wを介してデータ記録トラックT(凸部15a)に記録データ(磁気的信号)を書き込む。この際に、制御部5は、データ記録トラックTのトラック中心Ctに対する記録ヘッド2wのオフトラック量が予め規定されたオフトラック許容量の範囲内となるようにアクチュエータ3を制御する。これにより、サイドライトを生じさせることなく、記録データに対応する磁化パターン(図示せず)がデータ記録トラックTに形成される。一方、磁気ディスク10からの記録データの読み取り時には、制御部5は、アクチュエータ3を制御して磁気ヘッド2を所望のデータ記録トラックTにオントラックさせ、その状態において、再生ヘッド2rを介してデータ記録トラックT(凸部15a)から記録データ(磁気的信号)を読み取る。この際に、制御部5は、データ記録トラックTのトラック中心Ctに対する再生ヘッド2rのオフトラック量が予め規定されたオフトラック許容量の範囲内となるようにアクチュエータ3を制御する。これにより、クロストークを生じさせることなく、再生ヘッド2rから出力された出力信号に基づいて記録データが再生される。
【0019】
次に、上記の磁気ディスク10を備えたハードディスクドライブ1と、従来の磁気記録媒体(記録層が全域に亘って連続的に形成された磁気記録媒体:以下、「磁気ディスク10x」ともいう)を備えたハードディスクドライブとの記録再生特性の相違点について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各特性は、LLG(Landau-Lifshits-Gilbert )マイクロマグネティックシミュレーション法によるシミュレーション結果に基づくものである。また、以下の説明においては、従来の記録再生装置に対応する構成要素の符号に「x」を付加して説明する。この場合、従来のハードディスクドライブ1xにおける記録ヘッド2wx(主磁極部2wax)の記録ヘッド幅Wwx、および再生ヘッド2rxの再生ヘッド幅Rwxについても、ハードディスクドライブ1における記録ヘッド2w(主磁極部2wa)の記録ヘッド幅Ww、および再生ヘッド2rの再生ヘッド幅Rwと等しい幅であるものとする。
【0020】
まず、図5に示すように、上記の磁気ディスク10に対して、径方向において隣接する3本のデータ記録トラックT,T,Tのうちの中央のデータ記録トラックTに1580kbpiの信号を書き込んだ後に、両サイドのデータ記録トラックT,Tに530kbpiの信号を書き込む。この際には、記録ヘッド2wの中心が各トラック中心Ctと一致する状態(記録ヘッド2wのオフトラック量が0nmの状態)において信号を書き込む。また、従来の磁気ディスク10xに対して、1580kbpiの信号を書き込むことでデータ記録トラックTxを形成した後に、そのデータ記録トラックTxの両サイドに530kbpiの信号を書き込むことで両サイドのデータ記録トラックTx,TxをトラックピッチTpxが80nm(上記の磁気ディスク10のトラックピッチTpと等しいピッチ)となるように形成する。この際には、記録ヘッド2wxの中心が各トラック中心Ctxと一致する状態(記録ヘッド2wxのオフトラック量が0nmの状態)において信号を書き込む。この場合、記録ヘッド2w,2wxにおける主磁極部2wa,2waxの底面と磁気ディスク10,10xにおける記録層14,14x(凸部15a,15axの突端面)の表面との間の磁気的スペーシングを10nmとした。なお、同図および後に参照する図7では、信号の書き込みによって形成された磁化パターンを各データ記録トラックT,Tx(Txo)上に黒色および白色の縞模様で図示している。次いで、再生ヘッド2r,2rx(図示せず)を介して中央部のデータ記録トラックT,Txから信号を読み取る。この際に、中央のデータ記録トラックT,Txにおけるトラック中心Ct,Ctx対して再生ヘッド2r,2rxを径方向に移動させつつ、再生ヘッド2r,2rxから出力される出力信号とノイズとについてのSNRを測定する。その測定結果(オフトラックプロファイル)を図6に示す。
【0021】
図6に示すように、突端部側が磁性材料で形成された凸部15aによってデータ記録トラックTが構成されている磁気ディスク10では、トラック中心Ctに対して再生ヘッド2rの中心が一致させられた状態(オントラックした状態)から、そのオフトラック量が14nm(トラックピッチTpに対する18%程度)となるまでの各状態において、再生ヘッド2rからの出力信号についてのSNRが7dB程度でほぼ一定となっている。これに対して、その全域に亘って記録層14xが連続的に形成された従来の磁気ディスク10xでは、トラック中心Ctxに対する再生ヘッド2rxのオフトラック量が大きくなるほど、再生ヘッド2rxからの出力信号についてのSNRが大きく低下する。また、磁気ディスク10では、例えば再生ヘッド2rのオフトラック量が7nm(トラックピッチTpに対する9%程度)の状態における出力信号についてのSNRが7dB程度であるのに対し、磁気ディスク10xでは、再生ヘッド2rxのオフトラック量が7nmの状態における出力信号についてのSNRが磁気ディスク10におけるSNRよりも2.2dB程度低くなっている。この場合、磁気ディスク10xにおいて再生ヘッド2rxのオフトラック量が0nmの状態(オントラックした状態)における出力信号についてのSNRは5.2dBであり、磁気ディスク10では、この5.2dB以上の特性(SNR)を維持できる範囲がオフトラック量=0nmから25nm(トラックピッチTpに対する31.2%程度)までの範囲となっている。以上の測定結果により、トラック幅Twが40nmのデータ記録トラックT(凸部15a)の両サイドにグルーブ幅Gwが40nmのグルーブG(凹部15b)を設けることで、従来の磁気ディスク10xと比較して、所望のデータ記録トラックTからの記録データの再生(信号の読み取り)時におけるクロストークが十分に回避されているのが理解できる。
【0022】
また、図7に示すように、記録ヘッド2wの中心を各トラック中心Ctに対して同図に示す矢印の向きで7nmだけオフトラックさせた状態において、磁気ディスク10に対して、径方向において隣接する3本のデータ記録トラックT,T,Tのうちの中央のデータ記録トラックTに1580kbpiの信号を書き込んだ後に、両サイドのデータ記録トラックT,Tにおけるトラック中心Ctに対し、矢印の向きで7nmずつオフトラックさせた状態において、一例として、左側のデータ記録トラックTから順に530kbpiの信号を書き込む。また、記録ヘッド2wxの中心をトラック中心Ctxに対して同図に示す矢印の向きで7nmだけオフトラックさせた状態において、磁気ディスク10xに対して、1580kbpiの信号を書き込むことで中央のデータ記録トラックTxo(以下、オフトラック状態において形成したデータ記録トラックTxについては、符号の末尾に「o」を付加して説明する)を形成した後に、一例として、そのデータ記録トラックTxoの左側のトラック中心Ctxの部位から順に各トラック中心Ctxに対して矢印の向きで7nmずつオフトラックさせた状態において530kbpiの信号を書き込むことで両サイドのデータ記録トラックTxo,Txoを形成する。この際には、記録ヘッド2w,2wxにおける主磁極部2wa,2waxの底面と磁気ディスク10,10xにおける記録層14,14x(凸部15a,15axの突端面)の表面との間の磁気的スペーシングを10nmとした。次いで、再生ヘッド2r,2rx(図示せず)を介して中央部のデータ記録トラックT,Txoから信号を読み取る。この際に、3つのトラック中心Ct,Ctxのうちの中央のトラック中心Ct,Ctxに対して再生ヘッド2r,2rxを径方向に移動させつつ、再生ヘッド2r,2rxから出力される出力信号とノイズとについてのSNRを測定する。その測定結果(オフトラックプロファイル)を図8に示す。
【0023】
図8に示すように、磁気ディスク10では、前述したように信号の書き込み時に記録ヘッド2wをデータ記録トラックT(トラック中心Ct)にオントラックさせたとき(オフトラック量が0nmのとき)の再生ヘッド2rからの出力信号についてのSNRと、信号の書き込み時に記録ヘッド2wをトラック中心Ct(データ記録トラックT)から7nmずつオフトラックさせたときの再生ヘッド2rからの出力信号についてのSNRとの差異が0.5dB程度と小さくなっている。また、磁気ディスク10では、信号の書き込み時に記録ヘッド2wをオフトラックさせたにも拘わらず、例えば、再生ヘッド2rのオフトラック量が0nmの状態(オントラックした状態)における出力信号についてのSNRが6.3dB程度であるのに対し、磁気ディスク10xでは、トラック中心Ctxに対する再生ヘッド2rxのオフトラック量が0nmの状態における出力信号についてのSNRが磁気ディスク10におけるSNRよりも4.1dB程度低くなっている。この測定結果により、記録データの書き込み時における記録ヘッド2wxのオフトラックが従来の磁気ディスク10xにおいて大きな問題(サイドライトの発生)となるのに対し、磁気ディスク10では、記録データの書き込み時において記録ヘッド2wがオフトラックしたとしても、記録データを十分に読み取ることができ、磁気ディスク10が記録データの書き込み時における記録ヘッド2wのオフトラック許容量に関して大きな優位性を持っていることが理解できる。さらに、トラック中心Ct,Ctxに対する再生ヘッド2r,2rxのオフトラック量が7nmの状態では、磁気ディスク10,10xについてのSNRの差異が4.4dBとなる。以上の測定結果により、トラック幅Twが40nmのデータ記録トラックT(凸部15a)の両サイドにグルーブ幅Gwが40nmのグルーブG(凹部15b)を設けることで、従来の磁気ディスク10xと比較して、所望のデータ記録トラックTに対する記録データの記録(信号の書き込み)時におけるサイドライトが十分に回避されているのが理解できる。
【0024】
このように、このハードディスクドライブ1によれば、データ記録トラックT(凸部15a)における径方向に沿った長さ(トラック幅Tw)が40nmで、グルーブG(凹部15b)における径方向に沿った長さが(グルーブ幅Gw)40nmとなるように形成された磁気ディスク10と、再生ヘッド幅Rwが50nmとなるように形成された再生ヘッド2rとを備えたことにより、トラックピッチTpを小さくして十分に高密度記録化を図る構成においても、記録データの読み取り時における再生ヘッド2rのオフトラックに起因するクロストークの発生を回避し得る範囲(再生ヘッド2rのオフトラック許容量)が十分に広いハードディスクドライブ1を提供することができる。したがって、ある程度簡易な構成のアクチュエータ3(ヘッド駆動機構)や制御部5によって記録データの正確な読み取りが可能なハードディスクドライブ1を構成することができるため、製造コストの高騰を招くことなく、高密度記録化が実現されたハードディスクドライブ1を提供することができる。
【0025】
また、このハードディスクドライブ1によれば、データ記録トラックT(凸部15a)における径方向に沿った長さ(トラック幅Tw)が40nmで、グルーブG(凹部15b)における径方向に沿った長さ(グルーブ幅Gw)が40nmとなるように形成された磁気ディスク10と、記録ヘッド幅Wwが60nmとなるように形成された記録ヘッド2wとを備えたことにより、トラックピッチTpを小さくして十分に高密度記録化を図る構成においても、記録データの書き込み時における記録ヘッド2wのオフトラックに起因するサイドライトの発生を回避し得る範囲(記録ヘッド2wのオフトラック許容量)が十分に広いハードディスクドライブ1を提供することができる。したがって、ある程度簡易な構成のアクチュエータ3(ヘッド駆動機構)や制御部5によって記録データの正確な書き込みが可能なハードディスクドライブ1を構成することができるため、製造コストの高騰を招くことなく、高密度記録化が実現されたハードディスクドライブ1を提供することができる。
【0026】
なお、本発明は、上記の構成および方法に限定されない。例えば、本発明における磁気記録媒体は、上記の磁気ディスク10のような層構造に限定されず、必要に応じて、基材11の上、軟磁性層12から記録層14までの各層の間、および記録層14の上に各種の機能層を設ける構成を採用することができる。また、上記の各層11〜14を形成するのに用いた材料は例示であって、その他の各種材料で各層11〜14を形成することができる。さらに、上記の磁気ディスク10において、凹部15b内にSiO等の非磁性材料を埋め込む構成を採用することもできる。また、複数の同心円状の凸部15aによってデータ記録トラックTを構成した例について説明したが、データ記録トラックTを構成する凸部が周方向においても凹部(非磁性領域)によって分離されている構成(パターンド媒体)を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ハードディスクドライブ1の構成を示す構成図である。
【図2】磁気ディスク10の層構造を示す断面図である。
【図3】磁気ディスクにおける各凸部15aおよび各凹部15bの断面形状の一例を示す断面図である。
【図4】磁気ディスク10の側から見た磁気ヘッド2の底面図である。
【図5】左図は、記録ヘッド2wをオフトラックさせることなく信号を書き込むことで磁化パターンが形成された磁気ディスク10の平面図であり、右図は、記録ヘッド2wxをオフトラックさせることなく信号を書き込むことで磁化パターンが形成された従来の磁気ディスク10xの平面図である。
【図6】記録ヘッド2w,2wxをオフトラックさせることなく信号を書き込んだ場合の再生信号のSNRと再生ヘッドのオフトラック量との関係を説明するための説明図である。
【図7】左図は、記録ヘッド2wをオフトラックさせた状態で信号を書き込むことで磁化パターンが形成された磁気ディスク10の平面図であり、右図は、記録ヘッド2wxをオフトラックさせた状態で信号を書き込むことで磁化パターンが形成された従来の磁気ディスク10xの平面図である。
【図8】記録ヘッド2w,2wxをオフトラックさせた状態で信号を書き込んだ場合の再生信号のSNRと再生ヘッドのオフトラック量との関係を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ハードディスクドライブ
2 磁気ヘッド
2r 再生ヘッド
2ra 再生素子
2w 記録ヘッド
2wa 主磁極部
5 制御部
10 磁気ディスク
14 記録層
15 凹凸パターン
15a 凸部
15b 凹部
G グルーブ
Gw グルーブ幅
Rw 再生ヘッド幅
T データ記録トラック
Tp トラックピッチ
Tw トラック幅
Ww 記録ヘッド幅
X 基準面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向において隣接するデータ記録トラックの間に非磁性領域が設けられた磁気記録媒体と、当該磁気記録媒体からの記録データの読み取りが可能に構成された再生ヘッドとを備え、
前記磁気記録媒体は、前記データ記録トラックにおける前記径方向に沿った長さが40nmで、前記非磁性領域における前記径方向に沿った長さが40nmとなるように形成され、
前記再生ヘッドは、再生ヘッド幅が50nmとなるように形成されている記録再生装置。
【請求項2】
径方向において隣接するデータ記録トラックの間に非磁性領域が設けられた磁気記録媒体と、当該磁気記録媒体に対する記録データの書き込みが可能に構成された記録ヘッドとを備え、
前記磁気記録媒体は、前記データ記録トラックにおける前記径方向に沿った長さが40nmで、前記非磁性領域における前記径方向に沿った長さが40nmとなるように形成され、
前記記録ヘッドは、記録ヘッド幅が60nmとなるように形成されている記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−164953(P2007−164953A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364138(P2005−364138)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】