説明

記録媒体の前処理装置及びこれを備えた画像形成装置

【課題】画質改善処理液により画質を向上させる際に問題となる裏移りについて、ヒータなどの多大なエネルギーを必要とする手段を用いることなく、改善することができるように工夫することこと。
【解決手段】少なくとも色材を含有するインク組成物をインクジェット記録手段を用いて吐出し、記録媒体(42)に画像を形成する画像形成装置を前提として、
上記記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部(70)と、上記インク組成物を凝集させる凝集剤を含む画質改善処理液を上記記録媒体に付与する第二の処理部(80)とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター等のインクジェット方式を用いた画像形成装置に関し、さらに詳しくは、画像形成装置における記録媒体(被記録材)の前処理装置、及びこれを備えた画像形成装置に関するものであり、インクジェット方式を用いた複写機、ファクシミリ、プリンター等に応用することができる。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録技術は、加圧オンデマンド方式や荷電制御方式などを用いて、インクを微小ノズルを通して液滴化し、画像情報に応じて紙等の記録媒体に付着させる技術であり、プリンター、ファクシミリ及び複写機のような画像形成装置に好適に用いられている。このようなインクジェット記録技術は、記録媒体に直接インクを付着させて画像を形成できるため、電子写真記録のような感光体を用いた間接記録に比べて、簡便な装置構成で記録ができ、今後、記録媒体への画像記録方式として更なる発展が期待されている。
【0003】
ここで、インクジェット記録技術について、図12を参照しながら説明する。
図12(a)に示すように、水を主成分とするビヒクル161に顔料や染料からなる色材162が分散しているインクジェット用のインク液滴163を用いて、インクジェットヘッドによりこのインク液滴163を飛翔させ、上質紙やざら紙のような非塗工紙などの記録媒体164に付着させると、図12(b)に示すように、ビヒクル161と色材162は、紙のパルプ繊維目に沿って紙内部に浸透する。このため、紙表面ではパルプ繊維目に沿ってインクが流れるため、フェザリングと呼ばれるインクドットにジャギーのような横流れが生じる。
また、カラー画像のように、紙上に1色目のインク液滴層を形成後、1色目が紙上で乾燥しないうちに2色目のインク液滴を付着させると、2色目のインクドット形状が乱れて紙表面でインクが流れ、カラーブリーディングと呼ばれるドットの滲みが生じる。
【0004】
さらに、色材162の大部分が紙内部に浸透するため、画像濃度の低下と紙裏側の濃度上昇(これを画像の裏抜けと呼ぶ)が生じる。そして、紙面でインク液滴163が紙内部に浸透する前に別のインク液滴と接触すると、インク液滴同士が合体し、ビーディングと呼ばれる所望のドット径よりも2倍以上大きなドットを形成して、著しい粒状感を発生する恐れもある。
すなわち、紙や樹脂フィルムなどの記録媒体164上の付着インク液滴によって該記録媒体の裏側までインクが浸透するという裏抜け、連続印字において、記録媒体164同士の重なりで該記録媒体裏面にインクが付着する裏移り、フェザリング、ビーディング、カラーブリーディング、記録媒体164上でのインク液滴の濃度ムラであるモトリングが発生してしまう。
【0005】
そこで、従来より、特開2006−205465号公報(「処理液、インクセット、記録物、記録方法、インクタンク、並びに、記録装置」、特許文献1)、特開2001−301138号公報(「記録媒体に二液を用いて印刷する記録方法及び装置」、特許文献2)、又は特開昭64−9279号公報(「インクジェット記録方法」、特許文献3)に記載されているように、記録媒体である上質紙やざら紙にインク液滴を付着する直前に、インクを定着させる機能を有するインク処理液、すなわち、画質改善処理液を塗布し、フェザリングやカラーブリーディングを防止している。
【0006】
以下に、上記従来の技術について、図13を参照しながら詳細に説明する。
上質紙や樹脂フィルムを記録媒体164とした場合に、インク液滴163の飛翔による高画質画像を該記録媒体上に形成するため、図13(a)に示すように、インク液滴163が付着する前に、予めインクの色材162を固定化する液、いわゆる画質改善処理液165を記録媒体164の表面に形成する。そして、図13(b)に示すように、その画質改善処理液層にインク液滴163を付着させると、図13(c)に示すように、インク中の色材162が凝集・固着してパルプ繊維目を通過できなくなり、紙表面に色材162が止まる。一方、ビヒクル161は紙内部に浸透するため、フェザリング、カラーブリーディング、画像濃度低下、及び画像の裏抜けを防止することができる。また、記録媒体が樹脂フィルムの場合も同様であり、ビヒクル161はフィルム表面に止まるものの色材162が凝集しているため動くことができず、ビーディングを防止することができる。
【0007】
このようにインク中の色材162を凝集させるためには、先ず、インク中の色材162が負イオン性もしくは正イオン性に帯電している必要がある。染料は、水中で色材自身が正又は負にイオン化する。顔料の場合、自己分散型顔料では、水中で顔料自身が正又は負にイオン化する。顔料分散剤を用いる場合は、水中で分散剤が顔料に吸着し正又は負にイオン化することで、結果的に顔料自身が正又は負にイオン化する。一般に、色材162はインク中で負イオン性を帯びて分散している。
【0008】
画質改善処理の第一の原理は、図14(a)に示すように、上記色材162が水中で負イオン性を帯びて分散したインクが、図14(b)に示すように、水中で酸性を示し多量のプロトン(正電荷)を含んだ画質改善処理液に接触すると、図14(c)に示すように、画質改善処理液中の多量のプロトンに負イオン性を帯びた色材162同士が静電的に結合し、これらの色材同士が凝集するという原理である。
画質改善処理の第二の原理は、図15(a)に示すように、上記色材162が水中で負イオン性を帯びて分散したインクが、図15(b)に示すように、水中で正電荷を有するカチオン性部材を含んだ画質改善処理液に接触すると、図15(c)に示すように、画質改善処理液中のカチオン性部材に負イオン性を帯びた色材162同士が静電的に結合し、これらの色材同士が凝集するという原理である。
また、画質改善処理の第三の原理は、図16(a)に示すように、上記色材162が水中で負イオン性を帯びて分散したインクが、図16(b)に示すように、水中で正電荷を有する金属イオンを含んだ画質改善処理液に接触すると、図16(c)に示すように、画質改善処理液中の金属イオンに負イオン性を帯びた色材162同士が静電的に結合し、これらの色材同士が凝集するという原理である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように画質改善処理液により、インク中の色材162を凝集させることによって、裏抜け、フェザリング、ビーディング、カラーブリーディングに対しては大きな効果を得ることができるが、連続印字において、記録媒体同士の重なりで記録媒体裏面にインクが付着する裏移りについては、逆に低下させてしまい効果を得ることができない。これは、画質改善処理液により凝集した色材162が紙の表面に皮膜を形成し、これによってインクのビヒクル成分が紙に吸収されるのを阻害するためであると考えられる。このような現象は、サイズ剤が多く使用されている吸水性の悪い紙に対して特に顕著であり、高速の画像形成装置では、これを防止するためにヒータなどにより乾燥させる工程が必要となっている。
インクジェット記録技術は、トナーを熱により溶融させて紙に定着させる電子写真方式に比較して、エネルギー消費の面で非常に優位性を持っている技術であるが、インクの乾燥のためにヒータを使用すればその優位性が損なわれる。
【0010】
そこで、本発明の技術的課題は、インクジェット方式の画像形成装置において、上記従来の問題点を解決するために、画質改善処理液により画質を向上させる際に問題となる裏移りについて、ヒータなどの多大なエネルギーを必要とする手段を用いることなく、改善することができるように工夫することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、上記課題を解決するために講じた手段を作用とともに説明する。
(1) 本発明に係る画像形成装置(請求項1に対応)は、少なくとも色材を含有するインク組成物をインクジェット記録手段を用いて吐出し、記録媒体に画像を形成する画像形成装置を前提として、
上記記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部と、上記インク組成物を凝集させる凝集剤を含む画質改善処理液を上記記録媒体に付与する第二の処理部とを備えるものである。
【0012】
このように構成することによって、第一の処理部において記録媒体の吸水性促進処理を行うと共に、第二の処理部において記録媒体に画質改善処理を行うので、インクジェット記録手段によって画像を形成したとき、インクの滲みを防止して高画質の画像を得ることができる。また、記録媒体へのインクの浸透乾燥を促進することができ、吸収性の悪い転写紙や高速印刷時においても裏移りを防止することが可能である。
【0013】
(2) また、上記(1)の画像形成装置において、第一の処理部は、記録媒体の搬送経路において、第二の処理部の上流側に配置することができる。(請求項2に対応)
このような構成によって、第一の処理部で吸水性促進処理をした後に、第二の処理部で画質改善処理を行うので、画像形成時にインクが記録媒体の表面に接触すると画質改善処理液中の凝縮剤がインク中の色材を凝集させるが、この凝縮反応が記録媒体の表面上で直ちに生じて、インクが記録媒体の内部へ浸透し始めるまでに凝集が起こるので、滲みを抑制する働きが強く画質を改善する効果が大きくなる。
【0014】
(3) また、上記(1)又は(2)の画像形成装置において、第一の処理部は親水化処理液を付与する処理液付与装置により構成されてもよい。(請求項3に対応)
このような構成によって、第一の処理部において記録媒体に親水化処理液を付与するので、インクの滲みを防止して高画質の画像を得ることができると共に、記録媒体でのインクの浸透乾燥を促進し、吸収性の悪い転写紙や高速印刷時にも裏移りを防止することが可能である。
また、第一の処理部での吸水性促進処理を親水化処理液を付与することにより、第二の処理部で画質改善処理液を付与することでインク中の顔料成分を凝集させた場合の乾燥性の悪化による裏移りを防止することが可能となる。
【0015】
(4) また、上記(1)又は(2)の画像形成装置において、第一の処理部は、プラズマ照射装置、コロナ放電装置、又は帯電ローラ装置のうちの1つにより構成されてもよい。(請求項4に対応)
このような構成によって、第一の処理部においてプラズマ照射装置、コロナ放電装置、又は帯電ローラ装置のうちの1つにより、記録媒体の吸水性を促進させることによって、上記(3)の画像形成装置と同様な作用を生じる。
また、第一の処理部での吸水性促進処理をプラズマ照射装置により行えば、液を使用することなく非接触な手段での処理が可能であるので、液の供給や液のこぼれなどの問題を考慮する必要がない。しかし、装置は比較的複雑で大型のものになってしまう。そこで、コロナ放電装置により行えば、プラズマ照射装置ほどの強い処理は行うことができないものの非接触でありながら簡便な装置で処理を行うことが可能であり、また、帯電ローラ装置により行えば、コロナ放電装置と同様に比較的簡便な機構で親水化処理を行うことが可能である。
【0016】
(5) また、上記(1)〜(4)のいずれかの画像形成装置において、第一の処理部は、記録媒体の吸水性を促進させる処理の程度を調整する調整手段を備えていてもよい。(請求項5に対応)
このような構成によって、紙などの記録媒体の吸水特性を考慮して吸水性促進処理を行うことが可能であり、親水化処理液を必要以上に付与する等の無駄な処理を防止することができる。
【0017】
(6) また、上記(1)〜(5)のいずれかの画像形成装置において、第二の処理部における処理の有無を切替える切替手段を備えていてもよい。(請求項6に対応)
このような構成によって、紙などの記録媒体の特性を考慮して画質改善処理を行うことが可能であり、無駄な処理液の付与を防止することができる。
【0018】
(7) また、上記(1)〜(6)のいずれかの画像形成装置において、第二の処理部で付与する画質改善処理液に含有する凝集剤は、多価金属塩、有機酸、及びポリアミン類から選ばれる1種以上であってもよい。(請求項7に対応)
このような構成によって、画質改善処理液に含まれる凝集剤として、多価金属塩、有機酸、及びポリアミン類から選ばれる1種以上の化合物を含有するので、インク中の顔料や染料などの色材成分の分散状態を不安定にして、凝集させることができ、凝集した色材成分は転写紙内部や繊維に沿った浸透をしにくくなるので、画像のにじみを防止することができる。
【0019】
(8) 本発明に係る画像形成方法(請求項8に対応)は、少なくとも色材を含有するインク組成物をインクジェット記録手段を用いて吐出し、記録媒体に画像を形成する画像形成方法を前提として、
記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部において、記録媒体の表面の吸水性を促進した後に、第二の処理部において画質改善処理液を付与し、その後、画像データに応じてインク組成物を吐出して画像を形成することである。
【0020】
このように構成することによって、第一の処理部において記録媒体の吸水性促進処理を行った後に、第二の処理部において記録媒体に画質改善処理を行い、その後、インク組成物により画像を形成するので、インクの滲みを防止して高画質の画像を得ることができるばかりでなく、記録媒体へのインクの浸透乾燥を促進することが可能であり、吸収性の悪い転写紙や高速印刷時においても裏移りを防止することができる。
また、画像形成時にインクが記録媒体の表面に接触するとインク中の色材を直ちに凝集させるので、インクが記録媒体の内部へ浸透し始めるまでに凝集が起こり、インクの浸透乾燥の促進による滲み防止機能の低下を極力抑制することができる。これにより、滲みを抑制する作用が強く少量の画質改善処理液で十分な滲み防止をすることが可能であり、画質を改善する効果が大きい。
【0021】
(9) また、上記(8)の画像形成方法において、記録媒体の種類に応じて入力される情報により、記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部による処理の程度を調整することができる。(請求項9に対応)
このような構成によって、紙などの記録媒体の吸水特性を考慮して吸水性促進処理を行うことができるので、親水化処理液を必要以上に付与する等の無駄な処理を防止することが可能である。
【0022】
(10) また、上記(8)の画像形成方法において、第二の処理部において画質改善処理液を付与する場合にのみ、上記第一の処理部での吸水性促進処理を行い、画質改善処理液を付与しない場合は親水化処理を行わなくてもよい。(請求項10に対応)
このような構成によって、紙などの記録媒体の吸水特性やインク組成物を凝集させる凝集特性を考慮して処理を行うことができるので、親水化処理液や画質改善処理液を無駄に付与する等の不要な処理を防止することができる。
【0023】
(11) 本発明に係る記録媒体の前処理装置(請求項11に対応)は、少なくとも色材を含有するインク組成物をインクジェット記録手段を用いて吐出して、記録媒体に画像を形成する前に、該記録媒体の処理を行う前処理装置であって、
上記記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部と、上記インク組成物を凝集させる凝集剤を含む画質改善処理液を上記記録媒体に付与する第二の処理部とを備えることである。
【0024】
このように構成することによって、記録媒体の前処理装置における第一の処理部において、記録媒体の吸水性促進処理を行うと共に、第二の処理部において記録媒体に画質改善処理を行うので、この記録媒体にインクジェット記録手段により画像を形成をしたとき、インクの滲みを防止して高画質の画像を得ることができる。また、記録媒体へのインクの浸透乾燥を促進することができ、吸収性の悪い転写紙や高速印刷時においても裏移りを防止することが可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の効果を整理すると次のとおりである。
第一の処理部において記録媒体の吸水性促進処理を行うと共に、第二の処理部において画質改善処理を行うので、インクの滲みを防止することができ、高画質の画像を得ることができる。また、記録媒体へのインクの浸透乾燥を促進することができ、吸収性の悪い転写紙や高速印刷時においても裏移りを防止することが可能である。
さらに、第一の処理部で吸水性促進処理をした後に、第二の処理部で画質改善処理をすることにより、画像形成時にインクが記録媒体の表面に接触するとインク中の色材を直ちに凝集させるので、インクが記録媒体の内部へ浸透し始めるまでに凝集が起こる。その結果、滲みが強く抑制され更なる高画質の画像を得ることが可能である。
そして、記録媒体の特性を考慮して処理を行うことができるので、無駄な処理を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】は、画像形成装置を前方側から見た斜視図である。
【図2】は、画像形成装置の機構部を上方から見た概略構成図である。
【図3】は、画像形成装置の機構部を側方から見た概略構成図である。
【図4】は、記録ヘッドユニットの拡大平面図である。
【図5】は、記録ヘッドユニットの拡大正面図である。
【図6】は、記録ヘッドを構成する部品の説明図であり、(a)は先端部の要部拡大図、(b)は拡大側面図、(c)は拡大平面図である。
【図7】は、記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部と、画質改善処理液を付与する第二の処理部の構成を説明する概略図である。
【図8−1】は、記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部と、画質改善処理液を付与する第二の処理部の構成を説明する概略図であり、第一の処理部がプラズマ照射装置からなる場合を示す。
【図8−2】は、記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部と、画質改善処理液を付与する第二の処理部の構成を説明する概略図であり、第一の処理部がコロナ放電装置からなる場合を示す。
【図8−3】は、記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部と、画質改善処理液を付与する第二の処理部の構成を説明する概略図であり、第一の処理部が帯電ローラ装置からなる場合を示す。
【図9】は、種々の記録媒体(転写紙)の吸水性を、JIS P 8122紙のステキヒトサイズ度試験方法により測定した結果を示す。
【図10】は、処理液の付与量を制御するローラ間圧力調整機構の概略図である。
【図11】は、第一の処理部と第二の処理部への搬送路を切替える経路切替手段の構成を説明する概略図である。
【図12】は、インクジェット記録技術について説明する模式図であり、(a)はインク液滴を飛翔させて記録媒体(紙)に付着させる様子を示し、(b)はインク中のビヒクルや色材が記録媒体内部に浸透する様子を示す。
【図13】は、従来のインクジェット記録技術について説明する模式図であり、(a)は画質改善処理液を表面に形成した記録媒体(紙)を示し、(b)は記録媒体表面の画質改善処理液層にインク液滴を付着させる様子を示し、(c)はインク中の色材が記録媒体表面に凝集・固着し、ビヒクルが記録媒体内部に浸透する様子を示す。
【図14】は、画質改善処理の第一の原理を説明する模式図であり、(a)は色材が水中で負イオン性を帯びて分散したインクを示し、(b)は水中で酸性を示し多量のプロトン(正電荷)を含んだ画質改善処理液を示し、(c)は画質改善処理液中の多量のプロトンに負イオン性を帯びた色材同士が静電的に結合し、凝集する状態を示す。
【図15】は、画質改善処理の第二の原理を説明する模式図であり、(a)は色材が水中で負イオン性を帯びて分散したインクを示し、(b)は水中で正電荷を有するカチオン性部材を含んだ画質改善処理液を示し、(c)は画質改善処理液中のカチオン性部材に負イオン性を帯びた色材同士が静電的に結合し、凝集する状態を示す。
【図16】は、画質改善処理の第三の原理を説明する模式図であり、(a)は色材が水中で負イオン性を帯びて分散したインクを示し、(b)は水中で正電荷を有する金属イオンを含んだ画質改善処理液を示し、(c)は画質改善処理液中の金属イオンに負イオン性を帯びた色材同士が静電的に結合し、凝集する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、画質改善処理液により記録媒体に形成する画質を向上させる際に、記録媒体の裏面にインクが付着する裏移りを改善するという目的を、多大なエネルギーを必要とすることなく実現したものである。
【0028】
〔画像形成装置の構成〕
先ず、本発明に係る液体付与装置を含む画像形成装置の一例について、図1を参照しながら説明する。図1は画像形成装置を前方側から見た斜視図である。
この画像形成装置は、装置本体1と、この装置本体1に装着され用紙(記録媒体)を装填するための給紙トレイ2と、装置本体1に装着され画像が記録(形成)された用紙をストックするための排紙トレイ3とを備え、さらに、装置本体1の前面4の一端部側には、該前面4から前方側に突き出し、上面5よりも低くなったカートリッジ装填部6を有しており、このカートリッジ装填部6の上面に操作キーや表示器などの操作部7を配置している。
上記カートリッジ装填部6には、液体補充手段としての液体保管用タンクであるメインタンク(以下「インクカートリッジ」という。)10が交換可能に装着され、また、開閉可能な前カバー8を有している。
【0029】
次に、この画像形成装置の機構部について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は同機構部を装置本体上方から見た概略構成図であり、図3は同機構部を装置本体側方から見た概略構成図である。
図2において、フレーム21を構成する左右の側板21A、21Bに横架したガイド部材であるガイドロッド31とステー32で、キャリッジ33を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによって図2の矢示方向(キャリッジ走査方向:主走査方向)に移動走査する。
このキャリッジ33には、記録液の液滴(インク液滴)を吐出するための液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドからなる複数の記録ヘッド35を、複数のノズルが主走査方向と交叉する方向に配列し、インク液滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0030】
ここで記録ヘッド35は、例えば、イエロー(Y)の液滴を吐出する記録ヘッド35y、マゼンタ(M)の液滴を吐出する記録ヘッド35m、シアン(C)の液滴を吐出する記録ヘッド35c、及びブラック(Bk)の液滴を吐出する記録ヘッド35kで構成している。もちろん、ここで例として挙げた4色以外の色インクを用いても良い。
なお、「記録ヘッド35」というときは色を区別しないものとする。また、ヘッド構成は、これらの例に限るものではなく、1又は複数の色の液滴を吐出する1又は複数のノズル列を有する記録ヘッドを、1又は複数用いて構成することもできる。
記録ヘッド35を構成する液滴吐出ヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、又は静電力を用いる静電アクチュエータなどを、液滴を吐出するためのエネルギー発生手段として備えたものを使用することができる。
【0031】
また、キャリッジ33には、各記録ヘッド35にそれぞれ各色の記録液を供給するための各色のサブタンク34y、34m、34c、34k(色を区別しない場合は「サブタンク34」という。)を搭載している。このサブタンク34には各色の記録液供給チューブ37を介して前述した各色のインクカートリッジ10(各色を区別する場合には、「インクカートリッジ10y、10m、10c、10k」という。)から記録液を供給するようになっている。
上記インクカートリッジ10は、図2にも示すように、カートリッジ装填部6に収納され、このカートリッジ装填部6にはインクカートリッジ10内の記録液を送液するための供給ポンプユニット23が設けられている。また、インクカートリッジ装填部6からサブタンク34に至るまでの記録液供給チューブ37は、這い回しの途中でフレーム21を構成する後板21Cに本体側ホルダ25にて固定保持されている。さらに、キャリッジ33上でも固定リブ26にて固定されている。なお、符号22は記録ヘッドを駆動するための信号ケーブルである。
【0032】
一方、図3に示されるように、給紙トレイ2の用紙積載部(底板)41上に積載した用紙42を給紙するための給紙部として、用紙積載部41から用紙(記録媒体)42を1枚ずつ分離給送する給紙コロ(半月コロ)43と、この給紙コロ43に対向し摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド44を備えており、この分離パッド44は給紙コロ43側に付勢されている。
そして、この給紙部から給紙された用紙42に対して、用紙の吸水性を促進するための処理を行う第一の処理部70と、インクの滲みを防止して画質を改善する処理液を付与する第二の処理部80を経て、処理された用紙42は記録ヘッド部へと搬送される。この用紙42を記録ヘッド35の下方側で搬送するための搬送部として、用紙42を静電吸着して搬送するための搬送ベルト51を備えている。また、この搬送ベルト51表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ56を備えている。
【0033】
上記搬送ベルト51は無端状ベルトであり、搬送ローラ57とテンションローラ58との間に掛け渡されて、図2のベルト搬送方向に周回するように構成している。帯電ローラ56は、搬送ベルト51の表層に接触し、搬送ベルト51の回動に従動して回転するように配置され、加圧力として軸の両端に各2.5Nを掛けている。
また、搬送ベルト51の裏側には、記録ヘッド35による印写領域に対応してガイド部材61を配置している。このガイド部材61は、上面が搬送ベルト51を支持する2つのローラ(搬送ローラ57とテンションローラ58)の接線よりも記録ヘッド35側に突出している。これにより、搬送ベルト51は印写領域ではガイド部材61の上面にて押し上げられてガイドされるので、高精度な平面性を維持することができる。
【0034】
さらに、記録ヘッド35で記録された用紙42を排紙するための排紙部として、搬送ベルト51から用紙42を分離するための分離爪63と、排紙ローラ64及び排紙コロ65とを備え、排紙ローラ64の下方に排紙トレイ3を備えている。ここで、排紙ローラ64と排紙コロ65との間から排紙トレイ3までの高さは、排紙トレイ3にストックできる量を多くするためにある程度高くしている。
なお、図3における符号36は信号ケーブルであり、符号54は搬送ガイド、55は加圧コロである。
【0035】
また、図2に示すように、キャリッジ33の走査方向の一方側(図2の右側)の非印字領域には、記録ヘッド35のノズルの状態を維持し回復するための装置である液体吐出装置の維持回復装置(以下「サブシステム」ともいう。)91を配置している。
このサブシステム91には、記録ヘッド35の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材92a〜92d(区別しないときは「キャップ部材92」という。)と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード93と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行なうとき、その液滴を受ける空吐出受け94と、この空吐出受け94に一体形成され、ワイパーブレード93に付着した記録液を除去するための清掃部材であるワイパークリーナ95と、ワイパーブレード93のクリーニング時に、該ワイパーブレード93をワイパークリーナ95側に押し付けるクリーナ手段を構成するクリーナコロ96などを備えている。
また、図2に示すように、キャリッジ33の走査方向の他方側(図2の左側)の非印字領域には、記録中などに増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行なうとき、液滴を受ける空吐出受け98が配置され、この空吐出受け98には記録ヘッド35のノズル列方向に沿った開口99などが設けられている。
【0036】
〔画像形成装置の動作〕
このように構成したインクジェット記録装置においては、図2及び図3に示されるように、給紙トレイ2から用紙(記録媒体)42が1枚ずつ分離給紙され、第一の処理部70と第二の処理部80の液体付与装置を通して搬送ベルト51への案内される。
このとき、図示しない制御回路によって高圧電源から帯電ローラ56に対して、プラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返す交番電圧が印加され、これにより搬送ベルト51は交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向にプラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラスとマイナスが交互に帯電された搬送ベルト51上に用紙42が給送されると、用紙42は搬送ベルト51に静電的に吸着され、搬送ベルト51の周回移動によって副走査方向に搬送される。
【0037】
そこで、キャリッジ33を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド35を駆動することにより、停止している用紙42にインク液滴を吐出して1行分の記録を行い、次に、用紙42を所定量搬送した後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙42の後端が記録領域に到達した信号を受けると、記録動作を終了して用紙42を排紙トレイ3に排紙する。
また、印字(記録)待機中には、キャリッジ33はサブシステム91側に移動されて、キャップ部材92で記録ヘッド35がキャッピングされ、ノズルを湿潤状態に保つことによりインクの乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ部材92により記録ヘッド35をキャッピングした状態でノズルから記録液を吸引(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)し、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作を行う。また、記録開始前や記録途中などに、記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作を行う。これによって、記録ヘッド35の安定した吐出性能を維持することができる。
【0038】
〔記録ヘッドユニット及び記録ヘッド〕
記録ヘッドユニットについて、図4及び図5を参照しながら説明する。図4及び図5は、記録ヘッドユニットの平面図及び正面図である。
図4に示されているように、記録ヘッドユニットはキャリッジ33に固定されており、イエロー(Y)の液滴を吐出する記録ヘッド35y、マゼンタ(M)の液滴を吐出する記録ヘッド35m、シアン(C)の液滴を吐出する記録ヘッド35c、及びブラック(Bk)の液滴を吐出する記録ヘッド35kにより記録ヘッドユニットを構成している。また、各記録ヘッド35にそれぞれ各色の記録液を供給するための各色のサブタンク34y、34m、34c、34k(色を区別しない場合は「サブタンク34」という。)を搭載している。
また、図5に示されているように、サブタンク34の両側には電気配線(FPC:可撓性プリント配線)103が装着され、記録ヘッド35を動作させる画像信号はこれを介して伝えられる。サブタンク34の上にはインク供給口102が装着されており、インクは記録液供給チューブ37を通り、該インク供給口102からサブタンク34内に補充される。
【0039】
次に、記録ヘッドを構成する部品について、図6を参照しながら説明する。
図6に示されているように、記録ヘッド35の先端面にはノズルプレート104がベース部材105の上に貼り付けられており、このノズルプレート104には微細なインク吐出口(ノズル)が多数形成されている。記録ヘッド35は、主にノズルプレート104とベース部材105とフレーム106で構成されており、この記録ヘッドのノズルプレート104と逆の面には、サブタンク34が取り付けられている。また、この記録ヘッド35には、電気信号を伝達する電気配線103が取り付けられている。
【0040】
〔インクに関する説明〕
本発明の画像形成装置に用いられる記録液(インク)は、その色材として顔料又は染料のいずれをも用いることができ、またこれらを混合して用いることもできる。
<顔 料>
上記記録液に用いる顔料としては特に限定はないが、例えば、以下に挙げる顔料が好適に用いられる。また、これら顔料は複数種類を混合して用いても良い。
有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック、アゾメチン系、ローダミンBレーキ顔料、カーボンブラック等が挙げられる。
無機顔料としては、酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロー、金属粉等が挙げられる。
【0041】
これらの顔料の粒子径は0.01〜0.30μmで用いることが好ましく、0.01μm以下では粒子径が染料に近づくため、耐光性、フェザリングが悪化してしまう。また、0.30μm以上では、吐出口の目詰まりやプリンター内のフィルターでの目詰まりが発生し、吐出安定性を得ることができない。
【0042】
ブラック顔料インクに使用されるカーボンブラックとしては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックで、一次粒径が15〜40ミリミクロン、BET法による比表面積が50〜300平方メートル/g、DBP吸油量が40〜150ml/100g、揮発分が0.5〜10%、pH値が2〜9を有するものが好ましい。
このようなものとしては、例えば、No.2300、No.900、MCF−88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(以上、三菱化学製)、Raven700、同5750、同5250、同5000、同3500、同1255(以上、コロンビア製)、Regal400R、同330R、同660R、MogulL、Monarch700、同800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、Monarch1400(以上、キャボット製)、カラーブラックFW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、プリンテックス35、同U、同V、同140U、同140V、スペシャルブラック6、同5、同4A、同4(以上、デグッサ製)等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
カラー顔料の具体例を以下に挙げる。
有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラツク、アゾメチン系、ローダミンBレーキ顔料、カーボンブラック等が挙げられる。また、無機顔料としては、酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロー、金属粉等が挙げられる。
【0044】
色別により具体的には以下のものが挙げられる。
イエローインクに使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、同2、同3、同12、同13、同14、同16、同17、同73、同74、同75、同83、同93、同95、同97、同98、同114、同128、同129、同151、同154等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
マゼンタインクに使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、同7、同12、同48(Ca)、同48(Mn)、同57(Ca)、同57:1、同112、同123、同168、同184、同202等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
シアンインクに使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、同2、同3、同15:3、同15:34、同16、同22、同60、C.I.バットブルー4、同60等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0045】
また、本発明の画像形成装置で使用する各インクに含有される顔料は、本発明のために新たに製造されたものでも使用可能である。
以上に挙げた顔料は、高分子分散剤や界面活性剤を用いて水性媒体に分散させることにより、インクジェット用記録液とすることができる。このような有機顔料粉体を分散させるための分散剤としては、通常の水溶性樹脂や水溶性界面活性剤を用いることができる。
【0046】
水溶性樹脂の具体例としては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体からなるブロック共重合体、あるいはランダム共重合体、又はこれらの塩等が挙げられる。これらの水溶性樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶なアルカリ可溶型樹脂であり、これらの中でも重量平均分子量3000〜20000のものが、インクジェット用記録液に用いた場合に、分散液の低粘度化が可能であり、かつ分散も容易であるという利点があるので特に好ましい。
【0047】
高分子分散剤と自己分散型顔料を同時に使うことは、適度なドット径が得られるため好ましい組み合わせである。その理由は明かでないが、以下のように考えられる。
高分子分散剤を含有することにより記録紙(記録媒体)への浸透が抑制される。その一方で、高分子分散剤を含有することにより自己分散型顔料の凝集が抑えられるため、自己分散型顔料が横方向にスムーズに拡がることができる。そのため、広く薄くドットが拡がり、理想的なドットが形成できると考えられる。
【0048】
また、分散剤として使用できる水溶性界面活性剤の具体例としては、下記のものが挙げられる。例えば、アニオン性界面活性剤としては、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、アルキルアリル及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルアリルエーテルリン酸塩等が挙げられる。また、カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、テトラアルキルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。更に両性界面活性剤としては、ジメチルアルキルラウリルベタイン、アルキルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0049】
また、顔料は親水性基を有する樹脂によって被覆し、マイクロカプセル化することにより分散性を与えることもできる。
水不溶性の顔料を有機高分子類で被覆してマイクロカプセル化する方法としては、従来公知のすべての方法を用いることが可能である。従来公知の方法として、化学的製法、物理的製法、物理化学的方法、機械的製法などが挙げられる。具体的には、
(1)界面重合法(2種のモノマー若しくは2種の反応物を、分散相と連続相に別々に溶解しておき、両者の界面において両物質を反応させて壁膜を形成させる方法)
(2)in−situ重合法(液体又は気体のモノマーと触媒、若しくは反応性の物質2種を連続相核粒子側のどちらか一方から供給して反応を起こさせ壁膜を形成させる方法)
(3)液中硬化被膜法(芯物質粒子を含む高分子溶液の滴を硬化剤などにより、液中で不溶化して壁膜を形成する方法)
(4)コアセルベーション(相分離)法(芯物質粒子を分散している高分子分散液を、高分子濃度の高いコアセルベート(濃厚相)と希薄相に分離させ、壁膜を形成させる方法)
(5)液中乾燥法(芯物質を壁膜物質の溶液に分散した液を調製し、この分散液の連続相が混和しない液中に分散液を入れて、複合エマルションとし、壁膜物質を溶解している媒質を徐々に除くことで壁膜を形成させる方法)
(6)融解分散冷却法(加熱すると液状に溶融し常温では固化する壁膜物質を利用し、この物質を加熱液化し、その中に芯物質粒子を分散し、それを微細な粒子にして冷却し壁膜を形成させる方法)
(7)気中懸濁被覆法(粉体の芯物質粒子を流動床によって気中に懸濁し、気流中に浮遊させながら、壁膜物質のコーティング液を噴霧混合させて、壁膜を形成させる方法)
(8)スプレードライング法(カプセル化原液を噴霧してこれを熱風と接触させ、揮発分を蒸発乾燥させ壁膜を形成させる方法)
(9)酸析法(アニオン性基を含有する有機高分子化合物類のアニオン性基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和することにより、水に対する溶解性を付与し色材と共に水性媒体中で混練した後、酸性化合物で中性又は酸性にし有機化合物類を析出させ色材に固着せしめた後に中和し分散させる方法)
(10)転相乳化法(水に対して分散能を有するアニオン性有機高分子類と色材とを含有する混合体を有機溶媒相とし、前記有機溶媒相に水を投入するか、若しくは水に前記有機溶媒相を投入する方法)、などが挙げられる。
【0050】
マイクロカプセルの壁膜物質を構成する材料として使用される有機高分子類(樹脂)としては、例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリウレア、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、多糖類、ゼラチン、アラビアゴム、デキストラン、カゼイン、タンパク質、天然ゴム、カルボキシポリメチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸の重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アルギン酸ソーダ、脂肪酸、パラフィン、ミツロウ、水ロウ、硬化牛脂、カルナバロウ、アルブミンなどが挙げられる。
【0051】
これらの中では、カルボン酸基又はスルホン酸基などのアニオン性基を有する有機高分子類を使用することが可能である。また、ノニオン性有機高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、又はそれらの(共)重合体、2−オキサゾリンのカチオン開環重合体などが挙げられる。特に、ポリビニルアルコールの完全ケンカ物は、水溶性が低く、熱水には解け易いが冷水には解け難いという性質を有しており、特に好ましい。
【0052】
また、マイクロカプセルの壁膜物質を構成する有機高分子類の量は、有機顔料又はカーボンブラックなどの水不溶性の色材に対して1重量%以上、20重量%以下である。有機高分子類の量を上記の範囲にすることによって、カプセル中の有機高分子類の含有率が比較的低いため、有機高分子類が顔料表面を被覆することに起因する顔料の発色性の低下を抑制することが可能となる。有機高分子類の量が1重量%未満ではカプセル化の効果を発揮しづらくなり、逆に20重量%を越えると、顔料の発色性の低下が著しくなる。さらに他の特性などを考慮すると、有機高分子類の量は水不溶性の色材に対して5〜10重量%の範囲が好ましい。
【0053】
すなわち、色材の一部が実質的に被覆されずに露出しているために、発色性の低下を抑制することが可能となり、また、逆に、色材の一部が露出せずに実質的に被覆されているために、顔料が被覆されている効果を同時に発揮することが可能となるのである。また、本発明に用いる有機高分子類の数平均分子量としては、カプセル製造面などから、2000以上であることが好ましい。ここで「実質的に露出」とは、例えば、ピンホール、亀裂などの欠陥などに伴う一部の露出ではなく、意図的に露出している状態を意味するものである。
【0054】
さらに、色材として自己分散性の顔料である有機顔料又は自己分散性のカーボンブラックを用いれば、カプセル中の有機高分子類の含有率が比較的低くても、顔料の分散性が向上するために、十分なインクの保存安定性を確保することが可能となるので、本発明にはより好ましい。
なお、マイクロカプセル化の方法によって、それに適した有機高分子類を選択することが好ましい。例えば、界面重合法による場合は、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリビニルピロリドン、エポキシ樹脂などが適している。in−situ重合法による場合は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミドなどが適している。液中硬化法による場合は、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アルブミン、エポキシ樹脂などが適している。コアセルベーション法による場合は、ゼラチン、セルロース類、カゼインなどが適している。また、微細で、且つ均一なマイクロカプセル化顔料を得るためには、勿論、前記以外にも従来公知のカプセル化法の全てを利用することが可能である。
【0055】
マイクロカプセル化の方法として転相法又は酸析法を選択する場合は、マイクロカプセルの壁膜物質を構成する有機高分子類として、アニオン性有機高分子類を使用する。転相法は、水に対して自己分散能又は溶解能を有するアニオン性有機高分子類と、自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの色材との複合物又は複合体、あるいは自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの色材、硬化剤及びアニオン性有機高分子類との混合体を有機溶媒相とし、該有機溶媒相に水を投入するか、あるいは水中に該有機溶媒相を投入して、自己分散化(転相乳化)しながらマイクロカプセル化する方法である。上記転相法において、有機溶媒相中に、記録液用のビヒクルや添加剤を混入させて製造しても何等問題はない。特に、直接記録液用の分散液を製造できることからいえば、記録液の液媒体を混入させる方がより好ましい。
【0056】
一方、酸析法は、アニオン性基含有有機高分子類のアニオン性基の一部又は全部を塩基性化合物で中和し、自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの色材と、水性媒体中で混練する工程及び酸性化合物でpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子類を析出させて、顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又は全部を中和することによりマイクロカプセル化する方法である。このようにすることによって、微細で顔料を多く含むアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する水性分散液を製造することができる。
【0057】
また、上記に挙げたようなマイクロカプセル化の際に用いられる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルキルアルコール類;ベンゾール、トルオール、キシロールなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;クロロホルム、二塩化エチレンなどの塩素化炭化水素類;アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;メチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類などが挙げられる。なお、上記の方法により調製したマイクロカプセルを遠心分離又は濾過などによりこれらの溶剤中から一度分離して、これを水及び必要な溶剤とともに撹拌、再分散を行い、目的とする本発明に用いることができる記録液を得る。以上の如き方法で得られるカプセル化顔料の平均粒径は50nm〜180nmであることが好ましい。
このように樹脂被覆することによって顔料が印刷物にしっかりと付着することにより、印刷物の擦過性を向上させることができる。
【0058】
<染 料>
本発明の画像形成装置の記録液に用いられる染料としては、カラーインデックスにおいて酸性染料、直接性染料、塩基性染料、反応性染料、食用染料に分類される染料であり、耐水、耐光性の優れたものが用いられる。これらの染料は複数種類を混合して用いても良いし、あるいは必要に応じて顔料等の他の色材と混合して用いても良い。これらの着色剤は、本発明の効果が阻害されない範囲で添加される。
【0059】
(a)酸性染料及び食用染料として
C.I.アシッド・イエロー 17,23,42,44,79,142
C.I.アシッド・レッド 1,8,13,14,18,26,27,35,37,42,52,82,87,89,92,97,106,111,114,115,134,186,249,254,289
C.I.アシッド・ブルー 9,29,45,92,249
C.I.アシッド・ブラック 1,2,7,24,26,94
C.I.フード・イエロー 3,4
C.I.フード・レッド 7,9,14
C.I.フード・ブラック 1,2
【0060】
(b)直接染料として
C.I.ダイレクト・イエロー 1,12,24,26,33,44,50,86,120,132,142,144
C.I.ダイレクト・レッド 1,4,9,13,17,20,28,31,39,80,81,83,89,225,227
C.I.ダイレクト・オレンジ 26,29,62,102
C.I.ダイレクト・ブルー 1,2,6,15,22,25,71,76,79,86,87,90,98,163,165,199,202
C.I.ダイレクト・ブラック 19,22,32,38,51,56,71,74,75,77,154,168,171
【0061】
(c)塩基性染料として
C.I.ベーシック・イエロー 1,2,11,13,14,15,19,21,23,24,25,28,29,32,36,40,41,45,49,51,53,63,64,65,67,70,73,77,87,91
C.I.ベーシック・レッド 2,12,13,14,15,18,22,23,24,27,29,35,36,38,39,46,49,51,52,54,59,68,69,70,73,78,82,102,104,109,112
C.I.ベーシック・ブルー 1,3,5,7,9,21,22,26,35,41,45,47,54,62,65,66,67,69,75,77,78,89,92,93,105,117,120,122,124,129,137,141,147,155
C.I.ベーシック・ブラック 2,8
【0062】
(d)反応性染料として
C.I.リアクティブ・ブラック 3,4,7,11,12,17
C.I.リアクティブ・イエロー 1,5,11,13,14,20,21,22,25,40,47,51,55,65,67
C.I.リアクティブ・レッド 1,14,17,25,26,32,37,44,46,55,60,66,74,79,96,97
C.I.リアクティブ・ブルー 1,2,7,14,15,23,32,35,38,41,63,80,95等が使用できる。
【0063】
<染料・顔料共通の添加剤、物性>
本発明の画像形成装置に用いる記録液を所望の物性にするため、あるいは乾燥による記録ヘッドのノズルの詰まりを防止するためなどの目的で、色材の他に、水溶性有機溶媒を使用することが好ましい。この水溶性有機溶媒には湿潤剤、浸透剤が含まれる。
湿潤剤は、乾燥による記録ヘッドのノズルの詰まりを防止する目的で添加される。この湿潤剤の具体例としては、次のものが挙げられる。
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、グリセリン、1,2,6−へキサントリオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、γ−ブチロラクトン等である。これらの溶媒は、水とともに単独もしくは複数混合して用いられる。
【0064】
また、浸透剤は記録液と記録媒体(被記録材)の濡れ性を向上させ、浸透速度を調整する目的で添加される。浸透剤としては、下記の式(I)〜(IV)で表されるものが好ましい。すなわち、式(I)のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、式(II)のアセチレングリコール系界面活性剤、式(III)のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、及び式(IV)のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル系界面活性剤は、記録液の表面張力を低下させることができるので、濡れ性を向上させ浸透速度を高めることができる。
【0065】
【化1】

(Rは分岐していても良い炭素数6〜14の炭化水素鎖、kは5〜20)
【0066】
【化2】

(m,nは0〜40)
【0067】
【化3】

(Rは分岐してもよい炭素数6〜14の炭化水素鎖、nは5〜20)
【0068】
【化4】

(Rは炭素数6〜14の炭化水素鎖、m,nは20以下の数)
【0069】
上記の式(I)〜(IV)の化合物以外では、例えば、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコール類を用いることができるが、特にジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0070】
本発明の画像形成装置に用いる記録液の表面張力は、20〜60dyne/cmであることが好ましく、記録媒体との濡れ性と液滴の粒子化の両立の観点からは、30〜50dyne/cmであることがさらに好ましい。
本発明の画像形成装置に用いる記録液の粘度は、1.0〜20.0cPであることが好ましく、吐出安定性の観点からは、3.0〜10.0cPであることがさらに好ましい。
また、本発明の画像形成装置に用いる記録液のpHは3〜11であることが好ましく、接液する金属部材の腐食防止の観点からは、6〜10であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明の画像形成装置に用いる記録液は防腐防黴剤を含有することができる。防腐防黴剤を含有することによって、菌の繁殖を押さえることができ、保存安定性、画質安定性を高めることができる。防腐防黴剤としては、ベンゾトリアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、イソチアゾリン系化合物、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が使用できる。
また、本発明の画像形成装置に用いる記録液は防錆剤を含有することができる。防錆剤を含有することによって、記録ヘッド等の接液する金属面に被膜を形成し、腐食を防ぐことができる。防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等が使用できる。
【0072】
本発明の画像形成装置に用いる記録液は酸化防止剤を含有することができる。酸化防止剤を含有することによって、腐食の原因となるラジカル種が生じた場合にも、酸化防止剤がラジカル種を消滅させることにより腐食を防止することができる。酸化防止剤としては、フェノール系化合物類、アミン系化合物類が代表的である。
【0073】
フェノール系化合物類としては、ハイドロキノン、ガレート等の化合物、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3(3',5'−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のヒンダードフェノール系化合物が例示される。
【0074】
アミン系化合物類としては、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N'−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジフェニルエチレンジアミン、フェノチアジン、N,N'−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、4,4'−テトラメチル−ジアミノジフェニルメタン等が例示される。
【0075】
本発明の画像形成装置に用いる記録液はpH調整剤を含有することができる。pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ジエタノールアミン、トリエタノ−ルアミン等のアミン類、硼酸、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることができる。
【0076】
〔第一の処理部、及び第二の処理部〕
次に、非吸収性ではない転写紙などの記録媒体の吸水性を促進するための処理液を付与する第一の処理部70と、少なくとも色材を含有するインク組成物を凝集して画質を改善するための処理液を付与する第二の処理部80について、図7を参照しながら説明する。図7は、第一の処理部と第二の処理部の構成を示す概略図である。
上記第一の処理部70は、記録媒体の表面を親水化して吸水性を促進させるための処理液を付与する液体付与装置(液体塗布装置)であって、界面活性剤を含む吸水性促進処理液を貯えるタンク71と、このタンク71内の吸水性促進処理液に少なくともその一部分が接液するように設置された供給ローラ72と、この供給ローラ72と回転軸が平行で円筒表面が接触するように設けられた塗布ローラ73と、この塗布ローラ73に対して同様に回転軸が平行で円筒表面が接触するように設けられた対向ローラ74とから構成されている。上記供給ローラ72は、タンク71内の処理液を汲み上げて塗布ローラ73へ供給する。吸水性促進処理液は、別に貯蔵タンクを設けておき、必要に応じて貯蔵タンクからタンク71へ補充するようにしても良い。
【0077】
上記供給ローラ72と塗布ローラ73は、軸方向にほぼ均一な圧力となるように接触し、供給ローラ72によって汲み上げられた処理液の一定量が両ローラ間のニップを通過して、塗布ローラ73の円筒表面上に処理液の液膜を形成する。必要であれば、複数本の供給ローラを設けても良いし、塗布ローラ73との間に更に中間ローラを設けても構わない。供給ローラ72と塗布ローラ73の回転は等速であっても線速度差を設けても良く、塗布ローラ73上に平均的に均一な量の液膜を形成することができる構成であれば、これに限定されるものではない。図7に示すものでは、供給ローラ72と対向ローラ74は塗布ローラ73を挟んで対向する位置に配置されているが、この位置関係はこれに限定されるものではない。上記塗布ローラ73の表面上の処理液は、対向ローラ74との間を記録媒体が通過する際に該記録媒体の表面に付与されるように構成されている。
【0078】
第二の処理部80は、インクの滲みを防止して画質を改善するための処理液を付与する液体付与装置であって、上記第一の処理部70と同様に、処理液を貯えるタンク81、供給ローラ82、塗布ローラ83、及び対向ローラ84から構成されており、上記タンク81内の処理液が、色材を含有するインク組成物を凝集させる凝集剤を含む画質改善処理液となっているものであり、記録媒体の表面にこの処理液を付与することができる。
上記第一の処理部と第二の処理部における液体付与装置として、薄層塗布が容易なロールコーターの例を示したが、これに限るものではなく、スプレーコーターやスリットコーターなどであっても構わない。また、処理液をインクジェット方式により記録媒体表面に付与する構成であっても構わない。
【0079】
第一の処理部70では、記録媒体の表面に界面活性剤を含有する処理液を塗布し、表面を親水性とすることにより記録媒体の吸水性を向上させている。
一般に、画像形成装置で使用される記録媒体(転写紙)には、水への耐性を向上させる目的でサイズ剤が付与されている。サイズ剤として用いられるのはデンプンの他、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ポリアクリルアマイド(PAM)、ケテンダイマーなど多数ある。デンプンをスチレン、アクリル系のポリマーと重合させた(何らかの化学結合をしていると考えられる)デンプン含有型表面サイズ剤も開発されている。このサイズ剤は、インクジェットの水性インクに対する耐性と受容性を併せ持ち、サイズ剤の分散がよく、印字品質を向上させる。サイズ剤の効果により、本来親水性のパルプ繊維が撥水性となって、記録媒体の吸水性は低下している。
そこで、表面に界面活性剤を塗布して親水性とすることにより、記録媒体の吸水性を向上させることができる。
【0080】
このような界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンアルキルソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤;アルキル硫酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸液、アルキルベンゼンスルフォン酸塩類、N−アシルアミノ酸塩類、アルキルスルホコハク酸塩類、アルキルリン酸塩類等の陰イオン系界面活性剤;ベンザルコニウム塩類などの4級アミン類等の陽イオン系界面活性剤;パーフルオロアルキルリン酸エステル類、パーフルオロアルキルカルボン酸塩類、パーフルオロアルキルベタイン類等のフッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0081】
これらの中でより具体的で好ましい浸透剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、フッ素系界面活性剤であり、これらは浸透性を高める効果が大きい。
これらの界面活性剤のうち1つあるいは複数の水溶液を付与すればよく、これらの界面活性剤の添加量は、種類によっても異なるが、0.05〜10質量%程度を10〜200mg/A4程度付与することが好ましい。付与量が多くなると、処理液の水分による記録媒体(記録紙)のカールや波打ちの発生の要因となるので、付与量は10〜100mg/A4程度に抑えることが好ましい。
さらに、揮発防止のために、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン等の水溶性有機溶媒を適宜加えると良い。
【0082】
非吸収性ではない転写紙などの記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部70として、図8−1〜図8−3に示すように、処理液付与装置(処理液塗布装置)に替えてプラズマ照射装置111、コロナ放電装置112、又は帯電ローラ装置113を設けることにより、プラズマ放電、コロナ放電、又は帯電によりエネルギー照射を行う方法がある。プラズマ照射装置111としては、減圧しない大気圧下で処理する大気圧プラズマ放電装置を使用すれば減圧のための装置が不要であり、画像形成装置に組み込むことも可能である。また、コロナ放電装置112や帯電ローラ装置113は、電子写真方式の画像形成装置の感光体を帯電させるために使用されており、小型で本発明のような画像形成装置に組み込むことが容易である。
【0083】
第二の処理部80では、インクに含まれる顔料などの色材を凝集させる凝集剤を含んだ画質改善処理液を付与している。この上にインクジェット方式により画像を形成すると、この処理液の作用によりインク中の顔料が凝集し、滲みのない画像を得ることができる。この凝集の際にインクのビヒクル成分が分離し、これが凝集し記録媒体(転写紙)の表面にフィルム化した顔料によって、記録媒体内部への浸透が遅れて裏移りなどの問題を引き起こすことになるが、予め第一の処理部70において、記録媒体の表面を親水化させておくことにより、顔料と分離したビヒクル成分の記録媒体内部への浸透を促進させるので、裏移り等の問題を引き起こすことなく画質のみを改善することができる。
【0084】
このような凝集剤としては、インク中に含有される色材を凝集あるいは沈降させる化合物を含有する。該機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、溶解性、インク保存安定性の観点から、有機酸、多価金属塩、ポリアミン類から選択される1種以上の化合物であることが好ましい。
【0085】
−有機酸−
有機酸の具体例としては、2−ピロリドン−5−カルボン酸、4−メチル−4−ペンタノリド−3−カルボン酸、フランカルボン酸、2−ベンゾフランカルボン酸、5−メチル−2−フランカルボン酸、2,5−ジメチル−3−フランカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、4−ブタノリド−3−カルボン酸、3−ヒドロキシ−4−ピロン−2,6−ジカルボン酸、2−ピロン−6−カルボン酸、4−ピロン−2−カルボン酸、5−ヒドロキシ−4−ピロン−5−カルボン酸、4−ピロン−2,6−ジカルボン酸、3−ヒドロキシ−4−ピロン−2,6−ジカルボン酸、チオフェンカルボン酸、2−ピロールカルボン酸、2,3−ジメチルピロール−4−カルボン酸、2,4,5−トリメチルピロール−3−プロピオン酸、3−ヒドロキシ−2−インドールカルボン酸、2,5−ジオキソ−4−メチル−3−ピロリン−3−プロピオン酸、2−ピロリジンカルボン酸、4−ヒドロキシプロリン、1−メチルピロリジン−2−カルボン酸、5−カルボキシ−1−メチルピロリジン−2−酢酸、2−ピリジンカルボン酸、3−ピリジンカルボン酸、4−ピリジンカルボン酸、ピリジンジカルボン酸、ピリジントリカルボン酸、ピリジンペンタカルボン酸、1,2,5,6−テトラヒドロ−1−メチルニコチン酸、2−キノリンカルボン酸、4−キノリンカルボン酸、2−フェニル−4−キノリンカルボン酸、4−ヒドロキシ−2−キノリンカルボン酸、6−メトキシ−4−キノリンカルボン酸、フタル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、これらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等の化合物が挙げられる。これらはpH調整等の機能も有する。
上記有機酸の中でも、好ましくは、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フタル酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩である。
【0086】
−多価金属塩−
多価金属塩としては、アルミニウムイオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、銅イオン、鉄イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、スズイオン、チタンイオン、亜鉛イオン等の多価金属イオンと、塩酸、臭酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、チオシアン酸、並びに酢酸、蓚酸、乳酸、フマル酸、フマル酸、クエン酸、サリチル酸、フタル酸、安息香酸等の有機カルボン酸、及び有機スルホン酸の塩等が挙げられる。
具体例としては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、酸化バリウム、硝酸バリウム、チオシアン酸バリウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、チオシアン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、酢酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、酒石酸カルシウム、乳酸カルシウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化銅、臭化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、蓚酸鉄、乳酸鉄、フマル酸鉄、クエン酸鉄、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、リン酸二水素マンガン、酢酸マンガン、サリチル酸マンガン、安息香酸マンガン、乳酸マンガン、塩化ニッケル、臭化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硫酸スズ、塩化チタン、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛、酢酸亜鉛等の多価金属類の塩等が挙げられる。
【0087】
−ポリアミン類−
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、ジアリルアミン重合体、モノアリルアミン重合体、及びこれら化合物のスルフォニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、又はリン酸エステル等が挙げられる。
【0088】
本発明においては、凝集剤は単独で使用しても、あるいは2種類以上を混合して使用しても構わない。また、処理液組成物中における凝集剤の添加量は、溶解性の観点から、5質量%以上で30質量%以下であることが好ましく、記録媒体に付与する処理液の量としては、10〜200mg/A4程度が好ましい。より好ましくは、10質量%以上で20質量%以下の凝集剤を含む処理液を10〜100mg/A4程度付与することが好ましい。
処理液の付与量が多くなると、処理液の水分による記録媒体(転写紙)のカールや波打ちの発生の要因となり、少ないと均一に付与することが困難である。また、処理液中における凝集剤の添加量が5質量%未満の場合には、記録媒体上でインクと処理液とが接触・混合した時に顔料の凝集が不充分となり、画像濃度、滲み、色間滲みが悪化する場合が存在し、一方、添加量が30質量%を超えて添加しても、画質に対する改善の効果はあまり変化せず無駄になってしまう。
【0089】
本発明と類似した構成を持つ発明として、特開2004−90596号公報(「画像形成方法及び画像形成装置」)に記載されたものがある。この発明は非吸収性の素材からなる中間転写体上を親水化処理した後、凝集剤として金属塩を含有する反応液を付与し、その後、インクジェット方式で画像を形成して、これを転写紙(記録媒体)に転写するものである。この発明では、非吸収性の素材に対してインクジェット方式で画像を形成した場合、インクをはじいてしまうのでこれを防止するために親水化処理しているものであり、本発明とは目的も効果も異なるものである。この発明においても、凝集剤によりインク中の色材を凝集させて画質の改善を行っている点が本発明と類似するものの、非吸収性の部材において親水化処理しても吸水性を向上させる効果はなく、本発明のように、凝集により分離したビヒクル成分を、表面が親水化され吸水性能が高められた記録媒体の中にいち早く吸収するという構成は、容易に想到できるものではない。
【0090】
本発明は、図7に示されているように、第一の処理部70で記録媒体の表面を親水化処理して表面からの吸水性を向上させた後に、第二の処理部80でインク中の色材である顔料等を凝集させる凝集剤を含有する処理液を付与し、その後、インクジェット方式でインクを付与して画像を形成する画像形成装置である。
第一の処理部70は第二の処理部80と前後していても構わないが、しかし、第一の処理部70で処理した後に、第二の処理部80で処理することが好ましい。その理由は、第二の処理部80で付与する処理液は、処理液中の凝集剤がインクと接触してインク中の色材を凝集させるものであるので、この凝集が記録媒体の表面上で起こるほど滲みが発生しにくい。すなわち、インクが記録媒体の表面に接触してから内部へ浸透し始めるまでの間に、この凝集反応が起こることが望ましい。インクが内部に浸透してから、処理液に接触して凝集する場合には、既にインクの色材が記録媒体の内部にある程度浸透している状態であり、それまでの浸透する過程において滲みが発生するからである。
【0091】
一方、第二の処理部80で画質改善処理液を付与した後に、第一の処理部70において吸水性を促進する界面活性剤を付与する処理を行った場合は、第二の処理部80で付与した画質改善処理剤を覆うようにして吸水性促進処理液が付与されるので、インクの色材が画質改善処理液の凝集剤に接触して凝集するまでに、インクの色材が記録媒体内部に浸透し始めてしまうことになるので、滲みを抑制して画質を改善する効果が弱くなってしまう。
【0092】
特許第2675001号公報(特開昭63−299970号公報、「インクジェット記録方法」)に記載されているように、画質改善処理液に界面活性剤を含有させることがある。画質改善処理液を記録媒体の表面に均一に付与するために界面活性剤が用いられることは、一般的に多く行われていることである。このようにしても、記録媒体へのインクの浸透性を向上させる効果があり、凝集後のビヒクル成分の浸透にも寄与し、乾燥性が向上する効果もあると思われる。
しかし、上述した先に画質改善処理液を付与する場合と同様に、画質改善処理液中の凝集剤によって色材が凝集するまでに、処理液中の界面活性剤によりインクの色材が記録媒体の内部に浸透することになり、画質改善処理液による効果を弱めることになる。このために、画質改善処理液中の凝集剤の量を必要量以上に増やすことになり無駄になる。また、凝集剤との組み合わせによっては、凝集剤の効果を弱めたり析出させたりしてしまうという問題がある。例えば、多価金属塩を凝集剤として使用する場合には、イオン性の界面活性剤は金属塩と反応して析出してしまったり、有機酸を凝集剤として使用する場合には、カチオン系の界面活性剤が使用できないなどの制約を受けることになる。
【0093】
本発明の装置で使用される記録媒体は、使用者がその目的に応じて選択するものであって、非常に多くの種類がある。記録媒体によって吸水性能には大きな差があり、これら全ての記録媒体に同様の処理を行うことは、十分な処理ができなかったり、無駄に処理液を使用することになる。図9は、様々な記録媒体(転写紙)の吸水性を、JIS P 8122紙のステキヒトサイズ度試験方法により測定したものであり、記録媒体によって大きく異なっていることが分かる。
記録媒体の吸水性を促進させる処理は、前述したように、記録媒体に耐水性を持たせる目的で使用されているサイズ剤の疎水効果を減退させることにより行っているものであり、例えば、処理剤として界面活性剤を付与するのであれば、その付与量を調整することにより、吸水性を促進させる効果を制御することができる。
【0094】
図7に示されているロールコーター方式による処理液付与装置では、塗布される処理液の量は、供給ローラ72と塗布ローラ73のニップ部を通過する処理液の量によって決まり、ニップ部を通過する処理液の量は、供給ローラ72と塗布ローラ73の表面が平滑であれば、該処理液の粘度とローラ間ニップの圧力で決まる。そして、該処理液の粘度はその処理液により決まるので、ローラ間ニップの圧力を調整することによりニップ部を通過する処理液の量を制御することができる。
図10には、ローラ間ニップの圧力を調整する調整機構75が示されており、この調整機構75により処理液の付与量を制御することが可能である。供給ローラ72は、加圧レバー76を介して加圧バネ77により塗布ローラ73へ押圧されている。この加圧バネ77の押圧力を調整カム78で調整することにより、ローラ間の圧力を調整することができる。加圧レバー76を供給ローラ72の両端部に設けることにより、軸方向に均一に加圧することができる。調整機構75はこれに限るものではなく、ネジを回転させて加圧バネ77の押圧力を調整することも可能である。
【0095】
また、処理液の付与量の調整は、供給ローラ72と塗布ローラ73の速度比を変えることによっても可能である。
弾性流体潤滑理論によれば、ローラ間ニップを通過する液量はローラの平均速度の0.6乗に比例するので、塗布ローラの速度を一定にして、供給ローラの速度を変えることにより、ローラ間ニップを通過する液量を制御することができる。(「オフセット印刷機」、三菱重工(株)三原製作所編、頼経治著、日本印刷新聞社刊、p.91を参照)
さらに、非吸収性ではない転写紙などの記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部70が、プラズマ放電、コロナ放電、又は帯電ローラなどの手段(図8−1〜図8−3を参照)によるものである場合には、印加する電圧や電流を調整して照射するエネルギーの強さを調整することにより、吸水性を促進させる割合を制御することができる。
【0096】
このような調整手段は、画像形成装置の操作部あるいは接続されたPC(パソコン:Personal Computer)の設定画面から入力情報によって調整できるようになっており、使用者が記録媒体の種類に応じて選択するようになっている。また、予め選択された記録媒体の種類により自動的に選択されるようなデータが設定されていても構わない。いずれにしても、記録媒体に応じて処理状態を調整することができるようになっている。
これにより、吸水性の良い層を備えた専用コート紙などに無駄に処理を行うこともなく、記録媒体の吸水性に応じて適度な処理を行うことが可能となる。
【0097】
インクジェット専用の滲み防止処理済みのコート紙では、画質改善処理液も必要ない。そこで、第二の処理部80において、画質改善処理液の付与の有無を切り換えられるような機構を備えていると良い。図7に示されるロールコーターによる処理液付与装置では、塗布ローラ83を対向ローラ84から離間して隙間を設けて、そこを記録媒体が通過するようにすると良い。また、供給ローラ82を停止したり、塗布ローラ83から離間しても同様の効果を得ることができる。さらに、図11に示すように、記録媒体の搬送経路に経路切替手段68を設けてこれを切替えることにより、第一の処理部70又は第二の処理部80を通過させないで、画像形成部へ記録媒体を直接搬送するようにしても良い。
例えば、インクジェット専用の滲み防止処理済みのコート紙を使用する際には、画質改善処理液は不要なので、この経路切替手段により付与しないようにすることができる。このような切替えは操作部から行っても良いし、接続されたPCのプリンター設定画面から操作しても良い。また、給紙カセットを備える場合には、給紙カセットに記録媒体の種類(紙種)を指定するスイッチを設けておき、これを自動的に検知して切替えることも可能である。
【0098】
このように画質改善処理を必要としない専用紙では、吸水性能も備えているので、これに連動して吸水性能を促進するための第一の処理部70での処理も行わないようにすると、無駄な処理を行わなくて済む。
【実施例】
【0099】
以下に、本発明の実施例について説明する。
◇吸水性を促進するための処理液処方
希釈溶媒:イオン交換水 88wt%
界面活性剤:サイテック社 エアロゾル A196 2wt%
増粘剤:プロピレングリコール 10wt%
水に全ての材料を混合した後、10分間ゆっくり攪拌して処理液とした。
◇画質改善処理液処方
希釈溶媒:イオン交換水 60wt%
凝集剤:乳酸 20wt%
増粘剤:プロピレングリコール 20wt%
水に全ての材料を混合した後、10分間ゆっくり攪拌して画質改善処理液とした。
【0100】
上記吸水性を促進するための処理液を100mg/A4、あるいは150mg/A4塗布した後に、画像改善処理液を50mg/A4塗布し、さらに、インクジェットプリンターIPSIO GX5000(リコー製)のインク吐出部で150dpiの孤立ドット画像を印字し、印字後0.4秒後に転写紙(EPSON スーパーファイン紙)を巻き付けたロールを1N/cmの線圧で押し付けて、転写紙にオフセットする画像の状態から乾燥性を評価し、ドットの形状から画質を判断した。
転写紙はマイペーパー(NBSリコー製)、マイリサイクル紙(NBSリコー製)、スーパーファイン紙(EPSON)を用いて行った。
【0101】
評価結果を次の表1〜表3に示す。
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

ロールに巻き付けた転写紙へのオフセットの状況から、4段階で判定した。
◎:全くなし ○:よく見るとある △:あるが許容範囲 ×:オフセットが多い
【0104】
画像改善処理液の使用により悪くなった乾燥性を、処理液により転写紙の吸水性を促進することによって解決することができた。もともと吸水性の良くないマイリサイクル紙でも、上記表2に示すように、処理液の量により乾燥性を向上させることができる。また、もともと滲み防止処理を施してあるスーパーファイン紙では、上記表3に示すように、処理の有無による差は見られず、処理を行う必要はない。
画質改善処理液処方の凝集剤を硝酸カルシウムに置き換えて同様の評価を行ったところ、全く同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0105】
1…画像形成装置本体 2…給紙トレイ
3…排紙トレイ
6…カートリッジ装填部
10,10y,10m,10c,10k…インクカートリッジ
33…キャリッジ
34,34y,34m,34c,34k…サブタンク
35,35y,35m,35c,35k…記録ヘッド
42…記録媒体(用紙)
43…給紙コロ 51…搬送ベルト
64…排紙ローラ 68…経路切替手段
70…第一の処理部 80…第二の処理部
71,81…タンク 72,82…供給ローラ
73,83…塗布ローラ 74,84…対向ローラ
111…プラズマ照射装置 112…コロナ放電装置
113…帯電ローラ装置 161…ビヒクル
162…色材 163…インク液滴
164…記録媒体(用紙) 165…画質改善処理液
【先行技術文献】
【特許文献】
【0106】
【特許文献1】特開2006−205465号公報
【特許文献2】特開2001−301138号公報
【特許文献3】特開昭64−9279号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも色材を含有するインク組成物をインクジェット記録手段を用いて吐出し、記録媒体に画像を形成する画像形成装置において、
上記記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部と、
上記インク組成物を凝集させる凝集剤を含む画質改善処理液を上記記録媒体に付与する第二の処理部と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
上記第一の処理部は、記録媒体の搬送経路において、上記第二の処理部の上流側に配置することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
上記第一の処理部は親水化処理液を付与する処理液付与装置により構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
上記第一の処理部は、プラズマ照射装置、コロナ放電装置、又は帯電ローラ装置のうちの1つにより構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
上記第一の処理部は、記録媒体の吸水性を促進させる処理の程度を調整する調整手段を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
上記第二の処理部における処理の有無を切替える切替手段を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
上記第二の処理部で付与する画質改善処理液に含有する凝集剤は、多価金属塩、有機酸、及びポリアミン類から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
少なくとも色材を含有するインク組成物をインクジェット記録手段を用いて吐出し、記録媒体に画像を形成する画像形成方法において、
記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部において、記録媒体の表面の吸水性を促進させた後に、第二の処理部において画質改善処理液を付与し、その後、画像データに応じてインク組成物を吐出して画像を形成することを特徴とする画像形成方法。
【請求項9】
記録媒体の種類に応じて入力される情報により、記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部による処理の程度を調整することを特徴とする請求項8に記載の画像形成方法。
【請求項10】
上記第二の処理部において画質改善処理液を付与する場合にのみ、上記第一の処理部での吸水性促進処理を行い、画質改善処理液を付与しない場合は親水化処理を行わないことを特徴とする請求項8に記載の画像形成方法。
【請求項11】
少なくとも色材を含有するインク組成物をインクジェット記録手段を用いて吐出して、記録媒体に画像を形成する前に、該記録媒体の処理を行う前処理装置であって、
上記記録媒体の吸水性を促進させる第一の処理部と、
上記インク組成物を凝集させる凝集剤を含む画質改善処理液を上記記録媒体に付与する第二の処理部と、
を備えることを特徴とする記録媒体の前処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−188568(P2010−188568A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33778(P2009−33778)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】