説明

記録媒体評価方法

【課題】高記録密度化に伴って磁気ヘッドと磁気テープとの距離が狭くなったとしても、高感度に距離を測定することができる記録媒体評価方法を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体と、磁気記録ヘッドと磁気再生ヘッドとを備えた磁気ヘッドとの間の距離を計測する記録媒体評価方法であって、磁気記録ヘッドにより磁気記録媒体に周期的に記録した信号の磁化遷移幅を計測し(S5)、記録信号を磁気再生ヘッドで再生したときの再生信号の半値幅を計測し(S3)、磁化遷移幅と半値幅とを比較する(S6)ことによって磁気記録媒体と磁気ヘッドとの間の距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッドと磁気テープとの間隙(以下、スペーシングと称する)を測定することができる記録媒体評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の一種である磁気テープは、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピューターテープなど様々な用途がある。特に、コンピューター用のデータバックアップテープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化に伴い、1巻当たり数百GBの記憶容量のものが商品化されている。今後、ハードディスクのさらなる大容量化に対応するため、バックアップテープの高容量化は不可欠である。バックアップテープとして使用される磁気テープは、さらなる記録容量の増大に伴って記録波長が短波長化され、スペーシングによる記録再生特性の劣化を抑えるために、表面の平滑化が進んでいる。磁気テープ表面の平滑化が進むことで、狭スペーシング化が進んでいる。
【0003】
磁気ヘッドと磁気テープとのスペーシングを測定する手段としては、例えば特許文献1及び2に開示されているものがある。特許文献1及び2には、光透過性材料からなる透明体(模擬ヘッド)をテープに当接させて、その当接面における干渉光の強度を測定する白色光干渉法が開示されている。これによれば、150nm程度のスペーシングまでは、比較的正確に測定することができる。
【特許文献1】特表平8−507384号公報
【特許文献2】特開平10−267623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1及び2に開示されているような測定方法では、150nmよりも狭いスペーシングを測定することが困難である。特に近年、データバックアップ用の磁気テープ及び磁気ヘッドは、高記録密度化に伴いスペーシングがさらに狭くなる傾向にあり、特許文献1及び2に開示されている測定方法では高記録密度化に対応できなくなる可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、高記録密度化に伴って磁気ヘッドと磁気テープとの距離が狭くなったとしても、高感度に距離を測定することができる記録媒体評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の記録媒体評価方法は、磁気記録媒体と、磁気記録ヘッドと磁気再生ヘッドとを備えた磁気ヘッドとの間の距離を計測する記録媒体評価方法であって、前記磁気記録ヘッドにより前記磁気記録媒体に周期的に記録した信号の磁化遷移幅を計測し、前記磁気記録媒体に記録されている前記信号を前記磁気再生ヘッドで再生したときの再生信号の半値幅を計測し、前記磁化遷移幅と前記半値幅とを比較することによって前記磁気記録媒体と前記磁気ヘッドとの間の距離を算出するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高記録密度化に伴って磁気ヘッドと磁気テープとの距離が狭くなったとしても、高感度に距離を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の記録媒体評価方法は、前記半値幅をPW50とし、前記磁化遷移幅をaとし、前記磁気再生ヘッドのギャップ幅をgとし、前記磁気テープと前記磁気ヘッドとの間の距離をdとしたとき、
【0009】
【数2】

【0010】
の関係がある構成とすることができる。このような構成とすることにより、高記録密度化に伴って磁気ヘッドと磁気テープとの距離が狭くなったとしても、正確に距離を測定することができる。
【0011】
(実施の形態)
図1は、本実施の形態における記録媒体評価方法の流れを示す。本実施の形態における記録媒体評価方法は、データ記録用の磁気テープと磁気ヘッドとの隙間(スペーシング)を測定する方法を一例として挙げている。また、本実施の形態における記録媒体評価方法は、磁気テープに評価用信号を記録して半値幅(PW50)を測定可能な電磁変換特性評価機と、磁気テープの磁性層表面を観察して磁化遷移幅を測定可能な磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope)と、半値幅と磁化遷移幅とに基づきスペーシング量を算出可能な計算装置とを用いて実行することができる。
【0012】
磁気テープと磁気ヘッドとのスペーシング量を測定する際は、まず電磁変換特性評価機で磁気テープに評価用信号を記録する。評価用信号は、例えば周期的に発生する孤立波の信号で構成され、好ましくは波形干渉がない長めの波長の信号である(S1)。
【0013】
次に、電磁変換特性評価機による評価用信号の半値幅の測定と、磁気力顕微鏡による磁化遷移幅の測定とが、各々独立して同時に実行される。以下の説明では、半値幅測定の説明をした後、磁化遷移幅測定の説明を行う。
【0014】
電磁変換特性評価機において、まず、S1に示す処理で磁気テープに記録した評価用信号を再生する。図2は、再生した信号の波形を示す。図2において、信号レベルが高くなっている部分は、磁気テープにおいて磁化反転が生じている磁化遷移部に相当する(S2)。
【0015】
次に、電磁変換特性評価機は、再生された評価用信号の半値幅を測定する(S3)。
【0016】
一方、磁気力顕微鏡は、磁気テープの磁性層表面(特に磁化遷移部)の状態を観察する(S4)。
【0017】
図3は、磁気力顕微鏡による磁化遷移部の観察方法を説明するための図である。図3(a)は、磁気テープの磁性層の一部を側面から見た図であり、磁気テープにおける磁化状態を模式的に示したものである。図3(b)は、MFM信号の波形図であり、縦軸は信号レベル、横軸は時間を示す。磁気テープ23は、矢印Cに示す水平方向に磁化された第1の磁化領域23aと、矢印Dに示す方向に水平磁化された第2の磁化領域23bとが交互に配されて、構成されている。このような磁気テープ23において、第1の磁化領域23aは矢印Eに示す方向に漏洩磁界を有し、第2の磁化領域23bは矢印Fに示す方向に漏洩磁界を有するため、第1の磁化領域23aと第2の磁化領域23bとの間の磁化遷移部23cでは、漏洩磁界の方向に応じて矢印Gに示す方向に磁力が発生する。また、磁化遷移部23dでは、漏洩磁界の方向に応じて矢印Hに示す方向に磁力が発生する。
【0018】
このように構成された磁気テープ23の磁化遷移幅を測定するには、磁気力顕微鏡に装備されているプローブ20を用いる。プローブ20は、板バネなどの弾性部材で形成されたカンチレバー21の先端に、矢印K方向に磁化された磁石22を備えた構成になっている。カンチレバー21が弾性変形可能な材料で形成されているため、磁石22と磁気テープ23との間に働く引力作用または斥力作用により、プローブ20は矢印AまたはBに示す方向に変位する。なお、図3(a)では、プローブ20と磁気テープ23とは離間して図示しているが、実際の測定時は磁石22と磁気テープ23の表面とは接触する(スペーシング量=0)。
【0019】
測定方法は、まず、磁石22の先端を磁気テープ23の磁性層表面に接触させた状態で、磁気テープ23を矢印Lに示す方向へ走行させる。磁化遷移部23cが磁石22の近傍を通過する時、磁石22と磁気テープ23との間に引力作用が働き、カンチレバー21が弾性変形しながら磁石22が矢印Bに示す方向へ変位する。また、磁化遷移部23dが磁石22の近傍を通過する時、磁石22と磁気テープ23との間に斥力作用が働き、カンチレバー21が弾性変形しながら磁石22が矢印Aに示す方向へ変位する。磁気力顕微鏡は、このようなカンチレバー21の変位量を検出し、検出した変位量に基づき図3(b)に示すようなMFM信号を生成する。MFM信号は、カンチレバー21が矢印Bに示す方向に変位した場合は正方向にレベルが高くなり、カンチレバー21が矢印Aに示す方向に変位した場合は負方向にレベルが高くなる。
【0020】
次に、磁気力顕微鏡によって磁化遷移幅aを測定する(S5)。
【0021】
具体的には、磁気力顕微鏡において、生成したMFM信号に基づきMFM画像を生成する。図4は、図3(b)に示すMFM信号に基づき生成したMFM画像を示す。図4において、領域31は磁化遷移部23cに対応する部分で、領域32は磁化遷移部23dに対応する部分を示す。MFM画像は、MFM信号のレベルに応じて画像の種類を異ならせているため、MFM信号のレベルが高くなる磁化遷移部23c及び23dに対応する部分の画像の種類は、磁化遷移部以外の部分の画像の種類とは異なる。例えば、本実施の形態では、領域31の画像の輝度が最も高く、領域32の画像の輝度が最も低くなるようなMFM画像を生成している。図4に示す領域31または32の幅を測定することで、磁化遷移幅aを算出することができる。
【0022】
次に、計算装置は、電磁変換特性評価機において算出された半値幅PW50と、磁気力顕微鏡で算出された磁化遷移幅aとに基づき、スペーシング量を算出する(S6)。具体的には、電磁変換特性評価機において算出された半値幅をPW50、磁気力顕微鏡で算出された磁化遷移幅をa、磁気ヘッドのヘッドギャップをg、スペーシング量をdとした時、
【0023】
【数3】

【0024】
のような関係がある。したがって、(数3)に示す理論式に基づき、スペーシング量dを算出することができる。
【0025】
以上のように本実施の形態によれば、電磁変換特性評価機において算出された半値幅と、磁気力顕微鏡において算出された磁化遷移幅とを用いて、磁気ヘッドと磁気テープとのスペーシング量を算出する構成としたことにより、磁気テープの所定箇所におけるスペーシング量を算出することができる。すなわち、従来は磁気テープの表面粗さ等の情報に基づき、磁気テープ全体の平均値としてスペーシング量を算出していたが、このような方法では磁気テープ上の任意の箇所における正確なスペーシング量を算出できなかった。本実施の形態では、磁化遷移部ごとに半値幅と磁化遷移幅とを測定し、それに基づきスペーシング量を算出しているため、磁化遷移部ごとに正確なスペーシング量を算出することができる。
【0026】
また、本実施の形態では、半値幅と磁化遷移幅とに基づきスペーシング量を算出しているため、スペーシング量が狭い(例えば150nm未満)磁気テープ及び磁気ヘッドであっても、高感度にスペーシング量を計測することができる。したがって、近年進みつつある狭スペーシング化に、対応することができる評価システムを実現できる。
【0027】
なお、本実施の形態では、磁気テープと磁気ヘッドとのスペーシング量を算出する方法について説明したが、ハードディスクなどの磁気ディスクと磁気ヘッドとのスペーシング量など、少なくとも磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシング量を算出することができる。
【0028】
また、本実施の形態では、磁気力顕微鏡は磁石22と磁気テープ23の漏れ磁界との間に働く力をカンチレバー21の撓み量として直接検出する方法(スタティックMFM)としたが、カンチレバー21を垂直方向に振動させながら、磁気記録媒体からの漏れ磁界によって生じる振動の変化を高感度検出する方法(ダイナミックMFM)であっても、同様に実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の記録媒体評価方法は、磁気テープや磁気ディスクなどの磁気記録媒体と磁気ヘッドとの間の距離を計測する方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施の形態における記録媒体評価方法の流れを示すフローチャート
【図2】電磁変換特性評価機において再生された評価用信号の波形図
【図3】(a)はプローブ及び磁気テープの構成を示す模式図。(b)は磁気力顕微鏡で生成されたMFM信号の波形図
【図4】磁気力顕微鏡で生成されたMFM画像を示す模式図
【符号の説明】
【0031】
20 プローブ
21 カンチレバー
22 磁石
23 磁気テープ
23a 第1の磁化領域
23b 第2の磁化領域
23c、23d 磁化遷移部
31、32 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体と、磁気記録ヘッドと磁気再生ヘッドとを備えた磁気ヘッドとの間の距離を計測する記録媒体評価方法であって、
前記磁気記録ヘッドにより前記磁気記録媒体に周期的に記録した信号の磁化遷移幅を計測し、
前記磁気記録媒体に記録されている前記信号を前記磁気再生ヘッドで再生したときの再生信号の半値幅を計測し、
前記磁化遷移幅と前記半値幅とを比較することによって前記磁気記録媒体と前記磁気ヘッドとの間の距離を算出する、記録媒体評価方法。
【請求項2】
前記半値幅をPW50とし、前記磁化遷移幅をaとし、前記磁気再生ヘッドのギャップ幅をgとし、前記磁気テープと前記磁気ヘッドとの間の距離をdとしたとき、
【数1】

の関係がある、請求項1記載の記録媒体評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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