説明

記録装置、記録媒体および記録システム

【課題】記録媒体に到達する光量の減少を抑えた上で、記録に用いられる光が拡散することを低減させる。
【解決手段】制御部10は、照射層11、調光層13、および電圧供給部14を制御する。照射層11は、記録媒体2に対して光を照射する。透過層12は、記録媒体2に対して照射される光が記録媒体2に到達するまでの光路に設けられ、入射角および波長が決められた範囲に属する光を透過させる光学素子である。透過層12によって透過される光の波長の範囲は、入射角に応じて変化するようになっている。調光層13は、透過層12を透過した光の光量を画像データに応じて調節する。電圧供給部14は、記録媒体2に向けて電圧を供給し、記録媒体2を記録可能な状態にする。記録媒体2の表示内容は、特定の波長域の光が照射されると、その光に応じて書き換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置、記録媒体および記録システムに関する。
【背景技術】
【0002】
吸収する光に応じた画像を記録する記録媒体には、例えば、特許文献1に開示されているように、入射光が照射される光導電層の入射光側の位置に、該光導電層の吸収波長域及び他の光導電層の吸収波長域において相互に吸収が重なる波長域の入射光を遮る光学機能層を備える光アドレス型空間光変調素子を備えた表示媒体がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−298818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、吸収する光に応じた画像を記録する記録媒体に到達する光量の減少を抑えた上で、記録に用いられる光が拡散することを低減させた記録を行う技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本願の請求項1に係る記録装置は、吸収する光に応じた画像を記録する記録媒体に対して、光を照射して前記画像を書き込む光書込手段と、前記記録媒体に対して照射される光が当該記録媒体に到達するまでの光路に設けられ、入射角及び波長が予め決められた範囲に属する光を透過し、透過する当該光以外の光を遮光する透過層とを具備することを特徴とする。
【0006】
本願の請求項2に係る記録装置は、請求項1に記載の態様において、前記光書込手段は、前記記録媒体に対して、光を照射する照射手段と、画像を表す画像データに応じて前記照射手段により照射される光の光量を調節する調光手段とを有することを特徴とする。
【0007】
本願の請求項3に係る記録装置は、請求項1または2に記載の態様において、前記透過層は、入射する光の入射角が大きいほど、透過する光の波長が短波長側へ遷移することを特徴とする。
【0008】
本願の請求項4に係る記録装置は、請求項1から3のいずれかに記載の態様において、前記透過層は、前記記録媒体に吸収され前記画像を記録させ得る光が入射角について決められた第1の閾値を超える入射角で前記透過層に入射した場合、透過率について決められた第2の閾値を超える透過率で当該光を透過しないことを特徴とする。
【0009】
本願の請求項5に係る記録装置は、請求項1から4のいずれかに記載の態様において、前記光路に設けられ、当該光路を進む光に含まれる特定の波長域内の光を吸収し、当該特定の波長域外の光を透過させる光吸収層を具備することを特徴とする。
【0010】
本願の請求項6に係る記録装置は、請求項1から5のいずれかに記載の態様において、前記透過層が透過させなかった光を散乱反射させて当該透過層に再入射させる反射手段を具備することを特徴とする。
【0011】
本願の請求項7に係る記録システムは、請求項1から6のいずれかに記載の記録装置と、前記記録装置から照射される光を吸収し、当該光に応じた画像を記録する記録媒体とを具備することを特徴とする。
【0012】
本願の請求項8に係る記録媒体は、照射される光を吸収し、吸収した当該光に応じた画像を記録する記録層と、前記記録層に照射される光が当該記録層に到達するまでの光路に設けられ、入射角及び波長が予め決められた範囲に属する光を透過し、透過する当該光以外の光を遮光する透過層とを具備することを特徴とする。
【0013】
本願の請求項9に係る記録媒体は、請求項8に記載の態様において、前記透過層において、入射する光の入射角が大きいほど、透過させる光の波長が短波長側へ遷移することを特徴とする。
【0014】
本願の請求項10に係る記録媒体は、請求項8または9に記載の態様において、前記透過層は、前記記録層に吸収され前記画像を記録させ得る光が入射角について決められた第1の閾値を超える入射角で前記透過層に入射した場合、透過率について決められた第2の閾値を超える透過率で当該光を透過しないことを特徴とする。
【0015】
本願の請求項11に係る記録媒体は、請求項8から10のいずれかに記載の態様において、前記光路に設けられ、当該光路を進む光に含まれる特定の波長域内の光を吸収し、当該特定の波長域外の光を透過させる光吸収層を具備することを特徴とする。
【0016】
本願の請求項12に係る記録媒体は、請求項8から11のいずれかに記載の態様において、前記記録層は、印加される電圧に応じて表示が変化する表示層と、前記表示層に対向して設けられ、照射される光に応じて前記表示層に印加される電圧を変化させる感光層と、2つの電極を有し、当該2つの電極により前記表示層と前記感光層とを重ねた状態で挟んで、当該各電極間に電圧を印加する電圧印加部とを有することを特徴とする。
【0017】
本願の請求項13に係る記録システムは、請求項8から12のいずれかに記載の記録媒体と、前記記録媒体に向けて、画像データに応じた光を照射する記録装置とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本願の請求項1、2、3に係る記録装置によれば、格子状の遮光羽からなるルーバーを設けた場合に比べて、吸収する光に応じた画像を記録する記録媒体に到達する光の光量の減少を抑えた上で、記録に用いられる光が拡散することを低減させることができる。
本願の請求項4に係る記録装置によれば、記録媒体に画像を記録させ得る光のうち入射角について決められた第1の閾値を超える入射角で入射する光の透過率を、透過率について決められた第2の閾値以下に抑制することができる。
本願の請求項5に係る記録装置によれば、入射角が大きい光の光量を低減させることができる。
本願の請求項6に係る記録装置によれば、照射する光のうち、記録に用いられる光の割合を増加させることができる。
本願の請求項7、13に係る記録システムによれば、格子状の遮光羽からなるルーバーを設けた場合に比べて、記録に用いられる光の光量の減少を抑えた上で、その光が拡散することを低減させることができる。
本願の請求項8、9、12に係る記録媒体によれば、記録に用いられる光が拡散することによる画像の滲みを低減させることができる。
本願の請求項10に係る記録媒体によれば、記録媒体に画像を記録させ得る光のうち入射角について決められた第1の閾値を超える入射角で入射する光の透過率を、透過率について決められた第2の閾値以下に抑制することができる。
本願の請求項11に係る記録媒体によれば、入射角が大きい光の光量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録システムの構成を示す図である。
【図2】記録装置の構成を示す図である。
【図3】透過層における光の光路を説明する図である。
【図4】透過層によって透過される光の波長が入射角に依存する例を説明する図である。
【図5】照射層から照射される光のスペクトルと透過層の透過帯域を示す図である。
【図6】記録媒体の構成を示す図である。
【図7】透過層における透過帯域と感光層における感光帯域との関係を示す図である。
【図8】入射角と感光層での感光性を示す概念図である。
【図9】変形例1における光吸収層を説明するための図である。
【図10】光吸収層による吸収曲線を示した図である。
【図11】光吸収層により吸収される光を示す概念図である。
【図12】変形例2における照射層の反射面を説明するための図である。
【図13】複数の表示層を備えた記録媒体の例を示す図である。
【図14】関連技術において、照射光の拡散による影響を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.記録システムの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る記録システム9の構成を示す図である。記録装置1の上の位置Posに記録媒体2が置かれ、記録装置1の筐体15に備えられたクリップ15cにより記録媒体2が挟まれると、記録媒体2に設けられた受電部210が記録装置1に設けられた電圧供給部14に接触する。そして、電圧供給部14から受電部210を介して記録媒体2に電圧が供給されている状態で、記録装置1の調光層13から同図に示す照射方向に光が照射されると、記録媒体2に画像が書き込まれる。書き込まれた画像は、記録媒体2の表示面202pに表示され、利用者によって正面側から観察される。すなわち、記録システム9は、記録媒体2に向けて、画像データに応じた光を照射する記録装置1と、記録装置1から照射される光を吸収し、当該光に応じた画像を記録する記録媒体2とを具備する記録システムの一例である。
【0021】
2.記録装置の構成
図2は、記録装置1の構成を示す図である。制御部10は、CPU(Central Processing Unit)などであり、照射層11、調光層13、および電圧供給部14を制御する。照射層11は、制御部10の制御の下、記録媒体2に対して光を照射する。透過層12は、記録媒体2に対して照射される光が記録媒体2に到達するまでの光路に設けられ、入射角および波長が予め決められた範囲に属する光を透過し、透過するそれらの光以外の光を遮光する光学素子であり、具体的には干渉フィルターである。ここで透過層12が光を「遮光する」とは、その光を完全に遮蔽すること、または記録媒体2に吸収され画像を記録させるに至らない程度にその光を反射または吸収し、透過する光の光量を減じることである。また、透過層12が光を「透過する」とは、その光を完全に透過すること、または少なくとも記録媒体2に吸収され画像を記録させる程度の光を透過することである。透過層12によって透過される光の波長の範囲は、入射角に応じて変化するようになっている。調光層13は、照射層11により照射され透過層12を透過した光の光量を画像データに応じて調節する調光手段の一例であり、例えば、マトリクス状に配列した画素電極と、この画素電極に接続されたTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)のようなスイッチング素子などが設けられた素子基板と、画素電極に対向する対向電極が形成された対向基板と、これら両基板との間に充填されたネマチック液晶とを備える液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)などで構成される。制御部10が、通信装置やメモリコントローラなどの図示しない取得手段によって取得した画像データに応じた電圧の画像信号を画素電極に印加すると、当該画素電極および対向電極の間の液晶層に画像信号の電圧に応じた電荷が蓄積される。蓄積させる電荷量に応じて、画素毎に液晶の配向状態が変化するので、各画素を光が透過するときの透過率が変化し、調光層13は透過層12を透過した光を、画素毎の透過率に応じて遮光する。これによって調光層13は透過層12を透過した光の光量を調節、すなわち調光する。電圧供給部14は、制御部10の制御の下、記録媒体2に向けて電圧を供給し、記録媒体2を記録可能な状態にする。
【0022】
3.透過層の構成
ここで、透過層12の構成について詳細に説明する。図3は、透過層12における光の光路を説明する図である。透過層12は、屈折率の異なる2種の誘電体膜を交互に積層した構造を有する。例えば、同図に示すように透過層12は、屈折率が高い高屈折率膜MHと、屈折率が高屈折率膜MHよりも低い低屈折率膜MLとが交互に積層しており、それぞれ光学的厚みtopを有している。以下、高屈折率膜MHの屈折率をnMH、低屈折率膜MLの屈折率をnMLとし、低屈折率膜MLの実際の厚みを厚みtMLとする。したがってtop=nML×tMLである。
【0023】
光路L0は、透過層12の高屈折率膜MHから入射角θで低屈折率膜MLに入射された光のうち、高屈折率膜MHと低屈折率膜MLとの境界面を一度も反射せずに透過する光の光路である。この光が低屈折率膜MLを進むときの低屈折率膜MLの入射面に対する角度を角度θopとすると、スネルの法則により、nMH×sinθ=nML×sinθopが成り立つ。光路L1は、境界面を2回反射する光路であり、光路L2は、境界面を4回反射する光路である。光路L0と光路L1のように隣接する光路の光路差dはd=(top/cosθop)×(1+cos2θop)=2nML×tML×cosθopである。この光路差dが、その光の波長λの整数倍であれば、各光路を通る光は互いに強めあうので、透過層12は、λ=d/m=(2nML×tML×cosθop)/m(ただしmは1以上の整数)を満たす波長λの光を透過する。
【0024】
以下の説明では、透過層12の内部を透過する光の入射面に対する角度θopを透過層12の外部からの入射角θと等しいと見做す。
図4は、透過層12によって透過される光の波長が入射角に依存する例を説明する図である。同図の横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)であり、各波長の光が透過層12によって透過される割合(透過率)が百分率で示されている。図4(a)には、入射角θ=0度のときに透過層12を透過する光の波長が示されている。同図に示すように、入射角θ=0度の場合、透過層12は、波長620nmの光を最もよく透過する。すなわち、入射角θ=0度の場合では、透過層12による透過率のピークは、波長620nmにある。一方、図4(b)に示すように、入射角θ=15度の場合では、透過層12による透過率のピークは、波長599nmにあり、図4(c)によれば、入射角θ=30度の場合では、透過層12による透過率のピークは、波長537nmにある。このように、入射角が大きいほど透過層12が透過させる光の波長は短波長側に遷移する。すなわち、透過層12は、入射する光の入射角が大きいほど、透過する光の波長が短波長側へ遷移する透過層の一例である。ここで、透過率が或る閾値(ここでは50%)を超える光の波長帯域を透過帯域とすると、入射角θ=0度の透過帯域は、例えば615〜625nmであり、入射角θ=15度の透過帯域は594〜604nmであり、入射角θ=30度の透過帯域は532〜542nmである。なお、上述した透過率のピークの波長はm=1の波長であり、例えば、入射角θ=0度の場合では、m=2の波長310nmにも透過率のピークが存在する。しかし、以下では、記録媒体2は波長400nm以下の光を吸収しない構成とするため、m≧2の場合の波長についての説明を省略する。
【0025】
図5は、照射層11から照射される光のスペクトルと透過層12の透過帯域を示す図である。同図に示す曲線Prは照射層11から照射される光のスペクトルである。透過層12は、入射角θ=0度の光に対して透過帯域615〜625nmを有するため、照射層11から入射角θ=0度で照射される光のうち、斜線で示す領域R0の光を透過する。入射角θが15度になると、透過層12の透過帯域は594〜604nmに遷移するため、透過層12は領域R15の光を透過する。入射角θが30度になると、透過層12の透過帯域は532〜542nmに遷移するため、透過層12は領域R30の光を透過する。
【0026】
なお、本実施形態において、透過率等を記載しない限り「光を吸収する」とは、入射光の光強度が吸収後10%以下となることを意味し、「光を透過する」とは、透過光の光強度が入射光の光強度に対して50%以上、好ましくは80%以上であることを意味している。
【0027】
4.記録媒体の構成
図6は、記録媒体2の構成を示す図である。背面側基板201および正面側基板202は、いずれも光を透過する(すなわち、光の透過率が予め定められた閾値(例えば80%)よりも高い)材料で作られた透明基板であり、例えばアクリル樹脂などで形成されている。正面側基板202は、記録媒体2において利用者によって観察される観察方向における最も手前側に設けられている。以下、観察方向における手前を「正面」と呼び、観察方向における奥を「背面」と呼ぶ。背面側基板201は、記録媒体2の背面に設けられている。記録媒体2は、背面から記録装置1によって光を照射される。正面側基板202の面のうち、観察者に観察される面を表示面202pと呼び、背面側基板201の面のうち、記録装置1によって光を照射される面を被照射面201pと呼ぶ。
【0028】
受電部210は、図1に示すように記録媒体2の背面側に設けられた電極であり、電圧供給部14に接触して電圧供給部14から電圧を供給される。受電部210によって供給された電圧は、正面側透明電極212と背面側透明電極211との間に印加される。正面側透明電極212および背面側透明電極211は、いずれもITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムすず)等、光を透過し、かつ電極として機能する材料で作られている。正面側透明電極212と背面側透明電極211との間に印加された電圧は、これらに挟まれる記録層22にかかる。
【0029】
記録層22は、感光層221、遮光層222、表示層223が背面側から正面側に向けて積層されることにより形成されている。感光層221は、特定の波長域(以下、感光帯域という)の光が照射されると電気抵抗が低下する有機光導電体(OPC:Organic Photo Conductor)等で形成された層である。遮光層222は、感光帯域の光を一定の割合を超えて吸収する層であり、例えば、有機染料や有機顔料により着色された樹脂層である。遮光層222は、感光層221よりも正面側にあり、感光層221が正面側から受ける光のうち、感光帯域の光を吸収するため、記録媒体2が正面から受ける光によって記録内容が変動することを抑制する。表示層223は、印加される電圧に応じて分子の配向状態が変化するコレステリック液晶分子等を含んだ液晶層である。
【0030】
正面側透明電極212と背面側透明電極211との間に電圧がかけられていないときには、記録層22には電圧が印加されないため、記録装置1により被照射面201pから光が照射されても表示層223に含まれるコレステリック液晶分子の配向状態に変化は生じ難い。つまり、記録媒体2は、書き込まれた画像を保持するために電力を受ける必要が無い。
【0031】
受電部210を介して記録装置1の電圧供給部14から記録層22に電圧がかけられているとき、被照射面201p側から光が照射されていない部分においては、感光層221の抵抗が表示層223に比較して高いため、透明電極の間に印加された電圧はほとんど感光層221にかかり、表示層223にはほとんど電圧がかからない。したがって、この部分の表示層223に含まれるコレステリック液晶分子の配向状態に変化は生じ難い。
【0032】
一方、記録装置1の電圧供給部14によって記録層22に電圧がかけられているとき、被照射面201p側から光が照射されている部分においては、感光層221が低抵抗化するので表示層223にかかる電圧が上昇する。この部分の表示層223に含まれるコレステリック液晶分子は、印加される電圧に応じて分子の配向状態が変化する。すなわち、表示層223は、印加される電圧に応じて表示が変化する表示層の一例である。また、感光層221は、表示層223に対向して設けられ、照射される光に応じて表示層223に印加される電圧を変化させる感光層の一例である。また、電圧供給部14からかけられる電圧を記録層22に伝える受電部210は、2つの電極(正面側透明電極212と背面側透明電極211)により表示層223と感光層221とを重ねた状態で挟んで、当該各電極間に電圧を印加する電圧印加部の一例である。
【0033】
こうして、光照射と電圧印加を組み合わせることにより、記録媒体2において、特定の領域における液晶の配向を制御すること、すなわち、画像を形成することができる。形成されるこの画像は表示面202p側から利用者によって観察される。また、いったん形成された画像は、新たに電圧が印加されるまで保持される。
【0034】
なお、表示層223は、コレステリック液晶等のホスト液晶に添加するカイラル剤の重量比を調節することによって、選択反射する光の波長帯を様々に設定される。図13は、複数の表示層223(青色表示層223b、緑色表示層223g、赤色表示層223r)を備えた記録媒体2の例を示す図である。同図に示すように、コレステリック液晶がプレーナ配向の状態で、それぞれ異なる波長帯の光を選択反射するように設計された複数の表示層223を重ね合わせ、感光し得る波長帯が異なる感光層221を、例えば各表示層223に対向して設けることにより、記録媒体2には複数の色を含む画像(例えばカラー画像)が書き込まれる。
【0035】
5.透過帯域と感光帯域との関係
図7は、透過層12における透過帯域と感光層221における感光帯域との関係を示す図である。同図の横軸は、光の波長(nm)を表し、縦軸は光の透過率(%)を表している。同図の曲線は、感光層221が背面側から照射される光の波長に対する、当該光の透過率を示す。透過率が或る閾値(同図における40%)を下回る場合、すなわち、感光層221が一定割合を上回って光を吸収する場合にのみ、表示層223に含まれるコレステリック液晶分子の配向状態が変化する。すなわち、同図において、60%を上回って吸収される光の帯域が感光帯域であり、その具体的範囲は570nm〜655nmである。
【0036】
また、透過層12において、照射層11から照射される光のうち、透過帯域の光が透過される。入射角θ=0度の光は、透過層12における透過帯域が615〜625nmであるから、感光層221における感光帯域に含まれている。入射角θ=15度の光も、透過層12における透過帯域が594〜604nmであるから、感光層221における感光帯域に含まれている。したがって、少なくとも入射角θ=0〜15度で入射して透過層12を透過する光は、記録媒体2の表示内容を書き換えることが可能である。
【0037】
一方、入射角θ=30度の光は、透過層12における透過帯域が532〜542nmであるから、感光層221における感光帯域に含まれていない。したがって、少なくとも入射角θ=30度で入射して透過層12を透過する光は、記録媒体2の表示内容を書き換えるのに十分でない。以上により、感光層221の感光帯域に含まれる波長の光を、或る閾値を超える透過率で透過層12に透過させるためには、入射角が或る範囲内に無ければならないことがわかる。この場合、入射角θが15度から30度まで増加する間に、透過層12を透過する光が、記録媒体2の表示内容を書き換えることが可能な状態から、その表示内容を書き換えるのに十分でない状態に切り替わる閾値(入射角について決められた第1の閾値)がある。そして、この閾値を超える入射角で透過層12に入射し、或る閾値(透過率について決められた第2の閾値)を超える透過率で当該透過層12を透過する光が照射されても、その光の波長は感光帯域に含まれていないから、記録媒体2の表示内容は書き換えられない。すなわち、記録媒体2の記録層は、入射角について決められた第1の閾値を超える入射角で透過層12に入射し、透過率について決められた第2の閾値を超える透過率で当該透過層12を透過する光が照射されても、画像を記録しない記録層の一例である。また、透過層12は、記録媒体2に吸収され画像を記録させ得る光が入射角について決められた第1の閾値を超える入射角で入射した場合、透過率について決められた第2の閾値を超える透過率で当該光を透過しない透過層の一例である。
【0038】
ここで、本実施形態と対比される対象となる関連技術について説明する。
図14は、関連技術において、照射装置が記録媒体に対して照射する光が拡散するために生じる影響を説明する図である。同図における記録装置1aは、透過層12を備えていない点を除いて、本実施形態の記録装置1と同じである。図14(a)には、記録装置1aが照射する光のうち、特定の波長域にある光の光量を減少させる減光層3aを設けている。減光層3aを透過する光には、波長依存性はあるが、角度依存性はない。つまり、どのような角度で記録媒体に入射したとしても、波長が同じであれば同じ光量で照射される。したがって、記録装置1aから記録媒体2の感光層221までの距離が長くなる程、記録装置1aから照射された光は拡散し、これによって記録媒体2に記録される画像は滲むこととなり、画像の滲みが目立たないようにするためには解像度を下げなければならない。
【0039】
一方、図14(b)に示すように、記録装置1aから照射される光の光路に、格子状の遮光羽からなるルーバー3bを設けた場合、記録装置1aから照射される光のうち、或る角度を超えて拡散する光はルーバー3bの遮光羽に遮られるため、拡散光が記録媒体2へ到達することが抑止される。そのため、この構成において、ルーバー3bの遮光羽の格子間隔に応じて、記録媒体2に表示される画像の解像度を高くすることができ、画像が滲む減少を抑制することができるが、遮光羽に遮られる分、照射光は弱くなるので、記録装置1aで消費するエネルギーは損失する。また、遮光羽の影が記録媒体2にノイズNとして記録されるため、画像の乱れが生ずる。
【0040】
図8は、入射角と感光層221での感光性を示す概念図である。同図に示すように、透過層12は、入射角が大きくなる程、透過帯域が短波長側に遷移するから、入射角が一定の値を超えると、その透過光によって感光層221は感光しなくなる。つまり、記録装置1から照射された光のうち、拡散した光によって記録媒体2が書き換えられることが抑制されるから、画像の滲みが低減され、解像度低下が防止される。
【0041】
6.変形例
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
(1)変形例1
実施形態では、記録装置1に透過層12を設けていたが、透過層12に加えて、特定の波長域内の光を吸収し、当該特定の波長域外の光を透過させる光吸収層を設けてもよい。図9は、この変形例における光吸収層16を説明するための図である。同図に示すように、記録装置1の透過層12の正面側、すなわち、照射光の照射方向下流側には、光吸収層16が設けられている。光吸収層16は、特定波長域内の光を吸収し、当該特定波長域外の光を透過させるので、透過層12を透過した光のうち、特定波長域内の光は光吸収層16によって吸収される。
【0042】
図10は、光吸収層16による吸収曲線を示した図である。同図に示す吸収曲線Abは、光吸収層16によって、吸収される光の波長と透過率を示している。透過された光は、照射された光のうち吸収された光を除いた光であるから、透過率によって吸収率は示される。吸収曲線Abは640nmに透過率のピーク(最大値)があり、その透過率は85%である。600nmから短波長側にかけては、透過率が25%以下になっている。すなわち、光吸収層16は、640nmの光を85%の透過率で透過し、600nmより小さい波長の光を75%を超えて吸収する。これにより、入射角θ=0度で入射して透過層12を透過する光は、9割以上が光吸収層16も透過するが、入射角θ=15度の光は、光量が半分以下に減少し、入射角θ=30度の光は、3割程度まで光量が減少する。
【0043】
図11は、光吸収層16により吸収される光を示す概念図である。同図に示すように、光吸収層16は、入射角が大きいために透過層12によって透過帯域が短波長側に遷移した光を吸収するから、照射光が拡散するほど、記録媒体2の感光層221に届き難くなる。これにより、画像の滲みが低減され、解像度低下が防止される。なお、光吸収層16は、透過層12の背面側、すなわち、照射光の照射方向上流側に設けてもよく、透過層12の正面側と背面側の両方に設けてもよい。要するに、光吸収層16は、記録媒体2に対して照射される光が記録媒体2に到達するまでの光路に設けられ、この光路を進む光に含まれる特定の波長域内の光を吸収し、当該特定波長域外の光を透過させればよい。
【0044】
(2)変形例2
記録装置1には、透過層12が透過させなかった光を散乱反射させて当該透過層12に再入射させる反射手段を有していてもよい。図12は、この変形例における反射手段を説明するための図である。記録装置1は、照射層11と透過層12の間に再反射層17を備える。透過層12は、照射層11から照射された光の一部を透過させずに反射する。透過層12により反射された光は、再反射層17によって散乱反射させられ、透過層12に再入射させられる。すなわち、再反射層17は、透過層12が透過させなかった光を散乱反射させて当該透過層12に再入射させる反射手段の一例である。これにより、同じエネルギーで照射した場合に、再反射層17を備えていない記録装置1においては、透過層12により反射される光を透過層12に再入射させないのに対し、この変形例においては、再反射層17がこの光を透過層12に再入射させる分、照射する光の光量が増加する。したがって、エネルギー効率が向上し、同じ光量を維持するために消費されるエネルギーが抑制されるため、省エネルギーに資する。
【0045】
なお、このような照射層11と再反射層17の組み合わせとしては、例えば、照射層11としての面光源と、再反射層17としてのハーフミラーとを組み合わせてもよい。また、再反射層17としてアクリル板などで形成された導光板を用いる場合には、照射層11として導光板の長手方向に沿って光を照射するLED(Light Emitting Diode)等の線光源を用いてもよい。導光板は、線光源から照射された光を内部で散乱反射させ照射面の全体に行き渡らせることにより、照射面全体から照射対象に対して当該光を照射するが、照射対象から反射された光も散乱反射させて再び照射対象に照射するので、透過層12に照射面を対向させることで、透過層12が透過させなかった光を散乱反射させて当該透過層12に再入射させる反射手段として機能する。
【0046】
(3)変形例3
透過層12は、調光層13よりも正面側に設けてもよい。このように構成しても、記録装置1から照射された光のうち、拡散した光によって記録媒体2が書き換えられることが抑制されるから、画像の滲みが低減され、解像度低下が防止される。
また、この場合、記録媒体2に照射される光は照射層11→調光層13→透過層12という順序で記録装置1の内部を進むが、照射層11と調光層13に替えて、記録媒体2に光を照射して画像を書き込む他の構成の光書込装置を用いてもよい。この光書込装置の構成は、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(Organic Electro-Luminescence)ディスプレイやプラズマディスプレイなど、照射層11によって照射されたバックライトを調光層13によって遮光する構成ではなく、画像データに応じて自ら発光する構成であってもよい。要するに、この光書込装置は、吸収する光に応じた画像を記録する記録媒体に対して、光を照射して画像を書き込む光書込手段であればよい。
【0047】
(4)変形例4
透過層は、記録媒体2に設けてもよい。この場合、透過層は、感光層221よりも背面側に設ければよい。このように構成しても、記録装置1から照射された光のうち、拡散した光によって記録媒体2が書き換えられることが抑制されるから、画像の滲みが低減され、解像度低下が防止される。
【0048】
(5)変形例5
実施形態では、記録媒体2は波長400nm以下の光を吸収しない構成としたが、記録媒体2は、波長400nm以下の光を吸収し、この光によって画像を書き込まれてもよい。例えば、感光層221は、紫外線の領域に感光帯域を有していてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…記録装置、10…制御部、11…照射層、12…透過層、13…調光層、14…電圧供給部、15…筐体、15c…クリップ、16…光吸収層、17…再反射層、1a…記録装置(関連技術)、2…記録媒体、201…背面側基板、201p…被照射面、202…正面側基板、202p…表示面、210…受電部、211…背面側透明電極、212…正面側透明電極、22…記録層、221…感光層、222…遮光層、223…表示層、223b…青色表示層、223g…緑色表示層、223r…赤色表示層、3a…減光層、3b…ルーバー、9…記録システム、MH…高屈折率膜、ML…低屈折率膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収する光に応じた画像を記録する記録媒体に対して、光を照射して前記画像を書き込む光書込手段と、
前記記録媒体に対して照射される光が当該記録媒体に到達するまでの光路に設けられ、入射角及び波長が予め決められた範囲に属する光を透過し、透過する当該光以外の光を遮光する透過層と、
を具備することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記光書込手段は、
前記記録媒体に対して、光を照射する照射手段と、
画像を表す画像データに応じて前記照射手段により照射される光の光量を調節する調光手段と
を有することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記透過層は、入射する光の入射角が大きいほど、透過する光の波長が短波長側へ遷移する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記透過層は、前記記録媒体に吸収され前記画像を記録させ得る光が入射角について決められた第1の閾値を超える入射角で入射した場合、透過率について決められた第2の閾値を超える透過率で当該光を透過しない
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項5】
前記光路に設けられ、当該光路を進む光に含まれる特定の波長域内の光を吸収し、当該特定の波長域外の光を透過させる光吸収層
を具備することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の記録装置。
【請求項6】
前記透過層が透過させなかった光を散乱反射させて当該透過層に再入射させる反射手段
を具備することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の記録装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の記録装置と、
前記記録装置から照射される光を吸収し、当該光に応じた画像を記録する記録媒体と
を具備することを特徴とする記録システム。
【請求項8】
照射される光を吸収し、吸収した当該光に応じた画像を記録する記録層と、
前記記録層に照射される光が当該記録層に到達するまでの光路に設けられ、入射角及び波長が予め決められた範囲に属する光を透過し、透過する当該光以外の光を遮光する透過層と
を具備することを特徴とする記録媒体。
【請求項9】
前記透過層は、入射する光の入射角が大きいほど、透過する光の波長が短波長側へ遷移する
ことを特徴とする請求項8に記載の記録媒体。
【請求項10】
前記透過層は、前記記録層に吸収され前記画像を記録させ得る光が入射角について決められた第1の閾値を超える入射角で前記透過層に入射した場合、透過率について決められた第2の閾値を超える透過率で当該光を透過しない
ことを特徴とする請求項8または9に記載の記録媒体。
【請求項11】
前記光路に設けられ、当該光路を進む光に含まれる特定の波長域内の光を吸収し、当該特定の波長域外の光を透過させる光吸収層
を具備することを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の記録媒体。
【請求項12】
前記記録層は、
印加される電圧に応じて表示が変化する表示層と、
前記表示層に対向して設けられ、照射される光に応じて前記表示層に印加される電圧を変化させる感光層と、
2つの電極を有し、当該2つの電極により前記表示層と前記感光層とを重ねた状態で挟んで、当該各電極間に電圧を印加する電圧印加部と
を有することを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載の記録媒体。
【請求項13】
請求項8から12のいずれかに記載の記録媒体と、
前記記録媒体に向けて、画像データに応じた光を照射する記録装置と
を具備することを特徴とする記録システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−128304(P2011−128304A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285615(P2009−285615)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】