説明

記録装置、記録方法およびデータ生成装置

【課題】処理液の消費量を増やすことなく、光沢ムラなどのない高品位な画像を記録可能な記録装置およびインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】処理液に対する接触角が大きい顔料インクグループで形成された画像に対して処理液を付与する走査回数が、処理液に対する接触角が小さい顔料インクグループで形成された画像に対して処理液を付与する走査回数よりも、少なくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類のインクと、当該インクに接触させるための処理液とを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット式の記録装置および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料インクを用いた記録装置に用いられる記録媒体は、紙やフィルムなどの基材(不図示)の上にインクの吸収を目的として、その表面にインク受容層が形成された構成になっている。インク受容層は、インクの滲み等を抑えるためにインク溶媒に対し吸収性の高いシリカやアルミナなど無機系の微粒子が多量に含まれている。これらの粒子間の隙間は、サブミクロンオーダーの細孔で形成されているため、約100ナノメートル程度の粒子として分散している顔料粒子は、インク受容層の内部に進入することができない。従って、画像を形成する顔料インク層はインク受容層の表面に形成される。
【0003】
このため、顔料インク層は外力により傷つきやすい。耐擦過性の向上のためには、顔料インク層の表層に処理液を吐出して透明な被覆層を形成し、画像表面の動摩擦係数を下げることが行われている。特許文献1は、記録媒体上の所定領域の画像を記録するマルチパス方式の記録装置において、記録ヘッドを用いてインクを吐出して画像を形成し、記録ヘッドの最終の走査時に、記録ヘッドから処理液をインク層に付与する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3190535号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、1回の走査によって顔料インク層に付与する処理液が多すぎると、乾燥不良が生じやすく、また、処理液により形成される被覆層の表面が鏡面に仕上がることに起因して干渉縞現象が生じて画像品位を低下させる可能性がある。
【0006】
一方、処理液の乾燥を促進させるためには、1回の走査により付与する処理液を減らし、複数回の走査により処理液を顔料インク層に付与することが考えられる。しかしながら、その場合には、処理液により形成される被覆層の表面が凹凸に仕上がることに起因して、画像に光沢性の不足や光沢ムラが生じる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、処理液の消費量を増やすことなく、処理液により形成される被覆層の特性を最適化して画像品質を向上させることが可能な記録装置、記録方法およびデータ生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る記録装置は、複数種類のインクと前記インクに接触させるための処理液とを吐出可能な記録ヘッドを、記録媒体に対して複数回走査させることで、画像データに基づいた画像を形成する記録装置であって、前記画像データから前記記録媒体の所定の単位領域に対する前記処理液の付与量を決定し、前記付与量を前記複数回走査に分配する制御手段を備え、前記制御手段は、前記処理液に対する接触角が相対的に大きいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量と前記接触角が相対的に小さいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量とを同じとした場合には、前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記接触角が相対的に小さいインクに対する場合よりも、前記複数回走査に分配する各付与量のうち少なくとも1回の走査で多くなるようにする、ことを特徴とする記録装置。
【0009】
本発明に係る記録方法は、複数種類のインクと前記インクに接触させるための処理液とを吐出可能な記録ヘッドを、記録媒体に対して複数回走査させることで、画像データに基づいた画像を形成する記録方法であって、前記画像データから前記記録媒体の所定の単位領域に対する前記処理液の付与量を決定し、前記付与量を前記複数回走査に分配する制御工程を備え、前記制御工程は、前記処理液に対する接触角が相対的に大きいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量と前記接触角が相対的に小さいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量とを同じとした場合には、
前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記接触角が相対的に小さいインクに対する場合よりも、前記複数回走査に分配する各付与量のうち少なくとも1回の走査で多くなるようにする、ことを含む。
【0010】
本発明に係るデータ生成装置は、複数種類のインクと前記インクに接触させるための処理液とを吐出可能な記録ヘッドを、記録媒体に対して複数回走査させることで、画像データに基づいた画像を形成するときの前記処理液のデータを生成するデータ生成装置であって、前記画像データから前記記録媒体の所定の単位領域に対する前記処理液の付与量を決定し、前記付与量を前記複数回走査に分配する制御手段を備え、前記制御手段は、前記処理液に対する接触角が相対的に大きいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量と前記接触角が相対的に小さいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量とを同じとした場合には、前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記接触角が相対的に小さいインクに対する場合よりも、前記複数回走査に分配する各付与量のうち少なくとも1回の走査で多くなるように前記処理液のデータを生成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理液の消費量を増やすことなく、画像品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録装置の要部を示した斜視図である。
【図2】図1の装置において用いられる記録ヘッドを吐出口側から見た図である。
【図3】記録装置の制御系の構成を示す図である。
【図4】画像処理部における処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】記録画像の断面構造の一例を模式的に示した図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る記録方法の説明図である。
【図7】固体表面上の液滴の接触角の測定法を説明するための図である。
【図8】ブラックインクおよびライトシアンインクの接触角の値を示した図である。
【図9】処理液の接触角の違いを説明するための図である。
【図10】記録画像の断面構造の他の例を模式的に示した図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係る記録方法の説明図である。
【図12】画像処理部における処理の他の例を示すフローチャートである。
【図13】顔料インクを付与する場合のマスクパターンを説明するための図である。
【図14】処理液用のマスクパターンの一例を示す図である。
【図15】処理液用のマスクパターンの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「処理液」とは、インクと接触させることによって、画像の堅牢性および画像の品位を向上させるための液体である。ここで、「堅牢性を向上させる」とは、耐擦過性、耐候性、耐水性、耐アルカリ性の少なくとも1つを向上させて、画像形成材料の堅牢性を向上させる意である。一方、「品位を向上させる」とは、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性の少なくとも1つを向上させる意である。「耐擦過性」は、JIS K 5600−5−5に定められた方法に準じて測定される最小負荷値により評価するものである。そして、「耐擦過性を向上させる」とは、「最小負荷値の値を高くする」ことを意味する。また、「耐候性」は、JIS K 5600−7に定められた方法に準じて測定される変化の程度(等級)により評価するものである。例えば、色の変化の程度の評価には、色差を用いたりする。そして、「耐候性を向上させる」とは、「変化の程度(等級)の値を低くする」ことを意味する。また、「耐水性」、「耐アルカリ性」は、JIS K 5600−6−1に定められた方法に準じて測定される損傷の兆候の観察により評価するものである。そして、「耐水性を向上させる」とは、「損傷の兆候を小さくする」ことを意味する。また、「光沢性」は、JIS K 5600−4−7に定められた方法に準じて測定される光沢度により評価するものである。そして、「光沢性を向上させる」とは、「光沢度の値を高くする」ことを意味する。また、「ヘイズ性」は、JIS K 7374に定められた方法に準じて測定されるヘイズ値により評価するものである。そして、「ヘイズ性を向上させる」とは、「ヘイズ値の値を低くする」ことを意味する。また、「ブロンズ性」は、JIS K 0115に定められた方法に準じて測定される色度により評価するものである。そして、「ブロンズ性を向上させる」とは、「色度の値を無彩色化する」ことを意味する。
【0014】
次に、図1〜図11を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態では、画像形成材料の堅牢性のうちの耐擦過性を向上させる処理液を例に挙げて説明する。
【0015】
まず、本実施形態に係る記録装置の全体の構成について説明する。図1は、本実施形態の記録装置の要部を示した斜視図である。記録ヘッド22は、インク用の記録ヘッドと処理液用の記録ヘッドとから構成され、これらの記録ヘッドに備わる吐出口から記録媒体1に対してインクや処理液が吐出されることで記録が行われる。
【0016】
記録ヘッド22は、ブラック(K)、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ライトシアン(LC)およびライトマゼンタ(LM)のインクおよび処理液(H)をそれぞれ吐出する7つの記録ヘッド22K〜22Hから構成される。また、インクタンク21は、記録ヘッド22K〜22Hのぞれぞれに供給する、対応する色のインクおよび処理液を貯蔵する7つのインクタンク21K〜21Hから構成される。そして、これらの記録ヘッド22およびインクタンク21は、主走査方向(矢印B方向)に移動可能になっている。
【0017】
キャップ20は、記録ヘッド22K〜22Hのインク吐出面をそれぞれキャップするために、7つのキャップ20K〜20Hから構成されている。記録ヘッド22およびインクタンク21は、記録を行なわないときにはキャップ20が配置されたホームポジションに戻って待機する。そして、記録ヘッド22のホームポジションでの待機時間が一定時間を越えた場合には、記録ヘッド22のインク吐出面(吐出口の形成面)が乾燥するのを防止するために、記録ヘッド22がキャップされる。
【0018】
なお、これらの記録ヘッドやインクタンクを個別的に言及する場合には、それぞれに付された参照番号を用いるが、包括的に言及する場合には総称的な参照番号として、記録ヘッドには「22」、インクタンクには「21」、キャップには「20」を用いる。
【0019】
また、ここで用いる記録ヘッドとインクタンクは、記録ヘッドとインクタンクが一体的に構成されるものでも良いし、それぞれが分離可能な構成のものでも良い。
【0020】
図2は、記録ヘッド22を吐出口側から見た図である。記録ヘッド22K〜22Hには、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する方向に沿って1200dpiの密度で1280個の吐出口が配列されて、各色の吐出口列を形成している。各吐出口23から一度に吐出されるインクの吐出量は約4ngである。本実施形態では、インクを吐出するための記録ヘッドと、処理液を吐出するための記録ヘッドは、同一形態のものを用いる。本実施形態では、範囲αで示される640個の吐出口からインクを吐出し、範囲βで示される640個の吐出口から処理液を吐出する。
【0021】
次に、本実施形態で用いるインクと処理液の組成について説明する。後述する通り、ブラック・マゼンタ・イエローのインクは処理液に対する接触角が相対的に大きいインクであり、一方、シアン・ライトシアン・ライトマゼンタのインクは処理液に対する接触角が相対的に小さいインクである。以下、「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り、質量基準である。
【0022】
(イエローインク)
(1)分散液の作製
・顔料[C.I.ピグメントイエロー74(製品名:Hansa Brilliat Yellow 5GX(クラリアント社製))]10部
・アニオン系高分子P−1[スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(重合比(重量比)=30/40/30)酸価202、重量平均分子量6500、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カウム]30部
・純水60部
これらを混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、12時間分散処理を行った。更に、この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した。そして、最終調製物として、固形分が約12.5%、重量平均粒径が120nmの顔料分散体1を得た。得られた顔料分散体を用いて、下記のようにしてインクを調製した。
【0023】
(2)インクの作製
以下の成分を混合し、十分に攪拌して溶解・分散後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過して、インクを調製した。
・上記で得た顔料分散体:40部
・グリセリン:9部
・エチレングリコール:6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH):1部
・1,2−ヘキサンジオール:3部
・ポリエチレングリコール(分子量1000):4部
・水:37部
【0024】
(マゼンタインク)
(1)分散液の作製
まず、ベンジルアクリレートとメタクリル酸を原料として、常法により、酸価300、数平均分子量2500のAB型ブロックポリマーを作り、更に、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50質量%ポリマー水溶液を作成した。
【0025】
上記ポリマー溶液を100g、C.I.ピグメントレッド122を100gおよびイオン交換水を300gを混合し、機械的に0.5時間撹拌した。
【0026】
次に、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約70MPa下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。
【0027】
更に、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してマゼンタ分散液とした。得られたマゼンタ分散液は、その顔料濃度が10質量%、分散剤濃度が5質量%であった。
【0028】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記マゼンタ分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度4質量%、分散剤濃度2質量%の顔料インクを調製した。
【0029】
上記マゼンタ分散液 40部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物 0.5部
(川研ファインケミカル製)イオン交換水 39.5部。
【0030】
(ライトマゼンタインク)
(1)分散液の作製
マゼンタインクで使用したポリマー溶液を100g、C.I.ピグメントレッド122を100gおよびイオン交換水を300gを混合し、機械的に0.5時間撹拌した。
【0031】
次に、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約70MPa下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。
【0032】
更に、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してマゼンタ分散液とした。得られたマゼンタ分散液は、その顔料濃度が10質量%、分散剤濃度が5質量%であった。
【0033】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記マゼンタ分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度4質量%、分散剤濃度2質量%の顔料インクを調製した。
【0034】
上記マゼンタ分散液 8部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物 0.5部
(川研ファインケミカル製)イオン交換水 71.5部。
【0035】
(シアンインク)
(1)分散液の作製
まず、ベンジルアクリレートとメタクリル酸を原料として、常法により、酸価250、数平均分子量3000のAB型ブロックポリマーを作り、更に、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50質量%ポリマー水溶液を作成した。
【0036】
上記のポリマー溶液を180g、C.I.ピグメントブルー15:3を100gおよびイオン交換水を220gを混合し、機械的に0.5時間撹拌した。
【0037】
次に、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約70MPa下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。
【0038】
更に、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してシアン分散液とした。得られたシアン分散液は、その顔料濃度が10質量%、分散剤濃度が10質量%であった。
【0039】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記シアン分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度2質量%、分散剤濃度2質量%の顔料インクを調製した。
【0040】
上記シアン分散液 20部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物 0.5部
(川研ファインケミカル製)イオン交換水 59.5部。
【0041】
(ライトシアンインク)
(1)分散液の作製
シアンインクで作成したポリマー溶液を180g、C.I.ピグメントブルー15:3を100gおよびイオン交換水を220gを混合し、機械的に0.5時間撹拌した。
【0042】
次に、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約70MPa下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。
【0043】
さらに、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してシアン分散液とした。得られたシアン分散液は、その顔料濃度が10質量%、分散剤濃度が10質量%であった。
【0044】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記シアン分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度2質量%、分散剤濃度2質量%の顔料インクを調製した。
【0045】
上記シアン分散液 4質量部
グリセリン 10質量部
ジエチレングリコール 10質量部
アセチレングリコールEO付加物 0.5質量部
(川研ファインケミカル製)イオン交換水 75.5質量部
【0046】
(ブラックインク)
(1)分散液の作製
イエローインクで使用したポリマー溶液を100g、カーボンブラックを100gおよびイオン交換水を300gを混合し、機械的に0.5時間撹拌する。次に、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約70MPa下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理する。更に、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してブラック分散液とする。得られたブラック分散液は、その顔料濃度が10質量%、分散剤濃度が6質量%であった。
【0047】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記ブラック分散液を使用する。これに以下の成分を加えて所定の濃度にし、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度5質量%、分散剤濃度3質量%の顔料インクを調製する。
上記ブラック分散液 50部
グリセリン 10部
トリエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物 0.5部
(川研ファインケミカル製)イオン交換水 29.5部
【0048】
(処理液)
(1)処理液の作製
以下の成分を混合し、十分に攪拌して、処理液を調製した。
・滑り性化合物には、市販のアクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成製):5部
・グリセリン:5部
・エチレングリコール:15部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH):0.5部
・水:74.5部
【0049】
本実施形態における処理液には、記録画像の耐擦過性を向上させるための透明樹脂材料を含有させる。このような透明樹脂材料としては、ポリジメチルシロキサン成分を共重合した透明樹脂材料があり、これを用いると、画像表面に滑り性が生じ動摩擦係数を効果的に下げることができる。本実施形態では、市販のポリジメチルシロキサン成分を共重合した透明樹脂材料(上述したアクリルシリコーン共重合体:サイマックUS−450)を用いる。この処理液は、コートインク、表面コートインク、クリアインク、反応液、向上液と称することもある。
【0050】
一般的なポリジメチルシロキサン化合物は、下記の構造式(1)で表されるポリジメチルシロキサンセグメントを有する。ポリジメチルシロキサン成分は、(Si−O−Si)のシロキサン結合鎖の周囲をメチル基(−CH3)配置されているため、極性が低い分子構造を有している。従って、ポリジメチルシロキサン系化合物は、本実施形態で用いる処理液により形成された透明層の表面や界面に移動して、その表面や界面及びその近傍に局在化する性質を有する。この結果、透明層の表面エネルギーが低下し、透明層と人の爪との親和性も低くなり、人の爪に対する動摩擦係数を顕著に低下することができると考えられる。
構造式(1)
【0051】
【化1】

【0052】
滑り性が生じる透明樹脂材料としては、他に、アクリル系樹脂にシリコーンオイルを添加したものなどが挙げられるが、顔料インク層の最表面に透明層を形成し動摩擦係数を下げることが可能な樹脂材料であればいかなる材料も使用することができる。
【0053】
本実施形態では、顔料インクの処理液に対する接触角(濡れ性)の違いに着目して、処理液の付与方法の最適化を図っている。以下にこの接触角(濡れ性)について説明する。
【0054】
図7(A)、(B)は、固体表面上の液滴の接触角の測定法について説明するための図である。一般に、図7(A)に示すように、固体表面上100に、液滴101を乗せ、ある状態で平衡になっているとき、以下のような式が成り立つ。
γS=γLcosθ+γSL・・・・・・・・(式1)
γS :固体表面張力
γSL :固液境界張力
γL :液体表面張力
【0055】
式1を「Youngの式」と言い、このとき、液体表面と固体表面のなす角度が「接触角」である。一般に、この接触角が小さいほど濡れ性が相対的に高く、接触角が大きいほど濡れ性が相対的に低いと言われている。
【0056】
接触角を測定する方法として、一般的には「θ/2法」が用いられている。この「θ/2法」は、図7(B)に示すように、液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度θ1から接触角θを求める方法である。液滴形状を円の一部と仮定することで、幾何の定理より以下の式が成り立つ。
2θ1=θ・・・・・・・・・・・・・(式2)
しかし、「θ/2法」は、前述したように、液滴が球の一部であることを前提としているため、重力の影響によりつぶれた液滴を測定すると誤差を生じる。そのため、接線法やカーブフィット法などによる解析を行うこともある。これら接線法やカーブフィット法の詳細の説明は省略する。
【0057】
本明細書において、インクの「接触角」は、次のように定義される。すなわち、顔料インクの画像表面上を固体表面上100に見立て、処理液を滴下(吐出)してできる液滴を液滴101とし、その液滴101と顔料インクとの接触部分が成す角度θを測定したものを、顔料インクの処理液に対する接触角とする。これにより、ある範囲の表面張力の値に揃えたインク種を用いたにも関わらず、浸透(吸収)特性などの違いにより濡れ性が異なり生じていた光沢ムラなどの問題を、上記測定値よってコントロールすることができる。なお、インクの表面張力を揃えている理由は、記録ヘッドのノズルからの吐出特性(吐出量や吐出速度など)を同じくするためである。本例のインクセットでは、31〜35dyn/cmに揃えたものを搭載している。接触角の測定には、協和界面科学株式会社製のDropMasterを使用した。なお、顔料インクの処理液に対する接触角を測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0058】
次に、本実施形態で用いた顔料インクのうち、前述の測定器で測定した接触角の値に大きく差があったブラックインクとライトシアンインクを例に挙げて、接触角(濡れ性)の違いにより処理液の付与方法を変えることの有効性について説明する。
【0059】
図8は、ブラックインクおよびライトシアンインクのそれぞれの処理液に対する接触角の値を示した図である。本実施形態に用いた顔料インクの中で、最も大きい接触角の値を示したブラックインクの接触角は35度、最も小さい接触角の値を示したライトシアンインクの接触角は12度であった。ブラックインクで形成されるインク層の表面は、濡れ性が相対的に低い。ライトシアンインクで形成されるインク層の表面は、濡れ性が相対的に高い。なお、この濡れ性の差を生む要因としては、インクが固化(層形成、あるいは、ドット化)した際の表面の僅かな粗さの違いや、固化したインクへの吸収・浸透速度の違いや、固化したインクの表面の静電状態の違いなどが挙げられる。
【0060】
図9(A)、(B)は、上述の定義に従う接触角が異なる顔料インクの上に処理液を滴下した場合の、処理液の接触角の違いを説明するための図である。図9(A)はブラックインク上に処理液を滴下した状態を示しており、図9(B)はライトシアンインク上に処理液を滴下した状態を示している。この接触角の値は、処理液が顔料インクと接触した際の、処理液の液滴の広がり面積や乾燥後の液滴の高さと深く関係する。つまり、本実施形態で用いたインクでは、顔料インクの接触角の値が小さいほど(濡れ性が高いほど)、その顔料インク上での処理液の広がり面積は大きくなり、そのため液滴の高さは低くなる。顔料インクの接触角の値が大きいほど(濡れ性が低いほど)、そのインク層表面での処理液の広がり面積は小さくなり、そのため液滴の高さは高くなる。
【0061】
本実施形態は、このようなインクの接触角の違いによる処理液の広がり度合いと液滴の高さの違いに着目し、処理液に対する接触角が異なる顔料インク間で、顔料インクに対する処理液の付与方法を異ならせた点に特徴を有する。すなわち、マルチパス記録方式においては、接触角の大きい顔料インクで形成された所定領域に付与する処理液の吐出量を複数回の走査に分配して吐出させると、処理液は広がりにくいため、処理液の隣り合う液滴同士は接することが少なくなる。
【0062】
図10(A)は、接触角が大きい表面を有するインク層を被覆する透明層の状態を示している。インク層25に滴下された処理液の液滴26が濡れ広がらないため、他の処理液の液滴26と接することなく液滴26の高さが高いまま乾燥し、別の走査で吐出された処理液の液滴26がこれに積み重なり、表面が凹凸状に形成される。そのため、散乱反射光が強くなったり、正反射像が不鮮明になったりすることに起因する光沢性の低下などの画像品質の低下の問題が生じる。一方、接触角の小さい顔料インク上では処理液が広がりやすいため、マルチパス記録方式においても、処理液の隣り合う液滴同士は接することが多くなる。
【0063】
図10(B)は、接触角が小さい表面を有するインク層上の透明層の状態を示している。滴下した処理液の液滴が濡れ広がるため、同時に滴下した周囲の液滴と接してつながり、高さが相対的に低い状態で液滴が乾燥し、別の走査で吐出された処理液の液滴がこれに積み重なっても表面の平坦性が高い。このような表面形状の差により、接触角の大きい顔料インク領域上の透明層は光沢性が悪く、接触角の小さい顔料インク領域上の透明層は光沢性が良くなる。従来においては、顔料インクの接触角の大小に関わらず、光沢ムラなどの画像品質の低下を改善しようとしていたため、多くの処理液を消費していた。例えば、本実施形態で用いる耐擦過性向上の処理液の場合、接触角の大きい顔料インクのブラックインクを単位領域の画素のほぼすべてに吐出する約100%デューティで形成された領域上には、処理液を約80%デューティで付与する必要がある。また、接触角の小さい顔料インクのライトシアンインクでは約40%デューティで処理液を付与する必要がある。
【0064】
これに対し、本実施形態では、所定の単位領域に付与されるインクの処理液に対する接触角に応じて、複数回走査の各々における処理液の付与量を異ならせて所定の単位領域へ処理液を付与することを基本としている。具体的には、顔料インクの接触角の大小に関わらず、つまり顔料インクのブラックインク領域上でもライトシアンインク領域上であっても、処理液は領域に対して一定のデューティ、例えば、約40%のデューティで付与する。そして、インクの接触角の大小に関わらず処理液の全付与量を一定とし、複数回走査のうち処理液を付与する走査回数を接触角に応じて調整する。すなわち、一走査当たりの処理液付与量を、接触角が相対的に大きいインクに対しては相対的に多くし、接触角が相対的に小さいインクに対しては相対的に少なくする。これにより、処理液の付与量を必要最小限に抑えつつ、光沢ムラなどの画像品質を改善することができる。
【0065】
本実施形態の前述した特徴的な制御では、複数種類の顔料インクは、処理液に対する接触角(濡れ性)の違いにより、接触角小グループインクと接触角大グループインクに予め分類されている。本実施形態の場合、ライトシアン(LC)、ライトマゼンタ(LM)およびシアン(C)は接触角小グループに分類され、マゼンタ(M)、イエロー(Y)およびブラック(K)は接触角大グループに分類されている。そして、これらのグループの夫々に対応した記録方法に制御する。
【0066】
図3は、本発明の代表的な実施形態であるインクジェット式の記録装置における制御系の構成を示すブロック図である。ホストコンピュータ(画像入力部)28は、ハードディスク等の各種記憶媒体に保存されているRGB形式の多値画像データを、画像処理部に送信する。多値画像データは、ホストコンピュータ28に接続されたスキャナやデジタルカメラ等の画像入力機器からも受け取ることができる。画像処理部は、入力された多値画像データに後述する画像処理を施して2値画像データに変換する。これにより、複数種類の顔料インクを記録ヘッドから吐出するための2値画像データ(インク用吐出データ)が生成される。また、処理液を吐出するための2値画像データ(処理液用吐出データ)もここで生成される。記録装置(画像出力部)30は、画像処理部で生成された少なくとも2種類以上の顔料インクと処理液の2値画像データに基づいて、顔料インクおよび処理液を記録媒体に付与することで画像を記録する。画像出力部30自体は、ROM304に記録されたプログラムに従って、制御手段としてのMPU(Micro Processeor Unit)302により制御される。RAM305は、MPU302の作業領域や一時データ保存領域として利用される。MPU302は、ASIC303を介して、キャリッジの駆動系308、記録媒体の搬送駆動系309、記録ヘッドの回復駆動系310、および記録ヘッドの駆動系311の制御を行う。また、MPU302はASIC303から読み書き可能なプリントバッファ306への読み書きが可能な構成になっている。プリントバッファ306は、ヘッドへ転送できる形式に変換された画像データを一時保管する。マスクバッファ307は、ヘッドに転送する際にプリントバッファ306から転送されるデータの必要に応じてアンド処理する所定のマスクパターンを一時的に保管する。なお、パス数の異なるマルチパス記録の為の複数組のマスクパターンはROM304内に用意され、実際の記録時に該当するマスクパターンがROM304から読み出されてマスクバッファ307に格納される。
【0067】
次に、本実施形態の処理液の吐出データの生成方法を、図4を用いて説明する。図4は、前述の画像処理部のフローチャートであって、この画像処理部において、顔料インクの吐出データと、処理液の吐出データと、が生成される。なお、画像処理部は、データ生成装置を構成しているが、画像処理部の機能を記録装置以外のホストコンピュータなどに持たせることも可能である。
【0068】
具体的には、まず、ホストコンピュータ(画像入力部)28からRGB形式の多値画像データが入力される。RGB形式の多値画像データは、ステップS31の色変換により、画像形成に用いる複数種類のインク(K、C、M、Y、LC、LM)夫々に対応した多値画像データに変換される。次いで、ステップS32の2値化処理において、記憶されていたパターンに従って、各種インクに対応した多値画像データは各種インクの2値の画像データに展開される。これにより、複数種類の顔料インク夫々を付与するための2値画像データが生成される。
【0069】
ステップS33では、生成された複数種類の顔料インク(K、C、M、Y、LC、LM)の2値画像データを、OR処理(論理和演算)することによって、処理液の2値画像データが生成される。ここで、記憶されていた処理液用パターンを用いて、生成された処理液用の2値画像データとのAND処理(論理積演算)により、間引かれた処理液用の2値画像データを生成してもよい。このように、本発明においては、必ずしも、処理液の吐出数は、顔料インクの吐出数と同数でなくてもよく、また、顔料インク画像の全面に吐出しなくてもよい。また、この処理液用の2値画像データは、複数種類の顔料インクの2値画像データに基づくことなく生成してもよい。さらには、顔料インクの吐出数に関わらず、記録媒体全域が均一なパターンになるように処理液用の2値画像データを生成してもよい。このように、処理液用の2値画像データの生成方法は本実施形態に限定されない。本実施形態では、前述したように、インクの接触角の大小(濡れ性の高低)に関わらず、同じ量の処理液を付与する。すなわち、ブラックインクが約100%デューティで形成された領域であっても、ライトシアンインクが約100%デューティで形成された領域でも、処理液の付与率が約40%デューティとなるような処理液用マスクパターンを用いる。
【0070】
ステップS34では、複数種類の顔料インクの2値画像データに基づき、顔料インクが付与される所定の単位領域が、前述の接触角大グループの領域なのか接触角小グループの領域なのか、所定領域ごとに接触角グループの判定を行う。すなわち、領域のインクの接触角が大きいか小さいかを判定する。接触角小グループの領域の場合は、ステップS35により、接触角小グループ用の走査回数が設定される。一方、接触角大グループの領域の場合は、ステップS36により、接触角大グループ用の処理液を付与する走査回数が設定される。
【0071】
次いで、ステップS37において、複数種類の顔料インクの2値画像データは、顔料インク用の通常の走査回数で記録できるように、記録ヘッドへ転送できる形式の吐出データが生成される。また、処理液の2値画像データは、接触角小グループの領域では、処理液用の通常の走査回数の全てで記録(処理液を吐出)できるように、インクの吐出データが生成される。一方、接触角大グループの領域では、処理液が付与される走査回数が通常の走査回数より少なくなるように、インクの吐出データが生成される。これらの吐出データに基づき、記録装置(画像出力部)30の記録ヘッドから後述するマルチパス記録方式で顔料インクと処理液の吐出を行い、画像を形成する。
【0072】
以上の構成の記録装置における本実施形態の前述した特徴的な制御を行う記録動作について説明する。「特徴的な制御」とは、接触角の相対的に大きいインクに対して処理液を付与する走査回数が、接触角が相対的に小さいインクに対して処理液を付与する走査回数よりも少なくなるように、処理液を付与する走査回数を制御することである。本実施形態においては、合計8回の走査によって、所定領域毎にインクによるインク層と処理液による透明層を形成するマルチパス記録方式を採用する。その記録方式は、最初の4回の走査時に、各色インク、ブラック(K)、マゼンタ(M),シアン(C),イエロー(Y),ライトシアン(LC)、ライトマゼンタ(LM)を吐出することによって所定領域に画像を記録する。その4回の走査の後に続く4回の走査時のうち、接触角小グループインクで形成された画像領域では4回の走査で処理液を吐出して透明層を形成する。一方、接触角大グループインクで形成された画像領域では、1回のみの走査で処理液を吐出して透明層を形成する。例えば、本実施形態では、前述したように、顔料インクによって形成されるインクの接触角の大小に関わらず、顔料インクの付与率が約100%デューティで形成された領域での処理液の付与率は約40%デューティとしている。従って、接触角大グループインクで形成された画像領域では、1回のみの走査で画像領域の約40%に処理液を吐出することになる。接触角小グループインクで形成された画像領域では1回の走査毎に画像領域の約10%ずつ処理液を吐出する。
【0073】
このように、1回の走査で吐出を完了させることで、4回の走査に分けて吐出を完了させるのと比べて、一度にインク層に吐出される処理液の吐出数が増し、処理液の隣り合う液滴同士が接する頻度を高めることができる。これにより、透明層表面の凹凸形状を改善し、光沢ムラなどの画像品質を改善することができる。顔料インクは予め、ライトシアン(LC)、ライトマゼンタ(LM)およびシアン(C)は接触角小グループに分類され、マゼンタ(M)、イエロー(Y)およびブラック(K)は接触角大グループに分類されている。以下においては、接触角小グループの画像領域の記録に用いるインクは、ライトシアン(LC)、接触角大グループの画像領域の記録に用いるインクは、ブラック(K)として説明する。
【0074】
図6は、本実施形態における接触角小グループインクで形成される画像領域の記録方法の説明図である。ライトシアン(LC)インク吐出用の記録ヘッド22LC、および処理液吐出用の記録ヘッド22Hは、1280個の吐出口が160個ずつの8つのブロックB1,B2,B3,B4,B5,B6,B7,B8に8等分される。記録ヘッド22LCは、ブロックB1〜B4の範囲α(図2参照)における640個の吐出口が用いられ、以下においては、それらのブロックB1〜B4の吐出口をA,B,C.D領域の吐出口ともいう。記録ヘッド22Hは、ブロックB5〜B8の範囲γ(図2参照)における640個の吐出口が用いられ、以下においては、それらのブロックB5〜B8の吐出口をe,f,g,h領域の吐出口ともいう。図5において50−1,50−2,50−3,…は、記録ヘッドの1つのブロックに相当する記録媒体1上の記録領域である。
【0075】
まずは、第1走査において、記録領域50−1の第1走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22LCのA領域の吐出口からインクを吐出する。
【0076】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向(矢印Y方向)に搬送する。図5においては、記録ヘッドが副走査方向と逆の方向(矢印X方向)に相対移動するものとして現されている。その後の第2走査においては、記録領域50−1の第2走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22LCのB領域の吐出口からインクを吐出する。この第2走査時には、記録領域50−2に対する第1走査が行なわれる。
【0077】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第3走査においては、記録領域50−1の第3走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22LCのC領域の吐出口からインクを吐出する。この第3走査時には、記録領域50−2に対する第2走査と、記録領域50−3に対する第1走査と、が行なわれる。
【0078】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第4走査においては、記録領域50−1の第4走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22LCのD領域の吐出口からインクを吐出する。この第4走査時には、記録領域50−2に対する第3走査と、記録領域50−3に対する第2走査と、記録領域50−4に対する第1走査と、が行なわれる。
【0079】
このような第1から第4走査によって、ライトシアン(C)インクによる記録領域50−1の画像の記録が終了する。
【0080】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第5走査においては、記録領域50−1の第5走査時の処理液の吐出データに基づいて、記録ヘッド22Hのe領域の吐出口から処理液を吐出する。この第5走査時には、記録領域50−2に対する第4走査と、記録領域50−3に対する第3走査と、記録領域50−4に対する第2走査と、記録領域50−5に対する第1走査と、が行なわれる。
【0081】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第6走査においては、記録領域50−1の第6走査時の処理液の吐出データに基づいて、記録ヘッド22Hのf領域の吐出口から処理液を吐出する。この第6走査時には、記録領域50−2に対する第5走査と、記録領域50−3に対する第4走査と、記録領域50−4に対する第3走査と、記録領域50−5に対する第2走査と、記録領域50−5に対する第1走査と、が行なわれる。
【0082】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第7走査においては、記録領域50−1の第7走査時の処理液の吐出データに基づいて、記録ヘッド22Hのg領域の吐出口から処理液を吐出する。この第7走査時には、記録領域50−2に対する第6走査と、記録領域50−3に対する第5走査と、記録領域50−5に対する第1走査と、が行なわれる。
【0083】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第8走査においては、記録領域50−1の第8走査時の処理液の吐出データに基づいて、記録ヘッド22Hのh領域の吐出口から処理液を吐出する。この第8走査時には、記録領域50−2に対する第7走査と、記録領域50−3に対する第6走査と、記録領域50−5に対する第1走査と、が行なわれる。
【0084】
このような第5から第8走査によって、処理液による記録領域50−1の透明層の形成が終了する。
【0085】
以下、同様の走査を繰り返すことにより、記録領域50−2、50−3、に対する画像の記録と透明層の形成が順次終了することになる。
【0086】
図11は、本実施形態における接触角大グループインクで形成される画像領域の記録方法の説明図である。
【0087】
第1から第4走査によって、ブラック(K)インクによる記録領域50−1の画像の記録が終了した次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第5走査においては、記録領域50−1の第5走査時の処理液の吐出データに基づいて、記録ヘッド22Hのe領域の吐出口から処理液を吐出し、透明層の形成が終了する。第6から第8走査では、処理液の吐出はない。
【0088】
以下、同様の走査を繰り返すことにより、記録領域50−2、50−3、に対する画像の記録と透明層の形成が順次終了することになる。
【0089】
以上のように、インクの処理液に対する接触角に応じて、顔料インクが付与される位置に対して処理液が付与される記録方法を好適に異ならせることができる。すなわち、接触角の相対的に大きいインクに対して処理液を付与する走査回数が、接触角の相対的に小さいインクに対して処理液を付与する走査回数よりも少なくなるように、処理液を付与する走査回数を制御することができる。これによれば、接触角が大きいインクであっても、接触角の小さいインクと同量の処理液の付与量で済むので、処理液の付与量を必要最小限に抑えつつ、光沢ムラなどの画像品質を改善することができる。
【0090】
なお、本実施形態においては、複数の走査のうち、最初の4回の走査で顔料インクによる画像の形成を行い、続いた4回の走査で処理液による透明層の形成を行った。しかし、本発明では、顔料インクと処理液を付与する走査回数に制限はなく、顔料インクと処理液を接触させることにより、画像品位や画像堅牢性を向上させることができればよい。
【0091】
また、処理液の2値画像データを複数回の走査で記録できるように、記録ヘッドへ転送できる形式の吐出データの生成方法において、画像形成時に顔料インクの2値画像データを複数回の走査に分けるためのマスクパターンを利用してもよい。
【0092】
また、本実施形態では、接触角の大きいインクに対しては1回の走査で処理液を付与しているが、その走査回数はこの限りではない。2回以上にしてもよい。処理液の付与量や、顔料インクと処理液の各走査数などに応じて、接触角の相対的に大きい顔料インクに対して処理液を付与する走査回数を決めてもよい。
【0093】
また、本実施形態では、インクの接触角の大小に関わらず、処理液の全付与量(全吐出数)は同じにした。しかしながら、インクの接触角に応じて、処理液の全付与量を異ならせてもよい。
【0094】
また、本実施形態では、顔料インクの2値画像データをOR処理(論理和演算)することによって処理液用の2値画像データを生成したが、顔料インクの吐出数に関わらず、処理液を所定の単位領域に対して、例えば、約40%デューティで均一(一律)に付与してもよい。
【0095】
第2の実施形態
図12〜図14は、本発明の第2の実施形態の説明図である。
【0096】
本実施形態においても、インクの処理液に対する接触角に応じて、複数回走査の各々における処理液の付与量を異ならせて所定の単位領域へ処理液を付与することを基本としている。そして、本実施形態では、接触角が相対的に大きいインクに対しては、複数回走査の各々に割り当てられた処理液の付与量の最大値を、接触角が相対的に小さいインクの場合の最大値よりも大きくする。すなわち、インクの接触角に応じて、処理液の各走査の吐出量のうちの最大吐出量を異ならせる制御を行う。従って、本実施形態においては、接触角の相対的に大きいインクに対して処理液を付与する走査回数と接触角の相対的に小さいインクに対して処理液を付与する走査回数は、同じ回数で処理液を吐出させる。すなわち、本実施形態は、インクの接触角の大小に関わらず、図6に示した記録方法で画像を記録する。また、本実施形態の処理液の付与量は、画像を形成するための顔料インクの吐出ドット数に関わらず、所定の単位領域に均一になるように処理液を分散して付与する。なお、前述した実施形態と同様の部分については、説明を省略する。
【0097】
本実施形態の処理液の吐出データの生成方法を、図12を用いて説明する。インクの接触角に応じて、処理液の各走査の付与量(吐出量)うちの最大値(最大吐出量)を異ならせるためには、画像形成時に各色インクの吐出量を複数回の走査に分配するためのマスクパターン(図13参照)を利用する。
【0098】
ステップS33では、生成されたインクの2値画像データには関係なく、処理液の2値画像データが生成される。本実施形態では、処理液の付与量は、顔料インクが約100%デューティで形成された画像に対して、望ましい耐擦過性を得るために、所定の単位領域の全画素に対して約60%の割合のインク吐出数を許容する処理液用マスクパターンを用いる。
【0099】
ステップS34で、顔料インクで画像が形成される所定の単位領域が、接触角大グループの領域なのか接触角小グループの領域なのか、接触角グループの判定を行う。接触角小グループの領域の場合は、ステップS38により、接触角小グループ用の処理液用マスクパターンが設定される。一方、接触角大グループの領域の場合は、ステップS39により、接触角大グループ用の処理液用マスクパターンが設定される。次いで、ステップS37において、処理液用の吐出データが生成される。
【0100】
図14および図15は、本実施形態における処理液用のマスクパターンの一例を示す図である。処理液吐出用の第5〜第8走査では、このマスクパターンに従って、画像処理部で生成された処理液用吐出データを画素毎に吐出許可するか否かが決定される。図14に示すマスクパターンは、接触角小グループインクで形成された画像に対して処理液を付与する場合に用いる。所定の単位領域の全画素に処理液を吐出した場合のデューティを100%とした場合に、各走査で吐出許可される吐出量は、本例では均等に各25%デューティとなるように設定している。従って、本例での処理液の付与量は、顔料インクの接触角の大小や顔料インクの付与量に関わらず、望ましい耐擦過性を得る均一な60%デューティとしているため、各走査のデューティは15%となり、最大吐出量のデューティも15%となる。
【0101】
一方、図15に示すマスクパターンは、接触角大グループインクで形成された画像に対して処理液を付与する場合に用いる。すなわち、接触角が相対的に大きいインクに対して処理液を付与する場合に用いられる。処理液が各走査で吐出許可される吐出量は、不均等な吐出量となるように設定している。所定の単位領域の全画素に吐出した場合をデューティが100%とした場合に、第5走査時には10%、第6および第7走査時には各20%、第8走査時には50%となるように、吐出量が後半の走査で多くなるように偏らせて設定している。すなわち、複数回走査の先の走査から後の走査に進むにしたがって処理液の付与量を増加させている。従って、本例では、第5走査時には6%、第6および第7走査時には各12%、第8走査時には30%となり、最大吐出量は30%となる。均等な吐出量になるように分配したマスクパターンを用いた記録方法と比べると、同時に吐出される処理液の液滴数が増加し、隣り合う液滴同士が接する頻度が高まる。これにより、透明層の表面の凹凸形状を改善し、光沢ムラなどの画像品質を改善することができる。
【0102】
以上のように、インクの接触角に応じて、処理液を付与するときの処理液用マスクパターンを複数用いることで、処理液の各走査の吐出量うちの最大吐出量を好適に異ならせることができる。すなわち、接触角の相対的に小さいインクに対する処理液の各走査での吐出量のうちの最も大きい吐出量に比べ、接触角の相対的に大きいインクに対する処理液の各走査のうちの最も大きい吐出量が、大きくなるように処理液用マスクパターンで制御する。これによれば、顔料インクに対する処理液の付与量が、接触角の大きいインクであっても、接触角の小さいインクの場合と同量で済むので、処理液の付与量を増やすことなく、光沢ムラなどの画像品質を改善することができる。
【0103】
なお、本実施形態では、接触角大グループインクに対する処理液の各走査のうち、最後の走査で最大吐出量となる処理液用マスクパターンを用いた。最大吐出量の処理液により形成された透明層表面上に、次の走査で処理液が吐出されることがないため、透明層表面の平滑化には好ましい。しかし、本発明では、接触角大グループインクに対する処理液の各走査のうち、最初の走査あるいは途中の走査で吐出許可させる吐出量が最大吐出量となる処理液用マスクパターンを用いてもよい。光沢ムラ改善効果を得ることができればよい。
【0104】
また、各走査に分配する処理液の吐出量は、本実施形態で示した限りではない。本実施形態では、接触角小グループインクに対して用いる処理液用マスクパターンは、所定の単位領域の全画素に吐出した場合のデューティを100%とした場合に、各走査において、各25%のデューティのマスクを用いた。しかし、接触角小グループインクに対して用いる処理液用マスクパターンとして、吐出量が中間の走査で大きくなるように偏らせたものを用いてもよい。例えば、第5走査時には15%、第6および第7走査時には各35%、第8走査時には15%となるような処理液用マスクパターンでもよい。その場合、前述した本実施形態のように、接触角大グループインクに対して用いる処理液用マスクパターンの最大吐出量が、接触角小グループインクで用いる処理液用マスクパターンの最大吐出量より多くなればよい。例えば、接触角大グループインクに対して用いる処理液用マスクパターンとして、第5走査時には5%、第6および第7走査時には各45%、第8走査時には5%でよい。
【0105】
また、吐出量を前述のように偏らせた接触角小グループインクに用いる処理液用マスクパターンの最大吐出量が、接触角大グループインクに用いる処理液用マスクパターンの最大吐出量と同量でも、光沢ムラ改善の効果を得ることができればよい。すなわち、接触角大グループインクに用いる処理液用マスクパターンにおいて、比較的多量の吐出量となる走査を最大吐出量の走査の前後に偏らせることによって、光沢ムラを改善することもできるからである。例えば、所定の単位領域の全画素に吐出を許可した場合をデューティ100%とする。そして、接触角小グループインクに用いる処理液用マスクパターンが、第1走査時には10%、第2走査時には20%、第3走査時には40%、第4走査時には20%、第5走査時には10%の5回の走査用とする。この場合、例えば、接触角大グループインクで用いる処理液用マスクパターンは、第1走査時には18%、第2走査時には40%、第3走査時には38%、第4および第5走査時には各2%でよい。接触角小グループインクでの第3走査時と接触角大グループインクでの第2走査時の吐出量が共に最大吐出量40%と同量である。接触角大グループインクでの処理液は、最大吐出量の第2走査では、前述の本実施形態での最大吐出量50%の走査時ほど処理液の液滴同士はつながっていない。しかし、最大吐出量の第2走査に続けて比較的多めな吐出量の第3走査が行われることによって、処理液の吐出量の多くが短時間に付与される。すなわち、複数回走査のうちの連続する走査に相対的に高い割合の処理液の付与量を割り当てる。このようにすれば、最大吐出量の付与が行われたのと同様に、処理液の液滴同士がつながり易くなる。これにより、前述の実施形態と同様に光沢ムラ改善の効果を発揮する。
【0106】
また、前述のように最大吐出量が同じで、接触角小グループインクに対して用いる処理液用マスクパターンが各走査のうち中間の走査で最大吐出量となるものを用いて、接触角大グループインクに対しては、最後の走査で最大吐出量となるものを用いてもよい。このように、組み合わせることもできる。
【0107】
第3の実施形態
本実施形態においても、インクの処理液に対する接触角に応じて、複数回走査の各々における処理液の付与量を異ならせて所定の単位領域へ処理液を付与することを基本としている。そして、本実施形態では、接触角が相対的に大きいインクに対しては、複数回走査の各々に割り当てられた処理液の付与量の割合の最大値を、接触角が相対的に小さいインクの場合の最大値よりも大きくする。すなわち、インクの接触角に応じて、処理液の各走査の吐出量の割合のうちの最大割合値を異ならせる制御を行う。本実施形態においてもインクの接触角に関わらず、図6に示した記録方法で記録する。なお、本実施形態の処理液の付与量は、顔料インクの画素数に応じたものであり、顔料インクを所定の単位領域の全画素に均一に付与量である場合には、第2の実施形態と同じとなる。また、第2の実施形態と同様の部分については、説明を省略する。
【0108】
本実施形態の処理液の吐出データの生成方法を、図12を用いて説明する。インクの接触角に応じて、処理液を各走査に分配して吐出させる吐出量の割合のうちの最大割合値を異ならせる手段として、画像形成時に各色インクの吐出量を複数回の走査に分配するためのマスクパターン(図13参照)を利用する。
【0109】
ステップS33では、第1の実施形態と同じく、生成された複数種類の顔料インク(K、C、M、Y、LC、LM)の2値画像データを、OR処理(論理和演算)することによって、処理液の2値画像データが生成される。ここで、本実施形態では、100%デューティ(マスクの許可率)の2値画像データに対し、約60%に間引かれるように記憶されていた処理液用マスクパターンを用いて、生成された処理液用の2値画像データとのAND処理(論理積演算)を行う。これにより、顔料インクの2値画像データに応じた処理液用の2値画像データを生成する。このように、第2の実施形態では、処理液の付与量は、顔料インクのドット数に基づくことなく所定の単位領域に対して均一に60%としたが、本実施形態では、顔料インクのドット数に応じた付与量を決定する。
【0110】
ステップS34では、顔料インクで形成される所定領域が、接触角大グループの領域なのか接触角小グループの領域なのか、接触角グループの判定を行う。接触角小グループの領域の場合は、ステップS38により、接触角小グループ用の処理液用マスクパターンが設定される。一方、接触角大グループの領域の場合は、ステップS39により、接触角大グループ用の処理液用マスクパターンが設定される。次いで、ステップS37で処理液用吐出データが生成される。
【0111】
処理液用マスクパターンは、第2の実施形態と同じ図14および図15に示したものを用いる。処理液吐出用の第5〜第8走査では、このマスクパターンに従って、画像処理部で生成された処理液用吐出データを画素毎に吐出許可するか否かが決定される。図14に示すマスクパターンは、接触角小グループインクで形成された画像に対して処理液を付与する場合に用いる。顔料インクに対する処理液のデューティを100%とした場合(吐出された顔料インクのすべてに処理液を吐出する場合)に、各走査で吐出許可される吐出量は、均等の割合の各25%と設定している。従って、本実施形態での処理液の最大割合値は25%となる。
【0112】
一方、図15に示すマスクパターンは、接触角大グループインクで形成された画像に対して処理液を付与する場合に用いる。顔料インクに対する処理液のデューティを100%とした場合(吐出された顔料インクのすべてに処理液を吐出する場合)に、各走査で吐出許可される吐出量は、不均等な割合となるように設定している。本実施形態では、顔料インクに対する処理液のデューティを100%とした場合(吐出された顔料インクのすべてに処理液を吐出する場合)に、第5走査時には10%、第6および第7走査時には各20%、第8走査時には50%と割合を後半の走査に偏らせている。第8走査時で吐出許可される吐出量の割合を上げることで、均等の割合のマスクパターンを用いた記録方法と比べて、同時に吐出される処理液のドットが増加し、液滴同士が接する頻度が高くなる。これにより、透明層表面の凹凸形状を改善し、光沢ムラなどの画像品質を改善することができる。
【0113】
以上のように、インクの接触角に応じて、処理液を付与するときの処理液用マスクパターンを複数用いることで、処理液の吐出量を各走査に分配して吐出させる吐出量の割合のうちの最大割合値を好適に異ならせることができる。つまり、接触角の相対的に小さいインクに対する処理液の各走査での吐出量の割合のうち最も大きい割合の値に比べ、接触角の相対的に大きいインクに対する処理液の各走査のうち最も大きい割合の値が大きくなるように処理液用マスクパターンで制御する。これによれば、インクに対する処理液の付与量が、接触角が大きいインクであっても、接触角が小さいインクの場合と同量で済むので、処理液の付与量を増やすことなく、光沢ムラなどの画像品質を改善することができる。
【0114】
なお、第2の実施形態と同じく、処理液の各走査に分配する吐出量の割合は、本実施形態で示した限りではない。また、本実施形態及び第2の実施形態にて、処理液の各走査の吐出量うちの最大吐出量を異ならせる手段として、画像形成時に各色インクの吐出量を複数回の走査に分配するためのマスクパターンを利用した。しかし、処理液用の吐出量を複数回の走査に分配できればよく、分配手段に限りはない。
【0115】
その他の実施形態
前述の実施形態において、顔料インクを吐出するためのノズルを構成する吐出口と、処理液を吐出するためのノズルを構成する吐出口と、が主走査方向に並ぶように、記録ヘッドが構成されている。しかし、それらの吐出口が主走査方向と交差する方向(例えば、副走査方向)にずれるように構成された記録ヘッドを用いることもできる。また、処理液吐出用のノズルの数が顔料インク吐出用のノズルよりも多くて、前者のノズルの列が後者のノズルの列よりも長くてもよい。
【0116】
また、本発明は、インクと処理液を吐出可能な記録ヘッドの複数回の走査によって、記録媒体上の所定領域に対して、インクと処理液による画像の形成を行う種々の記録装置に対して、広く適用することができる。したがって、記録ヘッドの構成や配備数などは、上述した実施形態のみに特定されない。
【0117】
また、上述の実施形態では、インク層の耐擦過性を向上させるための処理液を具体例として例示した。しかし、本発明で適用可能な処理液は、このような耐擦過性液体に制限されるものではない。耐擦過性だけに限らず、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性等の画像品位や、耐水性、耐アルカリ性、耐候性等の画像堅牢性など、顔料インク画像について品質を向上させる処理液であればよい。
【0118】
また、上述の実施形態では、画像を形成する顔料インクを、そのインクの接触角の違いにより、接触角小グループと接触角大グループとの2種類に分類したが、分類する数はこの限りではない。接触角の程度(濡れ性の程度)に合わせて、インク毎にさらに多くのグループ(例えば、3グループ、4グループ等)に分類してもよい。この場合であっても、グループ毎に処理液を付与する走査回数、あるいは、各走査の吐出量、及び、その割合を異ならせることは上述した実施形態と同様である。例えば、4グループに分類する場合には、これら4グループ夫々に対応した吐出量割合の異なる4種類の処理液用マスクパターンを用意すればよい。
【0119】
また、上述の実施形態では、接触角大グループインクで形成される画像、および、接触角小グループインクで形成される画像に対して処理液を付与する場合の制御を行った。しかし、実際には接触角大グループインクと接触角小グループインクが混在して形成される画像が多い。その場合には、顔料インクの2値画像データのデータ数(吐出ドット数)をカウントし、その比率によって、どちらのグループとするかを判定するのが好ましい。また、接触角大グループインクではブラックインク、接触角小グループインクではライトシアンインクのように、あるインクに注目し、それらの混在する比率によって、判定してもよい。このように、処理液を付与する画像領域が、接触角大グループに属する画像領域か、接触角小グループに属する画像領域か、すなわち、形成されるインクの接触角が大きいか小さいかを判定する判定手段は本実施形態に限定されない。
【0120】
また、上述の実施形態では、画像形成に用いる顔料インクの他に、これら顔料インクによる画像品質(前述の実施形態では耐擦過性)を向上させる処理液を別に用いた。従って、基本的には、画像形成とは別使用なので、無色透明に近い状態が好ましい。しかし、有色でもライトシアンインクやライトマゼンタインク、ライトグレーインクなど画像形成に用いる顔料インクのうち淡色の顔料インクの一部、又は全てに耐擦過性などの機能を向上させる材料を追加し、画像形成と機能向上の両方の役割を担わせても良い。この場合、インクタンクや記録ヘッドなどの1色分の追加部品が要らないので、小型化や低コスト化に大いに貢献できる。もちろん、画像形成に用いる顔料インクのうちの濃色の顔料インクの一部もしくは全てが処理液を兼ねても良い。
【0121】
また、本発明では、処理液は、画像生成が終了した後に吐出され顔料インク画像層の最表面に存在する場合が、最も効果を発揮する。しかし、画像形成を行っている最中に一部の処理液が顔料インクと共に吐出され顔料インク画像層の内部に存在してもよい。このように本発明において、処理液と顔料インクの付与順番や処理液の存在位置などは限定されるものではない。
【0122】
また、前述の実施形態では、顔料インクにより形成される画像を構成するインクを、処理液との接触角(濡れ性)の値の違いにより分類し、その画像に対応する処理液の付与方法を決定するようにした。しかし、記録媒体の種類(高吸収受容層など受容層の種類や、光沢紙・マット紙など用途別種類)に応じて、さらに処理液の付与量や付与方法を変更する形態であってもよい。また、記録モードの種類(ドラフトモードや高精細モードなど)に応じて、更に処理液の付与量や付与方法を変更する形態であってもよい。
【0123】
また、本明細書において、「処理液」とは、インクと接触させることによって、画像堅牢性や画像品位といったインク画像の品質を向上させる液体とした。しかし、インクによる画像が形成されない所定領域、すなわち記録媒体に処理液を付与すると、記録媒体の性能を向上させることもある。その場合、前述の実施形態にように、処理液に対する記録媒体の表面の接触角に応じて、その記録媒体に対応する処理液の付与方法を決定してもよい。
【0124】
また、本発明は、紙や布、不織布、OHPフィルム等の記録媒体を用いる記録装置全てに適用が可能であり、具体的な適用装置としては、プリンタ、複写機、ファクシミリなどの事務機や大量生産機等を挙げることができる。
【符号の説明】
【0125】
22 記録ヘッド
25 インク層
26 透明層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のインクと前記インクに接触させるための処理液とを吐出可能な記録ヘッドを、記録媒体に対して複数回走査させることで、画像データに基づいた画像を形成する記録装置であって、
前記画像データから前記記録媒体の所定の単位領域に対する前記処理液の付与量を決定し、前記付与量を前記複数回走査に分配する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記処理液に対する接触角が相対的に大きいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量と前記接触角が相対的に小さいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量とを同じとした場合には、
前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記接触角が相対的に小さいインクに対する場合よりも、前記複数回走査に分配する各付与量のうち少なくとも1回の走査で多くなるようにする、ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記接触角が相対的に小さいインクに対する場合よりも、前記複数回走査のうち前記処理液を付与する走査回数を少なくする、ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記接触角が相対的に大きいインクに対して前記複数回走査の各々に分配する前記処理液の付与量の最大値を、前記接触角が相対的に小さいインクに対する場合の前記最大値よりも大きくする、ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記複数回走査の各々に分配する前記処理液の付与量の割合の最大値を、前記接触角が相対的に小さい前記インクにより形成された画像に対する場合の前記最大値よりも大きくする、ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記複数回走査のうちの先の走査から後の走査に進むにしたがって前記処理液の付与量を増加させる、ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記処理液の付与量を前記所定の単位領域において一律に決定する、ことを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の記録装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記処理液の付与量を前記所定の単位領域における前記画像データに応じて決定する、ことを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の記録装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記処理液の付与量を前記インクによる画像が形成されない前記所定の単位領域においても決定する、ことを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の記録装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記複数回走査の各々における前記処理液のデータを分配するために、複数のマスクパターンを用いる、ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の記録装置。
【請求項10】
複数種類のインクと前記インクに接触させるための処理液とを吐出可能な記録ヘッドを、記録媒体に対して複数回走査させることで、画像データに基づいた画像を形成する記録方法であって、
前記画像データから前記記録媒体の所定の単位領域に対する前記処理液の付与量を決定し、前記付与量を前記複数回走査に分配する制御工程を備え、
前記制御工程は、前記処理液に対する接触角が相対的に大きいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量と前記接触角が相対的に小さいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量とを同じとした場合には、
前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記接触角が相対的に小さいインクに対する場合よりも、前記複数回走査に分配する各付与量のうち少なくとも1回の走査で多くなるようにする、ことを特徴とする記録方法。
【請求項11】
複数種類のインクと前記インクに接触させるための処理液とを吐出可能な記録ヘッドを、記録媒体に対して複数回走査させることで、画像データに基づいた画像を形成するときの前記処理液のデータを生成するデータ生成装置であって、
前記画像データから前記記録媒体の所定の単位領域に対する前記処理液の付与量を決定し、前記付与量を前記複数回走査に分配する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記処理液に対する接触角が相対的に大きいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量と前記接触角が相対的に小さいインクで形成される前記単位領域に対する前記付与量とを同じとした場合には、
前記接触角が相対的に大きいインクに対しては、前記接触角が相対的に小さいインクに対する場合よりも、前記複数回走査に分配する各付与量のうち少なくとも1回の走査で多くなるように前記処理液のデータを生成する、ことを特徴とするデータ生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−20475(P2012−20475A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159830(P2010−159830)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】