説明

記録装置および加湿装置

【課題】 小型且つ高効率な加湿部で所望の高湿度の加湿気体を生成してインクジェット方式の記録ヘッドの保湿する。
【解決手段】 加湿部(10)は第1加湿室(11)と第2加湿室(12)が直列に接続された構造を有する。加湿部で生成された高湿度の加湿気体は、記録ヘッドのノズルが露出する空間に供給されて気流を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット方式の記録ヘッドを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のインクジェット記録ヘッドがシート搬送方向に沿って並べて配置されたプリンタにおいて、インクノズルの近傍に加湿気体を供給してノズル乾燥を抑制する手法が開示されている。隣り合う記録ヘッドの間を支持部材で埋め、記録ヘッドと支持部材とを同じ平坦面とすることで、一定距離の連続した狭いギャップ領域を形成する。このギャップ領域に多湿の加湿気体を流すことで、各記録ヘッドを保湿して乾燥を抑制するものである。加湿気体を生成する手段は単一の加湿室からなり、水蒸気の発生には超音波振動子、発熱体、蒸発フィルタを用いることが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−44021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保湿すべき記録ヘッドはシート搬送経路に面しているので、シートが出入りする開口は必ず必要であり密閉空間にするこができない。そのため、必要な保湿を行うには、加湿部で生成して空間に供給される加湿気体は、例えば重量絶対湿度Hmが0.02019〜0.02722〔kg/kgDA〕といった極めて高い湿度を持つことが望まれる。しかし、特許文献1に開示されているような構造の加湿部では、必要な湿度を持った加湿気体を生成するためには、加湿部が非常に大型化してしまう。このため、記録装置全体のサイズが大きくなるとともの消費電力も大きくなってしまう。
【0005】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の第1の目的は、小型且つ高効率な加湿部で所望の高湿度の加湿気体を生成することができ、この加湿気体でインクジェット方式の記録ヘッドの保湿することで信頼性の高い記録装置を提供することである。
【0006】
また、特許文献1の装置では、シートを保持して搬送する手段が吸着ベルトまたは吸着ローラであり、静電吸着方式やバキューム吸着方式などでシート裏面側を吸着して保持する。しかし、シートの裏面側のみの保持なので、使用するシートの種類や性質によっては吸着不良になる場合がある。とくに特許文献1の装置では、吸着ベルトまたは吸着ローラに多湿の加湿気体が導入されるので、湿度によって吸着面から電荷が逃げてシートの保持力が著しく低下する。そのため、剛性が高く且つ強いカールを持ったシートでは、シート裏面の吸着だけではシートを保持しきれずにシートに浮きが生じる。浮いた部分では記録する画像品位が劣化するとともに、浮きが大きい場合には記録ヘッドにシートが接触してしまう畏れがある。また、特許文献1の装置でシートを保持するためにバキューム吸着方式を採用すると、シートを吸着する前に、導入された加湿気体をバキュームで吸引してしまうので加湿効率が著しく悪くなる。
【0007】
そこで本発明の第2の目的は、記録ヘッドとシートとの間に加湿気体を導入してインクノズルの乾燥を抑制する際に、どのような種類や性質のシートであっても確実に保持することができるとともに、加湿気体を効率よく利用することができる記録装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の記録装置は、インクジェット方式の記録ヘッドを含む記録部と、前記記録ヘッドのノズルが露出する空間に加湿気体の気流を生成する加湿部とを有し、前記加湿部は、加湿空気を生成するための第1加湿室と、前記第1加湿室に接続された第2加湿室を備え、前記第1加湿室で生成された加湿気体が前記第2加湿室に導入されて前記第2加湿室においてさらに加湿された加湿気体が生成され、前記第2加湿室から前記空間に加湿気体が供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型且つ高効率な加湿部で所望の高湿度の加湿気体を生成することができ、この加湿気体でインクジェット方式の記録ヘッドの保湿することで信頼性の高い記録装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】記録装置が待機状態にあるときの構成図
【図2】記録部とシート搬送部の拡大図
【図3】加湿部の詳細な構造を示す構成図
【図4】加湿時の気体の状態変化を示すグラフ図
【図5】記録装置の動作のシーケンスを示すフローチャート
【図6】記録装置が記録動作前の加湿状態にあるときの構成図
【図7】記録装置が記録動作中の加湿状態にあるときの構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、インクジェット方式を用いたプリント装置の実施形態を説明する。本例のプリント装置は、長尺で連続したシート(搬送方向において繰り返しのプリント単位(1ページあるいは単位画像という)の長さよりも長い連続シート)を使用した高速ラインプリンタである。例えば、プリントラボ等における大量の枚数のプリントの分野に適している。
【0012】
図1は実施形態の記録装置が待機状態にあるときの構成図である。図2は記録部とシート搬送部の拡大図である。プリント装置内部には、大きくは、シート供給部41、記録部、シート搬送部2、シート巻取部42、加湿部10、制御部15の各ユニットを備える。なお、シート搬送経路の任意の位置において、シート供給部41に近い側を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0013】
シート供給部41は、ロール状に巻かれた連続シートを保持して供給する。なお、使用可能なシートはロール状に巻かれたものに限らない。例えば、単位長さごとのミシン目が付与された連続シートがミシン目ごとに折り返されて積層され、シート供給部41に収納されるものでもよい。また、連続シートに限らず、カットシートであってもよい。シート巻取部42は、画像記録の済んだ連続シートをロール状に巻き取っていく。
【0014】
記録部は、シートが搬送される方向に沿って並べられた複数の記録ヘッドユニット1を有する。記録ヘッドユニット1は、使用が想定されるシートの最大記録幅をカバーする範囲でインクジェット方式のインクノズルの列がライン状に形成されたライン型記録ヘッドを含む。本例ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)、K(ブラック)の6色に対応した6つの記録ヘッドユニット1a〜1f(図2参照)が順に並んでいる。なお、色数および記録ヘッドの数は6つには限定はされない。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介して記録ヘッドに供給される。なお、記録ヘッドユニット1は本実施形態のものに限らず、各々の記録ヘッドユニットが記録ヘッドとインクタンクが一体になったものであってもよい。
【0015】
複数の記録ヘッドユニット1はヘッドホルダ6によって一体的に保持されている。ヘッドホルダ6は6つの記録ヘッドユニット1を挿入する6つ開口を備えた板状の部材であり、開口に記録ヘッドユニット1を取り付けた際には隙間なく気密に保持する。そのため、上方への空気の漏れはなく、後述する加湿気体および記録の際にノズルから発生したインクミストがヘッドホルダ6よりも上方に拡散することが抑止される。また、ヘッドホルダ6は、各々の記録ヘッドユニット1が有するインクノズルと記録位置のシートとの間隔を可変とするために、上下方向(図1の矢印方向)に移動することができる機構(間隔調整機構)を備えている。
【0016】
シート搬送部2は、記録位置の近傍において、シートSを両面から挟持する7つのローラ対を備える。各ローラ対は、従動回転する上側のピンチローラ3(第1ローラ)と、駆動力が与えられた下側の駆動ローラ4(第2ローラ)のペアからなる。図2に示すように、ピンチローラ3は上流から下流の順にピンチローラ3a〜3fを有し、駆動ローラ4は上流から下流の順に駆動ローラ4a〜4gを有する。これら駆動ローラは駆動源の駆動力により回転する。ピンチローラ3a〜3gはすべて同一のローラ直径を有する。また、駆動ローラ4b〜4はすべて同一のローラ直径を有し、最も上流に位置する駆動ローラ4aだけが他よりもローラ直径が大きくなっている。シート搬送部はさらに、記録位置において、シートSを下から支持するためのプラテン5を備える。図2に示すように、プラテン5はプラテン5a〜5fの6つに分割され、分割された各々は、複数の駆動ローラ4a〜4gの間に位置し、且つ、6つの記録ヘッドユニット1a〜1fにそれぞれ対向するようになっている。見方を変えると、複数の駆動ローラ4はそれぞれプラテン5の開口に回転可能な状態で埋め込まれている。駆動ローラ4とプラテン5の隙間は小さくなっているので、隙間からの空気の漏れは少ない。記録ヘッドユニット1a〜1fの対向位置(記録位置)それぞれにおいて、シートSは上流下流の両側がローラ対で挟持され且つプラテンで支持されるのでシート搬送の挙動が安定する。特に最初にシートが導入される際には、シート先端が短い周期で複数の挟持位置を通過していくので、シート先端の浮きが抑制され安定したシート導入がなされる。
【0017】
ノズルキャップ7は、記録動作を行わない装置待機時にインクノズルをキャッピングして密閉し、ノズルの乾燥を抑止するためのキャップである。間隔調整機構で間隔を広げた状態でノズルキャップ7が記録部の下に挿入されて、それぞれのインクノズルをまとめてキャップするようになっている。湿度センサ9は、最も下流の記録ヘッドユニット1fの近傍位置で、気体の湿度を検出する。
【0018】
加湿部10は加湿気体(空気)を生成して、複数の記録ヘッドユニット1と14とシートの間に供給するためのユニットである。加湿気体によって記録ヘッドユニット1のインクノズルの乾燥が抑制される。加湿部10は、第1加湿室11と第2加湿室12とが直列に接続された二連型加湿装置である。
【0019】
加湿部10で生成された加湿気体はファンで送り出されてダクト13を通して噴出口14から噴出して、記録部とシート搬送部の間の狭空間50に加湿気体が供給される。噴出口14から噴出した加湿気体は、狭空間50において最上流の記録ヘッドユニット1aとシートSとの間の空間を流れる。続いて加湿気体は、ピンチローラ3bとヘッドホルダ6との間の空間、隣り合う下流の記録ヘッドユニット1bとシートSとの間の空間、・・・(以下同様)の順に上下に蛇行しながら流れる。狭空間50は、複数の記録ヘッドユニットのそれぞれのインクノズルが露出する空間であり、供給された加湿気体によってインクノズルを保湿して乾燥によるインク不吐を抑制することができる。
【0020】
制御部15は、プリント装置全体の各部の制御を司るユニットである。制御部15は、CPU、メモリ、各種制御部を備えたコントローラ、外部インターフェース、およびユーザが入出力を行う操作部を有する。
【0021】
図3は加湿部10の詳細な構造を示す構成図である。加湿部10は、第1加湿室11と第2加湿室12とが直列に接続され、第1加湿室11と第2加湿室12とは1つの筐体22に収められ一体化されている。つまり、第1加湿室11と第2加湿室12は単一の筐体内部で壁30によって仕切られて隣接して設けられている。
【0022】
第1加湿室11には、導入口24a、発熱体25a(ヒータ)、加湿フィルタ27a、ファン23a、噴出口28aが設けられている。第1加湿室11にはさらに、第1加湿室11内の温度を検出して発熱体25aの発熱量を制御するための温度センサ20a、第1加湿室11内の気体湿度Hmを測定する温湿度センサ21aが設けられている。第2加湿室12には、噴出口28aに接続された導入口24b、発熱体25b、加湿フィルタ27b、ファン23b、噴出口28bが設けられている。第2加湿室12にはさらに、第2加湿室12内の温度を検出して発熱体25bの発熱量を制御するための温度センサ20a、第2加湿室12内の気体湿度Hmを測定する温湿度センサ21bが設けられている。
【0023】
第1加湿室11および第2加湿室12の底部には、加湿用の加湿水16が蓄積されている。加湿水16は不図示のタンクから供給される。第1加湿室11と第2加湿室12は底部で接続されており、底部に溜まった加湿水16は第1加湿室11と第2加湿室12で共有される。加湿水16が蓄積された状態で、第1加湿室11と第2加湿室12との間には部屋を仕切るための壁30があるが、加湿水16の水面下には壁がなく、加湿水16は第1加湿室11と第2加湿室12で共用される。なお別の形態として、第1加湿室11と第2加湿室12をすべて壁30で仕切って、両者の水面下となる部分をチューブで接続するようにしてもよい。このように共用することで、加湿水16の水面高さは第1加湿室11と第2加湿室12とで同一となり、どちらか一方が先に無くなることはない。加湿水16は低コストで供給が容易な水(例えば水道水)であるが、これに限らず、記録ヘッドのインクの乾燥を防止する成分等が含まれた溶液であればよい。
【0024】
加湿部10はハイブリット型の気化式加湿方式である。加湿フィルタ27a、27bはともに、高い吸水性を有し且つ気体が通過する材料からなる中空円筒形状(ローラ形状)の回転体である。加湿フィルタ27a、27b下部は加湿水16に浸漬され、回転することで全体が濡れた状態となる。加湿フィルタに昇温した気体を吹き付けると、気体は1つの加湿フィルタを外側から内側に通過し次いで内側から外側に通過し、計2回通過して加湿される。加湿フィルタ27a、27bでそれぞれ2回ずつ通過するので計4回通過する。加湿フィルタ27a、27bはともに同一方向に回転する。回転方向は、図3における反時計周り、すなわち加湿フィルタの中空円筒を左右に二分してみたとき、加湿室への導入口(発熱体)により近い側(右側)が加湿水16の水面から上に登り出て、且つより遠い側(左側)が水面下に沈むような回転方向である。水面から出た直後の方がフィルタの水分保持量が多く、回転とともに徐々に減少していく。したがって、より水分保持量が多い状態(右側にある状態)のフィルタに対して、発熱体により昇温された直後のより高温の気体が通過するので、加湿効率が高くなる。第1加湿室11、第2加湿室12ともに高効率で加湿されるので全体として極めて高い加湿効率が得られる。
【0025】
ファン23aとファン23bを同時に作動することで、導入口24aより外気が第1加湿室11に導入され内部を通過して、高湿度に加湿された加湿空気が噴出口28bから噴出する。ファン23a、23bの回転数、発熱体25a、25bの発熱量、および加湿フィルタ27a、27bの回転速度はそれぞれ可変に設定するよう制御が可能である。これらの制御によって加湿部10の稼働能力が可変に調整される。湿度センサ9の検出に基づいて、加湿部10の稼動能力を制御することで、記録部とシート搬送部の間の狭空間の湿度を高精度に維持することが可能になる。
【0026】
図4は、加湿部10で加湿する際の気体の状態変化を示すグラフ図である。横軸は加湿部で生成される加湿空気の乾球温度T〔°C〕、縦軸は重量絶対湿度Hm〔kg/kgDA〕(以下、湿度Hmという)である。導入口24aのから導入された外気はA点にプロットされる。第1加湿室11では、導入口24aの近傍に設けられた発熱体25aによって、導入された気体の温度が上昇する。このとき湿度Hmは変化しないので、グラフ上ではA点から右にシフトしたB点へ移動する。昇温した気体は回転する加湿フィルタ27aに吹き付けられる。加湿フィルタ27aが含有する水の一部が気化して気体の湿度Hmが増加するが、気化の際の気化熱により気体の温度は下がるので、グラフ上ではC点にプロットされる。このように、第1加湿室11ではA点からC点に移動する。A点とC点への移動では、温度Tはさほど上昇せずに湿度Hmが高くなる。
【0027】
この加湿気体は、第2加湿室12に導入されて、同様の手順でさらに加湿される。発熱体25bによりC点からD点に移行し、加湿フィルタ27bでD点からE点に移動する。E点はC点よりもさらに湿度Hmが高められ、A点から見ると大きく加湿されている。A点からE点への移動では、温度はさほど上昇していない。生成された加湿空気は噴出口28bより、記録ヘッドのノズル露出する狭空間に供給される。このように、第1加湿室11と第2加湿室12とが直列に接続された二連型加湿装置により、球体温度Tはさほど上昇させずに湿度Hmを大きく高めることができ、高湿度の加湿気体が生成される。同様の加湿室を3連以上の直列で接続すれば、さらに高湿潤な加湿気体(図4のF点)を生成することが可能である。
【0028】
ノズルの乾燥を防止するために狭空間に供給される加湿気体は、湿度Hmが0.02019〜0.02722〔kg/kgDA〕の範囲であることが好ましい。これは、30°C・75%〜30°C・100%の湿度に相当する。
【0029】
1つの加湿室で上述の数値範囲の湿度を持った加湿気体を生成しようとすると、本例の2室構造よりも大きな加湿部が必要となる。仮に、1つの加湿室で同等の加湿気体を生成する場合は、気化効率を高めるために加湿フィルタを通過させる空気の流速を遅くしなけれらばならない。そのため、所望の流量を確保するためには加湿フィルタの通過面積を大きくとる必要があり、結果として加湿フィルタのサイズが非常に大きくなる。本例によれば、加湿室を分割して直列に接続することで、加湿フィルタを通過する回数を増やすことができるので加湿効率が高く、且つ、小さな加湿フィルタで済むため全体としてもコンパクトとなる。そのため、装置全体のサイズ、コスト、エネルギ効率に優れた記録装置が実現する。
【0030】
加湿水に含まれるカルキ成分や微細なゴミなどは、インクノズルにとっては目詰まり等の要因となる不要成分であるため、狭空間に導入されると好ましくない。加湿フィルタ27a、27bは気化式であるので、水以外の成分は加湿フィルタの吸水体にトラップされ、空間への飛散が抑制される。つまり、本例のようなフィルタを用いた気化式の加湿は、インクジェット方式の記録ヘッドの保湿に好適である。見方を変えると、気化式の加湿を採用することで、不要成分が多いが低コストで供給が容易な水道水を、加湿水として利用することが可能となる。
【0031】
以上の構成の記録装置における記録動作のシーケンスについて説明する。図5は記録装置の動作のシーケンスを示すフローチャートである。以下のシーケンスは制御部15の制御によって行われる。図6は記録装置の記録動作前の加湿状態(第2の加湿モード)を示す構成図、図7は記録装置の記録動作中の加湿状態(第1の加湿モード)を示す構成図である。
【0032】
待機状態では、記録装置は図1のようにノズルキャップ7でインクノズルがキャッピングされている。このときのヘッドホルダ6の高さ位置を待機ポジションという。ステップS101では記録装置が記録開始の指令を受ける。ステップS102では、ノズルキャップ7がキャッピング状態を解除して、ノズルキャップ7を退避させる(キャップオープン)。図6はノズルキャップ7が退避した状態を示す。
【0033】
ステップS103では、間隔調整機構によりヘッドホルダ6を、図1のような待機ポジションから、よりギャップが小さい所定間隔(第1間隔)の加湿ポジションに移動させる。
【0034】
ステップS104では、加湿部によって加湿を開始し、噴出口14から加湿気体が供給される。このとき、加湿部の加湿の能力は最大(第1の加湿能力)として、大きな風量で加湿気体を送り込む。加湿能力は加湿フィルタ27a、27bの回転速度とファン23a、23bの回転速度によって調整される。
【0035】
加湿ポジションにおける第1間隔は、ピンチローラ3(すべて同一径)のローラ直径よりも大きくすることが好ましい。この条件を満たすことで、図6に示すように、複数のピンチローラ3の最上部と記録ヘッドユニット1のインクノズルが形成された面との間に、シート搬送方向に沿って障害物のない真っ直ぐな気体流路8が形成される。真っ直ぐな気体流路8には、上流から供給された加湿気体はスムーズに下流に流れる。加湿部の最大能力で大風量の加湿気体を送り込むことと併せて、狭空間全体を短時間に所望の加湿状態にすることができる。
【0036】
ステップS105では、ノズル周辺が所定の湿度以上になったかどうかを、湿度センサ9の検知に基づいて判断し、所定の湿度以上になるまで待つ。所定の湿度以上になったステップS106に移行する。実験によれば、気体流路8の厚みdは2mm以上とすると特に好ましい。dが2mm未満であると空気流路の流抵抗が大きくなり、ノズル周辺の湿度が所定の湿度に達するまでに要する時間が急激に大きくなる。例えば、装置起動時において、加湿気体を供給し始めてから、最下流に置かれた湿度センサ9が所定の湿度を検出するまでに要する時間は、d=20mmでは10秒、d=2mmでは30秒、d=0mmでは100秒、d=−30mmでは400秒を要する。dの値小さくなるにつれて急激に時間が長くなり、とくにdがマイナス値(ヘッドの下面がピンチローラ3の頭部よりも下にある状態)になると極めて大きな時間を要する。ただし、厚みdを大きくしすぎると、間隔調整機構によるヘッドホルダ6の移動に要する移動時間が大きくなる。そのバランスから上限は50mmが好ましい。本例ではd=20mmとしている。このように、加湿ポジションにおけるインクノズルと記録位置のシートとの間隔(第1間隔)は、少なくともピンチローラ3のローラ直径よりも大きくする。より好ましくは、第1間隔はピンチローラ3のローラ直径よりも2mm〜50mmだけ大きい間隔とする。
【0037】
ステップS106では、間隔調整機構によりヘッドホルダ6を、図6のような加湿ポジションから、図7に示すよりギャップが小さい所定間隔(第2間隔)の記録ポジションに移動させる。記録ポジションでは、記録ヘッドユニット1のノズル列がシートSに接近して、インクを吐出して記録するのに適したギャップとなる。本例では第2間隔は1mmとしている。このとき、図2に示すように、シート搬送方向において、ピンチローラ3a〜3fの隙間に、記録ヘッドユニット1a〜1fが入り込み、ピンチローラと記録ヘッドユニットが交互に並んだ位置関係となる。つまり、シート搬送方向でみたとき、隣り合う任意の記録ヘッドユニット(第1記録ヘッドユニットと第2記録ヘッドユニット)の間に、1つのピンチローラ3が位置する。
【0038】
ステップS107では、加湿部の能力を変更して、第1の加湿能力よりも小さな第2の加湿能力に切り替える。ステップS108で記録を開始する。記録中は第2の加湿能力を維持しながら加湿気体を供給し続ける。噴出口14から噴出した加湿気体は、図7の矢印に示すように、狭空間50において上下に蛇行しながら流れる。そのため、最上流から最下流に渡って全体が所定湿度に達するまでには長い時間を要する。しかし、ステップS102〜S105で予め所定の湿度以上になっているので、それを維持するために必要最小限の加湿空気の供給で、狭空間の湿度を維持することができる。記録動作中は、第1の加湿能力よりも小さな第2の加湿能力で運転することで、消費電力の低減とともに、加湿部10に蓄積された水の消費量を抑制することができる。また、記録中にインクノズル周辺での風速が大きくなりすぎると、ノズルから吐出されたインクの飛翔に影響を及ぼして着弾精度が悪化する。この着弾精度の悪化を抑制する目的からも、記録中は加湿部の能力を落として加湿気体の流速を低めることは有効である。
【0039】
ステップS108で予定の記録が全て完了したら、ステップS109に移行する。ステップS109では、間隔調整機構によりヘッドホルダ6を、記録ポジションから、図1に示す初期の待機ポジションに戻す。そして、ノズルキャップ7が記録部の下のキャッピング位置に挿入され、インクノズルをキャッピング状態とする(キャップクローズ)。こうしてシーケンスを終了する。
【0040】
本実施形態によれば、小型且つ高効率な加湿部で所望の高湿度の加湿気体を生成することができ、この加湿気体でインクジェット方式の記録ヘッドの保湿することで信頼性の高い記録装置が実現する。また、本実施形態の記録装置は、複数のローラ対でシートを強固に保持するので、剛性が高く且つ強いカールを持ったシートであっても、シートの浮きを抑えることでき、様々な種類や性質のシートに対応して高い画像品位で記録を行うことができる。加えて、記録ヘッドを適切に保湿する環境を短時間に作ることができるので、起動時間が短い記録装置が実現する。
【符号の説明】
【0041】
1 記録ヘッドユニット
2 シート搬送部
3 従動ローラ
4 駆動ローラ
5 プラテン
6 ヘッドホルダ
7 ヘッドキャップ
9 湿度センサ
10 加湿部
11 第1加湿室
12 第2加湿室
13 ダクト
14 噴出口
15 制御部
16 加湿水
22 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式の記録ヘッドを含む記録部と、
前記記録ヘッドのノズルが露出する空間に加湿気体を供給するための加湿部と、を有し、
前記加湿部は、加湿空気を生成するための第1加湿室と、前記第1加湿室に接続された第2加湿室を備え、前記第1加湿室で生成された加湿気体が前記第2加湿室に導入されて前記第2加湿室においてさらに加湿された加湿気体が生成され、前記第2加湿室から前記空間に加湿気体が供給されることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記加湿部は筐体内部に壁で仕切られて前記第1加湿室と前記第2加湿室が隣接して設けられ、前記第1加湿室と前記第2加湿室の底には、前記第1加湿室と前記第2加湿室で共用される加湿用の加湿水が蓄積されることを特徴とする、請求項1記載の記録装置。
【請求項3】
前記第1加湿室と第2加湿室はそれぞれ、発熱体、加湿フィルタ、ファンを備え、前記筐体に設けられた導入口から導入された気体は、前記第1加湿室において前記発熱体で昇温され前記加湿フィルタにて加湿されて前記ファンにより前記第2加湿室に送られ、次いで、前記第2加湿室において前記発熱体で昇温され前記加湿フィルタにてさらに加湿されて前記ファンにより前記筐体に設けられた噴出口から前記記録ヘッドのノズルが露出する空間に供給されることを特徴とする、請求項2記載の記録装置。
【請求項4】
前記第1加湿室と第2加湿室に設けられる前記加湿フィルタはそれぞれ吸水性を有し且つ気体が通過する材料からなる中空円筒形状の回転体を有し、前記回転体の一部が前記加湿水に浸漬しながら回転するものであり、
前記発熱体で昇温され前記加湿フィルタに吹き付けられた気体は、中空円筒形状の外側から内側に通過し次いで内側から外側に通過して加湿されることを特徴とする、請求項3記載の記録装置。
【請求項5】
前記第1加湿室と第2加湿室のそれぞれにおいて、前記回転体は前記発熱体により近い側が前記加湿水の水面から上に登り出て、且つ前記発熱体からより遠い側が前記加湿水の水面下に沈むような回転方向であることを特徴とする、請求項4記載の記録装置。
【請求項6】
前記発熱体の発熱量および前記加湿フィルタの回転速度を可変に設定することで前記加湿部の稼働能力が調整されることを特徴とする、請求項4または5記載の記録装置。
【請求項7】
前記空間に供給される加湿気体は、重量絶対湿度Hmが0.02019〜0.02722〔kg/kgDA〕の範囲であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の記録装置。
【請求項8】
前記記録部は、シートが搬送される方向に沿って並べられ、各々がライン状に形成されたのインクノズルを有する第1記録ヘッドユニットおよび第2記録ヘッドユニットを含む記録部と、少なくとも前記第1記録ヘッドユニットの記録位置と前記第2記録ヘッドユニットの記録位置の間においてシートを挟持する第1ローラと第2ローラからなるローラ対を含み、且つ、前記第1ローラが前記第1記録ヘッドユニットと前記第2記録ヘッドユニットの間に位置するシート搬送部とを備え、
前記加湿部は、前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットのそれぞれの前記インクノズルが露出する空間に加湿気体を供給するためのものであり、
さらに、
前記インクノズルとシートとの間隔を可変にするための間隔調整機構と、
前記記録部で記録する前に前記間隔調整機構により前記間隔を第1間隔とした状態で前記加湿部から加湿気体を供給し、その後、前記間隔調整機構により前記間隔を前記第1間隔よりも小さい第2間隔に変えてから前記記録部によりシートに記録を開始するよう制御する制御部と、
を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の記録装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1間隔で加湿空気を供給する際には前記第2間隔で加湿空気を供給する際よりも、前記加湿部の能力を大きくするように制御することを特徴とする、請求項8記載の記録装置。
【請求項10】
前記第2記録ヘッドの近傍で気体の湿度を検出する湿度センサを有し、前記制御部は、前記湿度センサの検出にもとづいて前記間隔を前記第1間隔から前記第2間隔に変えるように制御することを特徴とする、請求項8または9記載の記録装置。
【請求項11】
インクジェット方式のノズルが露出する空間に供給する加湿気体を生成する加湿装置であって、
加湿空気を生成するための第1加湿室と、前記第1加湿室に接続された第2加湿室を備え、前記第1加湿室で生成された加湿気体が前記第2加湿室に導入されて前記第2加湿室においてさらに加湿された加湿気体が生成され、前記第2加湿室から前記空間に加湿気体が供給されることを特徴とするインクジェット装置用の加湿装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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