説明

証券印刷物

【課題】 複製等による偽造が行われた場合は、模様自体に違和感を生じて、取扱者が真偽判別の必要性を意識し、違和感を感じた部分を詳細に確認することで複製等の偽造を容易に判別可能とする印刷物を提供する。
【解決手段】 複数の画線から形成された模様が印刷基材上に印刷されており、この画線の一部は文字の大きさが変化する文字列で構成されてなる証券印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価証券等の貴重性の高い印刷物の複製等の偽造を容易に判別可能とし、これらの偽造抑止にも効果を持つ印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン等の画像処理器及び複写機等の高性能化に伴って、有価証券等の貴重性の高い印刷物の複製等による偽造が急増してきている。
【0003】
従来から、偽造又は複写の防止を要する有価証券等の貴重性の高い印刷物においては、その図柄を表現する手段として、一般的な印刷物に多く用いられている網点よりは、むしろ、線画が多く用いられている。線画としては、万線状の地紋模様や、彩紋模様、銅版画にみられる凹版線画等がある。線画が貴重印刷物に多く用いられる理由は、線画によって表現された印刷物は、網点によって表現された印刷物と比べて、偽造が困難であり、また、その真正印刷物と偽造印刷物とを比べたときに真偽判別が容易な点にある。
【0004】
一方、線画によって図柄を表現する場合は、線の構成のみで図柄の形状に加えて、濃淡、明暗などの調子をうまく表現しないと、網点印刷に比べて単調な印刷物となってしまうため、画線の幅、破線、点線等の線の形状を組み合せて構成することが重要となる。
【0005】
高精細な線画によって表現された印刷物の場合、真正印刷物と違和感のない偽造印刷物を得るためには、画線の品質を忠実に再現しなければならず、前述のような手法によって得られる複写印刷物や偽造印刷物においては、画線を走査線若しくは網点によって表現することになるため、高品質な画線を再現することは極めて困難である。
【0006】
また、真正印刷物と偽造印刷物との真偽判別は、画線の品質を確認することによって行うこととなるが、前述のとおり真正印刷物の忠実な画線の再現は困難であることから、印刷分野の者だけでなく、一般人であっても、偽造印刷物の画線の違和感を一見して確認することができる。以上が、貴重印刷物に線画が用いられている所以である。
【0007】
複製等による偽造対策としては、シートに印刷する線の一部を拡大すると視認可能で、通常状態では単に線として視認される程度の大きさの文字(以下マイクロ文字と呼ぶ。)で構成された印刷物がある(例えば特許文献1参照)。
【0008】
マイクロ文字を施した印刷物の場合、複写機で複製すると解像度の関係で、マイクロ文字が潰れて再現できない点を利用しており、当該部分をルーペ等で拡大して観察し、真偽判別を行うものである。
【0009】
さらに、マイクロ文字で構成された箇所を事前情報として持たない一般人でも、印刷物中のマイクロ文字の箇所が容易に推定できるよう、目視で画像として判読可能な大きさの文字から、複写機で複製されないマイクロ文字まで、連続的に、又は段階的に変化させた文字等のパターンが印刷されている印刷物もある(例えば特許文献2参照)。
【0010】
しかしながら、この方法でも印刷物を取り扱う人が、当該部分をルーペ等で拡大して観察するという真偽判別を行うという意思を持たなければ、偽造等を見過ごしてしまうおそれがある。
【0011】
【特許文献1】特許第3392892号公報
【特許文献2】特開平09−300869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とすることころは、複製等による偽造が行われた場合は、模様自体に違和感を生じて、取扱者が真偽判別の必要性を意識し、違和感を感じた部分を詳細に確認することで複製等の偽造を容易に判別可能とする印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の証券印刷物は、複数の画線によって形成された模様が印刷基材上に印刷されており、前記画線の一部は文字の大きさが変化する文字列で構成されてなることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の証券印刷物は、前記画線の一部は、前記文字列と破線又は点線で構成されてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、複数の画線によって模様が形成され、その模様自体を画線構成のみで立体感をもった意味ある模様として調子付けられているため、模様全体に違和感を生じさせることなく、真偽判別要素を組み込ませることが可能な印刷物を提供することができる。
【0016】
複製物は、模様全体の調子が崩れていることによって、取扱者は一見して模様の違和感を認識することができる。また、調子が崩れた模様部位をルーペ等の簡易的な道具を使用することで、調子を崩した部位が文字列として判読できないことが認識でき、二重の真偽判別を行うことが可能となる。
【0017】
画線構成のみで立体感を表現しつつ、真偽判別要素を違和感なく画線内に組み込ませていることから、偽造等の抑止効果が高い印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の証券印刷物を図面に基づき説明する。図1は印刷基材1に線幅が変化する画線2が印刷された印刷物の図である。画線2の一部を拡大すると、図2に示すように、画線2の線幅の太細(画線の抑揚)に合わせて、文字列3の大きさを変化させて構成している。この際、基本的に画線2と文字列3は違和感なく視認できるように、文字列3の書体の大きさ、文字の画線幅の調整を行っている。
【0019】
図1に示す証券印刷物の場合、文字列の大きさは150〜1000μmの範囲であり、好ましくは、200〜400μmで構成している。100μmより小さい場合には、印刷した際に文字列としての認識が困難となり、1000μmより大きくなると一見して印刷物上に文字列が認識できてしまうからである。
【0020】
図3(A)は、画線2の一部を破線2aで構成したもので、(B)は、破線2aの一部を文字列3で構成したものである。この場合、目視状態では、破線2aと文字列3は単なる同一のドット(点)として視認されるため、違和感を無くすことができる。
【0021】
さらに、(C)のように、画線2と文字列3と破線2aで構成することで、一つの画線に強弱が付き全体として違和感なく変化させることができる。
【0022】
図3の場合、文字列の大きさは200〜400μmの範囲であり、好ましくは、200〜280μmで構成している。これは、文字列3は隣接する破線2aと同一のドット(点)と視認される程度に調整することで違和感を無くし、一体感のある画線を形成するためである。
【0023】
図4は、本発明における証券印刷物の画線の一部に文字列、及び点線又は破線を作成するためのフローを示すものである。先ず、印刷物に施す任意の線画模様を作成する。次に、線画模様に施す任意の文字列(微小文字群)を決定する。この文字列は、印刷物(製品)に応じて、設計者又は製品の発注者が決めるものである。次に、画線の形状や画線密度、色などを考慮して、文字列を入れる場所を決定した後、線画模様として違和感のないように、文字列の大きさ、画線幅を必要に応じて変形する。
【0024】
文字列と画線の変形が完了した後、線画模様としての調整を行う。この調整は、最終的な色み、版立て及び他のデザインや技術(特に偽造防止技術)への影響を検討するものである。この調整によって最終的に画像として完成したデータを、実際に出力する形式に色々と調整することも含まれる。
【0025】
完成した画像を直接フィルムに出力し、そのフィルムから所望の印刷方式に合った版面を作成して印刷することで、印刷物が得られる。この印刷方式については、凹版印刷、凸版印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等、線画模様の印刷が可能な方式であれば特に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
図5は、複数の画線から形成された模様の印刷物を示す。模様全体に立体感を表現するため、画線幅が変化する特定画線4の周囲には特定画線4を強調させるため、画線幅が変化する背景画線5を破線2aで形成している。背景画線5とするためには、中央の特定画線4より淡い濃度の画線とする必要があり、破線2aで構成することで、目視状態では薄く視認される。
【0027】
次に、模様全体が違和感なく立体感をもって表現するために、背景画線5を画線2と文字列3と破線2aで調子付けした。終結点6の近傍を破線又は点線とすることで、目視状態では、単なる破線として文字列を背景画線5に組み込むことができる。
【0028】
背景画線5が終結点まで再現されることで、複数の画線から形成された模様全体は、立体感のある模様として画線構成のみで表現することができ、且つ、真偽判別要素としての文字列も画線の一部に構成することが可能となる。
【0029】
この模様全体を複製した場合には、終結点近傍は再現されず、また、文字列は潰れて画線太りが生じていることから、模様全体の調子は崩れて違和感を生じていることから、一見して複製物であることが容易に認識できる。
【0030】
また、模様の調子が崩れている部位をルーペ等で確認すると文字列としては認識できず、2重の真偽判別要素としての効果を奏する。
【0031】
(実施例2)
図6は、文字の画線幅を変化させ、文字列に諧調を持たせた印刷物を示す。図6の(D)は、文字の大きさのみの変化で構成された文字列を示しているが、(E)に示すように、文字の大きさの変化に合わせて文字の画線幅を変化させることで、諧調を持たせた文字列3bを作成することができる。
【0032】
図6の(D)、(E)は、文字列がポジタイプで構成されているものを示しているが、文字列が白黒反転したネガタイプとして構成しても、同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0033】
これらの諧調を持たせた文字列3bを用いて背景画線を構成した場合(図示しない)、文字列全体で画線を諧調表現できるため、より違和感がなく文字列を画線に溶け込ませることができる。
【0034】
本発明は、前述した実施例の形態に限定されるものでない。画線を構成する文字列は文字の他に、マーク、ロゴ、図形であっても同様の効果を奏する。また、文字列の文字の一部を反転、回転、又は変形させたり、書体の違いを組み合わせることで、偽造、変造等の抑止効果がより高まることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明における証券印刷物を示す図
【図2】本発明における線幅が変化する画線の一部が文字の大きさが変化する文字列で構成された状態を示す図
【図3】本発明における線幅が変化する画線の一部が文字列と破線又は点線で構成された状態を示す図
【図4】本発明における証券印刷物を作成するフローを示す図
【図5】背景画線の一部に文字列、及び破線又は点線を用いた実施例を示す図
【図6】文字の画線幅を変化させ、文字列に諧調を持たせた場合の実施例を示す図
【符号の説明】
【0036】
1 印刷基材
2 画線
2a 破線又は点線
3 文字列
3a 諧調を持たせた文字列
4 特定画線
5 背景画線
6 終結点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画線から形成された模様が印刷基材上に印刷されており、前記画線の一部は文字の大きさが変化する文字列で構成されてなる証券印刷物。
【請求項2】
前記画線の一部は、前記文字列と破線又は点線で構成されてなる請求項1記載の証券印刷物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−123413(P2006−123413A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316304(P2004−316304)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】