説明

試打装置

【課題】堅牢で、しかも制御が容易でありながら、多様なテストスイングが可能な試打装置を提供する。
【解決手段】打球具を保持して旋回制御されるスイングアーム機構10と、このスイングアーム機構10を支持する上胴部20と、この上胴部20をスイングアーム機構10の前傾角度調整方向に回動自在に支持する土台部30とを備え、土台部30には上胴部20の下部から斜め上方に向けて直線状にねじ軸を設けると共に、上胴部20には前記ねじ軸に螺合して送りねじ機構を構成するナットを設け、前記ねじ軸をサーボモータを駆動源として回転駆動することにより上胴部20の傾斜角度を可変する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、テニスラケットの性能評価等のためにテストスイング(試打)を機械的に行う試打装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からテニスラケットの製造開発では、実際にテニスボールを打つテストスイングをして、コンピュータによるシミュレーション分析から、そのテニスラケットの性能を評価することが行われている。テストスイングは人間が行うこともあるが、これを機械的に実行させるための試打装置も開発されている(例えば、特許文献1・2)。
【0003】
特許文献1のテニス練習機は、回動軸の周りで揺動する揺動部材に腕木を水平に取り付けてなり、腕木の先端にラケットを取り付けて揺動部材を駆動することによりスイングを実行するものである。また、腕木を固定する部分が、腕木の軸方向(腕木をねじる方向)に回転するように構成され、ラケットの面を上向き方向に傾斜させることにより、いわゆるスライスボールを打出し、逆に下向き方向に傾斜させることにより、いわゆるトップスピンボールを打出すことができるとされている。さらに、揺動部材の回動軸を水平面に対して傾斜させることにより、例えば、斜め下方から斜め上方に向けてスイングすればロブ、反対に、斜め上方から斜め下方に向けてスイングすればスマッシュも可能であるとされている。
【0004】
特許文献2の打球具試打装置は、ベースより立設する垂直方向の第1関節と、打球具の把持部を保持する保持具を取り付けた最終関節との間に中間関節を介設し、これら第1関節、中間関節および最終関節を順次連結すると共に各関節を夫々別個の駆動装置で回動させて、上記最終関節の保持具で保持された打球具をX、Y、Z方向へ揺動回転あるいは/および上記保持具で保持される打球具の長手方向を回転軸とする回転を行わせ、打球具を持った腕を上下に振りあげて振り降ろす動作に対応する打球面の基台からの距離の調整・増減、腕の内転外転動作に対応する上記打球面の角度の調節・可変および/あるいは打球具の長手方向の中心軸と基台との角度の調整・可変ができる構成としている。その結果、ボレー打ちのみでなく、ストローク時の打撃作動を再現でき、しかも、ストローク時のフラット打ちのみでなく、スピン打ちの再現も可能であり、また、ラケットの面角度、長手軸角度を変化させることが可能であるため、ボレーやサーブ時のスピン打ち等も再現できるとされている。さらに、各関節を独立のモータで動作させているため、より複雑な挙動が実現可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−5924公報
【特許文献2】特開平11−244443公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の練習機は、揺動部材の回動軸を水平面に対して傾斜自在とするため、支柱側面から水平方向に円柱形のブラケットを突設し、このブラケットに揺動部材を鉛直方向に支持しており、ブラケットをその円柱形の軸周りに回転させることにより、揺動部材の回動軸を水平面に対して傾斜させる構成を採用している(図4参照)。つまり、この練習機では、揺動部材を支柱に直接取り付けず、ブラケットを介して支柱に固定しているため、揺動部材を駆動したときの応力はブラケットに集中することになるが、支柱側面に円柱形のブラケットを突設した支持構造自体、回転機構としては無理があり、スイング時に軸ブレが生じやすく、耐久性も低く、特に一流のテニスプレーヤが行うようなパワーショットを再現することが困難である。また、ブラケットが支柱やボールバスケットと干渉しない範囲で傾斜角度を定める必要があるため、ラケットを大きく上下に傾けることができず、さらに、ストロークは揺動部材のみで行われる1関節型であり、人間の肘に相当する関節部材がないことから、スイングの多様性の幅が小さいものである。
【0007】
これに対して、特許文献2の試打装置は、その実施形態によれば、6または8個の関節をそれぞれ別のモータで駆動することで打球具(テニスラケット)をX,Y,Z方向に揺動回転させる構成であるため、スイングの多様性に優れるが、その分、多くのモータが必要となり、制御は困難を極める。つまり、特許文献2の試打装置は、より多くの関節を有することで、人間に似た細かい動きを再現しようとする点では理想的であるが、関節の一つでも理不尽な動きをすれば、全体のバランスが崩れることになるというリスクがあり、そのためのモータ制御は上述のように極めて困難で、特許文献2では制御方法が必ずしも明らかにされているとは言えない。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、堅牢で、しかも制御が容易でありながら、多様なテストスイングが可能な試打装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために本発明では、打球具を保持して旋回制御されるスイングアーム機構と、このスイングアーム機構を支持する上胴部と、この上胴部を前記スイングアーム機構の前傾角度調整方向に回動自在に支持する土台部とを備え、前記土台部には前記上胴部の下部から斜め上方に向けて直線状にねじ軸を設けると共に、前記上胴部には前記ねじ軸と送りねじ機構を構成するナットを設け、前記ねじ軸はサーボモータを駆動源として回転駆動されてナットを往復動することにより前記上胴部を任意の角度に傾斜させるという手段を用いた。
【0010】
上記手段では、上胴部が土台部に回動自在に支持され、送りねじ機構によって一定範囲で揺動するため、上胴部に固定したスイングアーム機構の前傾角度を調整することができる。このようにスイングアーム機構の前傾角度を調整することによって、打球具の打点高さと共に、打球具自体の角度も変わるため、それに応じたスイングが可能となる。
【0011】
このような角度調整は、ねじ軸の駆動源としてサーボモータを使用しているため、多様な制御を容易に行うことができる。
【0012】
また、送りねじ機構はトルクが太いため、スイングアーム機構によって相当重量となる上胴部をスムーズに揺動させることができる。ねじ軸は、ナットの螺進運動を効率化するために、ボールねじであることが好ましい。ボールねじを採用することで、駆動源であるサーボモータも比較的小型のものを採用することができる。
【0013】
なお、スイングアーム機構は、打球具を保持した状態で一定範囲旋回するものであればよいが、サーボモータにより旋回駆動するアッパーアームと、該アッパーアームの先端部に設けられ、前記アッパーアームとは別のサーボモータにより旋回駆動するフォアアームとを備えることが好ましい。アッパーアームが人間の上腕、フォアアームが人間の前腕に相当して、より人間に近いスイングが可能だからである。
【0014】
この場合、前腕に相当するフォアアームの先端部に打球具を保持するクランプを設けることになる。そして、クランプをフォアアームの旋回動と連動して打球具の軸回りに捻回する捻回手段を備えることによって、人間が手首を回転させるような動きが実現され、スピンやスライスが可能となる。
【0015】
さらに、打球時には反作用によってクランプにスイング方向と反対向きの歪み応力(衝撃)が作用するが、スイングアーム機構にダンパを設け、クランプに対する打球時の衝撃を吸収するようにすれば、一流選手のフルスイングに相当するスピードでスイング動作させても、その衝撃力から打球具および装置の各機構を保護することができる。
【0016】
なお、本発明はテニスラケットの試打に好適であるが、バドミントンのラケットや野球のバットの試打にも適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、打球具のスイングアーム機構を支持する上胴部を送りねじ機構によって揺動させるように構成したため、打球具の打点高さや角度の調整のための機構が堅牢である。また、送りねじ機構のねじ軸はサーボモータを駆動源として回転させるため、これをコンピュータと接続すれば、等速回転はもちろん、スローアップやスローダウンなどの緻密な制御によって、多様なスイングを容易に実現できる。送りねじ機構のねじ軸としてボールねじを採用した場合は、その転動効率の良さから、重量が大きい上胴部をよりスムーズに揺動させることができる。
【0018】
さらに、スイングアーム機構を独立して旋回駆動するアッパーアームとフォアアームの二関節で構成したことで、テイクバックからフォロースルーの間にそれぞれ旋回角度や速度を変更でき、より人間に近いスイング可能となる。また、クランプをフォアアームの旋回動と連動して捻回させることによって、トップスピンやスライスショットを再現することも可能となった。
【0019】
さらにまた、ダンパによってクランプに作用する打球時の衝撃を吸収するので、相当の速度でスイングを実行しても、ラケット(ガット)が損傷したり、装置の各機構に傷みが生じたりすることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る試打装置の全体斜視図(水平状態)
【図2】本発明の一実施形態に係る試打装置の全体斜視図(前傾状態)
【図3】同、装置全体の側面図
【図4】同、装置全体の正面図
【図5】同、スイングアーム機構の側面図
【図6】同、スイングアーム機構の内部機構を示す斜視図
【図7】同、スイングアーム機構の平面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1・2は、本発明の一実施形態に係る試打装置の水平状態と前傾状態それぞれを示したもので、図中、10はテニスラケットRを着脱可能に保持し、テストスイングを実現するスイングアーム機構、20は前記スイングアーム機構10を支持する上胴部、30は回動軸31を中心として上胴部20を回動自在に支持する下胴部、40は下胴部30を鉛直方向に立設支持するベース部、50はベース部40の四方に設けた台脚部である。この実施形態では、下胴部30・ベース部40・台脚部50によって装置の土台部を構成している。また、台脚部50は設置面に適宜アンカーボルトにより固定され、テストスイング時の装置全体の倒伏や揺れを規制する。
【0022】
前記上胴部20は、下胴部30との連結部である角度調整用の回動軸31によって、スイングアーム機構10と共に前傾角度を水平の状態から下向きに、例えば60度の範囲で調整できるように構成されている。
【0023】
即ち、下胴部30の内部には、送りねじ機構60が構成されており、図3・図4に示すように、上胴部20の下部から斜め上方に向けてねじ軸61が直線状に設けられており、かつ、上胴部20の下部にはねじ軸61に螺合するナット62が設けられている。したがって、ねじ軸61を回動すればナット62の螺進によって、上胴部20が回動軸31を中心として揺動する。
【0024】
さらに詳述すると、本実施形態ではねじ軸61の駆動源としてサーボモータ63を用いている。したがって、二相誘導モータにより構成される交流サーボモータを用いると、制御電流に比例した回転速度で回転子を指定方向に回転させることができ、緻密な制御が可能である。
【0025】
また、本実施形態では、ねじ軸61としてボールねじを採用している。したがって、ねじ軸61とナット62間でボールが転がり運動を効率化するため、駆動トルクの低下に伴ってサーボモータ63の省電力化にも寄与する。なお、ねじ軸61とサーボモータ63とはウォームギア64などの適宜減速ギアを介して連結することが好ましい。
【0026】
こうした送りねじ機構によって上胴部20を揺動させれば、スイングアーム機構10の前傾角度が調整され、ラケットR(打球具)の打点高さや角度を任意に変更することができる。
【0027】
一方、本実施形態におけるスイングアーム機構10の構成を説明すると、上胴部20にはバックスイングトップ位置を0度として、インパクト位置(打球位置)を経てフォロースルーエンド位置に至る360度の範囲にわたって旋回、即ち一回転可能なアッパーアーム11を設けると共に、このアッパーアーム11の先端部にはプラス90度からマイナス90度の合計180度の範囲にわたって回動可能なフォアアーム12を枢着している。
【0028】
ここで、上述のアッパーアーム11は人間の上腕に相当し、フォアアーム12は人間の前腕に相当するもので、さらに、上述のフォアアーム12の上面には、人間の手に相当するクランプ13を取付け、このクランプ13にテニスラケットのグリップ部を着脱可能に固定すべく構成している。さらに、このクランプ13はその基端部の左右側面に設けた円弧状スリットのボルト13aを緩めることによって、軸13b回りに、例えば上方に70度の範囲で回動自在としている(図5参照)。即ち、当該構成によれば、人間が手首の上下角度を変えるのと同じ作用効果が得られる。なお、クランプ30の角度調整もサーボモータにより行うことが可能であるが、実際のスイングではこれを可変する必要性が小さく、また専用のサーボモータを組み付ける分、フォアアーム12の重量が大きくなり、フォアアーム12の旋回動に少なからず影響する。このため本実施形態では、クランプ30については、スイング前に手動で角度調整を行うようにしている。
【0029】
アッパーアーム11およびフォアアーム12に対する2系統の独立動力伝達経路の構成について説明すると、図6に示すように、上胴部20の内部には、可逆回転および速度変更可能な旋回手段としての第一モータ14を取付けると共に、上胴部20の上面カバー15を取付けている。また上胴部20の内部には、可逆回転および速度変更可能な回動手段としての第二モータ16を取付けている。これら各モータ14、16としては制御電流に比例した回転速度で回転子を指定方向に回転し得る交流サーボモータなどを用いる。
【0030】
そして、アッパーアーム11と第一モータ14とは、複数のプーリ17a・17bおよびタイミングベルト17cによって接続され、第一モータ14の回転力をこれらプーリ17およびタイミングベルト18を介してアッパーアーム11の基端部に独立伝達する第一の動力伝達経路を構成している。
【0031】
一方、フォアアーム12と第二モータ16との間にも、複数のプーリ18a・18bおよびタイミングベルト18cが設けられ、第二モータ16の回転力をフォアアーム12の基端部に独立伝達する第二の動力伝達経路を構成している。
【0032】
以上のようにスイングアーム機構10を構成したので、上腕に相当するアッパーアーム11は上述の旋回手段(第一モータ14参照)により360度の範囲で正逆の双方向とも変速可能に旋回操作され、このアッパーアーム11の先端部に枢着された前腕に相当するフォアアーム12は上述の回動手段(第二モータ16参照)により変速可能される。しかも、上述の旋回手段(第一モータ14参照)によるアッパーアーム11の旋回動と上述の回動手段(第二モータ16参照)によるフォアアーム12の回動とはそれぞれ独立制御されるので、旋回手段(第一モータ14参照)および回動手段(第二モータ16参照)による両アーム11・12の移動速度を適宜に変速制御することで、リストターン等のモデルプレーヤによる手首の動きを含む任意かつ多様なパターン(ラケット旋回軌跡)を得ることができて、各種パターンに対応した多様な試験結果を得ることができる効果がある。
【0033】
当該構成に加えて、更に独立制御されるサーボモータにより、フォアアーム12の先端部側上面に設けたクランプ13をテニスラケットのシャフト軸周りに回動させる捻回手段(サーボモータ)を設けることで、より多様なスイングパターンを実現することができる。
【0034】
また、本実施形態では、打球時の衝撃を吸収するために、図7に示されるように、フォアアーム12の側方にダンパ19を設け、そのプランジャに、クランプ13の側面に設けた突片13cを当接させている。したがって、打球時にクランプ13に側方への衝撃が作用すれば、突片13cがダンパ19のプランジャを引っ込め、その衝撃を吸収することができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、好適な例としてテニスラケットへの適用を示したが、本発明においては、野球のバットやバドミントンのラケットなど、他の打球具の試打にも適用することができるものである。
【符号の説明】
【0036】
10 スイングアーム機構
11 アッパーアーム
12 フォアアーム
13 クランプ
19 ダンパ
20 上胴部
30 胴部
40 ベース部
50 台脚部
60 送りねじ機構
61 ボールねじ
62 ナット
63 サーボモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打球具を保持して旋回制御されるスイングアーム機構と、このスイングアーム機構を支持する上胴部と、この上胴部を前記スイングアーム機構の前傾角度調整方向に回動自在に支持する土台部とを備え、前記土台部には前記上胴部の下部から斜め上方に向けて直線状のねじ軸を設けると共に、前記上胴部には前記ねじ軸と螺合して送りねじ機構を構成するナットを設け、前記ねじ軸をサーボモータを駆動源として回転駆動することにより前記上胴部の傾斜角度が可変であることを特徴とした試打装置。
【請求項2】
ねじ軸はボールねじである請求項1記載の試打装置。
【請求項3】
スイングアーム機構は、ねじ軸の駆動源とは別のサーボモータにより旋回駆動するアッパーアームと、該アッパーアームの先端部に設けられ、前記アッパーアームとはさらに別のサーボモータにより旋回駆動するフォアアームと、該フォアアームの先端部に設けた打球具を保持するクランプとを備える請求項1または2記載の試打装置。
【請求項4】
クランプは、フォアアームの旋回動と連動して、打球具の軸回りに捻回する請求項3記載の試打装置。
【請求項5】
スイングアーム機構は、さらに、クランプに対する打球時の衝撃を吸収するダンパを備える請求項3または4記載の試打装置。
【請求項6】
打球具は、テニスのラケットである請求項1〜5のうち何れか一項記載の試打装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−106783(P2013−106783A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253946(P2011−253946)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000137878)株式会社ミヤマエ (16)