説明

試料乾燥装置

【課題】試料を汚染させず、短時間で乾燥させる試料乾燥装置を提供する。
【解決手段】試料乾燥装置100は、試料Sまたは試料Sを保持している保持体8、9が内部に収容され、開閉自在の扉11が閉じられることにより密閉される箱状の乾燥室1と、乾燥室1内を真空にする真空ポンプ2と、乾燥室1内に設けられ、試料Sまたは試料Sを保持している保持体8、9が載置される載置部31と、載置部31の下面32に直接接続されている加熱器4と、真空ポンプ2および加熱器4を制御する制御手段5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用の試料を乾燥する試料乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粉末試料、動植物試料、粉末試料を成型した成型試料などの分析用の試料を乾燥させる場合には、自然乾燥したり、赤外線ランプなどの加熱器を用いて乾燥させたり、乾燥機の乾燥室内を加熱する加熱乾燥手段および/または乾燥室内を真空にする真空乾燥手段を備える乾燥装置などを用いたりしている。蛍光X線分析では、試料溶液を分析する場合に試料溶液をろ紙に点滴し、そのろ紙を前記の乾燥方法、装置で乾燥させて測定している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、これらの方法や装置では、乾燥中に試料を汚染させることがあり、また乾燥に長時間を要している。例えば、従来の真空乾燥器では側壁から加温するが、真空中での熱の伝播効率が極めて低いため、乾燥に長時間を要している。特に、試料溶液をろ紙に点滴し、そのろ紙を乾燥させて測定する蛍光X線分析では、試料溶液が充分滲み込んだろ紙は乾燥に長時間を要し、分析作業を迅速に行うことができなかった。また、溶液試料の微量成分(ppmまたはppbレベル)を測定するため、試料の汚染は大きな問題である。
【0004】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、試料を汚染させずに、短時間で乾燥させる試料乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の試料乾燥装置は、試料または試料を保持している保持体が内部に収容され、開閉自在の扉が閉じられることにより密閉される箱状の乾燥室と、前記乾燥室内を真空にする真空ポンプと、前記乾燥室内に設けられ、試料または試料を保持している保持体が載置される載置部と、前記載置部の下面に直接接続されている加熱器と、前記真空ポンプおよび加熱器を制御する制御手段とを有する。
【0006】
本発明の試料乾燥装置によれば、試料が収容される前記乾燥室が密閉され、赤外線ランプなどの加熱器が試料の上方にないので、試料が汚染されることがない。また、前記乾燥室を前記真空ポンプで真空にしながら、試料または試料を保持している保持体が載置される載置部の下面に加熱器が直接接続されているので、乾燥室内が真空にされていても熱伝播がよく、試料からの水分の蒸発が早く、短時間で乾燥させることができる。
【0007】
本発明の試料乾燥装置において、試料を保持している保持体が、試料溶液を点滴されたろ紙であり、前記載置部に載置され、前記ろ紙の下面の周辺部を支持する支持具を有するのが好ましい。また、試料を保持している保持体が、試料溶液を点滴されたろ紙であり、前記載置部に前記ろ紙の下面の周辺部を支持する支持具が一体に形成されているのが好ましい。
【0008】
ろ紙の下面を前記載置部に接触させると試料が汚染されるおそれがあるため、接触させることができない。これらの支持具を有したり、支持具が載置部に一体に形成されているていると、ろ紙の下面の中心部をわずかに浮かせながら、ろ紙の下面の周辺部を支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態である試料乾燥器100について説明する。図1に示すように、例えば、透明のアクリル樹脂で箱状に形成された乾燥室1は、乾燥させる試料Sまたは試料Sを保持している保持体8、9を出し入れする開閉自在の扉11を有し、扉11が閉じられることによって密閉される。乾燥室1内を真空にする真空ポンプ2は、例えば、ダイアフラム型ドライ真空ポンプであり、ドライ真空ポンプを使用することによって試料Sの汚染を防止している。
【0010】
乾燥室1の下端部に設けられている加熱台3は、試料Sまたは保持体8、9が載置される載置部31を有している。載置部31は、その下面32に加熱器4が、直接取り付けられている。加熱器4は、例えばシート状のヒータであり、下面32のほぼ全面に設けられている。加熱器4の下は空間でもよいし、加熱台3の一部であってもよい。つまり加熱器4は、加熱台3に埋め込まれるように内蔵されていてもよい。制御手段5は、真空ポンプ2の動作時間ならびに加熱器4の加熱温度および加熱時間を設定された条件に応じて制御する。制御手段5は、加熱器4の温度コントローラ、加熱タイマー、真空ポンプ2の動作タイマーを個々に備えてもよいし、全体が単一のコンピュータで構成されてもよい。なお、保持体8は後記するコイン型支持具6に、保持体9は後記するリング7に載置されている。
【0011】
図3A、3Bに示すコイン型支持具6は、上方に突出した周辺部61と、板状部62とを有している。板状部62は、例えば直径28mm、厚み5mmであり、周辺部61は、板状部62の上面より、例えば0.5mm突出している。コイン型支持具6は載置部31に載置され、板状部62で載置部31と接触して、図5A、5Bに示すように、周辺部61で保持体8である第1点滴ろ紙8の下面82を支持する。コイン型支持具6は、熱伝導がよくて耐食性に優れている材料であればよく、例えばステンレスやアルミニウムなどの金属で形成されている。第1点滴ろ紙8は、厚さ1mm、外径50mm、内径40mmの環状PET(ポリエチレンテレフタレート)83がマイラー膜84の裏面に貼付され、マイラー膜84の上面の中心部に直径18mmの円形ろ紙85が貼付されて形成されている。この中心部の円形ろ紙85に試料溶液が点滴される。第1点滴ろ紙8は、蛍光X線分析に用いられている。
【0012】
図5A、5Bに示すように、コイン型支持具6の上に第1点滴ろ紙8を載せると、第1点滴ろ紙の下面82を載置部31に接触させずに、第1点滴ろ紙の下面82の周辺部を支持することができ、円形ろ紙85は加熱器4で加熱されているコイン型支持具6に近接しているので、コイン型支持具6からの輻射熱がよく伝わる。同時に乾燥室1を真空ポンプ2で真空にしているので、試料Sからの水分の蒸発が早く短時間で乾燥させることができる。
【0013】
図4A、4Bに示す輪状の支持具であるリング型支持具は、例えばステンレスなどの熱伝導のよい金属で形成され、例えば高さ5mm、外径35mm、内径32mmのリング7である。リング7は載置部31に載置され、リング7の下端面72で加熱台3の上面31と接触してリング7の上端面71で第2点滴ろ紙9の下面を支持する。リング7は、熱伝導がよくて耐食性に優れている材料であればよく、例えばステンレスやアルミニュウムなどの金属で形成されている。第2点滴ろ紙9は、外径45mm、内径21mmの環状ろ紙94と、その環状の内側に配置した20mmの円形ろ紙95とが固定パラフィン93で4箇所固定されて形成され、円形ろ紙95に試料溶液が点滴される。環状ろ紙94と円形ろ紙95とは固定パラフィン93で固定された以外の部分では接続されていないので、円形ろ紙95に点滴された試料溶液は環状ろ紙94に拡散しない。第2点滴ろ紙9も蛍光X線分析に用いられている。
【0014】
図6A、6Bに示すように第2点滴ろ紙9をリング7に載せて試料溶液を点滴すると、第2点滴ろ紙の下面92は試料溶液が浸み込んで下方に垂れ下がり易い。そのため、リング7の高さはコイン型支持具6の周辺部61よりも高く形成されている。リング7の5mmの高さによりろ紙を加熱台3に接触させずに、第2点滴ろ紙の下面92の周辺部を支持することができ、第2点滴ろ紙の下面92の中心部は加熱器4で加熱されて、同時に乾燥室1を真空ポンプ2で真空にしているので、試料Sからの水分の蒸発が早く短時間で乾燥させることができる。
【0015】
次に、試料乾燥装置100の動作について説明する。制御手段5で、加熱器4の加熱温度を例えば70℃に、加熱時間を例えば20分に、真空ポンプ2の動作時間を例えば20分に設定する。扉11(図1)を開き、図2に示すように加熱台3の上に、試料S、コイン型支持具6およびリング型支持具であるリング7を並べて載置する。図5Bに示すように第1点滴ろ紙8をコイン型支持具6の周辺部61に載せ、図6Bに示すように第2点滴ろ紙9をリング7の上端面71に載せる。マイクロピペット(図示なし)で試料溶液を、例えば100μl採取して第1点滴ろ紙8の上に点滴する。同様にして第2点滴ろ紙9の上に点滴する。扉11を閉じて、試料乾燥装置100の主電源、真空ポンプの電源および加熱器の電源を入れ、真空バルブ(図示なし)を開き、リークバルブ(図示なし)を閉じると、加熱器4によって点滴ろ紙8、9が加熱され、真空ポンプ2によって乾燥室1が真空にされて、点滴ろ紙8、9の乾燥が開始される。真空ポンプ2の作動によって乾燥室1は0.09MP(メガパスカル)の気圧(本発明でいう真空)になっている。
【0016】
加熱時間および真空ポンプ2の動作時間が終了すると、乾燥時間が終了して乾燥が終了する。真空ポンプ2のリークバルブを徐々に開き、リークさせて乾燥室1を常圧に戻す。リークが終了したならば、扉11を開き、試料S、点滴ろ紙8、9を、ピンセットを用いて汚染させないように取り出す。
【0017】
加熱器の加熱温度を70℃に設定した場合の第1点滴ろ紙8と第2点滴ろ紙9の乾燥時間を表1に示す。このように、加熱器4の加熱温度、加熱時間、真空ポンプ2の動作時間は、乾燥室1に収容する試料Sや点滴ろ紙8、9の個数や量に応じて変化するので、試料個数や量に適した加熱温度、加熱時間および動作時間に設定して乾燥させる。第2点滴ろ紙9については、加熱温度が70℃を超えると、円形ろ紙95を固定している固定パラフィン93が溶け出すため、70℃以下にするのが好ましい。
【0018】
【表1】

【0019】
なお、コイン型支持具6やリング型支持具(リング)7を載置部31と一体に形成してもよい。この場合、加熱台は前記した図2と同様の図示になる。
【0020】
試料乾燥装置100は、試料Sまたは試料Sを保持している保持体8、9が収容される乾燥室1が密閉され、赤外線ランプなどの加熱器が試料Sの上方にないので、試料Sが汚染されることがない。また、乾燥室1を真空ポンプ2で真空にしながら、試料Sまたは試料Sを保持している保持体8、9が載置部31の下面32に加熱器4が直接接続されているので、乾燥室1内が真空にされていても熱伝播がよく、試料Sからの水分の蒸発が早く、短時間で乾燥させることができる。従来の方法や装置では乾燥に2時間を要していた試料Sを、試料乾燥装置100で乾燥させると20分しか要しない。特に、牛乳などの糖分、乳脂肪分が多い試料の場合、従来の方法や装置に比べ大幅に乾燥時間が短くなる。また、試料の乾燥時間が大幅に短縮されるので、点滴ろ紙8、9に試料溶液を点滴し、乾燥させ、また点滴ろ紙8、9に試料溶液を点滴し、乾燥させる作業を繰り返し行うことが容易になり、試料溶液をより高濃度に濃縮することができ、より微量の蛍光X線分析をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態である試料乾燥装置の正面図である。
【図2】同装置の試料を載置している載置部の平面図である。
【図3A】同装置のコイン型支持具の平面図である。
【図3B】同装置のコイン型支持具の正面断面図である。
【図4A】同装置のリング型支持具の平面図である。
【図4B】同装置のリング型支持具の正面断面図である。
【図5A】同装置のコイン型支持具に第1点滴ろ紙を載置した平面図である。
【図5B】同装置のコイン型支持具に第1点滴ろ紙を載置した正面断面図である。
【図6A】同装置のリング型支持具に第2点滴ろ紙を載置した平面図である。
【図6B】同装置のリング型支持具に第2点滴ろ紙を載置した正面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 乾燥室
2 真空ポンプ
3 加熱台
4 加熱器
5 制御手段
6 コイン型支持具
7 リング (リング型支持具)
8 保持体 (第1点滴ろ紙)
9 保持体 (第2点滴ろ紙)
11 扉
31 載置部
32 載置部の下面
61 周辺部
62 板状部
100 試料乾燥装置
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料または試料を保持している保持体が内部に収容され、開閉自在の扉が閉じられることにより密閉される箱状の乾燥室と、
前記乾燥室内を真空にする真空ポンプと、
前記乾燥室内に設けられ、試料または試料を保持している保持体が載置される載置部と、
前記載置部の下面に直接接続されている加熱器と、
前記真空ポンプおよび加熱器を制御する制御手段と、
を有する試料乾燥装置。
【請求項2】
請求項1において、
試料を保持している保持体が、試料溶液を点滴されたろ紙であり、
前記載置部に載置され、前記ろ紙の下面の周辺部を支持する支持具を有する試料乾燥装置。
【請求項3】
請求項1において、
試料を保持している保持体が、試料溶液を点滴されたろ紙であり、
前記載置部に前記ろ紙の下面の周辺部を支持する支持具が一体に形成されている試料乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2009−53036(P2009−53036A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220016(P2007−220016)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000250351)理学電機工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】