説明

試料前処理装置及び液体クロマトグラフ装置

【課題】分析カラムの目詰まりによる圧力上昇を防止する。
【解決手段】高圧切替バルブ11を点線状態に設定し、ポンプ14で吸引した液体試料を濃縮カラム12に流すことで濃縮カラム12に液体試料中の目的成分を捕捉させる。こうして試料成分の濃縮を行った後、低圧切替バルブ15でリンス液を選択するように流路を切り替え、濃縮カラム12中にリンス液を流して濃縮カラム12を含む流路中の液体試料を清浄なリンス液に置換する。これにより、次に高圧切替バルブ11を実線状態に切り替えて、濃縮カラム12に捕捉している成分を分析カラム5に導入する際に、液体試料中に含まれる夾雑物が分析カラム5に入らず、目詰まりを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフの分析カラムに導入する試料を濃縮するための試料前処理装置、及び該装置を用いた液体クロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分析対象である目的成分以外に様々な不要成分を含む液体試料について、そうした各種成分を分離して所望の目的成分の定性分析、定量分析を行うために、高速液体クロマトグラフ(HPLC)やHPLCの検出器として質量分析計を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)が広く使用されている。こうした分析装置で目的成分の分析精度や感度を高めるために分析カラムでの分離条件を適切に設定することが重要なのはもちろんであるが、試料を分析カラムに導入する前の段階で、分析の妨害となる成分や分析に不要な成分を除去したり、或いは、目的成分を濃縮したりするといったことが益々重要になってきている。こうした目的のために、従来より、自動試料前処理装置が使用されている。
【0003】
液体クロマトグラフ用の自動試料前処理装置では、高圧流路切替バルブや試料中の目的成分を捕捉して濃縮するための前処理カラムを用いたカラムスイッチングによるものが一般的である(特許文献1など参照)。図4は従来の自動試料前処理装置を備えるLC/MSの要部の構成の一例を示す概略図である。
【0004】
試料前処理装置10において、6ポート2ポジション型の高圧切替バルブ11のaポートには分析用ポンプ2が設けられた移動相供給流路3が接続され、分析用ポンプ2の動作により移動相容器1から吸引された移動相が供給される。この高圧切替バルブ11のfポートには、分析カラム5及び質量分析計(MS)6が設けられた分析流路4が接続されている。7ポート6ポジション型の低圧切替バルブ15のb〜gポートには試料を満たした試料容器161に至る流路が接続され(但し、ここではd〜gポートに接続される流路は記載を省略している)、共通であるaポートには、途中に注入用ポンプ14が設けられた前処理流路13が接続され、該流路13の他端は高圧切替バルブ11のdポートに接続されている。高圧切替バルブ11のbポート、eポート間には、内部に捕集剤を充填した濃縮カラム12が接続され、さらにcポートは排液口に至る排液流路17が接続されている。
【0005】
上記LC/MSにおいて試料の前処理時には、高圧切替バルブ11を点線で示す接続状態とし、低圧切替バルブ15を実線で示す接続状態とし、注入用ポンプ14を作動させる。すると、分析対象である液体試料(例えば環境水試料)が濃縮カラム12に流され、該試料中の目的成分が濃縮カラム12内の捕集剤に捕捉される。所定時間、液体試料を濃縮カラム12に流して目的成分を十分に捕捉した後に、高圧切替バルブ11を実線で示す接続状態に切り替え、濃縮カラム12と分析流路4とを接続し、分析用ポンプ2により移動相を移動相供給流路3から濃縮カラム12に供給する。すると、濃縮カラム12内の捕集剤から溶出した目的成分が移動相の流れに乗って分析カラム5に導入され、分析カラム5を通過する間に時間方向に成分分離される。質量分析計6は分析カラム5から溶出した成分を含む溶媒(移動相)を順次検出し、それぞれの成分に対応した検出信号を出力する。
【0006】
特に試料中の成分を高精度で定量したい場合に、図4に示したように、検出器に質量分析計を用いたLC/MSが有用であるが、その場合、分析カラム5としては内径が例えば1000μmといったごく細径のものが使用されることが多い。ところが、そうしたカラムでは目詰まりによる内部圧力の上昇が頻繁に起こり、そのためにカラムの寿命が短く分析コストが高い、或いは分析結果の信頼性を損なう、といった問題がある。カラムの目詰まり状況を解析すると、その目詰まりの主たる原因は、濃縮の最終段階で濃縮カラム12内に残留した液体試料が、分析カラム5への試料導入の際にそのまま分析カラム5に送られてしまい、この液体試料に混入している不要成分や固形浮遊物などの夾雑物が分析カラム5に詰まるためであると考えられる。
【0007】
また、低圧切替バルブ15の切替えにより異なる試料を選択しながら連続的に分析を行う場合、低圧切替バルブ15を切り替えても、低圧切替バルブ15のaポートから高圧切替バルブのdポートまでの前処理流路13中にはその直前に供給した別の液体試料が残存している。そのため、この液体試料がまず濃縮カラム12に導入されることになり、コンタミネーションの原因となる。また、精度の高い定量分析を行うために、濃縮カラム12に流す液体試料の流速(流量)とその流通時間とを正確に決めているが、低圧切替バルブ15を切り替えた後に目的とする液体試料が濃縮カラム12に到達するまでに時間を要すると、その分だけ目的成分の回収率が下がり、これが定量時の誤差となり得る。
【0008】
【特許文献1】特開2005−31012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであって、その第1の目的とするところは、分析カラムの目詰まりによる圧力上昇を防止することができる試料前処理装置及び該装置を備えた液体クロマトグラフ装置を提供することにある。
【0010】
また本発明の第2の目的とするところは、試料を濃縮する際に目的成分について高い回収率を達成することで定量分析の精度を向上させることができる試料前処理装置及び該装置を備えた液体クロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された第1発明は、液体クロマトグラフの分析カラムに導入する試料を濃縮するための試料前処理装置において、
a)目的成分を捕捉するための濃縮カラムと、
b)少なくとも液体試料と清浄な置換用液体とを切り替えて供給するための第1流路切替手段と、
c)前記第1流路切替手段で選択された液体を前記濃縮カラムに通過させる流路を形成する第1状態と、前記濃縮カラムに移動相を供給し該濃縮カラムを通過した移動相を分析カラムに導入する流路を形成する第2状態と、を切り替える第2流路切替手段と、
d)前記第1状態において前記濃縮カラムに液体試料を流して該液体試料中の目的成分を該濃縮カラム中に捕捉させた後に、前記置換用液体を該濃縮カラムに流し、その後に前記第2状態において移動相を前記濃縮カラムに供給して該濃縮カラムを通過した移動相を分析カラムに導入するように、前記第1流路切替手段及び第2流路切替手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
また上記課題を解決するために成された第2発明は、液体クロマトグラフの分析カラムに導入する試料を濃縮するための試料前処理装置であって、
a)目的成分を捕捉するための濃縮カラムと、
b)少なくとも液体試料と清浄な置換用液体とを切り替えて供給するための第1流路切替手段と、
c)前記第1流路切替手段で選択された液体を前記濃縮カラムに通過させる流路を形成する第1状態と、前記第1流路切替手段で選択された液体及び移動相のいずれも前記濃縮カラムに流すことなく該第1流路切替手段で選択された液体を排出する流路を形成する第2状態と、移動相を前記濃縮カラムに供給して該濃縮カラムを通過した移動相を分析カラムに導入する流路を形成する第3状態と、を切り替える第2流路切替手段と、
d)前記第2状態において液体試料を第2流路切替手段に流し、少なくとも第1流路切替手段と第2流路切替手段との間の流路中を液体試料で満たした後、前記第1状態において濃縮カラムに液体試料を流して該液体試料中の目的成分を該濃縮カラム中に捕捉させ、次いで前記置換用液体を該濃縮カラムに流し、その後に前記第3状態において移動相を該濃縮カラムに供給して該濃縮カラムを通過した移動相を分析カラムに導入するように、前記第1流路切替手段及び第2流路切替手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0013】
ここで、置換用液体としては、例えば純水等の清浄な(つまり浮遊物や夾雑物を含まない)溶媒を用いるか、或いは、溶出力の弱い、例えば低濃度のメタノール水溶液などを用いることができる。
【0014】
また第3発明に係る液体クロマトグラフ装置は、第1又は第2発明に係る試料前処理装置を含む液体クロマトグラフ装置であって、
前記第2流路切替手段を通して供給される移動相を分析カラムに流し、該分析カラムを通過して来た移動相を検出器に導入する順方向流路と、前記第2流路切替手段を通して供給される移動相を前記順方向流路とは逆方向に前記分析カラムに流し、該分析カラムを通過して来た移動相を排出する逆方向流路と、を切り替える第3流路切替手段を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
第1発明に係る試料前処理装置では、分析対象である液体試料中の目的成分を濃縮カラムに十分に捕捉させた後に、該濃縮カラムに残留する液体試料を置換用液体で置換する。特に液体試料が環境水試料などである場合には、液体試料には濃縮カラムに捕捉されない様々な夾雑物が混入していることが多いが、上記のような置換操作によって濃縮カラムから夾雑物を排除することができ、次に移動相によって濃縮された試料(目的成分)が分析カラムに運ばれる際に夾雑物が分析カラムに入ることを防止又は軽減できる。それにより、比較的目詰まりの生じ易い内径の小さな分析カラムを使用する場合であっても、分析カラムの目詰まりを起こしにくくして、不所望の圧力上昇を回避することができる。
【0016】
さらにまた第3発明に係る液体クロマトグラフ装置によれば、移動相を逆方向流路に流すことで分析カラムの入口に詰まった夾雑物を押し流し、流路外に排除することができる。従って、分析カラムの目詰まりの発生をより一層確実に防止し、分析カラムの長寿命化に有効である。
【0017】
なお、置換用液体として低濃度メタノール水溶液などの、或る程度の洗浄効果がある溶媒を用いることで、液体クロマトグラフの検出器で問題となる妨害成分を予備的に除去する効果も期待できる。
【0018】
また第2発明に係る試料前処理装置では、濃縮カラムに液体試料を通して試料の濃縮を行う前に、濃縮カラムに移動相などを流すことなく、第1流路切替手段から第2流路切替手段に至る流路中を液体試料で満たすことができる。従って、次に第2流路切替手段の切り替えによって試料濃縮が開始されたときに、速やかに目的とする液体試料が濃縮カラムに流通し始め、液体試料の正確な計量を行うことができる。それにより、定量分析の精度を向上させることができる。
【0019】
また、上記のように第1流路切替手段から第2流路切替手段に至る流路中を液体試料で満たす際に、第2流路切替手段による流路の切り替えにより濃縮カラムへの移動相の供給が回避されるため、液体クロマトグラフ装置で移動相を分析カラムに一定流速で送給するためのポンプの動作を止めずに済む。一般に、ポンプの動作を一旦停止すると、次にその動作を再開した後に流速が安定するまでに時間が掛かるが、第2発明に係る試料前処理装置によれば、そうしたポンプの停止を行わずに済むので、移動相の流速を安定に一定に維持することができ、分析の精度向上に寄与する。
【0020】
なお、第1流路切替手段で液体試料、置換用液体のほかに、強い溶出力を有する洗浄液も選択できるようにし、移動相によって濃縮カラムから試料成分を運び去った後に、濃縮カラムに洗浄液を流して前の試料の成分の残滓を除去し、その後に、濃縮カラム中に置換用液体を導入して洗浄液を置換用液体で置換し、それから次の液体試料を濃縮カラムに導入するように流路の切り替えを行うと、より好ましい。
【0021】
これによれば、洗浄液により前回の試料成分がほぼ完全に濃縮カラムやその前後の流路から除去されるためコンタミネーションを一層軽減できる。また、試料濃縮のために液体試料が濃縮カラムに導入される際には濃縮カラムには溶出力の強い洗浄液でなく置換用液体が残留しているので、液体試料中の目的成分が濃縮カラムに捕捉されずに流れ出てしまうといった事態を回避でき、濃縮カラムに目的成分を効率良く捕捉して高い回収率を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第1実施例]
第1発明の一実施例(第1実施例)による試料前処理装置を具備するLC/MSについて、図面を参照して説明する。図1はこのLC/MSの要部の構成図であり、既に説明した図4の装置と同一の構成要素には同一符号を付して詳しい説明を略す。
【0023】
本実施例の試料前処理装置10では、第1発明における第1流路切替手段に相当する低圧切替バルブ15のcポートに、純水などの清浄な溶媒であるリンス液が貯留されるリンス液容器162に至る流路が接続されている。また、第1発明における第2流路切替手段に相当する高圧切替バルブ(後述する分析流路4側に追加された高圧切替バルブと区別するために前処理側高圧切替バルブと呼ぶこととする)11のfポートは分析流路4を介して新たに追加された分析流路側高圧切替バルブ7のaポートに接続され、この分析流路側高圧切替バルブ7のbポートとfポートとの間に分析カラム5が接続され、eポートには質量分析計(MS)6に至る流路が接続されている。また、ポートcに接続された流路は排液口に至る。
【0024】
なお、このLC/MSでは、グラジエント分析が可能であるように、移動相容器101、102と分析用ポンプ201、202とは2系統設けられ、異なる移動相A、Bが適宜の割合で混合されて移動相供給流路3から前処理側高圧切替バルブ11のaポートに供給されるようになっている。
【0025】
また、コンピュータにより構成される、第1発明における制御手段に相当する制御部8は予めインストールされた制御プログラムに従って、ポンプ201、202、バルブ11、15、7等の動作を統括的に制御するが、その制御プログラムは単に分析流路側高圧切替バルブ7が追加されたからだけでなく、図4に示した従来の装置とは異なる手順で以て制御を行うように構成されている。
【0026】
次に、制御部8の制御の下に行われる本実施例のLC/MSの分析動作を図2のタイムチャートにより説明する。このLC/MSでは、35分を1サイクルとして、1サイクル期間中に、実際に試料に対するLC/MS分析を実行する分析側動作(図2(b)参照)と、試料の濃縮を行う前処理側動作(図2(a)参照)と、を並行して遂行する。図2では、分析カラム5に試料が導入され始めるタイミングをt=0[分]として、その時点からの経過時間tで各要素の状態などを示している。
【0027】
t=0[分]の時点では、濃縮カラム12にはその直前のサイクルにおいて導入された目的成分が捕捉されている。1サイクル期間中、注入用ポンプ14は連続的に作動されており、その流速は2[mL/min]で一定に維持される(図2(e)参照)。t=0[分]の時点で、前処理側高圧切替バルブ11は図1中に実線で示す接続状態(A状態)に設定され(図2(f)参照)、分析流路側高圧切替バルブ7は図1中に実線で示す接続状態(A状態)に設定される(図2(h)参照)。また、試料を切り替えるための低圧切替バルブ15は液体試料を選択するようにaポートとbポートとが接続された状態となる(図2(g)参照)。
【0028】
分析用ポンプ201、202は共に作動されてその両方の合計の流速は0.2[mL/min]一定に維持されるが、2種類の移動相A、Bの混合割合が変化する、つまりグラジエント分析が行われるように、t=0[分]から20[分]まで移動相Bの濃度が40%→95%に直線的に変化するように両方の移動相A、Bの流量の割合が変化される(図2(c)参照)。
【0029】
上記のように2種の移動相A、Bが混合されてなる移動相が、移動相供給流路3から前処理側高圧切替バルブ11のaポート、bポートを経て、濃縮カラム12中を図1で左から右方向に流れる。その際に、濃縮カラム12の捕集剤に捕捉されている目的成分は溶出し、移動相に乗って運ばれ、前処理側高圧切替バルブ11のeポート、fポートを通る。さらに分析流路4を経て分析流路側高圧切替バルブ7のaポート、bポートを通り、分析カラム5に対し、図1で左から右方向に送り込まれる。分析カラム5を通過する際に移動相中の各種成分は分離され、異なる保持時間で以て分析カラム5から溶出して質量分析計6に導入され、質量分析計6で各成分の濃度(含有量)に応じた検出信号が得られる。
【0030】
濃縮カラム12に捕捉されていた各種目的成分の溶出は比較的短時間の間(遅くともt=5[分]まで)に終了し、分析開始から5[分]経過後に、前処理側高圧切替バルブ11は図1で点線で示す接続状態(B状態)に切り替えられる。上記のように分析カラム5に試料が導入されているt=0〜5[分]の期間中には、注入用ポンプ14で吸引された液体試料は前処理側高圧切替バルブ11のdポート、cポートを経て排液流路17を通り排出される。従って、この流路中には液体試料が充満し、5[分]経過後に前処理側高圧切替バルブ11がB状態に切り替えられると、すぐに液体試料が濃縮カラム12に流通し始め、液体試料中の目的成分が濃縮カラム12中の捕集剤に捕捉され始める。これにより、濃縮カラム12での試料成分の計量の正確性を高めることができる。
【0031】
一方、t=20[分]の時点でLC/MS分析は終了するが、その後、分析流路側高圧切替バルブ7を一時的に(ここでは1、2[分]程度)図1で点線の接続状態(B状態)に切り替える。これにより、分析カラム5内をその直前とは逆方向(つまり図1で右から左方向)に移動相が流れるから、主として分析カラム5の入口端(図1中で左端)近傍に溜まっていた不所望の夾雑物が移動相により押し流され、分析流路側高圧切替バルブ7のbポート、cポートを経て排出される。なお、このような分析カラム5の清浄化は、1回の分析毎でなく複数回の分析毎に1回行うようにしてもよいが、1回の分析毎に行うほうが制御プログラムが簡単になる。
【0032】
t=5[分]の時点で濃縮カラム12に液体試料を流し始めることで濃縮を開始し、t=30[分]の時点で濃縮を終了すべく前処理側高圧切替バルブ11をA状態に切り替えるとともに、低圧切替バルブ15でaポートの接続先をcポートに切り替える。但し、分析用ポンプ201、202を動作させたまま前処理側高圧切替バルブ11をA状態に切り替えると、溶出力の強い移動相が濃縮カラム12に流れ、捕捉した目的成分が溶出してしまうから、前処理側高圧切替バルブ11をA状態に切り替える直前(例えば数〜30[秒]程度前)に分析用ポンプ201、202を一時的に停止させて移動相の流速を0にする。これによって、前処理側高圧切替バルブ11をA状態に切り替えた後に濃縮カラム12には移動相や液体試料が流れず、注入用ポンプ14により吸引されたリンス液が前処理側高圧切替バルブ11のdポート、cポートを経て排出される。その結果、低圧切替バルブ15のaポートから前処理側高圧切替バルブ11のdポートまでの間の前処理流路13中に残留している液体試料はリンス液で置換される。
【0033】
そして、1〜2[分]程度経過して、前処理流路13中がリンス液で置換された後に、前処理側高圧切替バルブ11を再びB状態に切り替える。これにより、注入用ポンプ14で吸引されたリンス液が濃縮カラム12内に送給され、濃縮カラム12を含む前処理側高圧切替バルブ11のbポート、eポート間の流路に残る液体試料も清浄なリンス液で置換される。従って、液体試料に含まれる夾雑物を濃縮カラム12やその前後の流路から除去することができる。また、前処理側高圧切替バルブ11のB状態への切り替えと同時に分析用ポンプ201、202の動作を再開させ、分析カラム5への移動相の供給を行う。
【0034】
t=35[分]でこのサイクルが終了し、引き続いて次のサイクルの動作が実行されると、濃縮カラム12に移動相が供給され始めるが、前述のようにその直前に濃縮カラム12を含む前処理側高圧切替バルブ11のbポート、eポート間の流路にはその前の液体試料が残留していないので、移動相により押されて分析カラム5に導入される液中には夾雑物が含まれない(又は含まれていてもごく少量である)。それにより、分析カラム5が目詰まりすることを防止することができるとともに、コンタミネーションを防止することもできる。
【0035】
以上のように、第1実施例のLC/MSによれば、液体試料中に混入している様々な夾雑物が分析カラム5に導入されることを軽減して分析カラム5の目詰まりを起こしにくくすることができる。また、分析カラム5に夾雑物が導入されてしまった場合でも、分析カラム5中を逆流させた移動相によりこの夾雑物を効果的に除去し、分析カラム5の目詰まりを解消することができる。
【0036】
なお、上述したサイクルの中には含まれていないが、濃縮カラム12を清浄化するために、低圧切替バルブ15で100%メタノールなどの洗浄液を選択できるようにしておき、分析を行っていない適宜のタイミングで濃縮カラム12に洗浄液を流すようにするとよい。
【0037】
[第2実施例]
次に第2発明の一実施例(第2実施例)による試料前処理装置を備えたLC/MSを図4により説明する。上記第1実施例によるLC/MSでは、前の分析の液体試料が分析カラム5に導入されることによるカラム目詰まりやコンタミネーションなどを防止することができるものの、そのために、分析用ポンプ201、202の動作を一時的にではあるが停止する必要がある。移動相の流速の一定性は高い分析精度を達成するために重要であるが、分析用ポンプを停止すると、次にその運転を開始したときに流速が安定するまでに時間が掛かり、分析精度に影響を及ぼすおそれがないとは言えない。そこで、分析用ポンプの動作を停止することなく、上記のような濃縮カラムや流路中に残る液体試料を置換を行えるようにしたのが、この第2実施例によるLC/MSである。
【0038】
図3は第2実施例のLC/MSの要部の構成図であり、既に説明した図1、図4の装置と同一の構成要素には同一符号を付して詳しい説明を略す。
【0039】
この実施例では、試料前処理装置10において、高圧切替バルブ11とは別の高圧切替バルブ18が追加されている。これを第2前処理側高圧切替バルブ18と呼び、第1前処理側高圧切替バルブ11と区別する。これら2つの高圧切替バルブ11、18が第2発明における第2流路切替手段に相当する。また、低圧切替バルブ15のcポートには、溶出力の弱い、例えば10%濃度のメタノール水溶液であるコンディショニング液が貯留されたコンディショニング液容器164に至る流路が接続され、dポートには、溶出力の強い、例えば100%濃度のメタノールである洗浄液が貯留された洗浄液容器163に至る流路が接続されている。また、制御部8の制御プログラムも上記第1実施例とは異なる手順で動作を行うように修正されている。
【0040】
この第2実施例のLC/MSは一例として、45分で1サイクルの動作を行うように制御される。t=0[分]の時点では、濃縮カラム12にはその直前のサイクルにおいて導入された目的成分が捕捉され、第1及び第2前処理側高圧切替バルブ11、18は共に図3に実線で示す接続状態(A状態)に設定され、分析流路側高圧切替バルブ7も図3に実線で示す接続状態(A状態)に設定される。また、試料を切り替えるための低圧切替バルブ15は洗浄液を選択するようにaポートとdポートとが接続された状態となる。
【0041】
分析用ポンプ201、202の吸引動作により、2種の移動相A、Bが混合されてなる移動相が、移動相供給流路3から第1前処理側高圧切替バルブ11のaポート、bポートを経て、濃縮カラム12中を図3で左から右方向に流れる。その際に、濃縮カラム12の捕集剤に捕捉されている目的成分は溶出し、移動相に乗って運ばれ、第2前処理側高圧切替バルブ18のcポート、bポート、第1前処理側高圧切替バルブ11のeポート、fポートを通る。さらに分析流路4を経て分析流路側高圧切替バルブ7のaポート、bポートを通り、分析カラム5に対し、図3で左から右方向に送り込まれる。分析カラム5を通過する際に移動相中の各種成分は分離され、異なる保持時間で以て分析カラム5から溶出して質量分析計6に導入され、質量分析計6で各成分の濃度(含有量)に応じた検出信号が得られる。また、このとき、注入用ポンプ14により吸引された洗浄液が前処理流路13、第1前処理側高圧切替バルブ11のdポート、cポートを経て、排液口から排出される。従って、これらの流路中に残る液体試料の残滓などは除去される。
【0042】
濃縮カラム12に捕捉されていた各種目的成分の溶出は比較的短時間の間(遅くともt=7[分]まで)に終了し、分析開始から7[分]経過後に、第1前処理側高圧切替バルブ11は図3で点線で示す接続状態(B状態)に切り替えられる。これにより、注入用ポンプ14により吸引された洗浄液が濃縮カラム12に流され、第1前処理側高圧切替バルブ11のbポート、cポートを経て、排液口から排出される。洗浄液は強い溶出力を有するから、濃縮カラム12内の捕集剤に前の液体試料中の成分が残留していても洗い流される。一方、分析カラム5には移動相が送給されるから、先に導入された目的成分の分離及び質量分析計6での検出が遂行される。
【0043】
t=10[分]の時点で、低圧切替バルブ15はaポートとcポートとを接続するように切り替えられる。注入用ポンプ14によりコンディショニング液が吸引され、これが洗浄液に代わって濃縮カラム12に流される。洗浄液により濃縮カラム12やその前後の流路中は清浄化されるが、洗浄液は溶出力が強いため、洗浄液が濃縮カラム12に残ったままであると次に液体試料を導入した際に目的成分が捕捉されにくくなり、回収率の低下が起こり易い。そこで、溶出力の弱いコンディショニング液で濃縮カラム12やその前後の流路中の洗浄液を置換するようにする。なお、コンディショニング液はメタノールを含まない純水(つまりは第1実施例におけるリンス液)としてもよい。
【0044】
次にt=13[分]の時点で、第2前処理側高圧切替バルブ18を図3で点線状態(B状態)に切り替えるとともに、低圧切替バルブ15でaポートとbポートとを接続するように切り替える。注入用ポンプ14により液体試料が吸引され、これが前処理流路13、第1前処理側高圧切替バルブ11のdポート、eポート、第2前処理側高圧切替バルブ18のbポート、aポートを経て排液口から排出される。これにより、低圧切替バルブ15のaポートから第2前処理側高圧切替バルブ18のbポートまでの流路中のコンディショニング液が分析対象の液体試料に置換される。
【0045】
t=15[分]の時点で第2前処理側高圧切替バルブ18はA状態に戻され、液体試料が濃縮カラム12に供給されることで濃縮が開始される。その切替えの直前には、上述のように低圧切替バルブ15のaポートから第2前処理側高圧切替バルブ18のbポートまでの流路中に液体試料が充満しているので、バルブ18を切り替えた後、速やかに液体試料が濃縮カラム12に到達し、液体試料の計量の正確さが向上する。なお、t=35[分]まで分析カラム5には一定流速の移動相(但し、グラジエント分析では移動相A、Bの割合は変化する)が送給され、これにより目的成分の分離及び検出が実行される。
【0046】
t=35[分]の時点でLC/MS分析は終了するが、その後、分析流路側高圧切替バルブ7を一時的に図3で点線の接続状態(B状態)に切り替える。これにより、分析カラム5内をその直前とは逆方向(つまり図3で右から左方向)に移動相が流れるから、主として分析カラム5の入口端近傍に溜まっていた不所望の夾雑物が移動相により押し流され、分析流路側高圧切替バルブ7のbポート、cポートを経て排出される。
【0047】
2分間だけ上記のように分析カラム5中に移動相を分析時とは逆方向に流した後、t=37[分]の時点で分析流路側高圧切替バルブ7をA状態に戻す。これにより、分析カラム5中に分析時と同様に移動相が流れ、分析カラム5のコンディショニングが行われる。
【0048】
t=40[分]の時点で、濃縮を終了すべく第2前処理側高圧切替バルブ18をB状態に切り替えるとともに、低圧切替バルブ15でaポートの接続先をcポートに切り替える。これによって、注入用ポンプ14により吸引されたコンディショニング液が第1前処理側高圧切替バルブ11のdポート、eポート、第2前処理側高圧切替バルブ18のbポート、aポートを経て排出される。これにより、低圧切替バルブ15のaポートから第2前処理側高圧切替バルブ18のbポートまでの間の流路中に残留している液体試料はコンディショニング液で置換される。このように、次の濃縮カラム12内の液体試料の置換の前に、前処理流路13などの前段の流路中の液体試料を除去しておくことにより、余分な液体試料が濃縮カラム12を通過することがない。
【0049】
さらにt=41[分]の時点で、第2前処理側高圧切替バルブ18を再びA状態に切り替える。これにより、注入用ポンプ14で吸引されたコンディショニング液が濃縮カラム12内に送給され、濃縮カラム12を含む、第2前処理側高圧切替バルブ18のbポートから第1前処理側高圧切替バルブ11のbポートまでの流路に残る液体試料もコンディショニング液で置換される。従って、液体試料に含まれる夾雑物を濃縮カラム12やその前後の流路から除去することができる。
【0050】
t=45[分]でこのサイクルが終了し、引き続いて次のサイクルの動作が実行されると、濃縮カラム12に移動相が供給され始めるが、前述のようにその直前において、濃縮カラム12を含む第1前処理側高圧切替バルブ11のbポートから第2前処理側高圧切替バルブ18を挟んで第1前処理側高圧切替バルブ11のeポートまでの流路にはコンディショニング液が充満している。従って、移動相により押されて分析カラム5に導入される液中には夾雑物が含まれず(又は含まれていてもごく少量である)、分析カラム5が目詰まりすることを防止することができる。また、前の分析の際の成分も除去されているので、コンタミネーションも防止することもできる。
【0051】
また、上述のように第2実施例のLC/MSでは分析用ポンプ201、202を停止することなく常時一定流速で移動相を流し続けることができるので、ポンプを停止することによる移動相の流速の不安定化の影響もなく、高精度の分析を行うことができる。
【0052】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一実施例であり、本願発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても、本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施例によるLC/MSの要部の構成図。
【図2】第1実施例のLC/MSの分析動作を示すタイムチャート。
【図3】本発明の第2実施例によるLC/MSにの要部の構成図。
【図4】従来の試料前処理装置を備えるLC/MSの要部の構成図。
【符号の説明】
【0054】
101、102…移動相容器
201、202…分析用ポンプ
3…移動相供給流路
4…分析流路
5…分析カラム
6…質量分析計(MS)
7…分析流路側高圧切替バルブ
8…制御部
10…試料前処理装置
11…第1前処理側高圧切替バルブ
12…濃縮カラム
13…前処理流路
14…注入用ポンプ
15…低圧切替バルブ
161…試料容器
162…リンス液容器
163…洗浄液容器
164…コンディショニング液容器
17…排液流路
18…第2前処理側高圧切替バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフの分析カラムに導入する試料を濃縮するための試料前処理装置において、
a)目的成分を捕捉するための濃縮カラムと、
b)少なくとも液体試料と清浄な置換用液体とを切り替えて供給するための第1流路切替手段と、
c)前記第1流路切替手段で選択された液体を前記濃縮カラムに通過させる流路を形成する第1状態と、前記濃縮カラムに移動相を供給し該濃縮カラムを通過した移動相を分析カラムに導入する流路を形成する第2状態と、を切り替える第2流路切替手段と、
d)前記第1状態において前記濃縮カラムに液体試料を流して該液体試料中の目的成分を該濃縮カラム中に捕捉させた後に、前記置換用液体を該濃縮カラムに流し、その後に前記第2状態において移動相を前記濃縮カラムに供給して該濃縮カラムを通過した移動相を分析カラムに導入するように、前記第1流路切替手段及び第2流路切替手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする試料前処理装置。
【請求項2】
液体クロマトグラフの分析カラムに導入する試料を濃縮するための試料前処理装置であって、
a)目的成分を捕捉するための濃縮カラムと、
b)少なくとも液体試料と清浄な置換用液体とを切り替えて供給するための第1流路切替手段と、
c)前記第1流路切替手段で選択された液体を前記濃縮カラムに通過させる流路を形成する第1状態と、前記第1流路切替手段で選択された液体及び移動相のいずれも前記濃縮カラムに流すことなく該第1流路切替手段で選択された液体を排出する流路を形成する第2状態と、移動相を前記濃縮カラムに供給して該濃縮カラムを通過した移動相を分析カラムに導入する流路を形成する第3状態と、を切り替える第2流路切替手段と、
d)前記第2状態において液体試料を第2流路切替手段に流し、少なくとも第1流路切替手段と第2流路切替手段との間の流路中を液体試料で満たした後、前記第1状態において濃縮カラムに液体試料を流して該液体試料中の目的成分を該濃縮カラム中に捕捉させ、次いで前記置換用液体を該濃縮カラムに流し、その後に前記第3状態において移動相を該濃縮カラムに供給して該濃縮カラムを通過した移動相を分析カラムに導入するように、前記第1流路切替手段及び第2流路切替手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする試料前処理装置。
【請求項3】
前記第2流路切替手段は2つの2ポジションバルブにより構成されることを特徴とする請求項2に記載の試料前処理装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の試料前処理装置を含む液体クロマトグラフ装置であって、
前記第2流路切替手段を通して供給される移動相を分析カラムに流し、該分析カラムを通過して来た移動相を検出器に導入する順方向流路と、前記第2流路切替手段を通して供給される移動相を前記順方向流路とは逆方向に前記分析カラムに流し、該分析カラムを通過して来た移動相を排出する逆方向流路と、を切り替える第3流路切替手段を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−309596(P2008−309596A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156931(P2007−156931)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)