説明

試料採取用スワイプの変形を防止する携帯型試料採取装置および試料を採取する方法

【課題】爆発物および薬物を検出する場合に試料採取用スワイプが変形するのを防止する携帯型試料採取装置および試料採取方法を提供する。
【解決手段】装置は後方部においてハンドル14を備え、前方部においてその下面に配置された拭き取り面7を有する拭き取り試料採取機構15を備える。試料採取用スワイプ8は拭き取り中に対象の表面と完全に接触した状態となり、拭き取り効率を向上させる。大量の試料採取用スワイプを節約するために、より小さな試料挿入口を分析装置に配置する。復帰させることが難しい試料採取用スワイプの変形及び折り曲げを防止し、試料挿入操作を保証し、試料の収集および試料の注入の双方の効率を増強し、検出されるべき被検体の検出性能を向上させる。拭き取り面に試料採取用スワイプを取り付ける工程と、試料採取用スワイプの前端部を固定する工程と、試料採取用スワイプの後端部を固定する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料採取装置および該試料採取装置を用いる方法に関し、特に、イオン移動度分光計が爆発物や薬物を検出する場合に、対象の表面から試料を収集するための携帯型拭き取り式試料採取装置(hand−held swipe sampling device)に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン移動度分光分析に基づいた爆発物検出器や薬物検出器は、迅速で感度が高く、かつ可搬式の現場用検出機器(portable on−site detection instrument)である。そのような検出機器は、化学兵器、爆発物、薬物などを検出するために、軍事目的に利用されたり、または保安検査組織によって用いられたりしてきた。
【0003】
イオン移動度分光計が禁止化合物(contraband compounds)を検出する場合には、蒸気試料採取方式(一般に「臭気嗅入(odor smelling)」方式と称される)に加えて、粒子試料採取(particle sampling)が最も一般に用いられている試料採取方式である。粒子試料収集方式の採用により、まず試料採取用スワイプ(sampling swipe)を用いて、対象の表面を拭き取り、爆発物または薬物の微粒子を収集し、次に、検出および識別のために、そのスワイプを前記機器の試料挿入口に挿入する。
【0004】
現在、イオン移動度分光計用の粒子試料採取は下記の2つの方式で行われている。
1.直接拭き取り
この方式では、操作者は、試料採取用スワイプを手動で保持して、対象の表面を直接拭き取る。手が対象の表面と接触することを避けるために(汚染された手は、後の試料採取および検出を妨げることがある)、試料採取用スワイプを極めて大きくする必要があり、それに相応して、機器の試料挿入口も極めて大きくしなければならない。これは、試料採取用スワイプの大いなる無駄を生じるだけでなく、より重要なことには、そのような非常に大きな試料挿入口は多くの不都合を有する。第1に、熱が集中されず、その結果として加熱効率が低くなることは、機器の感度に悪影響を与える。第2に、大きな電力消費は、バッテリーの作動期間を短縮する。そのため、バッテリーを頻繁に交換しなければならず、よって機器の実用性に影響を与える。
【0005】
2.試料採取装置を用いた拭き取り
現在、試料の拭き取りのために試料採取用スワイプを保持することができるような装置が存在する。装置の前方端には、ペーパークリップのような紙保持具が備えられており、その紙保持具は前方に開く。試料採取用スワイプの前方端が固定された後、該試料採取用スワイプの前方端は、拭き取り手段上に固定されるために、後方へ180度折り曲げられなければならない。従って、試料採取用スワイプの前方端は明らかな折り目を形成する。試料採取用スワイプが折り曲げられた後、該試料採取用スワイプを試料挿入口に容易に挿入することができるように、該試料採取用スワイプは平坦で水平な状態に復帰しなければならない。一般的な植物性繊維紙は、折り曲げられた後に、平坦で水平な状態に復帰させることがほとんどできない。このため、拭き取り手段では、特に用意された試料採取「紙」(化学的ポリマー)を用いる。そのような紙は、使用するのに高価であり、機器の検出性能に影響を与え得る低い試料採取効率を示す。さらに、拭き取り手段の拭き取り接触面は平面であり、そのため、特定の湾曲を有する対象の表面を拭き取るために用いられる場合、試料採取用スワイプが対象の表面と十分に接触することができず、よって拭き取りおよび試料採取の効率に影響を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術における上記の不都合を克服するために、紙を節約でき、かつ試料採取効率を改善することができるとともに、イオン移動度分光計の試料注入効率を最適化かつ向上させることができる携帯型拭き取り式試料採取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決法を用いる。
本発明による携帯型拭き取り式試料採取装置は本体を有し、該本体は後方部に位置するハンドルと、下面に配置された拭き取り面を有する前方部に位置する拭き取り試料採取機構とを備える。この拭き取り面は滑らかに遷移する連続曲面であり、その連続曲面は人間の指先の曲面を模擬しており、該連続曲面には、試料採取用スワイプが取り付けられる。
【0008】
試料拭き取り面は、その前方側において前方保持具を備え、かつその後方側において後方保持具を備える。これら2つの保持具は、試料採取用スワイプを保持かつ固定するために用いられる。
【0009】
拭き取り試料採取部は、ガイド摺動路を備える。前方保持具は、このガイド摺動路に沿って摺動させることができる、ガイド摺動路内に取り付けられた操作ボタンと、操作ボタンに連結された弾性押圧片と、一端が弾性押圧片に連結され、さらに他端がばね留め具によって拭き取り試料採取部に固定された予め引張されたばね(pre−tension spring)とを備える。弾性押圧片の前端部は、拭き取り試料採取部から外に延出し、その延出した部分は、拭き取り試料採取部の外面の輪郭に緊密に一致するように形成されている。拭き取り試料採取部の上方部には、弾性押圧片を案内するために、ガイドブロックが設けられている。弾性押圧片および該弾性押圧片に堅固に連結された操作ボタンを前方および後方に摺動させることによって、前方保持具は、押されて試料拭き取り面から離されたり、拭き取り面上で閉鎖されたりする。
【0010】
後方保持具は、拭き取り試料採取部の側面に回転自在に取り付けられた回転基部と、その回転基部に固定された回転可能な押圧シートと、拭き取り試料採取部の内部に埋設され、かつ回転可能な押圧シートと協働する磁石とを備える。後方保持具は、回転可能な押圧シートの回転によって、試料採取用拭き取り面に係合したり、同拭き取り面から離脱したりする。
【0011】
前記回転可能な押圧シートはL字形である。
前記本体は、相互にスナップ嵌合する左本体および右本体を備える。
ハンドル部の後端部には吊り下げリングが設けられている。
本発明による携帯型拭き取り式試料採取装置を用いる方法は、下記の工程を含む:
A)前記試料採取用スワイプを試料採取用拭き取り面に装着する工程と、
B)前方保持具の操作ボタンを前方に押圧して、本体から延出する弾性押圧片の部分を、一定の隙間だけ、試料採取用拭き取り面から離間させて、弾性押圧片と試料採取用拭き取り面との間に、試料採取スワイプの前端縁を挟み、試料採取スワイプの前端縁が堅固に保持されるように操作ボタンを緩める工程と、
C)試料採取用スワイプの後端縁が回転可能な押圧シートと試料採取用拭き取り面との間に堅固に保持されるように、後方保持具の回転可能な押圧シートを回転させる工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明による携帯型拭き取り式試料採取装置の利点および有利な効果は次のとおりである。試料採取用拭き取り面は滑らかに遷移する連続曲面であるため、試料採取用スワイプが拭き取り中に対象の表面と完全に接触した状態となることが可能であり、拭き取り効率を向上させることができる。相応して、多くの試料採取用スワイプを節約するように、検出機器により小さな試料供給口を配置することができ、試料採取用スワイプに平坦かつ滑らかな状態に復帰させることが難しい変形およびしわが生じるのを防ぎ、後の試料供給動作を保証し、試料採取効率および試料供給効率を増強し、検出される試料の検出性能を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下の実施形態は本発明を例証するために用いられるものであり、本発明の範囲を限定するために用いられるものではない。
【0014】
図1、図2および図3に示すように、本発明による携帯型拭き取り式試料採取装置は、例えばスナップ嵌合方式または他の連結方式で相互に連結された左本体12および右本体13からなる本体を備える。当業者であれば一体的に形成された本体に想到し得る。本体の後方部はハンドル部14であり、本体の前方部は拭き取り試料採取部15である。拭き取り試料採取部15の下面は試料採取用拭き取り面7であり、その試料採取用拭き取り面7は、前方側に前方保持具を備え、かつ後方側に後方保持具を備える。試料採取用拭き取り面7は、円弧表面のような滑らかに遷移する連続曲面であり、その連続曲面は人間の指先の曲面を模擬する。実使用において、試料採取用拭き取り面7は、試料採取用スワイプ8に対して緊密に当接する。前方保持具および後方保持具は、拭き取られるべき対象に対して試料採取用スワイプ8を保持し固定するために用いられる。本発明において、拭き取り試料採取部15はガイド摺動路を備える。前方保持具は、弾性押圧片6、操作ボタン4、予め引張されたばね3、およびばね留め具2からなる。操作ボタン4は、前記ガイド摺動路に取り付けられ、前記ガイド摺動路に沿って摺動する。弾性押圧片6は操作ボタン4に連結されており、弾性押圧片6の前端部は拭き取り試料採取部15から外に延出しており、その延出した部分は、拭き取り試料採取部15の外面の輪郭を描くように形成されている。予め引張されたばね3の一端は弾性押圧片6に連結され、予め引張されたばね3の他端は、ばね留め具2によって、拭き取り試料採取部15に固定される。拭き取り試料採取部15の上方部には、弾性押圧片6を案内するために、ガイドブロック5を設けることができる。ガイドブロック5の数は1個または2個に限定されず、拭き取り試料採取部15の長さに従って決定することができる。弾性押圧片6は、予め引張されたばね3によって、きつく引っ張られて、試料採取用スワイプ8の試料採取拭き取り面7の前端への固定を実現する。当業者であれば他の形態の前方保持具に想到し得る。
【0015】
本発明による後方保持具は、拭き取り試料採取部15の側面に回転自在に連結された回転基部9と、その回転基部9に固定された回転可能な押圧シート11とを備える。磁石10は回転可能な押圧シート11に対応する位置において本体に埋設されている。回転可能な押圧シート11は、磁石によって引きつけられ得る鉄のような材料から製造されている。試料採取用スワイプ8の他端は、磁石10が回転可能な押圧シート11を引き付けて閉鎖させる方法で、前記試料採取拭き取り面7に固定される。当業者は他の形態の後方保持具に想到することができ、例えば、後方保持具は、ねじりばねによって実現される。
【0016】
本発明の本体は、分離可能に相互に取り付けられた左本体12および右本体13を備える。非操作状態の試料採取装置の取り上げおよび保管を容易にするために、本体の後端には吊り下げリング1が設けられている。
【0017】
本発明による携帯型拭き取り式試料採取装置を用いる方法は、以下のように説明される。この装置が用いられる場合、まず、後方保持具の回転可能な押圧シート11(図2および図3参照)を磁石10の引力に打ち勝って試料採取拭き取り面7の外面から離反するように回転させ、操作ボタン4を前方に押圧して、本体から外に延出している弾性押圧片6の部分を、一定の隙間だけ、試料採取拭き取り面7から離れさせる。試料採取用スワイプ8の前端縁を弾性押圧片6と試料採取拭き取り面7との間に挟む。試料採取用スワイプ8の前端縁が予め引張されたばね3の作用を受けて堅固に保持されるように、操作ボタン4を緩める。試料採取用スワイプ8を試料採取拭き取り面7に当接させる。次に、回転可能な押圧シート11を、試料採取拭き取り面7を押圧するように、反対に回転させる。磁石10の引力により、試料採取用スワイプ8の後端縁は堅固に保持される。試料採取が完了した際には、回転可能な押圧シート11を回転させて、試料採取用スワイプ8が検出のために試料採取拭き取り面7から取り外されるように、操作ボタン4を前方に押圧する。
【0018】
本発明による携帯型拭き取り式試料採取装置を用いる方法は、まず、試料採取用スワイプ8を試料採取拭き取り面7に当接させる工程と、次に、試料採取用スワイプ8の前端部を固定する工程と、最後に試料採取用スワイプ8の後端部を固定する工程とを有してもよい。あるいは、試料採取用スワイプ8の後端部を固定する工程の後に、試料採取用スワイプ8の前端部を固定する工程を有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による携帯型拭き取り式試料採取装置の構造を示す概略図。
【図2】回転可能な押圧シートが閉鎖状態にある、図1の線A−Aにおける横断面図。
【図3】回転可能な押圧シートが開放状態にある、図1の線A−Aにおける横断面図。
【符号の説明】
【0020】
1…吊り下げリング、2…ばね留め具、3…予め引張されたばね、4…操作ボタン、5…ガイドブロック、6…弾性押圧片、7…試料採取用拭き取り面、8…試料採取用スワイプ、9…回転基部、10…磁石、11…回転可能な押圧シート、12…左本体、13…右本体、14…ハンドル部、15…拭き取り試料採取部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体を備え、該本体の後方部はハンドル部(14)であり、該本体の前方部は拭き取り試料採取部(15)であり、該拭き取り試料採取部(15)の下面には試料採取拭き取り面(7)が設けられている、携帯型拭き取り式試料採取装置であって、前記試料採取拭き取り面(7)は滑らかに遷移する連続曲面であり、その連続曲面は人間の指先の曲面を模擬しており、前記連続曲面上には試料採取用スワイプ(8)が装着されていることを特徴とする、携帯型拭き取り式試料採取装置。
【請求項2】
前記試料採取拭き取り面(7)は、その前方側に前方保持具を備え、かつその後方側に後方保持具を備え、これら前方保持具および後方保持具は、前記試料採取用スワイプ(8)を保持かつ固定するために用いられることを特徴とする、請求項1に記載の携帯型拭き取り式試料採取装置。
【請求項3】
前記拭き取り試料採取部(15)はガイド摺動路を備え、前記前方保持具は、該ガイド摺動路内に取り付けられ、かつ該ガイド摺動路に沿って摺動可能な操作ボタン(4)と、該操作ボタン(4)上に連結された弾性押圧片(6)と、一端が弾性押圧片(6)に連結され、他端がばね留め具(2)によって拭き取り試料採取部(15)に対して固定された予め引張されたばね(3)とを備え、該弾性押圧片(6)の前端部は前記拭き取り試料採取部(15)から外に延出しており、その延出した部分は、該拭き取り試料採取部(15)の外面の輪郭に緊密に一致するように形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の携帯型拭き取り式試料採取装置。
【請求項4】
前記拭き取り試料採取部(15)の上方部には、前記弾性押圧片(6)を案内するために、ガイドブロック(5)が設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の携帯型拭き取り式試料採取装置。
【請求項5】
前記後方保持具は、前記拭き取り試料採取部(15)の側面に回転自在に取り付けられた回転基部(9)と、該回転基部(9)に固定された回転可能な押圧シート(11)と、該拭き取り試料採取部(15)の内部に埋設され、かつ回転可能な押圧シート(11)と協働する磁石(10)とを備えることを特徴とする、請求項2に記載の携帯型拭き取り式試料採取装置。
【請求項6】
前記回転可能な押圧シート(11)はL字形であることを特徴とする、請求項5に記載の携帯型拭き取り式試料採取装置。
【請求項7】
前記本体は、相互にスナップ嵌合する左本体(12)および右本体(13)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の携帯型拭き取り式試料採取装置。
【請求項8】
前記ハンドル部(14)の後端部には、吊り下げリング(1)が設けられている、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の携帯型拭き取り式試料採取装置。
【請求項9】
請求項2乃至6のいずれか1項に記載の携帯型拭き取り式試料採取装置を用いる方法であって、該方法は、
A)試料採取用スワイプ(8)を試料採取用拭き取り面(7)に取り付ける工程と、
B)前方保持具の操作ボタン(4)を前方に押圧して、本体から外に延出した弾性押圧片(6)の部分を、一定の隙間だけ、前記試料採取用拭き取り面(7)から離れさせ、該弾性押圧片(6)と該試料採取用拭き取り面(7)との間に、前記試料採取スワイプ(8)の前端縁を挟み、該試料採取スワイプ(8)の前端縁が堅固に保持されるように、前記操作ボタン(4)を緩める工程と、
C)前記試料採取用スワイプ(8)の後端縁が回転可能な押圧シート(11)と前記試料採取用拭き取り面(7)との間に堅固に保持されるように、後方保持具の回転可能な押圧シート(11)を回転させる工程とを備えることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−53189(P2009−53189A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−198010(P2008−198010)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(503414751)同方威視技術股▲分▼有限公司 (18)
【Fターム(参考)】