説明

誘導加熱コイル及び誘導加熱コイルの製造方法

【課題】
高温時でも誘導加熱コイルをモジュール化する樹脂の破損を防止する。
【解決手段】
スペーサ兼位置決め作用を有する第1,第2突起3a,3bを一体的に設けたボビン3に巻線2を巻いてコイルを形成し,底面の厚みを第1突起3a高さとして全体を樹脂で一体に成形してコイルユニット1とする。フェライトコアを載置したフェライトベース9の凹部11に第2突起3bを挿入してできるコイルユニット1とフェライトベース9との隙間に接着剤を塗布して接着し,誘導加熱コイルを製造する。コイルユニット1とフェライトコアとの位置決めが確実にできるため,一定の品質の誘導加熱コイルを製造でき,誘導加熱コイルが高温になっても樹脂にクラックが入るなどの破損を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は組み立ての際にフェライトコアとコイルの位置関係を良好に保ち,更に高温状態での樹脂の破損を防止する誘導加熱コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱コイルとして,例えば特許文献1には,平板の支持台上に平板なコイル巻線を形成し,これとフェライトコアを接着剤で固定すること,平板な円板状に成形されたコイル巻線とフェライトコアとを樹脂からなる支持体で全体を一体に成形して保持することが開示されている。
【0003】
フェライトコアを用いたコイルとして,特許文献2にはドラム型フェライトコアを合成樹脂性の台座に接着固定してフェライトコアの巻軸部に巻線を巻回して高周波トランスとし,フェライトコアと台座の接合面に多数の凹凸を設け,接着強度を増すことが開示されている。
【0004】
【特許文献1】「特開平6−275373号」公報。
【特許文献2】「特開平7−192931号」公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようにコイル巻線とフェライトコアと支持体とを同時に一体に成形すると,非常に高温になる場合に樹脂が膨張し,樹脂にクラックが入ったり割れてしまう恐れがあった。また巻線とフェライトコアとの位置決めに関しては考慮されていなかった。そのため成形時に振動を受けるなどして相対位置がずれてしまい,製造される誘導加熱コイルのインダクタンス値を一定にできない恐れがあった。
【0006】
特許文献2では接着強度は増すものの,台座とフェライトコアの接着面との間に接着剤による層が形成されるため,接着剤が固化するまでの間に台座が最適位置からずれてしまう恐れがあった。組み立てに際しても台座のリード端子に対し,フェライトコアに巻回された巻線端部を位置合わせする必要があるが,フェライトコアを台座に接着した後にコイルを形成するため,巻線の巻き位置を誤ると巻先端部がリード端子に届かなくなる等して巻き回数が変動する要素となり,コイルの特性が変動する恐れがあった。
【0007】
そこで,この発明は,製造の際にフェライトコアとコイルの位置関係を良好に保つことで品質を一定にし,更に高温状態での樹脂の破損を防止する誘導加熱コイルを適用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために,本発明は,フェライトコアを載置する載置部を設けたフェライトベースと,コイル巻線と,コイル巻線端部から延長して外部電極に接続されるリードとを備えた誘導加熱コイルにおいて,フェライトベースに設けられた位置決め手段と,位置決め手段に位置決め可能な被位置決め手段を一体的に形成した支持体とを有し,位置決め手段に前記支持体の被位置決め手段を位置決めすることによりフェライトベースと支持体との間に空隙を形成する構成を備えるものである。
【0009】
即ち,この発明が適用される誘導加熱コイルは,被位置決め手段を設けた支持体にコイル巻線を巻回してこれらを耐熱性樹脂で一体的に成形してコイルユニットとし,フェライトベース載置部のフェライトコアを載置した面に接着剤を塗布や充填などしてフェライトベースに設けた位置決め手段に被位置決め手段を位置決めすることで,フェライトベースとコイルユニットとの間に生じる空隙が接着層として両者を接着することができる。あるいは,支持体をフェライトベースに位置決めして,全体が樹脂で一体的に成形されたモジュール化された誘導加熱コイルとすることもできる。被位置決め手段は,フェライトベースに対する支持体の位置合わせに用いられると共に,フェライトベースと支持体ひいてはコイルユニットとを隔てるスペーサの役割を果たす。そのためコイルユニットとフェライトベースを同じ間隔だけ隔てた状態で固着することができ,フェライトコアとコイル面の相対位置がずれることが無い。したがって,インダクタンスが均一な誘導加熱コイルとすることができ,フェライトコアにコイルの磁束が均一に流入し,非対称による漏れ磁束によりフェライトベースが設置される構造物を加熱することが防止できる。
【0010】
支持体を上下に鍔を有するボビンとすれば,コイルを容易に巻回することができる。なお,誘導加熱コイル全体が非常に高い温度雰囲気にさらされる場合には,上下の鍔に挟まれた樹脂により樹脂および鍔の応力破壊を防ぐため,支持体を平板状の支持板とすることもできる。
【0011】
位置決め手段をフェライトベースに形成された凹部とし,被位置決め手段を支持体に設けられた突起とすれば,フェライトベース成形時に同時に位置決め手段を形成することができ,被位置決め手段も支持体の成形時に一体成形することが可能である。支持体に設けた突起を,第1突起とそれよりも長い第2突起で構成することにより,第1突起の突出位置を樹脂充填位置として支持体とコイル巻線を耐熱性樹脂にて一体的に成形固着してコイルユニットを形成することができ,成形金型が複雑になることがない。また,凹部の深さを第2突起の長さよりも浅くしておけば,凹部に第2突起を挿入した際にコイルユニットとフェライトベースの間に第2突起の長さと凹部の深さの差分だけ空隙が形成でき,簡単な構成で位置決め及びスペーサを構成することができる。第1突起と第2突起を一体成形された径の異なる2段の円柱で構成すれば,成形時に熱などで多少変形しても位置決め手段に良好に挿入でき位置決め兼スペーサとしての役割を果たすことができる。
【0012】
フェライトベースの周囲に突出する壁部を形成し,フェライトベースとにコイルユニットとの間に形成される隙間を壁部で覆って空隙とすることにより,接着や樹脂充填の際にコイルユニットとフェライトベースに圧力をかけても接着剤や樹脂が不用意に周囲に漏れることが防止することができるとともに,接着剤や樹脂が多すぎる場合には隙間から余分な材料が流れるために,接着剤や樹脂の量を最適に維持することができる。コイルユニットとしてドーナツ状の形状を選択した場合には,フェライトベースが円盤状の場合には外周と内周にも壁を設ければ,同様の効果を得ることができる。
【0013】
フェライトコアを載置する載置部に吸収部を延設することにより,高温時にフェライトベースを構成する樹脂が膨張しても,フェライトコアと当たることを防止することができる。特にフェライトベースとして角柱状のものを用いる場合,角に対面する載置部の角部に例えば円形の吸収部を延設すれば,フェライトコアの角が膨張した樹脂に当たってここから樹脂が破損しないように膨張分を吸収することができる。
【0014】
コイルユニットの支持体に流動孔を形成すれば,コイルユニットを成形する際に充填される樹脂が流動孔からコイル内部に流動するので,隙間無くコイルユニット内に樹脂を充填することができる。また,高温状態で樹脂が膨張しても流動孔により樹脂の膨張分を逃がすことができる。例えばこの流動孔を支持体を貫通する貫通孔とすれば,支持体の成形時に同時に形成することができ,良好な効果を得ることができる。
【0015】
なお,支持体とフェライトベースを同じ特性を有する樹脂や金属で形成した場合は位置決め手段と被位置決め手段の大きさをほぼ同じにすればよい。支持体とフェライトベースを,異なる膨張係数を有する異なる樹脂や金属で成形する場合,被位置決め手段の大きさよりも位置決め手段の大きさを大きくすれば,高温状態で支持体とフェライトベースの膨張が異なっても差分を吸収することができる。例えば円柱状の第2突起の径よりも,凹部の径を大きくすれば,高温時に第2突起の膨張分が凹部よりも大きくても,第2突起と凹部が強く当たることが回避され,膨張による破壊を防止することが可能になる。
【0016】
フェライトベースに溝部を設けたガイド部を一体的に形成し,コイルユニット成形時にリード口と係合部を延設したリード充填部をコイルユニットに一体的に成形し,フェライトベースの位置決め手段にコイルユニットの被位置決め手段を挿入したときにフェライトベースの溝部にコイルユニットの係合部を係合させて位置決めするようにすれば,フェライトベースとコイルユニットとの位置がより強固に決定される。
【0017】
リードを第1のチューブと第2のチューブで2重に絶縁すると,リードの機械的および絶縁強度を増すことができる。リード充填部の範囲近傍において第1のチューブと第2のチューブの隙間を埋めるよう,熱収縮性を有する第3のチューブを更に挿入するように構成すれば,リードが2重に絶縁できる上,樹脂を充填してコイルユニットを成形する際に,リード充填部で第1のチューブと第2のチューブとの間の隙間を埋めることができ,隙間から樹脂が流入して樹脂が固化してリード部分の可撓性が失われるのを防止することができる。第3のチューブは熱収縮性を有するため成形時に収縮して第1のチューブと密着する。第3のチューブの厚みは熱収縮した際の外径が第2のチューブの内径と同一になるよう選択されているため,第1のチューブと第2のチューブとの隙間をほぼ完全に埋めることができる。
【0018】
フェライトベースに,フェライトベース側に開口する略コの字状に立設された板状の壁とからなるガイド部を設け,ガイド部の一部に上端から溝を形成する。一方コイルユニットの成形時に,コイルユニットからリードを取り出し,リードを覆うようにリード充填部を一体成形する。リード充填部にはリードの大きさの孔を設けたリード口が取り付けられ,リード口とリード充填部との間に係合部を形成する。これらリード口と係合部は,コイルユニット成形時にリード充填部とともに一体成形されてもよく,リード口と係合部を別部材で構成し,コイルユニット成形時にリード充填部に埋め込むようにして形成しても良い。リード口と係合部を弾力性の高い素材で構成してもよい。コイルユニットをフェライトベースに接着する際に,コイルユニットの係合部がフェライトベースの溝部に沿うようにコイルユニットを移動させ,第2突起をフェライトベースの凹部に位置させる。このように構成すれば,ほぼ完全にフェライトベースとコイルユニットの位置関係が定まり,接着剤が固化する前であっても両者の位置がずれることが防止される。また接着後誘導加熱コイルとして使用する際にも,振動などで両者が容易に剥離することが無い。万一接着層が剥がれてしまっても,係合部が溝部に係合しているので,フェライトベースからコイルユニットが落下することを防止できる。また,コイルユニットに設けたリード口と係合部を弾力性の高い材料で形成すれば,高温時に係合部やガイド部が膨張しても膨張分を弾力により吸収することができる。特に,係合部の底形状をU字状とし,溝部をU字状の切欠きとすれば,応力に弱い角で係合部と溝部が接することが防止され,より効果を得ることができる。
【0019】
フェライトベースのガイド部に底面を形成し,底面に水抜き穴を形成してもよい。水抜き穴を形成すれば,この発明による誘導加熱コイルが洗浄作業などで濡れた場合,フェライトベースとコイルユニットとの隙間に水が入っても,水を抜くことが可能になる。更にこの水抜き穴は,高温時のフェライトベースの膨張を逃がす効果がある。
【発明の効果】
【0020】
上述したように,この発明によれば,フェライトベースにコイルユニットを容易にかつ強固に位置決めできるとともに,誘導加熱コイルが高温状態になっても,樹脂の膨張によるクラックや割れなどの破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明の一実施形態について,図1〜図9を参照して説明する。
【0022】
図1にコイルユニットを示す。本例では耐熱性樹脂で形成された支持体であるボビン3に巻線2を巻回し,巻線2の端部を外部に取り出しリード7とし,ボビン3と巻線2を樹脂で一体に成形してコイルユニット1を構成している。
【0023】
図2にボビン3の一例を示す。ボビン3は筒状の胴部3eとその上下に形成された上鍔3fと下鍔3dからなり,下鍔3dの下面には下方に向けて第1突起,第2突起が設けられている。本例では4組の第1,第2突起3a,3bが同軸で径の異なる円柱状の突起としてボビン3に一体成形されている。第1突起3aは第2突起3bよりも径が大きく,第2突起3bは第1突起3aよりも長く形成されている。本例では突起を4組としたが,数はこれに限定されるものではない。上鍔3fと下鍔3dには貫通孔である流動孔3cが形成されている。後述するが,コイルユニット1を成形する際に樹脂が充填されると,この流動孔3cを樹脂が流動して巻線2の隙間にも樹脂が回り込み,隙間無く良好に成形をすることができる。また,高温状態でこの流動孔3cにより樹脂の膨張分を逃がすことができ,コイルユニット1の破損を防止することができる。ボビン3には巻線2の巻き終わりのリード線2aを外部に取り出すための溝を形成してこの溝に巻線端部を通して外部に取り出すようにしてもよい。
【0024】
巻線2はコイルユニット1のリード充填部4を介して外部に取り出されてリード7とされ,リード7に端子8が接続される。図8にリード充填部4を示す。図8(a)は側面要図,図8(b)は矢印A方向から見た図,図8(c)は矢印B方向から見た図である。図8(c)に示すように,リード充填部4には,コイルユニット側の埋没部6aと端子8側のリード口6bと,その連結部分である係合部5が配置される。埋没部6a,リード口6bは底部がU字状の板状をなし,埋没部6aとリード口6bとの間に形成された係合部5は,埋没部6a,リード口6bとほぼ形状が同一でサイズが小さい板状に形成されている。係合部5と埋没部6a,リード口6bには,リード7を外部に通す貫通孔が設けられている。係合部5及びリード口6bはある程度弾力性のある例えばシリコンゴムのような耐熱性の樹脂を用いて一体成形で製造される。
【0025】
図8に示すように,リード線2aは可撓性を有する円柱状の第1のチューブ22で被覆され,第1のチューブは可撓性を有する円柱状の第2のチューブ23で被覆されている。リード7のリード充填部4の範囲には,第1のチューブと第2のチューブの間に生じる隙間を埋める熱収縮性を有する第3のチューブ24がこれら第1のチューブと第2のチューブの間に挿入されている。第3のチューブは,成形で熱収縮したときの外径が第2のチューブの内径と一致するような厚みに選択されている。このように構成されたリード7が埋没部6a,係合部5,リード口6bを通じて外部に取り出されている。
【0026】
コイルユニット1を製造する方法を説明する。ボビン3の胴部3eに巻線2を巻回し,巻線2の巻き終わり端部を側面からほぼ直角に曲げてリード線2aを外部に取り出す。このとき図示しないテープで止めることによりボビン3と巻線2を仮固定しても良い。リード線2aに第1のチューブ22を挿通し,リード線2aがリード充填部4に配置される範囲に第3のチューブ24を挿入し,第1のチューブ及び第3のチューブを覆う第2のチューブ23を挿通する。その後リード7を埋没部6a,係合部5,リード口6bに通して外部に取り出し,ボビン3,巻線2,埋没部6aまでの範囲に位置する部分が金型に入れられる。図示しないが,金型には第2突起3bと同径,同長の穴が形成されており,第2突起3bを金型の穴に挿入して位置決めする。また,金型には端子8側に位置するリード口6bと係合部5が外部に露出する構成,又は係合部5とリード口6bを覆って樹脂が回らないようにする構成が施されている。
【0027】
図示しない金型の注入口から耐熱性の樹脂,例えばアルミナをフィラーとするシリコンゴムなどを注入して成形する。樹脂としてはこれに限定されず,エポキシなどの耐熱性樹脂であれば適宜用いることができる。また,フィラーは硬度を調整するために用いられており,これも適宜変更が可能である。このようにすることにより,第1突起3aの高さ分の樹脂がボビン3内部と周囲にモールドされ,精密に樹脂量が調整されて平らなコイルユニット1を製造することができる。また埋没部6aがリード充填部4に埋め込まれてコイルユニット1と一体になるため,リード充填部4とリード口6bとで係合部5を挟み込む構造を得ることができる。本例では埋没部6a,リード口6bと係合部5を別部材として一体成形し,リード充填部4に埋め込んでモールドする例を示したが,金型によりリード充填部4に係合部5とリード口6bを一体成形することも可能である。
【0028】
コイルユニット1底部の厚みは,第1突起3aの高さに相当する高さだけ平らに充填されるため,厚みが一定な平らな底面を得ることができる。また上下の鍔3f,3dに貫通孔である流動孔3cを形成しているため,樹脂が流動孔3cを流動して巻線2とボビン3の隙間に隅々まで充填されて,品質の良いコイルユニット1が成形される。この流動孔3cは,モジュール化されたコイルユニット1が高温になり樹脂が膨張した場合に,樹脂の膨張を逃がす効果も有している。第1のチューブ22と第2のチューブ23の間に挿入される第3のチューブ24は熱収縮性を有するため,成形の際に第3のチューブ24が収縮して第1のチューブ22と密着し,かつ第3のチューブ24の厚みにより第2のチューブ23との隙間が埋められ,リード充填部4の範囲でリード7の内部に隙間ができることがない。このようにして第1のチューブ22と第2のチューブ23の間に樹脂が入り込むことが防止されている。第1のチューブ22と第2のチューブ23の間に樹脂が入ってしまうと,樹脂が固まって第1,第2のチューブ22,23が可撓性を有しているにも拘わらずリード7を曲げることができなくなってしまう。本発明ではこのように構成しているため,リード7に樹脂が入り込むことが防止でき,第1,第2のチューブ22,23の可撓性を十分に生かしてリード7を曲げることができる。なお,成形は真空成形や射出成形など何れの方法で行っても良い。充填する樹脂としては,強度を保つためには適度な弾力を有するものが好ましい。その為樹脂及びフィラーの原料や配合を適宜変更させると良い。このようにして図4に斜線で示すように樹脂が充填されてドーナツ状で,第2突起3b,係合部5,リード口6bおよびリード7が露出したモジュール化されたコイルユニット1を製造することができる。
【0029】
図3にコイルユニット1が取り付けられる耐熱性樹脂からなるフェライトベース9を示す。図3(a)は側面要部,図3(b)は上面図をそれぞれ示す。図のようにドーナツ状のベース10の外周及び内周には,ベース面よりも突出する壁部12が形成される。ベース10上面には第2突起3bが挿入される円形の凹部11と,ほぼ四角形状のフェライトコア載置部16が形成されている。本例では凹部11の径は第2突起3bとほぼ同じ大きさとされている。ボビン3に一体的に形成される第2突起3bとフェライトベース9を,膨張係数の異なる素材で形成する場合,凹部11の径を第2突起3bの径よりも若干大きく形成すれば,高温状態で第2突起3bが膨張しても,第2突起3bが凹部11の側面を強く押圧しないようにすることができ,高温時に凹部11や第2突起3bが押し合って破損することが防止できる。凹部11の深さは,第2突起3bの長さよりも浅く形成されており,コイルユニット1をフェライトベース9に載置したときに,ベース10とコイルユニット1との間に均一な高さの空隙hが形成されるようになされている。フェライトコア載置部16は,図示しないフェライトコアの高さとほぼ同じ深さにされ,フェライトコアを載置した際にはフェライトコアとベース10がほぼ平らになるようにされている。また図3(b)に示すように,フェライトコア載置部16の角部には円柱状の吸収部16aが延設されている。高温状態でフェライトベース9が膨張した際には,この吸収部16aで膨張分を吸収することができるため,フェライトコアの角にフェライトベース9を形成する樹脂が圧接してフェライトベース9を破壊することを防止することができる。ベース10の外方には取付穴17aを備えた取付部17を形成しており,本発明の誘導加熱コイルを使用する際に装置に取り付けることができる様にされている。更に,ベース10の一部に,上面から見て略コの字状のガイド部14が形成されている。なおフェライトベース9の形状は,コイルユニット1に合わせたものであり,どのような形状でも取りうる。
【0030】
図3及び図9を用いてガイド部14につき説明する。図9は図3で矢印C方向から見たガイド部14を示す図である。ベース10には上面から見て略コの字状のガイド部14が立設されており,ガイド部14の外壁には底部がU字状の切込みからなる溝部15が形成されている。ガイド部14には,後述するようにリード充填部4が配置されるため,形状はリード充填部にほぼ一致するように形成されており,この形状に限定されるものではない。ガイド部14の底面には水抜き穴21が貫通しており,水抜き穴21の一部からガイド部14の外側に達する排水溝21aが延設されている。誘導加熱コイルは,例えば食品や薬品などの包装袋のシーリング用ヒーターとして用いられることがある。このように衛生状態を維持する必要がある場所で用いられる場合,製造部品を洗浄することが必要になる。水抜き穴21と排水溝21aを形成しておけば,誘導加熱コイルに洗浄液などが入り込んでしまっても,液体を排水することができる。さらに水抜き穴21と排水溝21aは,高温時にフェライトベース9が膨張した際に,膨張した樹脂を逃がす作用をも兼ね備えている。ガイド部14は,フェライトベース9に一体成形で製造することができる。なおガイド部14に底面を形成してここに水抜き穴21と排水溝21aを形成したが,ガイド部14に底面を設けないようにしても良い。
【0031】
図4は本発明による誘導加熱コイルの断面を示す。上述したようにコイルユニット1を製造した後,これをフェライトベース9に接着して一体化する工程について以下説明する。フェライトベース9のベース10に形成した壁部12の内側に耐熱性の例えばシリコン系の接着剤を塗布する。次にコイルユニット1のリード充填部4がフェライトベース9のガイド部14の内側に,リード口6bがガイド部14の外側に来るようにして係合部5を溝部15に対向させる。次に係合部5を溝部15に沿わせて案内してコイルユニット1をフェライトベース9方向に下降させる。そしてコイルユニット1の第2突起3bをフェライトベース9の凹部11に挿入することで最終的に位置決めをする。なお,第2突起3bと凹部11のみでも位置決めして両者が相対的に移動するのを防止することができるが,第2突起3bを凹部11に挿入して更に溝部15に係合部5を係合させることで,リード7とフェライトベース9の相対位置が定まり,より強固に仮固定することが可能になる。溝部15と係合部5は,底部の形状がU字状であり角を形成していない。したがって,高温状態で樹脂が膨張したとしても,応力に弱い角同士が圧接するようなことがない。さらに係合部15を柔軟性のある樹脂で成形していれば,樹脂の膨張をより吸収することが可能になる。
【0032】
図4のように,第2突起3bを凹部11に挿入すると,凹部11の深さは第2突起3bの突出量よりもhだけ浅いため,コイルユニット1とフェライトベース9との間にhの間隔だけ空隙が形成でき,第2突起は位置決めのみならずスペーサとして作用する。高さh分の接着剤を塗布または充填などして配し,コイルユニット1とフェライトベース9を加圧するなどして接着剤を固化すれば誘導加熱コイルを製造することができる。空隙に入りきれない量の接着剤を塗布してしまっていても,加圧した際に余分な接着剤が壁部12の隙間から流れ出すので,これを除いてやればよい。このように接着剤の量が均一に保持でき,同一条件下で同一特性の誘導加熱コイルを得ることができる。また,誘導加熱コイルを加圧した際に,第2突起3bがスペーサの役目を果たすため,コイルユニット1とフェライトベース9の間隔を一定に保つことができ,巻線2とフェライトコアとの位置が均一に保たれ,コイルとしてのインダクタンスを一定に保つことができる。そのためフェライトコアにコイルの磁束が均一に流入し,非対称による漏れ磁束によりフェライトベースが取り付けられる構造体を加熱してしまうことが防止できる。このように,第1突起3aによりコイルユニット1成形時の樹脂量を均一に保つことができ,第2突起3bによりフェライトベース9とコイルユニット1との間の間隔hを均一に保持しかつコイルユニット1のフェライトベース9に対する位置を合わせてこれを維持することができる。さらに上述のように種々の樹脂膨張に対する対策が考慮されている。したがって,特別な熟練を要さずとも同形状,同品質で,高温状態でも安定して使用可能な誘導加熱コイルを製造することができる。
【0033】
以上コイルユニット1を形成した後にフェライトベース9にコイルユニット1を接着する例を説明したが,誘導加熱コイル全体をモジュール化しても良い。巻線2をボビン3に巻回してこれをコイルユニット1とし,上述と同様にリード線2aを第1乃至第3のチューブ22,23,24で被覆し,リード口6bから外部に取り出す。そして係合部5をフェライトベース9の溝部15に沿って下降させ,ボビン3の第2突起3bをフェライトベース9の凹部10に位置決めする。このとき,凹部10の深さが第2突起3bの長さよりも高さhだけ浅いため,コイルユニット1を構成するボビン3とフェライトベース9との間に空隙を形成することができる。このときには第1突起3aを省略することも可能である。あるいは凹部10の深さを第2突起3bの長さと同じか深くし,第1突起の径を凹部10の径よりも大きくして第1突起の高さをhとすれば,第2突起により位置決めができ,更に第1突起3aとベース10により高さhの空隙を形成することができる。このようにしてボビン3とフェライトベース9を位置決めし,全体を金型に入れて樹脂を充填することにより図4の高さhの空隙にも樹脂が充填され,全体としてモジュール化された誘導加熱コイルを得ることができる。なお,フェライトベース9を入れた金型にボビン3を位置決めして樹脂を充填してもよい。金型は,フェライトベース9のベース10上面のみが露出して,コイルユニット1と空隙のみに樹脂が充填されるように構成してもよく,コイルユニット1と空隙を含むフェライトベース9の一部又は全部が樹脂でモジュール化されるように構成してもよく,用途などにより適宜変更可能である。このようにして誘導加熱コイルを形成しても,上述と同様の効果を得ることができる。この場合には液体が誘導加熱コイルの中に入ることがないため,水抜き穴21や排水溝21aを省略することが可能になるが,樹脂の膨張を逃がすためにガイド部14に穴や溝を形成するようにしてもよい。さらに,先に説明したようにコイルユニット1をモジュール化した後にフェライトベース9に位置決めして,これら全体を樹脂で一体的にモジュール化することも可能である。
【0034】
図5に示すように,第1突起18と第2突起19を同軸とせずに,高さの異なる突起で構成しても良い。図5では第1突起18と第2突起19の径が異なる例を示したが,同じ径とすることもできる。この場合には金型に第2突起19が挿入される穴を設け,穴の深さを第1突起と第2突起の差分の深さとすれば,第1突起18の高さ分の樹脂が底面に充填されて第2突起19が突出したコイルユニット1を得ることができる。
【0035】
また,図6に示すように,複数の同形状の突起20で構成しても良い。この場合には,金型に突起20が途中まで挿入される穴を形成してコイルユニット1を成形することができる。本例では同形状の突起20で突起を形成する例を示したが,第1突起と第2突起の径を変化させても良い。
【0036】
図7に示すように,支持体としてボビン3の胴部3cと上鍔3fを省いた,下鍔3dと同じ構成のドーナツ状の平板からなる支持板3に第1,第2突起3a,3bを形成したものを用いることもできる。この場合には,巻回した巻線2を支持板3に載せて巻線2を支持板3にテープなどで仮固定し,樹脂を充填してコイルユニット1を成形することができる。このようにすると,支持体をボビン3とした場合よりもモジュール化するための樹脂の膨張が逃げ易くなり,誘導加熱コイルとしての耐熱性が向上する。
【0037】
本例として,第1第2突起が円柱状のものを示したが,形状は四角柱や球状体など,適宜変更することが可能である。まだ突起を同軸で径の異なる2段の構成としたが,軸が異なっていても同様の効果を得ることができる。またコイルユニット1をモジュール化するための樹脂や接着剤は,適宜最適なものを使用すればよい。
【0038】
以上,ここで説明した内容は,飽くまでもこの発明を実施するための一例であり,この発明を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は,コイルユニットのモジュール化の際に,充填する樹脂厚さを精度良く維持することができ,平らな面を有するコイルユニットを得ることができ,このコイルユニットとフェライトコアを備えたフェライトベースとの相対位置を容易にかつ強固に位置決めすることができる。またフェライトベースに対するコイルユニットの高さを正しく維持でき,これらの接着を良好に行うことができる。したがって,一定のインダクタンスを有する品質の良い誘導加熱コイルを容易に製造することができる。さらに,コイルユニットおよびフェライトベースに,高温状態になった際に樹脂の膨張を吸収したり逃がしたりする種々の形状を備えているため,高温での使用に好適な誘導加熱コイルを得ることができ,産業上の貢献度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明のコイルユニットの要部断面図である。
【図2】この発明に用いられる支持体であるボビンを示す図である。
【図3】この発明に用いられるフェライトベースを示す図である。
【図4】この発明が適用された誘導加熱コイルの要部断面図である。
【図5】図2とは異なる例を示す図である。
【図6】図5とはさらに異なる例を示す図である。
【図7】図6とはさらに異なる例を示す図である。
【図8】図1の部分拡大断面図である。
【図9】図3の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0041】
1 コイルユニット
2 巻線
3 ボビン
3a 第1突起
3b 第2突起
3c 流動孔
4 リード充填部
5 係合部
6a 埋没部
6b リード口
9 フェライトベース
10 ベース
11 凹部
12 壁部
14 ガイド部
15 溝部
16 フェライトコア載置部
16a 吸収部
22 第1のチューブ
23 第2のチューブ
24 第3のチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトコアを載置する載置部を設けたフェライトベースと,巻線と,前記コイル巻線端部から延長して外部電極に接続されるリードとからなる誘導加熱コイルにおいて,前記フェライトベースに設けられた位置決め手段と,前記位置決め手段に位置決め可能な被位置決め手段を一体的に形成した支持体とを有し,前記位置決め手段に前記被位置決め手段を位置決めすることにより,前記位置決め手段と前記被位置決め手段により前記フェライトベースと前記支持体との間に空隙を形成したことを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
前記リードを有する前記巻線と前記支持体とを一体的に成形固着して前記被位置決め手段を有するコイルユニットを有し,前記位置決め手段に前記被位置決め手段を位置決めすることにより前記フェライトベースと前記コイルユニットとの間に前記空隙を形成し,前記空隙に接着剤が配されて接着層となることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記リードを有する前記巻線を前記支持体に巻回したコイルユニットを有し,前記位置決め手段で前記被位置決め手段を位置決めして前記フェライトベースと前記コイルユニットとの間に前記空隙を形成し,少なくとも前記コイルユニットと前記空隙に樹脂を充填して前記フェライトベースと前記コイルユニットとを一体的に固着することを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記支持体は,筒状の胴部と,該胴部の上側に形成された上鍔と,前記胴部の下側に前記被位置決め手段を形成した下鍔からなるボビンであることを特徴とする請求項1乃至3記載の誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記支持体は,上面が平板で下面に前記被位置決め手段を設けた支持板であることを特徴とする請求項1乃至3記載の誘導加熱コイル。
【請求項6】
前記位置決め手段はフェライトベースに形成された凹部であり,前記被位置決め手段は前記支持体に設けられた突起であることを特徴とする請求項1乃至5に記載の誘導加熱コイル。
【請求項7】
前記突起は,第1突起と,前記第1突起よりも長い第2突起で構成され,前記1突起の突出位置を樹脂充填位置として前記支持体と前記コイル巻線を耐熱性樹脂にて一体的に成形固着して前記コイルユニットを形成し,前記フェライトベースの前記凹部に前記第2突起を挿入して前記コイルユニットと前記フェライトベースの間に前記空隙を形成することを特徴とする請求項6に記載の誘導加熱コイル。
【請求項8】
前記第1突起と前記第2突起は,一体成形された径の異なる2段の円柱からなることを特徴とする請求項7記載の誘導加熱コイル。
【請求項9】
前記フェライトベースの周囲に突出する壁部を形成し,前記空隙は,前記フェライトベースの位置決め手段に前記コイルユニットの被位置決め手段を位置決めして形成される隙間と前記壁部で形成されることを特徴とする請求項1乃至8に記載の誘導加熱コイル。
【請求項10】
前記支持体に,前記樹脂を流動させるための流動孔を設けたことを特徴とする請求項1乃至10に記載の誘導加熱コイル。
【請求項11】
前記フェライトコアを載置する載置部に,高温状態での前記フェライトコアに対するフェライトベースの膨張を吸収する吸収部を延設したことを特徴とする請求項1乃至10に記載の誘導加熱コイル。
【請求項12】
前記フェライトベースに溝部を設けたガイド部を一体的に成形し,前記巻線の前記リード取り出し部分を覆うリード充填部と,前記リード充填部に前記リードを取り出すリード口を延設し,前記コイルユニット成形時に前記リード充填部と前記リード口との間に係合部が形成されるよう一体的に成形し,前記フェライトベースの位置決め手段と前記コイルユニットの被位置決め手段を位置決めした際に,前記フェライトベースの溝部に前記コイルユニットの係合部を係合させて前記フェライトベースと前記コイルユニットを位置決めすることを特徴とする請求項1乃至11に記載の誘導加熱コイル。
【請求項13】
前記リードは,リード線と,前記リード線を被覆する可撓性を有する中空状の第1のチューブと,前記第1のチューブを被覆する可撓性を有する中空状の第2のチューブとを有し,前記リード線を二重に絶縁することを特徴とする請求項1乃至12に記載の誘導加熱コイル。
【請求項14】
前記リード充填部近傍で前記第1のチューブと前記第2のチューブとの間に生じる隙間に,前記コイルユニット成形時の前記樹脂の流入を防止するための熱収縮性を有する第3のチューブを挿入することを特徴とする請求項13記載の誘導加熱コイル。
【請求項15】
大径の第1突起と前記第1突起よりも長い小径の第2突起を耐熱性樹脂で一体成形して支持体を形成する工程と,
前記支持体に巻線を巻回してコイル巻線を形成する工程と,
前記第1突起の高さを基準として耐熱性樹脂を充填して前記支持体と前記コイル巻線を一体的に成形固着して前記第2突起が突出したコイルユニットを形成する工程と,
フェライトコアを載置する載置部と,前記第2突起が挿入される凹部と,フェライトコア載置面より突出した壁部を外周及び内周に耐熱性樹脂で一体成形してフェライトベースを形成する工程と,
前記フェライトベースのフェライトコア載置面に接着剤を配し,前記フェライトコアの前記凹部に前記コイルユニットの前記第2突起を挿入して位置決めして,前記フェライトベースと前記コイルユニットとを接着する工程とからなる誘導加熱コイルの製造方法。
【請求項16】
大径の第1突起と前記第1突起よりも長い小径の第2突起を耐熱性樹脂で一体成形して支持体を形成する工程と,
前記支持体に巻線を巻回してコイル巻線を形成する工程と,
フェライトコアを載置する載置部と,前記第2突起が挿入される凹部と,フェライトコア載置面より突出した壁部を外周及び内周に耐熱性樹脂で一体成形してフェライトベースを形成する工程と,
前記フェライトベースの前記凹部に前記支持体の前記第2突起を挿入して位置決めする工程と,
耐熱性樹脂を充填して前記コイル巻線を巻回した前記支持体と前記フェライトベースとを一体的に成形固着する工程とからなる誘導加熱コイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−91197(P2008−91197A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270427(P2006−270427)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】