説明

誘導加熱方法

【課題】誘導加熱方法に関するものであって、近接して配置した複数の加熱コイル間に相互誘導干渉を与えずに好適な誘導加熱となるように構成した誘導加熱方法を提供する。
【解決手段】隣接して配置した複数の加熱コイルに、周波数が同じであり、複数の加熱コイルごとにそれぞれ対応させた誘導加熱ユニットを、ODDグループとEVENグループに分け、グループ間に相互排他的に繰り返してオン/オフ動作させ、互いに隣接している加熱コイル同士の磁界干渉を極力抑制させる誘導加熱方法に関するものであって、複数の加熱コイルを連接して誘導加熱を行うとき、それぞれの誘導加熱ユニットごとに出力を自由に可変することができ、被加熱体の温度分布を均一に保持したり、又は任意で差が生じるようにすることが可能であるので、様々な特性を要する加工工程に好適であると共に不必要な誘導加熱ユニットは電源を遮断してもよいので、省エネルギーが図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱方法に関するものであって、詳述すれば、近接して配置した複数の加熱コイル間に相互誘導干渉を与えずに好適な誘導加熱となるように構成した誘導加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱とは、加熱コイルに電流を流す時に発生する磁場により、被加熱体から渦電流が発生し、熱に変わるという原理を用いて加熱する方法であって、抵抗体加熱法としてはあり得ない高温を得られるという長所があるので、様々な方面で幅広く用いられている。
【0003】
一方、複数箇所の温度を任意に調整したい場合、誘導加熱コイルを複数配置し、それぞれ個別に出力を制御する必要があるが、この際、複数の誘導加熱コイルを隣接させて同時に作動させると、各誘導加熱コイル間に相互磁界干渉による誘導電圧が発生し、結局、誘導加熱コイルに投入される電力の制御が不能となったり、隣接しているインバータが損傷してしまう場合があった。
【0004】
これに対する対策の一例で、下記に記載の発明(特許文献1)がある。特許文献1の発明は、複数の加熱ユニットのうちのひとつを主加熱ユニットとし、その残りを主加熱ユニットに従属するように制御するものである。
【0005】
詳しくは、近接した複数の加熱コイルそれぞれに順変換部又はチョッパ部を備えた共振型インバータを対応させ、被加熱物を誘導加熱する誘導加熱方法において、相互隣接している加熱コイルそれぞれに供給する電流の周波数を一致させ、各加熱コイル間の電流位相差を検出し、それぞれの加熱ユニットに属しているインバータを制御し、位相差が零となるように加熱コイルに供給される電流の位相を調整しながら、順変換部又はチョッパ部を介して各加熱コイルへの投入電力を調整し、被加熱体の温度分布を制御する。
【0006】
特許文献1のような構成の回路によれば、相互誘導電圧の影響を回避し、各誘導加熱コイルへの投入電力を個別に制御し、被加熱物の温度を任意に制御することがある程度は可能である。しかし、従属側加熱ユニットの場合、インバータと加熱コイルとの間に可変リアクトルを設け、従属側加熱コイル電流と主側加熱コイル電流との位相差が零となるように可変リアクトルを調整することが基本原理となっているが、これは負荷(被加熱体)の材質又は形状によって随時にリアクタンスを可変しなければならないという不都合を伴い、リアクトルは交流回路で等価的に負荷に該当するので、自体発熱をし、不必要なエネルギーが消耗されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3835766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、こうした問題点等を解消するために案出されたものであって、不必要な可変要素や発熱要素なしに複数の誘導加熱コイル間に相互磁界干渉を与えずに円滑に作動する誘導加熱方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
こうした目的を達成するための本発明による誘導加熱方法は、
複数の加熱コイルを相互隣接して配置し、それぞれの加熱コイルごとに共振型インバータを対応させた誘導加熱ユニットと、交流電流を整流する順変換部と、パルスを発生するODD/EVENパルス発生器及び、同期信号発生器を有する誘導加熱装置により被加熱物を誘導加熱する誘導加熱方法において、前記複数の加熱コイルそれぞれに、周波数が同じで位相が同じである電流を流す段階及び、前記段階の間、誘導加熱ユニットをODDグループとEVENグループに分け、グループ間に相互排他的に繰り返してオン/オフ動作させ、互いに隣接している加熱コイル同士の磁界干渉を極力抑制させる段階を含めてなされたことを特徴とする。
【0010】
望ましくは、前記磁界干渉を極力抑制させる段階は、同一グループ内の誘導加熱ユニットの加熱コイル同士は、開始点の極性が互いに反対となるように接続し、相互干渉磁界エネルギーが被加熱体にて熱エネルギーに消尽されるように構成したことを特徴とする。
【0011】
そして、前記磁界干渉を極力抑制させる段階は、前記排他的時分割動作による投入電力の半分化を補うために、誘導加熱ユニットの出力容量を要求定格の2倍となるようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、前記電流を流す段階は、前記加熱コイルに、周波数が同じで位相も同じである電流を流すために専用同期信号発生器からタイムベース(time base)を出力するようにして、誘導加熱ユニット全てがそのタイムベースに歩調を合わせて動作するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による誘導加熱装置は、複数の加熱コイルを連接せしめ、誘導加熱を行う時、それぞれの誘導加熱ユニットごとに自由に出力を可変することができ、被加熱体の温度分布を均一に保持したり、又は任意で差が生じるようにすることが可能であるので、様々な特性を要する加工工程に好適であると共に不必要な誘導加熱ユニットは電源を遮断してもよいので、省エネルギーが図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による誘導加熱装置を示した図面である。
【図2】本発明の電源位相EvによるODDパルスとEVENパルスを示した図面である。
【図3】本発明の誘導加熱による容器加熱装置を示した図面である。
【図4】誘導加熱出力が低い時のQパルスとゲートパルスQa、Qbの位相関係を示した図面である。
【図5】誘導加熱出力が高い時のQパルスとゲートパルスQa、Qbの位相関係を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明を説明する。
図1の誘導加熱装置は、本発明による誘導加熱装置を例に挙げて示したものである。
図示したように、本発明による誘導加熱装置100は、誘導加熱ユニット10d、10e、20d、20eと、電力を供給する電源部30、変圧器31、ODD/EVENパルス発生器32及び同期信号発生器33と、交流電流を整流する順変換部40とからなる。
【0016】
順変換部40は、再びODD/EVENパルス信号によりオン/オフとなるサイリスター41、42、43、45、46、47、サイリスター駆動部44、48及び整流ダイオード49、50、51からなり、これらサイリスターと整流ダイオードとの組合わせによるブリッジ整流回路を通じて交流電源が直流に変わる。但し、サイリスター41、42、43がオンになると、電源部ODDグループ用電源ライン35に直流電源が供給され、且つ、サイリスター45、46、47がオンになると、電源部EVENグループ用電源ライン36に直流電源が供給される。
【0017】
誘導加熱ユニットは、便宜上、四つを例にしているが、これらは加熱コイルの接続方向のみが一部異なっているだけで、ハードウエアとしては全て同じであるので、特別な言及がない限り、以下、10dを代表図として引用する。
【0018】
誘導加熱ユニット10dは、駆動制御部12d、インバータ部(逆変換部)11d、加熱コイル17d、コンデンサー15d、16d、平滑リアクター13d及び出力設定器14dからなる。
【0019】
インバータ部11dは、インバータトランジスタ111d、112dからなる。
【0020】
特に、コンデンサー15d、16dと加熱コイル17dは、並列共振回路を構成しているので、誘導加熱ユニット10dをわけて共振型インバータとも呼ぶ。
【0021】
こうした本発明による誘導加熱装置の動作は、次の通りである。
本発明による誘導加熱装置は、隣接して配置された複数の誘導加熱コイルに電流を供給するときに発生する相互磁界干渉の影響を受けないようにする誘導加熱方法として、本発明の実施形態は、多数の誘導加熱ユニットを、ODD側とEVEN側の2グループに分けて、ODD、EVEN、ODD、EVEN……の順に配列した後、ODDグループ誘導加熱ユニットとEVENグループ誘導加熱ユニットを、同一周期を基に互いに排他的時分割動作をさせることによって、全ての誘導加熱ユニットが、そのうちの何れか一つでも、隣接の誘導加熱ユニットとは同時に作動しないようにする。
【0022】
さらに詳細には、主電源ラインを基本的にODDグループ用電源ライン35とEVENグループ用電源ライン36の2系統に分離し、ODD/EVENパルス発生器32から発生するタイミングパルスのうち、ODD信号が、‘H’であり、EVEN信号が‘L’である時は、ODDグループ用電源ライン35に電源が供給され、ODDグループ内の誘導加熱ユニット10d、20dを作動させ、EVENグループ内の誘導加熱ユニット10e、20eは休止期を、反対に、ODD信号が、‘L’であり、EVEN信号が‘H’である時は、EVENグループ用電源ライン36に電源が供給され、EVENグループ内の誘導加熱ユニット10e、20eを作動させ、ODDグループ内誘導加熱ユニット10d、20dは休止期を持つようにする。
【0023】
このように2個グループ間の誘導加熱ユニットを相互排他的に動作させる目的は、出力制御のためではなく、前述したように、誘導加熱ユニットが何れか一つでも隣接の誘導加熱ユニットとは同時に作動しないようにし、相互磁界干渉を極力抑制するためである。出力制御は、別の方法により各誘導加熱ユニットごとに独自的に行われ、これに対する詳しい説明は後述する。
【0024】
このようにODD周期とEVEN周期にしたがって誘導加熱ユニットが排他的に作動すると、結局、全ての誘導加熱ユニットの出力が半分に減るという短所があるが、この点は、当初、誘導加熱インバータの出力容量を2倍に設定することによって、簡単に解決できるものである。
【0025】
図2は、電源位相EvによるODDパルスとEVENパルスを示したものである。
図示したように、ODDとEVENの二つパルスの1周期を4サイクル(2CYCLE HIGH、2CYCLE LOW)に例示したが、この値は、ODDグループとEVENグループの誘導加熱ユニットを、いくら頻繁に繰り返してオン/オフするか、という切換スピードのことであって、本実施例で便宜上定めた値であるので、絶対値ではない。この切換スピードが遅すぎると、被加熱体の温度が揺動し得ないなので、可能であれば短いものが良く、大略10サイクル以内にすれば実用上差し支えない。
【0026】
ODD/EVENパルス発生器32は、変圧器31から周波数とゼロクロシング(zero crossing)信号を参照し、出力パルスの状態変化が、いつもゼロクロシング時点で行われるようにする。
【0027】
本発明の誘導加熱方法は、各同一グループ内の誘導加熱ユニットの加熱コイル同士は、開始点の極性が互いに反対となるように接続し、加熱コイルに電流を流す時に発生する磁気場の回転方向が休止期側の加熱コイル方向に共に集まるようにすることによって、相互干渉磁界エネルギーが被加熱体にて元の目的の通り熱エネルギーに消尽されるようにする。
【0028】
以下、本発明の実施形態について図3を通じてさらに詳しく説明する。
図3は、本発明の誘導加熱による容器加熱装置の概略を示した図面である。一番上側の容器加熱装置50に図示された加熱コイルは、ODD17d、EVEN17e、ODD27d、EVEN27eの順に配置されており、加熱コイルの開始点17ds、17es、27ds、27esの位置が、同一グループ内の加熱コイル(17d、27d)、(17e、27e)同士は、互いに反対方向となっている。これは、同一グループ内の加熱コイル同士は、磁界が互いに衝突することなく、被加熱体の方に向かうようにするためである。
【0029】
中間の容器加熱装置50dと最下側の容器加熱装置50eは、それぞれODDグループとEVENグループの加熱コイルに電流が流れるとき、コイル周辺に形成される磁気場の様子を概略的に示したものであるが、これら2つの場合において、磁界は休止期の加熱コイル側を通過しながら、被過熱体51にて熱エネルギーに変わる。加熱コイルに流れる電流の方向が反対になると、磁界の方向も当然のことながら反対となり、その時の作用も前述したものと同様である。
【0030】
前述したように本発明の目的は、隣接して配置された複数の誘導加熱コイル相互間に磁界干渉なしに円滑に作動される誘導加熱装置を提供するものであるが、これを達成するための第1の条件は、各加熱コイルに印加する電流の周波数と位相とが同じではなければならず、第2の条件は、各誘導加熱ユニットごとに個別的に出力可変が自由に行われなければならない。
【0031】
これに対する本発明の実施形態は、同期信号発生器33で一種類の基本パルスCKを造り、全ての駆動制御部12d、12e、22d、22eに供給し、駆動制御部12dは、このCKパルスをタイムベースにしてインバータトランジスタ111d、112dのゲートパルスQa、Qbを造る。
【0032】
図4は、CKパルスを基準とし、そこにQパルスとゲートパルスQa、Qbの位相関係を示したものであるが、そこでQパルスについて詳述する。
【0033】
駆動制御部12d内のパルス幅生成器は、VI値に比例したQパルスを出力するが、出力設定器14dを通じて出力設定電圧VIを可変させると、Qパルス幅も従って変わる。
【0034】
Qパルスは、図4に示したように、そのままQaパルスになり、/Q(‘QBar’と言い、Qの逆を意味する)は、そのままQbパルスとなる。
【0035】
タイミング手順に応じて、Qaパルスが‘H’、Qbパルスが‘L’になると、インバータトランジスタ111dがオンになり、加熱コイル17dとコンデンサ16dに電流が流れ、次いでQaパルスが‘L’、Qbパルスが‘H’となると、インバータトランジスタ111dがオフとなり、インバータトランジスタ112dがオンとなりながら、加熱コイル17dとコンデンサ16dに充電された電気エネルギーがインバータトランジスタ112dとコンデンサ15dを通じて放電されることになる。この過程が繰り返されることにより、誘導加熱作用が行われる。
【0036】
インバータトランジスタ111dのオンタイム幅(Qaパルス幅)を大きくすると、誘導加熱出力も大きくなるが、これは、オンタイム(ON TIME)幅が大きいほど加熱コイル17dとコンデンサ16dに多量のエネルギーが充電されてから、放電されるからである。出力設定器14dは、このオンタイム幅を調整するための道具であって、これを通じて誘導加熱出力が調整される。
【0037】
図4と図5は、基本的に同じ図面であって、図4は、誘導加熱出力が低い時の例示としてQ、Qaパルス幅が狭く、Qbパルス幅が広い反面、図5は、誘導加熱出力側が高い時の例示としてQ、Qaパルス幅が広く、Qbパルス幅が狭い。
【0038】
駆動制御部12d内のゲート信号発生器は、モノシンク(MONO SYNC)形態のQパルスを相補対称パルスQa、Qbに分離生成し、出力する。
【0039】
以上で説明したように、本発明は、各加熱コイルに周波数が同じで位相も同じである電流を流すようにするものの、誘導加熱ユニットをODDグループとEVENグループに分けて相互排他的に繰り返してオン/オフ動作させることによって、互いに隣接している加熱コイル同士の磁界干渉を極力抑制することができるようにし、それぞれの誘導加熱ユニットごとに自由に出力を可変し得るようにしたものである。
【0040】
したがって、被加熱体の温度分布を均一に維持したり、又は任意で差が付くように構成することが可能であるため、様々な特性を要する誘導加熱加工工程に好適であり、不必要な誘導加熱ユニットは電源を遮断しても良いので、省エネルギーを実現できる。
【符号の説明】
【0041】
100 誘導加熱装置
10d、10e、20d、20e 誘導加熱ユニット
11d、11e、21d、21e インバータ部
12d、12e、22d、22e 駆動制御部
13d、13e、23d、23e リアクター
14d、14e、24d、24e 出力設定器
15d、16e、15e、16e、25d、26d、25e、26e コンデンサ
17d、17e、27d、27e 加熱コイル
32 ODD/EVENパルス発生器
33 同期信発生器
40 順変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加熱コイルを相互間に隣接して配置し、それぞれの加熱コイルごとに共振型インバータを対応させた誘導加熱ユニットと、交流電流を整流する順変換部と、パルスを発生するODD/EVENパルス発生器及び、同期信号発生器を有する誘導加熱装置により被加熱物を誘導加熱する誘導加熱方法において、
前記複数の加熱コイルそれぞれに周波数が同じであり、位相が同じである電流を流す段階、及び
前記段階の間、誘導加熱ユニットを、ODDグループとEVENグループに分け、グループ間に相互排他的に繰り返してオン/オフ動作をさせることにより、互いに隣接している加熱コイル同士の磁界干渉を極力抑制する段階を含めてなされた誘導加熱方法。
【請求項2】
前記磁界干渉を極力抑制する段階は、
同一グループ内の誘導加熱ユニットの加熱コイル同士は、開始点の極性が互いに反対となるように接続し、相互干渉磁界エネルギーが被加熱体にて熱エネルギーに消尽されるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱方法。
【請求項3】
前記磁界干渉を極力抑制する段階は、
前記排他的時分割動作による投入電力の半分化を補うために、誘導加熱ユニットの出力容量を要求定格の2倍になるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱方法。
【請求項4】
前記電流を流す段階は、
前記加熱コイルに、周波数が同じであり、位相が同じである電流を流すために専用同期信号発生器からタイムベースを出力するようにして、全誘導加熱ユニットがそのタイムベースに歩調を合わせて動作するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−257922(P2010−257922A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124857(P2009−124857)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(509145510)
【Fターム(参考)】