説明

誘導加熱電源装置

【課題】複数の加熱コイルに複数の電力変換器をそれぞれ接続し、それぞれの加熱コイルが相互に磁気結合した誘導加熱電源装置に関し、複数の電源の出力電流の差が大で、電流が小さい方の電源の負荷電圧が電力変換器の出力可能な最大電圧を越え、制御不能となると安定な加熱ができない。
【解決手段】負荷電圧が変換器の出力できる最大電圧より高くなった時、検出電流値が指令値より小さくなること、或いはパルス幅を最大にしても電流が増加できずに減少してしまうことを検知して、装置を故障停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の加熱コイルに複数の電力変換器をそれぞれ接続し、それぞれの加熱コイルが相互に磁気結合した誘導加熱電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図2に、背景技術を説明するための回路図を、図3と図4にその動作を説明するベクトル図を示す。まず、図2に示す回路図について説明する。
直流電源11を入力とした2台のフルブリッジ形の電力変換器17aと17bを用い、交流出力に各々共振用コンデンサ(12a、12b)、加熱コイル(14a、14b)を接続した構成である。ここで、相互インダクタンス15a、15bは加熱コイル14aと14bが相互に磁気結合されていることを示す。
【0003】
第1の誘導加熱電源19a(No.1電源)は、電力変換器17aの直流入力にダイオード整流器などで構成される直流電源11が、電力変換器17aの交流出力に共振用コンデンサ12aと加熱コイル14aとの直列回路が、各々接続された構成である。電力変換器17aは、コンデンサ17e1、ダイオードを逆並列接続した半導体素子(IGBT)17a1、17a2、17a3、17a4で構成される単相出力電圧形フルブリッジインバータ回路である。
【0004】
ここで、13aは加熱コイル14aの直流抵抗を、15aは磁気結合された加熱コイルの相互インダクタンスを示す。電力変換器17aの出力周波数は数十kHzで、出力する電圧は半サイクルに1パルスである。18aは制御回路で、電力変換器17aの交流出力電流I1を電流検出器16aで検出し、この電流が指令値となるようにパルス幅を制御する。即ち、指令値と比較して、検出値が小の時は電圧パルス幅を広くし、指令値と比較して、検出値が大のときは電圧パルス幅を狭くする制御を行う。
【0005】
第2の誘導加熱電源19b(NO.2電源)についても同様の構成と動作であるので、説明は省略する。
また、制御回路同士(18a、18b)は、電力変換器17aの交流出力電流I1と電力変換器17bの交流出力電流I2との位相を合せるため、信号のやりとりをしている。
【0006】
次に、図3、図4のベクトル図について、説明する。相互インダクタンス成分(M)/(相互インダクタンス成分(M)+自己インダクタンス成分(L))=20%程度の場合の例である。また、簡単のため、2台の回路定数は同じで、各電力変換器17a、17bの交流出力電流I1、I2の位相は合っているものとする。
【0007】
図3は、I1=I2=定格電流の場合である。
電力変換器の出力可能な最大電圧を1.0とすると、No.1電源の遅れ無効分電圧はjωL×I1=8.0とjωM×I2=2.0で大であるが、進み無効分電圧は−j/ωC×I1=9.25であり、No.1電源の遅れ、進みを合わせた無効分電圧は、相殺されて0.75となる。この時、有効分電圧はR×I1=0.5であり、合計した負荷電圧V1=√(0.75^2+0.5^2)=0.9で電力変換器の出力可能な最大電圧以下となる。
【0008】
No.2電源は、I1=I2であるため、同様のベクトル図となる。
図4は、I1=定格電流、I2=定格電流×0.88の場合である。
No.1電源の遅れ無効分電圧はjωL×I1=8.0とjωM×I2=2.0×0.88=1.76となり、進み無効分電圧は−j/ωC×I1=9.25で変わらないため、遅れ、進みを合わせた無効分電圧は、0.51となる。有効分電圧もR×I1=0.5で変わらず、合計した負荷電圧V1=√(0.51^2+0.5^2)=0.71となる。
【0009】
一方、No.2電源の遅れ無効分電圧はjωL×I2=8.0×0.88=7.04とjωM×I1=2.0となり、進み無効分電圧は−j/ωC×I2=9.25×0.88=8.14となるため、遅れ、進みを合わせた無効分電圧は、0.9となる。有効分電圧はR×I1=0.5×0.88=0.44となり、合計した負荷電圧V2=√(0.9^2+0.44^2)=1.0となる。
【0010】
以上からわかるように、No.2電源の負荷電圧V2は図3のI1=I2の場合より、図4のI1>I2の電流を減少させた方が大となる。そのため、No.2電源の電力変換器の動作は、まずI2を減少させるため、電流調節器により、一旦パルス幅を狭くした後、負荷電圧V2によりI2がさらに減少するため、電流調節器により今度はパルス幅が広がる。ここで、図4の電流までは、負荷電圧V2が電力変換器の出力可能な最大電圧以下であるため、制御可能で問題無く動作する。
【0011】
しかし、さらにI2を減少させると負荷電圧V2は、電力変換器の出力可能な最大電圧を越え、I2は制御不能となり、負荷電圧V2−電力変換器の出力可能な最大電圧により減少していく。
【0012】
この結果、必要とする加熱ができないばかりでなく、極端に電流が減少した場合は、電流の位相の誤検出が生じ、複数の電力変換器の電流の位相を合せることができなくなり、電力変換器間で電力のやりとりが生じ、投入した電力と加熱に使われる電力が異なって思い通りの加熱ができなくなる悪影響も生じる。電流の位相差による電力のやりとりついては、特許文献1に記載がある。また、特許文献2では、負荷に発生する電圧、電流を検討しているが、無効分電圧が有効分電圧に比較して小さい場合であり、本提案の動作とは異なる。また、複雑な演算回路も必要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−146283号公報
【特許文献2】特許第4015526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、複数の加熱コイルに複数の電力変換器をそれぞれ接続し、それぞれの加熱コイルが相互に磁気結合した誘導加熱電源装置に関し、複数の電源の出力電流の差が大で、電流が小さい方の電源の負荷電圧が電力変換器の出力可能な最大電圧を越え、制御不能となると安定な加熱ができない。従って、本発明の課題は、これを検出し故障停止させることである。また、その具体化を簡易に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するために、第1の発明においては、共通の直流電源を入力とし、電力変換器の出力に加熱コイルと共振コンデンサとの直列回路を接続した誘導加熱電源を複数台用い、それぞれの加熱コイルが相互に磁気結合した誘導加熱電源装置において、前記電力変換器の出力電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段からの電流検出値と出力電流指令値との偏差を入力する電流調節器と、前記電流調節器の出力によりパルス幅を可変するパルス幅制御手段と、前記複数台の誘導加熱電源の電流を同期させる電流同期手段と、を備え、前記電源装置の運転期間中に前記電流検出値が出力電流指令値より小さい所定値以下を検知した時に故障停止させる。
【0016】
第2の発明においては、共通の直流電源を入力とし、電力変換器の出力に加熱コイルと共振コンデンサとの直列回路を接続した誘導加熱電源を複数台用い、それぞれの加熱コイルが相互に磁気結合した誘導加熱電源装置において、前記電力変換器の出力電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段からの電流検出値と出力電流指令値との偏差を入力する電流調節器と、前記電流調節器の出力によりパルス幅を可変するパルス幅制御手段と、前記複数台の誘導加熱電源の電流を同期させる電流同期手段と、を備え、前記電源装置の運転期間中に前記電流検出値が出力電流指令値より小で、かつ前記電流調節器の出力値が前記パルス幅を最大にする値より低い所定値を超えたことを検知した時に故障停止させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、複数の電源の電流の差が大で、制御不能となった時に、電流の減少を捉え、故障停止させることができるため、運転を再開し、必要とする加熱を行うことができる。また、電流の極端な減少に伴う制御不具合が生じる前に故障停止させることができるため、複数の電力変換器の電流に位相差が生じることで、電力変換器間で電力のやりとりが生じ、思い通りの加熱ができなくなることも無い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施例を示す制御回路図である。
【図2】本発明が対称とする誘導加熱電源装置の回路図である。
【図3】図2の動作を説明するための第1のベクトル図である。
【図4】図2の動作を説明するための第2のベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の要点は、電力変換器の出力に加熱コイルと共振コンデンサとの直列回路を接続した誘導加熱電源を複数台用い、それぞれの加熱コイルが相互に磁気結合した誘導加熱電源装置において、負荷電圧が変換器の出力できる最大電圧より高くなった時、検出電流値が指令値より小さくなること、或いはパルス幅を最大にしても電流が増加できずに減少してしまうことを検知して、装置を故障停止させる点である。
【実施例1】
【0020】
図1に、本発明の第1の実施例を示す。図2に示した2台の誘導加熱電源を制御するための制御回路と、故障を検出し停止させるための保護回路から構成される。2台の誘導加熱電源19a、19bを並列運転するため、各誘導加熱電源は基準発振器9に同期して運転される。各誘導加熱電源19a、19bの制御回路及び保護回路は同じ構成であるので、誘導加熱電源19a(No.1)について説明する。
【0021】
電流検出器16aの電流検出値a(I1)と基準発振器9の位相は位相検出器1aで検出され、各誘導加熱電源装置19a、19bの位相が合うように周波数制御回路2a、2bで周波数が調整される。即ち、電流の位相が進み位相の場合は周波数を下げて位相を遅らせ、電流の位相が遅れ位相の場合は周波数を上げて位相を進ませる動作で、2台の誘導加熱電源装置は基準発振器9に同期して運転される。
【0022】
電流検出値a(I1)と電流指令値Aaは加算器4aで偏差が求められ、電流調節器5aで偏差が零になるように制御される。即ち、電流調節器5aの出力によりパルス幅制御回路3aでパルス幅が調整される。その結果、電力変換器17aの出力電圧が調整され、電流I1が指令値Aaと等しくなる。
【0023】
しかし、各誘導加熱電源に接続された加熱コイルが磁気的に結合されていると、他号機(19b)からの誘導電圧が発生する。従って、負荷電圧はその分大きくなり、電力変換器17aが出力できる最大電圧を超えると、電流を制御することができなくなる。即ち、電流指令値Aaが与えられているにも関わらず、実際の電流は増加せず、減少してしまう現象となる。従って、コンパレータ6aで電流検出値a(I1)が通常の使用領域の値より小さな値Caより減少したことを検知して、故障停止させる。尚、停止中の電流が流れていない時や運転開始直後の電流が小さい時は故障誤検知をさけるため、故障出力はマスクする。
【実施例2】
【0024】
第2の実施例は、第1の実施例に電流調節器5aの出力量の大きさを判定するコンパレータ7aを追加する構成である。制御不能となる場合は、電流調節器5aの出力はパルス幅を最大にするための値となっている。この例では電流調節器5aの出力は正に最大の値となっている。これをコンパレータ7aで検出して、前述のコンパレータ6aの出力との論理積をAND素子8aで求め、故障信号とする方式である。従って、コンパレータ7a入力の設定値Baは、パルス幅を最大にするための値より僅かに小さな値にすれば良い。実施例1に比べて、誤検出を少なくすることができる。
ここで、パルス幅制御回路3aの方式によっては負に最大の値とするようにも構成可能である。即ち、パルス幅を最大にするための制御信号が正に最大の場合でも、負に最大の場合でもパルス幅制御回路は実現可能であることは周知である。
【0025】
尚、上記実施例には電源2台構成の場合の例を示したが、3台以上でも同様に実現可能である。
【符号の説明】
【0026】
1a、1b・・・位相検出器 2a、2b・・・周波数調整回路
3a、3b・・・パルス幅制御回路 4a、4b・・・加算器
5a、5b・・・電流調節器 6a、6b、7a、7b・・・コンパレータ
8a、8b・・・AND回路 9・・・基準発振器
11・・・直流電源 12a、12b・・・コンデンサ
13a、13b・・・内部抵抗 14a、14b・・・加熱コイル
15a、15b・・・相互インダクタンス
16a、16b・・・電流検出器 17a、17b・・・電力変換器
18a、18b・・・制御回路 19a、19b・・・誘導加熱電源
17e1、14e1・・・コンデンサ
17a1〜17a4、17b1〜17b4・・・IGBT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の直流電源を入力とし、電力変換器の出力に加熱コイルと共振コンデンサとの直列回路を接続した誘導加熱電源を複数台用い、それぞれの加熱コイルが相互に磁気結合した誘導加熱電源装置において、
前記電力変換器の出力電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段からの電流検出値と出力電流指令値との偏差を入力する電流調節器と、前記電流調節器の出力によりパルス幅を可変するパルス幅制御手段と、前記複数台の誘導加熱電源の電流を同期させる電流同期手段と、を備え、前記電源装置の運転期間中に前記電流検出値が出力電流指令値より小さい所定値以下を検知した時に故障停止させることを特徴とする誘導加熱電源装置。
【請求項2】
共通の直流電源を入力とし、電力変換器の出力に加熱コイルと共振コンデンサとの直列回路を接続した誘導加熱電源を複数台用い、それぞれの加熱コイルが相互に磁気結合した誘導加熱電源装置において、
前記電力変換器の出力電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段からの電流検出値と出力電流指令値との偏差を入力する電流調節器と、前記電流調節器の出力によりパルス幅を可変するパルス幅制御手段と、前記複数台の誘導加熱電源の電流を同期させる電流同期手段と、を備え、前記電源装置の運転期間中に前記電流検出値が出力電流指令値より小で、かつ前記電流調節器の出力値が前記パルス幅を最大にする値より低い所定値を超えたことを検知した時に故障停止させることを特徴とする誘導加熱電源装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate