説明

誘導管理システム

【課題】事件発生時に、人々を的確に誘導すること。
【解決手段】事件の発生により、人々を誘導する誘導管理システムにおいて、人々を最適に誘導する方法を算出する最適誘導部12を有する演算処理装置1と、人々の誘導に必要なデータを記憶するデータベース21と、誘導場所と誘導場所までの到達距離又は到達予測時間を表示する、複数個所に配置された、可変表示可能な誘導表示装置3とを備え、事件の発生時、データベース21を参照して、最適に人々を誘導する方法を演算処理装置1で求め、各誘導表示装置3毎に人々を誘導する表示を行う、誘導管理システム。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、災害やイベントなどの際、屋内や屋外にいる人々の誘導を行う誘導管理システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、避難誘導表示装置は、表示が一定しており、単に出口の方向を指示しているだけであり、災害の発生場所、災害の状況、人々の人数など、状況に応じて的確に人々を誘導するように表示内容を変えるものにはなっていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】<イ>本発明は、人々を的確に誘導できるシステムを提供することにある。
<ロ>また、本発明は、誘導経路を状況に応じて適切に算出し、表示装置に表示することにより、人々を的確に誘導できるようにすることにある。
【0004】
【問題を解決するための手段】本発明は、事件の発生により、人々を誘導する誘導管理システムにおいて、人々を最適に誘導する方法を算出する最適誘導部を有する演算処理装置と、人々の誘導に必要なデータを記憶するデータベースと、人々を誘導する表示を行い、複数個所に配置され、可変表示可能な誘導表示装置とを備え、事件の発生時、データベースを参照して、最適に人々を誘導する方法を演算処理装置で求め、各誘導表示装置毎に人々を誘導する表示を行うことを特徴とする、誘導管理システム、又は、前記誘導管理システムにおいて、最適誘導部は、最適経路を算出する最適経路算出部と、その算出結果に基づいてシミュレートするシミュレーション部とを備え、シミュレーション部により最適経路算出部で算出した最適経路を修正することを特徴とする、誘導管理システム、又は、前記誘導管理システムにおいて、誘導表示装置は、事件が発生していない状態では、広告を表示し、事件が発生すると誘導表示を行う、可変表示可能な広告表示装置を使用することを特徴とする、誘導管理システム、又は、前記誘導管理システムにおいて、誘導表示装置は、投影面に投影して表示することを特徴とする、誘導管理システム、又は、前記誘導管理システムにおいて、人々の状態を測定する観測装置を備え、観測装置で収集したデータをデータベースに格納することを特徴とする、誘導管理システムにある。
【0005】
【発明の実施の形態】以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0006】<イ>誘導管理システム誘導管理システムは、火災、震災、暴動、イベント、催し物など人々を誘導する必要のある事件の発生の際、的確に安全また必要な場所に人々を誘導するためのシステムである。誘導管理システムは、例えば図1に示されているように、記憶装置2にあるデータベース21に人々を誘導するデータを記憶し、演算処理装置1の最適誘導部12により人々を適切に誘導する方法を求め、その結果に基づいて誘導表示装置3で誘導経路などを表示して、人々を的確に誘導するものである。誘導管理システムは、必要に応じて観測装置4を備えることにより、人々の動きや誘導経路の状況を観測して、より的確に人々を誘導できるようにするものである。
【0007】<ロ>データベースデータベース(DB)21は、人々を誘導するためのデータを記憶するものである。データベース21は、事件が発生する前に事前に集めたデータ、避難訓練などの事前の訓練によって集めたデータ、事件の発生時に集めたデータなどを記憶することができる。データベース21は、例えば、日時ごとのデータ、避難階段、避難扉や避難路の配置、各部の幅員や面積、避難器具の配置、全避難経路などを記憶する。日時ごとのデータとして、表1に示すように個所2(セールの催し場所)でのセールの催しがあり、その個所での人数、高齢者の割合、通過人数、分合流部分分岐率、階段とエスカレータの選択率、設定区間旅行時間、個所別滞留人数、個所別滞留範囲、誘導案内人数、流動処理装置の位置や数、流動処理設備の処理能力などがある。
【0008】
【表1】


【0009】<ハ>演算処理装置演算処理装置1は、データベース21、誘導表示装置3、観測装置4など誘導管理システムの制御を行うシステム制御部11と、データベース21のデータを利用して、人々を最適に誘導する最適誘導部12を備えている。最適誘導部12は、最適経路を算出する最適経路算出部121と、シミュレーション部122とを備え、例えば、避難者1人1人の属性(歩行速度や人数など)と、対象とする空間(避難通路、壁、扉、出口など)の制約条件を設定して、各避難者の挙動を火災や震災などの事件別に求めて、最適解を算出するものである。例えば、最適誘導部12は、事前にやっておくべき事項として、平常時の個所別存在人数設定、平常時と災害時の全経路設定、平常時の経路別の発生集中交通量、通過時間の計算などがあり、災害時の状況に応じて対応する事項として、災害時の誘導場所(避難扉や避難階段など)の誘導人数の計算、災害時の事件別制約条件の設定(利用可能、不可経路の選択、災害時の避難挙動の設定)、人々の存在場所、中継点、避難完了個所の経路組合せの設定、避難経路別避難者数、通過時間の計算などがある。
【0010】<ニ>最適経路算出部最適経路算出部121は、人々を誘導する最適な経路を算出するものであり、例えば、災害などの事件が発生した場所、避難扉、避難階段などの誘導場所に集合する集合人数の計算、事件によって利用可能な経路と不可経路の選択、事件発生地点、中継点、最終的な誘導場所の経路の組合せの設定、誘導経路別の誘導者数と誘導時間の計算などを行うものである。最適経路の計算は、一般に知られている、重力モデルや最尤法を利用して、道路網上の交通量を最適に配分する手法を利用することができる。
【0011】<ホ>最適経路算出方法例最適経路算出方法の例の概要は、図2に示すように、まず、現状再現分析を行い、次にシナリオ分析を行う。現状再現分析は、5分間リンク交通量q(現状感知器データ)(S11)から各ノードでの分岐率r(5分間単位)を推定する(S12)。このデータをデータベースに出力する(S16)。また、時間平均の分岐率rを求め(S13)、分岐率データからOD交通量(OD)を推定する(S14)。次に、利用者均衡モデルによる経路交通量とリンク交通量Rを推定する(S15)。また、時間単位ごとのばらつきを把握する目的で、リンク時間交通量Q、ピーク特性分析p(5分間/1時間交通量)を求める(S17)。シナリオ分析は、事件が起きて一部の通行が利用できないケースを想定したリンク交通量の推計である。先ず、OD交通量ΔQとリンク時間交通量ΔRの増分量を推定する(S21)。次に、時間OD交通量、OD=OD+ΔQを求め(S22)、利用者均衡モデルによる経路交通量、リンク交通量Rを推定し(S23)、リンク時間交通量Q=Q+R−Rを推定する(S24)。ピーク特性を考慮して5分間リンク交通量qを推定し(S25)、分岐率rを推定し(S26)、データをデータベースに出力する(S27)。なお、リンクとは通路を示す。qとは方向別の断面交通量を示す。ノードとは通路が分岐する個所を示す。ODとは発生地点と目的地点を示す。
【0012】現状分析率の推定手法は、カルマン・フィルタ法と流入/流出交通量の均衡を用いる。なお、カルマンフィルタ方法は、観測データと予測データの誤差を最小にするよう分岐率を編集していく方法である。仮定は、図3に示すように、多車線を1リンクとし、信号設定は既知とし、流入部・流出部に感知器が設置され、5分単位の時系列データの利用が可能である。推定手法は、初期値として、流入交通量pij(k)、流出交通量をqim(k)の時系列データから簡易法にて推定する。推定式は、状態量x(k):左右折率、観測量y(k):流入/流出交通量とし、状態方程式は、式1に示され、観測方程式は式2で示される。式3の計算は、図4のステップS31〜ステップS36の計算フローで行われる。データは、入力データとして、5分間感知器交通データqを用い、出力データとして、5分ごと分岐率(CSVデータ)rとなる。なお、式3の式■は右左折率推計方程式であり、式■は観測前後の状態推移制御方程式であり、式■は観測後の推計誤差パラメータであり、式■は観測前の推計誤差パラメータであり、式■はシステム誤差の共分散方程式であり、式■は観測誤差の共分散方程式である。
【0013】
【式1】


【0014】
【式2】


【0015】
【式3】


【0016】<ヘ>シミュレーション部シミュレーション部122は、最適経路算出部121の算出結果に基づいて、挙動制御アルゴリズムなどで人々の挙動をシミュレートするものである。この挙動を表示画面などで見ることにより、より最適な誘導経路を求めることができる。
【0017】挙動制御アルゴリズムは、例えば図5に示すように、メッシュ形式で行うことができ、移動する基本単位を1メッシュ(例:50cm)とし、歩行速度や混雑状況に関係なくメッシュ5の大きさは一定とし、1メッシュを占有する歩行者51の数は、同一方向流で1歩行者とする。進路変更、移動する際に検知する前方の範囲は、直前、左右前、左右の計5メッシュとする。歩行者の移動する空間は、ケースにより多少異なるが、基本的に壁や柱、障害物から1メッシュ離れた領域を進入限界とする。
【0018】また、挙動制御アルゴリズムは、各種のルールを設けることができる。例えば歩行経路に関するルールでは、設定時間に発生した歩行者は、目的地に付随した中継ゾーンに向かい、中継ゾーンに到達した歩行者は、複数の目的地の混雑状況に応じて選択される。また、追い越しに関するルールでは、前方のメッシュの満空(満は歩行者が居る状態、空は空いている状態)を確認し、前方のメッシュの歩行者の歩行速度が遅ければ、進路を変更する。また、待ちに関するルールは、前方の3メッシュが満の状態の場合、待機状態になる。また、空間密度・歩行速度に関するルールは、通常モードと滞留モードを設け、通常モードは、各人が自分の速度で移動し、滞留モードは、密度に応じて一律の速度で移動するようにする。
【0019】挙動制御アルゴリズの1例を図6の流れ図に示す。先ず、歩行者が所定の時刻に所定の場所で発生したとして、その挙動を制御する(S41)。この歩行者に歩行速度の速さの属性を持たせる。次に、進行方向(移動する方向のメッシュ)を確認する(S42)。前方メッシュの満空を判断する(S43)。空の場合、前方メッシュに移動する(S44)。満の場合、前方メッシュに居る歩行者の歩行速度を調べる(S45)。歩行速度が遅い場合、前方左右メッシュの満空を判断する(S46)。空の場合、空のメッシュに進路変更をして(S48)。、ステップS44で移動する。ステップS45で前方メッシュの歩行速度が速い場合、また、ステップS46で前方左右メッシュが満の場合、待機状態になり(S47)、その後、ステップS42に移る。ステップS44で移動後、移動先メッシュで他方向に向かう歩行者の有無を調べる(S51)。他方向に向かう歩行者が無い場合、通常歩行速度で処理をし(S52)、他方向に向かう歩行者が有る場合、すれ違いによる遅延速度で処理をする(S53)。このようにして、歩行者が中継ゾーンへ到達するまで繰り返す(S54)。
【0020】中継ゾーンまで到達すると(S61)、3つの目的地に分岐する経路がある。第1目的地の混雑状況を確認し(S62)、第1目的地が混雑していない場合、移動を行い、最終的に終結する(S69)。第1目的地が混雑している場合、第2目的地の混雑状況を確認する(S63)。第2目的地が空いている場合、目的地を変えて、進路を変更し(S65)、移動を行い、最終的に終結する(S69)。第3目的地の混雑状況を確認し(S64)、空いている場合、目的地を変えて、進路を変更し(S66)、移動を行い、最終的に終結する(S69)。全ての目的地が混雑している場合、待機し、その後、移動し(S67、S68)、最終的に終結する(S69)。このようにメッシュ形式をとることにより、数千人〜数万人の群集の挙動を再現することができ、また、群集の個々人の属性を表すことができる。
【0021】また、挙動制御アルゴリズは、ボイド形式のcraig’boid(bird−oid:鳥のような)理論を用いるとよい。この理論は、一般に、ある程度の行動のランダム性とリーダーに追従する規則性のバランスをとり、個々が重なったり障害物とぶつからないように衝突回避を行うといった制御ルールから構成され、属性(目的地、中継点、経路、移動速度、障害物)を持って知覚し、外的強制力(吸引、回避)の影響を受け、boidは他のboidと一定距離を保ち、boidは他のboidと速度を合せようとし、boidは群れ全体の銃身に引き寄せられる特性を有し、これにより、数千〜数万パーティクルの表現が可能であり、3次元化による可視、不可視による影響測定が可能である。
【0022】<ト>誘導表示装置誘導表示装置3は、人々を避難場所などの誘導場所に誘導する装置であり、最適誘導部で求めた最適な経路を表示し、人々に知らせるものである。人々は、誘導表示装置の表示を見て、その画面に従うことにより、効率よく避難することが可能になる。
【0023】事件が発生した場合、最適誘導部12で演算処理を行い、各誘導表示装置3について、避難に適した内容を表示する。表示内容は、例えば、避難出口などの誘導場所の方向、誘導の中継ゾーンの方向、誘導場所や中継ゾーンまでの距離、それらの到達予測時間、火災や震災など事件の内容や状況、緊急度、事件の発生場所、分岐場所での避難者の分配割合、歩行速度の異なる人々の誘導経路の区分け指示などがある。
【0024】誘導表示装置は、例えば図7に示すように、位置■から位置■の避難出口までの5箇所に設置されている。各誘導表示装置は、避難出口の方向、距離と到達予測時間を表示する。誘導表示装置に表示されている距離と到達予測時間は、位置■から位置■に行くに従って徐々に短くなるので、人々が安心して避難することができる。
【0025】誘導表示装置として、図8に示すように、広告用表示装置を使用すると便利である。広告用表示装置は、人目につき易い場所に設置されるので、避難用の設置場所としても適しており、また、火災や震災の事件は殆ど発生せず避難専用として場所を占拠することは非効率であるので、平常時は広告用表示装置とし、事件発生時に誘導表示装置として使用することは効率がよい。例えば、図8(A)は平常時は建物内や地下街の広告用表示装置であり、事件発生時に図8(B)のように誘導経路を表示する誘導表示装置となる。
【0026】また、誘導表示装置は、建物などの壁面、天井面や床面などの投影面に投影機で投影するものを使用できる。例えば、事件発生時に図9のように建物の壁面を投影面として、投影機で避難場所や避難経路を投影して表示する。
【0027】また、誘導表示装置は、プラズマディスプレイなどの壁掛けテレビのようなもの、電球や発光素子を並べて文字や図形を表示するものなど、表示可能な種々のものを使用できる。
【0028】<チ>観測装置観測装置は、人々の移動人数、密度、移動速度などの状況や避難設備の破壊状況を観察し、データベースに格納する。観測によりリアルタイムでデータベースのデータが更新されるので、最適誘導部は、より最適な誘導経路を算出でき、誘導表示装置に的確な誘導経路を表示できる。最適誘導部は、観測結果や予測から、各場所での避難者数の変化や被災状況の変化を基に繰り返し処理し、絶えず、誘導表示装置に最適な内容を表示することができる。なお、観測装置として、例えば、遠隔画像監視システム(NTTファシリティーズ製)を使用することができる。
【0029】
【発明の効果】本発明は、次のような効果を得ることができる。
<イ>本発明は、人々を的確に誘導することができる。
<ロ>また、本発明は、誘導方法を適切に算出し、適切な誘導経路を表示装置に表示することにより、人々を的確に誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】誘導管理システムのブロック図
【図2】最適経路算出方法の説明図
【図3】交差点のモデルの説明図
【図4】計算フローの説明図
【図5】挙動制御アルゴリズムのメッシュ形式の説明図
【図6】挙動制御アルゴリズムの流れ図
【図7】誘導表示装置の使用例の説明図
【図8】広告用表示装置を誘導表示装置に利用した説明図
【図9】他の広告用表示装置を誘導表示装置に利用した説明図
【符号の説明】
1・・・演算処理装置
11・・システム制御部
12・・最適誘導部
121・最適経路算出部
122・シミュレーション部
2・・・記憶装置
21・・データベース
3・・・誘導表示装置
4・・・観測装置
5・・・メッシュ
51・・歩行者
6・・・出口
7・・・投影面

【特許請求の範囲】
【請求項1】事件の発生により、人々を誘導する誘導管理システムにおいて、人々を最適に誘導する方法を算出する最適誘導部を有する演算処理装置と、人々の誘導に必要なデータを記憶するデータベースと、人々を誘導する表示を行い、複数個所に配置され、可変表示可能な誘導表示装置とを備え、事件の発生時、データベースを参照して、最適に人々を誘導する方法を演算処理装置で求め、各誘導表示装置毎に人々を誘導する表示を行うことを特徴とする、誘導管理システム。
【請求項2】請求項1に記載の誘導管理システムにおいて、最適誘導部は、最適経路を算出する最適経路算出部と、その算出結果に基づいてシミュレートするシミュレーション部とを備え、シミュレーション部により最適経路算出部で算出した最適経路を修正することを特徴とする、誘導管理システム。
【請求項3】請求項1に記載の誘導管理システムにおいて、誘導表示装置は、事件が発生していない状態では、広告を表示し、事件が発生すると誘導表示を行う、可変表示可能な広告表示装置を使用することを特徴とする、誘導管理システム。
【請求項4】請求項1に記載の誘導管理システムにおいて、誘導表示装置は、投影面に投影して表示することを特徴とする、誘導管理システム。
【請求項5】請求項1に記載の誘導管理システムにおいて、人々の状態を測定する観測装置を備え、観測装置で収集したデータをデータベースに格納することを特徴とする、誘導管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2003−51072(P2003−51072A)
【公開日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−236943(P2001−236943)
【出願日】平成13年8月3日(2001.8.3)
【出願人】(501310099)
【Fターム(参考)】