説明

誘発ヘテロデュプレックスジェネレータの改良

遺伝子型決定を行なう多型に直接隣接するヌクレオチド位置から識別子が離れるように誘発ヘテロデュプレックスジェネレータ(IHG)分子を修飾することによってヘテロデュプレックスバンドの分離が向上する。意外にも、そのような修飾IHG分子を使用すると、誘発ヘテロデュプレックスの分離が著しく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公知のIHG分子を改良した誘発ヘテロデュプレックスジェネレータ(induced heteroduplex generator)(IHG)分子に関する。また、本発明は、本発明の改良型IHGと標的ゲノムDNA配列との間で誘発ヘテロデュプレックスを形成するための方法、ならびに、動物(例えば哺乳動物)DNA、植物DNA、ウイルスDNA、または細菌DNA(通常はヒトDNA)の突然変異の遺伝子型決定のための誘発ヘテロデュプレックスの分析に関する。本発明は、例えば遺伝性疾患(嚢胞性繊維症(CFTR遺伝子)、フェニルケトン尿症(PAH遺伝子)、鎌状赤血球貧血、β−サラセミア(HBB遺伝子)等)に関連する遺伝子内の多型や突然変異、癌遺伝子や癌抑制遺伝子内の体細胞突然変異に関して使用することができる。また、本発明は、ゲノムDNA配列の分析方法において使用するための本発明の誘発ヘテロデュプレックスジェネレータを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
生物のゲノム内のDNA配列の変異(以下、便宜上「多型」というが、多型は限定されない)を検出することは、病気や疾患の診断および治療に対する反応の予測において重要な手段となっている。早期変異検出法を使用し、病気や疾患を診断および治療し、病気や疾患が物理的に発現する前にその発生を防ぐことが益々可能となりつつある。また、変異検出は、これまで原因が不明であったり、あるいは、原因が遺伝子以外であると思われていたりした疾患の原因である遺伝子塩基の発見に繋がる可能性を有しているという点で、貴重な研究手段となり得る。
【0003】
配列の変異には多くの異なる種類がある。例えば、遺伝子内の特定の遺伝子座において、1以上のヌクレオチドが同数の他のヌクレオチドによって置換されることにより、変異が生じることがある。別の例としては、遺伝子内の特定の遺伝子座からの1以上のヌクレオチドの欠失が挙げられる。さらに別の例として、遺伝子内の特定の遺伝子座への1以上の余分なヌクレオチドの挿入が挙げられる。また、置換、欠失、挿入の組み合わせもあり得る。一般的な配列の変異は、一塩基多型(SNP)である。SNPは、遺伝子内の特定の遺伝子座において、1つのヌクレオチドが別のヌクレオチドによって置換されるものである。各SNPは1つのヌクレオチドのみを含むが、1つの遺伝子は多数のSNPを含む場合がある。
【0004】
ある種の特定の遺伝子またはその種の個体の特定の遺伝子が配列の変異を含むか否かを決定することを遺伝子型決定と呼ぶ。したがって、全塩基配列の決定は遺伝子型決定を行なうための方法のひとつであるが、時間と費用がかかり、非常に効率が悪い。
【0005】
公知の別の遺伝子型決定法は、いわゆる誘発ヘテロデュプレックスジェネレータ(以前はユニバーサルヘテロデュプレックスジェネレータ(universal heteroduplex generator)と呼ばれ、以下、「IHG」という)を使用する。IHGは、ゲノムDNA配列を模倣した合成DNA配列であるが、ゲノムDNA内の既知の多型部位に(直接隣接するように)対向するヌクレオチド位置に設けられた人為的なヌクレオチドの置換、欠失、挿入またはそれらの組み合わせ(「識別子」という)を含む。ゲノムDNA内の配列の変異を検出するために、IHGおよびゲノムDNA配列が同一の遺伝子座特異性PCRプライマーによって別々に増幅され、各PCR産物は共に、DNAヘテロデュプレックスを形成するために、加熱および徐冷によってハイブリダイズされる。その後、得られたヘテロデュプレックスは、例えば非変性ポリアクリルアミドミニゲル電気泳動によって分離される。IHGとゲノムDNAとの間のミスマッチの数、種類、お
よび位置に応じて、異なるヘテロデュプレックスは異なる速度で移動し、異なる対立遺伝子に特有のバンドパターンを生じさせる。
【0006】
誘発ヘテロデュプレックスジェネレータの使用については、以下の参考文献に記載されている。
【0007】
1.J.L.Bidwell,T.M.Clay,N.A.P.Wood,M.C.Pursall,A.F.Martin,B.A.Bradley,K.M.Hui共著、1993年、「PCRフィンガープリント法および関連するDNAヘテロデュプレックス技術による迅速なHLA−DR−DwとDPとのマッチング(Rapid HLA−DR−Dw and DP matching by PCR fingerprinting and related DNA heteroduplex technologies)」、「HLAタイピング技術ハンドブック(Handbook of HLA Typing Techniques)」、K.M.Hui、J.L.Bidwell共編、CRC Press、Boca Raton、フロリダ、99〜116頁
2.N.Wood,L.Tyfield,J.Bidwell共著、1993年、「PCR増幅性合成DNAによって形成されたヘテロデュプレックスの分析によるフェニルケトン尿症遺伝子型の迅速な分類(Rapid classification of phenylketonuria genotypes by analysis of heteroduplexes generated by PCR−amplifiable synthetic DNA)」、Human Mutation 2、131〜137頁
3.J.L.Bidwell,N.A.P.Wood,L.A.Tyfield,T.M.Clay,D.Culpan,J.M.Evans,M.C.Pursall,B.A.Bradley共著、1993年、「ユニバーサルヘテロデュプレックスジェネレータ:HLAおよびヒトの病気の遺伝子型決定のための試薬(Universal heteroduplex generators: reagents for genotyping of HLA and of human diseases)」、Molecular Bases of Human Diseases、E.E.Polli編、27〜34頁、Elsevier/North−Holland、アムステルダム
4.N.Wood,G.Standen,J.Hows,B.Bradley,J.Bidwell共著、1993年、「ユニバーサルヘテロデュプレックスジェネレータを用いた鎌状赤血球貧血の診断(Diagnosis of sickle cell disease with a universal heteroduplex generator)」、Lancet 342、1519〜1520頁
5.J.L.Bidwell,N.A.P.Wood,T.M.Clay,M.C.Pursall,D.Culpan,J.Evans,B.A.Bradley,L.A.Tyfield,G.Standen,K.M.Hui共著、1994年、「DNAヘテロデュプレックス技術(DNA heteroduplex technology)」、A.Chrambach,M.J.Dunn,B.J.Radola共編、「電気泳動の進歩(Advances in Electrophoresis)」、第7巻、311〜351頁、VCH Press、Weinheim
6.T.M.Clay,D.Cuplan,W.M.Howell,D.A.Sage,B.A.Bradley,J.L.Bidwell共著、1994年、「UHGクロスマッチ試験:HLA−DPB1適合性骨髄提供者の選別におけるPCR−SSOタイピングによる比較(UHG crossmatching:a comparison with PCR−SSO typing in the selection of HLA−DPB1−compatible bone marrow donors)」、Transplantation 58、200〜207頁
7.J.L.Bidwell著、1994年、「DNAに基づくHLAタイピング法の
進歩(Advances in DNA−based HLA−typing methods)」、Immunology Today 15、303〜307頁
8.L.A.Tyfield,A.Stephenson,J.L.Bidwell,N.A.P.Wood,F.Cockburn,A.Harvie,I.Smith共著、1994年、「合成DNA構成体によるヘテロデュプレックス分析を用いたフェニルアラニンヒドロキシラーゼ遺伝子の突然変異分析(Mutation analysis of the phenylalanine hydroxylase gene using heteroduplex analysis with synthetic
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9.D.A.Savage,N.A.P.Wood,J.L.Bidwell,K.M.Hui共著、1995年、「ヘテロデュプレックス分析によるHLA−DRB101の亜型決定(HLA−DRB101 subtyping by heteroduplex analysis)」、Tissue Antigens 45、120〜124頁
10.N.Wood,G.Standen,E.W.Murray,D.Lillicrap,L.Holmberg,I.R.Peake,J.Bidwell共著、1995年、「ユニバーサルヘテロデュプレックスジェネレータを用いたタイプ2Bフォン・ヴィレブランド病における迅速な遺伝子型分析(Rapid genotype analysis in type 2B von Willebrand’s disease
using a universal heteroduplex generator)」、Brit J Haematol 89、152〜156頁
11.N.Wood,G.Standen,J.Old,J.Bidwell共著、1995年、「ヘモグロビンSおよびCの遺伝子型決定のためのUHGの最適化と特性(Optimisation and properties of a UHG for genotyping of haemoglobins S and C)」、Hum
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12.D.A.Savage,N.A.P.Wood,J.L.Bidwell,A.Fitches,J.M.Old,K.M.Hui共著、1995年、「DNAヘテロデュプレックスジェネレータ分子を用いたβ−サラセミア突然変異の検出(Detection of b−thalassaemia mutations using DNA
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13.L.A.Tyfield,J.Zschocke, A.Stephenson,F.Cockburn,A.Harvie,J.L.Bidwell,N.A.P.Wood,L.P.Hunt共著、1995年、「家族における不一致フェニルケトン尿症表現型:遺伝子型と臨床結果との相関関係は複数の作因の作用である(Discordant phenylketonuria phenotypes in one family: the relationship between genotype and clinical outcome is a function of multiple effects)」、J Med Genet 32、132〜136頁
14.N.A.P.Wood,J.L.Bidwell共著、1996年、「UHG:ヘテロデュプレックスおよびユニバーサルヘテロデュプレックスジェネレータの分析(UHG:heteroduplex and universal heteroduplex generator analysis)」、「突然変異検出のための研究所プロトコル(Laboratory protocols for mutation detection)」、U.Landegren編、105〜112頁、Oxford University Press for the Human Genome Organisation
15.N.Wood,J.Bidwell共著、1996年、「誘発ヘテロデュプレッ
クス形成による遺伝子スクリーニングおよび遺伝子検査(Genetic screening and testing by induced heteroduplex formation)」、Electrophoresis 17、247〜254頁
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17.D.A.Savage,J.P.Tang,N.A.P.Wood,J.Evans,J.L.Bidwell,J.L.K.Wee,A.A.Oei,K.M.Hui共著、1996年、「PCRおよびDNAヘテロデュプレックスジェネレータを用いた迅速なHLA−DRB104の亜型決定法(A rapid HLA−DRB104 subtyping method using PCR and DNA heteroduplex generators)」、Tissue Antigens 47、284〜292頁
18.D.Jack,J.Bidwell,M.Turner,N.Wood共著、1997年、「ヒトのマンナン結合レクチン遺伝子における全3箇所の既知の構造的突然変異の同時遺伝子型決定(Simultaneous genotyping for all three known structural mutations in the human mannan−binding lectin gene)」、Human Mutation 9、41〜46頁
19.D.Culpan,G.R.Standen,N.Wood,C.Mazurier,C.Gaucher,J.L.Bidwell共著、1997年、「ユニバーサルヘテロデュプレックスジェネレータを用いたタイプ2Aフォン・ヴィレブランド病における迅速な突然変異のスクリーニング(Rapid mutation screening in Type 2A von Willebrand’s disease using universal heteroduplex generators)」、Brit J Haematol 96、464〜469頁
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21.H.A.Jackson,D.J.Bowen,M.Worwood共著、1997年、「ヘテロデュプレックス技術を用いたヘモクロマトーシスの迅速な遺伝子スクリーニング(Rapid genetic screening for haemochromatosis using heteroduplex technology)」、Br J Haematol 98、856〜859頁
22.L.A.Tyfield,A.Stephenson,F.Cockburn,A.Harvie,J.L.Bidwell,N.A.P.Wood,D.T.Pilz,P.Harper,I.Smith共著、1997年、「イギリス諸島におけるフェニルアラニンヒドロキシラーゼ遺伝子の配列変異(Sequence variation
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23.M.S.Enayat,B.D.M.Theophilus,F.G.H.Hill,P.E.Rose,D.Culpan,J.Bidwell,G.R.Stand
en共著、1998年、「UHG分析により特定されたタイプ2Aフォン・ヴィレブランド病を引き起こす新候補突然変異(K755E)(A new candidate mutation (K755E) causing Type 2A Von Willebrand’s disease identified by UHG analysis)」、Br J Haematol 79、240頁
24.D.Culpan,A.Goodeve,D.J.Bowen,G.Standen,J.Bidwell共著、1988年、「ヘテロデュプレックス分析によるタイプ2Aフォン・ヴィレブランド病の迅速な遺伝子型診断(Rapid genotypic
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25.D.J.Bowen,G.R.Standen,C.Mazurier,C.Gaucher,A.Cumming,S.Keeney,J.Bidwell共著、1998年、「タイプ2Nフォン・ヴィレブランド病:G2811A(R854Q)、C2696T(R816W)、T2701A(H817Q)およびG2823T(C858F)の迅速な遺伝子診断−新侯補タイプ2N突然変異の検出:C2801T(R854W)(Type 2N von Willebrand disease: rapid genetic diagnosis of G2811A (R854Q), C2696T (R816W), T2701A (H817Q) and G2823T (C858F) − detection of a novel candidate type 2N mutation: C2801T (R854W))」、Thromb Haemost 80、32〜36頁
26.H.R.Morse,O.O.Olomolaiye,N.A.P.Wood,L.J.Keen,J.L.Bidwell共著、1999年、「転写調節に関わるTNFa、IL−Ib、IL−6およびIL−10多型の誘発ヘテロデュプレックス遺伝子型決定(Induced heteroduplex genotyping of TNFa, IL−1b, IL−6 and IL−10 polymorphisms associated with transcriptional regulation)」、Cytokine 11、789〜795頁
27.N.A.P.Wood,S.C.Thompson,R.M.Smith,J.L.Bidwell共著,2000年、「PCR−RFLPによるヒトのTGF−b1シグナル(リーダー)配列多型の識別(Identification of human
TGF−b1 signal (leader) sequence polymorphisms by PCR−RFLP)」、J Immunol Methods 234、117〜122頁
28.J.L.Bidwell,O.O.Olomolaiye,L.J.Keen,N.A.P.Wood,H.R.Morse,G.J.Laundy,S.J.Thompson共著、2000年、「サイトカイン遺伝子多型(Cytokine gene polymorphism)」、「ヒト血液細胞:遺伝的多型の結果(Human Blood Cells:Consequences of Genetic Polymorphism)」、M−J.King編、375〜400頁、Imperial College Press、ロンドン
29.N.A.P.Wood,L.J.Keen,L.A.Tilley,J.L.Bidwell共著、2001年、「DNAの誘発ヘテロデュプレックス分析によるサイトカイン調節ハプロタイプの決定(Determination of cytokine
regulatory haplotypes by induced heteroduplex analysis of DNA)」、J Immunol Meth 249、191〜198頁
30.C.F.Spink,L.J.Keen,P.G.Middleton,J.L.Bidwell共著、2004年、「誘発ヘテロデュプレックス分析を用いたTNFd
マイクロサテライト遺伝子座に存在するサブ対立遺伝子(suballele)の識別(Discrimination of suballeles present at the TNFd microsatellite locus using Induced Heteroduplex Analysis)」、Genes and Immunity 5、76〜79頁
31.A.J.P.Smith,L.J.Keen,N.A.P.Wood,C.J.Elson,J.L.Bidwell共著、2004年、「IL1A、IL1B、IL1RNおよびIL1R1プロモーターSNPのハプロタイプ分析(Haplotype analysis of IL1A, IL1B, IL1RN and IL1R1 promoter SNPs)」、HLA 2002、Blackwell Munksgaard、デンマーク
32.1995年11月、N.A.P.Woodによる博士論文:タイトル「DNA内の点突然変異の識別におけるユニバーサルヘテロデュプレックスジェネレータの有用性の検討(An Investigation of the Potential of Universal Heteroduplex Generators in Identification of Point Mutations Within DNA)」、ブリストル大学図書館蔵
また、国際公開第WO−A−93/19201号および英国特許第2338062号は、IHG技術を用いた遺伝子型決定に関するものである。
【0008】
上記特許文献およびその他の参考文献の内容は、この参照によって本明細書に組み込まれるものとする。
【0009】
ただし、従来技術の状況は国内法によって判断されるものであるため、上記特許文献およびその他の参考文献の内容が、本国際特許出願の各指定国において必ずしも従来技術であるとは限らないことに留意されたい。したがって、ここで参照する特定の文献が、本出願に現在含まれる請求項、将来の補正によって組み込まれる可能性のある請求項、継続または分割出願または本国際特許出願を基礎として今後提出される可能性のあるその他の対応する出願または別の出願に含まられるか組み込まれる可能性のある請求項の従来技術であると認めるものではない。
【0010】
IHGを使用する遺伝子型決定は使用が容易であり、迅速に実施することができ、信頼性があるが、対立遺伝子特異パターンをさらに容易に識別することができるように、ヘテロデュプレックスバンドの分離を向上させることが望ましい。これによって、例えばゲル電気泳動時間を短縮させることができる。
【発明の開示】
【0011】
本発明によれば、遺伝子型決定を行なう多型に直接隣接した位置から識別子を離すようにIHG分子を修飾することによって、ヘテロデュプレックスバンドの分離を向上させることができることが分かった。予期しなかったことだが、そのように修飾したIHG分子を使用した場合に、誘発ヘテロデュプレックスの分離が著しく向上することが分かった。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、ゲノムDNA配列内の既知の多型部位に対応する少なくとも1つのヌクレオチド位置を含む合成DNA配列であるIHGであって、合成DNA配列は、既知の多型部位に対応するヌクレオチド位置から少なくとも1塩基分だけ離れたヌクレオチド位置に、ゲノムDNA配列に対して少なくとも1つのヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入(以下「識別子」という)を含み、多型部位に対応するヌクレオチド位置とヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入との間に位置するヌクレオチドがゲノムDNA配列と同一であり、ゲノムDNA配列が複数の既知の多型部位を含む場合には、識別子は、既知の多型部位のそれぞれに対応するヌクレオチド位置から少なくとも1
塩基分だけ離れていることを特徴とするIHGが提供される。
【0013】
本発明に係るIHG分子は、ゲノムDNAの既知の多型部位における1以上の既知の多型(例えば遺伝子突然変異)の検出に使用できることが好ましく、IHG識別子が既知の多型部位に対応するヌクレオチド位置から離れていない類似の方法と比べて、ヘテロデュプレックスを分離する工程に続く工程(例えば電気泳動)によるバンドの分離に関して、誘発ヘテロデュプレックスの分離を著しく向上させるIHG検出方法に使用できることが最も好ましい。
【0014】
本明細書で使用する「既知の多型部位」という表現は、IHG分子を用いて特定の検査を行なう際の多型部位を特に意味する。ゲノム(野生型)DNA配列内の多型部位とは、遺伝子の既知の対立遺伝子変異型における遺伝子変異部位に対応するDNA配列内の位置である。そのような遺伝子の変異部位は、1つの塩基の置換、挿入、欠失または連続する2以上の塩基の置換、付加、挿入またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0015】
本明細書で使用する「ヌクレオチド位置」という表現は、例えば、ヌクレオチド配列の領域、ヌクレオチド配列の領域が欠失する遺伝子座、ヌクレオチド配列の領域間の点、およびヌクレオチド配列の個々の塩基等のヌクレオチド配列に関連するあらゆる遺伝子座をその範囲に含む。
【0016】
例えば、対立遺伝子変異型において多型部位が1つの塩基変異を含む場合には、IHGは当該多型部位に対応する1つのヌクレオチド位置を含み、IHG分子内の識別子は、当該ヌクレオチド位置から少なくとも1塩基だけ離れている。多型部位が連続する3つの塩基の変異を含む場合には、IHGは当該多型部位に対応する連続する3つのヌクレオチド位置を含み、IHG分子内の識別子は、3つのヌクレオチド位置から少なくとも1塩基だけ離れている。
【0017】
対立遺伝子変異型において多型部位が1つの塩基欠失を含む別の例では、IHGは当該多型部位に対応する1つのヌクレオチド位置を含み、IHG分子内の識別子は、当該ヌクレオチド位置から少なくとも1塩基だけ離れている。多型部位が連続する3塩基の欠失を含む場合には、IHGは当該多型部位に対応する3つの連続するヌクレオチド位置を含み、IHG分子内の識別子は、当該1連の3つのヌクレオチド位置から少なくとも1塩基だけ離れている。
【0018】
対立遺伝子変異型において多型部位が1つの塩基挿入を含むさらに別の例では、IHGは多型部位をまたぐ1対のヌクレオチド位置を含み、IHG分子内の識別子は、当該ヌクレオチド位置から少なくとも1塩基だけ離れている。多型部位が連続する3つの塩基の挿入を含む場合には、IHGは当該多型部位をまたぐ5つのヌクレオチド位置を含むことができ、IHG分子内の識別子は、当該1連の3つのヌクレオチド位置から少なくとも1塩基だけ離れている。
【0019】
多型部位は、連続する置換、挿入または欠失の組み合わせを含むことができる。全ての場合において、識別子は、多型部位の連続部分に対応する一連のヌクレオチド位置から少なくとも1塩基だけ離れている。本発明の第2の態様によれば、遺伝子配列と前記標的遺伝子配列に対応するIHG分子との間で誘発ヘテロデュプレックスを形成するための方法であって、(a)IHG分子群を生成する工程と、(b)標的遺伝子配列群を生成する工程と、(c)ヘテロデュプレックスの形成に適した条件下で(a)および(b)の各群を組み合わせる工程と、を含み、IHG分子が本発明の第1の態様に係るIHG分子である方法が提供される。
【0020】
IHG分子群および標的遺伝子配列群は、IHGおよび標的遺伝子配列を増幅することによって得ることができる。好適な公知の増幅方法はPCR法である。
【0021】
本発明の上記方法の態様では、誘発ヘテロデュプレックスは、電気泳動等によって適当な担体上で分離され、標的遺伝子配列の遺伝子型を決定するために分析されることができる。本発明によって形成される誘発ヘテロデュプレックスの分離(特に、ヘテロデュプレックスを分離する工程に続く、例えば電気泳動等によるバンドの分離)は、IHG識別子が既知の多型部位に対応するヌクレオチド位置から離れていない類似の方法と比較して、向上(好ましくは著しく向上)していることが分かる。
【0022】
本発明の第3の態様によれば、IHG識別子が既知の多型部位に対応するヌクレオチド位置から離れていない類似の方法と比較して、例えば電気泳動等によって適当な担体上で誘発ヘテロデュプレックスの分離を向上させるための本発明の第1の態様に係るIHG分子の使用が提供される。分離の向上は、担体上でのヘテロデュプレックスに対応するバンドの分離の向上であってもよい。
【0023】
本発明の方法は、人間の患者が、IHGの設計対象である多型に関連する特定の遺伝的症状または疾患に罹患する可能性を予測するために使用することができる。したがって、別の態様では、本発明は、特定の遺伝子型に関連する特定の症状または疾患の存在または非存在、存在または非存在の可能性、あるいは重症度を予測するための方法に関する。この方法では、核酸サンプルを個体から得て、必要であれば多型部位の性質を理解するのに必要なレベルまで調べる。この場合、通常、1つの特定の塩基または塩基配列の有無が特定の遺伝性疾患または症状と相互に関連付けできることが必要である。ゲノムDNA配列内の多型部位に関する知見に基づいて、本発明の第1の態様に係るIHGを形成することができる。形成されたIHGを使用して、本発明の第2の態様に係る方法を実施し、および/または本発明の第3の態様にしたがってIHGを使用し、分離された誘発ヘテロデュプレックスを分析することで、個体の特定の症状または疾患の存在または非存在、存在または非存在の可能性、あるいは重症度を予測する。
【0024】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第1の態様に係るIHG、IHG用のフォーワードプライマーおよびリバースプライマー、必要に応じて対照DNA配列、ならびに、使用上の注意を含むキットが提供される。
【0025】
添付図面は例示のみを目的とし、本発明の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明によれば、合成DNA配列は、既知の多型部位に対応するヌクレオチド位置から少なくとも1塩基分だけ離れたヌクレオチド位置に、ゲノムDNA配列に対して、少なくとも1つのヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入を含み、多型部位に対応するヌクレオチド位置とヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入との間に位置するヌクレオチドは、ゲノムDNA配列と同一である。ゲノムDNA配列が複数の既知の多型部位を含む場合には、識別子は、既知の多型部位にそれぞれ対応するヌクレオチド位置から少なくとも1塩基分だけ離れている。
【0027】
ヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入と、既知の多型部位に対応するヌクレオチド位置との間隔は、好ましくは約10塩基以下、さらに好ましくは約8塩基以下(例えば1〜約6塩基)、最も好ましくは1,2,3,4,5または6塩基から選択される任意の塩基数である。2以上の既知の多型部位が存在する場合には、10塩基以下の好ましい間隔とは、識別子に最も近接する多型部位との間隔である。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、被検者(通常は人間の被検者)の遺伝物質を分析し、遺伝子の特定の位置に存在する特定の一塩基多型(SNP)に関連する遺伝子型を決定する。SNPを含む遺伝子は、少なくとも2つの対立遺伝子を有し、ここでは、一方を参照対立遺伝子、他方を変異対立遺伝子と呼ぶ。参照対立遺伝子(原型対立遺伝子または野生型対立遺伝子)は任意に指定されたものであり、通常、所定の登録番号でジェンバンク(GenBank)またはゲノム研究所(TIGR)に寄託されている遺伝子のヌクレオチド配列に対応する。変異対立遺伝子は、遺伝子内のSNP部位または複数のSNP部位の各部位に存在する変異ヌクレオチド(参照対立遺伝子のヌクレオチドとは異なるヌクレオチド)を含む。
【0029】
IHG技術を使用する遺伝子型決定では、核酸のサンプルを被検者から得、多型部位を含む遺伝子断片を増幅して、遺伝子断片の配列を有する単位複製配列群を生成する。通常は、遺伝子断片の側部に配置される一対のプライマーを使用するPCRによって、遺伝子断片を増幅する。対象の遺伝子断片に特異的な適当なプライマーを選択する。長さが90〜400塩基(好ましくは100〜150塩基対)である遺伝子断片を増幅するためのプライマーを選択する。通常は、多型部位が遺伝子断片の中央領域(すなわち、遺伝子断片のほぼ中央3分の1の領域)に位置することが好ましい。遺伝子断片のPCR増幅によって、周知のように、二本鎖の単位複製配列群が得られる。PCR増幅に使用することができる手順のさらなる詳細は、国際公開第WO93/19201号に記載されている。
【0030】
検査対象の核酸が哺乳動物のゲノムDNAである場合には、DNAのサンプルは、研究を行なう特定の遺伝子型を有する個体またはその他の対象動物から得る(「個体」という用語は胎児を含む)。DNAは全ての有核細胞から抽出することができる。通常は、便宜上、末梢血液細胞からDNAを得る。胎児のDNAは胎盤細胞または羊水から得ることができる。その他に、DNAは毛嚢やミイラ体等からも得ることができる。DNAは、例えばミラーらの文献に記載されている迅速な塩析法等の任意の適切な方法によって単離することができる(S.Miller,D.Dykes,H.Polesky共著、1988年、「ヒトの有核細胞からDNAを抽出するための簡単な塩析手順(A simple salting out procedure for extracting DNA
from human nucleated cells)」、Nucl.Acids
Res.、第16巻、1215頁)。あるいは、DNAは、逆転写によってmRNAからcDNAとして単離することもできる。
【0031】
また、遺伝子断片に対応する配列を有するが、本明細書に記載されているように、人為的なヌクレオチドの置換、欠失、挿入またはそれらの組み合わせを含むように修飾されたIHG分子群を準備する。通常、例えばPCRを用いた増幅によって、IHG群を調製する。PCR増幅に使用することができる手順のさらなる詳細は、国際公開第WO93/19201号に記載されている。PCR用として選択されたプライマーは、IHG分子を増幅するために選択される。PCR増幅によって二本鎖のIHG単位複製配列群が得られる。IHGは、好ましくは対象の遺伝子断片と実質的に同じ長さであってもよく(IHGの必須の挿入塩基または欠失塩基は考慮しない)、あるいは、異なる長さ(例えば、IHGが遺伝子断片よりも短いか、または長い場合等)であってもよい。ただし、遺伝子断片とIHGとが異なる長さである場合(IHGの必須の挿入塩基または欠失塩基は考慮しない)、増幅された遺伝子断片群と、増幅されたIHG群との間でテロデュプレックスを形成することができる程度の十分な重なりが必要である。IHGおよび遺伝子断片をそれぞれ増幅するために使用するプライマーは同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。ただし、通常は、同一のプライマーを使用することによって、実質的に同じ長さを有する増幅されたIHGおよび遺伝子断片を得る(IHGの必須の挿入塩基または欠失塩基は考慮しない)。国際公開第WO93/19201号に教示されているように、プライマーを標識してもよい。
【0032】
PCR増幅は、同一または別々の容器(それぞれ、「混合」PCRまたは「個別」PCR)で行なうことができる。別々に増幅を行なった後に、ヘテロデュプレックスの形成が進行するように、増幅された遺伝子断片群および増幅されたIHG群を結合またはプールする(pool)ことが好ましい。
【0033】
IHGおよび多型部位を含む遺伝子断片の結合群からのヘテロデュプレックスの形成は、例えば国際公開第WO−A−93/19201号に記載されているように、二本鎖DNAを一本鎖DNAに分離するためにIHGおよび遺伝子断片の結合群を加熱し、次に、冷却してヘテロデュプレックスを形成することによって行なう。
【0034】
ヘテロデュプレックスの見かけの分子量に影響を与えるが、実際の分子量には影響を与えない分子立体配座に応じて、形成されたヘテロデュプレックスを分離する。分離は、例えば電気泳動によって行なうことができる。通常は、非変性ポリアクリルアミドゲル等の核酸を完全に変性させることのないゲル上で分離を行なう。電気泳動は、所望の程度にデュプレックスを分離することができる条件下で行なう。通常は、(異なる分子立体配座によって生じる)「見かけのサイズ」が、約10bp異なるデュプレックスを分離することができる程度の分離で十分である。また、デュプレックスの移動度および見かけのサイズを推定するために、サイズマーカーをゲル上で泳動させることができる。また、対象の遺伝子の既知の対立遺伝子に対応する配列を有する対照DNA分子をPCRによって個別に増幅し、使用するIHGと共にヘテロデュプレックスを形成することができ、得られたサンプルをゲル上で泳動させて、異なるヘテロデュプレックスのためにゲル上にマーカーを設けることができる。
【0035】
ヘテロデュプレックスの分布(分離パターン)は、対立遺伝子特異性を有する。次に、分離パターンまたはPCRフィンガープリントを視覚化することができる。PCRプライマーが標識されている場合には、標識を表示させることができる。分離された標識デュプレックスを担持する基板を、標識の存在を検出する試薬と接触させる。PCRプライマーが標識されていない場合には、PCRフィンガープリントを担持する基板を、例えば臭化エチジウムまたはSYBR(商標)グリーン(Molecular Probes社から入手可能)と接触させて、核酸断片を紫外線で視覚化することができる。あるいは、ヘテロデュプレックスを銀染色で視覚化することもできる。
【0036】
上記説明は、当該分野において公知の方法によってIHG技術を使用する遺伝子型決定法の進め方に関する全般的な概要である。本発明は、いわゆる「識別子」が対象の多型部位に対応する位置から離れている修飾IHG分子を提供することによって、従来の方法を改良するものである。上述したように、既知の多型部位に対応するヌクレオチド位置から少なくとも1塩基分だけ離れたヌクレオチド位置に、少なくとも1つのヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入を含み、多型部位に対応するヌクレオチド位置とヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入との間に位置するヌクレオチドがゲノムDNA配列と同一であるように、IHGのDNA配列を修飾する。
【0037】
IHG分子は、二重鎖DNA分子または一本鎖DNA分子のいずれかの形で形成することができる。分子の長さが約150bp未満の場合には、一本鎖のDNAを使用することが好ましい。以下の説明では、「塩基」および「塩基対」という表現を使用する。ただし、それらの表現は、IHGの一本鎖または二本鎖の一方のみを厳密に意味する訳ではなく、理解可能な適切な修飾を用いて、いずれかに適用することができる。本発明に係る方法では、例えばPCRを用いて最初の分子を増幅する。通常は、本発明で使用するように、IHGの「コード」鎖の配列である。IHGでは、「コード」鎖は、IHGが模倣するように設計されたゲノムDNAのコード鎖に対応する。「対応する」とは、人為的なミスマ
ッチを創出し、誘発ヘテロデュプレックスを形成することができる人為的な欠失、置換、および/または挿入以外を効果的に模倣するようにIHGが設計されたゲノムDNA配列をIHGが有することを意味する。本発明の操作の対象領域以外におけるIHGの配列とゲノムDNAの配列との正確なハイブリダイズ適合性は必要不可欠なものではなく、本発明はそれらに限定されるものではないことに特に留意されたい。IHGとゲノムDNAとの相対配列に差異が存在する場合であっても、実施可能なシステムを得ることができる。実際に、状況によっては、IHGとゲノムDNAとの間に人為的なミスマッチを創出し、例えば得られたヘテロデュプレックスの分離に所望の効果を生じさせることが望ましい場合もある。もちろん、そのような人為的なミスマッチは、ヘテロデュプレックスを形成するために有効なハイブリダイゼーションを妨げる程大きなものではない。
【0038】
IHGにおいて、多型部位に対応する位置に存在するヌクレオチドは、野生型ゲノムDNAまたは対立遺伝子変異型のヌクレオチドと同一であることができる。
【0039】
本発明は、所与の遺伝子断片内の2以上の多型部位をプローブするように適応させることができる。したがって、例えば、遺伝子断片が、互いに比較的近接した2以上の多型部位を含む場合(例えば、多型部位間の距離が約300塩基対以内である場合)には、異なる対立遺伝子の組み合わせを識別するようなIHGを設計し、かつ、IHGは、各多型部位に対する「識別子」配列を含むことができる。IHGが、人為的なミスマッチが創出された2以上の部位を含む場合には、ヘテロデュプレックスバンドの生じ得るパターンの数は増加するが、原則として、適当な対照データを使用して、対立遺伝子のあらゆる組み合わせのバンドパターンを分析・解釈することができる。
【0040】
識別子が塩基対の欠失であって、IHGが一つのミスマッチ部位を含むように設計されている場合には、欠失は、ゲノムDNA配列に対して一つの塩基の欠失または1連の塩基対の欠失であってもよい。通常は、欠失したDNAの長さは1〜約10塩基対(例えば約2〜約6塩基対)である。
【0041】
識別子が塩基対の置換であって、IHGが一つのミスマッチ部位を含むように設計されている場合には、置換は、ゲノムDNA配列に対して一つの塩基の置換または1連の塩基対の置換であってもよい。通常は、置換されたDNAの長さは1〜約10塩基対(例えば約2〜約6塩基対)である。
【0042】
識別子が塩基対の挿入であって、IHGが一つのミスマッチ部位を含むように設計されている場合には、挿入は、ゲノムDNA配列に対して一つの塩基の挿入または1連の塩基対の挿入であってもよい。通常は、挿入されたDNAの長さは1〜約10塩基対(例えば約2〜約6塩基対)である。
【0043】
IHGが2以上のミスマッチ部位を含む場合には、各識別子は少なくとも1塩基対の長さを有し、通常は1〜約5塩基対(例えば約2または3塩基対)の長さを有する。2以上の識別子の欠失、置換または挿入長さの合計は、ゲノム標的の全長の10%以下であってもよく、通常はゲノム標的の全長の約3%である。
【0044】
識別子は、ゲノムDNA配列に対して欠失、置換または挿入の組み合わせからなることもできる。
【0045】
現在のところ、修飾は塩基対の挿入であることが好ましい。好ましい挿入は、同一の塩基の配列、例えば一連のA(アデニン)ヌクレオチドまたはG(グアニン)ヌクレオチドであり、最も好ましくは、一連のAヌクレオチドの挿入である。ただし、挿入は異なる塩基の組み合わせであってもよい。
【0046】
本発明のIHG分子は、例えば国際公開第WO93/19201号に記載されているような公知の方法によって合成することができる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
本実施例は、本発明のIL−10遺伝子における−1082多型を検出するための使用について説明する。
【0048】
−1082多型のPCRに用いたプライマー配列は以下の通りである。
【0049】
【化6】

以下の配列を有する従来技術に係る第1のIHG(IHG0)を合成した。
【0050】
【化7】

太字で示し、アスタリスク()を付した「A」残基は多型の位置である。下線を付した一連の4つのA残基は、「識別子」として機能する挿入された残基の配列を示す。
【0051】
また、本発明に係るIHG分子を以下のようにして合成した。
【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
【化10】

IHG1、IHG2、およびIHG3は、4つの識別用「A」残基が多型部位からそれぞれ1、2または3塩基(右に)移動していること以外は、IHG0と同一の配列を有する。
【0055】
ゲノムDNAまたはIHGを100ng、タックポリメラーゼ(先進バイオテクノロジー社)を0.5U、各プライマー(フォーワードおよびリバース)を5μM、MgCl
を1.5mM、各dNTPを200μM、Tris−HCI(pH8.8)を67mM、(NHSOを16mM、トウィーン(Tween)を0.01%含む20μlの総反応体積でPCR増幅を行なった。PCRは、MJ−PTC−100サーマルサイクラー(GRI社、ブレイントリー、イギリス)上で最適化した。ゲノムDNAおよびIHGのPCRパラメータは以下の通りとした:95℃で5分間の変性を行なった後、95℃で30秒間、55℃で1分間、72℃で30秒間、72℃で5分間を1サイクルとして32サイクル行なった。
【0056】
PCR産物を結合・クロスマッチ(cross−matched)させた。
パラメータのクロスマッチは、95℃で2分間加熱した後、第一の制御冷却工程で65℃に冷却し(冷却速度=1.0℃/秒)、1分間保持して行なった。第二の制御冷却工程で45℃に冷却し(冷却速度=0.1℃/秒)、1分間保持した(最終保持工程は6℃で行なった)。
【0057】
ヘテロデュプレックスを、「トリプルワイド」ミニゲルシステム(30cm×8cm;CBS Scientific社、デル・マー、米国)を使用して、非変性15%プロトゲル(Protogel)(登録商標)ポリアクリルアミドゲル(National Diagnostics社、ハル、イギリス)上で分離した:ゲル構成37.5:1(w/v アクリルアミド:ビスアクリルアミド)。電気泳動は300Vで90分間行なった。0.5μg.mlの臭化エチジウムを含む1×TBE(トリスホウ酸−EDTA)緩衝液内でゲルを後染色し、302nmの紫外線ライトボックスを使用して、ゲルを調べた。EDAS120システム(コダック社)を使用して、分析のための画像を撮影した。
【0058】
得られた結果を図1に示す。識別子が多型部位と直接隣接して配置された場合よりも、多型から離れている場合(すなわち、IHG1、IHG2、IHG3)に、ヘテロデュプレックスバンドの分離が向上していることが理解できる。ポリアクリルアミドゲル内でのヘテロデュプレックスバンドの分離が向上した結果、対立遺伝子特異パターンをより容易に識別することができ、対立遺伝子の識別を短い電気泳動時間で行なうことができる。この実験では、IHG2によって、バンドの最適な分離と、対立遺伝子特異パターンの識別とを行なうことができた。
【0059】
[実施例2]
本実施例は、腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子プロモーターにおける−238多型を検出するための本発明に係る使用を説明する。以下のプライマーおよびIHG分子を使用して、実施例1と同じ実験手順を行なった。
【0060】
【化11】

【0061】
【化12】

太字で示し、アスタリスク()を付した「G」残基は、TNF内の−238SNPの位置である。下線を付した一連の4つの「A」残基は、「識別子」として機能する挿入さ
れた残基の配列を示す。
【0062】
また、本発明に係るIHG分子を以下のようにして合成した。
【0063】
【化13】

【0064】
【化14】

IHG1およびIHG2は、4つの識別用「A」残基が多型部位からそれぞれ2または3塩基(右に)移動していること以外は、IHG0と同一の配列を有する。
【0065】
パラメータのクロスマッチは、95℃で2分間加熱した後、第一の制御冷却工程で65℃に冷却し(冷却速度=1.0℃/秒)、1分間保持して行なった。第二の制御冷却工程で45℃に冷却し(冷却速度=0.1℃/秒)、1分間保持した(最終保持工程は6℃で行なった)。
【0066】
図2は、2つのゲノムDNAサンプルをクロスマッチさせた結果を示し、3つの異なるIHG試薬を使用し、一方がGG変異型であり、他方がGA変異型である。この遺伝子座で生じ得る3つの遺伝子型の内の2つを示している。レーン1および2は、2つのゲノムDNAサンプルをIHG0とクロスマッチさせた結果を示している(IHG0試薬は、多型部位に直接隣接して配置された4つの「A」残基からなる識別子を有する。)。レーン2〜3および4〜5は、同じ2つのゲノムDNAサンプルを、(それぞれ多型部位から2塩基および3塩基離れて配置された識別子を有する)IHG1およびIHG2とクロスマッチさせて得られたヘテロデュプレックスバンドパターンを示している。図2の結果は、IHG0とクロスマッチさせた場合よりも、IHG1とクロスマッチさせて得られた対立遺伝子特異バンドパターンの方が容易に識別することができるため、識別用の「A」残基を多型部位から2塩基離すことにより、有益な効果が得られることを示している。識別子を多型部位から3塩基離した場合には、バンドの分離のさらなる増加は見られない。この場合には、IHGlによって最適な分離を行なうことができた。
【0067】
以上、本発明を限定することなく概括的に説明した。当業者に容易に明らかになるであろう変更および変形は、本願および本願の特許付与後の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】IL−10遺伝子プロモーター内の「−1082」多型の遺伝子型決定における、従来技術のIHG(IHG0)および本発明のIHG(IHG1、IHG2、IHG3)を使用して得られたヘテロデュプレックスパターンを示す。
【図2】腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子プロモーター内の「−238」多型の遺伝子型決定における、従来技術のIHG(IHG0)および本発明のIHG(IHG1、IHG2)を使用して得られたヘテロデュプレックスパターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムDNA配列内の既知の多型部位に対応する少なくとも1つのヌクレオチド位置を含む合成DNA配列であるIHGであって、
前記合成DNA配列が、前記既知の多型部位に対応する前記ヌクレオチド位置から少なくとも1塩基分だけ離れたヌクレオチド位置に、前記ゲノムDNA配列に対して少なくとも1つのヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入を含み、
前記多型部位に対応する前記ヌクレオチド位置と、前記ヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入との間に位置するヌクレオチドが前記ゲノムDNA配列と同一であることを特徴とする、IHG。
【請求項2】
請求項1において、
前記ゲノムDNA配列内の前記多型部位が一塩基多型(SNP)である、IHG。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記合成DNA配列内に含まれる前記ゲノムDNA配列に対する前記少なくとも1つのヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入が1以上の塩基の挿入を含む、IHG。
【請求項4】
請求項3において、
前記合成DNA配列に含まれる前記ゲノムDNA配列に対する前記少なくとも1つのヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入が1以上の塩基の挿入からなる、IHG。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記挿入は一連の同一の塩基の挿入である、IHG。
【請求項6】
請求項5において、
前記同一の塩基はAヌクレオチドである、IHG。
【請求項7】
請求項6において、
前記同一の塩基はGヌクレオチドである、IHG。
【請求項8】
請求項1または2において、
前記合成DNA配列に含まれる前記ゲノムDNA配列に対する前記少なくとも1つのヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入が1以上の塩基の欠失を含む、IHG。
【請求項9】
請求項8において、
前記合成DNA配列に含まれる前記ゲノムDNA配列に対する前記少なくとも1つのヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入が1以上の塩基の欠失からなる、IHG。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項において、
前記合成DNA配列は1本鎖である、IHG。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項において、
前記合成DNA配列は2本鎖である、IHG。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項において、
前記IHGの挿入塩基または欠失塩基を無視した場合に、前記合成DNA配列は前記ゲノムDNA配列の遺伝子断片と実質的に同じ長さを有する、IHG。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項において、
前記IHGの挿入塩基または欠失塩基を無視した場合に、前記合成DNA配列は前記ゲノムDNA配列の遺伝子断片と異なる長さを有する、IHG。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のIHGを複数含む、IHG群。
【請求項15】
請求項14において、
前記群がPCRを使用した増幅の産物である、IHG群。
【請求項16】
前記既知の多型部位を含むゲノムDNAとハイズリダイズさせた請求項1〜13のいずれか1項に記載のIHG分子を含む、DNAヘテロデュプレックス。
【請求項17】
請求項16に記載のDNAヘテロデュプレックスの群。
【請求項18】
標的遺伝子配列と前記標的遺伝子配列に対応するIHG分子との間で誘発ヘテロデュプレックスを形成するための方法であって、
(a)請求項14または15に記載のIHG群を生成する工程と、
(b)標的遺伝子配列群を生成する工程と、
(c)ヘテロデュプレックスの形成に適した条件下で(a)および(b)の各群を組み合わせる工程と、
を含む、方法。
【請求項19】
標的遺伝子配列の遺伝子型を決定するための方法であって、
請求項18に記載の方法によって誘発ヘテロデュプレックスを形成し、適当な担体上で前記誘発ヘテロデュプレックスを分離し、前記分離された誘発ヘテロデュプレックスを分析して前記標的遺伝子配列の遺伝子型を決定することを含む、方法。
【請求項20】
請求項19において、
前記誘発ヘテロデュプレックスの前記分離は、電気泳動を使用して行なわれる、方法。
【請求項21】
ヒトまたはその他の哺乳動物などの生物が特定の遺伝子型に関連する特定の遺伝的症状または疾患に罹患する可能性を予測するための方法であって、
前記遺伝的症状または疾患に関連すると考えられる前記生物の標的遺伝子配列を、請求項19または20に記載の遺伝子型決定によって決定し、
前記遺伝子型決定の結果を分析し、
前記生物における前記特定の遺伝的症状または疾患の存在または非存在、存在または非存在の可能性、あるいは重症度を予測することを含む、方法。
【請求項22】
請求項21において、
前記遺伝子型決定は、遺伝子の特定の位置に存在する特定の一塩基多型(SNP)に対して行なわれる、方法。
【請求項23】
請求項14または15に記載のIHG群と、
前記IHGのフォーワードプライマーおよびリバースプライマーと、
を含む、キット。
【請求項24】
請求項23において、
対照DNA配列および/または使用上の注意をさらに含む、キット。
【請求項25】
請求項19〜22のいずれか1項の方法に使用される、請求項23または24に記載のキット。
【請求項26】
IL−10遺伝子プロモーター内の「−1082」多型の遺伝子型決定に使用するIHGであって、以下の配列を有するIHG。
【化1】

【請求項27】
IL−10遺伝子プロモーター内の「−1082」多型の遺伝子型決定に使用するIHGであって、以下の配列を有するIHG。
【化2】

【請求項28】
IL−10遺伝子プロモーター内の「−1082」多型の遺伝子型決定に使用するIHGであって、以下の配列を有するIHG。
【化3】

【請求項29】
腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子内の「−238」多型の遺伝子型決定に使用するIHGであって、以下の配列を有する、IHG。
【化4】

【請求項30】
腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子内の「−238」多型の遺伝子型決定に使用するIHGであって、以下の配列を有する、IHG。
【化5】

【請求項31】
実施例および図面を参照して明細書に実質的に記載された、IHGまたはIHG群。
【請求項32】
実施例および図面を参照して明細書に実質的に記載された、DNAヘテロデュプレックスまたはDNAヘテロデュプレックス群。
【請求項33】
実施例および図面を参照して明細書に実質的に記載された、標的遺伝子配列と前記標的遺伝子配列に対応するIHG分子との間で誘発ヘテロデュプレックスを形成するための方法。
【請求項34】
実施例および図面を参照して明細書に実質的に記載された、標的遺伝子配列の遺伝子型を決定するための方法。
【請求項35】
実施例および図面を参照して明細書に実質的に記載された、ヒトまたはその他の哺乳動物の患者などの生物が特定の遺伝子型に関連する特定の遺伝的症状または疾患に罹患する可能性を予測するための方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−517587(P2008−517587A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535249(P2007−535249)
【出願日】平成17年10月10日(2005.10.10)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003896
【国際公開番号】WO2006/038037
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(507115182)アイエイチジー ファーマコ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】IHG PHARMACO LIMITED
【住所又は居所原語表記】2nd Floor, 145−157 St.John Street, London EC1V 4PY, United Kingdom
【Fターム(参考)】