説明

誘電体、及びキャパシタ型蓄電池

【課題】比誘電率が高い誘電体、並びに、それを利用した、静電容量が大きいキャパシタ型蓄電池を提供すること。
【解決手段】実質的に、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物のみからなる誘電体。及びそれを利用したキャパシタ型蓄電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタ型蓄電池に利用される誘電体及びそれを利用したキャパシタ型蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年地球温暖化防止のため、発電したエネルギーを効率的に蓄電保存する必要に迫られている。このような蓄電システムとしては、携帯機器用蓄電池として理論エネルギー密度に達するまでに著しく進歩したニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の二次電池、電
気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の応用が試みられている。これらの蓄電システムは、例えば、リチウムなどの希少金属を用いた電解質を用いている(例えば、特許文献1等)。
【0003】
蓄電池に電解質を用いる場合、充電に時間を要する。また、電解質の劣化が生じるため、蓄電池の寿命が短い。また、高出力電圧を実現するためには、複数の蓄電池を直列に接続する必要があった。これに対し、キャパシタを蓄電池として使用した場合、充電時間が短く、寿命が長く、かつ高出力電圧を実現できる。しかし、キャパシタを蓄電池として使用する場合、その単位体積あたりの容量を大きくする必要がある。このためには比誘電率の高い材料が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4452830号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記のような事情を考慮してなされたものであり、比誘電率が高い誘電体、並びに、それを利用した、静電容量が大きいキャパシタ型蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
本発明の誘電体は、実質的に、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物のみからなる誘電体である。
【0007】
本発明の誘電体において、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物が、架橋構造を有する化合物であることがよい。
また、架橋構造を有する化合物のパルスNMRの緩和時間T2は、90〜650μsであることが好ましい。
また、架橋構造を有する化合物の架橋割合は、20〜80%であることが好ましい。
【0008】
本発明のキャパシタ型蓄電池は、
一対の電極と、
前記一対の電極の間に配置された誘電体であって、上記本発明に記載の誘電体と、
を有するキャパシタ型蓄電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比誘電率が高い誘電体、並びに、それを利用した、静電容量が大きいキャパシタ型蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のキャパシタ型蓄電池の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例1〜7、比較例1及び参考例1における、パルスNMR緩和時間と静電容量とリーク電流の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について詳細に説明する。
【0012】
(誘電体)
本発明の誘電体は、実質的に、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物(以下、「イオン性オリゴマー」と称して説明する)のみで構成される。
なお、「誘電体が実質的にイオン性オリゴマーのみで構成されている」とは、樹脂成分(架橋したイオン性オリゴマーを除く樹脂成分)を含まず、例えば、誘電体全体に対して80質量%以上の割合で、イオン性オリゴマー(架橋したイオン性オリゴマーを含む)により誘電体が構成されていることを意味する。
但し、本発明の硬化剤や溶剤の残渣成分、その他微量の添加剤等は含んでもよい。
【0013】
ここで、従来、樹脂のみで構成される誘電体は、分極の小さい物質で構成されるため、大きな比誘電率、つまりキャパシタ型蓄電池において静電容量を得ることができない。
これに対して、本発明の誘電体では、実質的に、大きく分極可能な物質であるイオン性オリゴマーのみで構成することで、比誘電率が大きくなる。そして、キャパシタ型蓄電池において静電容量が大きくなる。
つまり、本発明の誘電体では、イオン性オリゴマーが、電界により向きを変えることにより、空間電荷分布が生じ、結果、分極することなり、比誘電率が大きくなる。
【0014】
ここで、金属イオン単体を樹脂中に存在させた場合、金属イオンは大きく分極可能な物質であることから、比誘電率が大きくなるものの、金属イオンが樹脂(誘電体)中で自由に移動し、例えば、誘電体と接触配置される電極に容易に到達するため、リーク電流が増加し、キャパシタ型蓄電池において長時間の蓄電保持ができなくなることがある。
【0015】
これに対して、イオン性オリゴマーは、イオン性オリゴマーの分子鎖が別のイオン性オリゴマーの分子鎖に引っ掛かることで、イオン性オリゴマー同士の自由な移動が抑制されると考えられる。
つまり、イオン性オリゴマーは、金属塩構造を構成する金属イオンが分極子として機能するための配向変化(つまり空間電荷分布が生じて分極するための金属イオンの向きの変化し)できる状態で、その移動が抑制されると考えられる。
【0016】
これにより、本発明の誘電体では、実質的に、イオン性オリゴマーのみで構成しても、比誘電率を向上しつつ、リーク電流も低減できる。その結果、キャパシタ型蓄電池において高い静電容量が確保されつつ、長時間の蓄電保持が可能となる。
【0017】
また、本発明の誘電体において、イオン性オリゴマーは、架橋構造を有していることがよい。
イオン性オリゴマーが架橋構造を有すると、その架橋構造により形成される分子鎖の網目構造により、イオン性オリゴマーは、その移動がより制限されると考えられる。
つまり、イオン性オリゴマーは、架橋構造により形成される分子鎖の網目内で、イオン性オリゴマーの金属塩構造を構成する金属イオンが分極子として機能するための配向変化(つまり空間電荷分布が生じて分極するための金属イオンの向きの変化)できる状態となる一方で、その移動がより制限されることなると考えられる。
これにより、本発明の誘電体では、イオン性オリゴマーが架橋構造を有すると、未架橋のイオン性オリゴマーに比べ、より効果的に、比誘電率を向上しつつ、リーク電流も低減できる。
【0018】
また、イオン性オリゴマーが架橋構造を有すると、誘電体形成時の塗布液の流動性が低減されることから、キャパシタ型蓄電池作製の際、その流動性から生じる電極間において、誘電体を介した電極間同士が接触するのが抑制され、その結果、キャパシタ型蓄電池の歩留まり悪化が抑制される。
【0019】
以下、本発明の誘電体について、より詳細に説明する。
【0020】
イオン性オリゴマーは、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物である。つまり、イオン性オリゴマーは、分極子として機能する金属イオンを塩構造で化合物(オリゴマー)中に含ませた状態の化合物である。
【0021】
ここで、金属イオンとしては、例えば、周期律表第1族に属する金属のイオン、周期律表2族に属する金属のイオン、周期律表13族に属する金属のイオン、のイオンから選択される1種が好適に挙げられる。
【0022】
周期律表1族に属する金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)が代表的に挙げられる。
周期律表2族に属する金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)が代表的に挙げられる。
周期律表13族に属する金属としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)が代表的に挙げられる。
【0023】
これら金属のイオンの中も、電気陰性度が低いことで分極を生じやすいとの観点から、周期律表1族のイオンが特に好適である。
【0024】
上記金属イオンを金属塩構造として有するイオン性オリゴマーとして具体的には、例えば、金属塩基を持つモノマーを少なくとも重合成分として有し、重合により分子鎖(例えばアルキル鎖、アミド鎖等)が形成された重合体(例えば、モノマー結合数が10個から100個程度のオリゴマー)である。
【0025】
イオン性オリゴマーは、例えば、金属塩基を持つモノマーを少なくとも一つ、その重合成分として有するものであればよく、金属塩基を持つモノマーの単独重合体であってもよいし、他のモノマー(金属塩基を持たないモノマー)との共重合体であってもよい。
但し、イオン性オリゴマーにおいて、金属塩基を持つモノマーは、その重合成分としての比率(モル比:金属塩基を持つモノマー/イオン性オリゴマー)で0.01〜1(望ましくは0.25〜0.75)であることがよい。
【0026】
金属塩基を持つモノマーとしては、例えば、水酸基を持つモノマーであって水酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したモノマーが挙げられる。
また、金属塩基を持つモノマーは、カルボン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したカルボン酸金属塩基を持つモノマー、スルホン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したスルホン酸金属塩基を持つモノマー、ホスホン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したホスホン酸金属塩基、スルフィン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したスルフィン酸金属塩基等も挙げられる。
【0027】
水酸基の水素原子を金属イオンで修飾したモノマーとしては、アリールアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3−メチル−ブテン−1−オール、シトロネロール、シンナミルアルコール等の水酸基の水素原子を修飾(置換)したもの;等が挙げられる。
なお、水酸基の水素原子に対する金属イオンの修飾(置換)は、例えば、上記アルコールに金属ナトリウム等を加えることにより行う。
【0028】
カルボン酸金属塩基を持つモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、3−ブテ酸等のモノマーのカルボン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したものが挙げられる。
スルホン酸金属塩基を持つモノマーとしては、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、等のモノマーのスルホン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したものが挙げられる。
【0029】
これらの中でも、金属塩基を持つモノマーとしては、電気陰性度が高いことで分極を生じやすいとのの観点から、スルホン基のような電子吸引基が望ましい。
【0030】
一方、他のモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アルキルアクリレート(例えば、エチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、tert−ブチルアクリレート等)、アルキルメタクリレート(例えば、エチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、tert−ブチルアクリレート等)、ヒドロキシアクリレー
ト(例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等)、ヒドロキシメタクリレート(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等)、アルコキシアルキルアクリレート(例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等)、アルコキシアルキルメタクリレート(例えば、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート等)、アルケン(エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等)等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、他のモノマーとしては、末端の官能基の分極の大きいことから、アクリル酸やメタクリル酸が望ましい。
【0032】
イオン性オリゴマーは、そのモノマー結合数が例えば10個から100個程度のものであるが、比誘電率を高く、リーク電流を低減する観点から、イオン性オリゴマーを構成するモノマーの結合数は、20以上100以下であることがよく、望ましくは40以上90以下、より望ましくは60以上85以下である。
【0033】
イオン性オリゴマーは、架橋構造を有することがよい(以下、架橋イオン性オリゴマーと称して説明する)。
架橋イオン性オリゴマーは、一部のイオン性オリゴマーに架橋構造を有すること、つまり、架橋されたイオンイオン性オリゴマーと、未架橋のイオン性オリゴマーと、が共存されているものがよい。
【0034】
ここで、イオン性オリゴマーに架橋構造を付与するには、例えば、イオン性オリゴマーとして架橋性基を持つもの(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基等の架橋性基を持つモノマーを重合成分として有するイオン性オリゴマー)と共に、架橋性基と架橋反応する硬化剤(架橋剤)を併用し、イオン性オリゴマーの架橋性基と硬化剤(架橋剤)の架橋性基との架橋反応を生じさせること等で実現できる
【0035】
架橋イオン性オリゴマーは、比誘電率を向上させ、リーク電流を低減するという観点から、そのパルスNMRの緩和時間Tは、90〜650μsであることが望ましく、より望ましくは140〜450μsである。
このパルスNMRの緩和時間Tの調整は、例えば、イオン性オリゴマーの種類や架橋剤(硬化剤)添加量を調整することで行う。
【0036】
なお、パルスNMRの緩和時間Tは,パルスに対する応答信号(自由誘導減衰シグナル:FID)により得られる。応答信号は複数の成分があれば、信号は各成分の和となる。具体的には、Solid−Echo法を用いて測定、得られたFID信号を最小二乗法によって解析し、ガウス型関数及びローレンツ型関数を用いて分子運動性の低いもの(ハードセグメント)、高いもの(ソフトセグメント)のT2Hおよび各成分量の割合を求め、下記の式(1)より緩和時間Tを求める。
具体的には、架橋イオン性オリゴマー全体のT
=(Maa+McTc)/(Ma+Mc)・・・式(1)
で求めることができる。
式(1)中、Taは、ソフトセグメントの緩和時間T2H(μs)を示す。Tcは、ハードセグメントの緩和時間T2H(μs)を示す。Maは、ソフトセグメントの成分量の割合(質量比)を示す。Mcは、ハードセグメントの成分量の割合(質量比)を示す。
【0037】
架橋イオン性オリゴマーは、パルスNMRの緩和時間が短くとも90μs以上がよい。パルスNMRの緩和時間が短くハードセグメントが高すぎると金属塩構造を構成する金属イオンの配向の阻害となることがあるためである。
【0038】
このパルスNMRの緩和時間は、架橋イオン性オリゴマーの動き易さを示す指数であり、この値が小さい程、架橋イオン性オリゴマーの分子鎖の自由度が小さくなる。言い換えれば、この値が小さい程、架橋イオン性オリゴマーの移動制限の度合いが高く、リーク電流が低減される。一方で、このパルスNMRの緩和時間が小さすぎると、架橋イオン性オリゴマーの分子鎖の自由度も小さすぎることを意味し、イオン性オリゴマーの移動制限の度合いが高すぎて、静電容量が小さくなる。
【0039】
ここで、架橋イオン性オリゴマーの架橋割合は、比誘電率を向上させ、リーク電流を低減させる観点から、20〜80%であることがよいが、望ましくは30〜75%である。この架橋割合の調整は、例えば、架橋性基の数や、硬化剤(架橋剤)の添加量を調整することで行う。
【0040】
なお、架橋イオン性オリゴマーの架橋割合は、式(限界硬化剤量/使用硬化剤量)×100で算出される値である。
ここで、限界硬化剤量は、イオン性オリゴマーが有する架橋性基数によって算出、具体的には、(イオン性オリゴマーが有する架橋性基の重量)/(硬化剤が有する反応性基率)によって算出される。
【0041】
架橋イオン性オリゴマーは、未架橋のイオン性オリゴマーの重量平均分子量1200当たりに対して、少なくとも1個の架橋性基を持ち、当該架橋性基の架橋反応(架橋性基と硬化剤との架橋反応)により架橋構造を有することがよい。
架橋性基の数を上記範囲で有することで、適度な大きさの分子鎖の網目構造が形成されて、架橋イオン性オリゴマーの移動を制限でき、比誘電率を向上させると共に、リーク電流が抑制できる。
【0042】
なお、架橋イオン性オリゴマーの架橋性基の数は、架橋性基と反応する酸、塩基反応の当量数により算出、具体的には、架橋イオン性オリゴマーの単位重量あたりに反応する酸または塩基物の量(重さ)によって算出される。
【0043】
次に、本発明の誘電体の製造方法について説明する。
本発明の誘電体は、例えば、イオン性オリゴマー(イオン性オリゴマーを架橋させる場合、イオン性オリゴマー及び硬化剤)を有機溶媒に溶解させた溶液(塗布液)を調整し、これを被塗布物(例えば基板や電極等)に塗布し、乾燥、必要に応じて加熱等を行い形成することができる。
なお、イオン性オリゴマーを架橋させる場合、イオン性オリゴマーは、被塗布物への塗布前に溶液(塗布液)中で架橋させた状態としてもよいし、塗布後に加熱処理等を行って架橋させてもよいが、溶液(塗布液)の流動性を低減し、キャパシタ型蓄電池の歩留り悪化を抑制する観点からは、被塗布物への塗布前に溶液(塗布液)中でイオン性オリゴマーを架橋させた状態としておくことがよい。
【0044】
(蓄電池)
図1は、本発明の蓄電池の一例を示す概略構成図である。
本発明の蓄電池は、図1に示すように、互いに対向して配置された上部電極11及び下部電極12からなる一対の電極と、上部電極11及び下部電極12の間に配置される誘電体10と、で構成されている。
そして、誘電体10として、上記本発明の誘電体が適用されている。
【0045】
本発明の蓄電池において、一対の電極(上部電極11及び下部電極12)は、金属(例えば、金、銀、銅、ニッケル等)、金属酸化物(例えば、SnO(酸化スズ)、In(酸化インジウム)、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化亜鉛インジウム))、有機材料(例えばポリピロールやポリチオフェン等)の導電材料で構成できる。
また、一対の電極(上部電極11及び下部電極12)は、樹脂基板上に上記導電材料からなる導電膜を形成したものを適用できる。
【0046】
本発明の蓄電池は、一対の電極(上部電極11及び下部電極12)の間に誘電体を配置した1つのユニットを、複数直列又は並列に接続してユニット化したものであってもよい。
本発明の蓄電池は、例えば、シート状、また、これを巻いたロール状等の形状で構成できる。
【0047】
本発明の蓄電池は、例えば、上記本発明の誘電体(本発明の高比誘電率固体材料)が含まれる塗布液を、一対の電極の一方(下部電極12)に塗布して塗膜を形成した後、一対の電極の一方の他方(上部電極11)を重ねあわせて、塗膜を挟持した後、当該塗膜を乾燥する等の処理(必要に応じて加熱処理)を施すことで、誘電体10を形成し、作製できる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0049】
(実施例1)
・イソシアネート硬化剤: 2質量部
・イオン性オリゴマーA: 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
ここで、イオン性オリゴマーAは、次のようにして作製した。
リチウム塩構造を持つ2−ヒドロキシエチルアクリレート10質量部、エチルアクリレート20質量部、及び2−エチルヘキシルアクリレート30質量部を溶剤(酢酸エチル)50質量部に添加し、110℃6時間加熱処理を行い、イオン性オリゴマーAを得た。得られたイオン性オリゴマーAは、モノマー結合数60、重量平均分子量8000。重量平均分子量1200当たりに対して、1個の架橋性基(−OH基)を持つものであった。
上記組成を混合して、イオン性オリゴマーの架橋割合が30%となるように加熱処理を行い誘電体形成用塗布液を得た。
【0050】
得られた誘電体形成用塗布液を、下部電極としての厚み0.2mmの銅板上に、バーコート法により、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗工し、110℃で10分間乾燥して、形成した塗膜上に、上部電極としての厚み0.2mmの銅板を貼り付け、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0051】
(実施例2)
・イソシアネート硬化剤: 3質量部
・イオン性オリゴマーA: 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、イオン性オリゴマーの架橋割合が45%となるように加熱処理を行い誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0052】
(実施例3)
・イソシアネート硬化剤: 4質量部
・イオン性オリゴマーA: 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、イオン性オリゴマーの架橋割合が60%となるように加熱処理を行い誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間
に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0053】
(実施例4)
・イソシアネート硬化剤: 5質量部
・イオン性オリゴマーA: 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、イオン性オリゴマーの架橋割合が75%となるように加熱処理を行い誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間
に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0054】
(実施例5)
・イオン性オリゴマーA: 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。なお、塗布液中のイオン性オリゴマーの架橋割合は0%である(つまり、未架橋である)。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0055】
(実施例6)
・イソシアネート硬化剤: 1.2質量部
・イオン性オリゴマーA: 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、イオン性オリゴマーの架橋割合が18%となるように加熱処理を行い誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0056】
(実施例7)
・イソシアネート硬化剤: 5.5質量部
・イオン性オリゴマーA: 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、イオン性オリゴマーの架橋割合が82%となるように加熱処理を行い誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0057】
(比較例1)
・2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体からなる樹脂(重合比7:3、重量平均分子量20万、水酸基の数1[個/重量平均分子量1000]): 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0058】
(参考例1)
・2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体からなる樹脂(重合比7:3、重量平均分子量20万、水酸基の数1[個/重量平均分子量1000]): 100質量部
・金属イオン(ナトリウムイオン): 10質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0059】
(評価)
−静電容量(比誘電率)−
各例で作製したキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)に対し、LCRメータを用い、周波数10Hz、10Vの条件の下、静電容量を測定した。そして、測定した静電容量に基づき、比誘電率を算出した。
【0060】
−リーク電流−
各例で作製したキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)について、電界強度(印加電圧)の値を変化させたときのリーク電流値の変化を測定した。なお、測定面積は、0.25cmとした。
そして、キャパシタ型蓄電池(コンデンサ)において、電界強度0〜1500V/cmの範囲で測定されたリーク電流の最大値を調べた。なお、リーク電流の最大値は、9個のキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)の平均値である。
【0061】
−パルスNMRの緩和時間T
緩和時間T2H(スピン−スピン緩和時間)測定はパルスNMRを用いて行った。測定条件は、観測核:1H、磁石:永久磁石0.85T、検波方式:QD方式、パルス系列:Solid−Echo法、パルス幅:2.0μs、パルス間隔8.0μs、パルス繰り返し時間:3.0s、測定温度25℃とした。そこから得られたハードセグメント、ソフトセグメントのT2Hおよび各成分の割合を用いて上記式(1)で緩和時間Tを求めた。
【0062】
各例で作製したキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)の誘電体の詳細と共に、上記評価結果を表1に示す。
また、図2に、実施例1〜7、比較例1、及び参考例1における、パルスNMR緩和時間と静電容量とリーク電流の関係をグラフで示す。
【0063】
なお、表1の誘電体の詳細(実施例1〜7)において、イオン性オリゴマーの架橋割合(%)は、イソシアネート硬化剤の限界硬化剤量は21.6質量部であり、これに基づき算出した。
また、表1の誘電体の詳細において、イオン性オリゴマーの分子鎖網目領域(イオン性オリゴマーの重量平均分子量Mw/架橋点の数)は、未架橋のイオン性オリゴマーを適用した例(実施例5)ではイオン性オリゴマーの重量平均分子量を示し、比較例1及び参考例1では樹脂の重量平均分子量を示している。
【0064】
【表1】

【0065】
上記結果から、本実施例は、比較例1に比べ、静電容量、つまり誘電体の比誘電率が大きくなることがわかる。
また、イオン性オリゴマーを架橋した実施例1〜4、6、7では、未架橋のイオン性オリゴマーを適用した実施例5に比べ、リーク電流が低減されていることがわかる。
また、所定の架橋割合、つまり所定のパルスNMR緩和時間Tとなるように、イオン性オリゴマーを架橋させた実施例1〜4は、実施例6、7に比べて、静電容量、つまり誘電体の比誘電率が大きく、且つリーク電流も低減されていることがわかる。
【0066】
なお、参考例1では、比較例1に比べ、静電容量、つまり誘電体の比誘電率が大きくなっていることがわかる。
一方で、本実施例は、参考例1に比べ、リーク電流が低減されていることがわかる。
【符号の説明】
【0067】
10 誘電体
11 上部電極
12 下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物のみからなる誘電体。
【請求項2】
前記金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物が、架橋構造を有する化合物である請求項1に記載の誘電体。
【請求項3】
前記架橋構造を有する化合物のパルスNMRの緩和時間Tが、90〜650μsである請求項2に記載の誘電体。
【請求項4】
前記架橋構造を有する化合物の架橋割合が、20〜80%である請求項2又は3に記載の誘電体。
【請求項5】
一対の電極と、
前記一対の電極の間に配置された誘電体であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の誘電体と、
を有するキャパシタ型蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−37848(P2013−37848A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171987(P2011−171987)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】