説明

誘電特性測定装置および誘電特性測定方法

【課題】細胞を電極間に静止させるような困難な操作を伴うことなく、細胞の誘電泳動特性を簡易に測定する。
【解決手段】細胞Aを含む溶媒Bを流動させる流路2と、該流路2内に配置される電極6と、該電極6に高周波電圧を加えて溶媒B中に高周波不平等電界を発生させる電圧供給部7とを備え、流路2の流通方向に間隔をあけて複数配置される誘電泳動発生部3と、各誘電泳動発生部3を通過する細胞Aの通過時間をそれぞれ計測する通過時間計測部5とを備え、各誘電泳動発生部3が、異なる周波数の高周波電圧を電極6に加える誘電特性測定装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性測定装置および誘電特性測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞懸濁液中に配置した電極に高周波電圧を加えて、細胞懸濁液内に不平等電界を発生させ、細胞に働く誘電泳動力と重力および浮力との相関に基づく細胞の静止位置の差によって細胞の活性を測定する誘電泳動活性解析方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−224171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法は、平板状電極と針状電極との間に高周波電圧を加えることにより形成した不平等電界の間に細胞を固定してその静止位置を測定する必要があり、その測定は困難である。特に、電極間に形成する不平等電界の強度を変化させて、その都度静止位置を測定するためには、細胞を電極間から外れないように保持しておかなければならないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞を電極間に静止させるような困難な操作を伴うことなく、細胞の誘電泳動特性を簡易に測定することができる誘電特性測定装置および誘電特性測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞を含む溶媒を流動させる流路と、該流路内に配置される電極と、該電極に高周波電圧を加えて溶媒中に高周波不平等電界を発生させる電圧供給部とを備え、前記流路の流通方向に間隔をあけて複数配置される誘電泳動発生部と、各誘電泳動発生部を通過する細胞の通過時間をそれぞれ計測する通過時間計測部とを備え、前記各誘電泳動発生部が、異なる周波数の高周波電圧を電極に加える誘電特性測定装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、電圧供給部の作動により電極に高周波電圧を加えることによって、溶媒中に高周波不平等電界が発生している流路内に細胞を流動させると、細胞の誘電泳動特性によって細胞には誘電泳動力が作用する。誘電泳動力は、電極に加える高周波電圧の周波数を変化させることにより変化し、細胞の流動速度を変化させる。その結果、異なる周波数の高周波電圧を加えている誘電泳動発生部を細胞が通過する際の通過時間は、高周波電圧の周波数に応じて変化する。
【0008】
すなわち、誘電泳動発生部における細胞の通過時間は、細胞に作用する誘電泳動力に比例する。したがって、通過時間計測部により、各誘電泳動発生部を細胞が通過する際の通過時間を計測し、高周波電圧の周波数と通過時間との関係を複数の誘電泳動発生部において測定することにより、誘電泳動力の周波数特性、つまり、細胞の誘電泳動特性を簡易に測定することができる。
【0009】
この場合において、流路に流通方向に間隔をあけて複数の誘電泳動発生部を配置しているので、流路内に細胞を流動させるだけで、複数の周波数について誘電泳動力を測定することができ、電極間に細胞を静止させるような困難な操作を伴うことなく、細胞の誘電泳動特性を簡易かつ短時間に測定することができる。
【0010】
上記発明においては、前記通過時間計測部が、前記誘電泳動部の上流側および下流側にそれぞれ配置され、前記流路中を流動してくる細胞を検出する細胞検出部と、該細胞検出部により細胞が検出された検出時刻に基づいて通過時間を算出する時間算出部とを備えていてもよい。
このようにすることで、細胞が流路内を流動して各誘電泳動部に入る前に上流側に配置された細胞検出部により検出され、各誘電泳動部から出た後に下流側に配置された細胞検出部により検出される。各細胞検出部により細胞が検出された検出時刻の差分が時間算出部により演算されることにより通過時間が算出される。
【0011】
また、本発明は、流通方向に間隔をあけた複数の位置に、異なる周波数の高周波不平等電界を発生させた流路内に細胞を含む溶媒を流動させ、各高周波不平等電界の発生部位を通過する細胞の通過時間を計測し、周波数に対する通過時間の関係により細胞の誘電泳動特性を測定する誘電特性測定方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、流通方向に間隔をあけた位置に異なる周波数の高周波不平等電界を発生させた流路内に細胞を流動させるだけで、複数の周波数について誘電泳動力を測定することができ、電極間に細胞を静止させるような困難な操作を伴うことなく、細胞の誘電泳動特性を簡易かつ短時間に測定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞を電極間に静止させるような困難な操作を伴うことなく、細胞の誘電泳動特性を簡易に測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る誘電特性測定装置1および誘電特性測定方法について、図1〜図4を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る誘電特性測定装置1は、図1に示されるように、細胞Aを含む溶媒Bを流動させる単一の流路2と、該流路2の流通方向に間隔をあけて複数配置された誘電泳動発生部3と、各誘電泳動発生部3の上流側および下流側にそれぞれ配置された細胞検出部4と、該細胞検出部4からの出力信号に基づいて細胞の誘電泳動特性を算出する誘電特性算出部5とを備えている。
【0015】
誘電泳動発生部3は、流路内に配置される電極6と、該電極6に高周波電圧を供給する電圧供給部7とを備えている。電極6は、例えば、図2に示されるように、複数の直棒状電極部6a,6bを平行に間隔をあけて配列してなる2つの櫛歯状電極6A,6Bを、各櫛歯状電極6A,6Bの直棒状電極部6a,6bが交互に配置されるように配置することにより構成されている。
【0016】
このような櫛歯状電極6A,6Bに高周波電圧を加えると、図3に示されるように、電界強度の勾配を有する高周波不平等電界が発生するようになっている。図3は電界強度を等高線により示しており、電界強度は、直棒状電極部6a,6bに近いほど強く、離れる程弱くなっている。
【0017】
各誘電泳動発生部3の電圧供給部7は、異なる周波数の高周波電圧をそれぞれの電極6に加えるようになっている。したがって、各誘電泳動発生部3の電極6の周囲に発生する高周波不平等電界は相違し、そこを通過する細胞Aに作用する誘電泳動力も相違するようになっている。
【0018】
細胞Aに作用する誘電泳動力が変化すると、細胞Aを電極6に引きつける力あるいは電極6から遠ざける力が変化するので、流路2内における細胞Aの流動速度が変化するようになっている。すなわち、細胞Aに作用する誘電泳動力と流動速度とは比例あるいは反比例している。
【0019】
細胞検出部4は、光学式(レーザの後方散乱)あるいは静電容量式のセンサであって、流路2内を通過する細胞Aを検出して検出信号を出力するようになっている。
誘電特性算出部5は、タイマーを内蔵し、各細胞検出部4が細胞Aを検出した時点の時刻をそれぞれ取得するようになっている。
【0020】
そして、誘電泳動算出部5は、誘電泳動発生部3の下流側の細胞検出部4が細胞Aを検出した時刻から上流側の細胞検出部4が細胞Aを検出した時刻を減算することにより、2つの細胞検出部4間を細胞Aが通過するのに要した通過時間を算出するようになっている。これにより、1つの誘電泳動発生部3に対して高周波電圧の周波数と通過時間との関係が1つ得られるようになっている。
【0021】
誘電泳動発生部3は、流路2に流通方向に沿って複数配置され、各誘電泳動発生部3の電極6に加える高周波電圧の周波数が異なるので、高周波電圧の周波数と通過時間との関係が誘電泳動発生部3の数だけ得られることになる。
このようにして得られた複数点の通過時間を周波数に対してプロットすることにより、図4に示されるように、通過時間の周波数特性を得ることができる。
【0022】
上述したように、誘電泳動力と細胞Aの流動速度とは比例あるいは反比例の関係があるので、通過時間の周波数特性が得られることにより、誘電泳動力の周波数特性、すなわち、細胞Aの誘電泳動特性を得ることができるようになっている。
【0023】
このように構成された本実施形態に係る誘電特性測定装置1を用いた誘電特性測定方法について以下に説明する。
本実施形態に係る誘電特性測定装置1を用いて細胞Aの誘電特性を測定するには、流路2内に所定の溶媒Bを一定の流速で流動させ、流通方向に間隔をあけて配置された複数の誘電泳動発生部3において異なる周波数の高周波電圧によって高周波不平等電界を発生させておく。
【0024】
この状態で、流路2の上流側から細胞Aを1つ流路2内に投入する。流路2内を流動する細胞Aは、高周波不平等電界が発生していない状態では溶媒の流れに乗って一定の流速で流動するが、高周波不平等電界が発生している場合には、誘電泳動発生部3毎に誘電泳動力を受けてその流動速度が変化する。例えば、当該周波数において負の誘電泳動特性を有する細胞Aは、正の誘電泳動力によって引きつけられて電極6により引き留められるので、流動速度は遅くなる。この遅くなる度合いは、誘電泳動力の大きさにより変動する。
【0025】
その結果、各誘電泳動発生部3の上流側および下流側に配置されている細胞検出部4により細胞Aが検出されることにより算出される通過時間が、電極6に加える高周波電圧の周波数によって変化するので、流路2に沿って複数の誘電泳動発生部3を通過させられることにより、複数の周波数と誘電泳動力との関係が取得され、図4に示される細胞Aの誘電泳動特性が得られることになる。
【0026】
すなわち、本実施形態に係る誘電特性測定装置1および誘電特性測定方法によれば、流路2内に細胞Aを流動させるだけで、電極6間に細胞Aを静止させるような困難な操作を伴うことなく、誘電泳動特性を簡易かつ短時間の内に測定することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る誘電特性測定装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の誘電特性測定装置の誘電泳動発生部の電極の一例を示す図である。
【図3】図2の電極の周囲に形成される高周波不平等電界を等高線により示す図である。
【図4】図1の誘電特性測定装置により測定された細胞の誘電泳動特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
A 細胞
B 溶媒
1 誘電特性測定装置
2 流路と、
3 誘電泳動発生部
4 細胞検出部
5 誘電特性算出部(通過時間計測部:時間算出部)
6 電極
7 電圧供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む溶媒を流動させる流路と、
該流路内に配置される電極と、該電極に高周波電圧を加えて溶媒中に高周波不平等電界を発生させる電圧供給部とを備え、前記流路の流通方向に間隔をあけて複数配置される誘電泳動発生部と、
各誘電泳動発生部を通過する細胞の通過時間をそれぞれ計測する通過時間計測部とを備え、
前記各誘電泳動発生部が、異なる周波数の高周波電圧を電極に加える誘電特性測定装置。
【請求項2】
前記通過時間計測部が、前記誘電泳動部の上流側および下流側にそれぞれ配置され、前記流路中を流動してくる細胞を検出する細胞検出部と、該細胞検出部により細胞が検出された検出時刻に基づいて通過時間を算出する時間算出部とを備える請求項1に記載の誘電特性測定装置。
【請求項3】
流通方向に間隔をあけた複数の位置に、異なる周波数の高周波不平等電界を発生させた流路内に細胞を含む溶媒を流動させ、各高周波不平等電界の発生部位を通過する細胞の通過時間を計測し、周波数に対する通過時間の関係により細胞の誘電泳動特性を測定する誘電特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−294003(P2009−294003A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146317(P2008−146317)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】