説明

読み取り媒体、読み取り媒体作製装置及び読み取り媒体作製方法

【課題】 ゲートの磁界によって読み取り媒体の磁性ワイヤを検知する際に、読み取り媒体の向きによって磁性ワイヤが検知されなくなる現象を回避する。
【解決手段】 ゲート50、50間を読み取り媒体54Aが通過すると、磁性ワイヤ20Aが励磁アンテナ52によって励磁され、検知アンテナによってそのバルクハウゼン効果が検知される。磁性ワイヤ20Aの形状は、半周期が一つ含まれる正弦波である。これにより、読み取り媒体54Aを位置1〜位置6に示す方向に配置しても、磁性ワイヤ20Aの少なくとも一部に水平成分が形成される。ゲート50、50の真中付近で磁束の方向に対して磁性ワイヤが垂直方向にのみ配置されると磁性ワイヤが検知されないが、読み取り媒体54Aをどのような方向に向けても磁性ワイヤ20Aの水平成分が存在するので、磁性ワイヤ20Aを確実に検知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状基材内に磁性体が形成された読み取り媒体、読み取り媒体作製装置及び読み取り媒体作製方法に関し、特に、所定の交番電界を加えたときに生じる磁化反転または磁歪振動する磁気特性を有する磁性体をシート状基材内に形成することで、磁性体を読み取り可能とした読み取り媒体、読み取り媒体作製装置及び読み取り媒体作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティ強化を目的として、物品に内蔵された各磁気素子の磁化反転磁界の強度を測定することにより物品を識別する方法が提案されている。
【0003】
これは、模倣することが困難な信号を発する磁気素子をICカードなどの小型携帯端末に組み込み、それを使用する際に交番電界を印加することで問い合わせをし、小型携帯端末に組み込まれた磁気素子が急峻な磁化反転により発した固有の信号を検知することで、小型携帯端末を同定してセキュリティを確保するものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、磁性材料からなる複数のアモルファス金属ワイヤを一定方向に2枚の紙にラミネート方式で漉き込んだ用紙が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、強磁性材料よりなる直線状の磁性線条を用紙内に埋め込んだ安全保護用紙が提案されている。
【特許文献1】特開2002−317398号公報
【特許文献2】特開平7−32778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の用紙では、アモルファス金属ワイヤとして直径100μm〜300μmのものが使用されており、2枚の紙をよほど厚くしない限り、アモルファス金属ワイヤが挿入されていることが目視及び指の感触によって認識されるという不具合がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の安全保護用紙は、一本の連続するまっすぐな磁性線条を用紙内に埋め込んでいるため、現在良く使われている双子のゲートを通過するときに、安全保護用紙の向きによっては磁性線条を検知できない場合がある。すなわち、その安全保護用紙を一本の磁性線条が地面に対して垂直になるように抱きかかえて双子ゲートのちょうど真ん中付近を通過した場合、ゲートからの磁界がその一本の磁性線条に対して近似的に垂直方向に向くので、その一本の磁性線条を検知できなくなる。このように安全保護用紙の通過を検知できないことは、オフィスなどに設置される双子ゲートで良く見られる現象である。
【0008】
一つの解決策として、例えば、ランダムにカットした磁性ワイヤを用紙に漉きこむということが考えられる。しかし、磁性ワイヤを予めカットして置かなければならなく、製造時のコストと工数が発生する。またカットした磁性ワイヤを紙に漉きこむことは技術的困難が生じている。任意形状の磁性ワイヤでは漉きこみ方式でも挟み込み方式でも大量生産は殆ど不可能である。したがって、一本の磁性ワイヤを紙に挟み込む方式において、大量生産可能でかつ双子ゲート方式のアンテナにおいて用紙の磁性ワイヤ認識率が高まるような形状が望まれている。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、読み取り媒体をどのような方向に向けても検知可能であると共に、コストを上昇することなく大量生産が容易な読み取り媒体、読み取り媒体製造装置及び読み取り媒体作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明に係る読み取り媒体は、シート状基材内に線状の磁性体が形成され、読み取り装置が形成する磁界内で前記磁性体の磁気特性が検知される読み取り媒体であって、前記磁性体は、前記シート状基材をどのような方向に向けても、前記磁界の方向に対して同方向成分を有するような形状を少なくとも一部に持つことを特徴としている。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、磁性体は、シート状基材をどのような方向に向けても、磁界の方向に対して同方向成分を有するような形状を少なくとも一部に持っている。このため、読み取り装置が形成する磁界内で、読み取り媒体をどのような方向に向けても、磁界の方向に対して同方向成分を有するような形状を持つので、磁界が1本の磁性体に対して近似的に垂直方向にのみ向くことがない。このため、読み取り装置が形成する磁界内を通過するときに、読み取り媒体が検知されないといった現象を回避することが可能となる。また、シート状基材内に所定形状の線状の磁性体を形成するので、ランダムに漉き込む場合と比べて製造が容易であり、設備投資におけるコストを低減できる。
【0012】
請求項2に記載の発明に係る読み取り媒体は、シート状基材内に線状の磁性体が形成され、読み取り装置が形成する磁界内で前記磁性体の磁気特性が検知される読み取り媒体であって、前記磁性体は、前記シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状とされたことを特徴としている。
【0013】
ここで、水平成分の長さとは、地表真上から光を当てて投影したと仮定したときに、ある長さの投影線が地表水平方向に存在することを言う。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、シート状基材内に線状の磁性体が形成されており、この磁性体は、シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状とされている。このため、読み取り装置が形成する磁界内で、読み取り媒体をどのような方向に向けても、磁性体が水平成分の長さを持つので、磁界が1本の磁性体に対して近似的に垂直方向にのみ向くことがない。このため、読み取り装置が形成する磁界内を通過するときに、読み取り媒体が検知されないといった現象を回避することが可能となる。また、シート状基材内に所定形状の線状の磁性体を形成するので、ランダムに漉き込む場合と比べて製造が単純であり、設備投資におけるコストを低減できる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の読み取り媒体において、前記磁性体の形状は、正弦波の半周期が少なくとも一つ含まれることを特徴としている。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、磁性体の形状は正弦波の半周期が少なくとも一つ含まれているので、読み取り媒体をどのような方向に向けても、読み取り装置が形成する磁界が磁性体に対して近似的に垂直方向にのみ向くことがない。このため、磁界内を通過するときに、磁性体をより確実に検知することが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の読み取り媒体において、前記磁性体の形状は、ある任意の位置で線対称又は/及び点対称をなしていることを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、磁性体の形状はある任意の位置で線対称又は/及び点対称をなしているので、読み取り媒体をどのような方向に向けても、読み取り装置が形成する磁界が磁性体に対して近似的に垂直方向にのみ向くことがない。このため、磁界内を通過するときに、磁性体をより確実に検知することが可能となる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の読み取り媒体において、前記磁性体の全長は、前記シート状基材の長手方向の長さよりも長いことを特徴としている。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、磁性体の全長はシート状基材の長手方向の長さよりも長いため、シート状基材の長手方向に1本の磁性体を形成した場合よりも検知の際に大きい出力が得られる。このため、磁界内を通過するときに、磁性体をより確実に検知することが可能となる。
【0021】
請求項6に記載の発明に係る読み取り媒体作製装置は、2つのシート状基材の間にワイヤ状磁性体を挟んで接着させることにより読み取り媒体を作製する読み取り媒体作製装置であって、一定方向に移動する前記2つのシート状基材の間に前記ワイヤ状磁性体を挟んで圧着させる押圧手段と、前記ワイヤ状磁性体を軸線方向に対して直交する方向に移動させながら送り出す磁性体送出手段と、を備え、前記2つのシート状基材の間に挟まれる前記ワイヤ状磁性体の面形状を、前記シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状とすることを特徴としている。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、押圧手段によって一定方向に移動する2つのシート状基材の間にワイヤ状磁性体を挟んで圧着させることで、読み取り媒体が作製される。その際、磁性体送出手段によってワイヤ状磁性体を軸線方向に対して直交する方向に移動させながら送り出すので、ワイヤ状磁性体の面形状を、シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状とすることができる。このため、読み取り装置が形成する磁界内で、読み取り媒体をどのような方向に向けても、磁界が磁性体に対して近似的に垂直方向にのみ向くことがない。このため、磁界内を通過するときに、読み取り媒体が検知されないといった現象を回避すること可能となる。また、2つのシート状基材の間にワイヤ状磁性体を挟んで圧着するので、磁性体をランダムに漉き込む場合と比べて製造が容易で大量生産が可能であり、設備投資のコストを低減できる。
【0023】
請求項7に記載の発明に係る読み取り媒体作製方法は、2つのシート状基材の間にワイヤ状磁性体を挟んで接着させることにより読み取り媒体を作製する読み取り媒体作製方法であって、前記ワイヤ状磁性体を軸線方向に対して直交する方向に移動させながら送り出し、一定方向に移動する前記2つのシート状基材の間に前記ワイヤ状磁性体を挟んで圧着させ、前記2つのシート状基材の間に挟まれる前記ワイヤ状磁性体の面形状を、前記シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状としたことを特徴としている。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、ワイヤ状磁性体を軸線方向に対して直交する方向に移動させながら送り出し、一定方向に移動する2つのシート状基材の間にワイヤ状磁性体を挟んで圧着させることで、読み取り媒体を作製する。その際、ワイヤ状磁性体を軸線方向に対して直交する方向に移動させながら送り出すので、ワイヤ状磁性体の面形状を、シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状とすることができる。このため、読み取り装置が形成する磁界内で、読み取り媒体をどのような方向に向けても、磁界が磁性体に対して近似的に垂直方向にのみ向くことがない。このため、磁界内を通過するときに、読み取り媒体が検知されないといった現象を回避すること可能となる。また、2つのシート状基材の間にワイヤ状磁性体を挟んで圧着するので、磁性体をランダムに漉き込む場合と比べて製造が容易で大量生産が可能であり、コストを低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、読み取り装置が形成する磁界内を通過するときに、読み取り媒体が検知されないといった現象を回避でき、読み取り媒体を利用したシステムのセキュリティーレベルを高めることができる。また、シート状基材内に所定形状の線状の磁性体を形成するので、製造が容易であり、また、連続的に大量に生産する用紙等の製造方法に組み込みやすいため、低コストを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る読み取り媒体作製装置の最良の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1には、第1実施形態に係る読み取り媒体作製装置10が示されている。
【0028】
この読み取り媒体作製装置10は、パルプ材等の紙で構成される第一の基材11と第二の基材13とを張り合わせるためのラミネーターと呼ばれる装置であり、第一の基材11が巻き付けられた送りローラ12と、この送りローラ12の送り出し方向の上方部に、第二の基材13が巻き付けられた送りローラ14とを備えている。送りローラ12と送りローラ14は回転可能に軸支されており、送りローラ12が図1中の時計回りに回転し、送りローラ14が反時計回りに回転することで、第一の基材11、第二の基材13をそれぞれ矢印A方向、矢印B方向に送り出すように構成されている。
【0029】
図2に示すように、送りローラ12の斜め上方には、磁性ワイヤ20が巻き付けられたボビン22が回転可能に軸支されている。ボビン22の軸22Aにはモータ24が連結されており、ボビン22が図1中の反時計回りに回転することで、磁性ワイヤ20が矢印C方向に送り出される。モータ24は支持部材26に支持されており、支持部材26は1対のレール28上を走行可能となっている。レール28は、図示しないフレームに固定支持されている。また、ソレノイド30が図示しないフレームに固定支持されている。支持部材26には、ソレノイド30のロッド30Aが連結されており、ロッド30Aが進退することで、支持部材26が磁性ワイヤ20の軸線方向に対してほぼ直交する方向に往復動するように構成されている。これにより、モータ24に連結されたボビン22も矢印D方向に往復動する。この往復動は、ロッド30Aの進退を調節することで、ボビン22がある固定位置から左右に周期的に動くように設定する。
【0030】
磁性ワイヤ20の移動方向下流側には、磁性ワイヤ20に接着剤を供給する接着剤塗布装置32が配設されている。この接着剤塗布装置32は、接着剤の収容部の先端に設けられたラミネートされる紙と同じ幅を持ったノズル(図示省略)から接着剤を一定量供給するものである。即ち紙が接着剤によってラミネートされると同時に磁性ワイヤ20も2つの紙でラミネートされる構造となっている。接着剤には、ポリエチレン樹脂、デンプン系又はウレタン系の接着剤が用いられている。
【0031】
第二の基材13の送り出し方向下流側には、支持ローラ34が配設されており、第二の基材13は支持ローラ34に巻き掛けられて移動する。また、第一の基材13の送り出し方向下流側には、支持ローラ37が配設されており、第一の基材13は支持ローラ37に巻き掛けられて移動する。支持ローラ34、及び支持ローラ37の下流側には、第二の基材13と、ボビン22から送り出された磁性ワイヤ20と、第一の基材11とを引き寄せて圧接する1対のローラ36、38が配設されている。図2に示すように、ローラ38の軸にはモータ40が連結されており、ローラ38を図1中の時計回りに回転させる。ローラ38の回転に伴い、ローラ36が従動回転する。ローラ36、38の押圧部では、第一の基材11と第二の基材13との間に接着剤が塗布された磁性ワイヤ20が挟み込まれ、接着剤によって第一の基材11と第2の基材13がラミネートされる。
【0032】
また、ローラ36、38の搬送方向下流側には、巻き上げローラ44が配設されており、巻き上げローラ44の軸にモータ46が連結されている。モータ46によって巻き上げローラ44が図1中の時計回りに回転し、ローラ36、38の押圧部でラミネートされた読み取り媒体42を巻き上げる。
【0033】
モータ24、40、46は、ステッピングモータであり、第一の基材11及び第二の基材13の搬送速度、磁性ワイヤ20の送り出し速度、第一の基材11及び第二の基材13の巻き上げ速度が調整される。
【0034】
次に、読み取り媒体作製装置10の作用について説明する。
【0035】
送りローラ12から送り出された第一の基材11が矢印A方向に移動し、送りローラ14から送り出された第二の基材13が矢印B方向に移動する。第二の基材13は、支持ローラ34を介して約90°の方向に移動する。また、ボビン22の回転により磁性ワイヤ20が矢印C方向に送り出される。その際、ソレノイド30のロッド30Aの進退により、ボビン22がある固定位置に対して左右(矢印D方向)に往復動する。送り出された磁性ワイヤ20に接着剤塗布装置32から接着剤が供給される。
【0036】
そして、第一の基材11と、磁性ワイヤ20と、第二の基材13がローラ36、38によって引き寄せられ、第一の基材11と第二の基材13の間に磁性ワイヤ20が挟み込まれた状態で接着剤によってラミネートされる。ラミネートされた媒体42は、移動方向下流側の巻き上げローラ44によって巻き上げられる。ロール状の媒体42は、図4に示すように、所定の寸法(例えばA4)に切断して読み取り媒体54Aとして使用される。
【0037】
このような読み取り媒体作製装置10では、図3に示すように、ソレノイド30によってボビン22がある固定位置から左右(矢印D方向)に周期的に動くので、第一の基材11及び第二の基材13の送り速度に基づいて巻き込まれる磁性ワイヤ20を図4(A)に示すように正弦波状の磁性ワイヤ20Aにしたり、図4(B)に示すように半円を連続的に左右に書き込んだ形状の磁性ワイヤ20Bとすることができる。従って、巻き込まれた磁性ワイヤは、読み取り媒体の仮想線に対して線対称のものができる。図4(A)に示すように、A4寸法の読み取り媒体54Aの面上の点47に対して完全に点対称の形状に裁断することもできるが、波の幅によっては、即ち読み取り媒体一枚に付き幾つもの波形が出来る場合は必ずしも完全に点対称になるように裁断する必要はない。ここで点対称とは、読み取り媒体54をそれを含む平面上での任意角への回転と0又は1回の表裏の反転で、元の磁性ワイヤ20の形状に磁性ワイヤ20が重ね合わせ可能であることを言う。
【0038】
なお、この様な方式(特に半円形状の場合)は、磁性ワイヤを直線に挟み込む方法に比べて生産効率が落ちる。しかし、第一の基材11、第二の基材13の送り速度が遅くなれば磁性ワイヤ20を挟み込む際に発生する張力が少なくなり、磁性ワイヤ20の磁気特性が失われにくくなるメリットも生じる。
【0039】
また、第一の基材11、第二の基材13の間に1本の磁性ワイヤ20を挟み込んで接着させるので、連続的に大量に生産することができ、コストを低減できる。
【0040】
図5(A)は、読み取り装置であるゲート50、50の概略図であり両ゲートは地表に対し垂直に立てられている。また、図5(B)は、読み取り媒体54Aがゲート50、50を通過する方向およびその際の読み取り媒体54Aの地表やゲート50、50に対する向きを表現している。なお以下より水平成分という言葉を度々使うが、水平成分の長さとは、地表真上から光を当てて投影したと仮定したときに、ある長さの投影線が地表水平方向に存在することを言う。
【0041】
ゲート50、50には、コイルからなる励磁アンテナ52が対向配置されており、励磁アンテナ52の中心線が進行方向に対して直交するように配置されている。磁性ワイヤ20は、ゲート50、50の励磁アンテナ52によって励磁され、検知アンテナによってそのバルクハウゼン効果が検知される。なお検知アンテナは励磁アンテナとは別に設置しても良いし、励磁アンテナ近傍に重ねるように設置しても良い。また励磁アンテナと検知アンテナをタイムシェアリングにより同じコイルでもって実現することも可能である。従って本件では特にその指定をしていない。図6に示すように、ゲート50、50の間では、励磁アンテナ52からの磁束の向きがゲート50、50と直交する方向に伸びて中央部でぶつかるような磁場が形成されている。その際、励磁は励磁アンテナ52からの磁束の向きに対しての磁性ワイヤ20の余弦(cosine)成分、即ち磁束の向きに対する磁性ワイヤ20の成分(図5中の水平成分)に比例して大きくなる。したがって、図7に示すように、直線の磁性ワイヤ102が形成された読み取り媒体100を上下方向に抱きかかえた場合(位置5の場合)、磁束の向きが磁性ワイヤ102に対して近似的に垂直方向となり、磁束の向きに対する磁性ワイヤの成分が殆ど無くなってしまう。これに対して、図4(A)に示すような正弦波状の点対称の磁性ワイヤ20Aが形成されていれば、図5(B)に示すように、読み取り媒体54Aを縦に抱きかかえていても(位置5の場合)、横に抱きかかえていても(位置6の場合)、ゲート50、50から垂直に出る磁場の方向に対する磁性ワイヤ20Aの成分がバルクハウゼン効果を十分起こさせるに十分な長さを維持できる。このため、ゲート50、50内で読み取り媒体54Aをどのような方向に向けても、検知アンテナで磁性ワイヤ20Aを検知することができる。
【0042】
また、磁性ワイヤ20Aの全長は、読み取り媒体54の長手方向の長さよりも長いため、図7に示すように、読み取り媒体100の長手方向に直線の磁性ワイヤ102を形成した場合よりも大きい出力が得られる。このため、磁性ワイヤ20Aをより確実に検知することが可能となる。
【0043】
同様に、図4(B)に示す磁性ワイヤ20Bは、半円を直径分だけずらした形状であるので、そのずらしを元に戻せば円形となる。従って、読み取り媒体54Bを縦横に限らず任意の角度に傾けても、ゲート50、50から垂直に出る磁場の方向に対する磁性ワイヤ20Bの成分がバルクハウゼン効果を十分起こさせるに十分な長さを維持できる。このため、検知アンテナで磁性ワイヤ20Bを検知することができる。
【0044】
なお、正弦波の振幅の大きさは、読み取り媒体54Aが通過する空間における実行磁場のワイヤ各点での大きさを磁性ワイヤ20Aの正弦波接線方向軸への余弦射影した絶対値の総和が、その磁場において磁束と同方向の検出可能な直線状の磁性体の最短の長さ(その実行磁場と直線状の磁性体の長さの積)以上になるように決められる。これにより、磁性ワイヤ20Aを確実に検知することが可能となる。
【0045】
また、図4(C)に示すように、連続したかぎ型形状の磁性ワイヤ20Cを形成した読み取り媒体54Cでも、ゲート50、50から垂直に出る磁場に対して読み取り媒体54Cを任意の角度に傾けても、検知アンテナで磁性ワイヤ20Cを検知することができる。
【0046】
以上より、読み取り媒体54に形成される磁性ワイヤ20は、読み取り媒体54をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状であればよい。
【0047】
また、これをより一般的に言い換えると、磁性ワイヤ20は、読み取り媒体54をどのような方向に向けても、磁界の方向に対して同方向成分を有するような形状を少なくとも一部に持つ形状であってもよい。これにより、図5(B)に示すように、読み取り媒体54をどのような方向に向けても、検知アンテナで磁性ワイヤ20を検知することができる。
【0048】
さらにそのような磁性ワイヤの長さは容易に用紙の長手方向の辺の長さより長いことがわかる。特に、前記正弦の波長が十分に長ければ、用紙の有る角から対角する角への直線や曲線が、またより一般に用紙の細手の一点から合いたいする細手の一点への直線または曲線を形成できたことになる。後者でワイヤが始まる一点からある長手の辺の角への距離がワイヤが終わる一点から同長手の辺の別の角への距離が同じでなければ、ワイヤの長さは用紙長手の辺の長さより長くなることが容易に観察される。
【0049】
次に、磁性ワイヤ20を検知する実証実験を行った結果について説明する。
【0050】
一般に磁界の向きや強度分布は、磁界を発生する双子ゲートのアンテナ形状に依存するが、図5(B)に示すように、2つの相対するアンテナがコイル状の励磁アンテナ52であると、両アンテナ52の間隔を広げると両アンテナ52の真ん中の磁界強度が弱まり、近づけ過ぎると両アンテナ52からの磁界が反対方向にぶつかりあってこれも真ん中付近の磁界強度を弱めてしまう。図5に示すゲート50、50は、万引き防止装置として使われているもので、開口部が1mに設定されている。従って、ゲート50、50の真ん中付近の検知が一番困難を極める。
【0051】
図7に示すように、一本の磁性ワイヤ102が漉かれているA4の読み取り媒体100を用い、3次元空間における読み取り媒体100の向きが位置1〜6であるときに磁性ワイヤ102が検知されるどうかを検証した。図7では、位置5の場合を除いて認識距離が十分とれ(45cm)るが、位置5の場合はゲート50、50から例えば15cm〜20cmくらいと認識距離が短くなる。位置5のように、ユーザーが読み取り媒体100を胸に抱えて、磁性ワイヤ102が地表に対して垂直になるように持ってゲート50、50の中心付近を通過すれば、磁性ワイヤ102を認識することなく、よってその読み取り媒体100が通過してしまう。一方、一本の直線状の磁性ワイヤ102の代わりに、図5(B)に示すように、点対称の磁性ワイヤ20Aを形成した読み取り媒体54Aを用いたときは、位置5のように磁性ワイヤ20Aを持った場合でも、磁束の方向に対する磁性ワイヤ20Aの同方向成分が存在するので、検知が可能となる。同様に読み取り媒体54Aを90度回転させた位置6の場合でも、磁束の方向に対する磁性ワイヤ20Aの同方向成分が存在することになり、検知が可能となる。
【0052】
また、図4(B)に示すように、半円をずらした形状の磁性ワイヤ20Bでは、読み取り媒体54Bを90度のみならず任意の角度に傾けても検知可能であることが分かる。このため、セキュリティーレベルを高めることができる。
【0053】
なお、上記実施形態では、第一の基材11と第二の基材13は紙であったが、フィルムシートなどを用いても良い。
【0054】
また、上記実施形態では、ボビン22を磁性ワイヤ20の軸線方向と直交する方向にソレノイド30によって往復動させたが、この構造に限定されるものではない。例えば、軸を包むようにボビン22を備えた管を連結し、この管をVCM(ボイスコイルモータ)やステッピングモータに連結し、そのモータによってボビン22を定期的に往復動させる構成でもよい。ボイスコイルモータは時間軸に沿って希望通りの振動を自由に設定可能なので、基材送りの速さに基づいて巻き込まれる磁性ワイヤ20を正弦波状にしたり、半円を連続的に左右に形成した形状にすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係る読み取り媒体作製装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る読み取り媒体作製装置を示す斜視図である。
【図3】磁性ワイヤを送り出すボビンの往復動を説明する図である。
【図4】読み取り媒体の磁性ワイヤの形状の例を示す図である。
【図5】読み取り媒体を検知するゲートの概略図、及びゲートを通過する読み取り媒体の方向を示す図である。
【図6】読み取り媒体を検知するゲートにおける磁束の向きを模式的に示した図である。
【図7】比較例として直線状の磁性ワイヤを漉き込んだ読み取り媒体を用いた場合のゲートの概略図、及びゲートを通過する読み取り媒体の方向における検知状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0056】
10 読み取り媒体作製装置
11 第一の基材
12 送りローラ
13 第二の基材
14 送りローラ
20 磁性ワイヤ
20A 磁性ワイヤ
20B 磁性ワイヤ
20C 磁性ワイヤ
22 ボビン(磁性体送出手段)
24 モータ(磁性体送出手段)
26 支持部材
28 レール(磁性体送出手段)
30 ソレノイド(磁性体送出手段)
32 接着剤塗布装置
36 ローラ(押圧手段)
38 ローラ(押圧手段)
40 モータ
42 媒体
44 ローラ
46 モータ
50 ゲート(読み取り装置)
52 励磁アンテナ
54 読み取り媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材内に線状の磁性体が形成され、読み取り装置が形成する磁界内で前記磁性体の磁気特性が検知される読み取り媒体であって、
前記磁性体は、前記シート状基材をどのような方向に向けても、前記磁界の方向に対して同方向成分を有するような形状を少なくとも一部に持つことを特徴とする読み取り媒体。
【請求項2】
シート状基材内に線状の磁性体が形成され、読み取り装置が形成する磁界内で前記磁性体の磁気特性が検知される読み取り媒体であって、
前記磁性体は、前記シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状とされたことを特徴とする読み取り媒体。
【請求項3】
前記磁性体の形状は、正弦波の半周期が少なくとも一つ含まれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の読み取り媒体。
【請求項4】
前記磁性体の形状は、ある任意の位置で線対称又は/及び点対称をなしていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の読み取り媒体。
【請求項5】
前記磁性体の全長は、前記シート状基材の長手方向の長さよりも長いことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の読み取り媒体。
【請求項6】
2つのシート状基材の間にワイヤ状磁性体を挟んで接着させることにより読み取り媒体を作製する読み取り媒体作製装置であって、
一定方向に移動する前記2つのシート状基材の間に前記ワイヤ状磁性体を挟んで圧着させる押圧手段と、
前記ワイヤ状磁性体を軸線方向に対して直交する方向に移動させながら送り出す磁性体送出手段と、を備え、
前記2つのシート状基材の間に挟まれる前記ワイヤ状磁性体の面形状を、前記シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状とすることを特徴とする読み取り媒体作製装置。
【請求項7】
2つのシート状基材の間にワイヤ状磁性体を挟んで接着させることにより読み取り媒体を作製する読み取り媒体作製方法であって、
前記ワイヤ状磁性体を軸線方向に対して直交する方向に移動させながら送り出し、
一定方向に移動する前記2つのシート状基材の間に前記ワイヤ状磁性体を挟んで圧着させ、
前記2つのシート状基材の間に挟まれる前記ワイヤ状磁性体の面形状を、前記シート状基材をどのような方向に向けても、少なくとも一部に水平成分の長さを持つ形状としたことを特徴とする読み取り媒体作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−50557(P2007−50557A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235783(P2005−235783)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】