説明

調律器

【課題】本発明の目的は、調律の程度が分かりやすく、かつ調律できたことも分かりやすい調律器を提供することである。
【解決手段】本発明の調律器は、基本周期検出部、ピッチ偏差検出部、表示部、ピッチ偏差表示制御部を備える。表示部は、1つの発光素子Eを中央に配置し、発光素子E−1,…,E−Mと発光素子E,…,Eをそれぞれ点対称または線対称な位置に配置している。ピッチ偏差表示制御部は、あらかじめ複数のピッチ偏差の絶対値の範囲を定めておく。そして、ピッチ偏差表示制御部は、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲の場合には、あらかじめ定めた状態で点灯部を停止させる。ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外であり、ピッチ偏差の絶対値が属する範囲に応じたスピードで、発光素子EまたはE−1から発光素子EまたはE−M側に点灯部が移動するように、1つ以上の発光素子の状態を変化させる処理を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子を複数個配置し、入力音(楽器の音など)が基準となる音からはなれている程度に応じて点灯部(発光素子の中で点灯している部分)の状態を変化させる調律器に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子を複数個配置し、入力音(楽器の音など)が基準となる音からはなれている程度に応じて点灯部(発光素子の中で点灯している部分)の状態を変化させる調律器としては、特許文献1、特許文献2記載の調律器がある。
【0003】
特許文献1の調律器は、入力音が基準となる音からはなれている程度に応じて、点灯部を選択し、点灯させている。この調律器では、点灯部の位置が基準となる音からはなれている程度を示しており、基準となる音からはなれている程度が一定の場合には点灯部は移動しない。また、特許文献2の調律器は、入力音が基準となる音からはなれている程度に応じて、点灯部が移動する。この調律器では、移動のスピードが基準となる音からはなれている程度、方向が基準となる音より低いか高いかを示している。
【特許文献1】特開平6−67656号公報
【特許文献2】特開平8−50484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の調律器は、調律を行っているとき(入力音が基準となる音からはなれているとき)に点灯部がほとんど移動しない。調律の最終段階では微妙な調整が必要であるが、調律器を小型にし、発光素子の数を少なくなると、調律の程度が分かりにくくなる。特許文献2の調律器は、調律の程度を点灯部の移動によって調律できたときに点灯部が停止するので、発光素子の数が少なくても多くの段階で調律の程度を表現できる。しかし、点灯部が停止したか否かの判断が難しいことがある。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、調律の程度が分かりやすく、かつ調律できたことも分かりやすい調律器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の調律器は、基本周期検出部、ピッチ偏差検出部、表示部、ピッチ偏差表示制御部を備える。基本周期検出部は、入力音の基本周期を検出する。ピッチ偏差検出部は、入力音の基本周期とあらかじめ定めた基準周期とのピッチ偏差を求める。表示部は、2M+1個(ただし、Mは3以上の整数)の発光素子を有し、その中の1つの発光素子Eを点対称の中心または線対称の中心線上の位置に配置し、発光素子E−1,…,E−Mと発光素子E,…,Eをそれぞれ点対称または線対称な位置に配置している。ピッチ偏差表示制御部は、次のように、ピッチ偏差にしたがって表示部に調律の状況を表示する。あらかじめ複数のピッチ偏差の絶対値の範囲を定めておく。そして、ピッチ偏差表示制御部は、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲の場合には、あらかじめ定めた状態で点灯部(発光素子の中で点灯している部分)を停止させる。例えば、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合には、点灯中の発光素子から発光素子E側に点灯部が移動するように、1つ以上の前記発光素子の状態を変化させ、発光素子Eまで点灯部が移動した後は、発光素子Eのみを点灯させた状態で点灯部を停止させればよい。ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外であり、ピッチ偏差が正の場合には、ピッチ偏差の絶対値が属する範囲に応じたスピードで、発光素子Eから発光素子E側に点灯部が移動するように、1つ以上の発光素子の状態を変化させる処理を繰り返す。また、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外であり、ピッチ偏差が負の場合には、ピッチ偏差の絶対値が属する範囲に応じたスピードで、発光素子E−1から発光素子E−M側に点灯部が移動するように、1つ以上の前記発光素子の状態を変化させる処理を繰り返す。
【発明の効果】
【0007】
本発明の調律器によれば、点灯部の移動によって調律の程度を示すので、操作者に分かりやすい。また、調律できたことを第1の範囲であることを示す状態で発光素子の点灯部を停止させるので、調律できたことも分かりやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下では、説明の重複を避けるため同じ機能を有する構成部には同一の番号を付与し、説明を省略する。
[第1実施形態]
図1は本発明の調律器の機能構成例を示す図であり、図2は本発明の調律器の表示部の例を示す図である。調律器900は、基本周期検出部920、ピッチ偏差検出部940、表示部960、ピッチ偏差表示制御部950を備える。基本周期検出部920は、入力音の基本周期を検出する。ピッチ偏差検出部940は、入力音の基本周期とあらかじめ定めた基準周期とのピッチ偏差を求める。表示部960は、2M+1個(ただし、Mは3以上の整数)の発光素子961−M,…,961を有し、その中の1つの発光素子961(C0)を点対称の中心または線対称の中心線上の位置に配置し、発光素子961−1(L1),…,961−M(LM)と発光素子961(H1),…,961(HM)をそれぞれ点対称または線対称な位置に配置している。図2では、各発光素子を直線状に配置しているが、円弧状に配置しても良いし、波形に配置しても良い。また、各発光素子の形状が異なっても良い。例えば、発光素子961−1や961側よりも961−Mや961側を小さくしても良いし、大きくしても良い。発光素子としては、例えばLEDを用いればよい。
【0009】
ピッチ偏差表示制御部950は、次のように、ピッチ偏差にしたがって表示部960に調律の状況を表示する。あらかじめ複数のピッチ偏差の絶対値の範囲を定めておく。例えば、調律できたと判断できる範囲を第1の範囲とし、調律できた範囲に近い方から第2、第3、第4の範囲を定めておく。そして、ピッチ偏差表示制御部950は、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲の場合には、あらかじめ定めた状態で点灯部(発光素子の中で点灯している部分)を停止させる。例えば、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合には、点灯中の発光素子から発光素子961側に点灯部が移動するように、1つ以上の発光素子961の状態を変化させ、発光素子961まで点灯部が移動した後は、発光素子961のみを点灯させた状態で点灯部を停止させればよい。また、ピッチ偏差の絶対値が継続的に第1の範囲の場合には、発光素子961のみを点灯させた状態を維持する。
【0010】
ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外であり、ピッチ偏差が正の場合には、ピッチ偏差の絶対値が属する範囲に応じたスピードで、発光素子961から発光素子961側に点灯部が移動するように、1つ以上の発光素子961の状態を変化させる処理を繰り返す。また、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外であり、ピッチ偏差が負の場合には、ピッチ偏差の絶対値が属する範囲に応じたスピードで、発光素子961−1から発光素子961−M側に点灯部が移動するように、1つ以上の発光素子961の状態を変化させる処理を繰り返す。例えば、第2の範囲のときよりも第3の範囲のときの方がスピードを速くし、第3の範囲のときよりも第4の範囲のときの方がスピードをさらに速くする。このように「ピッチ偏差の絶対値が属する範囲に応じたスピード」を定めておけばよい。
【0011】
なお、ピッチ偏差表示制御部950は、割り込みタイマー951を有していてもよい。この場合には、割り込みタイマー951が生成するトリガのタイミングで発光素子961の状態を変化させればよい。例えば、16msごとに割り込みタイマー951がトリガを生成し、発光素子961の状態を変化させる。
第1実施形態の調律器によれば、点灯部の移動によって調律の程度を示すので、操作者に分かりやすい。また、調律できたことを明確に表示できるので、調律できたことも分かりやすい。
【0012】
[第2実施形態]
第1実施形態では、発光素子の数を一般化した例を示した。本実施形態では、発光素子の数を11個とした具体例を用いて、本発明の調律器について説明する。図3に、第2実施形態の調律器の表示部を示す図である。調律器900’の機能構成は、第1実施形態(図1)と同じである。各構成部の機能は第1実施形態と同じなので、本実施形態では、特に発光素子の状態をどのように変化させるのかについて説明する。
【0013】
図4は、ピッチ偏差が正の場合(入力音が基準よりも高い場合)の発光素子の状態の変化の例を示している。また、図5は、ピッチ偏差が負の場合(入力音が基準よりも低い場合)の発光素子の状態の変化の例を示している。図中の縦軸は時間を示しており、t01は割り込みタイマー951が最初のトリガを生成した時間を示しており、t20は割り込みタイマー951が20番目のトリガを生成した時間を示している。例えば、トリガが16msごとに生成される場合は、t19とt20との時間差は16msである。横軸は発光素子を示しており、L5,…,L1,C0,H1,…,H5は、図3の発光素子961−5から発光素子961に対応している。図中では、各時間での各発光素子の状態を0から5の数字で表現している。0は消灯、1は20%の輝度での点灯、2は40%の輝度での点灯、3は60%の輝度での点灯、4は80%の輝度での点灯、5は100%の輝度での点灯を示している。図4のように発光素子の状態を変化させることで、点灯部を発光素子961(H1)から発光素子961(H5)側に移動できる。また、図5のように発光素子の状態を変化させることで、点灯部を発光素子961−1(L1)から発光素子961−5(L5)側に移動できる。
【0014】
図6は、ピッチ偏差の絶対値の範囲として5つの範囲を定めた場合であって、ピッチ偏差が正のときの発光素子の状態の変化の例を示している。なお、この図ではL5,…,L1の発光素子は省略している。例えば、4つの閾値AからDを決め、閾値A以下を第1の範囲、閾値Aより大きく閾値B以下を第2の範囲、閾値Bより大きく閾値C以下を第3の範囲、閾値Cより大きく閾値D以下を第4の範囲、閾値Dより大きいときを第5の範囲とする。例えば、閾値Aを1.5セント、閾値Bを7.5セント、閾値Cを15.0セント、閾値Dを25.0セントとする。図6に示したように発光素子の状態を変化させることで、調律の程度によって点灯部のスピードを変化させることができる。なお、ピッチ偏差が負の場合も同様の処理を行えばよい。
【0015】
図7は、ピッチ偏差が正であって、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合の発光素子の状態の変化の例を示す図である。図8は、ピッチ偏差が負であって、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合の発光素子の状態の変化の例を示す図である。図7は、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化したときに発光素子961(H3)が100%の輝度で点灯していた場合を示しており、図8は、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化したときに発光素子961−3(L3)が100%の輝度で点灯していた場合を示している。このように発光素子の状態を変化させることで、調律できた時を明確に示すことができる。
第1実施形態の調律器によれば、点灯部の移動によって調律の程度を示すので、操作者に分かりやすい。また、調律できた時に調律中とは異なる表示ができるので、調律できたことも分かりやすい。
【0016】
[変形例]
本変形例の調律器と表示部は、第2実施形態(図1、図3)と同じであり、発光素子の状態のみが異なる。図9は、ピッチ偏差が正の場合(入力音が基準よりも高い場合)の発光素子の状態の変化の例を示している。また、図10は、ピッチ偏差が負の場合(入力音が基準よりも低い場合)の発光素子の状態の変化の例を示している。第2実施形態の調律器では、発光素子L5,…,L1,H1,…,H5の中の1つないし2つの発光素子を点灯状態としていたが、本変形例の調律器では、2つないし3つの発光素子を点灯状態としている。
【0017】
また、図11は、ピッチ偏差が正であって、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合の発光素子の状態の変化の例を示す図である。図12は、ピッチ偏差が負であって、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合の発光素子の状態の変化の例を示す図である。この場合も、本変形例の調律器では2つないし3つの発光素子を点灯状態としている。
このように、点灯させる発光素子の数は変更可能であり、発光素子の総数、使用環境などに応じて変更すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】調律器の機能構成例を示す図。
【図2】第1実施形態の調律器の表示部の例を示す図。
【図3】第2実施形態の調律器の表示部の例を示す図。
【図4】ピッチ偏差が正の場合(入力音が基準よりも高い場合)の発光素子の状態の変化の例を示す図。
【図5】ピッチ偏差が負の場合(入力音が基準よりも低い場合)の発光素子の状態の変化の例を示す図。
【図6】ピッチ偏差の絶対値の範囲として5つの範囲を定めた場合であって、ピッチ偏差が正のときの発光素子の状態の変化の例を示す図。
【図7】ピッチ偏差が正であって、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合の発光素子の状態の変化の例を示す図。
【図8】ピッチ偏差が負であって、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合の発光素子の状態の変化の例を示す図。
【図9】ピッチ偏差が正の場合(入力音が基準よりも高い場合)の発光素子の状態の変化の変形例を示す図。
【図10】ピッチ偏差が負の場合(入力音が基準よりも低い場合)の発光素子の状態の変化の変形例を示す図。
【図11】ピッチ偏差が正であって、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合の発光素子の状態の変化の変形例を示す図。
【図12】ピッチ偏差が負であって、ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲以外から第1の範囲に変化した場合の発光素子の状態の変化の変形例を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子によって調律の状態を表示する調律器であって、
入力音の基本周期を検出する基本周期検出部と、
前記基本周期とあらかじめ定めた基準周期とのピッチ偏差を求めるピッチ偏差検出部と、
2M+1個(ただし、Mは3以上の整数)の発光素子を有し、その中の1つの発光素子Eを点対称の中心または線対称の中心線上の点として、発光素子E−1,…,E−Mと発光素子E,…,Eがそれぞれ点対称または線対称に配置された表示部と、
前記ピッチ偏差にしたがって前記表示部に調律の状況を表示するピッチ偏差表示制御部と
を備え、
あらかじめ複数のピッチ偏差の絶対値の範囲を定めておき、
前記ピッチ偏差表示制御部は、
前記ピッチ偏差の絶対値が第1の範囲の場合には、あらかじめ定めた状態で点灯部(発光素子の中で点灯している部分)を停止させ、
前記ピッチ偏差の絶対値が前記第1の範囲以外であり、前記ピッチ偏差が正の場合には、前記範囲に応じたスピードで、発光素子Eから発光素子E側に点灯部が移動するように、1つ以上の前記発光素子の状態を変化させる処理を繰り返し、
前記ピッチ偏差の絶対値が前記第1の範囲以外であり、前記ピッチ偏差が負の場合には、前記範囲に応じたスピードで、発光素子E−1から発光素子E−M側に点灯部が移動するように、1つ以上の前記発光素子の状態を変化させる処理を繰り返す
ことを特徴とする調律器。
【請求項2】
請求項1記載の調律器であって、
前記ピッチ偏差表示制御部は、
前記ピッチ偏差の絶対値が、前記第1の範囲以外から前記第1の範囲に変化した場合には、点灯中の発光素子から発光素子E側に点灯部が移動するように、1つ以上の前記発光素子の状態を変化させ、発光素子Eまで点灯部が移動した後は、発光素子Eのみを点灯させた状態で点灯部を停止させる
ことを特徴とする調律器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−169062(P2009−169062A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6638(P2008−6638)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000130329)株式会社コルグ (111)
【Fターム(参考)】