説明

調節可能架橋ヒアルロン酸組成物

本発明は、生体適合性架橋ヒアルロン酸ゲル組成物、その製造法および使用法、ならびにその製造に使用される架橋剤に関する。本発明の一実施形態において、ヒアルロン酸の架橋のためにポリエチレングリコール架橋剤、好ましくは4-Arm Star PEGのような多官能性のものが記載される。本発明の他の一実施形態においては、3個以上の官能基を有する架橋剤が記載される。そのような多官能性架橋剤は、ヒアルロン酸の架橋のために単独で使用することができ、また、二官能性架橋剤とさまざまな比で組み合わせて、調節可能な機械的強度および硬度を有するヒアルロン酸を製造することもできる。本発明は、ポリエチレングリコールでコーティングされたヒアルロン酸組成物、およびその使用法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規生体適合性多糖ゲル組成物、その製造法および使用法、ならびにその製造に使用される新規架橋剤に関する。本発明は、より具体的には、新規多官能性架橋剤で架橋された新規ヒアルロン酸ゲル組成物、およびそのような架橋ヒアルロン酸ゲルの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、人体の結合組織、上皮組織および神経組織に広く分布している非硫酸化グリコサミノグリカンである。ヒアルロン酸は、皮膚の主要な成分であり、皮膚において、組織修復に係わっている。皮膚が老化し、太陽の紫外線に繰り返し暴露されると、皮膚細胞では、ヒアルロン酸産生が減少し、その分解速度が増加する。同様に、皮膚老化は、皮膚を若々しく弾力性に保つのに必要なもう一つの天然物質であるコラーゲンを減少させる。時間の経過に伴って、ヒアルロン酸およびコラーゲンの減少は、老化する皮膚にシワ(line、wrinkle、fold)を生じさせる。
【0003】
過去数年において、ヒアルロン酸組成物が、シワや瘢痕を充填するため、および皮膚組織を増大させるため、例えば唇をふっくらさせるために、美容用途に使用されている。ヒアルロン酸は人体に自然な物質であるため、一般に、充分許容され、かなり低リスクの皮膚増大物質である。
【0004】
元々、ヒアルロン酸組成物は、ゲルに懸濁されたヒアルロン酸の粒子またはミクロスフェアを含有していた。現在も商業的に使用されているこれらの組成物は、注入後数カ月以内に分解する傾向があり、従って、皮膚増大作用を維持するためにかなり頻繁な再注入を必要とする。特に、ヒアルロン酸は、天然状態で高溶解性であり、酵素的代謝およびフリーラジカル代謝によって急速な代謝回転を示す。
【0005】
最近、架橋ヒアルロン酸組成物が皮膚増大に使用されている。これらのヒアルロン酸組成物は、一般に、二官能性架橋剤、例えばブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)によって架橋され、一般に、HA分子を連結する二重エーテル結合によって架橋されて、より低水溶性のポリマーヒドロゲル網状構造を形成し、これは、非架橋ヒアルロン酸組成物より高い耐分解性であり、従ってより少ない頻度の再注入で済む。いくつかのそのような架橋組成物は、ゲルに懸濁されたヒアルロン酸のかなり大きい粒子(各約50〜1000μm)を含有する。他の組成物は、ヒアルロン酸の、かなり均質なコンシステンシーのゲルマトリックスである。
【0006】
これらの既知の架橋ヒアルロン酸組成物は、その対応する非架橋物より長く持続するが、持続期間は一般に12カ月またはそれ以下であり、従ってやはりまだ、かなり頻繁な再注入を必要とする。従って、生体適合性であり、皮膚フィラーとして有用であり、しかも、注入後により長い有効寿命を有する、ヒアルロン酸組成物を開発することが望ましい。特に、生体適合性および注入可能であり、しかも、現在入手可能な組成物と比較して、より高い機械的強度、より高い耐酵素分解性、およびより高い保水性を有する、ヒアルロン酸組成物を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、架橋ヒアルロン酸組成物、その製造法およびその使用法に関する。本発明は、より具体的には、ヒアルロン酸を、ポリエチレングリコール(PEG)系架橋剤と接触させることを含んで成る、架橋ヒアルロン酸の製造法に関する。ポリエチレングリコール系架橋剤は二官能性であってよく、これは、該架橋剤がヒアルロン酸鎖への結合用の2個の反応性基を有するPEG骨格を有することを意味する。または、ポリエチレングリコール系架橋剤は、「多官能性」であってよく、ヒアルロン酸鎖への結合用の3個以上の反応性基を有するPEG骨格を有する。前記の製造法は、ヒアルロン酸を、非ポリエチレングリコール系架橋剤(BDDEまたはジビニルスルホン(DVS)を包含するが、それらに限定されない)と接触させることをさらに含んでもよい。いくつかの本発明の架橋ヒアルロン酸製造法によれば、ポリエチレン系架橋剤は四官能性であってよく、ヒアルロン酸を該四官能性架橋剤および二官能性架橋剤(例えばBDDE)と接触させてよい。
【0008】
本発明は、ヒアルロン酸を多官能性架橋剤と接触させることを含んで成る架橋ヒアルロン酸の製造法にも関する。多官能性架橋剤は、三、四、五、六などの官能性であってよい(反応用の3個以上の官能基を有してよい)。本発明の1つの実施形態において、該方法は、ヒアルロン酸を、四官能性架橋剤、例えば4-Arm Star PEGエポキシド(以下に詳しく記載する)と接触させることを含んで成る。該方法もまた、ヒアルロン酸を、二官能性架橋剤と接触させることをさらに含んでもよい。ヒアルロン酸を、種々の二官能性および多官能性架橋剤と接触させてよく、そのような接触は、任意の順序で逐次的に行なってもよく、または一段階でヒアルロン酸を種々の架橋剤と反応させてもよい。
【0009】
本発明の方法はまた、ヒアルロン酸組成物を、ポリエチレングリコール系ペンダントでコーティングすることも含んでよい。ポリエチレングリコール系コーティングを、架橋または非架橋ヒアルロン酸に適用しうる。1つの好ましい実施形態において、本発明によって製造された架橋ヒアルロン酸組成物を、ポリエチレングリコール系ペンダントでさらにコーティングする。
【0010】
本発明は、本発明の方法によって製造される、軟組織増大用、特に皮膚フィラーの組成物も包含する。より具体的には、本発明は、軟組織増大用、特に皮膚フィラーとして使用される組成物であって、少なくとも1種類のポリエチレングリコール架橋剤で架橋されたヒアルロン酸を含んで成る組成物を包含する。ポリエチレングリコール系架橋剤は、二官能性、多官能性、またはそれらの組合せであってよい。1つの実施形態において、本発明のヒアルロン酸組成物は、4-Arm Star PEGエポキシドで架橋されている。本発明の組成物は、2種類以上のPEG架橋剤を使用して製造された架橋ヒアルロン酸組成物を含んでもよい。例えば、本発明の組成物は、種々の数の官能基を有し、および/またはポリマー鎖もしくはアームに種々の長さのエチレングリコールを有するポリエチレングリコール系架橋剤の組合せを使用して、製造しうる。本発明の組成物は、ポリエチレングリコール系コーティングをさらに含んでよい。
【0011】
本発明は、さらに、少なくとも1つの多官能性架橋剤を使用して架橋されたヒアルロン酸を含んで成る皮膚フィラー組成物にも関する。多官能性架橋剤は、多官能性ポリエチレングリコール系架橋剤、例えば四官能性ポリエチレングリコール系架橋剤(4-Arm Star PEGエポキシドを包含するが、それに限定されない)であってよい。本発明の皮膚フィラーは、多官能性架橋剤(例えば四官能性ポリエチレングリコール)、および二官能性架橋剤(例えば、BDDE、DVSまたは二官能性ポリエチレングリコール)の両方で架橋されたヒアルロン酸を含んで成ってもよい。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、患者の軟組織の修復または増大方法に関し、該方法は、修復または増大すべき軟組織を選択するステップ、および本明細書に記載されている本発明の架橋ヒアルロン酸を含んで成る組成物を、選択された軟組織に注入するステップを含んで成る。
【0013】
前記および他の本発明の態様、特徴、詳細、有用性および利点は、以下の説明および特許請求の範囲を読み、添付の図面を参照することによって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、二官能性架橋剤での、2個のヒアルロン酸鎖の架橋を示す。
【図2】図2は、多官能性架橋剤での、4個のヒアルロン酸鎖の架橋を示す。
【図3】図3は、本発明の四官能性ポリエチレングリコール系架橋剤およびその先駆物質の、2つの化学式を示す。
【図4】図4は、BDDEで架橋されたヒアルロン酸組成物のサンプル、および本発明の、BDDEと4-Arm Star PEGエポキシド架橋剤との組合せで架橋されたヒアルロン酸組成物のサンプルの、機械的強度の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、一般に、多官能性架橋剤を使用して架橋されたヒアルロン酸組成物、そのような組成物の使用法、およびそのようなヒアルロン酸を製造するのに使用される新規架橋剤に関する。そのような架橋ヒアルロン酸組成物は、軟組織増大のために、特に皮膚フィラーとして、有用である。
【0016】
本発明の1つの態様は、ヒアルロン酸を架橋するための新規触媒に関する。1つの実施形態において、本発明の架橋剤は、ポリエチレングリコール(PEG)系架橋剤である。PEGは、親水性および不活性の生体適合性ポリマーである。それは、それ自体ポリマーであるので、その大きさ(長さ)は変更しうる。従って、PEG系架橋剤の大きさは、架橋ヒアルロン酸の所望特性に基づいて調節できる。図1に示すように、本発明の1つの実施形態において、PEG系架橋剤200は二官能性であり、すなわちポリマー鎖の両端が反応性であり(一般にエポキシド末端を有する)、ヒアルロン酸100の鎖に結合することができる。本発明の別の実施形態において、PEG系架橋剤は、種々の鎖長のPEGを含有する。PEG系架橋剤は、当業者に既知の任意のPEG合成法によって製造できる。
【0017】
本発明のPEG系架橋剤は、単独で、または架橋ヒアルロン酸を製造するのに好適な任意の別の架橋剤と組み合わせて、使用しうる。本発明の1つの実施形態において、本発明のPEG系架橋剤とBDDEの組合せを使用して、架橋ヒアルロン酸組成物を製造する。
【0018】
別の実施形態において、本発明の架橋剤は多官能性架橋剤である。本明細書において、多官能性は、架橋剤上に3個以上の反応性部位を有することを意味する。図2に示すように、多官能性架橋剤300は、二官能性架橋剤より多くのヒアルロン酸100の鎖を互いに結合させることができる。従って、多官能性架橋剤は、より高い機械的強度(G')を有するヒアルロン酸組成物をもたらす。本発明の多官能性架橋剤は、得られたヒアルロン酸組成物の分解も改善させる。さらに、本発明の多官能性架橋剤は、各架橋分子が少なくとも1つのヒアルロン酸鎖と反応する確率を高め、それによって、最終ヒアルロン酸組成物からの未反応架橋剤の除去および精製を容易にする。
【0019】
本発明の1つの実施形態において、多官能性架橋剤は三官能性である(3個の活性部位を有する)。別の実施形態において、多官能性架橋剤は四官能性である。さらに別の実施形態において、多官能性架橋剤は五官能性である。さらに別の実施形態において、多官能性架橋剤は六官能性またはそれ以上である。実際は、本発明の架橋剤上の官能性部位の数は、例えば形状および立体障害により、架橋剤上に生じる活性部位に結合するヒアルロン酸鎖の能力によってのみ制限される。本発明の別の実施形態において、架橋剤組成物は、少なくとも2つの異なる官能性の多官能性架橋剤(例えば、四官能性架橋剤と六官能性架橋剤の組合せ)を含んで成る。さらなる実施形態において、多官能性架橋剤と二官能性架橋剤とを種々の比率で組み合わせて、種々の機械的強度を有するヒアルロン酸組成物を作り出すことができる。表1に、二官能性架橋剤/多官能性架橋剤の比率および得られたヒアルロン酸ゲルの機械的強度のいくつかの例を示す。
【0020】
さらなる態様において、本発明の多官能性架橋剤は、多官能性PEG系架橋剤であってよい。本発明の四官能性PEG系架橋剤が図3に示されている。図3に示すように、1つの実施形態において、本発明は四官能性PEG架橋剤先駆物質に関する。さらに図3に示すように、四官能性PEG架橋剤先駆物質をさらにエポキシドと反応させて、新規4-Arm Star PEGエポキシド架橋剤を作り出すことができる。図3に示されているエポキシド四官能性PEG架橋剤を製造するには、ベースとなるポリアルコール分子(即ちペンタエリトリトール)に、エポキシド基を結合させ、所望の長さおよび分枝のヒドロキシル-PEG鎖と反応させることができる。ベースとなるポリアルコール分子へのエポキシド基の結合は、ヒドロキシル基の脱プロトン、およびエピクロロヒドリンとの反応によって成すことができる。次に、エポキシド環を、塩基性条件下に、PEG鎖のヒドロキシル基と反応させることができる。架橋剤製造の最終段階において、エポキシド基をPEG鎖の各末端に結合させることができ、それによって架橋剤が多糖分子と反応することを可能にする。
【0021】
上記の二官能性PEG系架橋剤のように、四官能性PEG系架橋剤(4-Arm Star PEGエポキシドを包含する)も、大きさを調節できる。図3に示すように、架橋剤は、そのアームに種々のポリマー長さを有してよく、それによってその機械的特性に影響を与えうる。さらに、本発明の四官能性PEG系架橋剤を、二官能性架橋剤(例えば、本発明の二官能性PEG架橋剤、BDDE、DVSおよび/または1,2,7,8-ジエポキシオクタン)と、種々の比率で混合することによって、最終ヒアルロン酸組成物の機械的強度および硬度を所望のように調節しうる。
【0022】
本発明は、本発明の架橋剤を使用して製造された架橋ヒアルロン酸組成物にも関する。1つの実施形態において、本発明のヒアルロン酸組成物は、PEG系架橋剤を含んで成る。さらなる実施形態において、本発明のヒアルロン酸組成物は、多官能性PEG系架橋剤を含んで成る。さらなる実施形態において、本発明のヒアルロン酸組成物は、四官能性PEG系架橋剤を含んで成る。さらなる実施形態において、本発明のヒアルロン酸組成物は、4-Arm Star PEGエポキシド架橋剤を含んで成る。他の実施形態において、本発明のヒアルロン酸組成物は、多官能性架橋剤および二官能性架橋剤を含んで成る。本発明のヒアルロン酸組成物は、かなり均質なゲルであってもよく、または粒子に粉砕してもよく、該粒子をさらにゲルに懸濁させることもできる。本発明の1つの実施形態において、ヒアルロン酸組成物は、多官能性架橋剤を使用して製造され、次に、粒子に粉砕されたヒアルロン酸;および、該粒子が懸濁された、多官能性および/または二官能性架橋剤を使用して製造されたヒアルロン酸のゲル;を含む。
【0023】
本発明のさらに別の態様において、ヒアルロン酸組成物が、さらに、PEG系ペンダントでコーティングされる。生体適合性で不活性な親水性ポリマーとして、PEGはヒアルロン酸に高い耐分解性を提供する。架橋または非架橋ヒアルロン酸粒子を、PEG系ペンダントでコーティングして、それらの生体内寿命を向上させることができる。1つの実施形態において、本発明の架橋ヒアルロン酸組成物を粒子に粉砕し、該粒子をPEG系ペンダントでコーティングする。粒子は、一般に約100μm〜1000μmであってよく、コーティングの厚さは、一般に2nm〜50nmであってよい。
【0024】
本発明は、PEG系架橋剤で架橋されたヒアルロン酸組成物の製造法にも関する。1つの実施形態において、ヒアルロン酸を、二官能性PEG系架橋剤と接触させ、反応させる。さらなる実施形態において、ヒアルロン酸をある量の二官能性架橋剤と接触させ、次に、ある量の多官能性架橋剤と接触させる。ヒアルロン酸を2つ以上の架橋剤と段階的に反応させてよく、官能性の低い方の架橋剤を先に接触させるか、または官能性の高い方の架橋剤を先に接触させる。または、ヒアルロン酸を、複数の架橋剤と一段階で反応させてもよい。
【0025】
本発明の別の態様は、軟組織を増大するために、本発明の新規ヒアルロン酸組成物を使用する方法である。1つの実施形態において、本発明の新規ヒアルロン酸組成物は、患者の皮膚の望ましくないシワを充填するための皮膚フィラーとして使用される。
【0026】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態についてさらに詳しく説明するものである。
【実施例1】
【0027】
本発明の多官能性架橋剤は、ベースとなるポリアルコールから調製しうる。例えば、136mgのペンタエリトリトール(即ち、四官能性PEG架橋剤用)を、100mgの水素化ナトリウム、次に、370mgのエピクロロヒドリンと反応させて、エポキシド基を結合させる。5000mgのヒドロキシルPEG鎖(即ち、MW=1.25k)を、塩基性条件下(即ち、NaOH溶液中)で、エポキシド末端ポリアルコールと反応させて、四官能性PEGヒドロキシル末端架橋剤先駆物質を得る。該先駆物質を、上記のように等モル量のエピクロロヒドリンと反応させて、四官能性架橋剤を生成することができる。
【実施例2】
【0028】
本発明によるヒアルロン酸ゲルの1つの実施形態を、下記のように調製しうる。
1gのヒアルロン酸ナトリウムファイバー(NaHA、Mw=0.5〜3MDa)を、5〜10gの0.01〜1%水酸化ナトリウム溶液と混合し、混合物を1〜5時間水和させる。次に、20〜200mgの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)および0.05〜2gの4-Arm Star PEGエポキシド(Mw=200〜10,000Da)を、NaHAゲルに添加する。混合物を機械的に均質化し、次に、40〜70℃のオーブンに1〜10時間入れる。得られた架橋ヒドロゲルを、等モル量の塩酸で中和し、リン酸塩緩衝液(PBS、pH=7.4)中で膨潤させる。次に、このヒドロゲルを機械的に均質化しうる。
【実施例3】
【0029】
本発明の架橋ヒアルロン酸の性質を先行技術の架橋ヒアルロン酸と比較するために、実施例2に記載した方法を使用して新規の調節可能架橋ヒアルロン酸のバッチを調製した。同様の方法によって、HA/架橋剤のモル比が実施例2のものと同じになるようにBDDEを唯一の単一架橋剤として使用して(新規4-Arm Star PEGエポキシドを添加せず)、既知の架橋ヒアルロン酸のバッチを調製した。
【0030】
次に、2つのバッチからのサンプルを、各サンプルの架橋度の指標としてのゲル硬度を測定する歪掃引(strain sweep)試験を使用して比較した。歪掃引試験は、ARESレオメーターを使用して50mmパラレルプレートセットアップで行なった。約2〜3mLの各サンプルを、下方のプレートの中央に置き、間隙を1mmに設定した。試験を、5Hzの周波数において1〜250%の歪範囲で行なった。低い歪値において、弾性率または貯蔵弾性率G'のプラトーは、ゲル硬度を定量化する。
【0031】
図4は、本発明によって調製した充填ゲルについて行なった測定の結果を、先行技術ヒドロゲルと比較してグラフに示している。図4に示すように、本発明ヒドロゲルのG'プラトーは、先行技術ゲルのプラトーより有意に高い。本発明ヒドロゲルは、先行技術ゲルより硬く、より高度に架橋されている。
【実施例4】
【0032】
架橋ヒアルロン酸の6つのサンプルを、二官能性PEGおよび4-Arm Star PEGエポキシド架橋剤を使用して調製した。サンプル毎に、HA/全架橋剤のモル比が全6サンプルで同じになるようにして、二官能性PEG/4-Arm Star PEGエポキシドの比率を変化させた。各サンプルの機械的強度を、上記と同じ方法によって試験した。低い歪値におけるG'のプラトーを、下記の表1に示す。表1に示すように、二官能性架橋剤を等モル量の四官能性架橋剤で置き換えるにつれ、低い歪におけるプラトーG'値が増加し、これは架橋度が高くなったことを示す。
【0033】
【表1】

【実施例5】
【0034】
PEG系ペンダントコーティングしたヒドロゲル粒子は、380mgのヒドロゲル粒子、例えばCaptique(登録商標)を、0〜100mgのエポキシド末端一官能性PEG 2000 Daおよび0.5mLの水酸化ナトリウム(0.01〜1%wt)と共に混合し、40〜70℃で1〜10時間反応させることによって調製しうる。得られたPEG系ペンダントコーティング粒子を、等モル量の塩酸で中和しうる。
【0035】
酵素的分解アッセイによって、コーティング粒子を非コーティング粒子と比較しうる。0.1〜10mgの量のヒアルロニダーゼを、ヒアルロン酸粒子に37℃で10〜250分間にわたって添加し、続いて、0.1mLの0.8M 四硼酸カリウム溶液を添加し、100℃で10分間加熱しうる。サンプルに、酢酸中の10%wt p-ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液3mLを加え、37℃で10〜120分間インキュベートしうる。585nmでの吸光度を使用して、各サンプルにおけるヒアルロン酸分解を定量化しうる。光学密度(OD)値を表2に示す。より多くのPEG系ペンダントを使用してヒアルロン酸粒子をコーティングするほど、系は酵素的分解を受けにくくなる。
【0036】
【表2】

【0037】
本発明のいくつかの実施形態を、ある程度詳細に上記に示したが、当業者は、本発明の精神または範囲を逸脱せずに、開示された実施形態に多くの変更を加えうる。上記の説明に含まれているかまたは添付の図面に示されている事柄はいずれも、例示的なものにすぎず、限定するものではないと解されるものとする。特許請求の範囲に規定される本発明の精神を逸脱せずに、細部における変更を加えうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ヒアルロン酸の製造法であって、ヒアルロン酸を、ポリエチレングリコール系架橋剤と接触させることを含んで成る方法。
【請求項2】
ポリエチレングリコール系架橋剤が、二官能性である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリエチレングリコール系架橋剤が、多官能性である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒアルロン酸を、非ポリエチレングリコール系架橋剤と接触させることをさらに含んで成る請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ヒアルロン酸を、BDDEと接触させることを含んで成る請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ポリエチレングリコール系架橋剤が四官能性であり、ヒアルロン酸をBDDEと接触させることをさらに含んで成る請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法によって得られる軟組織増大用の組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の方法によって得られる軟組織増大用の組成物。
【請求項9】
架橋ヒアルロン酸の製造法であって、ヒアルロン酸を多官能性架橋剤と接触させることを含んで成る方法。
【請求項10】
多官能性架橋剤が、四官能性である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
多官能性架橋剤が、4-Arm Star PEGエポキシドである請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ヒアルロン酸を、二官能性架橋剤と接触させることをさらに含んで成る請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法によって得られる軟組織増大用の組成物。
【請求項14】
請求項12に記載の方法によって得られる軟組織増大用の組成物。
【請求項15】
架橋ヒアルロン酸を、ポリエチレングリコール系ペンダントコーティングでコーティングすることをさらに含んで成る請求項9に記載の方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法によって得られる軟組織増大用の組成物。
【請求項17】
軟組織増大用の組成物であって、少なくとも1種類のポリエチレングリコール系架橋剤で架橋されたヒアルロン酸を含んで成る組成物。
【請求項18】
少なくとも1種類のポリエチレングリコール系架橋剤が、二官能性である請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
少なくとも1種類のポリエチレングリコール系架橋剤が、多官能性である請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
少なくとも1種類のポリエチレングリコール系架橋剤が、4-Arm Star PEGエポキシドである請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
ヒアルロン酸が、少なくとも2種類のポリエチレングリコール系架橋剤で架橋され、該少なくとも2種類のポリエチレングリコール系架橋剤の少なくとも1つが多官能性である請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
ポリエチレングリコール系ペンダントコーティングをさらに含んで成る請求項17に記載の組成物。
【請求項23】
皮膚フィラーとして使用される請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
皮膚フィラーとして使用される請求項17に記載の組成物。
【請求項25】
少なくとも1つの多官能性架橋剤を使用して架橋されたヒアルロン酸を含んで成る皮膚フィラー組成物。
【請求項26】
少なくとも1つの多官能性架橋剤が、四官能性ポリエチレングルコール系架橋剤である請求項25に記載の皮膚フィラー組成物。
【請求項27】
ヒアルロン酸が、四官能性ポリエチレングルコール系架橋剤および二官能性架橋剤で架橋されている請求項26に記載の皮膚フィラー組成物。
【請求項28】
二官能性架橋剤が、BDDEである請求項27に記載の皮膚フィラー組成物。
【請求項29】
患者の軟組織を修復または増大する方法であって、
修復または増大すべき軟組織を選択し、少なくとも1つの多官能性架橋剤を使用して架橋されたヒアルロン酸を含んで成る組成物を、選択された軟組織に注入するステップ
を含んで成る方法。
【請求項30】
少なくとも1つの多官能性架橋剤が、ポリエチレングリコール系架橋剤である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ヒアルロン酸が、少なくとも1つの多官能性架橋剤および少なくとも1つの二官能性架橋剤を使用して架橋されている請求項29に記載の方法。
【請求項32】
ポリエチレングリコール系ペンダントコーティングでコーティングされたヒアルロン酸を含んで成る軟組織増大用の組成物。
【請求項33】
ヒアルロン酸が、ポリエチレングリコール系架橋剤で架橋されている請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
ポリエチレングリコール系架橋剤が、多官能性である請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
ヒアルロン酸を架橋する架橋剤であって、ポリエチレングリコール系架橋剤を含んで成る架橋剤。
【請求項36】
架橋剤が多官能性である請求項35に記載の架橋剤。
【請求項37】
架橋剤が4-Arm Star PEGエポキシドである請求項35に記載の架橋剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−535277(P2010−535277A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520076(P2010−520076)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/070985
【国際公開番号】WO2009/018076
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】