説明

調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療方法及び予防方法

【課題】MKの発現または活性を抑制することにより、調節性T細胞を増加させ、1型ヘルパーT細胞が引き起こす自己免疫機序を抑制できる、新規薬剤の提供。
【解決手段】ミッドカインに対するアプタマーを有効成分として含有する、調節性T細胞増殖剤および、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤又は予防剤。調節性T細胞の機能異常に基づく疾患は、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、移植時の慢性拒絶、甲状腺異常、炎症性腸炎、1型糖尿病、多発性硬化症、重症筋無力症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスまたは筋萎縮性側索硬化症である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッドカイン阻害剤を有効成分として含有する調節性T細胞増殖剤および調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤に関する。また、ミッドカインを阻害することによる調節性T細胞増殖方法および調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療方法または予防方法、ミッドカイン阻害剤を投与することからなる調節性T細胞増殖方法および調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療方法または予防方法、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する医薬組成物のスクリーニング方法に関する。さらに、ミッドカインの発現量を測定する工程を含む、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミッドカイン(以下MKと記載することもある)はヘパリン結合成長因子ファミリーに属し、レチノイン酸反応性遺伝子の産物として見出された低分子の非糖化タンパク質である。その受容体は受容体型チロシンフォスファターゼζ、LRP(low density lipoprotein receptor-related protein)、ALK(anaplastic leukemia kinase)インテグリンおよびシンデカンからなる複合体と考えられている。MKは細胞遊走、血管新生に対する作用を持ち、癌化や炎症の誘導にも多様な生物活性を有することが明らかになっている。胃癌、大腸癌、乳癌など多くの癌組織でMKが過剰発現していることも報告されている(非特許文献1、2)。一方、MK欠損マウスでは血管内膜障害がおき、虚血性の腎障害起こることも報告されている(非特許文献3、4)。
【0003】
近年、MKが炎症細胞の遊走や破骨細胞の分化を引き起こし、リウマチ性疾患においても重要な役割を果たしている可能性が示されたが(非特許文献5、6)、MKの免疫能における役割はいまだ不明である。
【0004】
種々の病原体に対する生体防御のシステムとしての免疫系の中心的役割を担う細胞群の一つにT細胞がある。T細胞は大別してCD4陽性のヘルパーT細胞とCD8陽性の細胞傷害性T細胞に分けられる。CD4陽性のヘルパーT細胞は抗原刺激後の特定の分化成熟段階でのサイトカイン産生パターンによって、主にIFN−γを産生するTh1細胞、IL−4を産生するTh2細胞などに分類可能である。一般的に前者は細胞性免疫、後者は液性免疫として生体防御に深く関与している。免疫応答はこのような性質の異なるT細胞の働きによって巧妙なバランスのもとに病原体の排除や感染抵抗性の獲得に深く関与している。通常健全な免疫応答においては外来の非自己抗原に対してそれを排除する機構が働く。一方、生体を形成する自己抗原に対しては免疫学的寛容が成立しており排除機構は働かない。このように生体は自己と非自己を識別し、非自己のみを排除する機構を備えている。自己免疫疾患はこの免疫学的恒常性が破綻し、自己抗原に対する過剰な免疫応答が原因となっている。
【0005】
T細胞レベルにおいて種々の免疫学的寛容が誘導される仕組みが分かっている。一つは、中枢寛容と呼ばれる胸腺における自己反応性T細胞クローンの排除の機構であり、主要組織適合遺伝子複合体を認識できる細胞だけが生き残れるポジティブセレクションと、胸腺細胞が呈示する自己抗原と強く反応する細胞を排除するネガティブセレクションで構成される。もう一つは末梢寛容と呼ばれる機構による自己反応性T細胞の胸腺外での制御である。後者には、細胞死の誘導あるいは自己抗原に対する不応答性の誘導と共に、調節性T細胞による能動的な抑制(非特許文献7)の機構が知られている。
【0006】
調節性T細胞とは、近年提唱されたT細胞の新たな概念であり、他のT細胞に対して抑
制的な作用を有するということによって定義付けられる(非特許文献8)。免疫応答は巧妙なバランスのもとに成り立っており、例えばTh1 細胞及びTh2 細胞はお互いに夫々の免疫応答に拮抗的に働き、一方が他方に対する調節性T細胞として作用する。調節性T細胞としての細胞集団の存在の検証とその性状解析については依然多くの議論が残されている。このような調節性T細胞はin vitro又はin vivoにおいて特定の免疫応答を抑制又は調節する機能を有する細胞として研究され、細胞表面マーカーや産生サイトカインの種類や抑制および調節の機構などによって、種々の細胞集団として報告されている(非特許文献9)。
【0007】
これらの調節性T細胞の中でも最もよく研究されている細胞集団はCD4・CD25陽性調節性T細胞集団である。正常なマウスやラットのCD4陽性脾臓細胞からCD25陽性、RT6.1陽性、CD5陽性、CD45RB陽性、CD45RC陽性などの細胞を除去して、残りのT細胞をT細胞及びB細胞不全のSCIDマウスやラットに移入すると、甲状腺炎、胃炎、インスリン依存性自己免疫糖尿病、大腸炎などの臓器特異的自己免疫疾患が誘導される(非特許文献10、非特許文献11)。また、CD25陰性CD4陽性細胞をヌードマウスに移入すると臓器特異的自己免疫疾患が生じ、末梢CD4・CD25陽性細胞やCD25・CD4陽性CD8陰性胸腺細胞を共に移入すると発症が抑制される。これらの実験より、CD4・CD25陽性調節性T細胞が自己寛容維持に極めて重要な役割を果たしていることがわかってきた。
【0008】
ヒトにも同様なCD4・CD25陽性調節性T細胞が存在することが知られている(非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17)。ヒト末梢血から分離されたCD4・CD25陽性T細胞は、CD45RO陽性のメモリーT細胞マーカーを発現しており、CD4陽性CD25陰性T細胞と比較してHLA−DRなどの活性化マーカーの発現が高い。また細胞内には定常的にCTLA−4を発現しており、刺激によりその発現が上昇する。CD4・CD25陽性T細胞は、抗CD3抗体刺激、抗CD3抗体と抗CD28抗体による刺激、同種異系の成熟樹状細胞による刺激などでは、DNA合成及びサイトカインの産生は見られず、抗原刺激に対する不応答状態となっている。抗CD3抗体と抗CD28抗体による刺激にIL−2、IL−4、IL−15などのサイトカインを加えることで、CD4・CD25陽性T細胞のDNA合成能は高まるが、CD4陽性CD25陰性T細胞のDNA合成能は変わらない。CD4・CD25陽性T細胞存在下にCD4陽性CD25陰性T細胞を抗CD3抗体又は同種異系の成熟樹状細胞によって刺激した場合、CD4・CD25陽性T細胞非存在下と比較してCD4・CD25陽性T細胞細胞数依存的な増殖抑制作用が見られる。CD4・CD25陽性T細胞はIL−10やTGFβ1のような抑制性のサイトカインを産生する能力があるが、CD4陽性CD25陰性T細胞に対する増殖抑制作用は、これらサイトカインに対する中和抗体では解除されないこと、抑制作用にはCD4陽性CD25陰性T細胞とCD4・CD25陽性T細胞の直接的細胞間接触が必要であることが報告されている。このようにヒトにおいてもCD4・CD25陽性調節性T細胞の存在が報告され性状解析が進んでいるが、その詳細な分化機構や抑制作用機構の解明は途上にある。
【0009】
マウスおよびヒトにおいて、IL−10存在下での同種異系の抗原刺激や同種異系の未成熟樹状細胞による繰り返し刺激によって誘導される調節性T細胞についても報告されている(非特許文献18、非特許文献19)。これらの細胞は、Th1,Th2 細胞とは異なり大量のIL−10を産生するものの、TGF−β1、IFN−γ、IL−5の産生は高くなく、低レベルのIL−2を産生し、IL−4を産生しないことを特徴としており、Tr1細胞と呼ばれている。Tr1細胞もCD4・CD25陽性調節性T細胞と同様に不応答状態であるが、T細胞抑制機構は産生されるIL−10やTGF−β1によって一部説明可能である。しかしながら、Tr1細胞とCD4・CD25陽性調節性T細胞が全く異なるT細胞サブセットであるのか、或いは分化活性化段階の異なる同一の細胞である
かについては不明な点が多い。
【0010】
X染色体性劣性遺伝を示すIPEXと呼ばれる遺伝病では、インスリン依存性糖尿病、甲状腺炎など臓器特異的自己免疫疾患、炎症性腸炎、アレルギーが高率に発症する。その原因遺伝子はFOXP3であると考えられている。Foxp3はCD4・CD25陽性調節性T細胞に選択的に発現していることが知られている。また、他のT細胞にこの遺伝子を発現させると、機能的にCD4・CD25陽性調節性T細胞に転換できる。さらに、この遺伝子の異常を持つマウスは重篤な自己免疫病変を発症するが、正常マウスから調整したCD4・CD25陽性調節性T細胞を移入すれば発症を阻止できる(非特許文献20)。
【0011】
CD4・CD25陽性調節性T細胞は多発性硬化症と深く関係していることがわかっている。再発寛解型多発性硬化症の患者ではCD4・CD25陽性調節性T細胞が顕著に減少している(非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23)。また、多発性硬化症のモデルと考えられている実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルマウスを用いた実験では、CD4・CD25陽性調節性T細胞がミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(MOG)に対するT細胞の増殖およびIFN−γの産生を抑制すること、および、EAEの発症を抑制することが報告されている(非特許文献24、非特許文献25、非特許文献26)。重症筋無力症はCD4陽性T細胞依存の自己免疫疾患と考えられており、重症筋無力症の患者ではCD4・CD25陽性調節性T細胞の機能異常およびFOXP3の発現低下が報告されている(非特許文献27)。CD4・CD25陽性調節性T細胞は炎症性腸疾患(IBD)またはクローン病とも関係している。CD4陽性CD45RBhighT細胞を免疫不全マウスに移入するとTh1細胞に起因する腸炎を引き起こす。一方、CD4陽性CD45RBhighT細胞と一緒にCD4・CD25陽性調節性T細胞を移入すると腸炎は起こらない(非特許文献28、非特許文献29)。関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)とCD4・CD25陽性調節性T細胞の関係に関しても多くの研究が行われている。23人のSLE患者(19人がactive、4人がinactive)、15人のRA患者、27人の健常者の末梢血中の調節性T細胞の分析をおこなったところ、CD4・CD25陽性調節性T細胞の数はSLE患者、RA患者、健常者で変わらなかったが、SLE患者とRA患者は健常者と比べて抑制機能が大きく低下していたことが報告されている(非特許文献30)。この他、CD4・CD25陽性調節性T細胞はI型糖尿病(非特許文献31)、移植時の拒絶反応(非特許文献32)、癌(非特許文献33)などと関係することがわかっている。
【0012】
CD4・CD25陽性調節性T細胞は、末梢血CD4陽性T細胞の5〜10%を占めるに過ぎない希少細胞集団であり、活性化刺激に対して不応答状態である。抗CD3抗体と抗CD28抗体による刺激にIL−2、IL−4、IL−15などのサイトカインを加えることで細胞増殖を促すことが可能である。CD4・CD25陽性調節性T細胞を増やすことで自己免疫疾患、移植、アレルギーなどの治療への応用が期待される。
【0013】
多発性硬化症(以下MSと記載することもある)は中枢神経系に炎症性脱髄を引き起こす自己免疫疾患であり、種々の免疫系細胞の関与が想定されているが、その本態はいまだ明らかにされていない。近年、調節性T細胞(CD4・CD25・Foxp3陽性T細胞)がMSの病態を抑制的に調節していることが示された。CD4・CD25陽性調節性T細胞は免疫寛容を維持することにより、自己免疫発現を調節している。そのため、この細胞の機能異常が種々の自己免疫疾患の発症に関与していると考えられているが、本機構の詳細については未だ解明されていない。
【0014】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Tsutsui, J., et al., Cancer Res., 53, 1281-1285 (1993)
【非特許文献2】Kadomatsu, K., et al., Brit. J. Cancer, 75, 354-359 (1997)
【非特許文献3】Horiba, M., et al., J. Clin. Invest., 105, 489-495 (2000)
【非特許文献4】Sato, W., et al., J. immunol., 167, 3463-3469 (2001)
【非特許文献5】Takada T., et al., J.Biochem, 122(2), 453-458 (1997)
【非特許文献6】Maruyama K., et al., Arthritis Rheum., 50(5), 1420-1429 (2004)
【非特許文献7】Shevach, E.M. 2000. Annu. Rev. Immunol. 18:423-449.
【非特許文献8】McGuirk P., et al., TRENDS in Immunol. 23, 450-455 (2002)
【非特許文献9】Roncarolo, M.G., and M.K. Levings. 2000. Curr. Opinion. Immunol. 12:676-683.
【非特許文献10】Sakaguchi, S., et al., 1985. J. Exp. Med.161:72
【非特許文献11】Itoh, M.,et al., 1999. J. Immunol. 162:5317-5326.
【非特許文献12】Jonuleit, H.et al., 2001. J. Exp. Med. 193:1285-1294
【非特許文献13】Levings, M. K. et al., 2001. J. Exp. Med. 193:1295-1301
【非特許文献14】Dieckmann, D. et al., 2001. J. Exp. Med. 193:1303-1310
【非特許文献15】Taama, L. S.et al., 2001. Eur. J. Immunol. 31:1122-1131
【非特許文献16】Stephens, L. A. et al., 2001. Eur. J. Immunol. 31:1247-1245
【非特許文献17】Baecher-Allan, C. et al., 2001. J. Immunol. 167:1245-1253.
【非特許文献18】Groux, H. et al.,1997.Nature.389:737-742
【非特許文献19】Jonuliet, H. et al., 2000. J. Exp. Med.192:1213-1222.
【非特許文献20】坂口志文、2003、実験医学21:2164−2168
【非特許文献21】Viglietta et al., 2004, J. Exp. Med. 199: 971-979
【非特許文献22】Haas, et al., 2005, Eur. J. Immunol. 35: 3343-3352
【非特許文献23】Huan et al., 2005, J. Neurosci. Res. 81: 45-52
【非特許文献24】Furtado et al., 2001, Immunol. Rev. 182: 122-134
【非特許文献25】Hori et al., 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 8213-8218
【非特許文献26】Kohm et al., 2002, J. Immunol. 169: 4712-4716
【非特許文献27】Balandina et al., 2005, Blood 105, 735-741
【非特許文献28】Coombes et al., 2005, Immunol. Rev. 204: 184-194
【非特許文献29】Read et al., 2000, J. Exp. Med. 192: 295-302
【非特許文献30】Alvarado-Sanchez et al., 2006, J. Autoimmunity 27, 110-118
【非特許文献31】Green et al., 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 10878-10883
【非特許文献32】Dai et al., 2004, J. Clin. Invest. 113, 310-317
【非特許文献33】Wei et al., 2004, Cancer Immunol Immunother 53: 73-78
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、MK阻害剤を有効成分として含有する調節性T細胞増殖剤を提供することにある。また、MK阻害剤を含有する調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤を提供することにある。さらに、MKの発現または活性を阻害し、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する医薬組成物のスクリーニング方法の提供も課題とする。さらにMKの発現量を測定する工程を含む、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の検査方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、MK欠損マウスにおいて、CD4・CD25陽性調節性T細胞が増加していること、MKを投与することによりCD4・CD25陽性調節性T細胞が減少するこ
とを発見した。また、多発性硬化症のモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎モデル(以下EAEと記載することもある)における研究において以下のような結果を得た。
【0017】
まず、MK欠損マウスにおいてEAEを誘導し、その病態を観察したところ、臨床症状の軽減が見られた(図1)。また、本効果はMKを投与することにより、消失することも明らかとなった(図1)。
【0018】
次に、該EAEモデル動物におけるCD4・CD25陽性調節性T細胞の動態を検索して、MKのEAE発現やCD4・CD25陽性調節性T細胞の機能に対する役割を検討した。また同時に、EAEは1型ヘルパーT細胞(Th1)により誘導される疾患であるので、MK欠損マウスにおけるTh1/Th2バランスを検討し、MKのTh1/Th2バランスに対する効果についても検討を行った。
【0019】
その結果、本モデル動物における臨床症状の軽減は、疾患を誘導するCD4陽性細胞の変化ではなく(図2)、CD4・CD25陽性の調節性T細胞の増加が関与していることが明らかとなった(図3、4)。また、MK欠損マウスにEAEを誘導すると、野生型に比較してCD4・CD25陽性細胞は増加しているが、MKを添加することにより、CD4・CD25陽性細胞が減少することが明らかとなった(図5)。さらに、これらCD4・CD25陽性調節性T細胞の増加により、細胞性免疫を誘導する1型ヘルパーT細胞も抑制されることが明らかとなった(図6)。
【0020】
次に、MK阻害剤の1つである抗MK抗体投与による、EAEモデルマウスにおけるCD4・CD25陽性T細胞の動態への影響の解析を行った。その結果、MK阻害剤の投与により、臨床症状の軽減が見られた(図8)。具体的には、MOG35−55の免疫接種後、抗MK抗体を投与したマウス群においては、発病開始の遅れ、疾病重症度の軽減が見られた。(図8)。
さらに、EAEモデルマウスに、MK阻害剤であるMKアプタマーを投与し、その臨床症状を観察した。その結果、抗MK抗体投与と同様にEAEモデルマウスの臨床症状の軽減がみられた。(図9)。
【0021】
即ち、本発明者らは、MKには調節性T細胞の増殖および機能を抑制する作用があり、MKの発現または活性を抑制することにより、それらの抑制を解除することができることを発見し、これにより本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔20〕を提供するものである。
〔1〕MK阻害剤を有効成分として含有する、調節性T細胞増殖剤。
〔2〕MK阻害剤が、抗MK抗体、MKに対するアプタマー、アンチセンスRNAおよびdsRNAから選択されるMK阻害剤である〔1〕に記載の調節性T細胞増殖剤。
〔3〕MK阻害剤が、抗MK抗体又はMKに対するアプタマーである〔1〕に記載の調節性T細胞増殖剤。
〔4〕MK阻害剤を有効成分として含有する調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤又は予防剤。
〔5〕MK阻害剤が、抗MK抗体、MKに対するアプタマー、アンチセンスRNAおよびdsRNAから選択されるMK阻害剤である〔4〕に記載の調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤又は予防剤。
〔6〕MK阻害剤が、抗MK抗体又はMKに対するアプタマーである〔4〕に記載の調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤又は予防剤。
〔7〕調節性T細胞の機能異常に基づく疾患が、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、移植時の慢性拒絶、甲状腺異常、炎症性腸炎、1型糖尿病、多発性硬化症、重症筋無力症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスまたは筋萎縮性側索硬化症である〔4〕から〔6〕
のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
〔8〕調節性T細胞の機能異常に基づく疾患が、多発性硬化症である〔4〕から〔6〕のいずれか1項に記載の治療剤。
〔9〕MKを阻害することによる、調節性T細胞の増殖方法。
〔10〕MK阻害剤を投与することからなる調節性T細胞の増殖方法。
〔11〕調節性T細胞増殖剤の製造のためのMK阻害剤の使用。
〔12〕MKを阻害することによる、調節性T細胞の機能異常に基く疾患の治療方法または予防方法。
〔13〕MK阻害剤を投与することからなる調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療方法または予防方法。
〔14〕調節性T細胞の機能異常に基づく疾患治療剤または予防剤の製造のためのMK阻害剤の使用。
〔15〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、MKの発現と結合することにより、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する医薬組成物のスクリーニング方法。(a)MKに被検化合物を接触させる工程
(b)該MKと被検化合物との結合を検出する工程
(c)該MKと結合する被検化合物を選択する工程
〔16〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、MKの発現を阻害することにより、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する医薬組成物のスクリーニング方法。(a)MK遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)該MKの発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該MKの発現レベルを減少させた被検化合物を選択する工程
〔17〕以下の(a)〜(d)の工程を含む、MKの発現を抑制を阻害することにより調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)MKをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを減少させた被検化合物を選択する工程
〔18〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、MKの活性を抑制し調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する医薬組成物のスクリーニング方法。
(a)MKを発現する細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞におけるMKの活性を測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、上記活性を低下させた被検化合物を選択する工程
〔19〕MKの発現量を測定する工程を含む、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の検査方法。
〔20〕ミッドカインと結合する物質を含む、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の検査薬。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導した、野生型マウス(C57BL/6)、MK欠損マウス、MKを投与したMK欠損マウスにおける臨床症状の観察結果を示す図である。免疫接種後25日までの全動物の平均値を示す。Kaplan-Meier法に従って曲線を描画した。
【図2】MOG35−55接種後の野生型マウス(C57BL/6)およびMK欠損マウスの末梢リンパ節におけるCD4陽性T細胞の比率を示す図である。A:野生型マウスおよびMK欠損マウスの脾臓、腸管膜リンパ節、膝下リンパ節における、in vivo CD4およびCD8陽性細胞の比率を示す図である。B:上記3部位における全単核細胞中のCD4陽性T細胞の割合を示す図である。値をmean±SEMで示す。P値はスチューデントt−検定により算出した。
【図3】MOG35−55接種後の野生型マウス(C57BL/6)およびMK欠損マウスの末梢リンパ節におけるCD4・CD25陽性T細胞の比率を示す図である。A:野生型マウスおよびMK欠損マウスの脾臓、腸管膜リンパ節、膝下リンパ節における、in vivo CD4・CD25陽性T細胞の細胞蛍光特性を示す図である。B:上記3部位における全単核細胞中のCD4・CD25陽性T細胞の割合を示す図である。値をmean±SEMで示す。P値はスチューデントt−検定により算出した。
【図4】自己免疫性脳脊髄炎モデル動物におけるCD4・CD25陽性調節性T細胞の動態を示す図である。A:野生型マウス、MK欠損マウス、MKを投与したMK欠損マウスの各群の脾臓由来のCD4陽性T細胞をMOG35−55により刺激後、該細胞の比率を調べた結果を示す図である。B:各群の脾臓由来のCD4陽性T細胞をMOG35−55により刺激後、Foxp3 mRNAの発現をリアルタイムRT−PCR法により解析した結果を示す図である。標準CD4陽性T細胞におけるFoxp3 mRNA発現に対する相対値を示す。
【図5】MK添加による、MK欠損マウスにおけるCD4・CD25陽性T細胞の動態への影響を示す図である。A:各群の脾臓由来のCD4陽性T細胞をMOG35−55により刺激後、CD4・CD25陽性の比率を調べた結果を示す図である。CD4陽性部分にゲートをかけCD4陽性細胞のみを解析した。B:各群の脾臓由来のCD4陽性T細胞をMOG35−55により刺激後、Foxp3 mRNAの発現をリアルタイムRT−PCR法により解析した結果を示す図である。GAPDH mRNA発現に対するFoxp3 mRNAとの相対値を示す。
【図6】MK欠損マウスにおけるTh1/Th2バランスを示す図である。マウスの脾細胞から純化し、MOG35−55(20μg/ml)存在下で培養したCD4陽性T細胞の培養上清におけるIFN−γおよびIL−4の存在量を示す図である。値を5匹のマウスのmean±SEMで示す。γ軸の単位はpg/ml。P値はスチューデントt−検定により算出した。
【図7】抗MK抗体添加による、EAEモデルマウスにおけるCD4・CD25陽性T細胞の動態への影響の解析結果を示す図である。抗MK抗体(IP−13)およびコントロール抗体(IgG)の存在下、EAE誘導マウスの脾臓由来のCD4陽性T細胞を30μg/mlのMOG35−55およびAPCにより5日間刺激後、CD4・CD25陽性T細胞の比率を検出した。
【図8】抗MK抗体添加による、EAEモデルマウスにおける臨床症状変化の観察結果を示す図である。野生型EAEモデルマウス(C57BL−6,♀、8週令)に対して、MOG35−55投与の0,3,7,10,14,17,21,24日目に(合計8回)、抗MK抗体(IP14)の投与を行った。マウスを4つの群に分け(一群の匹数:5)、マウス重さ(kg)あたり、それぞれ75mg/kg(黒菱形)、7.5mg/kg(黒四角)、0.75mg/kg(黒三角)、0mg/kg(×、コントロール)の量の抗MK抗体を尾静脈投与した。Y軸は臨床スコア(0:症状なし、1:尾が垂れる、2:仰向けにして起き上がれない、3:不安定歩行、4:軽度の後肢麻痺、5:重度の後肢麻痺、6:死亡)の平均値を表す。
【図9】MKアプタマー添加による、EAEモデルマウスにおける臨床症状変化の観察結果を示す図である。野生型EAEモデルマウス(C57BL−6,♀、8週令)に対して、MOG35−55投与後2日に1回の間隔で計10回、それぞれ15mg/kg(黒四角),2.5mg/kg(黒三角),0.25mg/kg(×)、0mg/kg(菱形、コントロール)のアプタマーを腹腔内投与した。Y軸は臨床スコア(0:症状なし、1:尾が垂れる、2:仰向けにして起き上がれない、3:不安定歩行、4:軽度の後肢麻痺、5:重度の後肢麻痺、6:死亡)の平均値を表す。**:p<1%。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明者らは、MKには調節性T細胞の増殖および機能を抑制する作用があり、MKの活性または発現を抑制することにより、それらの抑制を解除することができることを見いだした。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0025】
本発明は、MK阻害剤を含有する調節性T細胞増殖剤および調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤または予防剤に関する。
【0026】
本発明において「MK阻害剤」とは、MKの発現を阻害する物質であってもよいし、MKの活性を阻害する物質であってもよい。MK阻害剤は、好ましくはMKまたはMK受容体の結合に対する阻害作用を有する物質である。本発明において、「MK受容体」としては、受容体型チロシンフォスファターゼζ、LRP(low density lipoprotein receptor-related protein)、ALK(anaplastic leukemia kinase)およびシンデカンからなる複合体を挙げることができる。本発明の阻害剤は複合体を構成している、各タンパク質の発現や活性を阻害するものであってもよい。
【0027】
本発明のMK阻害剤の例としては、抗MK抗体、抗MK受容体抗体、MKに対するアプタマー、MKに対するアンチセンスRNA、MKに対するdsRNAよびMKに対するリボザイムを挙げることが出来る。また、MK改変体、可溶性MK受容体改変体あるいはMK又はMK受容体の部分ペプチド等のドミナントネガティブ体および、これらと同様のMK阻害活性を示す低分子物質が挙げられるが、特に限定されるものではない。本発明のMK阻害剤としては、好ましくは抗MK抗体、MKに対するアプタマー、MKに対するアンチセンスRNA、MKに対するdsRNA、MKに対するリボザイムを挙げることが出来る。より好ましくは抗MK抗体、MKに対するアプタマーを挙げることが出来る。
【0028】
本発明で使用される抗MK抗または抗MK受容体抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることが出来る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はMKまたはMK受容体と結合することにより、MKのMK受容体への結合を阻害してMKの生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗MK抗体としては、公知の文献(Sun XZ, et al., J.Neuropathol Exp Neurol. 56(12), 1339-48 (1997)、Muramatsu H, et al., J. Biochem 119:1171-76 (2004))に記載の抗体が挙げられる。
【0029】
抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、MKまたはMK受容体を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0030】
具体的には、抗MK抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトMKは、公知の文献(Tomomura, M., et al., J. Biol. Chem. 265, 10765-10770 (1990)、Tsutsui, J., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 176, 792-797 (1991)、Iwasaki W, et al., EMBO J. 16(23), 6936-46 (1997))に開示されたMK遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。本発明の方法に使用されるヒト由来のMKのcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするMKの
アミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0031】
MK受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗MK受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのMK受容体を使用してもよい。本発明においてMK受容体とは、受容体複合体、または複合体の各構成成分(蛋白質)を示すものとする。
【0032】
MKまたはMK受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のMK蛋白質を公知の方法で精製し、この精製MK蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、化学合成によって作製したMK蛋白質(Inui, T., et al., J. Peptide Sci. 2, 28-39 (1996))またはMK受容体蛋白質も感作抗原として用いてもよい。また、MK蛋白質またはMK受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0033】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0034】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4−21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0035】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0036】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immnol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology
(1978) 81, 1-7)、NS−1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519)、MPC−11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133)等が適宜使用される。
【0037】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0038】
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0039】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この
種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0040】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0041】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0042】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO94/25585、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0043】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0044】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0045】
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0046】
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0047】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNA
の合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5’-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5’−RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0048】
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0049】
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0050】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト(human)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0051】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO92−19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0052】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP125023、国際特許出願公開番号WO92−19759参照)。
【0053】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR;framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO92−19759参照)。
【0054】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0055】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体C領域としては、Cγが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい

【0056】
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、ヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、ヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
【0057】
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に衆知であり、WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388を参考にすることができる。
【0058】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3’側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0059】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
【0060】
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R. C. et al., Nature (1979) 277, 108-114)、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)に従えば容易に実施することができる。
【0061】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E. S. et al., Nature (1989) 341, 544-546; Ward, E. S. et al., FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al., Science (1988) 240, 1041-1043)に従えばよい。
【0062】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al .,J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
【0063】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマ
ウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0064】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0065】
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌が知られている。
【0066】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
【0067】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0068】
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0069】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(19
94)24, 131-138)。
【0070】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO94−11523参照)。
【0071】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し、均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
【0072】
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
【0073】
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(−)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
【0074】
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0075】
本発明において「アプタマー」とはタンパク質やホルモンなどの各種分子と結合する核酸を意味する。MKアプタマーとはMKと結合する核酸を意味する。MKアプタマー阻害剤とはMKに結合して、MKとMKに結合する分子、例えばMK受容体や細胞外マトリックス、の結合を阻害する核酸を意味する。MKアプタマーはRNAであってもDNAであってもよく、これらのRNAまたはDNAがMKに結合するものである限り特に限定はしない。また、リボース、リン酸骨格、核酸塩基、両末端部分に修飾が加えられた核酸であってもよく、これらの核酸がMKに結合するものである限り特に限定するものではない。核酸の形態は二本鎖であっても一本鎖であってもよいが、好ましくは一本鎖である。
【0076】
アプタマーの長さは標的分子に特異的に結合するために必要な長さを有していれば特に限定はしないが、例えば、10〜200ヌクレオチド、好ましくは、10〜100ヌクレオチド、より好ましくは15〜80ヌクレオチド、さらに好ましくは15〜50ヌクレオ
チドのものである。
【0077】
アプタマーはヌクレオチドで構成されたものだけで治療薬として使用することができるが、他の分子、例えば、ポリエチレングリコール、コレステロール、ペプチド、リポソーム、蛍光色素、放射性物質、毒素、他のアプタマーなどを結合させた形態で使用することもできる。本発明において、「アプタマー」はこのような他の分子を結合させたアプタマーも含まれる。
【0078】
本発明のアプタマーは、当業者において周知の方法を用いて選別することができる。限定はしないが、例えば、SELEX法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)(Tuerk, C. and Gold, L., 1990, Science, 249: 505-510)により選別することができる。SELEX法は、1015程度の異なるヌクレオチド配列をもつ核酸プールを標的物質と混合し、標的物質に結合する、または、より強く結合する核酸を選別してくる方法である。選別された核酸はRT−PCRまたはPCRにより増幅し、これを次のラウンドの鋳型として用いる。この作業を10回程度繰り返すことにより、目的のアプタマーを取得することができる。
アプタマーを医薬品として使用する場合、最小化および安定化する必要がある。具体的には、活性に影響しないヌクレオチドを削除することで最小化し、修飾を入れることで安定化する。天然型のRNAの血清中での半減期は数秒であるが、例えば、リボースの2’位をO−メチル化し両末端にinverted dTを結合することで、半減期が1週間以上に延びる。
【0079】
本発明の「MKに対するアンチセンスRNA」は、MKをコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAであり、例えば特開2002−142778および特開2003−012447公報記載のアンチセンスRNAがあげられる。
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する。
【0080】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、MK遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であるものと考えられる。しかし、コード領域もしくは3’側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物
に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNAの長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0081】
本発明で用いられる「MKに対するdsRNA」は、RNA干渉(RNAi)によりMK遺伝子発現を抑制する二重鎖RNAを意味し、例えば、特開2004−275169記載のdsRNAが挙げられる。RNA干渉は、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNA(dsRNA)を細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象である。細胞に約40〜数百塩基対のdsRNAが導入されると、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、dsRNAを3’末端から約21〜23塩基対ずつ切り出し、siRNA(short interference RNA)を生じる。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、ヌクレアーゼ複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)が形成される。この複合体はsiRNAと同じ配列を認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部で標的遺伝子のmRNAを切断する。また、この経路とは別にsiRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RsRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成される。このdsRNAが再びダイサーの基質となって、新たなsiRNAを生じて作用を増幅する経路も考えられている。
【0082】
本発明のdsRNAとしては、siRNAまたはshRNAを挙げることができる。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味し、例えば、15〜49塩基対と、好適には15〜35塩基対と、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。あるいは、発現されるsiRNAが転写され最終的な二重鎖RNA部分の長さが、例えば、15〜49塩基対、好適には15〜35塩基対、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。また、shRNAは、1本鎖のRNAがヘアピン構造を介して2重鎖を構成しているsiRNAである。
【0083】
dsRNAは、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の相同性を有する。
【0084】
dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。本発明においては、dsRNAにおけるRNA同士が対合する二重鎖RNA領域中に、バルジおよびミスマッチの両方が含まれていてもよい。
【0085】
本発明の「MKに対するリボザイム」は、MKの発現や機能に影響を与える、触媒活性を有した核酸を意味し、MKmRNAを特異的に切断する核酸を含む。
【0086】
また、MK活性の一部はMKの2量体化を必要とし、この際にはアミノ末端ドメインが関与することから(Kojima, S., et al., J. Biol. Chem., 272, 9410-9416 (1997))、MKの部分ペプチド(例えば、MKのアミノ末端ドメインの一部)もMK阻害剤として使用することが出来る。
また、ヒトおよびマウスのMK遺伝子の5’上流域には、レチノイン酸受容体の結合部位が存在し、MKはレチノイン酸応答性遺伝子の産物であることから(Matsubara, S., et al., J. Biochem., 115, 1088-1096 (1994))、レチノイン酸阻害剤もMKの阻害剤として用いることが出来る。
また、ウィルムス腫瘍の抑制遺伝子として知られているWT1は、MKプロモーターによる下流の遺伝子の発現を抑えることから(Adachi, Y., et al., Oncogene, 13, 2197-2203 (1996))、WT1もMKの阻害剤として用いることが出来る。
さらに、MKはMK受容体、コンドロイチン硫酸、ヘパリンなどの分子と強く結合することから(Ueoka, C., et al., J. Biol. Chem. 275, 37407-37413 (2000)、これらの分子およびこれらの分子の一部もMKの阻害剤として用いることができる。
【0087】
さらに、MKの発現または活性を抑制するMK阻害剤は、後述のスクリーニング方法によっても得ることもできる。
【0088】
本発明において、「調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療または予防」とは、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の症状、および調節性T細胞の機能異常に基づく疾患において合併して起こる症状を、抑制または予防することを意味する。
本発明において、「調節性T細胞の機能異常に基づく疾患」とは、調節性T細胞の生体内における細胞数の減少に伴う疾患または調節性T細胞の機能低下に伴う疾患を意味する。本発明の「調節性T細胞の機能異常に基づく疾患」として、好ましくは、CD4・CD25陽性調節性T細胞の機能異常に伴う疾患である。
【0089】
調節性T細胞の機能異常に基づく疾患としては、多発性硬化症、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、移植時の慢性拒絶、炎症性腸炎、1型糖尿病、筋萎縮性側索硬化症、慢性関節性リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症、進行性全身性硬化症(PSS)、シェーグレン症候群、多発性筋炎(PM)、皮膚筋炎(DM)、結節性動脈周囲炎(PN)、甲状腺異常、バセドウ病、ギラン・バレー症候群、原発性胆汁性肝硬変
(PBC)、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫溶血性貧血炎症性腸炎、クローン病等を挙げることができる。好ましくは、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、移植時の慢性拒絶、炎症性腸炎、1型糖尿病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症または重症筋無力症をあげることができる。本発明においては、多発性硬化症をより好ましい疾患の例として挙げることができる。
これら上記の疾患において、調節性T細胞の減少に基づくと診断されたものに関しては、本発明の「調節性T細胞増殖剤」または「調節性T細胞の機能異常に基づく疾患治療剤」は特に有効である。
【0090】
本発明における調節性T細胞増殖剤および調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤または予防剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる材料が添加されていてもよい。製剤上許容しうるとは、それ自体は上記の調節性T細胞の増殖効果または調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療効果を有する材料であってもよいし、当該増殖効果・治療効果を有さない材料であってもよく、上記の増殖剤・治療剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。また、調節性T細胞の増殖効果または調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療効果を有さない材料であって、MK阻害剤と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
【0091】
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
【0092】
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0093】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0094】
本発明の薬剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
【0095】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等、他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
【0096】
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、さらに好ましくは10〜20mMである。
【0097】
また、本発明の薬剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
【0098】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
【0099】
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0100】
注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO−50)等と併用してもよい。
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0101】
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる( “Remington’s Pharmaceutical Science
16th edition”, Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も
公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0102】
本発明は、MKの発現または活性を抑制し調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する医薬組成物のスクリーニング方法に関する。
【0103】
本発明の「MKの発現を抑制」という記載には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNAの発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0104】
本発明のスクリーニング方法の第一の態様においては、まず、MKに複数の被験化合物を接触させる。
【0105】
本発明の方法に使用されるヒト由来のMKのcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするMKのアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、本発明の方法に使用されるMKには、上記の公知のMKと機能的に同等なタンパク質を包含する。このようなタンパク質には、例えば、MKの変異体、アレル、バリアント、ホモログ、MKの部分ペプチド、または、他のタンパク質との融合タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
本発明におけるMKの変異体としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、MKの変異体として挙げることができる。
【0107】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0108】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、MKと同等の生物学的機能や生化学的機能を有することを指す。本発明において、MKの生物学的機能や生化学的機能としては、細胞の増殖促進(繊維芽細胞、ケラチノサイト、または腫瘍細胞の増殖促進)、細胞の生存促進(胎児神経細胞、または腫瘍細胞の生存促進)、細胞の移動促
進(神経細胞、好中球、マクロファージ、骨芽細胞、または血管平滑筋細胞の移動促進)、ケモカインの発現促進、血管新生促進、またはシナプス形成促進等を挙げることができる。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0109】
目的のタンパク質と「機能的に同等なタンパク質」をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、MKの塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、またMK(配列番号:1)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、MKと高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるMKと同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
【0110】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、0.4%SDS、0.5×SSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1×SSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、目的タンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0111】
本発明の方法に使用されるMKの由来となる生物種としては、特定の生物種に限定されるものではない。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウシ、酵母、昆虫などが挙げられる。
【0112】
第一の態様に用いられるMKの状態としては、特に制限はなく、例えば、精製された状態、細胞内に発現した状態、細胞抽出液内に発現した状態などであってもよい。
【0113】
MKの精製は周知の方法で行うことができる。また、MKが発現している細胞としては、内在性のMKを発現している細胞、または外来性のMKを発現している細胞が挙げられる。上記内在性のMKを発現している細胞としては、培養細胞などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。上記培養細胞としては、特に制限はなく、例えば、市販のものを用いることが可能である。内在性のMKを発現している細胞が由来する生物種としては、特に制限はなく、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウシ、酵母、昆虫などが挙げられる。また、上記外来性のMKを発現している細胞は、例えば、MKをコードするDNAを含むベクターを細胞に導入することで作製できる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェタミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。また
、上記外来性のMKを有する細胞は、例えば、MKをコードするDNAを、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により、染色体へ挿入することで作製することができる。このような外来性のMKが導入される細胞が由来する生物種としては、哺乳類に限定されず、外来タンパク質を細胞内に発現させる技術が確立されている生物種であればよい。
【0114】
また、MKが発現している細胞抽出液は、例えば、試験管内転写翻訳系に含まれる細胞抽出液に、MKをコードするDNAを含むベクターを添加したものを挙げることができる。該試験管内転写翻訳系としては、特に制限はなく、市販の試験管内転写翻訳キットなどを使用することが可能である。
【0115】
本発明の方法における「被検化合物」としては、特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、核酸、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、ペプチドライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。上記被験試料は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。また、上記被験試料に加えて、これらの被験試料を複数種混合した混合物も含まれる。
【0116】
また、本発明において「接触」は、MKの状態に応じて行う。例えば、MKが精製された状態であれば、精製標品に被験試料を添加することにより行うことができる。また、細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被験試料を添加することにより行うことができる。被験試料がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、MKが発現している細胞へ導入する、または該ベクターをMKが発現している細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母または動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。
【0117】
第一の態様では、次いで、MKと被験化合物との結合を検出する。検出方法としては、特に制限はない。MKと被験化合物との結合は、例えば、MKに結合した被験化合物に付された標識(例えば、放射標識や蛍光標識など定量的測定が可能な標識)によって検出することができる。また、MKに標識剤を結合することもできる。被験化合物またはMKを樹脂やチップなどに固定化して結合を検出することもできる。MKへの被験化合物の結合により生じるMKの活性変化を指標に検出することもできる。
本態様では、次いで、MKと結合する被験化合物を選択する。選択された化合物にはMKの発現または活性を減少させる化合物が含まれ、MKの発現または活性を抑制することによって、結果的に調節性T細胞の増殖作用および機能促進作用をもち、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する効果を示すものと考えられる。
【0118】
本発明のスクリーニング方法の第二の態様としては、まずMKを発現する細胞に被検化合物を接触させる。
第二の態様では、次いでMKの発現レベルを測定する。MKの発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT−PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。
【0119】
また、該遺伝子からコードされるMKを含む画分を定法に従って回収し、該MKの発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、MKに対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実
施し、MKの発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。MKに対する抗体については、上記に記載したものを用いることが出来る。
【0120】
第二の態様では、次いで、被検化合物を接触させていない場合と比較して、該MKの発現レベルを減少させた被検化合物を選択する。選択された化合物には、MKの発現を減少させる化合物が含まれ、MKの発現を抑制することによって、結果的に調節性T細胞の増殖作用および機能促進作用をもち、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する効果を示すものと考えられる。
【0121】
本発明のスクリーニング方法の第三の態様としては、まず、MKをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。
第三の態様において、「機能的に結合した」とは、MK遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、MK遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、MK遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0122】
上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。また、上記レポーター遺伝子には、MKをコードするDNAもまた含まれる。
MKをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液は、第一の態様において述べた方法で調製することが可能である。
【0123】
第三の態様では、次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被験試料を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。
【0124】
レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−グルクロニド(X−Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0125】
また、MK遺伝子をレポーターとする場合、該遺伝子の発現レベルの測定は、第二の態様に記載された方法で行うことが出来る。
【0126】
第三の態様においては、次いで、被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レ
ポーター遺伝子の発現レベルを減少または増加させた被検化合物を選択する。選択された化合物には、MK遺伝子の発現レベルを減少させる化合物が含まれ、MKの発現を抑制することによって、結果的に調節性T細胞の増殖作用および機能促進作用をもち、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する効果を示すものと考えられる。
【0127】
本発明のスクリーニング方法の第四の態様としては、まず、MK遺伝子を発現する細胞に被検化合物を接触させる。
第四の態様では、次いで、上記MKの活性を測定する。MKの活性としては、細胞の増殖促進(繊維芽細胞、ケラチノサイト、または腫瘍細胞の増殖促進)、細胞の生存促進(胎児神経細胞、または腫瘍細胞の生存促進)、細胞の移動促進(神経細胞、好中球、マクロファージ、骨芽細胞、または血管平滑筋細胞の移動促進)、ケモカインの発現促進、血管新生促進、またはシナプス形成促進等を挙げることができる。具体的には、好中球、マクロファージの遊走能の測定、繊維芽細胞の増殖能により間接的にMKの活性を測定することができる。次いで、被検化合物を接触させない場合と比較して、上記活性を低下もしくは増加させた被検化合物を選択する。選択された化合物には、MKの活性を低下させる化合物が含まれ、MKの活性を抑制することによって、結果的に調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する効果を示すものと考えられる。
【0128】
本発明は、MKを発現する細胞において、MKの発現または活性を抑制させる工程を含む、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する方法に関する。本発明の方法において、MKの発現または活性を抑制することにより、調節性T細胞を増加させてもよいし、1型ヘルパーT細胞を減少させてもよい。
【0129】
本発明において、MK遺伝子の発現または活性を抑制させるための方法としては、MKをコードするDNAの転写産物と相補的なRNA、または該転写産物を特異的に開裂するリボザイムの対象への投与を挙げることができる。MKをコードするDNAとしては配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、および配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする天然由来のDNA等も含まれる。
【0130】
本発明の「MKの発現を抑制」という記載には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNAの発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0131】
本発明のMK阻害剤をヒトや他の動物の医薬として使用する場合には、これらの化合物自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化して投与を行うことも可能である。製剤化する場合には、上記に記載の製剤上許容される材料を添加してもよい。
【0132】
本発明におけるすべての薬剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.001mgから100mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり0.1〜1000mg、好ましくは0.1〜50mgの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量、投与方法は、たとえば抗MK抗体または抗MK受容体抗体の場合には、血中にフリーの抗体が存在する程度の量が有効投与量であり、具体的な例としては、体重1kgあたり1ヶ月(4週間)に0.5mgから40mg、好ましくは1mg
から20mgを1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで点滴などの静脈内注射、皮下注射などの方法で、投与する方法などである。投与スケジュールは、投与後の状態の観察および血液検査値の動向を観察しながら2回/週あるいは1回/週から1回/2週、1回/3週、1回/4週のように投与間隔を延ばしていくなど調整することも可能である。MKアプタマーの場合には、血中にフリーのアプタマーが存在する程度の量が有効投与量であり、具体的な例としては、体重1kgあたり1ヶ月(4週間)に0.1mgから100mg、好ましくは0.1mgから40mgを1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで点滴などの静脈内注射、皮下注射などの方法で、投与する方法などである。
【0133】
本発明は、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の検査方法に関する。該方法としては、MKを発現する細胞において、MKの発現量を測定する工程を含む、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の検査方法を挙げることが出来る。MKの発現量の測定は上記に記載の方法で行うことが可能である。
【0134】
MKの発現量が増大した場合には、1型ヘルパーT細胞が増大している(CD25陽性調節性T細胞が減少している)と考えられ、MKの発現量を測定することで調節性T細胞の機能異常に基づく疾患が発症しているかどうかを検査することが可能であるものと考えられる。
【0135】
本発明は、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の検査薬に関する。
該検査薬における「MKと結合する物質」としては、MK蛋白質、MK遺伝子領域、MKmRNAと結合する物質であれば特に限定はなく、例えば、MK遺伝子領域とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドまたはMKを認識する抗体を挙げることができる。このような、MK遺伝子領域とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドとしては、例えば、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを挙げることが出来る。
【0136】
本発明の検査薬として使用する、オリゴヌクレオチドには、ポリヌクレオチドが含まれる。本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明のMKをコードするDNAの検出や増幅に用いるプローブやプライマー、MK遺伝子の発現を検出するためのプローブやプライマー、本発明のMKタンパク質の発現を制御するためのヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイム、またはこれらをコードするDNA等)として使用することができる。また、本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAアレイの基板の形態で使用することができる。
【0137】
該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは15bp〜30bpである。プライマーは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。また、プライマーとして用いる場合、3’側の領域は相補的とし、5’側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
【0138】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。
【0139】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵
素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0140】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得されるの二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0141】
本発明の検査薬として使用する、抗体は上記のMKを認識する限り特に限定されないが、特異的にMKを認識する抗体であることが好ましい。抗MK抗体については上記に記載のものを例示することができる。
【0142】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0143】
上記の検査薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチドまたは抗体以外に、上記に記載の製剤上許容される材料を含んでいてもよい。
【0144】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0145】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0146】
〔実施例1〕MK欠損マウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎の誘導および、臨床症状の観察
まず、MK欠損マウスにおいて実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導し、その病態を観察した。
300μgのMyelin oligodendrocyte glycoprotein peptide 35-55(MOG35−55)(MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK)(配列番号:3)を500μgの結核死菌(Mycobacterium tuberculosis)を含む不完全Feund’s adjuvantをともにエマルジョン化し、8−10週齢の野生型及びMK欠損のC57BL6マウス(日本、名古屋大学、村松教授より供与、Nakamura, E., et al., Genes Cells 3, 811-822 (1998))に接種した。さらに、感作直後及び48時間後に300ngの百日咳毒素(pertussis toxin)を200μlのPBSに溶かし、尾静脈より投与しEAEを誘導した。以後、毎日以下の基準により臨床症状を評価した(図1)。野生型マウス(n=16)、MK欠損マウス(n=13)について、毎日臨床スコアが付けられ、臨床症状の評価が行われた。図1における臨床スコア値は、0:症状なし、1:尾が垂れる、2:不安定歩行、3:後肢麻痺、4:四肢麻痺、5:死亡の病状を示し、免疫接種後25日までの全ての動物の割合が記録された。
その結果、MK欠損マウスにおいて、臨床症状の軽減が見られた(図1)。具体的には、MOG35−55の免疫接種後、MK欠損マウスにおいては、発病開始の遅れ、疾病重症度の軽減が見られた。
【0147】
〔実施例2〕MKの投与による、MK欠損マウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎の臨床症状への効果の検討
実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導させたMK欠損マウスに対して、MKを投与し、臨床
症状へのMKの効果を検討した。
MK欠損マウスに、1mg/mlに溶解したMKをマイクロ浸透ポンプ(Model 1002, Durect Corp. Cupertino, CA)につめて腹腔内に投与した。このマイクロ浸透ポンプにより1時間に0.25μlのMKを14日間投与し、総量として200mg/日のMKを投与した。実施例1と同様の方法により、臨床症状の評価を行った(n=13)。PBSのみをつめたマイクロ浸透ポンプを同様に腹腔内に投与したものを対照とした。
その結果、MK欠損マウスにおける臨床症状の軽減効果が、消失することが明らかとなった(図1)。
【0148】
〔実施例3〕各マウスの病理学的検索
EAE発症後(感作後14日目)の、実施例1および2の各群の脊髄を取り出し、ホルマリン固定後、公知の方法でヘマトキシリン・エオジン染色をし、病理学的検索を行った。
その結果、MK欠損マウスにおいてMOG35−55の免疫接種後のCNS炎症の減少が見られた。
【0149】
〔実施例4〕自己免疫性脳脊髄炎モデル動物におけるCD4陽性T細胞、またはCD4・CD25陽性調節性T細胞の動態の解析
該自己免疫性脳脊髄炎モデル動物におけるCD4・CD25陽性調節性T細胞の動態を検索して、MKのEAE発現やCD4・CD25陽性調節性T細胞の機能に対する役割を検討した。
野生型、MK欠損マウス、MK投与群のEAE発症後(免疫接種12−14日後)のマウスの脾臓、腸管膜リンパ節、膝下リンパ節よりリンパ球を分離し、CD4・CD8陽性細胞およびCD4・CD25陽性細胞をフローサイトメトリーにより測定した。
その結果、MOG35−55接種後の野生型マウスおよびMK欠損マウスの末梢リンパ節においては、CD4陽性T細胞の比率に大きな違いは見られなかった(図2)。一方、CD4・CD25陽性T細胞は、MK欠損マウスの末梢リンパ節において活性増加が見られた(図3)。
【0150】
さらに、磁気細胞分離装置(MACS)によりCD4陽性T細胞を純化し(>95% CD4陽性cells)、MOG35−55(20μg/ml)存在下で培養し、CD4・CD25陽性T細胞の比率をフローサイトメトリーにより求めた。具体的には、野生型マウスおよびMK欠損マウスに対し、初日に実施例2と同様にマイクロ浸透圧ポンプを用いて1mg/mlのMKまたはPBSを投与し、さらに200μg/マウスのMOG35−55を初日および2日後に投与した。臨床症状のピーク時にマウスの脾細胞からCD4陽性T細胞を純化し、該細胞(ウェルあたり2×10個)を、in vitroにおいてMOG35−55(20μg/ml)および抗原提示細胞(antigen presenting cell:以下APC、50μg/mlのマイトマイシンCで37℃30分処理した正常マウスの脾臓細胞、ウェルあたり5×10個)存在下で4日間培養した。4日後に、FACSによりCD4・CD25陽性T細胞の発現を解析した。また、CD4マイクロビーズにより精製されたCD4陽性T細胞のcDNAを調製し、Foxp3 mRNAレベルを決定するためにリアルタイムRT−RCRにより解析を行った。
その結果、MK欠損マウスにMKを投与することで、CD4・CD25陽性T細胞の発現が抑えられることが明らかとなった(図4)。
【0151】
以上の結果より、本モデル動物における臨床症状の軽減は、疾患を誘導するCD4陽性細胞の変化ではなく(図2)、CD4・CD25陽性の調節性T細胞の増加が関与していることが明らかとなった(図3、4)。
【0152】
〔実施例5〕MK添加による、MK欠損マウスにおけるCD4・CD25陽性T細胞の動
態への影響の解析
次に、0、20、100ng/mlのMKの存在下、MK欠損マウスの脾臓由来のCD4陽性T細胞をMOG35−55により刺激後、実施例4と同様の方法で、CD4・CD25陽性T細胞の比率、およびFoxp3 mRNAの発現を解析した。
その結果、添加MKの濃度の増大に伴い、MK欠損マウスにおいてCD4・CD25陽性T細胞の比率および発現が低下することが明らかとなった(図5)。
【0153】
〔実施例6〕MK欠損マウスにおけるTh1/Th2バランスの解析
EAEは1型ヘルパーT細胞(Th1)により誘導される疾患であるので、MK欠損マウスにおけるTh1/Th2バランスを検討し、MKのTh1/Th2バランスに対する効果についても検討を行った。
具体的には、EAE臨床症状のピーク時にマウスの脾細胞からCD4陽性T細胞を純化し、該細胞(ウェルあたり2×10個)を、in vitroにおいてMOG35−55(20μg/ml)およびAPC存在下で3日間培養した。培養上澄み中のIFN−γおよびIL−4を、ELISAにより解析した。
その結果、ミッドカイン欠損マウスでは、細胞性免疫を誘導する1型ヘルパーT細胞も抑制されることが明らかとなった(図6)。
【0154】
〔実施例7〕抗MK抗体添加による、EAEモデルマウスにおけるCD4・CD25陽性T細胞の動態への影響のin vitro解析
マウス抗ヒトMKモノクローナル抗体の作製
(MK遺伝子ノックアウトマウスの作製)
MK遺伝子ノックアウトマウスは、公知の方法(特開2002−85058号公報、Nakamura, E. et al. :Genes Cells 3, p.811-822.)により作製した。
【0155】
(抗原の作成)
ヒトMKmRNAを、ウィルムス腫瘍由来の培養株細胞G−401より調整した(Tsutsui, J. ら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 176, 792-797, 1991)。プライマーとして、制限酵素EcoRIに認識される配列(5’-GAATTC-3’)を含むように設計した、センスPCRプライマー:5’-GCGGAATTCATGCAGCACCGAGGCTTCCTC-3’(配列番号:4)、及び、アンチセンスPCRプライマー:5’-GCGGAATTCCTAGTCCTTTCCCTTCCCTTT-3’(配列番号:5)を用い、ヒトMKmRNAを鋳型として、93℃→37℃→72℃の温度変化を1サイクルとする30サイクルのPCR(Polymerase Chain Reaction)を行い、MKコーディング領域の両端にEcoRI認識部位をもつヒトMKcDNAを調製した。
MKcDNA及び酵母ピキア・パトリスGS115(Pichia pastoris GS115、以下、「ピキア酵母GS115」という)用発現ベクターpHIL301(ヒスチジン及びネオマイシン耐性遺伝子含有、特開平2−104292号、欧州特許公開0339568号公報参照)を、制限酵素EcoRIで消化した後、ライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて結合させ、組み換え発現ベクターを作製した。
エレクトロポレーション法を用いて、上記で調製した組み換え発現ベクターをピキア酵母GS115(インビトロゲン社)へ導入した。ベクターを導入したピキア酵母GS115を、ヒスチジンを含まない、G418含有培地で培養することにより、目的のMK遺伝子を持つ複数のクローンを得た。得られたクローンを、メタノールで誘導しながら培養を行った。培養上清を採取し、ウサギ抗マウスMKポリクローナル抗体を使用したウェスタンブロット解析を行うことにより、当該クローンがMKを分泌するかどうか確認した。
誘導により、培養上清中にMKを分泌するクローンの1つをT3L−50−4Pと名付け、このクローンを培養した(特開平7−39889号公報参照)。培養上清からMKの分泌産物を回収し、イオン交換クロマトグラフィー、ヘパリンカラムを使用したアフィニティクロマトグラフィーによって精製し、高純度MKを得た。
【0156】
(免疫)
抗原をMKノックアウトマウスに免疫した。抗原の調整はマウス1匹あたり10μgを生理食塩水で0.1mlに希釈したものを抗原溶液とし、FCA0.1mlと混合し乳化させマウスの背皮に皮下投与した。2週間毎に8回免疫操作をした。8回目の免疫は抗原溶液のまま10μgを生理食塩水0.1mlに溶解し、マウス尾静脈に静脈注射した。
4回免疫後6日目と、6回免疫後8日目に、マウスの眼底から採取した血清を用いて、血中抗体価をELISA法にて調べた。
ELISA法は、以下の方法により行った。まず、抗原溶液をPBS(pH7.2〜7.4)で、1.0μg/mlの濃度に調製し、50μl/wellで96wellアッセイプレート(FALCON社製、353912)に分注して4℃で一晩静置して抗原を固相化させた。0.05%Tween-PBSで3回洗浄後、ブロックエース(大日本製薬製)4倍希釈を100μl/wellで加え、37℃で2時間静置してブロッキングを行った。0.05%Tween-PBSで3回洗浄後、培養上澄原液を50μl/well加え、37℃で1時間静置した。0.05%Tween-PBSで3回洗浄後、2次抗体として、ブロックエースで10倍に希釈したヤギ抗マウスIgG+IgM HRP標識(Goat anti-Mouse IgG+IgM HRP conjugate)(BIOSOUCE社製、AMI3704)10000倍希釈を50μl/well加え、37℃で1時間静置した。0.05%Tween-PBSで3回洗浄後、HRP基質(基質液(クエン酸一水和物 10.206mg/ml、リン酸水素二ナトリウム12水 36.82mg/ml in distilled HO)25ml、OPD 10mg、30%H 5μl)を50μl/wellで加え、室温、遮光した状態で20分間静置した。1N硫酸50μl/wellを加えて反応を停止させ、492nmの波長で測定した。
6回免疫後8日目に行なったELISA法で十分な抗体価があったので追加で2回免疫した3日後に細胞融合を行なった。
【0157】
(細胞融合)
マウスを捕定し胸部をアルコール綿で拭き、2.5mlのシリンジと23Gの針を用いて心臓採血を行った。採血した後、マウスを消毒用アルコール20mlの入ったビーカーに3分間程度入れた。採血した血液は1.5mlチューブに入れ37℃で1時間放置した後、4℃で一晩放置し、3,000rpmで10分間遠心分離した。血清を他の1.5mlチューブに移し0.05%アジ化ナトリウムを加え4℃で保存した。
採血したマウスの上皮をはさみとピンセット用いて剥がした。さらに、内皮を持ち上げ切込みをいれて脾臓を取り出した。あらかじめシャーレ5枚に分注しておいた200mlのRPMI1640 S.P培地で順に5回洗浄した。洗浄後、脾臓をメッシュに乗せハサミで数回切込みを入れ、ガラス棒ですり潰し、RPMI1640 S.P培地で網を洗い、40mlのガラス遠沈管に脾臓細胞を集めた。集めた脾臓細胞は1200rpmで10分間遠心分離し、上澄を吸引ピペットで吸い上げ、RPMI1640 S.P培地を40ml入れ1200rpmで10分間遠心分離した。得られた秘蔵細胞にRPMI1640 S.P培地を40ml加えよく攪拌し、血球計算版で細胞数を計測した。
シャーレに入っているミエロ―マ細胞(P3U1)を、ピペットを用いて数回吹きつけ、50mlの遠沈管に集めた。1000rpmで5分間遠心分離し、上澄を吸引ピペットで除きRPMI1640 S.P培地を40ml加え、1000rpmで5分間遠心分離した。得られたミエローマ細胞にRPMI1640 S.P培地を40ml加えてよく攪拌し、血球計算版で細胞数を計測した。
上述の細胞数の計測の結果を基に、脾臓細胞5に対してミエローマ細胞1となるよう、脾臓細胞が入っていた50mlのガラス遠沈管にミエローマ細胞を入れた。混合した後、1200rpmで10分間遠心分離し、上澄を吸引ピッペットで吸い取りタッピングをした。タッピング後、PEG(ポリエチレングリコール)1mlを、1分間かけて混合しながらゆっくり添加し、そのまま、2分間混合する。PEGの混合後、あらかじめウォーターバスに入れ37℃に加温しておいたRPMI1640 S.P培地1mlを、1分間かけて混合しながらゆっくり添加した。これを3回繰り返した。その後、37℃に加温しておいたRPMI16
40 S.P培地10mlを、3分間かけて混合しながらゆっくり添加した。培地添加後、37℃、5%COインキュベーターで5分間加温した後、1,000rpmで5分間遠心分離し、上澄を吸引ピペットで吸いタッピングをした。
タッピング後、(細胞を播種するプレートの枚数)×10mlのRPMI1640 S.P 15%FCS HAT培地を吹き付け、8連のマイクロピッペット(各100μl)と専用の受け皿を使い、イエローチップを用いて96wellプレートに細胞を播種した。37℃、5%COインキュベーターで7日〜14日培養し、コロニーの成長具合を見てELISAで抗体作成能をスクリーニングした。
【0158】
(抗MK陽性抗体産生ハイブリドーマの選択)
細胞融合から10日後、96well培養プレートの上清を使用しELISA法にて優位に吸光度の高い12wellをクローニング用サンプルとした。ハイブリドーマの細胞数を数え、96well培養プレートの3列に5 cells/well、3列に1 cell/well、2列に0.5 cells/wellとなるようにハイブリドーマ細胞を播種した。また、各wellにフィダー細胞を1×10cells/wellとなるように播種した。クローニング後5日目にコロニーカウントを行い、コロニーが1個であるwellを確認し、2〜3日毎に培地を交換し、コロニーがwellの1/3をしめてきたところでELISA法を用いてコロニーが1個で陽性反応を示すwellを選択し、コロニー1個でELISAにおいて陽性であり、かつ細胞の状態が良好なwellから得られた細胞を樹立株(IP−13)とした。
次に、上述の方法で得られた抗MK抗体(IP−13)が、MKのCD4・CD25陽性T細胞増殖抑制活性を阻害するかどうか、実施例4と同様な方法を用いて調べた。EAE臨床症状がピークとなった野生型マウスの脾臓からCD4陽性T細胞を分離し、IP−13(30μg/mL)、MOG35−55(30μg/ml)およびAPC存在下で培養した。培養5日後にCD4陽性T細胞中のCD4・CD25陽性T細胞の割合をフローサイトメーターを用いて測定した。コントロールとしてIP−13抗体の代わりにIgGを用いた実験も平行しておこなった。
その結果、コントロール実験でCD4・CD25陽性T細胞の存在割合が2%であったのに対し、IP−13を加えた実験ではCD4・CD25陽性T細胞の存在割合が4%と上昇していることがわかった。以上より、抗MK抗体を用いることで、MKのCD4・CD25陽性細胞増殖抑制活性を阻害することができることが示された(図7)。
【0159】
〔実施例8〕抗MK抗体添加による、EAEモデルマウスにおける臨床症状変化の観察
実施例1の方法により実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導したEAE臨床症状の野生型マウスに対して、抗MK抗体を投与し、その臨床症状を観察した。
まず、野生型EAEモデルマウス(C57BL−6,♀、8週令)に対して、MOG35−55投与後0日目,3日目,7日目,10日目,14日目,17日目,21日目,24日目(合計8回)に、抗MK抗体(IP14)の投与を行った。マウスを4つの群に分け(一群の匹数:5)、マウス重さ(kg)あたり、それぞれ75mg/kg、7.5mg/kg、0.75mg/kg、0mg/kg(コントロール)の量の抗MK抗体を尾静脈投与した。次に、6段階の臨床スコア(0:症状なし、1:尾が垂れる、2:仰向けにして起き上がれない、3:不安定歩行、4:軽度の後肢麻痺、5:重度の後肢麻痺、6:死亡)で毎日臨床スコアを付け、臨床症状の評価を行った。
その結果、抗MK抗体を投与したマウス群において、臨床症状の軽減が見られた(図8)。具体的には、MOG35−55の免疫接種後、抗MK抗体を投与したマウス群においては、発病開始の遅れ、疾病重症度の軽減が見られた。
【0160】
〔実施例9〕MKアプタマーを用いたEAEモデルマウスの発症抑制実験
実施例1の方法により実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導した野生型マウスにMKアプタマーを投与し、EAE発症抑制効果を観察した。
MKに特異的に結合するアプタマーはSELEX法を用いて作製した。得られたアプタマーのうち、1つを、化学合成できる長さまで短くした。また、化学修飾を加えることでヌクレアーゼ耐性を向上させたアプタマーAを得た。
アプタマーAがヒトMKの細胞遊走活性を阻害するか、ラットの骨芽細胞前駆細胞であるUMR106細胞(ATCC No. CRL1661)を用いて調べた。ケモタキセル(膜孔径8μm、クラボウ社製)の膜外面に1.5μMのMKを30μL塗布し、膜外面にMKを固定化した。アプタマー500nMを含む500μLの培地(0.3%ウシ血清アルブミン添加、Dulbecco’s Modified Eagle’s medium)を添加した24穴カルチャープレートに、MKを固定化したケモタキセルを設置した。ケモタキセルチェンバー内層にはUMR106細胞を1×10cells/mLの濃度で200μL入れ、37℃で4時間培養した。ケモタキセルチェンバー内層に残存した細胞を除去し、MK塗布面に浸潤し接着した細胞をメタノールで固定した。ケモタキセルチェンバーを1%クリスタルバイオレット水溶液に30分間浸して細胞を染色した。ケモタキセルチェンバーを蒸留水で洗浄、乾燥した後、200μLの1%SDSと1%tritonX100の混合液で色素を抽出した。抽出液の150μLを96穴マイクロプレートに移し、590nmの吸光度を測定した。測定の結果、アプタマーAは強い細胞遊走阻害活性を有していることがわかった。アプタマーを添加しない場合に移動した細胞の数を100とした場合、アプタマーAを添加したときに移動した細胞の数は約2.3であり、98%の阻害活性が確認された。一方、コントロールとして用いたRNAは阻害活性を示さなかった。
アプタマーAがCD4・CD25陽性調節性T細胞の増殖に関与するかどうか調べた。実験は実施例7と同様におこなった。MOG処理後4週目のEAE臨床症状を示したC57BL/6マウスの脾臓よりCD4陽性T細胞を分離し、該細胞(ウェルあたり2×10個)を、in vitroにおいてMOG35−55(20μg/ml)およびAPC存在下でアプタマーAを添加し、3日間培養した。FACSによりCD4・CD25陽性T細胞の発現を解析した。さらに細胞内Foxp3を抗マウスFoxp3染色セット(eBioscience社)を用いCD4陽性細胞を同時染色しフローサイトメトリーにより検出した。実験の結果、コントロールとしてPBSを添加した系ではCD4・CD25陽性調節性T細胞の存在割合が6.2%であったのに対して、アプタマーAを125nM添加した系ではCD4・CD25陽性調節性T細胞の存在割合は11%であり、アプタマーを加えることでCD4・CD25陽性調節性T細胞の割合が増加することが確認された。また、調節性T細胞の発生や分化に関係しているFoxp3の発現を調べたところ、コントロールとしてPBSを添加した系ではCD4陽性細胞のうち25%の細胞で発現が確認されたのに対し、アプタマーAを125nM添加した系では33%と増加していた。以上より、アプタマーAを加えることでCD4・CD25陽性調節性T細胞が増加することが示された。
アプタマーAを用いてEAEモデルマウスの発症抑制実験をおこなった。8週令のマウス(C57Bl/6、♀)にMOGを処理したEAEモデルマウスを用い、MOG処理日より、2日に1回の間隔で計10回、それぞれ15mg/kg,2.5mg/kg,0.25mg/kg、0mg/kg(コントロール)のアプタマーを腹腔内投与した。一群当たりの匹数は5〜6匹とした。観察は毎日行い、次に示す臨床スコアをもとに各個体の臨床症状をスコア化した。0:症状なし、1:尾が垂れる、2:仰向けにして起き上がれない、3:不安定歩行、4:軽度の後肢麻痺、5:重度の後肢麻痺、6:死亡。実験の結果、15mg/kg投与群においてコントロール群に比較しMOG処理後15、16、17、18日目においてp値が1%以下を示し統計学的な有意差が認められた(図9)。統計学的処理はDunnett検定を用いた。病態発症の遅延効果が、15mg/kgおよび2.5mg/kg投与群で認められた。
以上より、MK阻害剤であるMKに特異的に結合するアプタマーは、CD4・CD25陽性調節性T細胞の減少に関連する疾患である多発性硬化症の治療薬として利用可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0161】
MKの発現または活性を抑制することにより、調節性T細胞が増加することから、本発明は、MK阻害剤の投与等によりMKを阻害することにより、多発性硬化症をはじめとする調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する方法として利用することができる。また、MK阻害剤は、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤または予防剤として利用することができる。更に、本発明のスクリーニング方法により、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤または予防剤を得ることができる。また、本発明の診断方法は、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を診断する方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッドカインに対するアプタマーを有効成分として含有する、調節性T細胞増殖剤。
【請求項2】
ミッドカインに対するアプタマーを有効成分として含有する調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療剤又は予防剤。
【請求項3】
調節性T細胞の機能異常に基づく疾患が、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、移植時の慢性拒絶、甲状腺異常、炎症性腸炎、1型糖尿病、多発性硬化症、重症筋無力症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスまたは筋萎縮性側索硬化症である請求項1又は請求項2に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項4】
調節性T細胞の機能異常に基づく疾患が、多発性硬化症である請求項1又は請求項2に記載の治療剤。
【請求項5】
ミッドカインに対するアプタマーによりミッドカインを阻害することによる、調節性T細胞の増殖方法。
【請求項6】
ミッドカインに対するアプタマーを投与することからなる調節性T細胞の増殖方法。
【請求項7】
調節性T細胞増殖剤の製造のためのミッドカインに対するアプタマーの使用。
【請求項8】
ミッドカインに対するアプタマーによりミッドカインを阻害することによる、調節性T細胞の機能異常に基く疾患の治療方法または予防方法。
【請求項9】
ミッドカインに対するアプタマーを投与することからなる調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の治療方法または予防方法。
【請求項10】
調節性T細胞の機能異常に基づく疾患治療剤または予防剤の製造のためのミッドカインに対するアプタマーの使用。
【請求項11】
ミッドカインに対するアプタマーを含む、調節性T細胞の機能異常に基づく疾患の検査薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−102111(P2012−102111A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277451(P2011−277451)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【分割の表示】特願2007−544236(P2007−544236)の分割
【原出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(505254175)株式会社リボミック (4)
【Fターム(参考)】