説明

識別媒体およびその製造方法

【課題】多くの情報を組み込むことが出来、低コストで少量の生産、シールデザインの変更を行うことが可能な識別媒体を提供する。
【解決手段】ホログラムを構成する為の凹凸が形成されたコレステリック液晶層302を第1の光透過性の基板301上に形成し、他方で、黒色インクで構成された印刷層305を光透過性の第2の基板304上に形成する。両基板を光透過性の接着層308を介して貼り合わせることで、識別媒体310を得る。この識別媒体310は、印刷層により構成される表示内容を変更することで、識別に利用する表示内容の変更を低コストで行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製品等の真正性(真贋性)を識別するための識別媒体に関し、特に、多くの情報を組み込むことが出来、低コストでデザイン変更、小規模生産に適した識別媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート、各種カード、証書類、各種製品の偽造防止方法として、その対象物の表面に特殊なインクを塗布する技術や、ホログラムを貼り付ける技術などが知られている。例えば、特許文献1には、ホログラムにコレステリック液晶を組み合わせた偽造防止技術が示されている。この技術によれば、ホログラムとコレステリック液晶を組み合わせ、その反射光を左右の円偏光フィルタを通して観察することで、真贋が判別される。具体的には、右円偏光フィルタで見えるときは、左円偏光フィルタでは見えないという現象を用いて真贋の判別が行われる。
【0003】
【特許文献1】特開平11−042875
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した技術では、ロゴ、生産ロット等の情報を入れることが出来るのがホログラム部分のみとなる為、入れることの出来る情報量が少ない。また、ホログラムの版は高価であるため、「少量の生産に適さない」「絵柄の変更に高いコストがかかる」という問題がある。そこで、本発明は多くの情報を組み込むことが出来、低コストで少量の生産、デザインの変更を行うことが可能な識別媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、視認する側から見て、ホログラムを表示するための凹凸が形成されたコレステリック液晶層と、所定波長の光を反射または吸収する所定パターンを有する印刷層とが順に配置された層構造を有することを特徴とする識別媒体である。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、コレステリック液晶層のホログラムの表示と印刷層の印刷パターンにより構成される表示との組み合わせにより多彩な情報を表示させることができる。また、安価に作製できる印刷層の印刷パターンを変更することで、識別に利用する表示内容を低コストで変更することができる。請求項1に記載の発明において、コレステリック液晶層と印刷層との間に他の層が介在していてもよい。勿論、コレステリック液晶層と印刷層とが接していてもよい。また、コレステリック液晶層のホログラムの表示と印刷パターンによる表示の内容は、文字、デザイン文字、絵柄、模様、これらの2以上の組み合わせにより構成することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、コレステリック液晶層は、光透過性の第1の基板上に形成されており、印刷層は、光透過性の第2の基板上に形成されており、第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わした構造を有することを特徴とする。光透過性というのは、識別に利用する可視光を透過する性質のこという。可視光に対する透過率は、高いほどよいが、識別に支障がない範囲で損失があってもよい。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、第2の基板側の印刷層のパターンを変更することで、識別に利用する表示の内容を変更することができる。印刷層のパターンの変更は、低コストで実現できるので、表示内容の変更に要するコストを抑えることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、印刷層は、コレステリック液晶の凹凸が形成された面上に設けられていることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、コレステリック液晶の部分を変更せず、その上に形成する印刷層を変更することで、識別に利用する表示の内容を変更することができる。印刷層の変更は、安価に行えるので、異なる表示内容を得る際のコストを抑えることができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、光透過性の第1の基板上にコレステリック液晶層を形成する工程と、前記コレステリック液晶層の表面にホログラムを表示するための凹凸を形成する工程と、光透過性の第2の基板上に所定波長の光を反射または吸収する所定パターンを有する印刷層を形成する工程と、前記第1の基板と前記第2の基板を貼り合わせる工程とを有することを特徴とする識別媒体の製造方法である。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、第2の基板側を変更することで、識別媒体の表示内容を変更することができる。印刷層のパターン変更は、低コストで実現できるので、第2の基板側の変更に要するコストは低くて済む。このため、第2の基板側に複数のバリエーションを用意することで、コスト増を招かずに多様な内容の表示が行われる識別媒体を製造することができる。なお、この請求項4における所定波長というのは、700nmというような特定の波長であってもよいし、幅のある波長帯域であってもよい。勿論、可視光全域の波長帯域であってもよい。
【0012】
請求項5に記載の発明は、光透過性の第1の基板上にコレステリック液晶層を形成する工程と、前記コレステリック液晶層の表面にホログラムを表示するための凹凸を形成する工程と、前記コレステリック液晶層の前記凹凸が形成された面上に所定波長の光を反射または吸収する所定パターンを有する印刷層を形成する工程とを有することを特徴とする識別媒体の製造方法である。請求項5に記載の発明によれば、印刷層を形成する工程を変更するだけで、識別に利用する表示の内容を変更することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多くの情報を組み込むことが出来、低コストで少量の生産、デザインの変更を行うことが可能な識別媒体およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)第1の実施形態
(コレステリック液晶について)
まず、コレステリック液晶について簡単に説明する。図1は、コレステリック液晶層の構造を概念的に示す概念図であり、図2は、コレステリック液晶層が有する光学的な性質を説明する概念図である。図2には、自然光を入射させると、特定波長の右回り円偏光が反射され、左回り円偏光および直線偏光、さらにその他の波長の右回り円偏光がコレステリック液晶層201を透過する様子が示されている。
【0015】
コレステリック液晶層は、層状構造を有している。そして、一つの層に着目した場合、層中において液晶分子の分子長軸はその向きが揃っており、かつ層の面に平行に配向している。そして配向の方向は、隣接する層において少しずつずれており、全体としては立体的なスパイラル状に配向が回転しつつ各層が積み重なった構造を有している。
【0016】
この構造において、層に垂直な方向で考えて、分子長軸が360°回転して元に戻るまでの距離をピッチP、各層内の平均屈折率をnとする。この場合、コレステリック液晶層は、λs=n×Pを満たす、中心波長λsの円偏光を選択的に反射する性質を示す。すなわち、白色光をコレステリック液晶層に入射させると、特定の波長を中心波長とする右回りまたは左回り円偏光を選択的に反射する。この場合、反射した円偏光と同じ旋回方向を有するが波長がλsでない円偏光、反射した円偏光と逆旋回方向の円偏光、さらに直線偏光の成分は、コレステリック液晶層を透過する。
【0017】
反射する円偏光の旋回方向(回転方向)は、コレステリック液晶層のスパイラル方向を選択することで決めることができる。つまり、光の入射方向から見て、右ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、左ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、を選択することで、反射する円偏光の旋回方向(回転方向)を決めることができる。
【0018】
またコレステリック液晶層は、カラーシフトと呼ばれる現象を示す。以下、カラーシフトの原理を説明する。隣接する層で屈折率が異なる光透過性の多層薄膜に斜めから光が入射すると、その光は、多層構造の各界面において反射される。この反射は、上下に隣接する光透過性の層の屈折率が異なることに起因する。また、1層の界面を見た場合、反射されるのは、入射光の一部であり、入射光の大部分は透過する。つまり、多層に積層された界面に入射した入射光は、各界面において少しずつ反射されてゆく。この各界面で発生した反射光は、基本的に同じ方向に反射するので、それらは光路差に起因する干渉を起こす。
【0019】
入射光がより面に平行に近い方向から入射する程、光路差は小さくなるので、より短波長の光が干渉し、強め合うことになる。この原理から、視野角を大きくしていった場合に、より短波長の反射光同士が干渉し、強め合うことになる。この結果、白色光下で多層薄膜を見た場合に、視野角0°で多層薄膜が所定の色合いに見えたものが、視野角を大きくしてゆくに従い、徐々に青みがかった色に見た目の色彩が変化する現象が観察される。この現象をカラーシフトという。なお、視野角は、層への垂線と視線とのなす角度として定義される
【0020】
(識別媒体の製造方法および構成)
まず、本発明を利用した識別媒体の製造方法の一例を説明する。図3は、本発明を利用した識別媒体の製造工程の一例を示す工程断面図である。まず表面保護層として機能する光透過性の第1の基板301を用意する(図3(A))。ここでは、光透過性の基板として厚さ40μmのTAC(等方性トリアセチルセルロース)をフィルム状にしたものを利用する。第1の基板301は、透過する光の円偏光状態を乱さないようにするために、屈折率が等方性のものが利用される。この条件を満たす光透過性を有する材料として、ポリカーボネイトやポリスチレンを用いることができる。
【0021】
第1の基板301を用意したら、その上にコレステリック液晶層302を2μmの厚さに形成する。こうして図3(A)に示す状態を得る。この層としては、光学的に選択反射性および円偏光選択性を示すものを用いることが可能であるが、特にコレステリック液晶配向を固定化した高分子フィルムが好適である。またコレステリック液晶粒子を担体中に分散したフィルムなどを用いることもできる。
【0022】
コレステリック液晶配向を固定化した高分子フィルムの例としては、低分子液晶をコレステリック配向させた後、光反応または熱反応などで低分子液晶を架橋して配向を固定化した高分子フィルムを挙げることができる。また、他の例としては、側鎖型または主鎖型のサーモトロピック高分子液晶を液晶状態でコレステリック配向させた後、液晶転移点以下の温度に冷却して、配向状態を固定化して作製した高分子フィルムを挙げることができる。さらに側鎖型または主鎖型のリオトロピック高分子液晶を溶液中でコレステリック配向させた後、溶媒を徐々に除去することによって配向状態を固定化した高分子フィルムを用いることもできる。
【0023】
これら高分子フィルムの作製に用いることができる高分子液晶の例としては、側鎖に液晶形成基を有するポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシロキサン、ポリマロネートなどの側鎖型ポリマー、主鎖に液晶形成基をもつポリエステル、ポリエステルアミド、ポリカーボネイト、ポリアミド、ポリイミドなどの主鎖型ポリマーを挙げることができる。
【0024】
図3(A)に示す状態を得たら、コレステリック液晶層302にホログラムを形成するための版(型)を押し付け、ホログラム像を構成する凹凸(エンボス)303を形成する(図3(B))。こうして、第1の基板側部材31を得る。図示するように第1の基板側部材31は、第1の基板301を基材とし、その表面にホログラム像を構成する凹凸が形成されたコレステリック液晶層302が設けられた積層構造を備えている。
【0025】
上述した第1の基板側部材31とは別に、図3(C)に示す部材を作製する。この部材は、光透過性の第2の基板304とその表面に印刷された所定の図柄を構成するパターンを有する印刷層305、印刷層305を覆った粘着層306を有する第2の基板側部材32である。第2の基板304は、光透過性のプラスチック基板であり、例えば厚さ15μmのPET基板が用いられる。印刷層305は、黒色インクを第2の基板304の表面に印刷することで設けられる。粘着層306は、識別対象となる対象物に識別媒体を貼り付ける機能を有するもので、粘着性が安定して得られる樹脂系の粘着剤を利用して構成される。また粘着層306は、光透過性であっても光吸収性であっても、また光反射性であってもよい。なお、粘着層306が光反射性もしくは光吸収性である場合、印刷層305と異なる色や見え方になるようにする必要がある。また、図示する例では、粘着層306の露出した表面に離型紙307が貼り付けられている。
【0026】
以上のようにして図3(B)に示す第1の基板側部材31と図3(C)に示す第2の基板側部材32を得る。次ぎに、第2の基板側部材32の表裏を変えて、第2の基板側部材32’とする(図3(D))。そして、第2の基板302側の表面に透明な接着剤もしくは粘着剤を塗布し、光透過性の接着層308を形成する。接着層308を構成する接着剤もしくは粘着剤としては、市販の樹脂系の透明の接着剤や粘着剤を用いることができる。なお、接着剤というのは、硬化して接着力を発揮するものをいい、粘着剤は、粘着力が失われずに維持されるものをいう。
【0027】
他方で、第1の基板側部材31の表裏を変えて、第1の基板側部材31’とし、コレステリック液晶層302のホログラム表示用の凹凸303の面を第2の基板部材32’の接着層308に対向させる。こうして図3(D)に示す状態を得る。次ぎに接着層308とコレステリック液晶層302とを接触させ、第1の基板301と第2の基板304とを接着する。こうして図3(E)に示す識別媒体310が得られる。
【0028】
図3(E)に示す識別媒体310は、識別時に視認する側から見て、保護層としても機能する光透過性の第1の基板301、ホログラムが形成されたコレステリック液晶層302、光透過性の接着層308、光透過性の第2の304基板、所定のパターンを有する黒色の印刷層305、粘着層306と積層された構造を有する。識別媒体310を対象物に固定するには、離型紙307を剥がし、粘着層306を対象物の表面に接触させ、その粘着力によって、識別媒体310を対象物に貼り付ける。なお、図3(E)では、視認する側から見て、基板304、印刷層305の順になっているが、印刷層305、基板304印刷層の順であってもよい。
【0029】
(実施形態の識別機能の例1)
図4は、図3に示す識別媒体310の識別機能の概要を示す概念図である。この例では、図3のコレステリック液晶層302が、緑の右回り円偏光を選択的に反射するように設定され、図3のホログラム表示用の凹凸303によって、「ABCDEFG・・・」の文字列がホログラム表示され、黒色の印刷層305の印刷パターンによって▲と●の模様が表示されている。また図4に示す例では、図3の粘着層306は透明で、貼り付けた対象物の表面は白っぽい色であるとする。
【0030】
図4(A)には、直接目視で識別媒体310を第1の基板301側から観察した状態が示されている。この場合、図3のコレステリック液晶層302からの反射光とコレステリック液晶層302より下の層からの反射光とが視認される。すなわち、コレステリック液晶層302からの反射光が見えるため、コレステリック液晶層302に形成されたホログラムの表示(、「ABCDEFG・・・」の文字列)が見える。また、コレステリック液晶層302を透過した光の成分の内、一部は黒色の印刷層305によって吸収され、その他は、透明な粘着層306を透過し、白っぽい対象物の表面で反射され、逆の経路を辿って識別媒体310から出る。このため、「ABCDEFG・・・」の文字列に加えて、黒っぽい▲と●の表示も視認できる。なお、印刷層305の上にあるコレステリック液晶層302からの反射も存在するので、▲と●の黒い表示の中に「ABCDEFG・・・」の文字列の一部が見える。
【0031】
図4(A)の状態で視野角を変化させると、カラーシフトが発生し、より短波長側の色に変色する。この際、▲と●の部分は、可視光を吸収する黒い印刷層で構成されているので、その部分では、コレステリック液晶層302からの反射光が相対的に目立ち、カラーシフトをより鮮明に認識することができる。
【0032】
図4(A)の状態で、識別媒体310の上(第1の基板301の上)に右回り円偏光を選択的に透過し、左回り円偏光および直線偏光を遮断する光学フィルタを配置すると、図4(B)に示す状態が観察される。この場合、この光学フィルタの作用により、識別媒体310には、右回り円偏光のみが入射し、その入射光の内、緑の成分がコレステリック液晶層302において反射され、他の波長の右回り円偏光は、コレステリック液晶層302を透過する。この場合、コレステリック液晶層302からの反射光を主に視認することになるので、全体が緑色の背景の中に「ABCDEFG・・・」の文字列のホログラム表示が浮かび上がって見える。なお、この見え方は、光学フィルタを識別媒体310から離した位置に配置した場合でも同じである。
【0033】
次ぎに図4(A)の状態で、識別媒体310の上(第1の基板301の上)に左回り円偏光を選択的に透過し、右回り円偏光および直線偏光を遮断する光学フィルタを配置すると、図4(C)に示す状態が観察される。この場合、この光学フィルタの作用により、識別媒体310には、左回り円偏光のみが入射し、その入射光は、全てコレステリック液晶層302を透過し、そこで反射されない。したがって、コレステリック液晶層302からの反射光はない(あるいは非常に弱い)。そして入射光は、印刷層305に到達し、印刷層305のパターンを優先的に認識することができる。このため図3(C)に示すように黒い▲と●の表示を白っぽい背景(この白っぽい背景は、識別媒体310を貼り付けた対象物の表面の色に起因する)の中で認識することができる。この場合、コレステリック液晶層302からの反射光はない(あるいは非常に弱い)ので、▲と●の表示は、より黒く鮮明に見える。なお、この見え方は、光学フィルタを識別媒体310から離した位置に配置した場合でも同じである。図4(A)〜(C)の見え方の違いにより、識別媒体310の真贋判定を行うことができる。
【0034】
(実施形態の識別機能の例2)
図5は、図3に示す識別媒体310の識別機能の概要を示す概念図である。ここでは、図4の場合と同様な識別媒体310を、識別用ビューアーを用いて観察した場合の例を説明する。図5(A)には、直接目視で識別媒体310を第1の基板301側から観察した状態が示されている。この場合、図4(A)と同じ状態が観察される。
【0035】
図5(B)には、識別用ビューアー321が示されている。識別用ビューアー321は、可視光を遮蔽するプラスチック板に四角形状の2箇所の開口322と323が設けられた構造を有している。識別用ビューアー321の開口322の部分には、右回り円偏光を選択的に透過し、左回り円偏光と直線偏光を遮断する光学フィルタが嵌め込まれている。また、識別用ビューアー321の開口323の部分には、左回り円偏光を選択的に透過し、右回り円偏光と直線偏光を遮断する光学フィルタが嵌め込まれている。
【0036】
図5(C)には、識別用ビューアー321を識別媒体310の第1の基板301(図3参照)上に置き、識別用ビューアー321を介して識別媒体310を観察した状態が示されている。この場合、開口322の部分では、右回り円偏光の反射光のみが透過するので、コレステリック液晶層302に形成されたホログラム表示(「ABCDEFG・・・」の文字列の表示)がより鮮明に見える。一方、開口323の部分では、右回り円偏光の反射光は遮断され、左回り円偏光のみが透過するので、コレステリック液晶層302に形成されたホログラム表示(「ABCDEFG・・・」の文字列の表示)は見えず、印刷層305の●と▲のパターンがより鮮明に黒く見える。この開口322と323の部分での見え方の違いを利用して識別媒体310の真贋判定を行うことができる。
【0037】
(実施形態の優位性)
印刷層305のパターンがコレステリック液晶層のホログラム表示に付加されることで、より複雑な見え方を実現できるので、より偽造が困難な識別媒体を提供することができる。また、コレステリック液晶層302に形成されたホログラム表示と、印刷層305により構成される図柄の組み合わせで、識別のための表示が構成されるので、識別媒体に複数の情報を入れることが可能となる。
【0038】
図3〜5に示す識別媒体310の表示において、コレステリック液晶層302に形成されたホログラム表示(図4よび5の例では、「ABCDEFG・・・」の文字列の表示)は、高価なホログラムの版を用いなければならないので、表示内容の変更には、相対的にコストが掛かる。一方、印刷層305は、通常の印刷により形成されるので、変更に要するコストは相対的に非常に低い。つまり本実施形態によれば、第2の基板側部材32における印刷層305のパターンの変更は、低コストで行うことができる。したがって、図4や図5における▲や●の表示を変更することは低コストで行える。このため、識別媒体のデザインの変更を低コストで行うことができる。これは、少量多品種の生産にも有利となる。
【0039】
識別媒体310を直視した状態で、識別媒体310を傾けた場合、カラーシフトを示すので、それを利用した真贋判定機能も得ることができる。
【0040】
(2)第2の実施形態
第1の実施形態において、コレステリック液晶層302に直接印刷層305を形成し、光透過性の第2の基板304を省くこともできる。以下、この例を説明する。図6は、本発明を利用した識別媒体の製造工程の他の一例を示す工程断面図である。図6において、図1と同じ符号が付してある部分は、図1に関して説明した内容と同じである。
【0041】
まず第1の光透過性の基板301上にコレステリック液晶層302を形成する(図6(A)。次いでホログラム版を用いて、コレステリック液晶層302にホログラム表示を行うための凹凸加工303を施す(図6(B))。次ぎに、ホログラム加工を施したコレステリック液晶層302の表面に黒色インクによる印刷を行い、所定パターンの印刷層305を形成する(図6(C))。次ぎに印刷層305を覆って、透明な粘着層306を形成し、その露出面に離型紙307を貼り付ける。こうして、図6(D)に示す状態の識別媒体330を得る。
【0042】
この識別媒体330を対象物に貼り付ける際には、図6(E)に示すように、離型紙307を剥がし、粘着層306を対象物331に接触させ、粘着層306の機能により、識別媒体330を対象物331に固定する。
【0043】
この例によれば、識別媒体をより薄くすることができる。また、印刷条件の設定等が微妙になるので、細かい製造条件を知らない第三者による再現が困難であり、偽造がより困難となる。また、図3に示す場合に比較して製造工程がより単純化されるので、製造コストをより低くすることができる。
【0044】
(3)第3の実施形態
第1または第2の実施形態において、印刷層305を、可視光を吸収する黒色ではなく、特定の波長を選択的に反射する赤や青等の他の色彩にすることもできる。この場合、コレステリック液晶層302のホログラム表示との組み合わせをより、識別に利用される表示の内容を多彩に展開することができる。
【0045】
(4)他の実施形態
識別媒体330に切れ込みを入れ、対象物から剥がそうとした場合に、その切れ込みから識別媒体330が破れ、再利用ができなくなるようにしてもよい。こうすることで、識別媒体の不正な再利用を防ぐことができる。この原理を利用することで、パッケージの開封の有無を識別する開封識別シールを得ることができる。
【0046】
また、識別媒体330を構成する一部の層に識別媒体330を対象物から剥がそうとした際に、層間破壊が生じる構成を付与することもできる。この構成の具体例としては、粘着層306や接着層308が剥離を起こす前に、コレステリック液晶層302の層構造が物理的に破壊され、層方向で分離するように調整する例を挙げることができる。この調整は、コレステリック液晶層302の製造時における温度条件を調整することで実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、真贋判定に利用される識別媒体に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】コレステリック液晶の構造を示す概念図である。
【図2】コレステリック液晶の光学的な性質を説明する概念図である。
【図3】発明を利用した識別媒体の製造工程の一例を示す製造工程図である。
【図4】発明を利用した識別媒体の識別機能の一例を示す概念図である。
【図5】発明を利用した識別媒体の識別機能の一例を示す概念図である。
【図6】発明を利用した識別媒体の製造工程の他の一例を示す製造工程図である。
【符号の説明】
【0049】
301…光透過性の第1の基板、302…コレステリック液晶層、303…ホログラム表示用の凹凸加工部分、304…光透過性の第2の基板、305…印刷層、306…粘着層、307…離型紙、308…光透過性の接着層、310…識別媒体、31…第1の基板側部材、32…第2の基板側部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
視認する側から見て、
ホログラムを表示するための凹凸が形成されたコレステリック液晶層と、
所定波長の光を反射または吸収する所定パターンを有する印刷層と
が順に配置された層構造を有することを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記コレステリック液晶層は、光透過性の第1の基板上に形成されており、
前記印刷層は、光透過性の第2の基板上に形成されており、
前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わした構造を有することを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記印刷層は、前記コレステリック液晶の前記凹凸が形成された面上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項4】
光透過性の第1の基板上にコレステリック液晶層を形成する工程と、
前記コレステリック液晶層の表面にホログラムを表示するための凹凸を形成する工程と、
光透過性の第2の基板上に所定波長の光を反射または吸収する所定パターンを有する印刷層を形成する工程と、
前記第1の基板と前記第2の基板を貼り合わせる工程と
を有することを特徴とする識別媒体の製造方法。
【請求項5】
光透過性の第1の基板上にコレステリック液晶層を形成する工程と、
前記コレステリック液晶層の表面にホログラムを表示するための凹凸を形成する工程と、
前記コレステリック液晶層の前記凹凸が形成された面上に所定波長の光を反射または吸収する所定パターンを有する印刷層を形成する工程と
を有することを特徴とする識別媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−172798(P2009−172798A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11832(P2008−11832)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】