説明

識別媒体および識別媒体を備えた物品

【課題】 衣料品のような物品であっても取り外しが困難な識別媒体機能を提供する。
【解決手段】 偏光性発現物質を添加し、紡糸後に延伸したポリマーからなる偏光繊維を用いて適当な布地201に所定の方向に縫い目を揃えた刺繍202を形成する。この偏光繊維は、ポリマーの延伸方向(繊維の延在方向)に電界成分を有する直線偏光と、この直線偏光に直交する直線偏光とに対して、異なる光学特性を示す。したがって、偏光板を介して、識別媒体200を見た場合、偏光板の向き(回転位置)によって、刺繍202の認識度が変化し、それにより識別機能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚的な効果により物品の真贋性(真正性)を識別する技術に関し、光学的な識別機能を示す繊維を縫いつけることで、識別媒体を構成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日用品や衣料品等の物品において、見た目を本物に似せて製造した偽物が市場に出回り問題となっている。このような状況において、性能、信頼性あるいは安全性の保証やブランド力の維持のために、物品の真贋性を識別することができる技術が求められている。
【0003】
物品の真贋性を識別する技術として、物品に特殊なインクを用いて印刷を行う方法、あるいは、特殊な光学反射特性を有する小片を物品に貼り付けたりする方法が知られている。
【0004】
特殊なインクを印刷する方法は、紫外線に対して蛍光するインクを用いて、所定の文字や図柄を印刷し、紫外線を照射した際にその図柄や文字を浮かび上がらせることで、真贋性を確認する方法である。また、磁性体の粒子や磁性を帯びた粒子を混ぜたインクを塗布し、磁気センサで真贋性を識別する方法も知られている。
【0005】
また、光学反射特性を有する小片としては、コレステリック液晶が示す光学特性を利用したものが知られている。この技術に関しては、例えば特許文献1に示されている。またホログラム機能を有するシールも知られている
【0006】
また衣料品における真贋識別技術として、目視では確認できないようなマイクロ刺繍を施し、拡大鏡で刺繍内容を確認する技術、蛍光機能を有する繊維を用いて刺繍を行い、特定波長帯域の光(たとえば紫外線)を照射して、刺繍内容を浮かび上がらせる技術が知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平4−144796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特殊なインクやコレステリック液晶を用いた識別媒体は、小片形状の識別媒体を対象物品に貼り付けて使用されるので、それが対象物品から取り外され、再利用される危険性があった。識別媒体の取り外しが困難になるように、識別媒体の物品への固定方法を工夫する方法もあるが、物品が衣料品、靴あるいはバックといった製品である場合、意匠性の問題もあり、それは困難である場合がある。
【0009】
また、蛍光繊維を用いる方法は、特殊な光源が必要である点、光学機能としてより識別機能の高い特性が求められる点でより改善が求められている
【0010】
本発明は、衣料品のような物品であっても取り外しが困難な識別媒体機能が得られる技術を提供することを目的とする。また、本発明は、蛍光繊維を用いた識別機能を有する刺繍に比較して、特殊な光源を必要とせず、またより識別性の高い機能を有する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
まず、本発明で利用する偏光繊維が示す光学特性に説明する。図5は、本発明で利用する偏光繊維の構造の一例を示す概念図である。この偏光繊維は、概念的にいうと、繊維101を構成する高分子材料の主鎖102に絡みつくように主鎖102に沿って色素(偏光発現物質)103が存在した構造を有する。
【0012】
この構造において、(a)に示すようにX軸方向の直線偏光(X軸方向への電界成分を有する直線偏光)を透過する偏光板105を介して偏光繊維101を見る場合を考える。
【0013】
この場合、偏光繊維101には、X軸方向の偏光成分108で構成されるX軸偏光107が照射される。色素103は、X軸方向に延存しているから、偏光成分108は、色素103によって効率良く反射される。したがって、偏光板105を介して繊維101を見た場合、繊維101が色素103の色合いで見えることになる。
【0014】
他方で、(b)に示すようにY軸方向への直線偏光(Y軸方向への電界成分を有する直線偏光)を透過す偏光板109を介して、繊維101を見た場合、入射光であるY軸偏光111の偏光成分112の振動方向は、色素103の延在方向に直交しているので、Y軸偏光111の色素103による反射光率は低い。したがって、偏光板109を介して繊維101を見た場合、色素103の色の反射は弱く、(a)の場合に比べて光が吸収された状態となり、それ故繊維101は黒っぽく見えることになる。
【0015】
この原理により、繊維101を縦糸あるいは横糸として刺繍を行い、偏光版を介してこの刺繍を見た場合、偏光版の偏光方向の選択により、刺繍の見え方が変化し、刺繍した内容が特異な見え方をする状態を観察することができる。
【0016】
本発明の識別媒体は上記光学特性の原理を利用したもので、偏光発現性物質が添加され、長手方向に延伸された高分子繊維が、基材に縫い付けられた構造を有し、偏光板を介して観察することで前記縫い付けられた刺繍によって表される識別情報を得ることができる点を特徴とする。
【0017】
本発明の識別媒体によれば、延伸方向に一致する偏光(延伸方向に一致する電界成分を有する直線偏光)を効率よく反射する繊維により刺繍が形成されているので、所定の直線偏光を選択的に透過する偏光板を介してその刺繍を見た場合に、偏光板の向きによって、その刺繍が認識し易かったり、認識し難かったり、見え方が顕著に変わるような見え方をし、それにより識別性を得ることができる。そして、この識別性を利用することで、真贋判定を行うことができる。
【0018】
本発明の識別媒体においては、刺繍を構成する縫い目が所定の方向に揃っていることが好ましい。刺繍の縫い目を揃えることで、この縫い目の方向に一致した偏光に対する光学特性と縫い目の方向に直交する方向の偏光に対する光学特性の違いが顕著なものとなり、それにより高い識別機能を得ることができる。
【0019】
また、本発明の識別媒体においては、偏光発現性物質の色彩を選択することで、識別性の判定に色彩情報を利用することは好ましい。これにより、より複雑な光学特性を真贋判定に利用することができる。
【0020】
本発明の識別媒体において、刺繍が所定の図形情報であることは好ましい。この態様によれば、偏光板を介して観察することで、特定のロゴが浮かび上がって見えるというような特異な光学特性を得ることができ、効果的な真贋判定を行うことができる。
【0021】
本発明の識別媒体において、刺繍は複数形成されており、この複数の刺繍のそれぞれは、縫い目の方向が互いに異なる態様とすることは好ましい。この態様によれば、例えば偏光板を回転させながら、この複数の刺繍を見た場合、偏光板の回転角度によって、特定の刺繍が浮かび上がって認識し易くなるような光学特性を得ることができる。
【0022】
本発明の識別媒体において、基材が布地である態様とすることは好ましい。この態様によれば、衣料品の折ネーム(タグ)や衣料品そのものの一部に直接ロゴや模様を縫い付けることにより、識別媒体としての機能を付与することができる。このような縫い付けることで形成した識別媒体は、取り外すことが困難であり、また、縫い付けた繊維を解き、同様な識別機能を有する刺繍を再生することも困難であるので、真贋判定のための識別媒体として高い優位性を得ることができる。
【0023】
本発明は、図2に示すような偏光繊維が布地に縫い付けられ、その布地が製品の一部(例えば、上着に襟部分等)であるような物品として把握することもできる。このような物品は、衣料品等の布地によるものに限定されず、繊維による縫い付けが行える材質を備えたものであればよい。このような材質としては、皮や紙が挙げられる。
【0024】
本発明における縫い付けによって形成される刺繍は、単なる線状の縫い跡であってもよい。例えば、パスポートのような偽造防止が要求される冊子の綴じ糸に利用することもできる。この場合、偏光板を介して綴じ糸を観察することで、綴じ糸の見え方に光学的な特異性が現れ、それにより真贋判定を行うことができる。
【0025】
本発明で利用される偏光繊維の主体となるポリマーは、溶融紡糸が可能なものであれば、特に限定されない。しかしながら、好ましいポリマー材料としては、偏光性発現物質を構成する染料との親和性および透明性に優れ、さらに溶融紡糸および延伸が行い易い材質を採用することが好ましい。
【0026】
このようなポリマーとしては、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを挙げることができる。なかでもエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、溶融紡糸により表面が平滑な繊維を得ることができ、また偏光性発現物質として安価で偏光性能の高い2色性直接染料を使用可能である点で好ましい。
【0027】
偏光性発現物質とは、光をその物質に入射させたときに特定方向の振動面の光を吸収し、その方向と直交する方向に偏った偏光を作り出す物質のことである。偏光発現物質としては、2色性有機色素からなる直接染料(2色性直接染料)を挙げることができる。この2色性直接染料としては、アゾ系、トリジン系、ジアニシジン系、ベンジジン系、スチルベル系等から選ばれたものを挙げることができる。これらの2色性直接染料は、単独で用いても良く、また混合して用いても良い。
【0028】
2色性直接染料のポリマーに対する含有量には適当な範囲がある。ポリマーに対する2色性直接染料の濃度が小さいと十分な偏光特性を得ることができず、他方でポリマーに対する2色性直接染料の濃度が大きいと光透過率が低下し、明暗のコントラストが低下する。このような現象を考慮すると、2色性直接染料の含有量は、ポリマーの0.02〜1.0重量%の範囲、特に0.05〜0.8重量%とすることが好ましい。
【0029】
偏光繊維の断面構造は、円形、楕円形、扁平等多様な形状を採用することができる。偏光繊維の繊維径は、目的により制約されるが、一般に10μm〜数百μmの範囲から選択することができる。繊維は、モノフィラメントでもマルチフェラメントであってもよいが、柔軟性の点からマルチフェラメントの方が好ましい。
【0030】
繊維に偏光性発現物質を含有させる方法としては、繊維化する前に予めポリマーと偏光性発現物質とを混合する方法、偏光性発現物質を含む溶液あるいは分散液に繊維化後の繊維を浸漬し含有させる方法(いわゆる染色)等がある。偏光性発現物質をより効果的に配向させるには、前者の方法が好ましい。
【0031】
紡糸は、公知の溶融紡糸方法を採用することができる。ただし、偏光性発現物質の耐熱性から、その融点プラス30℃以下の範囲のなるべく低い温度で溶融を行い、さらに溶融時の滞留時間をなるべく短くすることが重要となる。
【0032】
紡糸によって得られた偏光繊維には、偏光特性を発現させるために延伸処理が施される。この延伸温度は、ポリマーのガラス転移点温度(Tg)〜Tg+60℃の温度範囲から選択することが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、繊維を縫い付けることで、識別機能を得ることができるので、衣料品のような物品であっても取り外しが困難な識別媒体機能を得ることができる。これにより、偽造が困難で真贋判定機能の高い識別媒体を得ることができる。また、本発明によれば、蛍光繊維を用いた識別機能を有する刺繍に比較して、特殊な光源を必要とせず、またより識別性の高い機能を有する技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
1.第1の実施の形態
本実施形態では、繊維を構成するポリマーに偏光性発現物質を添加し、紡糸後に延伸することで、偏光特性を示す偏光繊維を得、この偏光繊維を用いて図1に示すように適当な布地201に所定の方向に縫い目を揃えた刺繍202を形成している。この偏光繊維は、ポリマーの延伸方向(繊維の延在方向)に電界成分を有する直線偏光と、この直線偏光に直交する直線偏光とに対して、異なる光学特性を示す。したがって、偏光板を介して、識別媒体200を見た場合、偏光板の向き(回転位置)によって、刺繍202の見え方が変化し、それにより識別機能を得ることができる。
【0035】
(第1の実施形態の構成)
図1は、本発明を利用した識別媒体およびその使用状態の概要を示す正面図である。図1には、適当な布地201を基材として、そこに偏光繊維による刺繍202を施した識別媒体200が示されている。
【0036】
図1(a)には、刺繍202として4文字のロゴ「ABCD」が採用された場合の例が示されている。刺繍202は、Y軸方向に縫い目方向が一致するように、偏光繊維が縫い付けられている。つまり、紙面上下方向に縫い目の方向が向くように縫い付けられている。なお、布地201は、通常の繊維によって構成された織布である。
【0037】
図1(a)に示す識別媒体200は、例えば衣料品の織りネームに利用することができる。織りネームとは、襟首等に縫い付けられているタグのことであり、ブランド名の表記等が表示されている布片のことをいう。
【0038】
この例においては、白地の布地201に緑色に見える偏光繊維によって刺繍202が形成されている。
【0039】
(第1の実施形態の機能)
図1(a)に示す状態においては、識別媒体200を直接観察すると、白地の背景に緑色のロゴ「ABCD」が見える状態となる。
【0040】
次に図1(a)に示す状態の識別媒体200の上にY軸方向の偏光を選択的に透過する偏光板204重ね、自然白色光の下で、識別媒体200を観察した場合を説明する。なお、Y軸方向の偏光というのは、図1のY軸方向に電界成分を有する直線偏光のことをいう。また、自然白色光というのは、特定の偏光状態にはなく、かつ特定の可視光帯域のスペクトルに偏っていない白色光のことをいう。
【0041】
この場合、刺繍202には、その縫い糸の縫い付け方向(つまり偏光繊維の延在方向)に一致したY軸方向の偏光が入射する。この場合、図5を用いてその原理を説明したように、入射光は、刺繍202を構成する偏光繊維から反射されるので、図1(a)の場合より、見え方が薄くなった状態で刺繍202を認識することができる。図1(a)の場合より、刺繍202が薄く見えるのは、偏光板200による光量の損失があるからである。
【0042】
次に偏光板204を90度回転させた偏光板206を識別媒体200に重ねた場合を説明する。この場合、刺繍202には、その縫い糸の縫い付け方向(つまり偏光繊維の延在方向)と直交するX軸方向の偏光が入射する。この場合、図5を用いてその原理を説明したように、入射光は、刺繍202を構成する偏光繊維を透過する割合が大きくなるので、刺繍202は黒っぽく見えることになる。つまり、図1(a)や図1(b)の場合には、緑色に見えていた刺繍202が、黒く浮かび上がったように見える。
【0043】
こうして、偏光板の向きによって、刺繍されたロゴが特異な見え方をする識別機能を得ることができる。
【0044】
ここでは、偏光板を識別媒体上に重ねて配置する例を示したが、適当な光源からの光を偏光板に入射させて所定の直線偏光を得、それを識別媒体に照射する方法を採用してもよい。この場合も当てる偏光の偏光方向を変える、自然光(特定の偏光状態にない光)と偏光とを切替えて照射する、といった方法によって、上述したのと同様な見え方の変化を観察することができる。
【0045】
図2は、偏光方向が直交する2つの偏光板をつなげた構造を有する複合偏光板を用いて、識別媒体200を観察する状態を示す正面図である。図2(a)には、Y軸方向の偏光を選択的に透過する偏光板211とX軸方向の偏光を選択的に透過する偏光板212とを左右に連結した構造を有する複合偏光板210を識別媒体200に重ねて配置した状態が示されている。
【0046】
この場合、偏光板211はY軸偏光を透過するので、AおよびBの刺繍の見え方は、偏光板を用いない場合と大きく変わらないが、偏光板212はX軸偏光を透過するので、CおよびDの刺繍部分において光が透過し、その部分が黒く見える。すなわち、AおよびBの文字に比較して、CおよびDの文字が黒く浮かび上がって見える。
【0047】
そして、複合偏光板210をX軸方向(つまり紙面左右方向)に移動させると、図2(b)に示すように、黒く強調されて見える文字の部分が移動する。この現象を利用することで、ロゴ「ABCD」の見え方による真贋判定機能を得ることができる。
【0048】
本実施形態を利用すると、偏光フィルタを用いて、刺繍による図柄等が明から暗(または暗から明)に変化する光学的な機能を得ることができ、それを利用した真贋判定の識別を行うことができる。また、繊維を用いるので、多様な色彩を利用することが可能であるので、偽造が困難となる特異な見え方をする識別媒体を実現することができる。また、縫い付けることで識別機能を直接製品等に付与することができるので、識別機能を発現させる部位を選ばず、また商品に一体となり分離困難な構造とできる。
【0049】
(第1の実施形態の製造方法)
ここでは、ポリマーとして、ポリエステルを採用し、偏光性物質として、2色性直接染料を用いた場合の例を説明する。まず、青色の2色性直接染料として、住友化学工業(株)製の「DIRECT DARKGREEN BA」をエチレングリコール中に0.2重量%溶解し、色素溶液を作製した。次に(株)クラレ製エバールチップ「ES-G110A」を180℃で溶解し、そこに前述の色素溶液をポリマー中の色素濃度が0.3%となるように混入し、それを2軸混練機により錬り込み、さらにこの混練物を105℃の温度で真空乾燥させ、緑色の着色ポリマーのチップを得た。素材としては、(株)クラレ製エバールチップ「ES-G110A」以外に、ポリエステル系樹脂やナイロン系樹脂など熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0050】
この着色ポリマーのチップを口径0.2mm、6ホールの口金から温度180℃、巻き取り速度500m/分で紡糸し、さらにローラー温度70℃、プレート温度120℃の延伸機で2.5倍に延伸し、175dtexの偏光繊維を得た。
【0051】
この偏光繊維は、強度が3.1(cN/dtex)であり、伸度は26%であった。この偏光繊維を複数本並列に並べ、1×1cmのシート状成形物を得、偏光度と透過率を測定したところ、偏光度は71%、透過率は41%であった。
【0052】
なお、偏光度の計測は、EJAJ規格LD−201の偏光板の偏光度測定法に準拠して行い、透過率の計測は、可視光波長領域の光に対するもので、EJAJ規格LD−2521の偏光板の透過率の測定方法に準拠して行った。
【0053】
2.第2の実施形態
図3は、発明を利用した他の識別媒体およびその使用状態の概要を示す正面図である。図3には、適当な布地302に所定の色彩の普通の糸(本発明で用いる偏光繊維ではない繊維)によって縫い付けられた四角形状の刺繍303、この四角形状の刺繍303の中に第1の実施形態で説明した偏光繊維によって縫い付けられた星型の刺繍304が形成された識別媒体301が示されている。
【0054】
この例においては、刺繍304の縫い付け方向は、Y軸方向に沿ったものとしている。つまり、刺繍304を構成する縫い糸の延在方向は、図中のY軸方向に一致する。またここでは、刺繍303と刺繍304とは、直接見た状態では、同色に見えるように繊維の色が選択されているものとする。したがって、識別媒体301を直接肉眼で見た場合、星型の刺繍304は確認し難い。
【0055】
図3(b)は、図3(a)に示す識別媒体301上にY軸偏光を透過する偏光板を重ねた状態が示されている。この場合、識別媒体301には、Y軸偏光が到達するので、この到達光は反射され、したがって多少明度は低下するが、図3(a)の場合と識別媒体301の見え方は同じ傾向となる。
【0056】
次の偏光板305と直交する方向の直線偏光を選択的に透過する偏光板を識別媒体301上に重ねておいた場合を説明する。図3(c)は、この状態を示すもので、識別媒体301上にX軸偏光を選択的に透過する偏光板306を重ねた状態が示されている。
【0057】
この場合、偏光板306はX軸偏光を選択的に透過し、それが識別媒体301に到達するので、Y軸方向に沿った方向に縫い付け方向が一致している刺繍304の部分は、反射光の光量が周辺に比較して少なく、それ故に刺繍304は黒く浮かび上がって見える。つまり、偏光板を回転させると、認識し難かった図柄が黒く浮かび上がって見える潜像効果を得ることができる。
【0058】
本実施形態によれば、肉眼で観察した場合には、所定の図柄が見えづらく、偏光板を介してみると所定の図柄が浮かび上がって見える潜像効果を得ることができる。この効果の程度は、利用する繊維の色の組み合わせを調整することで、多様に設定することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態を応用すると、肉眼で見た場合には、所定の図柄が見え、偏光板を介して見ると、さらに他の図柄が浮かび上がって見えるといった光学機能を得ることもできる。
【0060】
3.第3の実施形態
図4は、発明を利用した他の識別媒体およびその使用状態の概要を示す正面図である。図4に示す例では、識別媒体401として、適当な布地402にX軸方向に沿った縫い付け方向による刺繍403と、Y軸方向に沿った縫い付け方向による刺繍404を形成したものとしている。
【0061】
この例においては、刺繍403と刺繍404とを第1の実施形態で説明したような偏光繊維とし、さらに肉眼により観察した場合に共に緑の色彩に見えるものを採用する。
【0062】
図4(a)には、識別媒体401を直接観察した状態が示されている。この状態においては、刺繍403および刺繍404を構成する偏光繊維の偏光に対する光学特性は現れないので、刺繍403と刺繍404とは区別し難い。
【0063】
図4(b)は、識別媒体401上にY軸偏光を選択的に透過する偏光フィルタ405を重ねた状態を示す正面図である。この場合、偏光フィルタ405によってY軸偏光が選択されるので、Y軸方向に沿った縫い付け方向による星型の刺繍404では、入射光の反射がそれなりに発生するが、X軸方向に沿った縫い付け方向による四角形状の刺繍403は刺繍404に比較して反射光の強度が弱い。このため、四角形状の刺繍403が黒く見え、その中に星形の刺繍404が緑色に浮かび上がって見える。
【0064】
次に偏光板405に代えて、偏光板405と直交する偏光(X軸偏光)を選択的に透過する偏光板406を識別媒体401上に重ねておいた場合を説明する。なおこの状態は、偏光板405を90度回転させた場合と同じである。
【0065】
図4(c)は、識別媒体401上にX軸偏光を選択的に透過する偏光フィルタ406を重ねた状態を示す正面図である。この場合、偏光フィルタ406によってX軸偏光が選択されるので、Y軸方向に沿った縫い付け方向による星型の刺繍404では、入射光の反射はあまり発生せず、X軸方向に沿った縫い付け方向による四角形状の刺繍403は刺繍404に比較して反射光の強度が強くなる。このため、四角形状の刺繍403が緑色に見え、その中に黒く星形の刺繍404が見えることになる。
【0066】
このように同じ偏光繊維を用いて、縫い目の方向が90度異なる刺繍を形成した場合、重ねる偏光板の向き(透過する偏光の偏光方向)を90度変えると、絵柄が切り替わる識別機能を得ることができる。つまり、絵柄の切り替え表示機能を得ることができる。
【0067】
ここでは、縫い目の方向を90度異ならせる例を説明したが、それ以外の角度であっても、複数の図柄の見え方が偏光板の方向によって、異なって見える光学特性を得ることができる。
【0068】
4.他の実施形態
偏光繊維の縫い目の間隔が、縫い目の方向に沿って、徐々にあるいは段階的に変化するような縫い方を採用することもできる。この場合、偏光板を介した縫い後の見え方が、連続的あるいは段階的な階調を従ったものとなる。例えば、横に「ABCD」というロゴを横糸によって刺繍する場合において、AよりもBの刺繍における偏光繊維の露出割合を小さくし、さらにBよりもCの刺繍における偏光繊維の露出割合を小さくし、といった縫い付け方を行うと、偏光板を介してこのロゴを見た場合に、AからCに向かって段階的に明度が低下するような見え方を得ることができる。
【0069】
また、縫い後を直線ではなく、曲線にすることもできる。この場合、偏光フィルタを動かしながら観察した場合に、刺繍された図柄が動くような動画効果を得ることができる。
【0070】
また、肉眼では見えないようなマイクロ文字を偏光繊維によって刺繍することで、拡大鏡と偏光板とを組み合わせて用いた場合に、所定の視覚情報を確認できるような識別媒体を得ることもできる。
【0071】
また、本発明で用いる偏光繊維と蛍光繊維とを組み合わせてもよい。この場合、偏光板と紫外線ランプ等の照射とを組み合わせることで、識別機能を得ることができる。なお、偏光繊維と蛍光繊維とを寄りあわせて一つの繊維とし、それを用いてもよい。また、本発明で用いる偏光繊維を通常の繊維と撚ってより糸としてもよい。また、異なる偏光発現物質を用いた偏光繊維を撚り合わせて用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、衣料品に取り付ける織ネーム等に真贋判定機能を付与する技術に利用することができる。また、本発明は、縫い付けることで、識別媒体機能を商品に直接付与することができる技術に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】発明を利用した識別媒体およびその使用状態の概要を示す正面図である。
【図2】発明を利用した識別媒体およびその使用状態の概要を示す正面図である。
【図3】発明を利用した識別媒体およびその使用状態の概要を示す正面図である。
【図4】発明を利用した識別媒体およびその使用状態の概要を示す正面図である。
【図5】発明で用いられる偏光繊維の光学機能の原理を説明するイメージ図である。
【符号の説明】
【0074】
101…偏光繊維、102…主鎖、103…偏光発現性物質、105…偏光板、106…入射光(自然白色光)、107…偏光、108…偏光方向、109…偏光板、110…入射光(自然白色光)、111…偏光、112…偏光方向、200…識別媒体、201…布地、202…刺繍されたロゴ、204…Y軸偏光を選択的に透過する偏光板、206…X軸偏光を選択的に透過する偏光板、210…複合偏光板、211…Y軸偏光を選択的に透過する偏光板、212…X軸偏光を選択的に透過する偏光板、301…識別媒体、302…布地、303…刺繍、304…Y軸方向に縫い目を揃えた刺繍、305…Y軸偏光を選択的に透過する偏光板、306…X軸偏光を選択的に透過する偏光板、401…識別媒体、402…布地、403…X軸方向に縫い目を揃えた刺繍、404…Y軸方向に縫い目を揃えた刺繍、405…Y軸偏光を選択的に透過する偏光板、406…X軸偏光を選択的に透過する偏光板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光発現性物質が添加され、長手方向に延伸された高分子繊維が、基材に縫い付けられた構造を有し、
偏光板を介して観察することで前記縫い付けられた刺繍によって表される識別情報を得ることを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記刺繍は、所定の図形情報であることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記刺繍は、縫い目が所定の方向に揃っており、
前記縫い目の方向に一致した偏光に対する光学特性と前記縫い目の方向に直交する方向の偏光に対する光学特性の違いを利用して識別機能を得ることを特徴とする請求項1または2に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記刺繍は複数形成されており、
前記複数の刺繍のそれぞれは、縫い目の方向が互いに異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の識別媒体。
【請求項5】
前記基材が布地であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の識別媒体。
【請求項6】
前記布地が製品の一部であることを特徴とする請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記基材が製品の一部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−28672(P2006−28672A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208499(P2004−208499)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】