説明

識別符号自動設定システム及び方法

【課題】コントローラ機器及び予め定められた複数のユニット機器を接続した制御システムにおいて、ユニット機器間における送信制御処理を簡単にすることができる識別符号自動設定システム及び方法を提供する。
【解決手段】一端がコントローラ機器1に接続された電圧付与ライン3に予め定められた数の複数のユニット機器2が直列に接続されるものであり、前記コントローラ機器1は、前記電圧付与ライン3に所定の電圧を印加し、各ユニット機器2は、前記電圧付与ライン3に現れた電圧値を検出し、検出された電圧値に基づいて各ユニット機器2に付与される識別符号を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントローラ機器及び予め定められた複数のユニット機器を接続した制御システムにおいて、前記コントローラ機器が前記複数のユニット機器を個別に制御する上で必要な各ユニット機器の識別符号を自動的に設定するシステム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ネットワーク上の各機器を識別するための識別符号を設定する際には、ディップスイッチ等を用いて1台1台機械的に設定していたが、手動で各識別符号を設定するので、識別符号の管理が煩雑であった。
そこで、コントローラ機器にユニット機器を複数台直列につなぎ、コントローラ機器がそれぞれのユニット機器の識別符号を設定するシステムが考えられている。このシステムは、コントローラ機器からあるユニット機器に識別符号を送る。識別符号を受け取ったユニット機器は自己識別符号を記憶し、応答信号を返す。応答信号を受けたコントローラ機器は新たな識別符号を他のユニット機器に送る。識別符号を受け取ったユニット機器は自己識別符号を記憶し、応答信号を返す。これを繰り返し、最後のユニット機器の終端まで識別符号を設定する。
【0003】
しかし前述の方法では、コントローラ機器がユニット機器に識別符号を設定する度に、コントローラ機器はユニット機器からの応答信号を待ち、ユニット機器からの応答信号が返ってきたことを確認する。そして次のユニット機器の識別符号を設定する、という処理をコントローラ機器が一括して行っている。そのため、コントローラ機器に処理が集中しコントローラ機器の負荷が大きいという問題点があった。
【0004】
また、コントローラ機器が最上位のユニット機器に識別符号設定用の数値として0を送信し、最上位のユニット機器は、受信した数値0を識別符号設定用の数値として、1インクリメントして識別符号を設定し、設定した識別符号に係る識別符号設定用の数値を次段のユニット機器に送信するという処理を、終端のユニット機器に到るまで繰り返す技術も提案されている(特許文献1)。
【0005】
この方法であれば、上位機器から送信された識別符号設定用の数値を基に、ユニット機器が自己識別符号を自動的に設定すると共に、次のユニット機器に対して自己識別符号を基にした識別符号設定用の数値を送信することにより、全てのユニット機器に識別符号を自動的に設定することができる。よって、コントローラ機器の負担を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-277978号公報
【特許文献2】特開2010-211782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記の方法ではユニット機器は、自己識別符号の設定処理と、下位のユニット機器への自己識別符号の送信処理を行う。したがって、ユニット機器間における送信制御処理が複雑になる。
そこで、本発明の目的は、ユニット機器間における送信制御処理を簡単にすることができる識別符号自動設定システム及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本発明の識別符号付与システムは、一端がコントローラ機器に接続された電圧付与ラインに予め定められた数の複数のユニット機器が直列に接続されるものであり、前記コントローラ機器は、前記電圧付与ラインに所定の電圧を印加する手段を有し、各ユニット機器は、前記電圧付与ラインに現れた電圧値を検出する手段を有し、検出された電圧値に基づいて各ユニット機器に付与される識別符号を決定する手段が備えられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の識別符号付与方法は、前記コントローラ機器から電圧付与ラインに、所定の電圧を印加するステップと、各ユニット機器において、前記電圧付与ラインに現れた電圧値を検出するステップと、この検出した電圧値に基づいて、各ユニット機器に付与される識別符号を決定するステップとを含むことを特徴とする。
これらの識別符号付与システム又は識別符号付与方法によれば、各ユニット機器は、前記電圧付与ラインに現れた電圧降下を伴う電圧値を検出することにより、自己のユニット機器が接続されている順番を知ることができる。これにより、各ユニット機器で検出された電圧値に対応した識別符号を算出することができるので、算出された識別符号を、各ユニット機器に設定することができる。
【0010】
前記検出された電圧値に基づいて各ユニット機器に付与される識別符号を決定する手段は、各ユニット機器に備えられていても良い。この場合、各ユニット機器は、検出された電圧値に基づいて、当該ユニット機器に付与される識別符号を決定して、前記コントローラ機器に通知する。
前記各ユニット機器は、前記電圧付与ラインに接続されたユニット機器の総数の情報と、前記コントローラ機器において前記電圧付与ラインに印加される電圧の情報とに基づいて、当該ユニット機器が検出すべき電圧の予測値を保存し、検出した電圧値と保存した予測値との対比に基づいて、自己のIDを決定することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明によれば、ユニット機器間における複雑な送信制御処理を必要することなく、コントローラ機器が各ユニット機器を個別に制御する上で必要な各ユニット機器の識別符号を自動的に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】コントローラ機器と、そのコントローラ機器により制御される複数のユニット機器とを含む制御システムの全体を示すシステム構成図である。
【図2】コントローラ機器1の機能を説明するためのブロック図である。
【図3】ユニット機器2の機能を説明するためのブロック図である。
【図4】各ユニット機器2のIDを設定する識別符号自動設定処理を説明するためのシステム全体のフローチャートである。
【図5】図4のシステム全体のフローチャートの中に含まれる、コントローラ機器1の処理の流れのみを取り出したフローチャートである。
【図6】ユニット機器2における識別符号自動設定処理のうち、コントローラ機器1からユニット総数通知命令を受け取った場合の処理を示すフローチャートである。
【図7】ユニット機器2における識別符号自動設定処理のうち、コントローラ機器1からID判別命令を受け取った場合の処理を示すフローチャートである。
【図8】ユニット機器2における識別符号自動設定処理のうち、図8はID確認命令を受け取った場合の処理を示すフローチャートである。
【図9】電圧付与ライン3に沿った電圧の分布を示すグラフである。
【図10】抵抗Rをユニット機器2の外側の電圧付与ライン3に接続した制御システムの変形例を示すシステム構成図である。
【図11】本発明の識別符号自動設定システムを、散光式警光灯8及び警告灯9を装備した車両に適用した例を示す平面図である。
【図12】本発明の識別符号自動設定システムを、複数の作業台30が並べられた工場の作業ラインに適用した例を示す平面図である。
【図13】図12の識別符号自動設定システムのコントローラ機器1のブロック図である。
【図14】図12の識別符号自動設定システムのユニット機器2のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、コントローラ機器1と、そのコントローラ機器1により制御される所定数の複数のユニット機器2とを含む制御システムの全体を示すシステム構成図である。ユニット機器2を3つ示すが、ユニット機器2の数はこれに限られるものではない。
同図において、コントローラ機器1と複数のユニット機器2とを電圧付与ライン3によって直列に接続している。電圧付与ライン3の終端は接地処理されている。また、コントローラ機器1と各ユニット機器2とにも接地電位が与えられており、コントローラ機器1はこの接地電位を基準にした電圧を付与することができ、各ユニット機器2はこの接地電位を基準にした電圧を検出することができる。
【0014】
また、複数のユニット機器2を通信ライン4によってコントローラ機器1に接続している。通信ライン4は、図示するように電圧付与ライン3と同様、コントローラ機器1と複数のユニット機器2との間を直列に接続しているが、双方向通信が可能であれば良く、この接続形態に限られるものではない。例えば、コントローラ機器1と各ユニット機器2とを個別の通信ライン4でそれぞれ接続しても良い。
【0015】
電圧付与ライン3に接続された各ユニット機器2において、電圧付与ライン3に対して直列に抵抗Rが挿入・接続されている。コントローラ機器1が電圧付与ライン3に所定の電圧を与えた場合、各ユニット機器2において、この抵抗Rによる電圧降下が発生し、電圧降下された後の電圧値は、各ユニット機器2の制御部6に接続されたA/D変換器5によってディジタル値に変換される。また、電圧付与ライン3はユニット機器2間を直列に接続されているので、電圧降下後の電圧は次に接続されているユニット機器2に与えられる。このような電圧降下を繰り返して、最後には、電圧付与ライン3の電位は接地電位に落ちる。
【0016】
各ユニット機器2は、ユニット固有機能部7を有している。例えば、本システムが緊急車両の屋根などに設置される散光式警光灯に適用されるのであれば、各ユニット固有機能部7は、散光式警光灯の各回転灯を点灯したり点滅したりするための回転灯駆動部となる。本システムが緊急車両の側面などに設置される複数の警告灯に適用されるのであれば、各ユニット固有機能部7は、それぞれ警告灯を点灯したり点滅したりするための警告灯駆動部となる。また、本システムが工場の製造現場などに設置される信号報知表示灯システムに適用されるのであれば、各ユニット固有機能部7は、それぞれ信号報知表示灯を点灯したり点滅したりするための表示駆動部となる。
【0017】
図2は、コントローラ機器1の機能を説明するためのブロック図である。コントローラ機器1には、制御部11を中心にしてRAM、ROM、ハードディスクなどのメモリ12、キーボード、マウスなどの操作部13、各種センサ入力部14、通信インターフェイス15、表示部16が含まれている。制御部11は、実質的にCPUから構成され、各部の機能を、プログラムを用いて実行する。各種センサ入力部14は本システムの目的に応じて設置される各種センサの検出信号を監視する。通信インターフェイス15は通信ライン4を通して各ユニット機器2に接続される(通信の具体的内容は後述する)。表示部16は、識別符号付与に関連した各種表示を行う(表示の具体的内容は後述する)。
【0018】
さらにコントローラ機器1には、電圧付与ライン3に対して所定の電圧を印加するための電圧源17が搭載されている。電圧源17は電圧付与ライン3を通して各ユニット機器2に電圧を供給する。
図3は、ユニット機器2の機能を説明するためのブロック図である。ユニット機器2には、制御部6を中心にしてRAM23、ROM24、ユニット固有機能部7、通信ライン4を通してコントローラ機器1と通信を行う通信インターフェイス21、A/D変換器5などが含まれている。
【0019】
制御部6は、実質的にCPUから構成され、識別符号自動付与機能を、所定のプログラムを用いて実行する。
またユニット機器2には、電圧付与ライン3の入力端子25と出力端子26とが設けられており、入力端子25には、コントローラ機器1に近い、上流側に隣接する上流ユニット機器2からの電圧付与ライン3が接続され、出力端子26には、コントローラ機器1から遠い、下流側に隣接する下流ユニット機器2に向けて電圧付与ライン3が接続される。当該ユニット機器2の内部の入力端子25−出力端子26間には、電圧付与ライン3が通過しているが、この電圧付与ライン3には、電圧降下を発生させるための抵抗Rが挿入されている。この抵抗Rのために、電圧付与ライン3の電圧は、ユニット機器2の前後で階段状に降下する。この電圧の分布の変化は、後に図9を用いて説明する。電圧降下された電圧値は、前述したように、A/D変換器5によってディジタル値に変換され、制御部6に入力される。
【0020】
図4は、各ユニット機器2の識別符号(以下、「ID」と言う)を設定する識別符号自動設定処理を説明するためのシステム全体のフローチャートである。まず、コントローラ機器1に、本システムに接続されるユニット機器2の総数を入力する(ステップS1)。この入力は、例えば操作者が、コントローラ機器1の操作部13を用いて行うことができる。入力されたユニット総数の情報は、通信ライン4を経由して各ユニット機器2にブロードキャスト方式で送信される(ステップS2)。ユニット総数の情報を受信した各ユニット機器2は、それをRAM23に保存し(ステップS3)、ユニット総数の情報を受信したことをコントローラ機器1に返信する(ステップS4)。
【0021】
なお、コントローラ機器1が電圧付与ライン3に印加する電圧値の情報も、ユニット総数の情報と同様、通信ライン4を経由して各ユニット機器2にブロードキャスト方式で送信してもよい。あるいは電圧値がシステム全体で固定されているのであれば、その固定された電圧値を予め各ユニット機器2のROM24などに保存しておいてもよい。
コントローラ機器1は、各ユニット機器2からユニット総数の受領を確認した後、電圧付与ライン3に所定の電圧を印加する(ステップS5)。そして、各ユニット機器2にID判別命令を、通信ライン4を通して送信する(ステップS6)。
【0022】
このID判別命令を受信したユニット機器2は、電圧付与ライン3の電圧値を、A/D変換器5を用いて読み取る(ステップS7)。この電圧値の取得点は、図3に示すように、抵抗Rよりも出力端子26側である。
ユニット機器2は、RAM23に保存されたユニット総数と、読み取った電圧値とから、当該ユニット機器2のIDを算出する(ステップS8)。このID算出方法の詳細については後述する。ユニット機器2は、算出したIDを、判別命令の受領確認とともに、コントローラ機器1に送信する(ステップS9)。
【0023】
コントローラ機器1は、各ユニット機器2から返信されたIDと、判別命令の受領確認とを集めて、返信されたIDが複数のユニット機器2で重複していないかどうか確認する(ステップS10)。重複していなければ、各ユニット機器2に対して、当該ユニット機器2のIDを使って個別にID確認命令をポーリング送信する(ステップS11)。
ID確認信号を受信したユニット機器2はID確認通知信号をコントローラ機器1に返信する(ステップS12)。コントローラ機器1は、すべてのユニット機器2からのID確認通知信号を受け取ったことを確認すれば(ステップS13)、全ユニット機器2のIDを確定する(ステップS14)。このようにして、一連の識別符号自動設定処理が終了する。
【0024】
つぎに、図4のシステム全体のフローチャートの中に含まれる、コントローラ機器1の処理の流れのみを取り出して、図5のフローチャートを用いて説明する。
操作者は、コントローラ機器1の操作部13を用いて、各ユニット機器2にIDを設定する識別符号自動設定処理に入る。この識別符号自動設定処理に入っていることをコントローラ機器1が確認すると(ステップT1)、コントローラ機器1は、操作部13からユニット総数の入力があるかどうか確認する(ステップT2)。ユニット総数の入力があれば、入力されたユニット総数の通知を、通信ライン4を経由して各ユニット機器2にブロードキャスト方式で送信する(ステップT3)。そして、すべてのユニット機器2からユニット総数情報の受領返信を受け取ったかどうか確認する(ステップT4)。所定時間以内にすべてのユニット機器2からの受領返信を受け取らなかったときは(ステップT4→T5)、スタートに戻り、識別符号自動設定処理をやり直す。
【0025】
すべてのユニット機器2からユニット総数の情報の受領を確認すれば、コントローラ機器1は電圧付与ライン3に所定の電圧を印加する(ステップT6)。引き続いて、コントローラ機器1は、すべてのユニット機器2にID判別命令をブロードキャスト送信する(ステップT7)。各ユニット機器2はこのID判別命令を受けて、自己のIDを算出する処理を行う。コントローラ機器1は、すべてのユニット機器2からID判別命令の受領返信と、各ユニット機器2が設定したIDの通知があるかどうかを確認する(ステップT8)。所定時間以内にすべてのユニット機器2からの返信を受け取らなかったときは(ステップT8→T9)、スタートに戻り識別符号自動設定処理をやり直す。
【0026】
コントローラ機器1は、各ユニット機器2から受け取ったIDの重複があるかどうかを点検し(ステップT10)、重複があればエラーと判断し表示部16に表示し(ステップT11)、スタートに戻り、識別符号自動設定処理をやり直す。
重複がなければ、各ユニット機器2の当該IDを使って、各ユニット機器2にID確認命令を送信する(ステップT12)。すべてのユニット機器2からID確認が取れた場合(ステップT13)、識別符号自動設定処理を終え、表示部16に識別符号自動設定が完了した旨を表示する。所定時間以内にすべてのユニット機器2からの確認ができなかったときは(ステップT13→T14)、スタートに戻り、識別符号自動設定処理をやり直す。
【0027】
図6〜図8は、ユニット機器2における識別符号自動設定処理を説明するためのフローチャートである。図6は、コントローラ機器1からユニット総数通知命令(ステップT3参照)を受け取った場合の処理を示し、図7はコントローラ機器1からID判別命令(ステップT7参照)を受け取った場合の処理を示し、図8はID確認命令(ステップT12参照)を受け取った場合の処理を示す。
【0028】
図6において、ユニット総数通知命令を受信したユニット機器2は(ステップU1)、そのユニット総数をRAM23に保存し(ステップU2)、ユニット総数通知命令の受領信号を返信する(ステップU3)。
図7において、ID判別命令を受信したユニット機器2は(ステップV1)、RAM23からユニット総数を読み込み(ステップV2)、自己のIDを算出する(ステップV3)。IDを算出すれば、算出されたIDといっしょにコントローラ機器1に送信する(ステップV4)。そしてこのIDをROM24とRAM23に保存する(ステップV5)。
【0029】
図8において、ID確認命令を受信したユニット機器2は(ステップW1)、RAM23に保存したIDを読み込む(ステップW2)。そしてコントローラ機器1から自己宛てに送信されてきた信号に入っているIDと一致するかどうか確認し(ステップW3)、一致していればID確認信号を送信する(ステップW4)。
ここで、ステップV3の、ユニット機器2におけるID算出処理を詳細に説明する。以下の説明において、ユニット機器2に設けられている抵抗Rの値はほぼ同一値とする。
【0030】
図9は、電圧付与ライン3に沿った電圧の分布を示すグラフである。このグラフではユニット機器2の総数Nは「6」と例示し、コントローラ機器1で付与される電圧を、例えば「5V」としているが、これらの数に限定されるものではない。一台あたりユニット機器2の抵抗Rのため降下される電圧をδVとし、隣接しあうユニット機器間あたり電圧付与ライン3の線抵抗のために降下される電圧をδVLとする。合計の降下電圧(δV+δVL)は、前記「5V」をユニット機器2の総数で割った値となる。
【0031】
ただし、ユニット機器2の抵抗Rを、電圧付与ライン3の線抵抗よりも大きく設定するならば(あるいは電圧付与ライン3の線抵抗を非常に小さなものに選ぶならば)、δVLはδVと比べて無視できるから、前記「5V」をユニット機器2の総数で割った値は、ユニット機器2の抵抗Rのため降下される電圧δVであるとすることができる。
逆に、電圧付与ライン3の線抵抗を、ユニット機器2の抵抗Rよりも大きく設定するならばδVLは無視できなくなる。この後者のケースは、例えば、ユニット機器2の抵抗Rをなくし、電圧付与ライン3として、単位長さあたりの抵抗の大きな電線を選ぶ場合である。この場合、電圧付与ライン3自体に、電圧降下の機能を与えることになる。
【0032】
以下、電圧付与ライン3の線抵抗はユニット機器2の抵抗Rよりもはるかに小さくて、無視できるものとして、説明を進める。各ユニット機器2で検出される電圧値Viは、次の[1]式:
Vi=(コントローラ機器1で付与される電圧値V0)×(1−i/N)[1]
で表される。ここでNはユニット機器2の総数、iはコントローラ機器1から直列に接続されるユニット機器2の接続順序である。
【0033】
N=6を想定する場合、1番目のユニット機器2の検出する電圧値V1は、V0×(5/6)となる。2番目のユニット機器2の検出する電圧値V2は、V0×(4/6)となる。これを繰り返して最後の6番目のユニット機器2の検出する電圧値V6は、V0×(0/6)=0(接地電位)となる。
各ユニット機器2は、コントローラ機器1で付与される電圧値V0、ユニット機器2の総数NをRAM23に保存している。しかし、自己のユニット機器2が接続されている順番(前記i)が分かっていない。
【0034】
そこで、検出した電圧値Viに基づいて、自己のユニット機器2が接続されている順番iを求める。この順番iの求め方は次のとおりである。
まず、前記[1]式に基づいて、i=1〜6の場合のViを計算で求める。これをViの「電圧予測値」という。この「電圧予測値」を、i=1〜6のすべてについてRAMに保存する。
【0035】
ただし、この「電圧予測値」は、ユニット機器2に設けられている抵抗Rの値はすべて同一値とした場合の予測値に過ぎない。実際には、距離にばらつきがあり、抵抗R値にもばらつきがある。よって、前記「電圧予測値」の前後にマージンΔVを設けることとする。
マージンの選択基準は次のとおりである。ある順番iに対応する「電圧予測値」と、次の順番i+1に対応する「電圧予測値」との平均値を境界値とし、「電圧予測値」とこの境界値との差をマージンΔVとしてもよい。このようなマージンΔVは、式[2]で表される。
【0036】
ΔV=(電圧値V0/2N)[2]
ただし、平均値の算出方法は、検出電圧値や電圧予測値として対数値を採用する場合相加平均が好ましく、検出電圧値や電圧予測値として非対数値を採用する場合相乗平均が好ましい。
なおマージンΔVの選び方は、前記[2]式にかぎられるものではない。前記[2]式以外の固定値を採用しても良い。しかし、前記[2]式の値を超える値をマージンに選ぶことは適切でない。前記[2]式の値を超えるマージンを選ぶと、隣り合うユニット機器2が検出した電圧値Viの大小と、コントローラ機器1から直列に接続されるユニット機器2の接続順序が反対になるおそれがあるからである。従って、前記[2]式の値は、設定し得るマージンの上限値を定めるものということができる。
【0037】
このように、各ユニット機器2の制御部は、前記「電圧予測値」とその前後マージンΔVを記憶している。検出した電圧値Viを、前後のマージンΔVを考慮した前記「電圧予測値」に当てはめて、検出した電圧値Viがいずれの順番iに対応する「電圧予測値」に該当するのかを判定する。この判定された「電圧予測値」の順番“i“に基づいて、当該ユニット機器2の接続順序、すなわちIDを決定することができる。
【0038】
以上のように本発明の実施の形態によれば、コントローラ機器1から電圧付与ライン3を介して直列に接続された各ユニット機器2が、電圧付与ライン3に現れる電圧値を検出し、その値を、コントローラ機器1で付与される電圧値とユニット機器2の総数とに基づいて定められる「電圧予測値」に当てはめることにより、自己のユニット機器2の接続順序を知ることができる。そしてこの接続順序に基づいて、自己のユニット機器2のIDを決定することができる。よって、コントローラ機器1が各ユニット機器2のIDを設定する必要がなくなるため、コントローラ機器1の負担を軽減することができる。
【0039】
以上で本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば、以上の説明では、ユニット機器2に設けられている抵抗Rの値は同一値としていたが、必ずしもこれにこだわるものではない。抵抗Rの値が同一でなくても、各抵抗の電圧降下の合計がコントローラ機器1で付与される電圧値V0に等しいという性質に基づいて、各ユニット機器2で検出される電圧値Viを計算することができる。この場合、各ユニット機器2で検出される電圧値Viは、ユニット機器2の個数をNとし、k番目のユニット機器2に設けられている抵抗をRkで表すと、次の[3]式:
Vi=(コントローラ機器1で付与される電圧値V0)×(1−Σ1Rk/Σ2Rk)[3]
で表すことができる。ここで総和Σ1はk=1からiまでの総和を意味し、総和Σ2はk=1からNまでの総和を意味する。
【0040】
また、以上の説明では、各ユニット機器2の制御部6が、当該ユニット機器2で検出された電圧値に対応するIDを算出する手段を有していたが、コントローラ機器1の制御部11がIDを算出することとしてもよい。この場合、コントローラ機器1が、各ユニット機器2が検出した電圧値の情報を、通信ライン4を通して受信して、コントローラ機器1の制御部11が、各ユニット機器2で検出された電圧値に対応するIDを算出して、各ユニット機器2に通知する、という形態になる。この場合コントローラ機器1は、「電圧予測値」をメモリに保存している必要は必ずしもなく、単に、各ユニット機器2が検出した電圧値の大小関係に基づいてIDを割り振ることとしてもよい。例えば各ユニット機器2が検出した電圧値の大きい順番にIDを割り振ってもよく、小さい順番にIDを割り振っても良い。
【0041】
また、以上の説明では、ユニット機器2に抵抗Rが内蔵されていたが、図10に示すように、抵抗Rを、ユニット機器2の上流側の電圧付与ライン3に接続しても良い。例えば、1番目のユニット機器2から見てコントローラ機器1と結ばれる電圧付与ライン3に抵抗R1を、2番目のユニット機器2から見て1番目のユニット機器2と結ばれる電圧付与ライン3に抵抗R2を、i番目のユニット機器2から見て、i−1番目のユニット機器2と結ばれる電圧付与ライン3に抵抗Riを接続しても良い(i=1からNまで)。
【0042】
また、抵抗Rをユニット機器2の下流側の電圧付与ライン3に接続しても良い。図示しないが、1番目のユニット機器2から見て2番目のユニット機器2と結ばれる電圧付与ライン3に抵抗R1を、2番目のユニット機器2から見て3番目のユニット機器2と結ばれる電圧付与ライン3に抵抗R2を、i番目のユニット機器2から見て、接地点と結ばれる電圧付与ライン3に抵抗Riを接続しても良い(i=1からNまで)。
【0043】
本発明の制御システムは、コントローラ機器1から出る電圧付与ライン3に対して複数のユニット機器2を直列に接続したシステムにおいて、各ユニット機器2に識別符号を付与する場合に適用されるものである。システム自体の設置目的は問わない。
例えば、本発明の識別符号自動設定システムは、図11に示すような散光式警光灯8及び警告灯9を装備した車両に対して適用することができる。この車両に装備された散光式警光灯8は、車両のルーフ上に載置され、それぞれが点灯、点滅、減光動作を行う複数の回転灯ユニットを備える。各回転灯ユニットには、回転動作の開始、停止を制御できるユニット機器2が備えられている。警告灯9は、車両の側面に載置され、それぞれが点灯、点滅動作を行う複数の警告灯ユニットを備える。各警告灯ユニットには、例えば車両右折時に右側の警告灯を流動点灯させるなど、各警告灯ユニットが協調して動作することができるようにユニット機器2が備えられている。さらに当該車両には、運転席付近のダッシュボード等に設置されるコントローラ機器1が備えられている。
【0044】
コントローラ機器1と、散光式警光灯8における複数のユニット機器2とは、電圧付与ライン3によって直列に接続されている。またユニット機器2は、通信ライン4によってコントローラ機器1に接続されている。これにより、散光式警光灯8において、1つの識別符号自動設定システムを構成している。
またコントローラ機器1と、警告灯9における複数のユニット機器2とは、電圧付与ライン3によって直列に接続され、通信ライン4によって接続されている。これにより、警告灯9において、前記散光式警光灯8の識別符号自動設定システムとは違った、1つの識別符号自動設定システムを構成している。
【0045】
この散光式警光灯8、警告灯9を装備した車両においては、図2に示したコントローラ機器1の操作部13は、各ユニット機器2への動作指示を行うとともに、各ユニット機器2へのID設定の操作、ユニット機器2の総数の入力操作を行う。図2に示した各種センサ入力部14は、車両のドアの開閉、アクセルペダル、ブレーキペダルの踏込み、方向指示器動作などの入力を検知する。また、当該車両が消防車両の場合は、シャッターの開閉、タンクの水残量、放水開始等の機器の動作を検知する。
【0046】
図12は、複数の作業台30が並べられた工場の作業ラインにおける実施例を表す平面図である。各作業台30には信号報知表示灯10が備えられ、作業員Hが配置されている。各信号報知表示灯10は、赤色、黄色、緑色などからなる複数の発光部と操作部を有し、操作部の操作に応じて、それぞれ点灯、点滅、減光動作を行う。信号報知表示灯10には、発光部を制御するユニット機器2が備えられている。ユニット機器2は、電圧付与ライン3を介してコンピュータ(コントローラ機器1に相当)に接続されている。コンピュータは、何番目の信号報知表示灯10に、いかなるIDが付与されているかを把握しており、何番目の信号報知表示灯10が何色を点灯したかを記録することにより、作業員の管理を行う。またコンピュータは、操作部、表示部1aなどを介して識別符号自動付与の指示、ユニット機器2の総数の入力などの指示を行うことができる。
【0047】
この図12の識別符号自動設定システムのコントローラ機器1のブロック図が図13である。図2に示したコントローラ機器1の構成と比較して、表示部、操作部、各種センサ入力部が省略されているのみであり、他の部位の機能は、図2のコントローラ機器1と同様である。表示部、操作部は、コントローラ機器1の外部に接続されている(図12の“1a”参照)。
【0048】
各ユニット機器2のブロック図を図14に示す。この図14のユニット機器2は図3に示したユニット機器2の構成と比較して違っているところは、ユニット固有機能部7が、赤色、黄色、緑色などからなる複数の発光部を駆動する発光部7a〜7cに置き換えられたことのみである。
【実施例】
【0049】
ユニット機器2におけるID算出処理の実測例を説明する。以下の説明において、ユニット機器2の総数Nを6とし、コントローラ機器1で付与される電圧を「5V」とし、A/D変換器5は対数変換特性を有するものとし、その分解能を256とする。従って、A/D変換後のビット値は、変換前のアナログ電圧値の対数(log)を256階調のスケールで表したものとなる。ユニット機器2の抵抗Rはすべて同一値とし、電圧付与ライン3の線抵抗はユニット機器2の抵抗Rよりもはるかに小さくて、無視できるものとした。ユニット機器2の抵抗器には、抵抗値の誤差±5%のものを使用した。
【0050】
前述の[1]式に基づいてユニット機器2で検出される電圧予測値を計算し、A/D変換後のビット値で表した。このA/D変換後のビット値で表わされる電圧予測値を「変換予測値」ということにする。「変換予測値」は、次の表1に示されるような値となった。ただし「±」をつけた数値“15”は、15ビット相当のマージンを表している。
実際にユニット機器2で電圧値を検出したところ、表1の「検知電圧値」に示される値となった。これをA/D変換した後のビット値を「変換実測値」として掲げる。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果から、「変換実測値」は、すべてマージンを考慮した「変換予測値」の範囲に入っている。よって、「変換予測値」の順番に基づいて決めたIDを適用することができる。適用されたIDは表1に示されるものとなった。このようにして、本発明の識別符号自動付与処理の実現性、有効性を確認することができた。
【符号の説明】
【0053】
1 コントローラ機器
2 ユニット機器
3 電圧付与ライン
4 通信ライン
5 A/D変換器
6 制御部
7 ユニット固有機能部
12 メモリ
13 操作部
14 各種センサ入力部
15 通信インターフェイス
16 表示部
21 通信インターフェイス
23 RAM
24 ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントローラ機器と、そのコントローラ機器により制御される所定数の複数のユニット機器とを含む制御システムにおいて、
一端がコントローラ機器に接続された電圧付与ラインに予め定められた数の複数のユニット機器が直列に接続され、
前記コントローラ機器は、前記電圧付与ラインに所定の電圧を印加する手段を有し、
各ユニット機器は、前記電圧付与ラインに現れた電圧値を検出する手段を有し、
検出された電圧値に基づいて各ユニット機器に付与される識別符号を決定する手段が備えられていることを特徴とする識別符号自動設定システム。
【請求項2】
前記各ユニット機器が、検出された電圧値に基づいて、当該ユニット機器に付与される識別符号を決定して、前記コントローラ機器に通知するものである、請求項1記載の識別符号自動設定システム。
【請求項3】
前記各ユニット機器は、前記電圧付与ラインに接続されたユニット機器の総数の情報と、前記コントローラ機器において前記電圧付与ラインに印加される電圧の情報とに基づいて、当該ユニット機器が検出すべき電圧の予測値を保存し、検出した電圧値と保存した予測値との対比に基づいて、自己のIDを決定する、請求項2記載の識別符号自動設定システム。
【請求項4】
前記各ユニット機器には、前記電圧付与ラインに対して直列に接続された、電圧降下のための抵抗が設けられている、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の識別符号自動設定システム。
【請求項5】
前記コントローラ機器とユニット機器とを結ぶ前記電圧付与ライン及び隣接するユニット機器同士を結ぶ前記電圧付与ラインに、電圧降下のための抵抗器が設けられている、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の識別符号自動設定システム。
【請求項6】
前記電圧付与ラインの終端には所定の電位が与えられている、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の識別符号自動設定システム。
【請求項7】
一端がコントローラ機器に接続された電圧付与ラインに予め定められた複数のユニット機器を直列に接続した制御システムにおいて、前記コントローラ機器が前記複数のユニット機器を個別に制御する上で必要な各ユニット機器のIDを自動的に設定する方法であって、
前記コントローラ機器から電圧付与ラインに、所定の電圧を印加するステップと、
各ユニット機器において、前記電圧付与ラインに現れた電圧値を検出するステップと、
この検出した電圧値に基づいて、各ユニット機器に付与される識別符号を決定するステップとを有することを特徴とする識別符号自動付与方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−160891(P2012−160891A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18917(P2011−18917)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(312001937)株式会社パトライト (15)
【Fターム(参考)】