説明

護岸の施工法

【課題】矢板と該矢板から間隔を置いてブラケットに取り付けられた型枠との間にコンクリートを打設したときに該コンクリートから前記型枠に加えられた圧力が前記ブラケットに伝わり、該ブラケットが破損することがないようにし、護岸の工事が中断することを防止すること。
【解決手段】護岸の施工法は、海等から隔てられた地盤の中に矢板を配置すること、前記地盤における、前記矢板と該矢板から前記海等に向けて隔てられた位置との間の領域を前記地盤の表面から前記矢板の上端部と下端部との間まで掘削すること、掘削した地盤の底部の上にパネルを前記矢板及び前記位置のそれぞれから間隔を置いて配置すること、前記パネルと前記位置との間を土砂で満たすこと、前記パネルと前記矢板との間を充填材で満たすことを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸の施工法に関する。
【背景技術】
【0002】
海、河川又は湖沼(以下「海等」という。)から岸を護るために前記海等の近傍に護岸が構築される。従来の護岸には、海等から水平方向に隔てられた地盤の中に水平方向に対して垂直に配置された矢板と、該矢板と前記海等との間にあって前記矢板の上端部から該上端部の下方までの範囲に固定され、該範囲を覆う被覆材とを含むものがある。前記矢板は鋼製であり、前記被覆材は鉄筋コンクリート製である。前記被覆材は、前記海等から前記矢板を保護し、前記海等の水が前記矢板に接触して該矢板が腐食することを防止する。
【0003】
前記護岸を施工するとき、まず、前記地盤の中に前記矢板を水平方向に対して垂直に配置し、次に、前記地盤における、前記矢板と該矢板から前記海等に向けて水平方向に隔てられた位置との間の領域を前記地盤の表面から前記矢板の前記上端部と下端部との間まで掘削する。その後、前記矢板の前記範囲を前記被覆材で覆いかつ前記範囲に前記被覆材を固定する。その後、前記被覆材と前記位置との間を土砂で満たす。
【0004】
前記矢板の前記範囲を前記被覆材で覆いかつ前記範囲に前記被覆材を固定するとき、まず、ブラケットを、掘削した地盤の底部の上に配置しかつ前記矢板に固定する。次に、型枠を前記矢板から水平方向に間隔を置いて該矢板に平行に前記ブラケットに取り付ける。その後、前記型枠と前記矢板との間に鉄筋を配置し、前記型枠と前記矢板との間にコンクリートを打設する。前記コンクリートが硬化した後、前記型枠を前記ブラケットから取り外す。
【0005】
前記地盤の前記領域を掘削したとき、前記海等の水が前記掘削した地盤の底部の上へ浸入することがある。この場合、前記矢板への前記ブラケットの固定を水中溶接により行わなければならず、前記ブラケットを前記矢板に強固に固定することが困難である。このため、前記型枠と前記矢板との間に前記コンクリートを打設している間に該コンクリートから前記型枠に圧力が加えられ、該圧力が前記ブラケットに伝わることにより、該ブラケットが破損する恐れがある。これにより、前記コンクリートが前記型枠と前記矢板との間から流出し、前記護岸の工事が中断する可能性がある。
【0006】
従来の他の護岸には、地盤の中に第1水平方向に対して垂直に配置された矢板と、該矢板に前記第1水平方向と直交する第2水平方向に間隔を置いて固定された複数の支持金物と、該支持金物の隣接する2つの間に前記矢板に平行に配置され、前記隣接する2つのそれぞれに固定された被覆板と、該被覆板と前記矢板との間を満たす充填材とを含むものがある(特許文献1参照)。前記隣接する2つのそれぞれは前記被覆板を支持する。
【0007】
この場合、前記地盤の中に前記矢板を配置する前に前記支持金物を前記矢板に固定することにより、前記矢板への前記支持金物の固定を水中溶接によることなく行うことができ、前記支持金物を前記矢板に強固に固定することができる。このため、前記被覆板と前記矢板との間を前記充填材で満たしている間に該充填材から前記被覆板に加えられた圧力が前記支持金物に伝わることにより、該支持金物が破損することはない。しかし、前記地盤の中に前記矢板を配置するとき、前記矢板のみならず、前記支持金物も前記地盤から摩擦抵抗を受けるため、前記矢板の配置に多くの労力と時間とを要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−90054
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、地盤の中への矢板の配置に要する労力と時間とを増すことなく、前記矢板と該矢板から間隔を置いてブラケットに取り付けられた型枠との間にコンクリートを打設したときに該コンクリートから前記型枠に加えられた圧力が前記ブラケットに伝わり、該ブラケットが破損することがないようにし、護岸の工事が中断することを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、掘削した地盤の底部の上に矢板及び該矢板から水平方向に隔てられた位置のそれぞれから間隔を置いて配置されたパネルと前記位置との間を土砂で満たした後、前記パネルと前記矢板との間を充填材で満たすことにより、該充填材から前記パネルに加えられた圧力が前記土砂に伝わり、該土砂が前記圧力に抵抗するようにする。これにより、矢板に固定されたブラケットに型枠を前記矢板から間隔を置いて取り付け、前記型枠と前記矢板との間にコンクリートを打設する従来の場合のように該コンクリートから前記型枠に加えられた圧力が前記ブラケットに伝わり、該ブラケットが破損することがないようにし、護岸の工事が中断することを防止する。
【0011】
本発明に係る護岸の施工法は、海等から水平方向に隔てられた地盤の中に矢板を水平方向に対して垂直に配置する第1ステップと、前記地盤における、前記矢板と該矢板から前記海等に向けて水平方向に隔てられた位置との間の領域を前記地盤の表面から前記矢板の上端部と下端部との間まで掘削する第2ステップと、掘削した地盤の底部の上にパネルを前記矢板及び前記位置のそれぞれから間隔を置いて前記矢板に平行に配置する第3ステップと、前記パネルと前記位置との間を土砂で満たす第4ステップと、前記パネルと前記矢板との間を充填材で満たす第5ステップとを含む。
【0012】
前記パネルと前記矢板との間を前記充填材で満たしている間、該充填材から前記パネルに圧力が加えられる。前記パネルと前記位置との間を前記土砂で満たした後に前記パネルと前記矢板との間を前記充填材で満たすため、前記圧力は前記土砂に伝わり、該土砂は前記圧力を負担する。このため、矢板に固定されたブラケットに型枠を前記矢板から間隔を置いて取り付け、前記型枠と前記矢板との間にコンクリートを打設する従来の場合のように該コンクリートから前記型枠に加えられた圧力が前記ブラケットに伝わり、該ブラケットが破損することはなく、前記コンクリートが前記型枠と前記矢板との間から流出することはない。これにより、護岸の工事が中断することを防止することができる。
【0013】
前記土砂が前記圧力を負担するため、従来必要とされた、矢板に固定された支持金物を要しない。このため、前記矢板に前記支持金物が固定されている従来の場合のように地盤の中に前記矢板を配置するときに前記支持金物が前記地盤から摩擦抵抗を受けることはない。このため、地盤の中への矢板の配置に要する労力と時間とが増すことはない。
【0014】
前記施工法は、前記第3ステップの前に前記パネルに複数のスペーサーを上下方向に間隔を置いて取り付けることを含み、前記第3ステップにおいて各スペーサーが前記矢板に接するように前記掘削した地盤の底部の上に前記パネルを配置する。
【0015】
前記施工法は、前記第3ステップと前記第4ステップとの間に位置調整手段を用いて前記矢板に対する前記パネルの上下方向の位置を調整する第6ステップを含む。前記調整手段は、前記矢板の前記上端部に固定された第1部材と、該第1部材に上下方向に移動可能に取り付けられた第2部材と、一端部が該第2部材に固定され、他端部が前記パネルに固定された第3部材とを備え、前記第6ステップにおいて、前記第2部材を前記第1部材に対して上下方向に移動させることにより、前記パネルの上下方向の位置を調整する。
【0016】
前記施工法は、海等から水平方向に隔てられた地盤の中に、相対する2つの面を有する矢板を水平方向に対して垂直に、前記面のうち一方の面が前記海等に向けられるように配置すること、前記地盤における、前記矢板の前記一方の面と該一方の面から前記海等に向けて水平方向に隔てられた位置との間の領域を前記地盤の表面から前記矢板の上端部と下端部との間まで掘削すること、掘削した地盤の底部の上にパネルを前記矢板の前記一方の面及び前記位置のそれぞれから間隔を置いて前記矢板に平行に配置すること、前記パネルと前記位置との間を土砂で満たすこと、前記パネルと前記矢板の前記一方の面との間を充填材で満たすこと、前記パネルの上端面と前記充填材の上端面と前記矢板の上端面と前記矢板の前記上端部における他方の面とを被覆材で覆いかつこれらに前記被覆材を固定することを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記パネルと前記位置との間を前記土砂で満たした後に前記パネルと前記矢板との間を前記充填材で満たすため、該充填材から前記パネルに加えられた圧力は前記土砂に伝わり、該土砂は前記圧力を負担する。このため、矢板に固定されたブラケットに型枠を前記矢板から間隔を置いて取り付け、前記型枠と前記矢板との間にコンクリートを打設する従来の場合のように該コンクリートから前記型枠に加えられた圧力が前記ブラケットに伝わり、該ブラケットが破損することはなく、前記コンクリートが前記型枠と前記矢板との間から流出することはない。これにより、護岸の工事が中断することを防止することができる。
【0018】
前記土砂が前記圧力を負担するため、従来必要とされた、矢板に固定された支持金物を要しない。このため、前記矢板に前記支持金物が固定されている従来の場合のように地盤の中に前記矢板を配置するときに前記支持金物が前記地盤から摩擦抵抗を受けることはない。このため、地盤の中への矢板の配置に要する労力と時間とが増すことはない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る護岸の縦断面図。
【図2】地盤の中に矢板を配置した状態を示す図。
【図3】地盤を掘削した状態を示す図。
【図4】掘削した地盤の底部の上にパネルを配置した状態を示す図。
【図5】図4の線5におけるスペーサーの拡大図。
【図6】図4の線6における位置調整手段の拡大図。
【図7】図4の線7における矢板の平面図。
【図8】図7の線8における鉄筋の側面図。
【図9】パネルと矢板から隔てられた位置との間を土砂で満たした状態を示す図。
【図10】パネルと矢板との間を充填材で満たした状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、海10から海岸12を保護するために海10と海岸12との間に護岸14が構築されている。護岸14は、海10から第1水平方向(図1における左右方向)に隔てられた地盤16の中に前記第1水平方向に対して垂直に配置された矢板18と、地盤16の中に矢板18から海10に向けて前記第1水平方向に間隔を置いて矢板18に平行に配置されたパネル20と、該パネルと矢板18との間を満たす充填材22とを含む。
【0021】
矢板18の上端部24は地盤16の表面26とほぼ同じ高さにある。矢板18の上端面24aは、図1に示した例では、地盤16の表面26より数十cm高い高さにある。矢板18の上端面24aは、地盤16の表面26より数十cm高い高さにある図1に示した例に代え、1mないし2m高い高さにあってもよいし、地盤16の表面26と同じ高さにあってもよいし、地盤16の表面26より数十cm低い高さにあってもよい。
【0022】
矢板18は、鋼管矢板であり、前記第1水平方向と直交する第2水平方向(図1における奥行き方向)に隣接する、それぞれが上下方向に伸びる複数の鋼管28と、各鋼管を満たす充填材30とを備える。鋼管28の隣接する2つは結合されており、充填材30はコンクリートからなる。
【0023】
パネル20の下端部32は矢板18の上端部24と下端部(図示せず)との間にある。図1に示した例では、矢板18の上下方向の長さは10m以上であり、パネル20の上下方向の長さは約2mである。パネル20はプレキャストコンクリートからなり、充填材22は場所打ちコンクリートからなる。パネル20と充填材22とは、矢板18の上端部24から該上端部の下方までの範囲を覆い、海10から矢板18を保護し、海10の水が矢板18に接触して該矢板が腐食することを防止する。
【0024】
矢板18は、相対する2つの面18a、18bを有し、該面のうち一方の面18aは海10に向けられている。充填材22はパネル20と矢板18の一方の面18aとの間を満たしている。護岸14は、パネル20の上端面と充填材22の上端面と矢板18の上端面24aと矢板18の上端部24における他方の面18bとに固定され、これらを覆う被覆材34を含む。被覆材34は、場所打ちコンクリートからなり、鋼管28の隣接する2つの結合を強化し、護岸14の外観を良くする。
【0025】
護岸14を施工するとき、図2に示すように、地盤16の中に矢板18を前記第1水平方向に対して垂直に配置する。このとき、矢板18の上端部24が地盤16の表面26とほぼ同じ高さに位置するように矢板18を配置する。矢板18を配置するとき、まず、杭打ち機(図示せず)を用いて地盤16の中に複数の鋼管28を前記第2水平方向に隣接して打ち込み、次に、各鋼管28の内部を充填材30で満たし、その後、鋼管28の隣接する2つを結合する。
【0026】
前記隣接する2つのうち一方の鋼管28は、前記第2水平方向に隔てられた2つの縁部を有し、一方の縁部に、一方の鋼管28に平行な筒状の第1継手28aが固定され、他方の縁部に、一方の鋼管28に平行な筒状の第2継手28bが固定されている(図7)。前記隣接する2つのうち他方の鋼管28は、前記第2水平方向に隔てられた2つの縁部を有し、一方の縁部に、他方の鋼管28に平行な筒状の第3継手28cが固定され、他方の縁部に、他方の鋼管28に平行な筒状の第4継手28dが固定されている。一方の鋼管28と他方の鋼管28とを結合するとき、第2継手28bを第3継手28cに係合させ、第2継手28bの内部と第3継手28cの内部とを、コンクリートからなる充填材28eで満たす。充填材28eは、コンクリートからなる上記の例に代え、モルタルでもよい。
【0027】
地盤16の中に矢板18を配置した後、図3に示すように、地盤16における、矢板18と該矢板から海10に向けて水平方向に隔てられた位置36との間の領域38を地盤16の表面26から矢板18の上端部24と前記下端部との間まで掘削する。図3に示した例では、矢板18と位置36との間の距離40は2mないし4mであり、掘削した地盤の深さ42(地盤16の表面26から、掘削した地盤の底部44までの深さ42)は約2mである。
【0028】
その後、図4に示すように、掘削した地盤の底部44の上にパネル20を矢板18及び位置36のそれぞれから間隔を置いて矢板18に平行に配置する。図4に示した例では、パネル20と矢板18との間の間隔は数十cmである。掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置するとき、まず、掘削した地盤の底部44における、矢板18の近傍の範囲の上に砕石46を載せ、その後、該砕石の上にパネル20を載せる。前記範囲の前記第1水平方向の長さ寸法はパネル20と矢板18との間の間隔とパネル20の厚さ寸法との和より大きく、前記範囲の前記第2水平方向の長さ寸法は矢板18の前記第2水平方向の長さ寸法に等しい。
【0029】
パネル20と砕石46との間に、パネル20と砕石46との間を密封する弾性部材(図示せず)が介在している。前記弾性部材は、パネル20と矢板18との間にコンクリートを打設したときに該コンクリートがパネル20と矢板18との間からパネル20と砕石46との間を経て流出することを阻止する。前記弾性部材は、ゴムからなり、パネル20に固定され、前記第2水平方向に伸びている。掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置するとき、パネル20に前記弾性部材を固定し、その後、砕石46の上にパネル20を載せる。前記弾性部材は、ゴムからなる上記の例に代え、発泡ウレタンからなるものでもよいし、スポンジでもよい。掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置するとき、砕石46の上にパネル20を載せる図4に示した例に代え、砕石46の上に水平な板(図示せず)を載せ、該板の上にパネル20を載せてもよし、掘削した地盤の底部44の上に直接パネル20を載せてもよい。
【0030】
掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置する前にパネル20に複数のスペーサー48を上下方向に間隔を置いて取り付けておき、掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置するとき、各スペーサー48が矢板18に接するようにパネル20を配置する。スペーサー48はパネル20と矢板18との間の間隔を維持する。
【0031】
図5に示すように、パネル20は、プレキャストコンクリートからなる本体50と、該本体の内部に上下方向に間隔を置いて固定され、それぞれが前記第1水平方向に伸びる軸線を有する複数のナット52とを備え、各ナットの端部は本体50の外方へ開放されている。各スペーサー48は、一端部がナット52に螺合された、本体50から前記第1水平方向に伸びるボルトであり、該ボルトを回すことにより、本体50から前記ボルトの他端部までの長さを調整することができる。前記長さは、該長さがパネル20と矢板18との間の設計上の間隔と等しくなるように調整されている。
【0032】
掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置した後、位置調整手段54を用いて矢板18に対するパネル20の上下方向の位置を調整する。図6に示すように、位置調整手段54は、矢板18の上端部24に固定された第1部材56と、該第1部材に上下方向に移動可能に取り付けられた第2部材58と、一端部が該第2部材に固定され、他端部がパネル20に固定された第3部材60とを備える。パネル20の上下方向の位置の調整は、第2部材58を第1部材56に対して上下方向に移動させることにより行う。
【0033】
位置調整手段54を用いてパネル20の上下方向の位置を調整する前に、第1部材56を矢板18の上端部24に固定し、第2部材58を第1部材56に上下方向に移動可能に取り付け、第3部材60の前記一端部及び前記他端部をそれぞれ第2部材58及びパネル20に固定する。例えば、掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置する前に第1部材56を矢板18の上端部24に固定し、第2部材58を第1部材56に上下方向に移動可能に取り付け、第3部材60の前記一端部を第2部材58に固定しておき、掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置した後に第3部材60の前記他端部をパネル20に固定する。これに代え、掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置する前に第1部材56を矢板18の上端部24に固定し、第3部材60の前記一端部及び前記他端部をそれぞれ第2部材58及びパネル20に固定しておき、掘削した地盤の底部44の上にパネル20を配置した後に第2部材58を第1部材56に上下方向に移動可能に取り付けてもよい。
【0034】
第1部材56は、矢板18の上端部24に結合された、該上端部から上方へ伸びるボルトである。第2部材58は、該第2部材の一端部に設けられた、前記ボルトを受け入れる貫通穴62を有する。第2部材58の前記一端部は、該一端部の上面に密着して前記ボルトに螺合された上方ナット64と、前記一端部の下面に密着して前記ボルトに螺合された下方ナット66とにより、第1部材56に取り付けられている。パネル20は、本体50の上端部に固定されたアイボルト68を備え、第3部材60は、一端部が第2部材58の前記他端部に、他端部がアイボルト68にそれぞれ取り付けられたチェーンである。第2部材58を第1部材56に対して上方へ移動させるとき、上方ナット64及び下方ナット66のそれぞれを回してこれらを第2部材58とともに上方へ移動させる。他方、第2部材58を第1部材56に対して下方へ移動させるとき、上方ナット64及び下方ナット66のそれぞれを回してこれらを第2部材58とともに下方へ移動させる。
【0035】
第3部材60は上下方向に対して傾斜しており、第2部材58を第1部材56に対して上方へ移動させることにより、第3部材60に張力が作用し、該張力はパネル20に伝わり、前記張力の前記第1水平方向の成分がパネル20からスペーサー48に伝わる。これにより、スペーサー48が矢板18から離れることを防ぐことができ、パネル20と矢板18との間の間隔を予め決められた間隔に確実に維持することができる。
【0036】
パネル20は、図7に示すように、前記第2水平方向に隣接する複数のパネル部材20aからなり、該パネル部材の隣接する2つは結合されている。パネル20は、複数のパネル部材20aからなる図7に示した例に代え、1つの部材からなるものでもよい。パネル20に複数の鉄筋70が間隔を置いて取り付けられている。各鉄筋70は、鋼管28の隣接する2つの間にあり、鉄筋70と矢板18との間の間隔は、鉄筋70に設計上必要なコンクリートのかぶり厚さに相当する間隔より大きい。鉄筋70が鋼管28の隣接する2つの間にあるため、鉄筋70と矢板18との間の間隔を比較的大きくすることができ、パネル20と矢板18との間にコンクリートを打設したときに鉄筋70を前記コンクリートで十分に覆うことができ、鉄筋70と前記コンクリートとを確実に結合することができる。鉄筋70は、図8に示す例では、上下方向に間隔を置かれた、平行な2つの第1部分72であってそれぞれがパネル20の内部に固定され、該パネルから矢板18に向けて前記第1水平方向に伸びる2つの第1部分72と、該第1部分の間の各第1部分に対して垂直な第2部分74であって矢板18から間隔を置かれた第2部分74とを有する。
【0037】
パネル20の上下方向の位置を調整した後、図9に示すように、パネル20と位置36との間を土砂76で満たす。その後、図10に示すように、パネル20と矢板18との間にコンクリートを打設することにより、パネル20と矢板18の一方の面18aとの間を充填材22で満たす。地盤16の領域38を掘削したときに海10の水が、掘削した地盤の底部44の上へ浸入し、パネル20と矢板18との間に海10の水が入ることがある。このため、充填材22は、水中不分離コンクリートからなることが望ましい。鉄筋70は充填材22をパネル20に定着させる。パネル20と矢板18の一方の面18aとの間を充填材22で満たした後、パネル20の前記上端面と充填材22の前記上端面と矢板18の上端面24aと矢板18の上端部24における他方の面18bとを被覆材34で覆い、かつ該被覆材をパネル20の前記上端面と充填材22の前記上端面と矢板18の上端面24aと矢板18の上端部24における他方の面18bとに固定する(図1)。
【0038】
このとき、第1型枠(図示せず)を、該第1型枠の上端部がパネル20、充填材22及び矢板18の上方にあり、前記第1型枠の下端部がパネル20に密着されるようにパネル20と海10との間に矢板18に平行に配置しかつパネル20に固定し、第2型枠(図示せず)を、該第2型枠の上端部が前記第1型枠の前記上端部と同じ高さにあり、前記第2型枠の下端部が矢板18の上端部24と同じ高さにあって該上端部における他方の面18bから前記第1水平方向に間隔を置かれるようにパネル20と海岸12との間に矢板18に平行に配置しかつ地盤16に固定し、前記第1型枠と前記第2型枠との間と、前記第2型枠と矢板18の上端部24における他方の面18bとの間とにコンクリートを打設する。なお、前記第1型枠は、前記第2水平方向に隔てられた一端部及び他端部を有し、前記第2型枠は、前記第2水平方向に隔てられた一端部及び他端部を有し、前記コンクリートの打設前に第3型枠を前記第1型枠の前記一端部と前記第2型枠の前記一端部との間に配置しかつこれらに固定し、第4型枠を前記第1型枠の前記他端部と前記第2型枠の前記他端部との間に配置しかつこれらに固定する。前記第3型枠は前記第1型枠の前記一端部と前記第2型枠の前記一端部との間を塞ぎ、前記第4型枠は前記第1型枠の前記他端部と前記第2型枠の前記他端部との間を塞ぐ。
【0039】
パネル20と矢板18との間を充填材22で満たしている間、該充填材によりパネル20に圧力が加えられる。パネル20と位置36との間を土砂76で満たした後にパネル20と矢板18との間を充填材22で満たすため、前記圧力は土砂76に伝わり、該土砂は前記圧力を負担する。このため、矢板に固定されたブラケットに型枠を前記矢板から間隔を置いて取り付け、前記型枠と前記矢板との間にコンクリートを打設する従来の場合のように該コンクリートにより前記型枠に加えられた圧力が前記ブラケットに伝わり、該ブラケットが破損することはなく、前記コンクリートが前記型枠と前記矢板との間から流出することはない。これにより、護岸の工事が中断することを防止することができる。
【0040】
土砂76が前記圧力を負担するため、従来必要とされた、矢板に固定された支持金物を要しない。このため、前記矢板に前記支持金物が固定されている従来の場合のように地盤の中に前記矢板を配置するときに前記支持金物が前記地盤から摩擦抵抗を受けることはない。このため、地盤の中への矢板の配置に要する労力と時間とが増すことはない。
【0041】
プレキャストコンクリートからなるパネル20と場所打ちコンクリートからなる充填材22とが矢板18の上端部24から該上端部の下方までの範囲を覆うため、場所打ちコンクリートからなる被覆材のみが矢板の上端部から該上端部の下方までの範囲を覆う従来の場合と比べ、場所打ちコンクリートの量を低減することができ、護岸の工事の現場での作業時間を短縮することができる。
【0042】
一般に、型枠の大きさには制限があり、前記型枠と前記矢板との間にコンクリートを打設する従来の場合、前記型枠と前記矢板との間にコンクリートを打設した後、前記型枠を前記第2水平方向に移動させること、移動させた型枠と前記矢板との間にコンクリートを打設することを繰り返す必要があり、護岸の工事の現場での作業時間が増す。これに対して、パネル20の大きさには制限がなく、パネル20の前記第2水平方向の長さを矢板18の前記第2水平方向の長さと等しくすることができ、パネル20と矢板18との間にコンクリートを打設する作業を一度で終えることができ、護岸の工事の現場での作業時間を短縮することができる。
【0043】
矢板18は、鋼管矢板である図1に示した例に代え、鋼矢板、親杭横矢板等でもよい。矢板18は、海10から隔てられた地盤16の中に配置されている図1に示した例に代え、河川又は湖沼(図示せず)から隔てられた地盤の中に配置されていてもよい。充填材22は、コンクリートからなる図1に示した例に代え、モルタル、ソイルセメント等でもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 海
14 護岸
16 地盤
18 矢板
20 パネル
22 充填材
26 表面
36 位置
38 領域
44 底部
48 スペーサー
54 位置調整手段
56 第1部材
58 第2部材
60 第3部材
76 土砂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海等から水平方向に隔てられた地盤の中に矢板を水平方向に対して垂直に配置する第1ステップと、
前記地盤における、前記矢板と該矢板から前記海等に向けて水平方向に隔てられた位置との間の領域を前記地盤の表面から前記矢板の上端部と下端部との間まで掘削する第2ステップと、
掘削した地盤の底部の上にパネルを前記矢板及び前記位置のそれぞれから間隔を置いて前記矢板に平行に配置する第3ステップと、
前記パネルと前記位置との間を土砂で満たす第4ステップと、
前記パネルと前記矢板との間を充填材で満たす第5ステップとを含む、護岸の施工法。
【請求項2】
前記第3ステップの前に前記パネルに複数のスペーサーを上下方向に間隔を置いて取り付けることを含み、
前記第3ステップにおいて各スペーサーが前記矢板に接するように前記掘削した地盤の底部の上に前記パネルを配置する、請求項1に記載の護岸の施工法。
【請求項3】
前記第3ステップと前記第4ステップとの間に位置調整手段を用いて前記矢板に対する前記パネルの上下方向の位置を調整する第6ステップを含む、請求項1に記載の護岸の施工法。
【請求項4】
前記調整手段は、前記矢板の前記上端部に固定された第1部材と、該第1部材に上下方向に移動可能に取り付けられた第2部材と、一端部が該第2部材に固定され、他端部が前記パネルに固定された第3部材とを備え、
前記第6ステップにおいて、前記第2部材を前記第1部材に対して上下方向に移動させることにより、前記パネルの上下方向の位置を調整する、請求項3に記載の護岸の施工法。
【請求項5】
海等から水平方向に隔てられた地盤の中に、相対する2つの面を有する矢板を水平方向に対して垂直に、前記面のうち一方の面が前記海等に向けられるように配置すること、
前記地盤における、前記矢板の前記一方の面と該一方の面から前記海等に向けて水平方向に隔てられた位置との間の領域を前記地盤の表面から前記矢板の上端部と下端部との間まで掘削すること、
掘削した地盤の底部の上にパネルを前記矢板の前記一方の面及び前記位置のそれぞれから間隔を置いて前記矢板に平行に配置すること、
前記パネルと前記位置との間を土砂で満たすこと、
前記パネルと前記矢板の前記一方の面との間を充填材で満たすこと、
前記パネルの上端面と前記充填材の上端面と前記矢板の上端面と前記矢板の前記上端部における他方の面とを被覆材で覆いかつこれらに前記被覆材を固定することを含む、護岸の施工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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