説明

豆乳含有パンの製造法

【課題】本発明の目的は、豆乳含有のパンを製造する時に、乳化剤を使用しないでも、製法として湯種又は湯種と水種法を併用し、ソフトでかつ歯切れ良く豆乳風味が良く出る豆乳パンを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、豆乳を含有したパンを製造する生地に、豆乳量は生地中対粉大豆固形分1.5〜3.7%、好ましくは2.1〜3.2%である。乳化剤を使用しないで湯種又は、湯種と水種を併用した製法で、食感、歯切れ感及び豆乳風味の良く出たパンが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆乳を含有したパンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパン類は、通常小麦粉、イースト及び水を主原料とし、これに食塩、及び水を主原料とし、これに砂糖、乳製品、油脂、その他副原料を配合し、または食品添加物を加え混合した生地を発酵、膨化させ焼成して作られる。
近年豆乳をパン製造に用いる試みがなされているが、パン生地に豆乳を配合しても、食感がボソボソになったり、また折角の豆乳風味が発現しにくいという難点があった。
すなわち豆乳を原材料に使用したパン類は、豆乳に含まれる大豆固形分の作用により、パン生地が締まり、硬くボソボソの食感になる。また豆乳風味のあるパンを得るには、製法を代えても豆乳風味を出すことは難しかった。
【0003】
特許文献1では豆乳を配合してもボソボソ感のない製造法が開示されている。これによれば、全ての原料を一度に混合させる直捏法では、混捏後に長時間発酵させても食感がボソボソであった。これは豆乳中の何らかの素材又は酵素が、小麦粉のグルテンの形成を阻害するためであると思われた。よって主原料の一部と、水の一部又は全部と、豆乳の一部とを混捏、発酵させて中種を得た後、得られた中種に主原料の残部と、水の残部と、豆乳の残部とを加えて混捏、発酵させることにより、ボソボソ感がなく、美味な豆乳添加パンを得ることが出来る。豆乳配合のパンの製法において、一般的な直捏法、中種法では、食感がボソボソであり、ここに開示されている中種製法ではボソボソ感が改善でき、風味についてはストレート法より中種法の方が少し良いだけで、顕著な差がなく、風味の発現が不充分であり改善の余地があるものである。
特許文献2は豆乳の使用とは無関係であるが、パンの製法における湯種製法の問題として生地伸展性の低下、機械耐性が悪いということを指摘し、その解決のために乳化剤を添加することが開示されている。しかしこの方法は最近の乳化剤使用を低減する傾向には対応し難い方法である。本発明は豆乳を含有したパンの製法には湯種製法を採用し、乳化剤を使用しないでも、ソフトで歯切れ感も良く、豆乳風味の良く発現出来るようになった。
【特許文献1】特開平11−253095号公報
【特許文献2】特開2003−23955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
豆乳含有のパンの製法では湯種法だけでも食感、歯切れ、ソフト感のあるものが出来るが、豆乳風味が弱いという課題があった。
本発明の目的は、豆乳を含有し、乳化剤を使用しないで、ソフトでかつ歯切れの良く豆乳風味が発現する豆乳含有パン製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、乳化剤を使用しないで、豆乳を含有した生地をいかにソフトで歯切れ感があり、豆乳の風味を出すかを製法と配合量を検討した結果、乳化剤を使用しなくても、製法を駆使することにより、豆乳が多く配合されてもボソボソした食感がなく、ソフトでかつ歯切れが良く、本来の豆乳の風味を醸し出す製造法が得られた。即ち本発明の第1は少なくとも湯種を用いることを特徴とする豆乳含有パンの製造法である。第2は水種も併用する上記第1の製造法である。第3は豆乳が生地中対粉大豆固形分として、1.5〜3.7%含まれるパンの製造法である。第4は乳化剤を使用しないでも出来る上記第1〜3記載の豆乳含有パン製造法である。
【発明の効果】
【0006】
パン生地の製法として湯種又は、湯種と水種を併用し、豆乳量を調整することにより、乳化剤無添加でも、ソフトでかつ歯切れが良く、豆乳風味が良く発現するものを提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明では、湯種生地を少なくともパン生地を得るものである。湯種生地の調製方法は、従来公知の方法を採用できる。
【0008】
代表的な方法としては、小麦粉および水を配合した湯種生地を、水の温度を80〜100℃で混捏し、これを捏ね上げ温度として55〜65℃にし、室温まで温度を下げて、本捏生地と合わせる。
小麦粉は強力粉よりはグルテンの少ないフランス粉を用いるのが好ましい。
湯種使用により、食感、ソフト感、豆乳風味はストレート法に比べて向上する。
【0009】
本発明の製法の水種の調整条件としては、本捏生地に使用する一部の小麦粉、水とインスタントドライイーストを加え、攪拌する。室温で数時間発酵させた後、一晩冷蔵保管し低温発酵したものを使用する。保管した水種は2〜3日使用可能である。
【0010】
本発明で湯種と水種を併用する意義は、本捏配合のフランス粉の一部を水種に使用し豆乳に含まれる大豆固形分による生地のしまりをなくし、豆乳の味をより良く出すために併用する。水種生地が湯種生地のしまりをなくし、生地を柔らかくし、さらに、一晩冷蔵してじっくり低温発酵した水種生地が本捏中の豆乳と混ざり合い豆乳の風味を良く発現させると推察される。
【0011】
本発明の本捏調整条件としては、縦型ミキサーに湯種あるいは湯種及び水種を入れ、本捏配合(油脂を除く)を添加し、混捏する。さらに油脂を加え混捏し本捏生地を作る。次に混捏でダメージを受けた生地を回復させるためにフロアータイムをとり、この後パン生地を分割する。分割した生地を回復させるためベンチタイムをとる。俵型に成型し、2斤型に4つ入れ、ホイロをとり、オーブンで焼成する。
【0012】
豆乳は、全脂豆乳、脱脂豆乳、それらの混合物、またはそれらの粉末化物を用いることが出来る。全脂豆乳は、一般的に大豆を水、湯水、熱湯等に浸漬して膨潤させ、磨砕し、加熱しまたは加熱しないで、おからを分離したものであるが、好ましくは、膨潤大豆を回転刃型剪弾力を作用させて微細化した後、遠心分離やロ過など通常の方法で分離した豆乳を用いる。脱脂豆乳は脱脂大豆を原料として、水抽出したものであって、アルカリ土類金属塩を作用させたものであっても良い。全脂豆乳と同様に製造したものである。この脱脂豆乳と油脂を均質化して油中水型エマルジョンとしたものが豆乳として使用することも出来る。油脂は動植物由来の油脂、それらの加工油脂など公知の油脂を使用することが出来る。また豆乳の一部に代えて、分離大豆蛋白質、濃縮大豆蛋白質、バラェティ化として大豆粉、きなこなどを併用することも出来るが豆乳風味が一般的に弱くなる。
【0013】
豆乳中の大豆固形分の割合は、2〜15重量%、より好ましくは4〜12重量%が適当である。この理由はパンのソフトさの持続性については、大豆固形分に含まれる大豆蛋白の保水性の強さによってパン中の自由水が固定されて移動しにくくなるため、澱粉の老化が抑制されるものと考えられる。大豆固形分が2重量%未満である場合、老化防止に有効な大豆蛋白が不足するため効果が少なくなり、又大豆固形分が15重量%を超えると、大豆蛋白が多すぎて小麦粉のグルテンネットワークの形成を妨害するためか、パンの体積が減少し凹みが出来ケービングを起こし、硬いパンになる。
実施例で使用した豆乳は低温抽出法で行ったもので、大豆蛋白固形分10.5%の豆乳を使用した。
【0014】
湯種又は、湯種、水種を併用した本製法において、食感、歯切れ感が良くかつ豆乳風味の良く出る豆乳量としては生地中対粉大豆固形分1.5〜3.7%である。好ましくは2.1〜3.2%である。
【0015】
本発明では従来から使用されていた生地を安定化するために乳化剤を使用しなくても、湯種または湯種と水種を併用することにより豆乳含有のパンが出来る製法が出来た。
【実施例】
【0016】
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味する。
本願発明の方法で得たパン生地を以下の基準で、パンの食感、歯切れ感、ソフト感、豆乳風味、外観について評価した。
パンの食感、歯切れ感については、食べてパン自体ボソボソした塊がなく、内相は綺麗で、食べてもたつきもなく、歯切れ感が良いもの。
パンのソフト感は食べてソフトな食感の良いもの。
豆乳風味は、良く豆乳風味が醸し出されているもの。
外観は凹みもなく、焼きムラのないもの。
それぞれの観点から評価を行った。
(パンの食感、歯切れ感)
◎:ボソボソ感が無くパン外観、内相、歯切れ感が非常に良好。
○:ボソボソ感が無くパンの外観、内相、歯切れ感が良好。
△:ボソボソ感が少しあり、パンの外観、内相、歯切れ感がやや悪い。
×:ボソボソ感があり、パンの外観、内相、歯切れ感が悪い。
(パンのソフト感)
◎:口溶けも良くソフトさ非常に良好。
○:口溶け、ソフトさ良好。
△:口溶け、ソフト感やや悪い。
×:口溶け、ソフト感悪い。
(豆乳風味)
◎:豆乳風味が良く出ている。
○:豆乳風味が出ている。
△:豆乳風味が弱い。
×:豆乳風味が出ていない。
(外観)
◎:ケービング無く非常に良好。
○:ケービング無く良好。
△:ケービング少しあり。
×:ケービング有り悪い。
【0017】
実施例1
湯種生地はフランス粉(日清製粉製、商品名リスドォル)20重量部に80℃〜100℃の熱湯を20重量部加え攪拌する。捏上げ温度を55〜65℃にし湯種生地とし、室温まで下げた。
本捏生地はフランス粉を30重量部、強力粉(日本製粉製、商品名イーグル)50重量部、上白糖6重量部、食塩2重量部、生イースト2重量部、豆乳(大豆固形分10.5%)7重量部、水35重量部の本捏生地(油脂を除く)を縦型ミキサー(愛工舎製作所、30コートミキサー)に上記湯種を入れ、低速3分、中低速3分で混捏後、油脂(不二製油製、ブリザードピュアレモア、無添加マーガリン)を添加し低速3分中低速2分、混捏し、本捏生地とした。本捏生地の捏上げ温度は27℃で、次に混捏でダメージを受けた生地を回復するためにフロアータイムを50分とり、この後250gに分割した。分割した生地を回復するためにベンチタイムを20分とる。俵型に成型し、2斤型に4つ入れホイロをとる。ホイロ後、釜を上火200℃、下火240℃で35分焼成した。これらの結果を表1に纏めた。
【0018】
実施例2
実施例1では食感、歯切れ感が良いものが出来たが豆乳風味が出にくかったので、豆乳風味の良く出る方法として水種生地を導入し、風味の点で改良する実施例2を得た。湯種生地は実施例1と同様に作った。
水種生地はフランス粉20重量部、インスタントドライイースト0.04重量部(日仏商事株式会社製)、水20重量部を加え、攪拌する。室温で3時間発酵させ、5℃で冷蔵保管させた後、一晩冷蔵庫で冷蔵し、じっくり低温発酵させた。
表1に示した配合に従って、実施例1と同様の方法で本捏生地に、湯種と水種を添加し実施例2を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表1に纏めた。
【0019】
実施例3
表1に示した配合に従って、実施例2と同様の方法で実施例3を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表1に纏めた。
【0020】
実施例4
表1に示した配合に従って、実施例2と同様の方法で実施例4を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表1に纏めた。
【0021】
表1から実施例1〜4において実施例1の湯種法だけでは、湯種法特有の食感、歯切れ感、ソフト感が良いが、豆乳風味は弱い。ストレート法に比べて良い。実施例2の湯種、水種を併用した製法においては、食感、歯切れ感が良く、豆乳の風味が非常に良く出る豆乳の範囲として生地中対粉大豆固形分が1.5〜3.7重量%である。この範囲でのパンは食感、歯切れ感及び豆乳風味の良く出たものが出来た。実施例3の豆乳量が少ないと食感、歯切れ感及び豆乳風味が出にくい。実施例4の豆乳が多いと豆乳風味は出ているが、小麦粉のグルテンネットワークの形成を妨害するため又、熱ゲル化形成能が高くなるため、パンの容積が減少しケービングをおこし特に食感、歯切れ感、ソフト感、外観が悪くなった。
結果として、ストレート法による(比較例3)に比べて、食感、歯切れ、ソフト感、豆乳風味は非常に良いものが出来た。
【0022】

【0023】
比較例1
表2に示した配合に従って、実施例2と同様の方法で豆乳なしで比較例1を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表2に纏めた。
【0024】
比較例2
表2に示した配合に従って、この方法は湯種を使用しないで水種だけを使用し、本捏生地に水種を添加した製法で比較例2を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表2に纏めた。
【0025】
比較例3
表2に示した配合に従って、この方法は従来良くやられているストレート法で比較例3を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表2に纏めた。
【0026】

【0027】
表2から比較例1〜3の製法面において、比較例2の水種法だけでは、食感、歯切れ感が悪いために、豆乳風味が弱いがストレート法よりは豆乳風味が出ている。比較例3のストレート法では、特に食感、歯切れ感、ソフト感が悪く豆乳風味が一番出にくい。さらに社内の官能テストでも、実施例1、比較例1、2の3点について評価すると、明らかに、水種、ストレート法に比べ湯種法が食感、歯切れ、ソフト感の点で優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、乳化剤を使用しないでも、湯種又は湯種と水種法を併用し、食感、豆乳風味良好な豆乳パンの製造法に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも湯種を用いることを特徴とする豆乳含有パンの製造法。
【請求項2】
水種と併用する請求項1の製造法。
【請求項3】
豆乳が生地中の対粉大豆固形分として1.5〜3.7重量%含まれる請求項1の製造法。
【請求項4】
乳化剤を使用しないで行う請求項1〜3記載のパンの製造法