説明

豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物

【課題】特殊な水溶性ヘミセルロースの添加や、プロテアーゼによる豆乳の加水分解を行うことなく、長期保存しても均質安定性の優れた豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物を提供する。
【解決手段】豆乳に乳酸菌を接種培養し、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下であることを特徴とする豆乳発酵物を得る。またこの豆乳発酵物を食塩、食酢などを含有する水性調味液と混和して、豆乳発酵物含有均質組成物を得る。好ましくは豆乳発酵物含有均質組成物全体に対して5〜75%(w/w)の豆乳発酵物を配合する場合には、低pH条件下においても均質安定性に優れ、食感が良好な豆乳発酵物含有均質組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低pHにおいても均質安定性に優れた豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
豆乳は、低コレステロール、低カロリーで高蛋白の健康食品として注目されており、豆乳特有のにおいや味の問題を回避又は軽減するために、豆乳を乳酸発酵させたり、酸性果汁や有機酸を加えたりする等の試みが従来なされてきた。
そして、豆乳蛋白質の酸性下での安定性が充分でないことにより発酵豆乳や酸性条件下の豆乳が有していた、凝集やざらつき、分離を生じやすいという欠点を解消するため、特殊な水溶性ヘミセルロースを添加する方法(例えば、特許文献1参照)、あるいは豆乳を予めプロテアーゼで酵素分解し、次いで乳酸菌による乳酸発酵を行う方法(例えば、特許文献2参照)が開示されてきた。しかし、前記のような付加的な処理工程を行うことなく得られる、低pH条件下で長期保存しても均質安定性に優れた豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物は知られていない。
【特許文献1】特開2001−29038号公報
【特許文献2】特開昭61−63260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、特殊な水溶性ヘミセルロースの添加や、プロテアーゼによる豆乳の加水分解を行うことなく、低pH条件下で長期保存しても均質安定性に優れた豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題解決のために鋭意研究を重ねた結果、豆乳に乳酸菌を接種培養して得られる豆乳発酵物であって、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物が、低pH条件下で長期保存しても凝集やざらつき、分離を生じない優れた均質安定性を有することを知り、この知見に基づき本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)豆乳に乳酸菌を接種培養して得られる豆乳発酵物であって、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下であることを特徴とする豆乳発酵物。
(2)乳酸菌がLeuconostoc属に属する微生物であるである前記(1)に記載の豆乳発酵物。
(3)豆乳に乳酸菌を接種培養して得られる豆乳発酵物であって、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物と水性調味液とを含有し、pHが3.0〜4.7以下である豆乳発酵物含有均質組成物。
(4)豆乳に乳酸菌を接種培養して得られる豆乳発酵物であって、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物を、豆乳発酵物含有均質組成物全量に対して5〜75%(w/w)含有することを特徴とする前記(3)に記載の豆乳発酵物含有均質組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、特殊な水溶性ヘミセルロースの添加や、プロテアーゼによる豆乳の加水分解を行うことなく、低pH条件下で長期保存しても均質安定性に優れた豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0008】
(豆乳)
本発明の豆乳発酵物に使用する豆乳としては、任意の豆乳が使用でき、例えば、3%(w/w)以上の大豆固形分を含有する豆乳を使用することができる。大豆固形分とは、水分を除いた大豆の成分の量で、炭水化物、脂質、たんぱく質を主成分とするものであり、JAS(日本農林規格)によれば豆乳飲料(その他)の大豆固形分は4%以上と定められている。本発明では、市販の各種豆乳やその原料として一般的な大豆固形分濃度、例えば4〜16%(w/w)の豆乳を好適に使用することができる。また、必要に応じ、より大豆固形分含量の高い豆乳を使用してもよい。
豆乳には、例えば単糖類、ニ糖類、オリゴ糖等の1種以上の糖を添加することができる。これらの糖は、発酵工程において乳酸菌に資化させて増殖を促すために添加する。糖の例としてはシュークロース、マルトース、スタキオース又はラフィノース等があり、乳酸菌に応じて適宜選択すればよい。糖の添加量は特に限定されないが、例えばLeuconostoc pseudomesenteroides(NISL7223)を用いる場合、豆乳に対し3%(w/w)以上、例えば5〜15%(w/w)程度のシュークロースを添加することによって、本発明の豆乳発酵物を容易に得ることができる。好適な添加量範囲の下限を下回る添加量では乳酸菌の生育が効率よく行われず、逆に好適な添加量範囲の上限を上回る添加量では、添加した糖を資化しきれず豆乳発酵物中に残留する傾向を有するので、使用する乳酸菌によって好適な添加量範囲を決定することが好ましい。
【0009】
(乳酸菌)
粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である本発明の豆乳発酵物は、豆乳に乳酸菌を添加して乳酸発酵を行わせることにより得ることができる。使用する乳酸菌としては、豆乳に接種培養した場合に、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物を生産可能な乳酸菌であれば任意の乳酸菌が利用可能である。例えば、Leuconostoc属に属する微生物が挙げられる。具体的な種としては、例えば、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc pseudomesenteroides、Leuconostoc citreum、Leuconostoc dextranicum等が挙げられ、より具体的には、例えば、Leuconostoc mesenteroides(NISL 7219、NISL 7200、NRIC 1539)、Leuconostoc pseudomesenteroides(NISL7223)、Leuconostoc citreum(NRIC 1579)、Leuconostoc dextranicum(NRIC 1541)等が挙げられる。なお、上記菌種名に関し、「NRIC」とは東京農業大学応用生物科学部菌株保存室が保存する菌株を意味し、「NISL」とは、財団法人野田産業科学研究所が保存する菌株を意味する。
これらの乳酸菌を使用すると、発酵により得られる豆乳発酵物中の粒度分布において粒径の大きいものがより少なく、粒径の小さいものが占める割合がより高いという特徴を有し、滑らかなクリーム状の物性を有する豆乳発酵物を安定的に製造することができ好ましい。また、粒径の大きいものの含量が一定値以下である豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物同士の比較においては、小さな粒径のものが占める割合がより多いもの、又は、平均粒径がより小さいものが一層滑らかな物性と優れた均質安定性を有するため、より好ましい。このような豆乳発酵物を生産可能な菌種としては、例えば、Leuconostoc pseudomesenteroides、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc paramesenteroides等が挙げられ、より具体的には、Leuconostoc pseudomesenteroides(NISL7223)、Leuconostoc mesenteroides(NISL 7200)等が挙げられる。
【0010】
(乳酸発酵)
豆乳の発酵には公知の方法を用いればよく、例えば、豆乳に糖類を添加し、そこに前述の乳酸菌を加えて発酵させ、豆乳中の粒子の粒径を小さくするために好適な培養条件下、例えば、30〜35℃で4時間以上の発酵を行わせ、適宜発酵物の粒度分布を測定しながら発酵させる方法が挙げられる。このようにして、粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物を得ることができる。
【0011】
(豆乳発酵物の粒度分布)
本発明において、豆乳発酵物の粒度分布における80μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%以下であることは重要である。すなわち、粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%を超える豆乳発酵物はざらついた食感が感じられ、均質安定性も劣る傾向を有するので好ましくない。また、粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%を超える豆乳発酵物を水性調味液等と混合し均質組成物を製造した場合、例えばpH4.7以下の低pH条件下において前記均質化組成物が凝集、分離を起こす、または起こし易くなるという問題点を有するので好ましくない。
これに対し、80μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%以下である豆乳発酵物及びそれを含有する均質組成物は、特殊な水溶性ヘミセルロースを添加したり、豆乳をプロテアーゼで加水分解したりすることなく、pH4.7以下の低pH条件下でも組成物が凝集、分離しないという優れた均質安定性を有し、好ましい。さらに、80μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%以下である豆乳発酵物の中でも、小さな粒径のものが占める割合がより多いもの、又は、平均粒径がより小さいものは一層滑らかな物性と優れた均質安定性を有する。より好ましくは、70μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%以下である豆乳発酵物、さらに好ましくは、50μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%以下である豆乳発酵物、さらに好ましくは、20μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%以下である豆乳発酵物は、一層滑らかなクリーム状の物性と優れた均質安定性を有する。
なお、粒度分布の測定は、粒度分布測定装置、例えば「島津レーザー回析式粒度分布測定装置、SALD−2200−WJA1:V1.02」(島津製作所社製)を用いて測定することができる。
【0012】
前記の豆乳発酵物は、マヨネーズやドレッシングのような乳化液状調味料やデザート等の素材として摂食するのに好ましいクリーミーな(滑らかな)食感及びさわやかな酸味と豆乳由来のコクのある旨味を有し、また、すぐれた均質安定性を有している。そしてこの特性が本発明の豆乳発酵物含有均質組成物の濃厚な味とクリーミーな(滑らかな)食感、及び長期保存に耐え得る高い均質安定性に寄与する。従って、本発明の豆乳発酵物を、例えば従来の豆乳や豆乳発酵物に代えて、あるいは牛乳に代えて使用した場合には、良好な食感及び均質安定性を有する各種均質組成物を得ることができる。
【0013】
(豆乳発酵物含有均質組成物における豆乳発酵物の配合)
粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である本発明の豆乳発酵物を、例えば、水性調味料等の原料と任意の配合で使用して、ドレッシングやマヨネーズ様調味料のような豆乳発酵物含有均質組成物を製造することができる。その場合、例えば、本発明の豆乳発酵物を前記豆乳発酵物含有均質組成物全量に対して5〜75%(w/w)の範囲で使用することが好ましい。豆乳発酵物の使用量が非常に少ない場合、例えば、5%(w/w)未満の場合は、本発明の豆乳発酵物が寄与する均質安定性を確保することが困難となる傾向がある。また、反対に豆乳発酵物の使用量が75%(w/w)を超える場合には、水性調味液の配合量に対する豆乳の風味が濃厚となり、酸味が不足する、豆乳の風味が強すぎるなど、調味料としての嗜好性にやや劣るものとなる傾向がある。これに対し、豆乳発酵物の使用量が5〜75%(w/w)の範囲にあるときには、調味料として良好な風味を有しつつ、良好な均質安定性を確保することが可能である。より好ましくは、豆乳発酵物の使用量は20〜70%(w/w)であり、その場合には、低pH条件下での均質安定性はより良好なものとなり、凝集、分離が起こりにくく、しかもその他の原材料との配合バランスがとれ良好な風味を有する調味料を得ることが可能となる。その範囲において、例えば、豆乳発酵物の使用量を20〜40%(w/w)とする配合は、凝集、分離が起こりにくく良好な風味を有するドレッシングタイプ調味料を製造するのに好適である。また、豆乳発酵物の使用量を35〜70%(w/w)とする配合は、例えば、澱粉等のいわゆる糊料の添加を低減あるいは省略してもマヨネーズ同様の粘度を有すると共に凝集、分離が起こりにくく良好な風味を有するマヨネーズ風調味料を製造するのに好適である。
【0014】
(水性調味液)
調味料として好適な本発明の豆乳発酵物含有均質組成物を製造するために使用する水性調味液とは、任意の水性の調味液を意味し、例えば、米酢、穀物酢、果実酢、ワインビネガー等の醸造酢;濃口醤油、淡口醤油、白醤油等の醤油類;味醂、みりん風調味料等の甘味調味料;ワインや日本酒等の酒類;酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸溶液;食塩;グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム等の化学調味料溶液;砂糖、水飴、蜂蜜等の甘味料溶液;清澄なだし汁あるいは動物又は植物蛋白質加水分解物等のアミノ酸調味料;発酵調味料、酵母エキス、魚介類エキス、野菜抽出物、海草エキス等のエキス類等の1種又は2種以上を含有する水性調味液が挙げられる。
【0015】
(その他の原材料)
その他の原材料としては、一般的な乳化調味料、例えば、マヨネーズや各種乳化液状ドレッシング類に使用されている、食塩、糖類、味噌、辛子、胡椒、胡麻ペーストやにんにくペースト、ハーブ粉末、ナツメグ、セージ、タイム、シナモン、これらの抽出物等の香辛料、核酸系調味料、果汁、野菜や果実、種実類等、トマト、にんじん、タマネギ、にんにく、ゴマ、リンゴ、ゆず、オレンジ、モモ、イチゴ、パイナップル、ミカン、ブドウ等の加工処理物(ピューレ、ペースト、練状物、細断粒状物、磨砕物、粉末等)が挙げられる。なお必要により、加工澱粉や寒天、キサンタンガム、コーンスターチ、ペクチン等の各種安定剤や増粘剤を適量添加することができる。
【0016】
また、このような調味料の原料として、サラダオイル、コーンオイル、サフラワーオイル等の各種精製油脂の1種又は2種以上を、例えば、1〜70%使用してもよい。さらに、本発明の豆乳発酵物は、そのような精製油脂を添加しない場合でも、豆乳発酵物及び/又はその他の原料に由来するわずかな油脂分のみを利用して、良好な食感及び風味を有する均質安定性に優れた調味料の製造を可能にするため、精製油脂の添加による高カロリー化、高コレステロール化を抑制できる精製油脂無添加調味料の提供を可能にする。なお、本発明の豆乳発酵物は乳化力にも優れるため、均質乳化機等の特殊な装置を用いることなく、通常の混合装置中で攪拌することにより豆乳発酵物含有均質組成物を容易に得ることができる。また、原材料に精製油脂を添加する場合は、油脂以外の原材料を混合後、油脂を徐々に添加しながらコロイドミルなどで乳化を行うことにより、均質な豆乳発酵物含有調味料を容易に得ることができる。
【0017】
(本発明の豆乳発酵物含有均質組成物のpH)
前記豆乳発酵物、前記水性調味液、及び必要に応じその他の原材料を混合して均質化し、有機酸又は食酢を用いてpHを3.0〜4.7に調整して本発明の豆乳発酵物含有均質組成物を調製することができる。本発明の豆乳発酵物含有均質組成物においてpHを4.7以下となるように調整することは重要である。pHが4.7を超える場合、得られる豆乳発酵物含有均質組成物には酸味が不足し、調味料としての嗜好性に劣るものとなる。pHが3.0を下回る場合には、得られる豆乳発酵物含有均質組成物は酸味が強すぎることによって調味料としての嗜好性に劣るものとなる。
【0018】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
1.粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物(本発明)の調製
1)豆乳の調製
大豆固形分14%(w/v)の無調整豆乳に対して、無菌フィルターろ過済みの20%シュークロース溶液を等量加えることで、終濃度において10%(w/v)シュークロースを含有する大豆固形分7%(w/v)の豆乳(以下、「発酵前の豆乳」と称する)を調製した。調製した上記豆乳を滅菌済みのカップ等の容器に充填した。
2)乳酸菌の調製
表1記載のLeuconostoc属に属する乳酸菌を、乳酸菌用調製培地(1.0%大豆ペプトン、0.5%酵母エキス、1.0%グルコース、0.5%酢酸ナトリウム)にて30℃、20時間培養した。培養液10mlを遠心分離(3,000g×5min)して菌体を回収した。
3)発酵
上記2)で回収した各種菌体を、上記1)に記載の調製した豆乳に全量添加し、30℃、24時間恒温状態にて発酵を行い、豆乳発酵物を得た。
【0020】
2.粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以上である豆乳発酵物(比較例)の調製
ヨーグルト生産用の乳酸菌として知られている表1記載のLactobacillus属に属する乳酸菌を用いて、上記3)に記載の方法と同様に発酵を行い、比較例の豆乳発酵物を得た。
【0021】
3.本発明の豆乳発酵物及び比較例の豆乳発酵物の評価
上記により得られた各豆乳発酵物の粒度分布を「島津レーザー回析式粒度分布測定装置、SALD−2200−WJA1:V1.02」を用いて測定した。得られたデータのうち代表的な数例の菌株に関する粒度分布のプロファイルを図1に示す。
図1に示される通り、比較例であるLactobacillus属の微生物を用いて発酵を行った豆乳発酵物においては、粒径が5μm以下の粒子がほとんどなく、粒径200μmを超える大きさの粒子も多く含まれ、80μmを超える粒子が占める割合は10%を大きく上回る。これに対し、本発明のLeuconostoc属の微生物を用いて発酵を行った豆乳発酵物には粒径200μmを超える大きさの粒子はみられず、粒径80μmを超える大きさの粒子が占める割合はいずれも10%以下であった。Leuconostoc mesenteroides(NRIC 1539)を用いた豆乳発酵物では、約30μmをピークとする粒径約5μmから約200μm以下の粒子を含み、粒径80μmを超える大きさの粒子が占める割合は10%であった。また、Leuconostoc mesenteroides(NISL 7200)の場合は、約20μmをピークとする粒径約4μmから約100μmの粒子を含み、粒径80μmを超える大きさの粒子はほとんど存在しなかった。さらに、Leuconostoc pseudomesenteroides(NISL7223)の場合は、含まれる粒子の粒径はさらに小さく、約15μmを超える粒径の粒子はみられなかった。
表1に、各豆乳発酵物の粒度分布プロファイルに基づく90%Dの値を示す。90%Dの値とは、粒度分布プロファイルにおいて粒子径の小さい方から90%に含まれる粒子の最大径を意味する。例えば、90%Dの値が80である場合、この豆乳発酵物における粒子の小さい方から90%に含まれる粒子の最大径は80μmであり、すなわちこの豆乳発酵物には粒子径が80μm以上である粒子を全体の10%含むことを意味する。
表1において、Lactobacillus属に属する比較例の各種乳酸菌を用いた豆乳発酵物では、いずれも90%Dの値が100を上回り、粒子径が100μmを超える大きな粒子が全体の10%を占め、図1からも明らかであるように、粒子径が80μm以上である粒子の割合としては10%を大きく超えることがわかる。これに対し、Leuconostoc属に属する本発明の各種乳酸菌を用いた場合には、90%Dの値がいずれも80以下であり、粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子の割合が10%以下であることがわかる。特に、Leuconostoc mesenteroides(NISL 7200)の場合は、90%Dの値は40であり、40μm以上の大きさの粒子が10%以下となる。さらに、Leuconostoc pseudomesenteroides(NISL7223)の場合には、90%Dの値が9であり、10μm以上の大きさの粒子は10%以下にすぎず、全体の粒子径が非常に小さいことがわかる。図1及び表1の結果から、使用する乳酸菌の菌株の相違により、粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子の割合が大きく異なることがわかる。
【0022】
【表1】

【0023】
4.豆乳発酵物含有均質組成物及び豆乳含有均質組成物の調製
上記3.で得られた各種豆乳発酵物、食酢(5%(w/w)酢酸濃度のリンゴ酢)、及び水を70g、20g、及び110gの配合割合で混合し、豆乳発酵物含有均質組成物(本発明及び比較例)を得た。また、対照として上記1.1)に記載の「発酵前の豆乳」を用いる以外は全く同様の方法を用いて豆乳含有均質組成物(対照)を得た。
【0024】
5.本発明豆乳発酵物含有均質組成物及び比較例の豆乳発酵物含有均質組成物の均質安定性評価
上記の本発明、比較例及び対照の豆乳発酵物含有均質組成物を各10ml分取し、15ml容遠心分離用試験管に入れ、5℃、20分間、1,000rpmにて遠心後、分離状態を目視観察すると共に、分離された透明な上層の液量を測定した。
また、上層以外の不透明部分(沈殿、ふわふわとした中間層、及び遠心分離前の乳化状態と同様の液状部分を含む)を下層として、その量を測定した。
豆乳発酵物含有均質組成物全体に対する上層の割合(x%)、及び下層の割合((100−x)%)を算出し、分離状態(均質安定性)の尺度とした。そして上層の割合(x%)が0〜10%のものを「◎(分離せず)」、10〜20%のものを「○(やや分離)」、及び20%以上のものを「×(分離)」として、均質安定性評価結果を表1に示す。なお、調製された豆乳発酵物含有均質組成物又は豆乳含有均質組成物のpHはそれぞれ、3.8(本発明)、3.8(比較例)及び4.2(対照)であった。
【0025】
表1に記載の通り、「粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以上である豆乳発酵物」を用いた豆乳発酵物含有均質組成物(比較例)においては固液分離が認められる欠点を有していた。なお、乳酸発酵処理しない「発酵前の豆乳」を用いた豆乳発酵物含有均質組成物(対照)では、さらに固液分離が激しく、均質安定性が非常に劣っていた。
これに対し、「粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物」を用いた豆乳発酵物含有均質組成物は、固液分離は全く起こらないかほとんど起こらず、均質安定性が高いことがわかる。
以上の結果から、粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以上である豆乳発酵物を水性調味液と混合して豆乳発酵物含有均質組成物を調製するときには、pH4.7以下の低pH条件下となる場合でも豆乳発酵物含有均質組成物の凝集、分離が起こらず均質安定性に優れていることがわかる。
【実施例2】
【0026】
実施例1に記載の各種Leuconostoc属の微生物を使用して得られた豆乳発酵物を使用して、以下の配合割合にて、pH4.3の豆乳発酵物含有均質組成物(マヨネーズ風調味料)を製造した。
配合割合
・粒度分布において80μm以上の
粒子径を有する粒子が10%以下
である豆乳発酵物 :300g
・水飴 :230g
・食塩 :34g
・リンゴ酢(酢酸5%(w/w)) :80ml
・加工澱粉 :28g
・小麦発酵調味料(粉末) :10g
・香辛料(マスタード) :2g
・黄色素(着色料) :0.5g
・水 :合計容量が1000mlとなるように添加
合計値 :1000ml

得られた豆乳発酵物含有均質組成物は良好な均質安定性を示し、食感は滑らかで風味も良好であった。また、この豆乳発酵物含有均質組成物を200ml容ガラス製密封容器に入れ、室温にて4ヶ月間静置した時も分離は観察されず、均質性が維持されていた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得られた調整豆乳及び豆乳発酵物の粒度分布である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳に乳酸菌を接種培養して得られる豆乳発酵物であって、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下であることを特徴とする豆乳発酵物。
【請求項2】
乳酸菌がLeuconostoc属に属する微生物である請求項1に記載の豆乳発酵物。
【請求項3】
豆乳に乳酸菌を接種培養して得られる豆乳発酵物であって、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物と水性調味液とを含有し、pHが3.0〜4.7以下である豆乳発酵物含有均質組成物。
【請求項4】
豆乳に乳酸菌を接種培養して得られる豆乳発酵物であって、その粒度分布において80μm以上の粒子径を有する粒子が10%以下である豆乳発酵物を、豆乳発酵物含有均質組成物全量に対して5〜75%(w/w)含有することを特徴とする請求項3に記載の豆乳発酵物含有均質組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−161070(P2008−161070A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351102(P2006−351102)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】