説明

豆腐の製造方法

【課題】本発明は、生大豆粉を使用して希望する風味の豆腐を製造する新規な方法を開発することを課題とする。より具体的には、本発明は、生大豆粉を使用して豆腐を製造するに際して、大豆由来の青臭さを調整することにより、希望する風味の豆腐を製造する新規な方法を開発することを課題とする。
【解決手段】本発明は、生大豆粉の加水溶解時の全粒豆乳の温度を調整することにより、豆腐の風味を調節できることを見いだした。本発明はまた、上述の豆腐の風味を希望にあわせて調節する方法を使用することにより、希望の風味を有する豆腐を製造することができることもまた見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆腐の新規な製造方法に関する。より具体的には、本発明は、生大豆粉からの豆腐を製造するための新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐は、一般に浸漬大豆を水とともに磨りつぶし、その呉液を加熱して豆乳を搾り、これににがりを加えて凝固させることにより製造される。従来からの製造方法においては、大豆を水に浸漬したのち浸漬大豆の供給量に対し適当量加水しつつ磨砕する工法が取られている。この際、大豆中の酵素リポキシゲナーゼが不飽和脂肪酸に働き過酸化脂質を生成し、更に他の酵素が働いて青臭みの主成分であるn-ヘキサナール等が発生する。
【0003】
この青臭みが最終的には豆腐特有の風味となり、食欲をそそる一方、嗜好の原因にもなっている。また、その風味ゆえ他の食材としての用途が限られている。
更にこのようにして製造される豆腐は、大豆の浸漬時間が厳密であるため、夏場では6〜8時間、冬場では12〜24時間の浸漬時間が必要となるため、大豆製造の現場では、浸漬時間が長いことから製造数量の増減に対応しにくいなどの問題点もかかえている。
【0004】
このような問題点を解決する切り札の一つとして、生大豆粉を原料として使用して豆乳を製造する方法などが知られており(特許文献1)、生大豆粉を溶解した豆乳を使用して豆腐を製造することが考えられる。生大豆粉を使用して豆乳を製造する場合、常温水によって溶解すると、原料中に存在するリポキシナーゼが溶解中に活性化して青臭が発生する。従って、このような条件により生大豆粉を使用して製造する豆乳は、大豆独特の青臭さを有することになる。この独特の青臭さは、その後、加熱・凝固して製造される豆腐の風味の一つではあるが、最近の多様性が要求される食業界では、このような風味を極力抑えた無臭の豆腐の要求も強い。
【0005】
また、豆乳の青臭さが一旦生じてしまうと、後に高温で加熱しても消臭できないため、例えば豆腐にゴマ、ゆずなどの風味素材を加えて風味つきの豆腐を製造しようとしても、豆腐特有の風味が他の食材の風味を減殺してしまうという問題点も生じていた。
【0006】
一方、豆腐製造では磨りつぶした後、加熱後または加熱せずに、おからを取り除くことが普通である。このおからは、卯の花和え、おからハンバーグなど、おからとして総菜などに使われるが、豆腐、豆乳製造の際に取り除かれたおからの総量からすると、極めてわずかでしかない。ヒトの食用に供されないおからは、家畜の飼料などとしても使われているが、そのすべてを利用することはできない。そのため、食品業界においては、大量に出来るおからを産業廃棄物として処理しなければならないなど、その処理が大きな問題となっており、豆腐製造上の新たな費用となって負担を生じている。
【0007】
このような問題点を解決する手段として、これまでもおからを入れた全粒の豆腐や豆乳が製造されているが、従来の方法では、風味・食感の問題など、解決できない問題が存在していた(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【特許文献1】特開2002-345425
【特許文献2】特開昭59-59167
【特許文献3】特開昭59-210861
【特許文献4】特開2003-23990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生大豆粉を使用して希望する風味の豆腐を製造する新規な方法を開発することを課題とする。より具体的には、本発明は、生大豆粉を使用して豆腐を製造するに際して、大豆由来の青臭さを調節することにより、希望する風味の豆腐を製造する新規な方法を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
生大豆粉による豆腐の製造は、生大豆粉を水で溶解・加熱し、凝固剤を添加して大豆タンパク質を凝固させる。本発明の発明者らは、この溶解の際、水の温度条件が生大豆粉に含まれる酵素の活性化に影響し、青臭の発生を左右することを見いだした。
【0010】
このことから、本発明は、生大豆粉の加水溶解時の溶解液(以後、全粒豆乳という)の温度を調整することにより、豆腐の風味を調節できることを見いだした。すなわち、生大豆粉の加水溶解時の全粒豆乳の温度を調整して、豆乳もしくは全粒豆乳における大豆由来の青臭さを希望する青臭さに調整することにより、製造される豆腐の風味を希望にあわせて調節することができる方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、豆腐の風味を希望にあわせて調節するための上述した方法を使用することにより、希望の風味を有する豆腐を製造することができることもまた見いだした。すなわち、生大豆粉の加水溶解時の全粒豆乳の温度を調整して、大豆由来の青臭さを調整した豆乳もしくは全粒豆乳を調製し、それを加熱した後ににがりを添加して凝固させることにより、自在に風味を調節することができる豆腐の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法にしたがって生大豆粉の溶解・分散の際の全粒豆乳の温度を変化させることにより、所望の風味を有する豆腐を製造することができる。例えば、低温で行えば青臭さを生じて本来の豆腐らしい風味を生じ、また必要に応じて生大豆粉の溶解液をより長く時間をとることによってより風味の強い豆腐とすることができ、一方、リポキシゲナーゼが失活する高い温度で大豆粉を溶解・分散させれば青臭さのない豆乳となって豆腐の風味を有しない豆腐を製造することが可能となる。
【0013】
また、生大豆粉による豆腐の製造は、摩砕工程がないため溶解から凝固まで短時間で行うことができる。そのため、生大豆粉を熱水で溶解しても溶解液が高温で放置されることがなく、大豆タンパク質が加熱により変性して凝固が不十分になるという問題がない。さらに、生大豆粉を使用するため、大豆を使用する従来の豆腐造りの浸漬工程、摩砕工程を省略できるので、製造時間を短縮でき、また製造量の変動にも柔軟に対応できるという副次的な効果も得られる。
【発明の実施の形態】
【0014】
本発明は、生大豆粉の加水溶解時の全粒豆乳の温度を調整して、豆乳もしくは全粒豆乳における大豆由来の青臭さを調整することにより、製造される豆腐の風味を希望にあわせて調節することができる方法を提供することを特徴とする。
【0015】
本発明はまた、生大豆粉の加水溶解時の全粒豆乳の温度を調整して、大豆由来の青臭さを調整した豆乳もしくは全粒豆乳を調製し、それににがりを添加して凝固させることにより、自在に風味を調節することができる豆腐の製造方法を提供することもまた特徴とする。
【0016】
生大豆粉中には、大豆中の成分と反応して、大豆由来の青臭さを表出させるリポキシナーゼが存在している。豆腐の製造過程で全粒豆乳を作製する際、生大豆粉を加水溶解する工程を行うが、この工程においてリポキシゲナーゼが作用して全粒豆乳に青臭さが発生する。この青臭さは、豆腐における独特の風味の源泉でもある。
【0017】
生大豆粉中のリポキシゲナーゼは、40℃を最適温度とし、それ以下の温度では酵素が失活はしないものの徐々に活性が低くなり、一方それ以上の温度では徐々に失活することが知られている。そのため、大豆由来の青臭さ、すなわち豆腐らしい風味を最大にしたい場合には、リポキシゲナーゼの酵素活性が高い30〜40℃の全粒豆乳となる温水で生大豆粉を加水溶解する。また、30〜40℃から温度が離れるにしたがって、低温側の場合には酵素活性が低下するため、高温側の場合には酵素が失活するため、それぞれ豆乳または全粒豆乳中の青臭さは低減する。40℃以上の温度の場合であっても60℃までは、酵素自体は失活するものの、失活するまでの時間にリポキシゲナーゼが作用して豆乳または全粒豆乳中に青臭さが発生する。しかしながら、加水溶解時の全粒豆乳の温度を80℃まで上昇させると、ほぼ豆乳または全粒豆乳中に青臭さは発生しなくなる。
【0018】
したがって、本発明の方法にしたがって生大豆粉を加水溶解して豆乳または全粒豆乳を作製する際に、全粒豆乳の温度を60℃以下にすることにより、豆乳もしくは全粒豆乳における大豆由来の青臭さを強めることができ、この豆乳または全粒豆乳をその後、90℃以上で3〜7分煮上げて、にがりを添加し、凝固させることにより、結果として豆腐における大豆由来の青臭さによる豆腐の風味を強めることができる。豆腐における大豆由来の青臭さによる豆腐の風味をもっとも強めるためには、生大豆粉の加水溶解時の全粒豆乳の温度を30〜40℃とする。また、40℃よりも低い温度の全粒豆乳の場合、リポキシゲナーゼの酵素活性が低下するのみで失活する訳ではないため、その温度にて維持される時間を長くすることにより、より青臭さを呈することもできる。
【0019】
一方、本発明の方法にしたがって生大豆粉を加水溶解して豆乳または全粒豆乳を作製する際に、使用する水の温度を高くして全粒豆乳の温度を80℃以上にすることにより、豆乳もしくは全粒豆乳における大豆由来の青臭さを低減することができ、この豆乳または全粒豆乳に対してにがりを添加し、凝固させることにより、結果として豆腐における大豆由来の青臭さによる豆腐の風味を低減することができる。豆腐における大豆由来の青臭さによる豆腐の風味は、80℃以上の全粒豆乳の温度にすることにより、ほぼ消失させることができるが、より確実に青臭さを消失させるためには、全粒豆乳の温度を85℃以上にするとよい。
【0020】
本明細書中で、全粒豆乳という場合、いわゆるおからと呼ばれる繊維質等を含む豆乳のことをいい、例えば、生大豆粉を熱水で加水溶解することにより製造することができるものをいう。一方、単に豆乳という場合、いわゆるおからと呼ばれる繊維質等を含まない豆乳のことをいい、生大豆粉を加水溶解した後、遠心分離機等により繊維質等を除去することにより製造することができるものをいう。本発明においては、豆乳であるか全粒豆乳であるかにかかわらず、豆乳または全粒豆乳を通常通りに90℃以上で3〜7分間煮上げることにより、豆腐用の豆乳とすることができる。
【0021】
一方、全粒豆乳を使用して豆腐を製造する場合、必要に応じて全粒豆乳中のおからを更に微細化する工程を行ってもよい。微細化させることにより、口溶けがなめらかな豆腐を得ることができる。
【0022】
本発明においては、これまでに説明した方法により生大豆粉の加水溶解時の全粒豆乳の温度を調整して、大豆由来の青臭さを調整した豆乳もしくは全粒豆乳を調製し、それを90℃以上で3〜7分蒸煮し、それににがりを添加して凝固させることにより、希望にあわせて風味を調節した豆腐を製造することを特徴とする。
【0023】
尚、90℃以上の温水で生大豆粉を加水溶解する場合には、溶解後一定時間放置してその後、にがりを添加して凝固させることもできる。
また、このようにして調製した豆乳を冷却した後、にがりを添加し、その後加熱して凝固させることで豆腐を製造することもできる。
【実施例】
【0024】
実施例1:生大豆粉の溶解温度と大豆由来の青臭さ及び豆腐風味の関係
本実施例は、生大豆粉を溶解する際の温度と、大豆由来の青臭さ及び豆腐風味との関係を調べることを目的として行った。
【0025】
本実施例においては、生大豆粉1(500 g)に対して、冷水、又は熱水6(3 L)を加えて溶解、分散し全粒豆乳の温度を10℃、25℃、40℃、60℃、70℃、80℃、85℃、90℃、95℃に調整し、その後同じ温度に15分間保持した後に加熱し、4分間煮上げ、次いでにがりを添加して豆腐を製造した。
【0026】
このようにして製造した豆腐の風味の強度を官能試験により調べた。官能試験は、先ず、8人の被験者に上述の種々の温度にて調製した全粒豆乳を冷却した後、試飲してもらい、青臭さを+++、++、+、±、−の五段階で評価してもらった。また、各温度の全粒豆乳から豆腐を製造し、被験者に試食してもらい豆腐風味の強度を調べた。強度は+++、++、+、±、−の五段階で評価してもらった。これらの結果を、表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
この官能試験の評価結果から、10℃〜70℃の温度で生大豆粉を加水溶解した場合、表中に示したような青臭さによる豆腐の風味を呈する豆腐を製造できることが明らかになった。また、全粒豆乳の温度と豆腐が呈する風味とのあいだには表のような関係があることから、加水溶解する際の温度を選択することにより、希望の風味を呈する豆腐を製造することもできる。
【0029】
一方、80℃の全粒豆乳の温度に生大豆粉を加水溶解した場合にわずかに青臭さが残る程度で、85℃以上の全粒豆乳の温度にした場合には、青臭さはほとんど発生しなかった。この結果から、原料としての生大豆粉を80℃以上、好ましくは85℃以上の全粒豆乳の温度に加水溶解することにより、大豆由来の青臭さによる豆腐の風味を低減した豆腐を製造できることが明らかになった。
【0030】
実施例2:溶解温度と保持時間による青臭さと豆腐風味の強度の関係
本実施例は、生大豆粉を溶解する際の温度帯を40℃以下にして、その保持時間の違いにより大豆由来の青臭さ及び豆腐風味の発生の強弱の違いを調べることを目的として行った。
【0031】
実施例1と同様に10℃、25℃、40℃の全粒豆乳を調整し、それぞれの温度帯で15分、30分、60分保持して得た全粒豆乳を8人の被験者に試飲してもらい青臭さの評価と各全粒豆乳から製造した豆腐を試食してもらい豆腐風味の強度を調べた。
【0032】
強度は、+、++、+++、++++の四段階で評価してもらった。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
この官能試験の評価結果から、10℃、25℃、または40℃の温度で生大豆粉を加水溶解した場合、基本的に時間の経過と共に風味が強くなることがわかった。また、生大豆粉の溶解条件(溶解温度および保持時間)と豆腐が呈する風味とのあいだには表2のような関係があることから、加水溶解する際の溶解温度および保持時間を選択することにより、希望の強度の風味を呈する豆腐を製造することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の方法により豆腐を製造することにより、生大豆粉の溶解・分散の際の温度を変化させることにより、低温で行えば青臭さを生じて本来の豆腐らしい風味を生じ、また必要に応じて生大豆粉の溶解液をより長く時間をとることによってより風味の強い豆腐とすることができ、一方、リポキシゲナーゼが失活する高い温度の全粒豆乳とすれば青臭さのない豆乳となって他の風味素材を加えた時にその風味を阻害しない豆腐を造ることが可能となる。また、生大豆粉による豆腐の製造は、摩砕工程がないため溶解から凝固まで短時間で行うことができる。そのため、生大豆粉を熱水で溶解しても溶解液が高温で放置されることがなく、大豆タンパク質が加熱により変性して凝固が不十分になるという問題がない。さらに、生大豆粉を使用するため、大豆を使用する従来の豆腐造りの浸漬工程・摩砕工程を省略できるので、工程時間を短縮できる、また製造量の変動にも柔軟に対応できるという副次的な効果もまた得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生大豆粉を原料とする豆腐の製造に際して、生大豆粉の加水溶解時の溶解液の温度を調整して、生大豆粉溶解液の大豆由来の青臭さを調整することによる、豆腐の風味の調節方法。
【請求項2】
生大豆粉の加水溶解時の溶解液の温度を60℃以下、または80℃以上にして、生大豆粉溶解液の大豆由来の青臭さを調整することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生大豆粉を原料とする豆腐の製造方法において、生大豆粉の加水溶解時の溶解液の温度を調整して、大豆由来の青臭さを調整した豆乳もしくは全粒豆乳を調製し、凝固させることで、大豆由来の青臭さによる豆腐の風味を調節することができることを特徴とする豆腐の製造方法。
【請求項4】
生大豆粉の加水溶解時の溶解液の温度を60℃以下、または80℃以上にしたことを特徴とする、請求項3に記載の豆腐の製造方法。

【公開番号】特開2007−228854(P2007−228854A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53092(P2006−53092)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000141509)株式会社紀文食品 (39)
【出願人】(506069619)サンリッチ・エルエルシー (2)
【出願人】(594171067)オリジン・フジ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】