説明

豆腐用凝固剤とその製造方法

【課題】 市販の高価な乳化凝固剤を使用せず、乳化剤を添加することなく、W/O型乳化状態を安定に保持した乳化型豆腐用凝固剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 前記豆腐用無機塩凝固剤水溶液は、硫酸カルシウム、又は、有機酸のいずれかを含み、前記食用油脂の蒸留水に対する界面張力が室温下で10〜34mN/mであり、これらを攪拌混合(乳化分散)してなる。前記油相T1の送液経路に対して前記水相T2の送液経路を連結して、定量ポンプP1で送られる前記油相T1に対して定量ポンプP2で送られる前記水相T2を所定の割合で加えるワンパス連続式で乳化分散機M1に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乳化剤を使用しない豆腐用凝固剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐の製造には、ニガリ(塩化マグネシウム)や塩化カルシウム等の無機塩や、グルコノデルタラクトン(GDL;凝固成分はグルコン酸)が凝固剤として使用されるが、特にニガリや有機酸は、特許文献4に記載のように、豆乳との反応速度が非常に速いため、きめ細かく、舌触りや歯切れ、食味の良い高品質な豆腐を安定して作ることは難しい。このため、例えば、液体ニガリと油脂に乳化剤を混ぜてW/O型乳化状態とした市販乳化凝固剤が流行している。また、例えば、特許文献2には、塩化マグネシウムとポリグリセリン脂肪酸エステル(乳化剤)とジグリセライド(ジアシルグリセロール;「DAG」とも略記する。)とを含有する豆腐用凝固剤が開示され、特許文献3には、豆腐用無機塩凝固剤とポリグリセリン脂肪酸エステルと油脂とを含有する豆腐用凝固剤組成物が開示されている。
【0003】
現在、市販乳化凝固剤はニガリを含有した豆腐製品の製造において高温凝固する際の十分な遅効性を発揮する優れた製剤として広く普及している。工場規模で大量生産する場合、製品品質が安定して、ロスが少なく、作業効率も非常によいので、好まれている。ただし、豆腐本来の風味とは異なる独特の風味を少し感じる場合もあり、画一的な風味の豆腐製品が増えて、地域色が薄れて、生産者による特徴を出しにくい状況になっている。しかも、市販されている乳化凝固剤は、通常のニガリに比べて5〜6倍も高価である。昨今の景気低迷の折、原料大豆・燃料の高騰や、卸値の更なる値下げ圧力に加えて、高価な凝固剤を使わざるを得ないことになっており、豆腐製造業者の経済的負担がますます増加している。少しでもコストダウンを図るため、できるだけこれら高価な乳化凝固剤を使用しないで、高品質で安定した豆腐製造を実現することが切望されている。また、市販乳化凝固剤では、製品流通上、強力な合成乳化剤や安定剤を含み、豆乳凝固遅延効果は大きいが、反面、分散しにくく、強力な乳化分散条件を必要とし、装置にかかるコストが大きく、ときには、分散不足でロスを生じたり、凝固剤量が多めになり、流通過程での豆腐品質が大きく変化することもあった。また、近年、世界的な日本食ブームの中、豆腐は特に菜食主義・自然食主義者による需要が増加している状況である。特に欧米では有機農産物の需要が増しており、日本では有機加工食品の約60%が豆乳や豆腐製品という状況である。今後も豆腐製品には、自然な原材料以外に、化学合成品の食品添加物を一切使用しない自然食品の代表格としての期待が益々高まるものと予想される。
【0004】
このため、本願出願人は、所定の装置構成で、添加物として乳化剤を使用しない豆腐の製造方法の特許出願を行い、特許を得ている(特許文献1)。しかしながら、実際に実施にあたり、適用範囲が狭く、食用油の種類やニガリ濃度の選択・組み合わせによっては、十分満足のいく、高品質な豆腐を得られない場合もあった。例えば、W/O型乳化凝固剤のコスト低減のため、油の使用量を少なく、水相量も抑えて、より高濃度のニガリ水溶液を用いることが必要である。しかし、高濃度のニガリでは乳化条件によっては、乳化物の粘度が高まり乳化物を安定化できる反面、摩擦熱などの発熱によって安定した最適な乳化状態を作ることが大変難しく、実用的な凝固反応の遅効性が得にくかった。
【0005】
一方、非特許文献2や5のように塩水溶液と加工油脂(主成分:DAG80%以上)を用いて、乳化剤を使用しないW/O型乳化系の乳化特性の研究がなされ開示されている。ただし、豆腐用凝固剤としての遅効性評価はなされておらず、用いた塩化マグネシウム水溶液は0.5M(分子量約203の塩化マグネシウム6水塩結晶をベースに換算すると約10%w/v;比重約1.036;Mは溶液1リットル中のモル濃度)以下の希薄な濃度であり、摩擦熱等の発熱の影響も出にくい条件で、塩水相−油相比は1:1しか評価されてない。2M未満の希薄なニガリでは乳化物の粘度上昇・発熱による不都合(解乳化)はあまり目立たない。仮に豆乳の凝固に希薄塩溶液を用いる場合には、水相が増えて、油脂量も増やす必要から経済的ではなくなる。またDAGを主成分とする市販品の説明からも、DAGは「加工油脂」と謳われている。DAGは、従来のトリアシルグリセロール(「TAG」とも略記する)主体の油脂と同じ「油脂」であって、非特許文献6にも記載されているように市販のオリーブ油など植物油にも元々数%含まれている油脂成分ということが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3654623号公報
【特許文献2】特許第2908633号公報
【特許文献3】特許第2912249号公報
【特許文献4】特許第3553690号公報
【特許文献5】特許第3853778号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「乳化・可溶化の技術」辻 篤 著、工学図書株式会社出版p58−114
【非特許文献2】昭和女子大学大学院生活機構研究科紀要 島田淳子・大橋きょう子,Vol.14,p31-38(2005)「乳化剤無添加のジアシルグリセロールで調製した油中水滴型エマルションの乳化特性に及ぼす塩類の影響」
【非特許文献3】SHIMADA,A.,OHASHI,K., FoodScience Technology Research,No.9,p142-147(2003)Interfacial and Emulsifying Properties of Diacylglycerol
【非特許文献4】M.Kimura,etal.:Biosci.Biotech.Biochem.,Vol.58,p1258-1261,(1994)各種植物油の乳化性Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry(JapanSociety for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry)Z53-G223
【非特許文献5】「日本食品大事典」(第1版、2003年2月25日発行)杉田浩一、田島眞、平宏和、安井明美編集、医歯薬出版株式会社、p527−544
【非特許文献6】Riv.Ital.Grasse,LaRivista italiana dellesostanze grasse,Vol.69p443-447(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、液体油(大豆油など)と塩化マグネシウムを主成分とする1.8M程度(塩化マグネシウム6水塩換算で約33%w/w;比重約1.1)の薄い水溶液とから乳濁循環手段によって乳濁(乳化)物が得られるが、数秒で乳濁(乳化)する前の状態に戻ろうとするために、使用中常に循環処理が必要であり、長時間使用では、乳濁物の粘度上昇、発熱等による乳化破壊が生じやすく、取り扱いが難しいという問題を有していた。またモーノポンプのようにステーターとローターが擦り合う供給ポンプによっては、乳化物を擦る作用のため解乳化を引き起こしやすい。しかも乳濁物中の塩化マグネシウム濃度は、W/O比1:1では17%w/w、2:1では22%w/wであり、豆乳に対して添加する比率は、各々1.7〜1.8%、1.3〜1.4%となる。当然、乳化剤がないので、油相を多くすることが有利であり、実際には更に多量の乳濁物添加量になる。これは送液ポンプやタンク等の大型化が必要になる、食用油が多くコストが上昇する、という問題も有していた。なお、本文中、特にことわらない限り「%」は全て「重量%」である。
【0009】
また、特許文献2や3のポリグリセリン脂肪酸エステルは、多すぎると、反応が遅すぎて風味が悪くなる。また強力な乳化剤ゆえに、乳化状態が安定になり過ぎて、豆乳に混ぜる際、強力で確実な分散を行わないとムラになり、白い粒が豆腐の中に残留したり、フィルムやパックに粒々状に付着したり、木綿豆腐製造時に布離れが悪くなるという、弊害も起きやすいので、たとえば攪拌機を非常に高い回転数で連続稼働させることになり、攪拌機に負荷が掛かりすぎる面もあった。
【0010】
本願の発明者等は、特許文献1のような製造方法を先願として開発しているが、その方法における乳化凝固剤は条件によっては非常に不安定で、機械的に乳濁状態を保持しないと、直ぐ油相と水相の分離が起きて、満足な凝固反応遅効効果が得られず、安定した高い品質の豆腐を製造することが困難であった。
その後、本発明者らは鋭意努力の結果、乳化剤を使用しない乳化凝固剤製品として、実用上、経済的で扱いやすく、安定した豆腐製造を実現する上で満足な凝固反応遅効効果が得られる製剤条件を見出した。すなわち、添加物である「乳化剤」を使用しないで、豆腐用速効性凝固剤の濃厚水溶液と、DAG含有量など所定の組成条件を満たした油脂を適宜選択し、所定の乳化条件を適宜選択することで、比較的簡単に豆腐用乳化凝固剤が安定して得られることを見出した。
【0011】
そこで本発明の目的は、市販の高価な乳化凝固剤を使用せず、乳化剤を添加することなく、豆腐用速効性凝固剤水溶液と、一般的な搾油・製油工程で製造された食用油脂とを用いて、W/O型乳化状態を安定に保持した乳化型豆腐用凝固剤及びその製造方法を提供することにある。さらに、本発明の乳化型豆腐用凝固剤を使用することによって、経済的負担を軽減し、オリジナルな風味を創作しやすくするとともに、豆腐本来の自然食品というイメージを高めることができ、安定して安全で安心できる高品質な豆腐づくりに貢献することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の豆腐用凝固剤は、豆腐用無機塩凝固剤水溶液である水相と、1%以上のジアシルグリセロールを含む食用油脂である油相とを攪拌混合してなる油中水滴型(W/O型)乳化物の豆腐用凝固剤(乳化剤が添加されたものを除く)であって、前記豆腐用無機塩凝固剤水溶液は、硫酸カルシウム、又は、有機酸のいずれかを含み、前記食用油脂の蒸留水に対する界面張力が室温下で10〜34mN/mであり、これらを攪拌混合(乳化分散)してなることを特徴とする。ここで、本発明の豆腐用凝固剤は、豆腐用無機塩凝固剤水溶液である水相と、油相がDAGを油脂中1%以上含む食用油脂との少なくとも一方を冷却しながら攪拌混合してなる油中水滴型(W/O型)乳化物であることが好ましく、いずれも前記水相が2M以上の濃厚な豆腐用無機塩凝固剤水溶液であることが好ましい。また豆腐用無機塩凝固剤水溶液が塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウムの少なくともいずれか1つを含む水溶液であることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、特に水相が2M以上の濃厚な豆腐用無機塩凝固剤水溶液を使用することで、高価な油脂量を減らせるので、経済的である。豆腐用無機塩凝固剤水溶液が2M未満の希薄水溶液よりも濃厚水溶液であるほど(飽和水溶液に近づくほど)、豆乳凝固反応を遅らせる効果が高い。これは乳化時の粘度上昇があり、この乳化凝固剤の粘度が高いと、乳化時の細かい分散粒子(水相)の合一が妨げられて、安定化し易いことや、その分散粒子が細かいほど、豆乳に添加して攪拌された後、豆乳凝固反応を遅らせる遅効効果が高いものと考えられる。ただし、濃厚な豆腐用無機塩凝固剤水溶液ほど、油脂との乳化分散時、攪拌熱などの発熱を伴いやすくなり、冷却手段による冷却を行うことが好ましい。冷却しないと、乳化分散を長く続けると更に発熱し、逆に分散粒子の合一が進んでしまい、乳化状態が不安定で、豆乳凝固遅効効果も低下することもある。冷却は、目標が室温以上であれば空冷でもよく、室温以下であれば水冷・チラー水等の冷媒による間接冷却がよく、いずれにしても、前記攪拌熱を一部ないしは大部分を吸熱することが少なくとも必要である。
【0014】
DAGは、W/O型乳化を得やすく、非特許文献2記載のようにW/O型乳化物が得られやすいことが知られている。しかし、非特許文献2の原報から、用いた油脂はDAG87%程のもので、かなり高濃度で、しかもDAGが多く含まれた油脂は、一般に構成脂肪酸がリノ−ル酸、リノレン酸以外のDAGについては融点が20〜70℃と高く(第三訂版油脂化学便覧p148-149より)、常温では固化する性質があるが、その点は一切記載がない。もし非特許文献4のように固化した油脂にニガリが分散された豆腐用凝固剤をそのまま豆乳に添加して凝固するとすれば、凝固反応の遅効性はあっても、機械的自動操作が大変難しくなる。本発明では、もし固化した油脂であれば予め融点以上に加温して液状とし、また乳化後の冷却で固化しても豆乳添加前に融点以上に加温してから使用する。固化しやすい油脂を多く配合して取り扱う場合、配管やタンクやバルブ等に保温手段をとることも好ましい。例えば、DAGを5〜10%程度含むオリーブ油や米糠油(米油)、綿実油等の市販天然油脂は、その脂肪酸組成から融点の高いDAGを含むと推定されるが、比較的少量のため機械的な取扱には支障がなく、またDAG1〜2%程度の大豆油よりも、水と馴染みやすい性質を有して(すなわち界面張力が低い)、高濃度の塩化マグネシウム溶液を分散相としても、連続相である油脂は液状であって、比較的安定したW/O型乳化物形成に寄与することが判明した。これは他の成分のどれよりも、第一にDAGが影響していることが明らかになった。
【0015】
本発明で用いる食用油脂は、乳化剤を含まずDAG(グリセリン1分子と脂肪酸2分子のエステル結合した形)を1%以上含む食用油脂であり、さらには、一般的な油脂製造工程における食品添加物(加工助剤)の添加による処理以外に、化学的加工(エステル交換反応、水素添加による硬化処理など)を施されていてもよいが、特別な加工を施さない、一般的な搾油・製油工程で得られた食用油脂製品であることが好ましい。すなわち、市販油脂製品のうち、レシチン(リン脂質)などの乳化作用のある成分を含まず、MAGも1%以下と少ない製品であることが好ましい。また油脂の原料や製品グレード等によって含有量は異なるが、DAGを1%以上、10%未満含む油脂製品が経済的で、本発明の実施に更に適している。加工油脂のように10%以上DAGを含む場合、本発明の実施は一層容易になるが、常温で固化・白濁して使いにくかったり、加工油脂の単価が高いというデメリットもあり、費用対効果によって選択される。
【0016】
本発明における食用油脂の種別は特に限定しない。例えば、原料による分類では、米油(米ぬか油・米胚芽油)、コーン油、大豆油、菜種(キャノーラ種など)油、ヒマワリ油、べに花油(サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油)、ごま油(黒、白)、パーム油、パーム核油、オリーブ油(バージンオリーブオイル、ピュアオリーブオイル)、ブドウ種油(グレープシードオイル)、ヘーゼルナッツ油(はしばみ油)、ヤシ油(ココナッツオイル)、綿実油、落花生油、マカデミアンナッツ油、アーモンド油(スイートアーモンドオイル)、アボガド油(ワニナシ種子油)、亜麻仁油、パンプキンシードオイル、クルミ油(ウォールナッツオイル)、エゴマ油(しそ油、荏胡麻油)、カシューナッツ油、小麦胚芽油(ウィート・ジャームオイル)、ボラーシシード油、月見草油(イブニングプリムローズオイル)、ボリジ油、ブラックカラント油、ホホバ油、カメリアオイル(椿油)、ローズヒップオイル、アプリコットカーネルオイル、ニガー種油、茶の実油、麻の実油(ヘンプオイル)、黒からし油、シアバター(シャー脂)、カカオ脂等の植物油脂や、魚油、動物油脂(牛脂・豚脂・鶏脂・鯨油・アザラシ油等)が挙げられ、これら以外の食用油脂も含まれる。また、これらのブレンドも任意であり、他にラー油などの風味油・調味油などをブレンドすることも容易である。これら食用油脂の原料条件(果実や種子、製粉後の胚芽を含む粕等)、搾油(冷圧搾法等)・精製(脱ガム・脱酸・ウィンタリング等)等の製油条件、水素添加・エステル交換等の加工条件等や、適宜なブレンド条件によって、DAG含有量や乳化安定性が異なり、特に市販の天然油脂では1〜20%(多くは1〜10%)含む製品が多く、DAG2%以上、特に5%以上含む製品が好ましい。天然油脂にDAGを多く含む加工油脂を用いて、例えば天然油脂−加工油脂1:0.01〜1:100の割合でブレンドしてもよい。高価な加工油脂であれば費用対効果上の上限はあるが、例えば1:0.02〜1:1にブレンドすれば、あまり適さない天然油脂を用いる場合でもDAG1%以上、好ましくは2%以上、さらには5%以上の油相にすることもできるので好ましい。なお、大豆を原料とする豆腐用としては特に植物性油脂が好ましい。食用に製造された油脂であれば、特に限定しない。ただし、これらの油脂原料の種類で主に分類されるが、原料の品質、搾油条件、精製条件や加工条件によっても、またメーカーや製品グレード等によっても、DAG含有量が異なり、本発明に適する油脂であるか否か、が左右される。
【0017】
一般に、市販油脂はTAGが主であり、少量のDAGを数%含むことが多い(非特許文献2、5)。例えば本発明者らが実施した(財)日本食品油脂検査協会による市販油脂製品の分析結果では、市販米油では9.9%、市販綿実油では7.8%含まれていた(他の油脂は表4参照)。非特許文献6によれば綿実油の産地によって5.4〜9.5%だったという。本発明では「乳化剤」を添加せず、原料由来のDAGを1%以上含む食用油脂(市販油脂製品では概ねDAG1〜20%含有、合成加工油脂でDAG40〜99%含有)と、更に濃厚な豆腐用無機塩凝固剤(例えば2M以上の塩化マグネシウム水溶液)と、から成る豆腐用乳化凝固剤であるが、このような知見は他にない。なお、DAGは一般的な油脂の成分の一種であり、乳化剤として有用なモノグリ(モノアシルグリセロール;「MAG」とも略記する。)と共に、TAGと同じグリセリン脂肪酸エステルの一つである。DAGは、MAGほどの強力な乳化効果はないが、弱い乳化作用を有する“油脂”ということが非特許文献2などで示されている。またDAGを主とする市販乳化剤はない。特にDAG40%以上含む油脂製品はグリセリンと脂肪酸から酵素反応によって生成された“加工油脂”であって、乳化剤とは扱われていない。また非特許文献2では、乳化剤を用いないで、0.5Mという薄い塩化マグネシウム等水溶液と、DAG約87%からなる加工油脂とのW/O型乳化特性を報告している。
【0018】
本発明で指すDAGは油脂中に自然に混在し、グリセリン1分子と、大凡炭素数C8〜C24から成る脂肪酸2分子からなる形である。市販油脂の多くはそのDAGを少なからず含むので、その含有量によってその難易の差はあるが、いずれも本発明実施に利用できる。本発明の豆腐用凝固剤に用いる前記食用油脂としては、植物原料由来であって、リン脂質が0.1%以下、モノアシルグリセロールが1%以下、トリアシルグリセロールが98%以下であって、ジアシルグリセロール1%以上(上限は99%以下)であることが好ましい。また前記食用油脂の酸価が0.1以上または遊離脂肪酸が0.05%以上であることが好ましい。市販油脂や市販加工油脂のうち、比較的強い乳化作用を有するレシチンやMAGの共存は、乳化安定性や豆乳凝固遅効性への悪影響があることもあるので、少ないか全く含まない方がよく、レシチン等のリン脂質は0〜0.1%、MAGは0〜1%である方が好ましい。酸価は日本農林規格基準範囲内で高い方が良く、同様に酸価と平均分子量から計算される遊離脂肪酸量も高い方が良く、少なくとも酸価が0.1以上であるか、遊離脂肪酸量が0.05%以上である油脂が好ましい。遊離脂肪酸も弱い乳化性を有する。これらのリン脂質・MAG・遊離脂肪酸は標準的な製油工程における脱ガム、脱酸工程等でほとんど除かれる。一般に油脂の代表的成分であるTAGについては、本発明上重要ではないが、上記成分以外の主成分として98%以下であり、0%であってもよい。その他に微量に含まれることがある、トコフェロール(ビタミンE)、ポリフェノール類、ステロール類等も本発明上、影響はほとんどなく、含有量は限定されない。なお天ぷら・フライ用油脂製品には泡立ち(酸化)防止のために微量のシリコーンを含む製品もあるが、そのシリコーンは「消泡剤」目的であり、油脂の表面張力には影響するが、界面張力や乳化への影響はほとんどなく、本発明実施上、特に支障がない。ただし有機農産物加工食品などの商品向けには使用できないことがあり、シリコーンを含まない油脂製品を選択することが好ましい。
【0019】
DAG含有量の上限は特に限定はしないが、市販油脂のように数%〜20%程度含む油脂が普通である。加工油脂のようにDAG40〜99%程度含む油脂でも単独使用ないしはブレンド使用が可能で本発明に利用できる。一般にDAGはTAGよりも融点が高い場合が多く、DAGが多いと、冷却条件や常温付近で結晶化して、乳化安定性に影響する。融点の低いDAGが主体であれば油脂に多く含有していても結晶化による悪影響は出にくい。融点の高いDAGであれば、冷却よりも寧ろ融点以上に加温して乳化分散する方が好ましい場合もある。特に融点の高いDAGを多く含む油脂の場合、乳化時には融点以上に温度を保持してW/O型乳化を容易に形成でき(機械的な自動計量などの操作にトラブルが発生しにくい。)、また油種の選択や乳化後の冷却によってそのW/O乳化状態を室温から冷蔵保管で、数日間安定に保持することもできる。この場合、その乳化凝固剤(豆腐用凝固剤)は豆乳へ添加前に融点以上に加温して流動性を高めて、油脂としては液状油脂としておくと、機械でのハンドリング上好ましい。
【0020】
本発明としては、前記水相−油相比(重量比)が1:0.2〜1:3の割合であり、更に好ましくは1:0.4〜1:1〜1:1.5であることが好ましい。コスト的にも安価な範囲で、油相がそれ以下では不安定になることと、それ以上では単価が高くなりすぎ、豆乳への製剤添加量が増すなど不利な面がある。乳化に使用する際の油は、固体脂ではなく、融点以上で流動性のある液状であることが必要である。乳化後、一旦保管(冷蔵)する場合などは融点以下になっても構わない。前記のように使用前に融点以上に加温すればよい。油相が白濁したり固化しても製剤自体に流動性ないしは可塑性があればよい。パーム油やヤシ油など融点の高い油脂でも利用できる。融点の高い油脂量を増やすと配管を閉塞するほどに固化してしまうので、ある程度以下(例えば50%以下;好ましくは30%以下)の配合である必要もある。
【0021】
本発明の豆腐用凝固剤の製造方法としては、豆腐用無機塩凝固剤水溶液である水相と、1%以上のジアシルグリセロールを含む食用油脂である油相とを攪拌混合してなる油中水滴型(W/O型)乳化物の豆腐用凝固剤(乳化剤が添加されたものを除く)の製造方法であって、前記豆腐用無機塩凝固剤水溶液は、硫酸カルシウム、又は、有機酸のいずれかを含み、前記食用油脂の蒸留水に対する界面張力が室温下で10〜34mN/mであり、これらを攪拌混合(乳化分散)してなることを特徴とする。本発明によれば、本文に例示していない油脂や様々な加工油脂であっても、また今後新たに食用化される新規な油脂であっても、またDAG含量、酸価、脂肪酸組成、加工度等の如何に関わらず、その蒸留水に対する界面張力が、室温下で10〜34mN/mであることが好ましい。DAG等の食用油脂の含量を少なくしても、室温下で10〜34mN/mである食用油脂であることにより乳化安定性のある豆腐用凝固剤となる。
【0022】
本発明の豆腐用凝固剤を用いる豆腐の製造においては、前記攪拌混合から0.1秒から3600秒以内に豆乳と混合すること、更に好ましくは、前記攪拌混合から0.5秒から60秒以内に豆乳と混合することが好ましい。
本発明によれば、乳化安定性の低い前記豆腐用凝固剤であっても、調製直後から1時間以内に、好ましくは調製後0.5秒から1分間以内に豆乳に混合分散することによって、滑らかなプリン状の豆腐を製造することができる。ただし、特定の油脂(例えば米油やオリーブ油、パーム油など)を用いた、乳化安定性の高い前記凝固剤であれば、乳化調製後1日〜数ヶ月日間冷蔵ないしは室温保管した後において、豆乳に混合分散して、同様の高品質の豆腐を得ることも可能である。なお、通常の豆腐製造方法と同様に、8〜20%brixの豆乳1リットルに対して豆腐用無機塩凝固剤結晶が0.1〜6gになるよう、前記豆腐用凝固剤を0〜99℃の豆乳に混合分散することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の豆腐用凝固剤は、豆腐用無機塩凝固剤水溶液と、油相が1%から20%のDAGを含む食用油脂とを攪拌混合されて成るか、又は、冷却され攪拌混合されて成る油中水滴型(W/O型)乳化物であって、添加乳化剤を使用せずとも、一時的に安定なW/O型乳化状態になり、豆乳凝固反応を遅効化する製剤である。好ましくは前記水相が2M以上の濃厚な豆腐用無機塩凝固剤水溶液であればよい。また、従来画一的な風味しかなかったものが、ニガリや油脂を客先独自に選択できるので、商品の差別化ができ、風味の創作性・多様性が高められる。ほか、無消泡剤・無乳化剤の“自然食品イメージ”のある豆腐類の商品や有機農産物加工食品(JAS規格)として商品などの生産にも対応しやすくなる。
【0024】
そして、上記豆腐用凝固剤により絹ごし豆腐を製造すると、例えば、0〜99℃位8〜16%brix位の豆乳に対して塩化マグネシウムであれば、塩化マグネシウム(6水塩結晶)として0.1〜0.5%添加して凝固させる場合、肌は滑らかで、保水性が高く、本来の豆腐らしい風味があり、しっかりした硬さ・弾力と保水性のある絹ごし状の豆腐に仕上がる。すなわち、油脂種類の選択や冷却手段や乳化手段など幾つかの条件を満足すれば、ニガリと油脂は比較的容易に、W/O乳化状態になり、凝固反応遅効性を有する乳化凝固剤(豆腐用凝固剤)が安価に得られる。例えば、ニガリを含有した絹ごし豆腐を安価に作ることができる。なお、本発明は、当然ながら絹ごし状凝固物を壊して圧搾成型して作る木綿豆腐や生揚げ・厚揚げなどにも適用でき、様々な豆腐加工製品に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の豆腐用凝固剤の製造に使用されるワンパス連続式の凝固装置を示す図である。
【図2】本発明の豆腐用凝固剤のワンパス連続式の凝固装置の他の例を示す図である。
【図3】本発明の豆腐用凝固剤のバッチ循環式の凝固装置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
(実施の形態)
図1の凝固装置Z1は、凝固剤調合部の循環経路がないワンパス連続式の形態であり、図2は冷却手段を設けたワンパス連続式の凝固装置Z2であり、図3の装置は循環経路H3を有するバッチ循環式の凝固装置Z3である。装置としては、通常のバッチ式乳化装置でもよいが、特に本発明では油脂用タンクT1と、ニガリ用タンクT2と、これらを別々の供給手段P1、P2によって乳化分散手段である乳化分散機M1に供給して連続的に乳化分散を行う構成である。図1の装置Z1では、食用油脂と凝固剤(ニガリ)とを混ぜ合わせて(凝固剤調合部)、乳化分散機M1に送り、そして豆乳タンクT3から高温の豆乳とを混ぜ合わせて(豆乳凝固部)、凝固分散機M2に送り込む。図2の装置Z2は、各タンクT1、T2からの配管H1,H2に冷却装置(熱交換器)R1,R2が各々設けられている。なお、冷却装置R1,R2は食用油脂と凝固剤(ニガリ)の少なくともいずれか1つを冷却するものでも良い。図2の装置Z2は、更に豆乳の循環経路が設けられている。図3の装置Z3は、食用油脂と凝固剤(ニガリ)とを混ぜ合わせて、供給手段P4によって乳化分散機M1に供給して、その後切り替えバルブKBにより、豆乳との混ぜ合わせる工程(豆乳凝固部)と、配管H3により循環させて貯蔵タンクT4に送る工程に切り替えられるようになっている(凝固剤調合部)。貯蔵タンクT4では攪拌混合機Mで攪拌混合される。なお、冷却装置R1,R2は上記配管H3や貯蔵タンクT4に設けられているものでも良い。また、図3のH4で示す配管位置等に冷却装置(熱交換器)が設けられているものでも良い。
乳化分散機M1は、強力な乳化分散の性能があれば特に限定しないが、ステーター&ローター型の高回転撹拌式や高圧ホモジナイザーが好ましく、静止型ミキサーでも良い。一方、豆乳に分散させる凝固分散機(攪拌混合機)M2は比較的弱めの乳化分散性能のもの(例えば一般的な静止型ミキサー、ノリタケ製スタティックミキサー、高井製作所製TSミキサーなど)でもよい。
【0028】
本発明は、原材料が豆腐用無機塩凝固剤水溶液と食用油脂のみである。従来乳化に必須であった食品添加物の乳化剤や安定剤は使用しない。
豆腐用無機塩凝固剤水溶液とは、食品添加物や食品原材料である塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウム(いわゆる「ニガリ」)の少なくともいずれか1つを含む水溶液で、代表的なものは塩化マグネシウムやニガリである。溶解度未満の硫酸カルシウムや、微粒の硫酸カルシウムや、他に有機酸(クエン酸やグルコン酸等)を含んでいても良い。
【0029】
本発明に用いる乳化凝固剤の調合装置や、その乳化凝固剤を用いて豆乳を凝固する凝固装置としては、回転撹拌型ミキサーや静止型ミキサーを備える等、一般に知られる乳化分散装置であればよく、バッチ式や連続式であっても特に限定しない。特に乳化凝固剤を調合する乳化分散機M1は、強力な乳化分散の性能があれば好ましく、例えばステーター&ローター型の高回転撹拌式や高圧ホモジナイザーが好ましく、静止型ミキサーでも良い。一方、豆乳に分散させる凝固分散機(攪拌混合機)M2は比較的弱めの乳化分散性能のもの(例えば一般的な静止型ミキサー、ノリタケ製スタティックミキサー、高井製作所製TSミキサーなど)でもよい。
【0030】
ただし、乳化剤を用いない乳化を実施する場合、単に油脂とニガリをバッチ式にタンクに仕込んで分散攪拌するだけでは不十分である。例えば、乳化分散機を備えたタンクに先に−10〜20℃に冷却した所定の液状油脂を入れて、乳化分散機を稼働させながら、−10〜20℃に冷却した所定のニガリを徐々に注入して、乳化凝固剤を調合するとよい。バッチ式ではタンク容量が小さめの方が好ましく大量生産には不向きである。またそのタンクに減圧できる密閉タンクないしは冷却手段を備えた2重ジャケットタンクにすることが好ましく、更にそのタンク内にも蛇管のような冷却手段を合わせて有する形態が好ましい。
【0031】
図3の装置Z3は凝固剤調合部に乳化凝固剤の循環経路H3を有するバッチ循環式乳化凝固剤調合装置で、従来の形態(特許文献1)であるが、本発明を適用することも可能である。図3の装置Z3は、食用油脂と凝固剤(ニガリ)とを混ぜ合わせて、供給手段P4によって乳化分散機M1に供給して、その後切り替えバルブKBにより、豆乳との混ぜ合わせる工程(豆乳凝固部)と、配管H3により循環させて貯蔵タンクT4に送る工程に切り替えられるようになっている(凝固剤調合部)。貯蔵タンクT4では攪拌混合機Mで攪拌混合される。なお、装置Z3では乳化凝固剤を乳化分散機M1に何度も通過させるので発熱や物理的に乳化状態が不安定になりやすいので、原料を冷却したり、貯蔵タンクT4にはジャケットタンク、配管H3上には熱交換器(2重管式、多管式、プレート式等)などを適宜兼ね備えて冷却効果を十分に発揮することが望ましい。なお図3のH4で示す配管位置等に冷却装置(熱交換器)が設けられているものでも良い。
【0032】
このように本発明に係る装置としては、通常のバッチ式乳化装置でもよいが、工業的に大量生産する場合はワンパス連続式乳化分散装置ないしはバッチ連続式乳化分散装置を用いることが好ましい。例えば、図1の凝固装置Z1に示すように、ワンパス連続式凝固剤調合部や連続式豆乳凝固部が連結された形態や、図示はしていないが、連結せずに、連続式凝固剤調合部から得た乳化凝固剤を一旦タンクに受けて貯留(冷蔵が好ましい)して、必要に応じて豆乳凝固装置(バッチ式、連続式のどちらでもよい)の受けタンクに分配供給するような形態でもよい。なお一旦調合した乳化凝固剤をその使用前に再乳化を行ってもよい。
【0033】
図1には循環経路はないが、図2の凝固装置Z2に示すように、凝固剤調合部に冷却手段R1,R2と各原料の循環経路H4および豆乳凝固部に循環経路H5を設けた方がよい。室温の影響を受けにくく、安定した生産を可能にする実用的なワンパス連続式の凝固剤調合部の形態である。得られた乳化凝固剤を前記同様に、必要に応じてバッチ式ないしは連続式豆乳凝固装置の受けタンクに分配供給するように構成してもよく、その分配供給前に再乳化を行ってもよい。
特に本発明では油脂用タンクT1と、ニガリ用タンクT2と、これらを別々の供給手段P1,P2によって乳化分散手段である乳化分散機M1に供給して連続的にワンパス式で乳化分散を行う構成であることが好ましい。図1の装置Z1では、食用油脂と凝固剤(ニガリ)とを混ぜ合わせて(凝固剤調合部)、乳化分散機M1に送り、そして豆乳タンクT3から高温の豆乳とを混ぜ合わせて(豆乳凝固部)、凝固分散機M2に送り込む。図2の装置Z2は、各タンクT1,T2からの配管H1,H2に冷却装置(熱交換器)R1,R2が各々設けられている。なお、冷却装置R1,R2は食用油脂と凝固剤(ニガリ)の少なくともいずれか1つを冷却するものでも良い。図2の装置Z2は、更に豆乳の循環経路H5が設けられている。
【0034】
本発明の豆腐用凝固剤は、原材料が豆腐用無機塩凝固剤水溶液と食用油脂のみである。従来乳化に必須であった食品添加物の乳化剤や安定剤は使用していない。
ここで、豆腐用無機塩凝固剤水溶液とは、食品添加物や食品原材料である塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウム(いわゆる「ニガリ」)の少なくともいずれか1つを含む水溶液で、代表的なものは塩化マグネシウムやニガリである。溶解度未満の硫酸カルシウムや、微粒の硫酸カルシウムや、他に有機酸(クエン酸やグルコン酸等)を含んでいても良い。
【0035】
食用油脂は、DAGを1%以上含む油脂であって、一般に食用に製造した油脂であればよい。少なくとも乳化時には固形脂(脂肪)ではなく食用液状油脂であることが好ましい。普通は半透明の液体油脂であるが、冷却などにより、多少白濁していても流動性のある状態の油脂であればよい。さもないと流量計や配管中に沈着して問題となる。すなわち、少なくとも乳化分散以前ではその油脂の融点(凝固点)ないしは混合油脂の場合、最も高い融点(凝固点)を超える温度に保持しておく。その食用油脂に含まれるDAGは合成品・添加物ではなく油脂製品に元々内在する、天然成分である。市販製品では、例えばオリーブ油、コーン油、米油、綿実油、パーム油、胡麻油、大豆油、ナタネ油等で、1〜10%程度のDAGが含まれている(表4参照)。その含有量は、油脂原料やその状態、搾油方法、精製方法などによって異なる。例えば、同じオリーブ油でもバージンオイルとピュアオイルではDAG含有量は異なる。例えば、オリーブ油では、ピュアオイルとバージンオイルとを混ぜて使用しても良く、DAG含有量の異なる油脂(加工油脂も含む)をブレンドして、乳化安定性や豆乳凝固遅効性を調整することもできる。また、業務用天ぷら油のようにシリコーン(消泡剤)が添加された製品は乳化安定性や豆乳凝固遅効性に影響は少ないが、レシチンやMAGを添加した製品などは、凝固遅効性が弱まるなどの弊害がある場合もあるので避けるのがよい。またウィンタリング(低温処理)によって沈殿や濁りを取り除いたサラダ油でもよいが、DAG含有量が1%未満と極端に少なくなった油脂は本発明には適しない。
【0036】
後述する表4は、乳化のしやすさ(乳化分散後、容易にW/Oエマルションになるかどうか)、乳化安定性(一旦安定そうなW/Oエマルションが得られても、45℃という加温条件(加速試験)で分離してしまう場合と安定な場合がある)を表したものである。
安定度の評価法としては、乳化物をプレパラートに微量採取しカバーグラスを押し当てて直ちにデジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX-500F)を用いて観察と撮影を行い、45℃恒温槽に入れて1時間後、再び同様に観察と撮影を行い、乳化物の状態変化を比較して判断することとした。撮影した2枚以上の写真から全ての粒子径を測定して粒度分布を求めた。乳化分散の“所定温度”は油脂の融点(凝固点)に応じて異なるが、大凡45℃であれば殆どの食用油脂は液状である。比較対象とする油脂の融点以上で液状であればよく、例えば、35℃2時間以上、25℃4時間以上、15℃8時間以上、5℃16時間以上という条件を設定してもよい。なお、本発明における乳化凝固剤の水相の粒径は0.1〜20μmの範囲であり、大凡1〜10μmにあると好ましく、1〜5μmにあれば最も好ましい。
【0037】
なお、乳化後は放冷、熱交換器による冷却、冷蔵庫保管などによって融点以下になっても構わない。乳化後であれば融点付近や融点以下の温度になっても、油相が一部固化や結晶化したとしても本乳化凝固剤に流動性ないしは可塑性があれば、パーム油やヤシ油、場合によっては各種油脂の硬化油など融点の高い加工油脂でも利用できる。機械を使用して豆乳添加する前に、乳化凝固剤を油脂の融点以上に加温して、少なくとも流動性を高めておくようにする。なお、融点の高い油脂を増やすと、場合によっては配管を閉塞するほどに固化してしまうので、融点以上を保持する温度管理が必要である。
【0038】
(実施例1)
ニガリ(塩化マグネシウム)は、赤穂化成株式会社製「ソフトウェハー」を使用し、植物性油脂としてオリーブ油(市販品;株式会社Jオイルミルズ製ピュアオリーブ油)を使用し、塩化マグネシウム水溶液の温度は、19.1℃であり、オリーブ油の温度は、10.3℃、又は、4.1℃とした。なお、以下の実施例に示す油脂はすべてノンシリコーンの製品を使用した。
予め塩化マグネシウムと水道水を2:1の割合で調製し、66.7%w/w(比重約1.3、4.3M)の濃厚な塩化マグネシウム水溶液とし、この塩化マグネシウム水溶液500gとオリーブ油500gを同量ずつ粗く混合しながら凝固分散機(太平洋機工株式会社製「マイルダー」研究室用)に供給して、出口バルブを絞りながら、ローターの回転数10000rpmで連続的に乳化分散を行い、乳化凝固剤(豆腐用凝固剤)を得た。豆腐凝固装置は凝固分散機(プライミクス株式会社製「TKホモミクサーMarkII40型」)を備えたバッチ式凝固機(株式会社 高井製作所製「ミニカーディ」)を用い、第1の実施の形態の図1の装置1を使用し、冷却手段3はマイルダーのジャケット部(図1の符号2の位置)に配置して、冷却する場合は10℃の冷水を通した。
【0039】
豆乳への凝固剤反応は、定法により得られた絹ごし豆腐用の豆乳(13%brix、80℃)12リットルを平型箱に入れて、乳化凝固剤(豆腐用凝固剤)の添加量は豆乳1リットルに対して塩化マグネシウム(6水塩)換算量として2.8gとし、乳化調製後60分以内の乳化凝固剤を注射器で計量して豆乳に注入し、豆腐凝固装置の凝固分散機M2の回転数2000rpmで約20秒間攪拌し凝固を行なった。熟成時間を30分間として豆腐(絹ごし豆腐)の観察と試食による評価を行ない、表1に示す結果を得た。その結果、実施例1−3、実施例1−1において、何れも肌が滑らかでプリン状の綺麗な絹ごし豆腐が製造された。実施例1−2のように、乳化時間が0.5分間では、攪拌熱(摩擦熱)によって、乳化物の温度が30℃近くに上昇して、乳化物は極端に不安定になり、少し豆腐の切断面が荒れて、離水が多くなった。実施例1−1のように冷却手段を用いて乳化後の温度を抑制した場合や、実施例1−3のように特に油脂温度も予め冷却(冷蔵)して低くした場合、できあがる乳化凝固剤の温度上昇は抑えられて、それらを用いて作った絹豆腐の品質は良かった。なお比較実験として、80℃の豆乳に水ニガリ単独で加えた実験を行ったが、その場合の凝固物は肌が荒れた、脆いものであり、比較するに値しなかったので、割愛した。
【0040】
【表1】

【0041】
(実施例2)
ニガリ(塩化マグネシウム)は、ナイカイ塩業製「ホワイトニガリ」を使用し、植物性油脂としてオリーブ油(市販品;株式会社Jオイルミルズ製ピュアオリーブ油)を使用し、塩化マグネシウム水溶液の温度は、予め冷凍庫に置いて−7℃とし、オリーブ油の温度は、予め冷蔵庫に置いて4.2℃とした。
予め塩化マグネシウムと水道水を2:1の割合で調製し、66.7%w/w(比重約1.3、4.3M)の濃厚な塩化マグネシウム水溶液とし、この塩化マグネシウム水溶液500gとオリーブ油500gを凝固分散機(太平洋機工株式会社製「マイルダー」研究室用)を用いてローターの回転数10000rpmとして乳化分散を行った。
本実施例で用いた装置は循環しない一方通行(ワンパス式)の簡易的な装置であり(図1)、系中の温度を制御することをせずに、乳化状態が良好であると判断された時点で攪拌混合機を停止させた。冷却手段Rは配置されていない。
次に、定法により得られた絹ごし豆腐用の豆乳(13%brix、80℃)で静止型ミキサー(株式会社ノリタケカンパニー製スタティックミキサーと株式会社高井製作所製TSミキサーを連結)を用いて、乳化調製後5分〜60分以内の範囲で乳化凝固剤を流れる豆乳中に連続的に添加し、凝固を行なった。凝固剤添加量は豆乳1リットルに対して塩化マグネシウム換算量として2.5gとし、豆乳流量200、300、420リットル/時で、3リットル型箱(凝固用容器5)に受けてから凝固するまでの凝固遅延時間を目視で判断して計測した。30分間の熟成後、得られた豆腐は、型箱から取り出し、直径20mm、高さ20mmの円柱状に切り出し、23mmのプランジャーを使いレオメータ(不動工業製NRM-2002J、プランジャー直径20mm、試料台上昇速度60mm/分)で硬さ(破断力)、歪み、歯切れ、食味を測定した。また、見た目で滑らかな絹ごし豆腐であるか等の評価を行った。その結果、表2の実施例2−2のように、豆乳流量300リットル/時の条件が、最も豆腐の硬さが高く、200リットル/時では少し柔らかい豆腐となり(実施例2−1)、420リットル/時では少し肌の荒れた豆腐となった(実施例2−3)。
【0042】
【表2】

【0043】
(実施例3)
上述の実施例2と同様に、植物性油脂としてコーン油(ボーソー油脂株式会社製)とパーム油(富士製油株式会社製)の1:1配合油と、大豆油(株式会社Jオイルミルズ製)、米油(株式会社Jオイルミルズ製)、コーン油(ボーソー油脂株式会社製)および菜種油(株式会社Jオイルミルズ製)を使用し、にがりと各油脂の温度は13℃で、実施例2同様に、乳化凝固剤を調製した。凝固剤の乳化装置および豆乳凝固装置は、第2の実施の形態の装置を使用した。凝固機の乳化分散装置(実施例1と同じ。「ミニカーディ」)の回転数は2000rpmとした。
次に、定法により得られた絹ごし豆腐用の豆乳(13%brix80℃)に乳化凝固剤を添加し、豆乳凝固部の凝固分散機M2で連続的に分散攪拌して、出口で3リットルの凝固用容器で受けて凝固・熟成を行なった。凝固剤添加量は豆乳1リットルに対して塩化マグネシウム換算量として2.8gとし、熟成時間を30分間とした。このようにして製造した豆腐は、型箱(凝固用容器)から取り出し、直径20mm、高さ20mmの円柱状に切り出し、23mmのプランジャーを使いレオメータ(不動工業製)で硬さ(破断力)、歪み、歯切れを測定した。試作評価した結果を表3に示した。また、見た目で綺麗な絹ごし豆腐が製造されたか否かについて内相を観察し、試食して評価した。
実施例3−2のように大豆油でも可能であり、凝固遅効性は弱く、豆腐は若干脆さを感じたが、滑らかな肌で硬さは優れていた。実施例3−3、実施例3−4および実施例3−5のように菜種油、コーン油および米油を使用した場合においても乳化凝固剤の調整は可能であり、遅効性を発揮し、滑らかな肌で硬さも十分であった。
実施例3−1では、コーン油とパーム油とを混合したもので(コーン油+パーム油)、この場合、十分に凝固遅効性があり、少し軟らかめではあったが、豆腐の評価は高かったが少し硬さが不足した。コーン油もパーム油はDAGが比較的多く、安価な油脂である。パーム油は凝固遅効性も高い。また、パーム油は、融点が高く、単独では常温付近で固化するので扱いにくいが、パーム油対コーン油等と1:1〜1:10等に混合すれば、液状なしは白濁した液状になるので装置上も比較的取り扱いやすくなる上、凝固反応の遅効効果も高まり、肌がよりきめ細かく、より弾力のある滑らかな豆腐になる。
【0044】
【表3】

【0045】
大豆油を使用した実施例3−2では、豆乳凝固遅効性はあるものの、乳化凝固剤は長くても1分程度しか乳化状態を維持出来なかった。これは、コーン油やパーム油よりも、含まれるDAGが少ないことに起因していると考えられた。
【0046】
(実施例4)
様々な食用油の中で代表的な油脂について、DAG等の成分分析結果と、実施例1にならって一定条件で乳化物を調製したときの安定性などについて、表4に示した。乳化分散安定性、すなわち容易にW/Oエマルションになるかどうか、また45℃という加温条件(加速試験)で分離しないか、という点で評価した。乳化分散試験は図3に示すようなバッチ式で、凝固分散機(ヤマト科学株式会社製ウルトラディスパーサーLK−22、ジェネレータ付シャフト:S−25N−10G)を用いて、油脂50gを20,000rpmで攪拌しながら、4M塩化マグネシウム50gを添加して、3分間乳化を行った。
表4から明らかなように、乳化しやすさ、安定性、MAG含有量ではなくDAG含有量とよく相関していることが明かであった。DAG含有量は、文献値との違いもあり、油脂の種類やその原料、油脂の製造条件などによって大きく違うことが伺える。表4からは、いずれもDAG含有量は1〜10%の範囲である。表4には示さなかったが、各油脂中のリン脂質は全て検出限界以下(0.1%未満)であった。45℃という加温条件では、パーム油、コーン油、ピュアオリーブ油について120分間の乳化状態が確認できた。バージンオリーブ油や大豆油、ヤシ油では少し不安定な状態であった。マカデミアンナッツ油、ベニバナ油はじめ、表4からは割愛したが、エゴマ油では数分も乳化状態が得られなかった。マカデミアンナッツ油、ベニバナ油でも冷却手段やワンパス乳化方式を用いれば、それよりも安定な乳化物が得られる。なお、データは示したが、DAG以外の遊離脂肪酸(酸価)、構成脂肪酸の飽和脂肪酸量や二重結合数、粘度(冷却時の粘度)等との明確な相関関係は認められなかった。製油工程上は、MAG、リン脂質、遊離脂肪酸の大部分は除かれる。しかし、DAGはTAGから分離されにくいため、油脂製品中に混在している。なお市販油脂製品の酸価については、日本農林規格基準によりほとんどの油脂製品は酸価0.2以下である。ゴマ油で4以下、オリーブ油で2以下等の上限であり自ずと制約がある。本発明における食用油脂は、例えば、日本では日本農林規格で定められる「食用植物油脂」ないしは「食用精製加工油脂」に適合する油脂製品を対象とする。
油脂は、油脂原料やその搾油・精製条件、加工条件などによって左右される。本発明に用いる油脂の種類は本発明上の条件を満足する油脂であればよく、表4に列記した油脂に限定されない。
【0047】
【表4】

【0048】
(実施例5)
次に、無機塩凝固剤の濃度と、豆腐の品質と、製造単価との関係について実験・検討した結果が表5である。装置としては、図1、図2に示したように、油脂用タンクT1と油脂用定量ポンプP1(と油脂用流量計と油脂用指示調節計)からなる油脂供給装置と、ニガリ用タンクT2とニガリ用定量ポンプP2(とニガリ用流量計とニガリ用指示調節計)からなるニガリ供給装置を備えて、両供給装置の出口を、乳化分散装置M1の供給口に連結して、該乳化分散装置の出口から乳化凝固剤を得るワンパスプロセスを用いた。特に図2のようにチラー水等を冷媒に用いた冷却手段(熱交換器)R1,R2を設けることも効果的である。特にワンパス連続式の場合、攪拌熱の発生を最小限に止めることができ、安定な乳化状態を保持できるので、好ましい形態である。
油脂としてオリーブ油を使用して、比較例としてベニバナ油を使用した。各々のDAG量は油脂中5.4、2.4%(%w/w)であった。1、2、4M塩化マグネシウム(常温でほぼ飽和)、4M塩化カルシウム(常温でほぼ飽和)を使用した。下記の冷却手段や油脂冷却時の粘度上昇に絡むが、豆腐用無機塩凝固剤水溶液と食用油脂が重量比で1:0.2〜1:3(好ましくは1:0.4〜1:1〜1:1.5)である乳化物を乳化時ないしは乳化後に50℃以下に冷却して(正確には、使用油脂の融点・凝固点近傍まで)、より安定に保持する。例えば、コーン油の場合、融点−10〜−15℃で、乳化直後に30℃にあるとき、10〜25℃まで冷却する。また固体脂と言われるパーム油の場合、融点27〜50℃とされるが、実際に固化した市販パーム油を加温していくと60℃でようやく溶解し、その後、室温に放置し冷却すると30℃程度までは白濁しないので、乳化直後に60℃にあるとき、30〜50℃付近まで冷却する。なお、傾向として油相が少ない方が乳化物の粘度が出やすく、乳化状態をより安定にできる。市販の乳化凝固剤の粘度は室温で1〜2Pa・s程度であり、容器からの取り出しやハンドリングを考慮しているが、本発明においては、前記のように凝固機と連結するなどの形態によっては、乳化凝固剤の粘度は高くてもよい場合もあり、2〜10Pa・sであってもよく、ポンプや流量計の選定によっては10〜100Pa・sであっても可能である。
【0049】
【表5】

【0050】
実用上は、前記水相−油相比が1:0.5〜1:1〜1:1.5がコスト的にも安価で経済的な範囲で、油相がそれ以下では乳化状態が不安定で豆乳凝固遅効効果が低下し不利になり、それ以上では油脂の量が増して原価が高くなる、豆乳への製剤添加量が増すなど不利な面がある。
【0051】
また、濃厚な無機塩凝固剤液のモル濃度として、塩化マグネシウムの場合、少なくとも2M以上がよく、好ましくは3〜5Mで、上限は6.1M以下である。塩化マグネシウムの飽和濃度は、例えば10℃4.8M、40℃で5M、80℃で5.6M、100℃で最大6.1Mであり、温度による上限濃度がある。同じく上限濃度として、硫酸マグネシウムは最大3.8M、塩化カルシウムは最大8.8Mが上限となる。濃厚な無機塩凝固剤で、一部溶けきらない結晶を含む場合や微粒子の硫酸カルシウム(すまし粉)の場合のようにスラリーであってもよいが、結晶が多いと沈降によって凝固剤のムラが生じたり、豆乳凝固反応の遅効性の制御が難しくなるだけでなく、ポンプやバルブや流量計などを損傷してしまう恐れがあるので、あまり好ましくない。
実際には、水相(分散相)が多いと油相(連続相)も増やすことになり、原価を上げてしまう。そこで水相を減らし、単価の高い油相を抑えるのが経済的に有利である。しかもその水相中の製剤中の塩濃度(例えば塩化マグネシウム濃度)を高めれば、製剤の使用量が減らせるので、原価を更に抑えることが可能になる。なお、非特許文献2では、各種塩溶液で0.5M以下、すなわち0.5Mの希薄溶液について開示されている。その非特許文献2の図1から、乳化安定性を高濃度領域まで演繹して見た場合、特に塩化マグネシウムや塩化カルシウムは高濃度では不安定になることが予想されるが、反面、乳化物の粘度上昇による乳化物の安定性向上に繋がる。2M未満、特に1M未満の希薄な無機塩溶液では乳化物の粘度上昇が少なく影響は少ないが、濃厚液では特異な範囲になり、粘度上昇および攪拌熱による発熱、機械的な乳化物の解離作用が大きな障害になる。そのため、本発明のようにワンパスプロセスや冷却手段を併用することが好ましい。なお市販の粗製海水塩化マグネシウムの製品は大方が2M以上(1L中の塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムの各モル数の合計)である。
【0052】
前記食用油脂の、蒸留水に対する界面張力が、室温で34mN/m以下である。塩化マグネシウム水溶液等とオリーブ油や米糠油でW/O型乳化状態になるが、界面張力(表面張力)の低いDAG含有量によって、油脂全体の界面張力(表面張力)が低下して、外側の分散相として安定になるよう作用(界面活性作用)がある。この点は非特許文献3に、TAGとDAGの界面張力値が記載されており、それから類推もできるが、市販油脂に元々含まれるDAG含有量と界面張力と、さらには濃厚な無機塩水溶液(特にニガリ)とのW/O型乳化の関係はこれまで知られていない。
【0053】
(実施例6)
次に、各種代表的油脂について、協和界面科学社製自動表面張力計接触角計DropMasterシリーズDM301を用いて、「懸滴法」による液体の表面・界面張力の測定(室温)を行った。
【0054】
【表6】

【0055】
蒸留水に対する界面張力では室温下で34mN/mを超えると乳化しにくく、安定性も低く、34mN/m以下、好ましくは30mN/m以下であると、W/O型乳化物ができやすく安定性も高いことが分かる。界面張力が34mN/mを超えるエゴマ油では乳化しないが、界面張力が30〜34mN/mである大豆油では乳化しないことはなく、乳化安定性は低いものの、短時間は乳化物になる。なお、マカデミアナッツ油のように界面張力は29.6mN/mと大豆油より低いが、DAG含有量が大豆油3.2%より2.2%と少なく、乳化しにくい油脂といえる(実施例6−1)。一方、乳化剤など界面活性剤があると界面張力は低下して、例えば10mN/m未満に低下する。従って特に界面張力が室温下で10〜34mN/mである油脂が本発明実施上、好ましい油脂である。即ち、DAGが5%程度のコーン油やDAGのように、DAGが少なくとも1%以上、好ましくはDAG3%以上含んで、かつ界面張力が10〜34mN/m、好ましくは10〜30mN/mであれば比較的乳化安定性の高い乳化物が得られる油脂といえる(実施例6−3)。当然ながら温度が高まると界面張力も更に下がり、乳化には有利になるが、反面、油脂や乳化物の粘度低下により、乳化粒子の合一が起きやすく不安定になりやすい面がある。なお、上記界面張力10〜34mN/mである油脂であっても、ジアシルグリセロールが少ない場合、乳化しやすさ、乳化安定性が共に低い乳化物になるといえる。
【0056】
本実施形態の豆腐用凝固剤の水相の粒径は、粒径平均0.01〜20μmである。本発明は、W/O型乳化状態を保持し、豆乳の凝固反応を十分に遅効させることができる。水相の粒径が、平均で0.01〜20μm、好ましくは平均で0.1〜10μmにあるよう調製した乳化分散型豆腐用凝固剤である。これ以上粗いと不安定な乳化状態になり、豆乳凝固反応の遅効性が低くなる。逆に細かすぎても、乳化状態は安定で豆乳凝固反応の遅効性は高まるものの、粘性が高まり、自動計量しにくくなり、豆乳に分散しにくく凝固ムラを引き起こす場合がある。
上記粒径分布測定には、乳化物をスライドグラスに少量採取してカバーグラスで押し広げた状態で、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製、コントローラVHX-500F、高解像度レンズVH-Z500Wなど)を用いて、透過撮影した写真から、約100μm四方内にある水相粒子の直径を、2点間距離測定機能で計測し、平均径(またはメジアン径)、標準偏差を計算した。
凝固分散機条件、油脂種類、温度などによって水相の粒径を変化させることが可能である。粒径が細かいと凝固反応の遅効作用が高まり、粒径が粗いと逆に遅効作用は低下することから、乳化分散条件によって、凝固反応のコントロールを行うことが可能になる。
なお、以上の実施の形態において、豆乳温度は、0〜99℃がよく、さらには60〜95℃が好ましく、実際に常用するのは75〜85℃で、最も好ましい。
【0057】
以上、上記実施の形態では、絹ごし豆腐の製造を例に説明したが、この製造方法により製造される豆腐には、ソフト木綿豆腐、普通木綿豆腐、生揚げ生地、厚揚げ生地、油揚げ生地等が含まれる。
【符号の説明】
【0058】
Z1,Z2,Z3 凝固装置、
H1,H2,H3,h4,H4a,H4b,H5 循環経路(管路)、
M1 乳化分散手段(乳化分散機)、
M,M2 凝固分散機、
T1〜T4 タンク、
R1,R2 冷却装置(冷却手段)、
P1〜P3 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆腐用無機塩凝固剤水溶液である水相と、1%以上のジアシルグリセロールを含む食用油脂である油相とを攪拌混合してなる油中水滴型(W/O型)乳化物の豆腐用凝固剤(乳化剤が添加されたものを除く)であって、
前記豆腐用無機塩凝固剤水溶液は、硫酸カルシウム、又は、有機酸のいずれかを含み、前記食用油脂の蒸留水に対する界面張力が室温下で10〜34mN/mであり、これらを攪拌混合(乳化分散)してなることを特徴とする豆腐用凝固剤。
【請求項2】
前記水相−油相比(重量比)が1:0.2〜1:3の割合であり、前記油中水滴型(W/O型)乳化物の粘度が室温で2〜10Pa・sないしは10〜100Pa・sであることを特徴とする請求項1記載の豆腐用凝固剤。
【請求項3】
前記水相と前記油相との少なくとも一方を冷却しながら攪拌混合(乳化分散)してなることを特徴とする請求項1又は2記載の豆腐用凝固剤。
【請求項4】
前記豆腐用無機塩凝固剤水溶液が塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウムの少なくともいずれか1つを含む水溶液であり、その濃度が2M以上6.1M以下、好ましくは3〜5Mの濃度であり、前記食用油脂が1から20%の範囲内のジアシルグリセロールを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤。
【請求項5】
豆腐用無機塩凝固剤水溶液である水相と、1%以上のジアシルグリセロールを含む食用油脂である油相とを攪拌混合してなる油中水滴型(W/O型)乳化物の豆腐用凝固剤(乳化剤が添加されたものを除く)の製造方法であって、
前記豆腐用無機塩凝固剤水溶液は、硫酸カルシウム、又は、有機酸のいずれかを含み、前記食用油脂の蒸留水に対する界面張力が室温下で10〜34mN/mであり、これらを攪拌混合(乳化分散)してなることを特徴とする豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項6】
前記水相−油相比(重量比)が1:0.2〜1:3の割合であり、前記油中水滴型(W/O型)乳化物の粘度が室温で2〜10Pa・sないしは10〜100Pa・sであることを特徴とする請求項5記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項7】
前記水相と前記油相との少なくとも一方を冷却しながら攪拌混合(乳化分散)するか、又は、前記水相と前記油相との少なくとも一方を冷却しながら攪拌混合(乳化分散)するとともに、前記攪拌混合(乳化分散)した乳化物を乳化分散時及び/又は乳化直後に冷却することを特徴とする請求項5又は6記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項8】
油脂用タンクから定量ポンプによって前記油相を送る食用油脂用の送液経路と、凝固剤水溶液タンクから定量ポンプによって前記水相を送る凝固剤水溶液用の送液経路と、前記油相と前記水相とを乳化状態に攪拌混合する乳化分散機を備え、
前記油相の送液経路に対して前記水相の送液経路を連結して、定量ポンプで送られる前記油相に対して定量ポンプで送られる前記水相を所定の割合で加えるワンパス連続式で乳化分散機に供給することによって、W/O型(油中水滴型)に乳化させた乳化凝固剤を製造することを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項記載の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造方法。
【請求項9】
前記豆腐用無機塩凝固剤水溶液が塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウムの少なくともいずれか1つを含む水溶液であり、その濃度が2M以上6.1M以下、好ましくは3〜5Mの濃度であり、前記食用油脂が1から20%の範囲内のジアシルグリセロールを含むことを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−254097(P2012−254097A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−217529(P2012−217529)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【分割の表示】特願2010−168533(P2010−168533)の分割
【原出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(591162631)株式会社高井製作所 (32)
【Fターム(参考)】