説明

豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置及び豆腐製造用の豆乳凝固装置

【課題】 乳化剤を用いることなく、豆腐用速効性凝固剤水溶液と、一般的な搾油・製油工程で製造された食用油脂とを用いて、W/O型乳化状態を実用上、安定に保持した乳化型豆腐用凝固剤が製造できる。
【解決手段】 食用液体油タンクT1から定量ポンプP1によって食用液体油を送る食用液体油用の送液経路H1と、凝固剤水溶液タンクT2から定量ポンプP2によって凝固剤水溶液を送る凝固剤水溶液用の送液経路H2と、食用液体油と凝固剤水溶液とを乳化状態に攪拌混合する乳化分散機M1を備え、食用液体油用の送液経路H1に対して凝固剤水溶液用の送液経路H2を連結して、定量ポンプP1で送られる食用液体油に対して定量ポンプP2で送られる凝固剤水溶液を所定の割合で加えることで、W/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤(乳化剤を含むものを除く)を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乳化剤を使用しない豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置及び豆腐製造用の豆乳凝固装置に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐の製造には、苦汁(塩化マグネシウム)や塩化カルシウム等の無機塩や、グルコノデルタラクトン(GDL;凝固成分はグルコン酸)が凝固剤として使用されるが、特に苦汁や有機酸は、特許文献4に記載のように、豆乳との反応速度が非常に速いため、きめ細かく、舌触りや歯切れ、食味の良い高品質な豆腐を安定して作ることは難しい。このため、例えば、液体苦汁と油脂に乳化剤を混ぜてW/O型乳化状態とした市販乳化凝固剤が流行している。また、例えば、特許文献2には、塩化マグネシウムとポリグリセリン脂肪酸エステル(乳化剤)とジグリセライド(加工油脂とされるジアシルグリセロールともいう。;以下「DAG」とも略記する。)とを含有する豆腐用凝固剤が開示され、特許文献3には、豆腐用無機塩凝固剤とポリグリセリン脂肪酸エステルと油脂とを含有する豆腐用凝固剤組成物が開示されている。
【0003】
しかし、市販されている乳化凝固剤は、通常の苦汁に比べて5〜6倍も高価で、また、近年、世界的な日本食ブームの中、豆腐は特に菜食主義者・自然食主義者による需要が増加している状況で、彼らは人工的な乳化剤を敬遠する傾向がある。そのため有機農産物加工認定製品、豆腐用凝固剤以外の消泡剤や乳化剤などの食品添加物を使用しない“自然派製品”への期待が高まっている。現在、市販乳化凝固剤は高温凝固による苦汁100%の豆腐製品の製造において十分な遅効性を発揮する優れた製剤として多くの業者に普及している。工場規模で大量生産する場合、製品品質が安定して、ロスが少なく、作業効率も非常によいので、好まれている。ただし、豆腐本来の風味とは異なる独特の風味を少し感じる場合もあり、画一的な風味の豆腐製品が増えて、地域色が薄れて、生産者による特徴を出しにくい状況になっている。また昨今の景気低迷の折、原料大豆・燃料の高騰や、卸値の更なる値下げ圧力に加えて、高価な凝固剤を使わざるを得ないことになっており、豆腐製造業者の経済的負担がますます増加している。少しでもコストダウンを図るため、できるだけこれら高価な乳化凝固剤を使用しないで、高品質で安定した豆腐製造を実現することが切望されている。また、市販乳化凝固剤では、製品流通上、強力な乳化剤や安定剤を含み、豆乳凝固遅延効果は大きいが、反面、分散しにくく、強力な乳化分散条件を必要とし、装置にかかるコストが大きく、場合によっては、分散不足でロスを生じたり、凝固剤量が多めになり、流通過程での豆腐品質の変化が大きかった。
【0004】
このため、本願出願人は、所定の装置構成で、乳化剤を使用しない豆腐の製造方法の特許出願を行い、特許を得ている(特許文献1)。しかしながら、実際に実施にあたり、適用範囲が狭く、食用油の種類や苦汁濃度の選択・組み合わせによっては、十分満足のいく、高品質な豆腐を得られない場合もあった。例えば、W/O型乳化凝固剤のコスト低減のため、油の使用量を少なく、水相量も抑えて、より高濃度の苦汁水溶液を用いることが必要である。しかし、高濃度の苦汁では乳化条件によっては、乳化物の粘度が高まり乳化物を安定化できる反面、摩擦熱などの発熱によって安定した最適な乳化状態を作ることが大変難しく、実用的な凝固反応の遅効性が得にくかった。2M未満の希薄な苦汁では乳化物の粘度上昇・発熱による不都合(解乳化)はあまり目立たなかった。
【0005】
一方、非特許文献2や5のように塩水溶液と加工油脂(主成分:DAG80%以上)を用いて、乳化剤を使用しないW/O型乳化系の乳化特性の研究がなされ開示されている。ただし、豆腐用凝固剤としての遅効性評価はなされておらず、用いた塩化マグネシウム水溶液は0.5M(分子量約203の塩化マグネシウム6水塩結晶をベースに換算すると約10%w/w;比重約1.036;Mは溶液1リットル中のモル濃度)以下の希薄な濃度であり、摩擦熱等の発熱の影響も出にくい条件で、塩水相−油相比は1:1しか評価されてない。仮に豆乳の凝固に希薄塩溶液を用いる場合には、液量が増えて、油脂量も増やす必要から経済的ではなくなる。またDAGを主成分とする市販品の説明からも「加工油脂」と謳われている。DAGは、従来のトリアシルグリセロール(「TAG」とも略記する)主体の油脂と同じ「油脂」であって、非特許文献6にも記載されているように市販のオリーブ油など植物油にも元々数%含まれている油脂成分ということが知られている。
なお、本願出願人は、凝固剤水溶液と、油相が1%以上のDAGを含む食用油脂とを攪拌混合されて成るか、又は、冷却され攪拌混合されて成る油中水滴型(W/O型)乳化物であって、添加乳化剤を使用せずとも、一時的に安定なW/O型乳化状態になり、豆乳凝固反応を遅効化する豆腐用凝固剤とこれを使用した豆腐の製造方法同方向に移行する。の出願も行っている(特許文献6)。
特許文献7にはドレッシングを対象にした連続乳化装置の開示がある。ドレッシングは一般的にはO/W型乳化物である。特許文献8にはマーガリンやチョコレートなどを対象にした、乳化剤を使用しないO/W型乳化物の開示がある。マーガリンやチョコレートは一般に融点の高い油脂を使用して、油脂の結晶化(晶析)による乳化物の安定化を図る固体食品である。特許文献9には人工的に作られた1,2−DAGがDAG中50%以上であるW/O型乳化物に関する記載があるが、非特許文献7によれば天然由来の油脂中のDAGについては1,2−DAGと1,3−DAGの比は3:7とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3654623号公報
【特許文献2】特許第2908633号公報
【特許文献3】特許第2912249号公報
【特許文献4】特許第3553690号公報
【特許文献5】特許第3853778号公報
【特許文献6】特願2009−1748358号
【特許文献7】特開平11−196816号公報
【特許文献8】特開2006−254816号公報
【特許文献9】特許第4381362号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「乳化・可溶化の技術」辻 篤 著、工学図書株式会社出版p58−114
【非特許文献2】昭和女子大学大学院生活機構研究科紀要 島田淳子・大橋きょう子,Vol.14,p31-38(2005)「乳化剤無添加のジアシルグリセロールで調製した油中水滴型エマルションの乳化特性に及ぼす塩類の影響」
【非特許文献3】SHIMADA,A.,OHASHI,K., Food Science TechnologyResearch,No.9,p142-147(2003) Interfacial and Emulsifying Propertiesof Diacylglycerol,
【非特許文献4】M.Kimura,etal.:Biosci.Biotech.Biochem.,Vol.58,p1258-1261,(1994)各種植物油の乳化性Bioscience,Biotechnology, and Biochemistry(JapanSociety for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry)Z53-G223
【非特許文献5】「日本食品大事典」(第1版、2003年2月25日発行)杉田浩一、田島眞、平宏和、安井明美編集、医歯薬出版株式会社、p527−544
【非特許文献6】Riv.Ital.Grasse,LaRivista italiana delle sostanze grasse,Vol.69p443-447(1992)
【非特許文献7】「界面ハンドブック」(株)エヌ・ティー・エヌ、初版、2001年9月27日、p1096
【非特許文献8】「油化学便覧」丸善、第四訂版、p10
【非特許文献9】「油脂化学便覧」丸善、第三訂版、p148−149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、液体油(大豆油など)と塩化マグネシウムを主成分とする1.8M程度(塩化マグネシウム6水塩換算で約33%w/w;比重約1.1)の薄い水溶液とから乳化循環手段によって乳濁(乳化)物が得られるが、数秒で乳濁(乳化)する前の状態に戻ろうとするために、使用中常に循環処理が必要であり、長時間使用では、乳化物の粘度上昇、発熱等による乳化破壊が生じやすく、取り扱いが難しいという問題を有していた。またモーノポンプのようにステータとロータが擦り合う供給ポンプによっては、乳化物を擦る作用のため解乳化を引き起こしやすい。しかも乳化物中の塩化マグネシウム濃度は、W/O比1:1では17%w/w、2:1では22%w/wであり、豆乳に対して添加する比率は、各々1.7〜1.8%、1.3〜1.4%となる。当然、乳化剤がないので、油相を多くすることが有利であり、実際には更に多量の乳化物添加量になる。これは送液ポンプやタンク等の大型化が必要になる、食用油が多くコストが上昇する、という問題も有していた。なお、本文中、特にことわらない限り「%」は全て「重量%」で、塩化マグネシウム濃度は6水塩の結晶(MgCl・6HO)としての濃度である。
【0009】
また、特許文献2や3のポリグリセリン脂肪酸エステルは、多すぎると、反応が遅すぎて風味が悪くなる。また強力な乳化剤ゆえに、乳化状態が安定過ぎて、豆乳に混ぜる際、強力で確実な分散を行わないとムラになり、白い粒が豆腐の中に残留したり、フィルムやパックに粒々状に付着したり、木綿豆腐製造時に布離れが悪くなるという、弊害も起きやすいので、たとえば攪拌機を非常に高い回転数で連続稼働させることになり、攪拌機に負荷が掛かりすぎる面もあった。その他の文献においても、高塩濃度の水相と油脂のみから、乳化剤を用いることなく、W/O型豆腐用乳化凝固剤を製造する装置や製法にかかる記載はない。
【0010】
そこで本発明の目的は、市販の高価な乳化凝固剤を使用せず、乳化剤を用いることなく、豆腐用速効性凝固剤水溶液と、一般的な搾油・製油工程で製造された食用油脂とを用いて、W/O型乳化状態を実用上、安定に保持した乳化型豆腐用凝固剤が製造できる豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置及び豆腐製造用の豆乳凝固装置を提供することにある。さらに、豆腐メーカーは本発明の乳化型豆腐用凝固剤を使用して、経済的で安定した生産ができる上に、豆腐製品を独自の風味に調合できるとともに、自然食品というイメージを高めることができ、安全で安心できる高品質な豆腐づくりに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者等は、特許文献1のような製造方法を先願として開発しているが、その方法における乳化凝固剤は条件によっては非常に不安定で、機械的に乳化状態を保持しないと、直ぐに油相と水相の分離が起きて、満足な凝固反応遅効効果が得られず、安定した高い品質の豆腐を製造することが困難であった。しかも長時間、乳化状態を機械的な循環により保持しようとすると徐々に温度が高まり、かえって乳化状態を破壊しやすくなる欠点があった。
その後、本発明者らは鋭意努力の結果、乳化剤を使用しない乳化凝固剤製品として、実用上、経済的で扱いやすく、安定した豆腐製造を実現する上で満足な凝固反応遅効効果が得られる製剤条件を見出した。すなわち、添加物である「乳化剤」を使用しないで、豆腐用速効性凝固剤の濃厚水溶液と、DAG含有量など所定の組成条件を満たした油脂を適宜選択し、所定の乳化条件を適宜選択することで、比較的簡単に豆腐用凝固剤が得られることを見出した。
【0012】
本発明の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置は、食用液体油タンクから定量ポンプによって食用液体油を送る食用液体油用の送液経路と、凝固剤水溶液タンクから定量ポンプによって凝固剤水溶液を送る凝固剤水溶液用の送液経路と、食用液体油と凝固剤水溶液とを乳化状態に攪拌混合する乳化分散機を備え、食用液体油用の送液経路に対して凝固剤水溶液用の送液経路を連結して、定量ポンプで送られる食用液体油に対して定量ポンプで送られる凝固剤水溶液を所定の割合で加えることで、W/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤(乳化剤を含むものを除く)を製造することを特徴とする。
ここで、前記乳化分散機は連続式で、すなわち各々の定量ポンプで送液された各原料はワンパスで乳化分散機の乳化室(乳化室ケーシング内容積はステータ・ロータ部の外形体積に対して1〜2倍量の大きさ)を通過するワンパス方式が好ましい。また前記乳化分散機の乳化室(乳化室ケーシング内容積はステータ・ロータ部の外形体積に対して2〜20倍量程度の大きさ)が少し大きめの場合、同様に各原料はワンパスで通過する部分と、乳化室でしばらく滞留する部分が混在するバッチ連続式であってもよい。さらに前記乳化室が相当に大きい場合(乳化室ケーシング容積はステータ・ロータ部の外形体積に対して20〜2000倍量程度の大きさ)、各原料を乳化室の一定レベルまで定量ポンプで所定量を供給した後、乳化を開始する方式でもよく、いわゆるバッチ処理に近い形態になってもよい。なお前記乳化分散機が完全にバッチ式容器で、W/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤を回分的に製造しても良いが、定量ポンプを用いない方法では乳化の効率が下がり、前記乳化凝固剤を安定して製造することが難しくなる。また、前記乳化分散機から、一旦別容器に前記乳化凝固剤を作り置きして、好ましくは暗所に冷蔵しておくと良いが、本発明では特に豆乳タンクから定量ポンプによって豆乳を送る豆乳送液経路に連結してなるものが好ましい形態である。また、本発明の乳化凝固剤は、一旦容器に詰めて、冷蔵(氷冷)保管またはチルド配送して、製造から1〜10日以内に遠隔場所の凝固装置において凝固剤として用いることも可能である。
食用油用や凝固剤液用の前記定量ポンプは、ロータリーポンプ、チュービングポンプ(ホースポンプ)、ギヤポンプ、サインポンプ、モーノポンプ、スクリューポンプ、ベーンポンプ、モノフレックスポンプ等の連続式容積式定量ポンプが最も好ましく、低脈動であれば更に好ましい。バッチ式ではダイヤフラム式ポンプ、プランジャーポンプ(ないしはピストンポンプ、シリンジポンプ)等を用いても良く、またこれらの多連型で、アキュームレーター等を備えるなど、脈動を抑えた構成のポンプも前記連続式ポンプの代わりに用いてもよい。乳化凝固剤を送液する場合は、構造上、剪断力や摩擦熱が発生しにくいポンプが望ましい。なお連続式の容積式定量ポンプの流量は、流量計を備えてPID制御も行ってもよい。また後工程の連続凝固装置やバッチ式凝固機と連動または同調するよう自動制御されてもよい。なお、豆乳用ポンプも同様に低脈動の定量ポンプや自動制御を設けることが好ましい。
本発明者の知見によれば、乳化剤を使用しないで、W/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤を効率的に製造するためには、好ましくは前記ワンパス方式で、前記水相−油相比(凝固剤水溶液である水相−食用液体油である油相の比)が重要であること、食用液体油と凝固剤水溶液の流量の調整が重要であること、攪拌時の食用液体油と凝固剤水溶液の温度が重要であること、攪拌時の加圧が重要であることが判明した。流量の調整としては、食用液体油と凝固剤水溶液とを単に混合するのではなく、乳化分散機の攪拌混合を強力にすることが必要であり、乳化状態を実用上長く安定に保持できることを見出した。乳化時の原料の温度と工程内の加圧に関しては、乳化凝固剤の乳化状態の実現と乳化後の安定性に関与することを見出した。なお、これらの混合物(乳化させた乳化凝固剤)を、その調製後あまり時間をおかずに豆乳(温豆乳)に添加することが必要ではあるが、冷蔵するなど所定時間(1時間〜1日間程度)、保管した後に使用してもよい。その乳化凝固剤の安定性は原料の食用油脂の種類や製造する豆腐の種類等によって異なる。本発明では、最終的には絹ごし状豆腐を製造することを目的とするが、木綿豆腐や油揚生地などの製造目的であってもよく、必ずしもこれに限定されるものではない。
乳化凝固剤製造用の強力な乳化分散機は、例えば、太平洋機工株式会社製「マイルダー」などの5,000〜30,000rpm程度の駆動型分散装置が好ましく、高圧ホモジナイザーや薄膜式高速回転ミキサーなどであってもよく、1台でもよく、複数台連結して、混合〜仕上げの乳化まで多段階に構成された乳化装置でもよい。また静止型ミキサーやあまり強力ではない乳化分散機を適宜組み合わせる構成であってもよい。
豆乳凝固用の凝固分散機は、例えば、プライミクス株式会社製「TKパイプラインホモミクサー」、株式会社イズミフードマシナリ製「エマルダー」などの1,000〜5,000rpm程度の駆動型分散装置が好ましく、また、ノリタケ製スタティックミキサーや高井製作所製TSミキサーなどの静止ミキサーなどでもよく、またこれら複数台を連結して構成してもよい。なお本発明における凝固分散条件は、乳化剤を用いた従来の乳化凝固剤に比べて同等もしくは弱い条件で十分であり、廉価な分散機が採用でき、またメンテナンスコストも低減できる。
【0013】
例えば、凝固剤水溶液の水相と、1%以上のジアシルグリセロール(DAG)を成分として含む食用油脂の油相とを攪拌混合してなる油中水滴型(W/O型)乳化物である場合、前記水相−油相比(重量比)が1:0.2〜1:3の割合であり、更に好ましくは1:0.4〜1:1〜1:1.5であることが好ましい。油相が多いとコストがかかりすぎ、この範囲がコスト的にも安価な範囲で、油相がそれ以下では不安定になることと、それ以上では単価が高くなりすぎ、豆乳への製剤添加量が増すなど不利な面がある。乳化に使用する際の油は、固体脂ではなく、融点以上で流動性のある液状であることが必要である。乳化後、一旦保管(冷蔵)する場合などは融点以下になっても構わないが、油脂が結晶化して流動性のない乳化凝固剤になる場合は、定量ポンプでの送液ができなくなり、定量性も得にくい。前記のように使用前に融点以上に加温して液状油脂にすればよい。融点以下でなくても、融点近くで、油相の一部が固化(結晶化)しても製剤自体に流動性ないしは可塑性があればよい。パーム油やヤシ油など融点の高い油脂でも利用できる。融点の高い油脂量をブレンドしてもよく、その量を増やすと、装置が休止時など配管を閉塞するほどに固化してしまうので、ある程度以下(例えば50%以下)の油脂量である必要もある。必要に応じて油脂や凝固剤水溶液や乳化物のタンクや循環経路、生産経路などに保温手段を備えて終始、融点以上に保温することも有効である。原料の油脂や得られた乳化凝固剤も油脂の固化(結晶化)が多少起きても、スラリー状ないしは流動性があればよい。
【0014】
本発明によれば、特に細い液体油送液経路(内径1〜15mm)に対して細い凝固剤送液経路(内径1〜15mm)を連結して、定量ポンプで送られる食用液体油に対して定量ポンプで送られる凝固剤を加えることで、お互いに勢いを付けて食用液体油に対して凝固剤水溶が粗く混ざり合った状態で、強力な乳化分散機で細かく攪拌混合されるので、乳化剤を加えずにW/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤液を製造することができ、これにより乳化状態を比較的長く保持できる。各流速は十分な乱流状態を形成する0.1〜1,000m/秒であり、好ましくは1〜100m/秒である。なお、前記乳化分散機の前工程で補助的な静止型ミキサーを設けると、より効果的であり、又、低流速でも予備混合できるので、好ましい。そして、W/O型(油中水滴型)の乳化凝固剤が豆乳(温豆乳)に添加されるが、その豆乳も食品添加物である乳化剤(例えば消泡剤等)を使用してない豆乳を用いることによって豆腐製品(例えば有機加工食品等)を製造することが出来る。
また本発明では、前記乳化分散機に対して、食用液体油用の送液経路に対して凝固剤水溶液用の送液経路を連結した位置からの流路は短い方が好ましく、予備的混合器(スタティックミキサー等)を備えることも好ましい。さらに、前記乳化分散機の乳化室に対して食用液体油用の送液経路と凝固剤水溶液用の送液経路を別々に直接連結することも好ましい形態である。なお食用液体油と凝固剤水溶液混合においては、食用液体油の中に凝固剤水溶液を注入することの他に、二液が分離するような力が働く構造を極力避けること、即ち凝固水溶液の比重(1.0〜1.4)と食用液体油の比重(0.8〜0.9)を考慮した配管形状や連結形状とすることが好ましい。
【0015】
本発明としては、前記凝固剤水溶液タンクから定量ポンプによって凝固剤水溶液を送る凝固剤水溶液用の送液経路が複数設けられ、定量ポンプで送られる食用液体油に対して定量ポンプで送られる凝固剤水溶液を複数回所定の割合で加えることで、W/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤を製造することが好ましい。さらに凝固剤送液経路を液体油送液経路に連結した直後毎に乳化分散機を設けることが好ましい。その乳化分散機は静止型、駆動式など限定せず、同じ仕様の乳化分散機でもよいが、粗い乳化から細かい乳化になるように段階的に分散力の異なる乳化分散機を配してもよい。
本発明によれば、食用液体油に対して凝固剤水溶液を段階的に添加できるので、乳化効率が高まる。また乳化しにくい油脂に適用したり、異なる凝固剤をブレンドしたり、より油相を減らしたり、乳化状態を長く維持できる点で好ましい。なお、本発明によれば、W/O型乳化凝固剤から、O/W/O型などの多層乳化状態の乳化凝固剤を調整し易くなる。
【0016】
本発明としては、前記食用液体油用の送液経路、及び/又は、前記凝固剤水溶液用の送液経路に冷却手段が配されていることを特徴とする。
本発明としては前記乳化凝固剤の乳化状態を安定に保持し、かつ豆乳凝固遅効性を発揮するため、各原料のタンク、ポンプ、送液経路や、乳化分散機やその直後に冷却手段(2重構造の熱交換器や蛇管等)を設けて、冷却することが効果的である。また、後述するように、傾向として、濃厚な凝固剤水溶液で、油相が少ない方が発熱しやすいが、冷却すると乳化物の粘度が出やすく、乳化状態をより安定にできる。通常はチラー水やブラインなど−40〜10℃の冷媒を各々経路に設けた熱交換器に通して、間接的に冷却する。また予め各々原料は使用直前まで冷蔵しておくか、本装置を保冷室に置くなども効果的である。なお、冷却後ないしは凝固直前の乳化凝固剤の品温としては50℃以下、好ましくは30℃以下、更に好ましくは20℃以下が好ましい。
【0017】
また、前記乳化分散機は、冷却手段、及び/又は、加圧手段を備え、乳化分散機による捏和時に加圧するか、冷却するか、又は、加圧しながら冷却することを特徴とする。
これらの発明によれば、濃厚な凝固剤水溶液ほど、油脂との乳化分散時、攪拌熱などの発熱を伴いやすくなり、冷却手段による冷却を行うことが好ましい。冷却せずに、乳化分散を長く続けると更に発熱し、逆に分散粒子の合一が進んでしまい、乳化状態が不安定で、豆乳凝固遅効効果も低下することもある。冷却は、目標が室温以上であれば空冷でもよく、室温以下であれば水冷・チラー水等の冷媒による間接冷却がよく、いずれにしても、前記攪拌熱を一部ないしは大部分を吸熱することが少なくとも必要である。冷却温度は用いた食用液体油の融点(凝固点)まで、厳密には、油脂の結晶形態等によって融点(凝固点)には範囲があり、凝固点の最低温度までを、冷却する温度の下限とする。なお、少なくとも濃厚な凝固剤溶液の凝固点以上であることが条件である。前記同様に通常はチラー水やブラインなど−40〜10℃の冷媒を各々経路に設けた熱交換器に通して、間接的に冷却する。また予め各々原料は使用直前まで冷蔵しておくか、本装置を保冷室に置くなども効果的である。
また加圧条件下では乳化分散時のキャビテーションを抑制し、乳化効率低下を防止できる。通常はバルブ、オリフィス、背圧弁や調整弁(コントロールバルブ)等を最小限に用いて内圧を0.001〜1.0MPaとし、好ましくは0.01〜0.3MPa程に調整する。なお、食用液体油と凝固剤水溶液の各々の粘度に比べて、本発明のW/O型乳化凝固剤の粘度は通常2,000cP以上であり、乳化状態を反映して少なくとも原料液体の10〜100倍ほど高くなるため、乳化分散機前より乳化分散機後の方が自ずと内圧が高まる傾向である。逆に内圧を一定に制御することは乳化状態を一定に安定させる効果があることから、本発明における乳化分散機及び/又は乳化分散機直後からその出口配管に背圧手段を設けることは好ましく、冷却手段と併用することはより好ましい形態である。
【0018】
本発明としては、前記食用液体油用の送液経路、及び/又は、前記凝固剤水溶液用の送液経路に流量計と指示調節計が設けられるとともに、各原料液の流量信号から前記各定量ポンプの吐出量を自動調整するように制御機能を設けることが好ましい。前記豆乳送液経路にも同様の制御機能を設けることも好ましい。
本発明によれば、特にフィードバック制御によって、バルブ切換時の流量変動を少なく調整し、バルブ切換後直ちに流量を安定にさせることができる。流量が安定している状態で、生産回路への供給可能なスタンバイ状態から、生産回路へ切替になっても流量が乱れることなく、安定な状態で送液され、そして混ざり合い、乳化分散機でも、均等な割合で混ざり合って、乳化状態が早期に得られ易くなるので、わずかな凝固ムラも防止できる。
【0019】
本発明としては、前記食用液体油用の送液経路、及び/又は、前記凝固剤水溶液用の送液経路に各々循環する循環配管を設けて、その戻り配管上に背圧手段を配することが好ましい。
本発明によれば、特に原料関係の循環経路があり、背圧手段を備えた場合、バルブ切換時の圧力差を少なく調整し、バルブ切換後直ちに流量を安定にさせることができる。流量が安定している状態で、生産回路への供給可能なスタンバイ状態から、生産回路へ切替になっても流量が乱れることなく、安定な状態で送液され、そして混ざり合い、乳化分散機でも、均等な割合で混ざり合って、乳化状態が早期に得られ易くなるので、わずかな凝固ムラも防止できる。なお、前記のように乳化分散機以後に内圧が発生し、更に背圧手段によって高めの内圧をかけることから、前記乳化分散機以前の工程では、その内圧に釣り合うように該乳化分散機の加圧力を加えて、各原料の前記各送液経路側にも前記各定量ポンプによる加圧状態を形成する必要があり、その加圧状態を安定させるポンプの微妙な脈動や長期使用による変動の影響を緩和するため、各原料の送液経路の循環経路(戻り配管)に背圧手段内圧が高まる傾向である。逆に内圧を一定に制御することは乳化状態を一定に安定させる効果があることから、本発明における乳化分散機及び/又は乳化分散機直後からその出口配管に背圧手段を設けることは好ましい形態である。さらに、乳化分散機に供給する配管上にも同様の背圧手段を設けることも好ましい。
【0020】
本発明の豆腐製造用の豆乳凝固装置は、請求項1ないし6のいずれか1項記載の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置を使用して、前記乳化分散機に、製造された乳化凝固剤を送る配管が連結され、豆乳タンクから定量ポンプによって豆乳を送る豆乳送液経路と連結されるか、又は、前記乳化凝固剤を一旦貯留するタンクから前記乳化凝固剤を送る配管に定量ポンプが配された乳化凝固剤送液経路が、豆乳タンクから豆乳を送る豆乳送液経路と連結されてなるとともに、これらを攪拌混合する凝固分散機と連結されていることを特徴とする。
本発明としては、前記豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置で製造された乳化凝固剤を、豆乳に対して所定量添加し、凝固分散機で解乳化を行い、豆乳を凝固させる装置であることを特徴とする。乳化凝固剤の送液経路を豆乳の送液経路に連結して連続的に凝固分散機に供給するか、または一旦、乳化凝固剤送液経路から乳化凝固剤を得て、一時保管した後、乳化凝固剤を豆乳凝固装置に備わった乳化凝固剤供給装置の受けタンクに受けて、その受けタンクと豆乳送液経路に連結した定量ポンプを用いて乳化凝固剤を豆乳に連続的に混合して凝固分散装置で解乳化を行い、豆乳を凝固させる凝固装置であることを特徴とする。
【0021】
豆腐製造用の豆乳凝固装置では、前記食用液体油は1%以上のジアシルグリセロールを含む食用油脂を使用し、前記凝固剤水溶液は2M以上の濃厚な凝固剤水溶液を使用することが好ましい。
本発明は、凝固剤水溶液と、油相がDAGを油脂中1%以上含む食用油脂とを乳化分散手段によって攪拌混合されてなる油中水滴型(W/O型)乳化物であることを特徴とする。また、凝固剤水溶液である水相と、油相がDAGを油脂中1%以上含む食用油脂との少なくとも一方を冷却しながら攪拌混合してなる油中水滴型(W/O型)乳化物である豆腐製造用の乳化凝固剤を得る装置であることを特徴とする。
本発明によれば、特に水相が2M以上の濃厚な凝固剤水溶液を使用することで、高価な油脂量を減らせるので、経済的である。凝固剤水溶液が2M未満の希薄水溶液よりも濃厚水溶液であるほど(飽和水溶液に近づくほど)、豆乳凝固反応を遅らせる効果が高い。これは乳化時の粘度上昇があり、この乳化凝固剤の粘度が高いと、乳化時の細かい分散粒子(水相)の合一が妨げられて、安定化し易いことや、その分散粒子が細かいほど、豆乳に添加して攪拌された後、豆乳凝固反応を遅らせる遅効効果が高いものと考えられる。ただし、濃厚な凝固剤水溶液ほど、油脂との乳化分散時、攪拌熱などの発熱を伴いやすくなり、前記の通り、冷却手段による冷却を行うことが好ましい。また、温度が高いと乳化分散機でのキャビテーションも発生しやすく、前記の通り加圧手段を併用すると更に好ましい。
DAGはW/O型乳化を得やすく、非特許文献2記載のようにW/O型乳化物が得られやすいことが知られている。しかし、非特許文献3から、用いた油脂は化学合成され、DAG87%程度含むもので、かなり高濃度で、しかもDAGが多く含まれた油脂は、一般に構成脂肪酸がリノ−ル酸、リノレン酸以外のDAGについては融点が20〜70℃と高く(非特許文献9)、常温では固化する性質があるが、その点は一切記載がない。もし非特許文献4のように固化した油脂に苦汁が分散された豆腐用凝固剤をそのまま豆乳に添加して凝固するとすれば、凝固反応の遅効性はあっても、機械的自動操作が大変難しくなる。実際に市販の乳化剤を用いた乳化剤の場合、その配管経路やタンク等は水洗いしにくく、水と混じると高粘度物になりやすく、器壁に付着したものを洗浄する場合は、少量の薄い中性洗剤を用いただけでは難しい面がある。本発明では、もし固化した油脂であれば予め融点以上に加温して液状とし、また乳化後の冷却で固化しても豆乳添加前に融点以上に加温してから使用する。固化しやすい油脂を多く配合して取り扱う場合、配管やタンクやバルブ等に保温手段をとることも好ましい。例えば、DAGを5〜10%程度含むオリーブ油や米糠油(米油)、綿実油等の天然油脂は、その脂肪酸組成から融点の高いDAGを含むと推定されるが、比較的少量のため機械的な取扱には支障がなく、またDAG1〜2%程度の大豆油よりも、水と馴染みやすい性質を有して(すなわち界面張力が低い)、高濃度の塩化マグネシウム溶液を分散相としても、連続相である油脂は液状であって、比較的安定したW/O型乳化物形成に寄与することが判明した。これは他の成分のどれよりも、第一にDAGが影響していることが明らかになった。なお、本発明においては、器壁や配管経路やタンク等に付着した乳化凝固剤はしばらくすると解乳化する上、少量の薄い中性洗剤で洗浄できるので、洗浄性・作業性の面も扱いやすく、環境への負荷も少ない。
本発明で用いる食用油脂は、乳化剤を含まずDAG(グリセリン1分子と脂肪酸2分子のエステル結合した形)を1%以上含む食用油脂であり、さらには、一般的な油脂製造工程における食品添加物(加工助剤)の添加による処理以外に、化学的加工(エステル交換反応、水素添加による硬化処理など)を施されていてもよいが、特別な加工を施さない、一般的な搾油・製油工程で得られた食用油脂製品であることが好ましい。すなわち、市販油脂製品のうち、レシチン(リン脂質)などの親水性で乳化作用のある成分を多く含まず、MAG(これも親水性)も1%以下と少ない製品であることが好ましい。また油脂の原料や製品グレード等によって含有量は異なるが、DAGを1%以上、10%未満含む油脂製品が経済的で、本発明の実施に更に適している。加工油脂のように10%以上DAGを含む場合、本発明の実施は一層容易になるが、常温で固化・白濁して使いにくく、加工油脂の単価は高いというデメリットもあり、費用対効果によって選択される。
本発明における食用油脂の種類としては特に限定しない。例えば、原料による分類では、米油(米ぬか油・米胚芽油)、コーン油、大豆油、菜種(キャノーラ種など)油、ヒマワリ油、べに花油(サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油)、ごま油(黒、白)、パーム油、パーム核油、オリーブ油(バージンオリーブオイル、ピュアオリーブオイル)、ブドウ種油(グレープシードオイル)、ヘーゼルナッツ油(はしばみ油)、ヤシ油(ココナッツオイル)、綿実油、落花生油、マカデミアンナッツ油、アーモンド油(スイートアーモンドオイル)、アボガド油(ワニナシ種子油)、亜麻仁油、パンプキンシードオイル、クルミ油(ウォールナッツオイル)、エゴマ油(しそ油、荏胡麻油)、カシューナッツ油、小麦胚芽油(ウィート・ジャームオイル)、ボラーシシード油、月見草油(イブニングプリムローズオイル)、ボリジ油、ブラックカラント油、ホホバ油、カメリアオイル(椿油)、ローズヒップオイル、アプリコットカーネルオイル、ニガー種油、茶の実油、麻の実油(ヘンプオイル)、黒からし油、シアバター(シャー脂)、カカオ脂等の植物油脂や、魚油、動物油脂(牛脂・豚脂・鶏脂・鯨油・アザラシ油等)などの天然由来の油脂が挙げられ、これら以外の食用油脂も含まれる。また、これらのブレンドも任意であり、他にラー油などの風味油・調味油などをブレンドすることも容易である。これら食用油脂の原料条件(果実や種子、製粉後の胚芽を含む粕等)、搾油(冷圧搾法等)・精製(脱ガム・脱酸・ウィンタリング等)等の製油条件、水素添加・エステル交換等の加工条件等や、適宜なブレンド条件によって、DAG含有量や乳化安定性が異なり、特に市販の天然由来の油脂では1〜20%(非特許文献8より、多くは1〜10%)含む製品が多く、DAG2%以上、特に5%以上含む製品が好ましい。天然由来の油脂にDAGを多く含む加工油脂を用いて、例えば天然油脂−加工油脂1:0.01〜1:100の割合でブレンドしてもよい。高価な加工油脂であれば費用対効果上の上限はあるが、例えば1:0.02〜1:1にブレンドすれば、あまり適さない天然油脂を用いる場合でもDAG1%以上、好ましくは2%以上、さらには5%以上の油相にすることもできるので好ましい。なお、本発明においては人工的な加工油脂は用いず、食用に製造された、天然由来の油脂製品でだけであってもよい。非特許文献7によれば天然由来の油脂中のDAGについては1,2−DAGと1,3−DAGの比は3:7とされている。大豆を原料とする豆腐用としては特に植物性油脂が好ましい。ただし、これらの油脂原料の種類で主に分類されるが、原料の品質、搾油条件、精製条件や加工条件によっても、またメーカーや製品グレード等によっても、DAG含有量が異なり、本発明に適する油脂であるか否か、が左右される。
【0022】
一般に、市販油脂はTAGが主であり、少量のDAGを数%含むことが多い(非特許文献4、非特許文献8)。例えば(財)日本食品油脂検査協会による分析結果では、市販米油では9.9%、市販綿実油では7.8%含まれていた(他の油脂は表4参照)。非特許文献6によれば綿実油の産地によって5.4〜9.5%だったという。本発明では「乳化剤」を添加せず、原料由来のDAGを1%以上含む食用油脂(市販油脂製品では概ねDAG1〜10%含有、合成加工油脂でDAG40〜99%含有)と、更に濃厚な豆腐用無機塩凝固剤(例えば2M以上の塩化マグネシウム水溶液)と、から成る豆腐用乳化凝固剤を製造する装置ないしはそれを豆乳の定量送液経路に混合し、凝固分散機で分散させて、プリン状の豆乳凝固物を得る装置に関してであるが、このような知見は他にない。
なお、DAGは一般的な油脂の成分の一種であり、乳化剤として有用なモノグリ(モノアシルグリセロール;「MAG」とも略記する。)と共に、TAGと同じグリセリン脂肪酸エステルの一つである。DAGは、MAGほどの強力な乳化効果はないが、弱い乳化作用を有する“油脂”ということが非特許文献2などで示されている。またDAGを主とする市販乳化剤はない。特にDAG40%以上含む油脂製品はグリセリンと脂肪酸から酵素反応によって生成された“加工油脂”であって、乳化剤とは扱われていない。また非特許文献3では、乳化剤を用いないで、0.5Mという薄い塩化マグネシウム等水溶液と、DAG約87%からなる加工油脂とのW/O型乳化特性を報告している。
本発明で指すDAGは油脂中に自然に混在し、グリセリン1分子と、大凡炭素数C8〜C24から成る脂肪酸2分子がエステル結合した形である。市販油脂の多くはそのDAGを少なからず含むので、その含有量によってその難易の差はあるが、いずれも本発明実施に利用できる。市販油脂や市販加工油脂のうち、比較的強い乳化作用を有するレシチンやMAGの共存は、乳化安定性や豆乳凝固遅効性への悪影響があることもあるので、少ないか全く含まない方がよく、レシチン等のリン脂質は0〜0.1%、MAGは0〜1%である方が好ましい。酸価は日本農林規格基準範囲内で高い方が良く、同様に酸価と平均分子量から計算される遊離脂肪酸量も高い方が良く、少なくとも酸価が0.1以上であるか、遊離脂肪酸量が0.05%以上である油脂が好ましい。遊離脂肪酸も弱い乳化性を有する。これらのリン脂質・MAG・遊離脂肪酸は標準的な製油工程における脱ガム、脱酸工程等でほとんど除かれる。一般に油脂の代表的成分であるTAGについては、本発明上重要ではないが、上記成分以外の主成分として98%以下であり、0%であってもよい。その他に微量に含まれることがある、トコフェロール(ビタミンE)、ポリフェノール類、ステロール類等も本発明上、影響はほとんどなく、含有量は限定されない。なお天ぷら・フライ用油脂製品には泡立ち(酸化)防止のためにシリコーンが1%程含む製品もあるが、そのシリコーンは「消泡剤」であり、油脂の表面張力には影響するが、界面張力や乳化への影響はほとんどなく、本発明実施上、特に支障がない。ただし有機農産物加工食品などの商品向けには使用できないことがあり、シリコーンを含まない油脂製品を選択することが好ましい。
【0023】
DAG含有量の上限は特に限定はしないが、市販油脂のように1%〜10%程度含む油脂が普通である。本発明においてはDAG1%未満の油脂は好ましくない。人工的な加工油脂のようにDAG40〜99%程度含む油脂でも単独使用ないしはブレンド使用が可能で本発明に利用できる。一般にDAGはTAGよりも融点が高い場合が多く、DAGが多いと、冷却条件や常温付近で結晶化して、乳化安定性に影響する。非特許文献9によれば、DAGの融点は1,3−ジリノレンで−2.6℃、1,3−ジリノレインで−12.3℃、ジオレインで21.5℃であり、1,2−DAGでは全般に20〜70℃と高い。融点の低いDAGが主体であれば油脂に多く含有していても結晶化による悪影響は出にくい。融点の高いDAGであれば、冷却よりも寧ろ融点以上に加温して乳化分散する方が好ましい場合もある。特に融点の高いDAGを多く含む油脂の場合、乳化時には融点以上に温度を保持してW/O型乳化を容易に形成でき(機械的な自動計量などの操作にトラブルが発生しにくい。)、また乳化後は冷却によってそのW/O乳化状態を安定に保持することもできる。この場合、その乳化凝固剤(豆腐用凝固剤)は豆乳へ添加前に融点以上に加温して流動性を高めて、油脂としては液状油脂としておくと、機械でのハンドリング上、好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の豆腐製造用の豆乳凝固装置によれば、市販の高価な乳化剤を使用せずとも、一時的に安定なW/O型乳化状態になり、豆乳凝固反応を遅効化する乳化製剤が製造可能であり、これを豆乳と混合させることで、無消泡剤・無乳化剤の“自然食品イメージ”のある豆腐類の商品や有機農産物加工食品(JAS規格)としての豆腐やその加工食品を製造することが可能になる。
そして、油脂種類の選択や冷却手段や乳化分散機など幾つかの条件を満足すれば、苦汁と油脂は比較的容易に混ざり合い、凝固反応遅効性を有する乳化凝固剤(豆腐用凝固剤)が安価に得られる。例えば高品質の苦汁100%絹ごし豆腐を安価に作ることができる。乳化凝固剤の配管経路など装置の洗浄性も向上する。なお、本発明は、当然ながら絹ごし状凝固物を壊して圧搾成型して作る木綿豆腐や生揚げ・厚揚げなどにも適用でき、様々な豆腐加工製品に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態の豆腐用凝固剤の製造に使用されるワンパス連続式の豆乳凝固装置を示す図である。
【図2】本発明の豆腐用凝固剤のワンパス連続式の豆乳凝固装置の他の例を示す図である。
【図3】本発明の豆腐用凝固剤の豆乳凝固装置の他の例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態のバッチ循環式の豆乳凝固装置の例を示す図である。
【図5】上記各実施の形態の豆乳凝固装置の例を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態の豆乳凝固装置の例を示す図である。
【図7】従来の実施の形態の豆乳凝固装置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態の豆腐製造用の豆乳凝固装置Z1であり、油脂用タンクT1と、苦汁用タンクT2と、これらを別々の供給手段(定量ポンプ)P1,P2によって乳化分散手段である乳化分散機M1に供給して連続的に乳化分散を行い、内圧をかけるための背圧弁V1、V2も備える構成である。ここまでの構成が豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置N1であり、この豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置N1に、豆乳タンクT3からの高温豆乳の送液経路を連結して混ぜ合わせて、凝固分散機M2に送り込む機構を加えることで(豆乳凝固部)、豆腐製造用の豆乳凝固装置Z1として構成されている。つまり、食用油脂と凝固剤(苦汁)とを混ぜ合わせて(凝固剤調合部)、乳化分散機M1に送り、そして豆乳タンクT3から高温の豆乳とを混ぜ合わせて、凝固分散機M2に送り込む(豆乳凝固部)。食用液体油用の送液経路H1に対して凝固剤水溶液用の送液経路H2を連結する連結箇所B1は設けず、食用液体油用の送液経路H1と凝固剤水溶液用の送液経路H2を別々に直接乳化分散機M1の乳化室に連結する形態でもよい。
液体油用と凝固剤水溶液用の各タンクT1、T2やその循環配管(循環経路)K1,K2やその生産経路H1、H2には、冷却装置(熱交換器)R1,R2が各々設けられている。なお、冷却装置R1,R2は食用油脂と凝固剤(苦汁)の少なくとも何れか1つを冷却するものでも良い。また、豆乳送液経路H5も循環経路が設けられて、その戻り配管上に背圧手段V1,V2を配する。背圧手段V1,V2は、容積式ポンプ、ボールコック、バタフライ弁、コントロールバルブ、サイフォン、オリフィス、背圧弁(手動、自動を含む)、流量調節弁(流量調整弁)等、いずれのものを使用してもよく、これらを組み合わせたものでもよいが、多数配設すると解乳化の恐れもあるので、好ましくは、背圧手段は1〜2基と数少ない方がよい。背圧手段によって豆乳の凝固時の圧力を一定圧に保つことで、循環経路から生産経路に切り替えた際、圧力差が少なくなり、豆乳流量の変動が生じにくくなる。そのため凝固ムラなどのない安定した凝固状態が得られることになる。
なお、図1中の符号Rで示す位置等に冷却装置(熱交換器)を設けることが好ましい。また、本実施の形態の装置Z1では、前記乳化凝固剤の製造装置N1から先の豆乳送液経路H4上には、できるだけホッパーやポンプやバルブなど乳化物を破壊する恐れのある部材を多数設ける形態は採用しない方が望ましい。例えば、豆乳送液経路H5との連結箇所B2でも、バルブ等は用いずに、配管と配管との連結によっている。また、豆乳に添加する直前まで、冷却以外の物理的な刺激、加熱などを極力行わない構成や構造にすることが好ましい。
食用液体油用の送液経路H1と凝固剤水溶液用の送液経路H2には、冷却手段(熱交換器)R1,R2が配されている。なお、冷却装置R1,R2としては上記配管H1,H2においてはプレート式熱交換器、多管式熱交換器や2重管などの間接式熱交換器、また貯蔵タンクT1、T2については2重ジャケットや2重管や蛇管など同じく間接式熱交換器を設ける形態であっても良い。
熱交換器Rは、食用液体油用の送液経路H1に対して凝固剤水溶液用の送液経路H2を接続した連結箇所B1やその後の送液経路H3にも配されることが好ましい(図中の符号Rを参照)。
乳化状態となった乳化豆腐用凝固剤は凝固工程(豆乳と該豆腐用凝固剤が混合される分散機)に入るまで、乳化状態を維持するために、30℃以下、好ましくは20℃以下で保持されるように、熱交換機を介した配管による搬送を行う。
このように本実施の形態では、冷却手段(熱交換器)R1、R2、R等により、乳化凝固剤(乳化剤を使用しないでW/O型乳化状態となった乳化豆腐用凝固剤)の温度が豆乳へ添加されるまで−10〜30℃(好ましくは0℃〜20℃)に維持されるようになっている。低温ほど乳化状態を安定させる効果があり、油脂の融点付近まで冷却すると、油脂粘度が高まり、微細で安定した乳化分散状態を保持しやすく、豆乳凝固遅効性が高まる。融点より低温(正確には凝固点以下)では配管の閉塞に問題があり取り扱いにくい。
【0028】
乳化分散機M1は、食用液体油と凝固剤水溶液とを攪拌混合するもので、強力な乳化分散の性能があれば特に限定しないが、ステータ&ロータ型の高回転撹拌式や高圧ホモジナイザーが好ましく、強力な分散力のある静止型ミキサーでも良い。ロータ回転数2,000〜30,000rpm、好ましくは5,000〜20,000rpm。ロータ周速1〜20m/sec、好ましくは5〜15m/secであることが好ましい。また、ロータとステータの最小間隙0.1〜2mmであることが好ましい。本実施の形態の乳化機分散機M1は、内部がロータとステータからなり、ロータの回転とロータとステータの間隙により、せん断力が発生し、乳化を実現する。そして、冷却手段Rの他に加圧手段が備えることが好ましく攪拌時に加圧するか、冷却するか、又は、加圧しながら冷却することができ、これによりキャビテーションによる乳化効率の低下を防ぐことができる。なお、加圧手段は、バルブやオリフィス、背圧弁、調整弁などであり、単に乳化凝固剤の粘度上昇による配管抵抗によるものであってもよい。
【0029】
豆乳温調タンクT3から定量ポンプによって豆乳を送る豆乳送液経路(豆乳凝固部)H5には、凝固分散機(攪拌混合機)M2が配されている。凝固分散機M2は、比較的弱めの乳化分散性能のもの(例えば一般的な静止型ミキサー、ノリタケ製スタティックミキサー、高井製作所製TSミキサーなど)で十分である。乳化凝固剤の乳化状態によっては通常の豆腐製造用の凝固攪拌機(ワンツー攪拌やスクリュー攪拌など)であってもよい。これらの乳化拡散機や混合攪拌機を任意に組み合わせて併用しても良い。
上記熱交換器にはチラー水等を冷媒に用いた冷却手段(熱交換器)Rが内蔵されている。すなわち、凝固分散機M2には、冷却水(好ましくは10℃以下、0〜5℃のチラー水ないしは−40〜5℃のブライン水)を通すことにより乳化処理前の凝固剤温度、食用油脂温度を所望の温度(70℃以下;好ましくは30℃以下:さらに好ましくは20℃以下)に設定されている。また、凝固分散機M2においても加圧手段が備えられ、これにより、攪拌時に加圧するか、冷却するか、又は、加圧しながら冷却する形態であってもよい。乳化処理前の凝固剤温度、食用油脂温度の下限は、油脂の凝固点ないしは融点以上かつ凝固剤液の凝固点以上であれば、0℃以下でも良く、通常は−10℃〜0℃の範囲である。
【0030】
図2は、乳化分散機M1aとM1bを連続的に配した豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置N2である。つまり、予備の乳化を第1の乳化分散機M1aで行った後に、本乳化を第2の乳化分散機M1bで行うようにして、乳化分散を複数回に行うことも可能である。この場合の利点としては、乳化状態を長く維持できることと、一つの乳化分散機M1aとM1bを強力なものを使用しなくて済むことや、より乳化粒径が均一にできる利点が挙げられる。前記食用液体油用の送液経路H1が循環経路として構成され、凝固剤水溶液用の送液経路H2が循環経路として構成され、その戻り配管上に背圧手段V1,V2を配する。なお、前記の乳化分散機M1aとM1bは前記乳化分散機M1と同様に、ステータ&ロータ型の高回転撹拌式や静止型ミキサーなど、粗乳化、微細乳化という段階的な乳化分散になるよう設定をしてもよい。
前記循環経路H1,H2には各々流量計F1,F2が備えられている。流量計F1,F2としては、電磁式、容積式等があり、指示調節計によるPID流量制御を備えても良い。PID制御は、フィードバック制御の一種であり、入力値(測定値)と目標値(設定値)との差(偏差)を比例(Proportional)、積分(Integral)、および微分(Derivative またはDifferential)の3つの要素によって無くすように出力値を制御する方法である。流量計によって流量を検知して前記定量ポンプにより送り込む流量を一定にする。
図3は、食用液体油用タンク(油脂槽)T1は一つであるが、これと合流する凝固剤水溶液用の送液経路H2が複数配され、凝固剤が徐々に増量添加される豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置N3である。すなわち、苦汁槽1,2,3は複数配置された配管経路H1,H2を構成し、上記油脂槽T1から順次連結される。なお、上記経路H1,H2は循環経路K1,K2を構成している。また、この複数の配管には、各々熱交換器や乳化分散機M1が配されて、その都度温度制御されて温度領域を調整する。
【0031】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の装置を連続バッチ式に適用した豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置N4である。このバッチ式の構成は、乳化分散機M1がバッチ容器に攪拌機として備えられている。食用液体油用の送液経路H1に対して凝固剤水溶液用の送液経路H2を連結している点は、第1の実施の形態と同様である。このバッチ式の構成では、食用液体油の所定量を定量ポンプP1で定量的に回分的に送液し、凝固剤水溶液の所定量を定量ポンプP2で定量的に回分的に送液し、バッチ容器に乳化分散機が有効になる所定量以上の原料を受けてから乳化を開始し、原料が所定の満液量まで達したら、定量ポンプP1,P2を停止させて、所定時間後まで回分的に乳化分散を行う形態である。乳化分散を行う時間の合計は10秒〜60分間である。つまり1回分、2回分というように、W/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤を製造して、これを杓などで掬って豆乳凝固装置の凝固剤液ホッパーに移すなどして、次工程の凝固工程にて豆乳と混合させる。
そして、このバッチ式の実施の形態の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置N4は、豆乳タンクT3から高温の豆乳と混ぜ合わせて、凝固分散機M2に送り込む機構(豆乳凝固部)を別に備える。豆乳温調タンクT3から定量ポンプP3によって豆乳を送る豆乳送液経路H5が循環配管で構成されている。すなわち、W/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤は、凝固分散機M2に送り込むために、一旦貯蔵タンクTtに保存されて、定量ポンプPtにより豆乳送液経路循H5に送られる。
なお豆乳凝固部は、図4に示す機構以外に、従来の豆乳凝固機の何れでも限定されないが、乳化凝固剤を豆乳に均一に分散し、解乳化させる効果のある攪拌混合機を備えていることが望ましい。すなわち、従来の豆乳凝固機(例えば、ワンツー式凝固機、スクリュー式凝固機、インライン式で静止ミキサー又は回転攪拌式ミキサーを用いた連続式ないしはバッチ式凝固機、分散攪拌力が強いインライン式で静止ミキサー又は回転攪拌式ミキサー等)を用いることが好ましい。
本発明におけるバッチ容器(即ち、乳化室)は乳化分散機M1の最小の乳化室に対して、容器だけ相対的に非常に大きくなった形態とみなすことができ、乳化分散機M1の乳化室ケーシング内容積はステータ・ロータ部の外形体積に対して20〜200倍量程度の大きさである。冷却手段として外側に2重ジャケットを備え、内側に蛇管を備えた冷却手段を設ければ冷却効果を高めることもできて、乳化凝固剤の乳化状態を安定にすることができる。なお、図示しないが、乳化分散機を備える該バッチ容器を交互に切り替えるように複数備えて、各バッチ容器から定量ポンプPtによって連続的に送液する形態であっても良い。
【0032】
図5は、バッチ式ではあるが、上記乳化分散機(乳化室が比較的大きいバッチ容器、乳化室ケーシング内容積はステータ・ロータ部の外形体積に対して2〜20倍量程度の大きさ)の下方に配管H4が連結され、この配管H4と、上記図4の豆乳温調タンクT3から豆乳を送る豆乳送液経路H5とが連結可能に構成されている豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置N5である。いわゆるバッチ連続式の形態である。この例では、回分的に乳化凝固剤を製造しても、これを杓などで掬って豆乳と混合させる必要はなく、連続的に豆乳と混合させることができる。豆乳送液経路や乳化凝固剤を送る配管に定量ポンプが配されることにより、勢い良く均一に混ざり合い、品質の良い豆乳凝固になる。ここで、図示はしないが、図1の豆乳温調タンクT3から定量ポンプP3によって豆乳を送る豆乳送液経路H4と連結されるか、又は、前記乳化凝固剤を送る配管H4に定量ポンプが配されることが好ましい。なお、本発明におけるバッチ容器(即ち、乳化室)は連続式乳化分散機M1の最小の乳化室容積に対して1倍以上、一回り1大きくなったサイズから中程度(10倍まで)の大きさである。連続的なワンパス式に比べて、容器だけが相対的に大きくなった形態であって、乳化室内で一定の滞留時間(1〜60秒)を設けることになり、均一で微細な乳化状態を作り出し、冷却手段として外側に2重ジャケットを備え、内側に蛇管を備えた冷却手段を設ければ冷却効果を高めることもできて、乳化凝固剤の安定にすることができる。
【0033】
(第3の実施の形態)
本実施の形態の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置N6としては、図6に示すように、熱交換器や流量計等がなくても構成することができ、又、循環管路がなくても構成することができる。すなわち、食用液体油タンクT1から定量ポンプP1によって食用液体油を送る食用液体油用の送液経路H1と、凝固剤水溶液タンクT2から定量ポンプP2によって凝固剤水溶液を送る凝固剤水溶液用の送液経路H2と、食用液体油と凝固剤水溶液とを乳化状態に攪拌混合する乳化分散機を備える凝固剤調合部N6を構成することもできる。そして、豆乳温調タンクから定量ポンプP3によって豆乳を送る豆乳送液経路H5と連結される豆腐製造用の豆乳凝固装置Z3として構成することもできる。
【0034】
(比較例)
図7に示すように、食用液体油を貯蔵するタンクT1と凝固剤を貯蔵するタンクT2とを貯蔵タンクT4で混ぜ合わせてこれを乳化分散機M1で混合するが、この乳化分散機M1で混合したものを貯蔵タンクT4に戻す循環式で構成した比較例の装置である。すなわち、乳化分散機M1の後の連結箇所KBから貯蔵タンクT4に戻す構造である。この実施の形態と上記各実施の形態の装置とを比較する。特許文献1に記載されているように、図7に示す比較例では、その循環の過程で製造した乳化させた乳化凝固剤が循環の過程で、次第にもとの状態に戻ろうとしたり、乳化させた乳化凝固剤を破壊してしまう現象(解乳化)が見られた。また、食用液体油と凝固剤が定量ポンプで送られていないので、そもそもW/O型(油中水滴型)の乳化させた乳化凝固剤が得られ難いものである。つまり、食用液体油の比重は0.8〜0.9程度あり、凝固剤の比重は1.2〜1.4程度であるが、これらをW/O型(油中水滴型)の乳化させるためには、その水相−油相比(重量比)もさることながら流量を調整する必要がある。
【0035】
(豆腐製造用の乳化凝固剤の製造条件)
本発明は、原材料が凝固剤水溶液と食用油脂のみである。従来乳化や乳化安定の目的に必須であった食品添加物の乳化剤や安定剤は使用しない。ここで、乳化凝固剤(乳化剤を含むものを除く。)とは、配合される原材料・食品添加物に凝固剤を加えないことを意味し、乳化剤とは効果的な乳化作用を有し、従来から乳化目的に食品にしようが認められている原材料・添加物を意味する。
凝固剤水溶液とは、食品添加物や食品原材料である塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウム(いわゆる「苦汁」)の少なくとも何れか1つを含む水溶液で、代表的なものは塩化マグネシウムや苦汁である。溶解度未満の硫酸カルシウムや、微粒の硫酸カルシウムや、他に有機酸(クエン酸やグルコン酸等)を含んでいても良い。
【0036】
食用油脂は、DAGを1%以上含む油脂であって、一般に食用に製造した油脂であればよい。少なくとも乳化時には固形脂(脂肪)ではなく食用液状油脂であることが好ましい。さもないと流量計や配管中に沈着して問題となる。すなわち、少なくとも乳化分散以前ではその油脂の融点(凝固点)ないしは混合油脂の場合、最も高い融点(凝固点)を超える温度に保持しておく。その食用油脂に含まれるDAGは合成品・添加物ではなく油脂製品に元々内在する、天然成分である。市販製品では、例えばオリーブ油、コーン油、米油、綿実油、パーム油、胡麻油、大豆油、ナタネ油等で、一般的に凡そ0.1〜15%程度のDAGが含まれている(表4参照)。その含有量は、油脂原料やその状態、搾油方法、精製方法などによって異なる。例えば、同じオリーブ油でもバージンオイルとピュアオイルではDAG含有量は異なる。例えば、オリーブ油では、ピュアオイルとバージンオイルとを混ぜて使用しても良く、DAG含有量の異なる油脂(加工油脂も含む)をブレンドして、乳化安定性や豆乳凝固遅効性を調整することもできる。また、業務用天ぷら油のようにシリコーン(消泡剤)が添加された製品は乳化安定性や豆乳凝固遅効性に影響は少ないが、レシチンやMAGを添加した製品などは、凝固遅効性が弱まるなどの弊害がある場合もあるので避けるのがよい。またウィンタリング(低温処理)によって沈殿や濁りを取り除いたサラダ油でもよいが、融点の高いDAG含有量が極端に少なくなった油脂は本発明には好ましくない場合がある。
表4は、乳化のしやすさ(乳化分散後、容易にW/Oエマルションになるかどうか)、乳化安定性(一旦安定そうなW/Oエマルションが得られても、45℃という加温条件(加速試験)で分離してしまう場合と安定な場合がある)を表したものである。
安定度の評価法としては、乳化物をプレパラートに微量採取しカバーグラスを押し当てて直ちにデジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX-500F)を用いて観察と撮影を行い、45℃恒温槽に入れて1時間後、再び同様に観察と撮影を行い、乳化物の状態変化を比較して判断することとした。撮影した2枚以上の写真から全ての粒子径を測定して粒度分布を求めた。乳化分散の“所定温度”は油脂の融点(凝固点)に応じて異なるが、大凡45℃であれば殆どの食用油脂は液状である。比較対象とする油脂の融点以上で液状であればよく、例えば、35℃2時間以上、25℃4時間以上、15℃8時間以上、5℃16時間以上という条件を設定してもよい。なお、本発明における乳化凝固剤の水相の粒径は0.1〜20μmの範囲であり、大凡1〜10μmにあると好ましく、1〜5μmにあれば最も好ましい。
【0037】
なお、乳化後は放冷、熱交換器による冷却、冷蔵庫保管などによって融点以下になっても構わない。乳化後であれば融点付近や融点以下の温度になっても、油相(融点の高いDAGも含む)が一部固化や結晶化したとしても本乳化凝固剤に流動性ないしは可塑性があれば、パーム油やヤシ油、場合によっては各種油脂の硬化油など融点の高い加工油脂でも利用できる。機械を使用して豆乳添加する前に、乳化凝固剤を油脂の融点以上に加温して、少なくとも流動性を高めておくようにする。なお、融点の高い油脂を増やすと、場合によっては配管を閉塞するほどに固化してしまうので、融点以上を保持する温度管理が必要である。
前記豆腐用凝固剤を、豆乳に添加する直前まで、冷却以外の物理的な刺激、加熱などを行わない。多少分離した状態でも、前記製造条件に準じて改めて再乳化するか、一旦水相と油相を分離させてから再度前記製造条件で改めて乳化によって再生することも可能であり、生産後、残留した乳化凝固剤のロスを最小限に抑えることも可能である。
【実施例1】
【0038】
苦汁(塩化マグネシウム)は、赤穂化成株式会社製「ソフトウェハー」を使用し、植物性油脂としてオリーブ油(市販品;株式会社Jオイルミルズ製ピュアオリーブ油)を使用し、塩化マグネシウム水溶液の温度は、19.1℃であり、オリーブ油の温度は、10.3℃、ないしは4.1℃とした。
予め塩化マグネシウムと水道水を2:1の割合で調製し、66.7%w/w(比重約1.3、4.3M)の濃厚な塩化マグネシウム水溶液とし、この塩化マグネシウム水溶液500gとオリーブ油500gを同量ずつ粗く混合しながら乳化分散機(太平洋機工株式会社製「マイルダー」研究室用)に供給して、出口バルブを絞り、内圧を0.001〜1.0MPa(好ましくは0.01〜0.3MPa)かけながら、ロータの回転数10000rpmで連続的に乳化分散を行い、乳化凝固剤(豆腐用凝固剤)を得た豆乳凝固装置は凝固分散機(プライミクス株式会社製「TKホモミクサーMarkII40型」)M1を備えたバッチ式凝固機(株式会社高井製作所製「ミニカーディ」)を用い、第1の実施の形態の装置N1を使用し、冷却手段Rはマイルダーのジャケット部(図1の符号Rの位置)に配置して、冷却する場合は10℃の冷水(好ましくは0〜5℃)を通した。
豆乳への凝固剤反応は、定法により得られた絹ごし豆腐用の豆乳(13%brix、80℃)12リットルを平型箱に入れて、乳化凝固剤(豆腐用凝固剤)の添加量は豆乳1リットルに対して塩化マグネシウム(6水塩)換算量として2.8gとし、乳化調製後60分以内の乳化凝固剤を注射器(シリンジ式計量ポンプ)で計量して豆乳に注入し、前記凝固分散機M1の回転数2000rpmで約20秒間攪拌しバッチ式凝固を行なった。熟成時間を30分間として豆腐(絹ごし豆腐)の観察と試食による評価を行ない、表1に示す結果を得た。実施例1−3、実施例1−1において、何れも肌が滑らかでプリン状の綺麗な絹ごし豆腐が製造された。実施例1−2のように、乳化時間が0.5分間では、攪拌熱(摩擦熱)によって、乳化物の温度が30℃近くに上昇して、乳化物は極端に不安定になり、少し豆腐の切断面が荒れて、離水が多くなった。実施例1−1のように冷却手段Rを用いて乳化後の温度を抑制した場合や、実施例1−3のように特に油脂温度も予め冷却(冷蔵)して低くした場合、できあがる乳化凝固剤の温度上昇は抑えられて、それらを用いて作った絹豆腐の品質は良かった。(なお比較例として、80℃の豆乳に水苦汁単独で加えた場合の凝固物は肌が荒れた、脆いものであるため、比較するに値しないので、割愛した。)
【0039】
【表1】

【実施例2】
【0040】
苦汁(塩化マグネシウム)は、ナイカイ塩業製「ホワイト苦汁」を使用し、植物性油脂としてオリーブ油(市販品;株式会社Jオイルミルズ製ピュアオリーブ油)を使用し、塩化マグネシウム水溶液の温度は、予め冷凍庫に置いて−7℃とし、オリーブ油の温度は、予め冷蔵庫に置いて4.2℃とした。
予め塩化マグネシウムと水道水を2:1の割合で調製し、66.7%w/w(比重約1.3、4.3M)の濃厚な塩化マグネシウム水溶液とし、この塩化マグネシウム水溶液500gとオリーブ油500gを凝固分散機(太平洋機工株式会社製「マイルダー」研究室用)を用いてロータの回転数10000rpmとして乳化分散を行った。なお、本乳化凝固剤中の塩化マグネシウム濃度は約33%wt、比重は約1.1である。
第2の実施例では、循環しない一方通行(ワンパス式)の簡易的な装置であり(図6)、系中の温度を制御することをせずに、乳化状態が良好であると判断された時点で凝固分散機(攪拌混合機)M1を停止させた。冷却手段Rは配置されていない。
次に、定法により得られた絹ごし豆腐用の豆乳(13%brix、80℃)で静止型ミキサー(株式会社ノリタケカンパニー製スタティックミキサーと株式会社高井製作所製TSミキサーを連結)を用いて、乳化調製後5分〜60分以内の範囲で乳化凝固剤を流れる豆乳中に連続的に添加し、凝固を行なった。凝固剤添加量は豆乳1リットルに対して塩化マグネシウム換算量として2.5gとし、豆乳流量200、300、420リットル/時、前記豆乳凝固剤1.36、2.05、2.86リットル/時で、3リットル型箱(凝固用容器5)に受けてから凝固するまでの凝固遅延時間を目視で判断して計測した。具体的には豆乳の回転流入させて豆乳計量終了時点から豆乳の流れが完全に停止するまでの時間を計測した。30分間の熟成後、得られた豆腐は、型箱から取り出し、直径20mm、高さ20mmの円柱状に切り出し、23mmのプランジャーを使いレオメータ(不動工業製NRM−2002J、プランジャー直径20mm、試料台上昇速度60mm/分)で硬さ(破断力)、歪み、歯切れ、食味を測定した。また、見た目で滑らかな絹ごし豆腐であるか等の評価を行った。その結果、表2の実施例2−2のように、豆乳流量300リットル/時の条件が、最も豆腐の硬さが高く、200リットル/時では少し柔らかい豆腐となり(実施例2−1)、420リットル/時では少し肌の荒れた豆腐となった(実施例2−3)。
【0041】
【表2】

【実施例3】
【0042】
実施例2と同様に、植物性油脂としてコーン油(ボーソー油脂株式会社製)とパーム油(富士製油株式会社製)の1:1配合油と、大豆油(株式会社Jオイルミルズ製)、米油(株式会社Jオイルミルズ製)、コーン油(ボーソー油脂株式会社製)および菜種油(株式会社Jオイルミルズ製)を使用し、苦汁と各油脂の温度は13℃で、実施例2同様に、乳化凝固剤を調製した。凝固剤の乳化装置および豆乳凝固装置は、第2の実施の形態の装置を使用した。実施例1と同じ凝固分散装置M1の回転数は2000rpmとした。
次に、定法により得られた絹ごし豆腐用の豆乳(13%brix80℃)に乳化凝固剤を添加し、豆乳凝固部の凝固分散機M2で連続的に分散攪拌して、出口で3リットルの凝固用容器で受けて凝固・熟成を行なった。凝固剤添加量は豆乳1リットルに対して塩化マグネシウム換算量として2.8gとし、熟成時間を30分間とした。このようにして製造した豆腐は、型箱(凝固用容器)から取り出し、直径20mm、高さ20mmの円柱状に切り出し、23mmのプランジャーを使いレオメータ(不動工業製)で硬さ(破断力)、歪み、歯切れを測定した。試作評価した結果を表3に示した。また、見た目で綺麗な絹ごし豆腐が製造されたか否かについて内相を観察し、試食して評価した。
実施例3−2のように大豆油でも可能であり、凝固遅効性は弱く、豆腐は若干脆さを感じたが、滑らかな肌で硬さは優れていた。
実施例3−3、実施例3−4および実施例3−5のように菜種油、コーン油および米油を使用した場合においても乳化凝固剤の調整は可能であり、遅効性を発揮し、滑らかな肌で硬さも十分であった。
実施例3−1では、コーン油とパーム油とを混合したもので(コーン油+パーム油)、この場合、十分に凝固遅効性があり、少し軟らかめではあったが、豆腐の評価は高かったが少し硬さが不足した。コーン油もパーム油はDAGが比較的多く、安価な油脂である。パーム油は凝固遅効性も高い。また、パーム油は、融点が高く、単独では常温付近で固化するので扱いにくいが、パーム油対コーン油等と1:1〜1:10等に混合すれば、液状なしは白濁した液状になるので装置上も比較的取り扱いやすくなる上、凝固反応の遅効効果も高まり、肌がよりきめ細かく、より弾力のある滑らかな豆腐になる。
【0043】
【表3】

【0044】
大豆油を使用した実施例3−2では、豆乳凝固遅効性はあるものの、乳化凝固剤は長くても1分程度しか乳化状態を維持出来なかった。これは、コーン油やパーム油よりも、含まれるDAGが少ないことに起因していると考えられた。
【実施例4】
【0045】
様々な食用油の中で代表的な油脂について、DAG等の成分分析結果と、実施例1にならって一定条件で乳化物を調製したときの安定性などについて、表4に示した。乳化分散安定性、すなわち容易にW/Oエマルションになるかどうか、また45℃という加温条件(加速試験)で分離しないか、という点で評価した。乳化分散試験は図3に示すようなバッチ式で、凝固分散機(ヤマト科学株式会社製ウルトラディスパーサーLK−22、ジェネレータ付シャフト:S−25N−10G)を用いて、油脂50gを20,000rpmで攪拌しながら、4M塩化マグネシウム50gを添加して、3分間乳化を行った。
表4から明らかなように、乳化しやすさ、安定性、MAG含有量ではなくDAG含有量とよく相関していることが明かであった。DAG含有量は、文献値との違いもあり、油脂の種類やその原料、油脂の製造条件などによって大きく違うことが伺える。表4からは、いずれもDAG含有量は1〜10%の範囲である。表4には示さなかったが、各油脂中のリン脂質は全て検出限界以下(0.1%未満)であった。45℃という加温条件では、パーム油、コーン油、ピュアオリーブ油について120分間の乳化状態が確認できた。バージンオリーブ油や大豆油、ヤシ油では少し不安定な状態であった。マカデミアナッツ油やベニバナ油をはじめ、エゴマ油(表4からは割愛)では数分も乳化状態が得られなかった。マカデミアナッツ油、ベニバナ油でも冷却手段やワンパス乳化方式を用いれば、それよりも安定な乳化物が得られる。なお、データは示したが、DAG以外の遊離脂肪酸(酸価)、構成脂肪酸の飽和脂肪酸量や二重結合数、粘度(冷却時の粘度)等との明確な相関関係は認められなかった。製油工程上は、MAG、リン脂質、遊離脂肪酸の大部分は除かれる。しかし、DAGはTAGから分離されにくいため、油脂製品中に混在している。
なお市販油脂製品の酸価については、日本農林規格基準によりほとんどの油脂製品は酸価0.2以下である。ゴマ油で4以下、オリーブ油で2以下等の上限であり自ずと制約がある。本発明における食用油脂は、例えば、日本では日本農林規格で定められる「食用植物油脂」ないしは「食用精製加工油脂」に適合する油脂製品を対象とする。
本発明に適する油脂は、油脂原料やその搾油・精製条件、加工条件などによって左右され、油脂種類はここに列記した以外の油脂でも、本発明上の条件を満足する油脂であればよく、限定されない。
【0046】
【表4】

*a 乳化しやすさ(バッチ試験)
*b 45℃分離時間(バッチ試験)
*c 遊離脂肪酸量=酸価/56×(平均分子量−38)/3/1000×100で算出。
*d 脂肪酸組成から算出。
※1 (財)日本食品油脂検査協会分析結果
※2 R.P.D'alonzo,W.J.Kozarek and R.L.Wade.:J.Am.Oil
Chem.Soc.,59,292,(1982) Journal of the American Oil Chemists' Society
※3 自社測定結果
※4 自社測定結果(B型粘度計BLアダプター使用)
【実施例5】
【0047】
次に、無機塩凝固剤の濃度と、豆腐の品質と、製造単価との関係について実験・検討した結果が表5である。装置としては、図1、図2に示したように、油脂用タンクT1と油脂用定量ポンプP1(と油脂用流量計と油脂用指示調節計)からなる油脂供給装置と、苦汁用タンクT2と苦汁用定量ポンプP2(と苦汁用流量計と苦汁用指示調節計)からなる苦汁供給装置を備えて、両供給装置の出口を、乳化分散装置M1の供給口に連結して、該乳化分散装置の出口から乳化凝固剤を得るワンパスプロセスを用いた。特に図2のようにチラー水等を冷媒に用いた冷却手段(熱交換器)R1、R2を設けることも効果的である。特にワンパス連続式の場合、攪拌熱の発生を最小限に止めることができ、安定な乳化状態を保持できるので、好ましい形態である。
表5に示す各実施例では、苦汁(塩化マグネシウム)及び塩化カルシウムは、「ソフトウエハー」「カルメイト」(いずれも赤穂化成株式会社製)を使用し、植物性油脂としてオリーブ、ベニバナ油(いずれも株式会社Jオイルミルズ製)を使用した。冷却手段は原料タンクにジャケットタンク(T1,T2)を用いて10℃の冷水を冷媒とし、各原材料液の温度を約15℃とした。各原料の循環経路には背圧弁V1,V2を設けて、0.1MPaに調整した。乳化分散機M1は太平洋機工株式会社製「マイルダー」(研究開発用、ジャケット付、冷媒として10℃冷水を通水)を用い回転数8,000rpmで乳化分散を行い、出口に背圧弁V3を設けて内圧は0.1MPaに調整した。豆乳は定量ポンプP3によって流速40リットル/分で送液されるのに対して、塩化マグネシウム添加量0.3%又は塩化カルシウム0.2%になるよう、また凝固剤水溶液対食用油の比を表5に示すとおりになるよう、各定量ポンプP1,P2によって各凝固剤水溶液流量と各食用油流量に設定した。例えば、表5の実施例5−1の場合、凝固剤水溶液(2M塩化マグネシウム)を324g/分、食用油(オリーブ油)を324g/分で定量送液して乳化分散機M1へ供給するようにした。その他の条件は同様に設定した。乳化分散機M1から得られた乳化凝固剤を648g/分の流量でインラインで豆乳配管へ供給し、乳化分散機M2(プライミクス株式会社製TKパイプラインホモミクサー)を用いて回転数2,000rpmで拡散分散し、豆乳に乳化凝固剤を分散させて、約15秒間、箱型に受けて、その凝固剤入り豆乳約10リットル分を30分間静置・熟成させて絹ごし豆腐を試作した。
その結果、実施例5−1、実施例5−2において、何れも肌が滑らかでプリン状の綺麗な絹ごし豆腐が製造された。比較例5−2のように、ベニバナ油で濃厚な凝固剤液の乳化条件では不安定であり、豆腐の切断面が荒れて、離水が多くなった。実施例5−4のように食用油量が低くても乳化状態不安定であった。
油脂としてオリーブ油を使用して、比較例としてベニバナ油を使用した。各々のDAG量は油脂中5.4、2.4%(%w/w)であった。1、2、4M塩化マグネシウム(常温でほぼ飽和)、4M塩化カルシウム(常温でほぼ飽和)を使用した。豆腐用無機塩凝固剤水溶液と食用油脂が重量比で1:0.2〜1:3(好ましくは1:0.4〜1:1〜1:1.5)である乳化物を乳化時ないしは乳化後に50℃以下に冷却することで(正確には、使用する油脂の融点・凝固点近傍または使用する凝固剤液の凝固点まで)、油脂冷却時の粘度上昇を抑制する。例えば、コーン油の場合、融点−10〜−15℃で、乳化直後に30℃にあるとき、10〜25℃まで冷却する。また固体脂と言われるパーム油の場合、融点27〜50℃とされるが、実際に固化した市販パーム油を加温していくと60℃でようやく溶解し、その後、室温に放置し冷却すると30℃程度までは白濁しないので、乳化直後に60℃にあるとき、30〜50℃付近まで冷却する。なお、傾向として油相が少ない方が乳化物の粘度が出やすく、乳化状態をより安定にできる。市販の乳化凝固剤の粘度は室温で1〜2Pa・s程度であり、容器からの取り出しやハンドリングを考慮しているが、本発明においては、前記のように凝固機と連結するなどの形態によっては、乳化凝固剤の粘度は高くてもよい場合もあり、2〜10Pa・sであってもよく、ポンプや流量計の選定によっては10〜100Pa・sであっても可能である。
【0048】
【表5】

*市販製剤とはポリグリセリン脂肪酸エステル数%を乳化剤として含むマグネスファインTG(花王製)
【0049】
実際は前記水相−油相比が1:0.5〜1:1〜1:1.5がコスト的にも安価で経済的な範囲で、油相がそれ以下では乳化状態が不安定で豆乳凝固遅効効果が低下し不利になり、それ以上では油脂の量が増して原価が高くなる、豆乳への製剤添加量が増すなど不利な面がある。
【0050】
また、濃厚な無機塩凝固剤液のモル濃度として、塩化マグネシウムの場合、少なくとも2M以上がよく、好ましくは3〜5Mで、上限は6.1M以下である。塩化マグネシウムの飽和濃度は、例えば10℃で4.8M、40℃で5M、80℃で5.6M、100℃で最大6.1Mであり、温度による上限濃度がある。同じく上限濃度として、硫酸マグネシウムは最大3.8M、塩化カルシウムは最大8.8Mが上限となる。濃厚な無機塩凝固剤で、一部溶けきらない結晶を含む場合や微粒子の硫酸カルシウム(すまし粉)の場合のようにスラリーであってもよいが、結晶が多いと沈降によって凝固剤のムラが生じたり、豆乳凝固反応の遅効性の制御が難しくなるだけでなく、ポンプやバルブや流量計などを損傷してしまう恐れがあるので、あまり好ましくない。
実用上は、水相(分散相)が多いと油相(連続相)も増やすことになり、原価を上げてしまう。そこで水相を減らし、単価の高い油相を抑えるのが経済的に有利である。しかもその水相中の製剤中の塩濃度(例えば塩化マグネシウム濃度)を高めれば、製剤の使用量が減らせるので、原価を更に抑えることが可能になる。なお、非特許文献2では、各種塩溶液で0.5M以下、すなわち0.5Mの希薄溶液について開示されている。その非特許文献2の図1から、乳化安定性を高濃度領域まで演繹して見た場合、特に塩化マグネシウムや塩化カルシウムは高濃度では不安定になることが予想されるが、反面、乳化物の粘度上昇による乳化物の安定性向上に繋がる。2M未満、特に1M未満の希薄な無機塩溶液では乳化物の粘度上昇が少なく影響は少ないが、濃厚液では特異な範囲になり、粘度上昇および攪拌熱による発熱、機械的な乳化物の解離作用が大きな障害になる。そのため、本発明のようにワンパスプロセスや冷却手段Rを併用することが好ましい。なお市販の粗製海水塩化マグネシウムの製品は大方が塩化マグネシウムに換算したモル濃度として2M以上(1L中の塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムの各モル数の合計)である。
【0051】
前記食用油脂の蒸留水に対する界面張力が室温で34mN/m以下である。
塩化マグネシウム水溶液等とオリーブ油や米糠油でW/O型乳化状態になるが、界面張力(表面張力)の低いDAG含有量によって、油脂全体の界面張力(表面張力)が低下して、外側の分散相として安定になるよう作用(界面活性作用)がある。この点は非特許文献3に、TAGとDAGの界面張力値が記載されており、それから類推もできるが、市販油脂に元々含まれるDAG含有量と界面張力と、さらには濃厚な無機塩水溶液(特に苦汁)とのW/O型乳化の関係はこれまで知られていない。
【実施例6】
【0052】
次に、各種代表的油脂について、協和界面科学社製自動表面張力計接触角計DropMasterシリーズDM301を用いて、「懸滴法」による液体の表面・界面張力の測定(室温)を行った。
【0053】
【表6】

【0054】
蒸留水に対する界面張力では室温下で(好ましくは乳化する際の温度において)34mN/mを超えると乳化しにくく、安定性も低く、34mN/m以下、好ましくは30mN/m以下であると、W/O型乳化物ができやすく安定性も高いことが分かる。界面張力が34mN/mを超えるエゴマ油では乳化しないが(比較例6−1)、界面張力が30〜34mN/mである大豆油では乳化しないことはなく、乳化安定性は低いものの、短時間は乳化物になる(実施例6−1)。エゴマ油のDAG含有量が3.6%と、大豆油3.2%よりわずかに多いが、界面張力の方が乳化において支配的といえる。なお、マカデミアナッツ油のように界面張力は29.6mN/mと大豆油より低いが、DAG含有量が大豆油3.2%より2.2%と少なく、DAG含有量が乳化において支配的といえる(比較例6−2)。一方、乳化剤など界面活性剤があると界面張力は低下して、例えば10mN/m未満に低下する。従って特に界面張力が室温下で10〜34mN/mである油脂が本発明実施上、好ましい油脂である。即ち、DAGが5%程度のコーン油やDAGのように、DAGが少なくとも1%以上、好ましくはDAG3%以上含んで、かつ/あるいは界面張力が10〜34mN/m、好ましくは10〜30mN/mであれば比較的乳化安定性の高い乳化物が得られる油脂といえる(実施例6−2、実施例6−3)。当然ながら温度が高まると界面張力も更に下がり、乳化には有利になるが、反面、油脂や乳化物の粘度低下により、乳化粒子の合一が起きやすく不安定になりやすい面がある。なお、上記界面張力10〜34mN/mである油脂であっても、ジアシルグリセロールが少ない場合、乳化しやすさ、乳化安定性が共に低い乳化物になるといえる。
【0055】
豆腐用凝固剤の水相の粒径は、粒径平均0.01〜100μmである。
本発明は、W/O型乳化状態を保持し、豆乳の凝固反応を十分に遅効させることができる。水相の粒径が、平均で0.01〜100μm、好ましくは平均で0.1〜10μmにあるよう調製した乳化分散型豆腐用凝固剤である。これ以上粗いと不安定な乳化状態になり、豆乳凝固反応の遅効性が低くなる。逆に細かすぎても、乳化状態は安定で豆乳凝固反応の遅効性は高まるものの、粘性が高まり、自動計量しにくくなり、豆乳に分散しにくく凝固ムラを引き起こす場合がある。
上記粒径分布測定には、乳化物をスライドグラスに少量採取してカバーグラスで押し広げた状態で、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製、コントローラVHX-500F、高解像度レンズVH-Z500Wなど)を用いて、透過撮影した写真から、約100μm四方内にある水相粒子の直径を、2点間距離測定機能で計測し、平均径(またはメジアン径)、標準偏差を計算した。
凝固分散機条件、油脂種類、温度などによって水相の粒径を変化させることが可能である。粒径が細かいと凝固反応の遅効作用が高まり、粒径が粗いと逆に遅効作用は低下することから、乳化分散条件によって、凝固反応のコントロールを行うことが可能になる。
なお、以上の実施の形態において、豆乳温度は、0〜99℃がよく、さらには60〜95℃が好ましく、実際に常用するのは75〜85℃が、最も好ましい。
【0056】
以上、上記実施の形態では、絹ごし豆腐の製造を例に説明したが、この製造方法により製造される豆腐は、ソフト木綿豆腐、普通木綿豆腐、生揚げ生地、厚揚げ生地、油揚げ生地等が含まれる。
【符号の説明】
【0057】
N1,N2,N3,N4,N5,N6 豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置、
Z1,Z2,Z3 豆腐製造用の豆乳凝固装置、
T1〜T3,T4,Tt 貯蔵タンク、
H1〜H5,K1,K2 送液経路、
M1,M2 乳化分散機、
M,M2 凝固分散機、
R,R1〜R3 熱交換器(冷却手段)、
P1〜P3,Pt 定量ポンプ、
F1,F2 流量計、
V,V1,V2 背圧手段(背圧弁)、
B1,B2,KB 連結箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用液体油タンクから定量ポンプによって食用液体油を送る食用液体油用の送液経路と、凝固剤水溶液タンクから定量ポンプによって凝固剤水溶液を送る凝固剤水溶液用の送液経路と、食用液体油と凝固剤水溶液とを乳化状態に攪拌混合する乳化分散機を備え、
食用液体油用の送液経路に対して凝固剤水溶液用の送液経路を連結して、定量ポンプで送られる食用液体油に対して定量ポンプで送られる凝固剤水溶液を所定の割合で加えることで、W/O型(油中水滴型)に乳化させた乳化凝固剤(乳化剤が添加されたものを除く)を製造することを特徴とする豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置。
【請求項2】
前記凝固剤水溶液タンクから定量ポンプによって凝固剤水溶液を送る凝固剤水溶液用の送液経路が複数設けられ、定量ポンプで送られる食用液体油に対して定量ポンプで送られる凝固剤水溶液を複数回所定の割合で加えることで、W/O型(油中水滴型)に乳化させた乳化凝固剤を製造することを特徴とする請求項1記載の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置。
【請求項3】
前記食用液体油用の送液経路、及び/又は、前記凝固剤水溶液用の送液経路に、冷却手段が配されていることを特徴とする請求項1ないし2のいずれか1項記載の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置。
【請求項4】
前記乳化分散機は、冷却手段、及び/又は、加圧手段を備え、乳化分散機による攪拌時に加圧するか、冷却するか、又は、加圧しながら冷却することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置。
【請求項5】
前記食用液体油用の送液経路、及び/又は、前記凝固剤水溶液用の送液経路に流量計と指示調節計が設けられるとともに、各原料液の流量信号から前記各定量ポンプの吐出量を自動調整するように前記各送液経路に流量制御機能を設けることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置。
【請求項6】
前記食用液体油用の送液経路、及び/又は、前記凝固剤水溶液用の送液経路に各々循環する循環配管を設けて、その戻り配管上に背圧手段を配することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項記載の豆腐製造用の乳化凝固剤の製造装置を使用して、前記乳化分散機に、製造された乳化凝固剤を送る配管が連結され、豆乳タンクから定量ポンプによって豆乳を送る豆乳送液経路と連結されるか、又は、前記乳化凝固剤を一旦貯留するタンクから前記乳化凝固剤を送る配管に定量ポンプが配された乳化凝固剤送液経路が、豆乳タンクから豆乳を送る豆乳送液経路と連結されてなるとともに、これらを攪拌混合する凝固分散機と連結されていることを特徴とする豆腐製造用の豆乳凝固装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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