説明

豚のαS1カゼイン遺伝子、そのプロモーター、及びその用途

本発明は、豚αS1カゼイン遺伝子、豚αS1カゼイン遺伝子プロモーター、及び上記プロモーターを用いた発現ベクター、上記発現ベクターを用いた目的たんぱく質の製造方法を提供する。本発明のプロモーターは、目的たんぱく質の乳線特異的発現を促進するので、本発明のプロモーターを用いて形質転換された動物は乳汁の中に目的たんぱく質を高濃度で分泌するようになって有用たんぱく質の生産に有利に使用できるという長所を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚αS1カゼイン遺伝子、豚αS1カゼイン遺伝子プロモーター、これを含む発現ベクター、及びこれを用いた目的たんぱく質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬分野で経済的付加価値の高いEPO等、有用たんぱく質の生産を極大化する方法として細胞培養法による量産方法が主に使われている。
【0003】
大韓民国特許出願第94−12082号には、改変された組換えヒト赤血球造血因子(rhEPO)遺伝子を含む発現ベクターが開示されており、この発現ベクターで形質転換させた動物細胞株COS−7(ATCC CRL 1651、African Green Monkey Kidney Cell)ではEPOを量産することができたが、この方法では継続的に形質転換させなければならないという面倒さによって量産には適しないという問題がある。大韓民国特許公告第10−0232640号、第10−0434729号等でも形質転換細胞株培養法によりEPOを生産する方法が開示されているが、この細胞培養方法は、動物の血液を培養培地として利用するため、生産費用が高まり、培養技術にとって専門的な知識が求められる。
【0004】
一方、形質転換動物を用いた有用たんぱく質生産方法は、動物が分泌する体液中に目的たんぱく質が含まれるので、既存の細胞培養法に比べて目的たんぱく質の生産、分離、精製が容易であり、優れた活性も維持されるので、この分野に対する関心が急増している。大韓民国特許第10−0358754号には、豚の乳汁の中でEPOを生産する形質転換動物(セロミ)が開示されているが、ここに使用したプロモーターは乳汁の構成成分のうち、小さい部分を占める乳清成分のプロモーター(WAP)であった。
【0005】
本発明者は、乳汁内で目的たんぱく質を高い効率により発現する乳線特異的プロモーターを開発するために研究した結果、αS1カゼイン遺伝子及びそのプロモーターに対する塩基配列を解明し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】大韓民国特許出願第94−12082号
【特許文献2】大韓民国特許公告第10−0232640号
【特許文献3】大韓民国特許公告第10−0434729号
【特許文献4】大韓民国特許第10−0358754号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、豚αS1カゼイン遺伝子及びそのプロモーターを提供し、これを用いて目的たんぱく質を量産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、豚αS1カゼイン遺伝子を提供する。
【0009】
本発明の豚αS1カゼイン遺伝子は、具体的にプロモーター、及び3’UTR(非翻訳領域)部位を含む配列番号1の塩基配列を含む。
【0010】
また、本発明は配列番号1の塩基配列のうち、1番目から9300番目までの塩基配列に該当する配列番号2のプロモーターを提供し、上記プロモーターは構造遺伝子の5’側に位置して構造遺伝子の発現を調節する。
【0011】
本発明の豚αS1カゼイン遺伝子またはプロモーターは、配列番号1または配列番号2の塩基配列に1つ以上の崩壊(disruption)、欠失(deletion)、挿入(insertion)、点(point)、置換(substitution)、ナンセンス(nonsense)、ミスセンス(misinse)、多型(polymorphism)、及び再配列突然変異(mutation)が生じた機能的な等価物のうちから選択される1つとなることができる。
【0012】
また、本発明は配列番号2のプロモーター全体または一部を含む発現ベクターを提供する。好ましくは、配列番号3、または配列番号4の塩基配列を本発明の発現ベクターは含む。上記配列番号2、配列番号3、または配列番号4の塩基配列はベクターに挿入されてプロモーターの役割をし、上記の配列をプロモーター配列または豚αS1カゼイン遺伝子プロモーター配列という。本発明で使用する’豚αS1カゼイン遺伝子プロモーター’という用語は、豚αS1カゼイン遺伝子から由来したプロモーターを意味する。
【0013】
配列番号3及び配列番号4は、配列番号1の豚αS1カゼイン遺伝子全体ゲノム配列のうち、各々3568番目から9037番目までの塩基配列、4321番目から9300番目までの塩基配列に該当し、共通的にエクソン1領域を含む。
【0014】
本発明の発現ベクターは、必要によって適切な位置に調節因子、即ち更に他のプロモーター、エンハンサー(enhancer)、選択的標識遺伝子(selective marker)、5’−UTR(非翻訳領域)、3’−UTR、ポリアデニル化シグナル(polyadenylation signal)、リボソーム結合配列、ゲノムの特定部位に挿入できる塩基配列、イントロン、またはWPRE(woodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory element)などをさらに含むことによって、形質転換細胞株の構築を容易にし、目的たんぱく質の発現量の極大化及び発現の安定性を図ることができる。
【0015】
選択的標識遺伝子は、ネオマイシン抵抗性遺伝子(neomycin−resistant gene)などを使用し、市販するベクターから該当部分を切断して使用することができる。ネオマイシン抵抗性遺伝子は、細胞株構築時に使われるG418((2R,3S,4R,5R,6S)−5−アミノ−6−[(1R,2S,3S,4R,6S)−4,6−ジアミノ−3−[(2R,3R,4R,5R)−3,5−ジヒドロキシ−5−メチル−4−メチルアミノオキサン−2−イル]オキシ−2−ヒドロキシシクロヘキシル]オキシ−2−(1−ヒドロキシエチル)オキサン−3,4−ジオール)(2R,3S,4R,5R,6S)−5−amino−6−[(1R, 2S,3S,4R,6S)−4,6−diamino−3−[(2R,3R,4R,5R)−3,5−dihydroxy−5−methyl−4−methylaminooxan−2−yl]oxy−2−hydroxycyclohexyl]oxy−2−(1−hydroxyethyl)oxane−3,4−diol)試薬に対して抵抗性を表す遺伝子であって、プロモーター調節下にたんぱく質を発現する動物細胞株構築時、効率的な選択的標識遺伝子として作用することができる。
【0016】
インシュレーターはプロモーター付近に存在する調節因子の影響を助けて、位置非依存的な(position−independent)発現を助ける因子であって、プロモーターの調節下にたんぱく質を安定的に発現できるようにし、市販されるベクターから該当部分を切断して使用することができる。
【0017】
WPREは、mRNAの安定化に寄与してたんぱく質合成量を増大させることができる調節因子であって、プロモーターの調節下にたんぱく質を大量に発現できるようにする。WPREはまた市販されるベクターから切断したものでありうる。
【0018】
また、本発明の発現ベクターは、配列番号5または配列番号6の塩基配列をさらに含む。上記配列番号5または配列番号6の塩基配列は、ベクターの3’armを形成し、形質転換細胞株の構築を容易にし、目的たんぱく質の発現量の極大化及び発現安定性を図ることができる。
【0019】
配列番号5及び配列番号6は、各々、配列番号1の豚αS1カゼイン遺伝子全体ゲノム配列のうち、26344番目から30599番目までの塩基配列、14447番目から19401番目までの塩基配列に該当する。
【0020】
豚αS1カゼイン遺伝子全体ゲノム配列のうち、配列番号3、4、5、6の塩基配列の位置は図1に示した通りである。
【0021】
本発明のベクターは、好ましくは配列番号3の塩基配列及び配列番号5の塩基配列を含む。
【0022】
具体的に、本発明のベクターは、図2の開裂地図を有するものであって、pBC1−豚αS1カゼイン(casein)ベクターを、韓国生命工学研究院(KRIBB、大田、大韓民国)である、韓国生命工学研究院遺伝子銀行に寄託番号KCTC11324BPとして寄託した。本発明の発現ベクターpBC1−豚αS1カゼインベクターはpBC1ベクターを基本骨格として有し、選択的標識遺伝子としてネオマイシン抵抗性遺伝子が融合されている。
【0023】
本発明の発現ベクターはプロモーター領域の塩基配列の3’側に目的たんぱく質をコードする塩基配列をさらに含むことによって、目的たんぱく質を発現することができる。
【0024】
上記目的たんぱく質は、産業上利用可能な有用たんぱく質であって、一例として、医薬品の有効性分に使われる全てのたんぱく質、即ちEPO(エリスロポエチン、erythropoietin)、アルドステロン(aldosterone)、アドレノコーチコトロピン(adreno−corticotropin)、血液凝固因子(blood clotting factor)、ゴナドトロピン(gonado−tropin)、インスリン(insulin)、プロラクチン(prolactin)、またはバソプレシン(vasopressin)などがあり、好ましくはhEPO(ヒトエリスロポエチン、human erythropoietin)である。
【0025】
本発明は、上記ネオマイシン抵抗性遺伝子、インシュレーター、WPREなどを含む発現ベクターの好ましい例として、図3の開裂地図を有するベクターを提供する。具体的にpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターを韓国生命工学研究院遺伝子銀行に寄託番号KCTC11325BPとして寄託した。
【0026】
本発明のpBC1−豚αS1カゼイン(casein)+hEPO−WPRE発現ベクターはpBC1ベクターを基本骨格として有し、本発明のプロモーター領域の3’側にヒトEPOをコードする遺伝子、及びヒトEPO遺伝子の3’側にWPREが融合されている。
【0027】
本発明の発現ベクターはノックインベクター(knock−in ベクター)として製造される。
【0028】
“ノックインベクター”はゲノムの特定遺伝子の位置に目的とする遺伝子を挿入することができるベクターであって、相同組換え(homologous recombination)が起こるように標的とする特定遺伝子に相同である塩基配列を含む。本発明のノックインベクターは目的たんぱく質をコーディングする核酸配列がゲノム上のαS1カゼイン遺伝子に挿入されるαS1カゼイン標的ベクターである。
【0029】
本発明のノックインベクターは、好ましくは配列番号4の塩基配列及び配列番号6の塩基配列を含む。
【0030】
本発明のノックインベクターは必要によってポジティブ及び/またはネガティブ選択的標識(遺伝子)を使用して形質転換された細胞を選別することができる。選択的標識遺伝子とは、ベクターに形質転換された細胞を選別するためのものであって、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、または表面たんぱく質の発現のような選択可能表現型を与える遺伝子が使用され、ポジティブ選択的標識(遺伝子)及びネガティブ選択的標識(遺伝子)がある。
【0031】
ポジティブ選択的標識遺伝子とは、選択剤が処理された環境で選択遺伝子を発現する細胞のみ生存するようにしてポジティブ選択を可能にする遺伝子であって、ネオマイシン(Neomycin:Neo)抵抗性遺伝子、ハイグロマイシン(Hygromycin:Hyg)抵抗性遺伝子などがある。
【0032】
ネガティブ選択的標識遺伝子はランダムに挿入が起こった細胞を選別して除去するネガティブ選択を可能にする遺伝子であって、単純ヘルペスウイルス−チミジンキナーゼ(Herpes simplex virus−thymidine kinase:HSV−tk)遺伝子、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hypoxanthine phosphoribosyl transferase:Hprt)遺伝子、シトシンデアミナーゼ(cytosine deaminase)遺伝子、またはジフテリアトキシン(Diphtheria toxin)遺伝子などがある。ネガティブ選択的標識遺伝子は、プロモーター領域の5’末端側または3’armの3’末端側に位置する。
【0033】
ポジティブ選択的標識遺伝子及びネガティブ選択的標識遺伝子は、別個のプロモーター、ポリAなどを有することができ、使われるプロモーターはサルウイルス40(SV40)、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HIVの長い末端反復部(LTR)プロモーター、モロニーウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、エプスタインバーウイルス(EBV)プロモーター、ロウスサルコマウイルス(RSV)プロモーター、またはホスホグリセリン酸キナーゼ(phosphoglycerate kinase:PGK)プロモーターなどがある。
【0034】
本発明のノックインベクターとゲノム上のαS1カゼイン遺伝子で相同組換えが起これば、ベクター上の目的たんぱく質をコーディングする核酸が宿主細胞のαS1カゼインゲノム遺伝子に組み込まれて(integration)、宿主細胞のαS1カゼインたんぱく質の代わりに発現される。
【0035】
本発明は、ポジティブ選択的標識遺伝子にネオマイシン抵抗性遺伝子、及びネガティブ選択的標識遺伝子に単純ヘルペスウイルス−チミジンキナーゼ(Herpes simplex virus−thymidine kinase:HSV−tk)を使用するノックインベクターの好ましい例として図4の開裂地図を有するベクターを提供し、具体的に、豚αS1カゼインhEPOノックインベクターを韓国生命工学研究院遺伝子銀行に寄託番号KCTC11326BPとして寄託した。
【0036】
本発明の豚αS1カゼインhEPOノックインベクターは、Lox A neoベクターを基本骨格として有し、プロモーター(図4の豚αS1カゼイン5’arm部分を意味する)の3’側にhEPO、hEPOの3’側にポジティブ選択的標識遺伝子としてネオマイシン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子3’側に3’arm(図4の豚αS1カゼイン3’arm部分を意味する)、及び3’armの3’側に単純ヘルペスウイルス−チミジンキナーゼ(Herpes simplex virus−thymidine kinase:HSV−tk)遺伝子(TK)が融合されている。
【0037】
本発明のベクター製作は、当該技術分野でよく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造することができ、部位−特異的DNA切断及び連結は当該技術分野で一般的に知られた酵素などを使用する。
【0038】
また本発明は、本発明の発現ベクターを導入して形質転換させた動物の体細胞を提供する。
【0039】
本発明のベクターが導入される動物の体細胞は豚などの由来で、1次、2次、または永久細胞でありうる。
【0040】
上記細胞内に本発明のベクターを導入する方法は、核酸を細胞内に導入する方法を全て使用することができ、当分野で公知の技術、即ち、エレクトロポレーション(electroporation)、カルシウムホスフェート共同−沈殿(calcium phosphate co−precipitation)、レトロウイルス感染(retroviral infection)、微量注入法(microinjection)、DEAE−デキストラン(diethylaminoethyl−dextran)、陽イオンリポゾーム(cationic liposome)法などを使用することができる。この場合、ベクターは円形のベクターを適切な制限酵素で切断して線形のベクター形態またはプラスミドを除いた線形のベクター形態に導入することができる。
【0041】
本発明のプロモーター遺伝子は、乳腺組織のみで特異的にたんぱく質を発現させる。豚の乳汁のうち、たんぱく質構成成分はカゼインが90%を占めており、カゼインは、またアルファ(α)、ベタ(β)、ガンマ(γ)カゼインに分けられる。そのうち、アルファ(α)カゼインが70%で相当部分を占めており、αカゼインはαS1カゼイン及びカッパカゼインに分けられ、αS1カゼインがそのうちの55%を占めるので、豚αS1カゼインプロモーターを用いたベクターは乳汁分泌する動物、特に豚から乳腺特異的に外部由来目的たんぱく質を発現するようにすることができる。
【0042】
また本発明は、本発明の発現ベクターを導入して形質転換させた動物の体細胞の核を脱核された卵子に核移植して作った動物受精卵を提供する。
【0043】
“核移植”は、核が除去された卵子に細胞の核を入れて移植させることを意味し、このような核移植された受精卵を着床させて生まれた個体は、核供与細胞の遺伝的物質が核受容細胞質にそのまま伝えられるので、遺伝的に完全に同一なクローン個体となる。
【0044】
また本発明は、本発明の発現ベクターを注入させた動物受精卵を提供する。
【0045】
上記の注入は、具体的に、受精直後、前核段階にある接合体の雄性前核内に微細操作技術により遺伝子を注入する微量注入法(Microinjection technique)で、胚幹細胞(embryonic stem cells)に遺伝子を挿入させ、これを胚盤胞期の受精卵の内に移植する方法(Stem cell insertion technique)、レトロウイルスベクター(Retroviral ベクター)を用いて遺伝子を受精卵の内に注入する方法(Retroviral insertion technique)、遺伝子を雄の精巣内に注入して遺伝子を精子に挿入させ、これを卵子と受精させる方法(Sperm−mediated gene transfer technique)などによることができ、好ましい例は微量注入法である。
【0046】
また本発明は、本発明の動物受精卵を移植させて得た形質転換動物を提供する。
【0047】
本発明の発現ベクターで形質転換できる動物は乳汁を分泌する全ての動物、即ち豚、マウス、牛、羊、またはヤギなどである。
【0048】
本発明の発現ベクターを用いた形質転換動物の生産方法は通常的な方法による。
【0049】
即ち、形質転換しようとする動物のうち、マウスなどの健康な個体から受精卵を採取し、受精卵に本発明の発現ベクターを導入した後、精管結紮マウスなどを用いて偽妊娠マウスなどを得て、これを代理母にして卵管内に受精卵を移植した後、代理母から得た子孫のうち、形質転換された個体を選別する過程からなることができる。
【0050】
また、豚などの健康な個体から卵胞卵を採取し、体外成熟用培養液で培養する。併せて、豚などの胎児から採取及び培養した供与体細胞に本発明の発現ベクターを導入した後、ベクターが導入された体細胞を選別及び培養する。上記体外成熟された卵子から核を除去し、この空間に供与細胞を注入した後、電気融合により核移植が完了した卵子の供与細胞と細胞質とを融合させた後、体外培養する。この複製受精卵を過排卵を誘導した受卵豚に移植した後、受卵豚から得た子孫のうち、形質転換された個体を選別する過程を経る。
【0051】
以後、形質転換されたものと確認された個体から乳汁を回収した後、目的たんぱく質を分離及び精製することで、目的たんぱく質を製造する(A. Gokana, J.J. Winchenn, A. Ben−Ghanem, A. Ahaded, J.P. Cartron, P. Lambin(1997) Chromatographic separation of recombinant human erythropoietin isoforms, Journal of chromatography, 791, 109−118)。
【0052】
本発明の目的たんぱく質製造方法における分離及び精製方法は、通常的に使われる方法を使用することができ、具体的には、濾過法またはクロマトグラフィー法などがある。
【0053】
このようにして製造される本発明の形質転換動物は、乳汁の中に目的たんぱく質を発現することができる。
【0054】
したがって、本発明の豚αS1カゼイン遺伝子、プロモーター、これを用いた発現ベクター、及び形質転換動物は、目的たんぱく質の生産分野に有利に使用できる。
【0055】
本発明において、遺伝工学的技術と関連した事項は、サムブルックらの文献(Sambrook, et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., 2001)及びフレデリックらの文献(Frederick M. Ausubel et al., Current protocols in Molecular Biology volume 1, 2, 3, John Wiley & Sons, Inc., 1994)に開示されている内容を参照することができる。
【発明の効果】
【0056】
豚αS1カゼイン遺伝子プロモーターは、目的たんぱく質の乳腺特異的発現を促進するので、本発明のプロモーター、及びこれを用いた発現ベクターにより形質転換された動物は乳汁の中に目的たんぱく質を高濃度で分泌するようになって、医薬学的に重要な価値を有する有用たんぱく質の生産分野に有利に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の豚αS1カゼインの塩基配列を明らかにすることに使われたプローブの位置とプローブにより探し出した塩基配列の位置を示す。
【図2】本発明の一実施形態であるpBC1−豚αS1カゼインベクターの構造を示す。
【図3】本発明の一実施形態であるpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターの構造を示す。
【図4】本発明の一実施形態である豚αS1カゼインhEPOノックインベクターの構造を示す。
【図5】本発明の一実施形態である豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターを導入させた細胞株において、hEPOの発現結果を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態であるpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターに形質転換されたマウスを選別するためのPCR結果を示す。
【図7】本発明の一実施形態である発現ベクターpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターに形質転換されたマウスの子から形質転換されたか否かを確認したPCR結果を示す。
【図8】本発明の一実施形態である形質転換された親マウスの乳汁を用いてウェスタンブロットアッセイ(Western blot assay)した結果を示す。
【0058】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施形態を提示する。しかしながら、下記の実施形態は本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、実施形態によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
<実施例1>豚αS1カゼイン遺伝子の分離及びクローニング
本発明の乳線特異的遺伝子を分離するために、promega社の豚ゲノムDNAライブラリーと国立畜産科学院(京畿道水原市権善区畜産路77五木川洞564国立畜産科学院、大韓民国)から提供を受けたBAC(bacterial artificial chromosome)クローンを持って豚のαS1カゼイン遺伝子(豚αS1カゼイン 遺伝子)の塩基配列(sequence)を明らかにした。
【0060】
1)豚ゲノムDNAライブラリーを用いた豚のαS1カゼイン塩基配列分析
豚のαS1カゼイン遺伝子の塩基配列が明らかでなかったため、塩基配列が明らかであったヒト、牛、ウマ、及びマウスのαS1カゼインcDNA塩基配列を比較して種間の高い相同性と保存された部分を参照して、豚αS1カゼインPCR増幅に使われるプライマー塩基配列を製作した。5’UTR側正方向プライマー 5’−TGACAACCATGAAACTTCTCAT−3’(配列番号8)、逆方向プライマー 5’−GTTCCTGATGC CTGAGAGGA−3’(配列番号9)、3’UTR側正方向プライマー 5’−AACCATTTTATCTGAA GACTTTG−3’(配列番号10)、逆方向プライマー 5’−TCTCAGTCACTGCACACAATT−3’(配列番号11)を用いて、豚のゲノムDNAからPCR増幅(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の35サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合し、72℃で5分間伸張反応)した結果、5’UTR側に3.3kbの塩基配列(配列番号12)と3’UTR側に303bpの塩基配列(配列番号13)からなる産物を得た。これをpGEM−Tベクター(promega、米国)にクローニングした(cloning)後、塩基配列分析(sequencing)を通じて豚αS1カゼインの遺伝子の一部であることを確認し、5’UTR側3.3kbと3’UTR側303bpの塩基配列を明らかにした。
【0061】
明らかにした3.3kbの豚αS1カゼイン遺伝子の塩基配列から5’UTR側のプローブを作るために正方向プライマー 5’−TGACAACCATGAAACTTCTCAT−3’(配列番号14)、逆方向プライマー 5’−CTAAGACTCTCATACTGAGTG−3’(配列番号15)を用いて、PCR増幅(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の35サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合、72℃で30秒間伸張反応)で551bpの産物(配列番号16)を得た。
【0062】
豚αS1カゼインの塩基配列を明らかにすることに使われるプローブを作るために、上記で得た5’UTR側551bpと3’UTR側303bpのPCR産物100ngを5分間ボイル(boiled)した後、氷で冷まして変性(denaturation)させた。変成されたDNAをプライマー、dNTP、[α−32P]dCTP(3000 Ci/nmol, NEN)を含有する反応緩衝液に添加した後、クレノー酵素(Klenow fragment:promega、米国)を添加して37℃で1時間の間反応させた。以後、反応液をセファデックスカラム(Sephadex G−50 column)を使用して精製することで、32Pで標識した豚αS1カゼイン遺伝子プローブを用意した。
【0063】
豚αS1カゼイン遺伝子を明らかにするために、豚のゲノムライブラリーをスクリーニングした。本実施例において、豚のゲノムライブラリーはpromega社の豚ゲノムDNAライブラリーを使用した。
【0064】
ライブラリーを導入するホストバクテリアは、次の通り用意した。
【0065】
0.2%のマルトース(maltose)が含まれたLB培地(Scharlau、スペイン)5mlにバクテリアコロニー(XLL blue P2、promega、米国)1つを接種して37℃で一夜間培養した。上記培養液の1%をまた新しい0.2%のマルトース含有LB培地50mlに移して、2.5時間の間培養した。600nmでの吸光度が0.5位になった時、培養液を2500rpmの速度で10分間遠心分離した。その結果、得た細胞沈殿物を滅菌した10ml硫酸マグネシウム溶液に懸濁させて、最終の濃度が1×1010細胞/mlになるようにし、実験時まで4℃に保管した。
【0066】
ライブラリーを適正化(titration)するために、ライブラリーをSM緩衝溶液{0.1M NaCl, 8mM MgSO、 50mM Tris−HCl(pH 7.5), 0.01%ゼラチン}に種々の濃度で連続希釈(serial dilution)した。固体LB培地が入れられたプレート(plate)を37℃恒温反応器(incubator)で温めて、トップアガー(top agar)を溶かし48℃に維持される水槽に置いた。いろいろな濃度で希釈されたパージ溶液10μlと上記で用意したホストバクテリア100μlとを混合して、37℃でホストバクテリアを感染(infection)させた。トップアガーにパージで感染されたホストバクテリアを添加し、よく振った後、上記で用意して置いたLB培地の上に差した。15分後、プレートを逆に返して37℃の恒温反応器で一夜間培養した。一晩中培養したプレートの培地の上ではパージがホストバクテリアの内でDNAライブラリーを複製した後、ホストバクテリアを溶解させた痕跡であるプラークが形成された。以後の実験段階のために培地を4℃で1時間以上冷ました。
【0067】
上記プレートに対し、連続番号を記載したNCフィルター(Amersharm Biosciences.:英国)を用意し、フィルターの真ん中部分が接触するようにして上記で用意したDNAライブラリープレートの上にフィルターを覆った。フィルターに針を垂直に刺して位置を表示し、1分後に注意深くフィルターを培地から離した。
【0068】
各フィルターを変性化溶液(denaturation solution; 0.5 M NaOH, 1.5 M NaCl; sigma、米国)、中性化溶液(neutralization solution; 1M Tris−HCl (pH7.5), 1.5M NaCl; sigma、米国)及び2×SSC溶液(0.3M NaCl, 0.03M クエン酸ナトリウム, sigma、米国)に順次に1分間ずつ浸した後、80℃オーブンで2時間の間置いて、転移されたDNAライブラリーがフィルターの上に完全に固定化(immobilization)されるようにした。
【0069】
固定化されたフィルターを密閉用ビニールに入れて前ハイブリダイゼーション溶液{prehybridization solution; 50% formamide 40 ml, 20X SSPE(saline−sodium phosphate− EDTA buffer) 20 ml, 50X Dehardt’s solution 8 ml, 100ng/ml salmon sperm DNA 1.2 ml, 10% SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)1.2ml、蒸溜水0.6ml:sigma、米国}を入れた後、68℃で1時間の間ゆっくり振ってあげながら前ハイブリダイゼーション反応を遂行した。前ハイブリダイゼーション反応後、用意したプローブを100ng添加し、68℃で18時間の間ゆっくり振ってハイブリダイゼーション反応を遂行した。ハイブリダイゼーション反応後、0.1%SDSを含有する2×SSC溶液にフィルターを漬して、65℃で10分間振りながら洗浄する過程を2回繰り返した。洗浄後、フィルターを空気中で乾燥させ、自己放射記録法(autoradiography)を遂行した。自己放射記録とプレートとを対照して、陽性反応を見せるプラークを選択し、選択されたプラークをSM緩衝液(0.1M NaCl, 8mM MgSO4, 50mM Tris−HCl(pH7.5), 0.01% ゼラチン, sigam、米国)500μlに入れてクロロホルム(chloroform)一滴を添加した後、よく混ぜて4℃に保管した。上記のようなスクリーニング過程を2回繰り返して、陽性反応を表すクローンを最終的に得た。最終的に得たクローンに対して、プローブを作る時に使用した互いに対を成すプライマー{正方向プライマー(配列番号14)、逆方向プライマー(配列番号15)}とT7、SP6プライマー(Cosmo、韓国)を使用して、PCR増幅(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の35サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合、72℃で5分間伸張反応)した。PCR増幅の結果、5’UTR側551bpプローブで5’方向に3.7kb(配列番号17)と3’UTR側303bpプローブで5’方向2.2kb(配列番号18)と3’方向6.3kb(配列番号19)の産
物を得てpGEM−Tベクター(promega、米国)にクローニングした後、完全な塩基配列を得た。
【0070】
塩基配列の分析は、ソルゼント(solgent、韓国)に依頼して行った。
【0071】
2)Bacクローンを用いた豚のαS1カゼイン塩基配列分析
豚ゲノムDNAライブラリーを用いた塩基配列分析方法において、プローブを作るために使われたプライマー(配列番号14〜配列番号15)を使用してPCR増幅方法(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の35サイクル(cycle)を遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合、72℃で30秒間伸張反応)により確認される4個(155F1、188A9、616B6、874E5)のクローン(clone)を得て継続的な塩基配列分析方法を通じて総33kbの完全な塩基配列(配列番号41)を明らかにした。
【0072】
【表1】

【0073】
3)バークシャー(Berkshire)種の豚由来αS1カゼインの塩基配列分析
豚ゲノムDNAライブラリー分析法とBacクローンから得た豚のαS1カゼインのDNA塩基配列に基づいてバークシャー種の豚のゲノムDNAからαS1カゼインの塩基配列を分析した。ゲノムDNAは尖端養豚研究所(慶尚南道、大韓民国)から分譲を受けた豚の体細胞からintron社(韓国)のゲノムDNA抽出キット(cat. No. 17231)を使用して分離したものを使用した。2)で分析されたαS1カゼイン33kbの塩基配列を全部で7部分(4.6kb、5.7kb、4.9kb、5.4kb、5.3kb、4.7kb、4.4kb)に分けたプライマー(配列番号42〜配列番号55)を用いて、PCR増幅(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の35サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合、72℃で5分間伸張反応)後、pGEM−Tベクターにそれぞれをクローニングした後、塩基配列を分析した。塩基配列分析は、ソルゼント(solgent、韓国)に依頼して行った。
【0074】
【表2】

【0075】
その結果、バークシャー種の豚αS1カゼインゲノムDNA塩基配列(配列番号1)及び塩基配列情報を得ることに成功した。
【0076】
配列番号1の塩基配列は、豚αS1カゼイン遺伝子の全体ゲノム配列であり、サイズは33248bpである。配列番号1の塩基配列のうち、構造遺伝子(gene)部位は7760番目から27875番目までの塩基配列であり、開始コドンは9326番目から9328番目までの塩基配列であり、終結コドンは25982番目から25983番目までの塩基配列と26593番目の塩基部分である。また、5’UTR領域は7760番目から7804番目までの塩基配列、及び9314番目から9325番目までの塩基配列であり、3’UTR領域は26594番目から26636番目までの塩基配列、及び27482番目から27875番目までの塩基配列、ポリAシグナル部位は27855番目から27860番目までの塩基配列である。エクソン部位は7760番目から7804番目までの塩基配列、9314番目から9376番目までの塩基配列、12653番目から12685番目までの塩基配列、13117番目から13137番目までの塩基配列、13537番目から13578番目までの塩基配列、14049番目から14072番目までの塩基配列、14780番目から14803番目までの塩基配列、16568番目から16591番目までの塩基配列、17617番目から17646番目までの塩基配列、18423番目から18446番目までの塩基配列、18533番目から18580番目までの塩基配列、20563番目から20604番目までの塩基配列、22369番目から22386番目までの塩基配列、22868番目から22906番目までの塩基配列、24004番目から24030番目までの塩基配列、25018番目から25041番目までの塩基配列、25835番目から25983番目までの塩基配列、26593番目から26636番目までの塩基配列、及び27482番目から27875番目までの塩基配列部分であり、イントロン部位は7805番目から9313番目までの塩基配列、9377番目から12652番目までの塩基配列、12686番目から13116番目までの塩基配列、13138番目から13536番目までの塩基配列、13579番目から14018番目までの塩基配列、14073番目から14779番目までの塩基配列、14804番目から16567番目までの塩基配列、16592番目から17616番目までの塩基配列、
17647番目から18422番目までの塩基配列、18447番目から18532番目までの塩基配列、18581番目から20562番目までの塩基配列、20605番目から22368番目までの塩基配列、22387番目から22867番目までの塩基配列、22907番目から24003番目までの塩基配列、24031番目から25017番目までの塩基配列、25042番目から25834番目までの塩基配列、25984番目から26592番目までの塩基配列、及び26637番目から27481番目までの塩基配列であり、CDS(coding sequence)は9326番目から9376番目までの塩基配列、12653番目から12685番目までの塩基配列、13117番目から13137番目までの塩基配列、13537番目から13578番目までの塩基配列、14049番目から14072番目までの塩基配列、14780番目から14803番目までの塩基配列、16568番目から16591番目までの塩基配列、17617番目から17646番目までの塩基配列、18423番目から18446番目までの塩基配列、18533番目から18580番目までの塩基配列、20563番目から20604番目までの塩基配列、22369番目から22386番目までの塩基配列、22868番目から22906番目までの塩基配列、24004番目から24030番目までの塩基配列、25018番目から25041番目までの塩基配列、25835番目から25983番目までの塩基配列、及び26593番目の塩基配列である。
【0077】
さらに、αS1カゼインアミノ酸配列(配列番号7)を分析した。
【0078】
上記プローブの位置とプローブにより同定された配列の位置及び構造は、図1に図示した通りである。
【0079】
図1の63/12−ATG−48は、豚αS1カゼイン2番目のエクソンの塩基配列63個のうち、12個の塩基配列の次のATG(開始コドン)が存在し、以後に48個のエクソン2番目の塩基配列を有することを意味する。149/147−TGは、豚αS1カゼイン17番目のエクソンの塩基配列149個のうち、147個の塩基配列の次のTGA(終結コドン)のうちのTGが存在し、44/A−43は豚αS1カゼイン18番目のエクソンの塩基配列44個のうちの終結コドンのAが存在し、以後に43個のエクソン塩基配列を有することを意味する。
【0080】
分析した豚αS1カゼイン配列及び情報は、米国国立生物工学情報センター(NCBI)に登録(EU025875)した。
【0081】
<実施例2>pBC1−豚αS1カゼインクローニングベクター構築
pBC1ベクター(インビトロジェン、米国)のアンピシリン(Ampicillin)抵抗性を有する遺伝子をネオマイシン(Neomycin)抵抗性遺伝子に置換したベクター[G418 薬剤(drug)に抵抗することができるneo遺伝子は、pEGFP−N1ベクター(Clontech、米国)から正方向プライマー5’−GCGGCCGCGCGCGTCAGGTGGCAC−3’(配列番号81)と逆方向プライマーである5’−CGATCGGACGCTCAGTGGAACGAAAACTC−3’(配列番号82)を用いて1.9kb PCR産物(配列番号83)を増幅して収得し、その後、pGEM T−easyベクターにクローニングした。T−ベクターにクローニングされた1.9kb neo遺伝子はNotIとPvuI制限酵素{New England Biolabs (NEB)、米国}で切断して挿入部位を用意した。また、pBC1ベクターのamp遺伝子(アンピシリン耐性遺伝子)部位をNotIとPvuI制限酵素で切断して除去した後、ベクター部位を用意した。このように用意した2挿入片及びベクター部位をライゲーションを通じて、neo遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子)が挿入されたpBC1ベクターを構築した。]に乳山羊(Goat)ベータカゼイン(beta casein)プロモーター(promoter)部位と3’ゲノムDNA部位をそれぞれ豚αS1カゼインプロモーター塩基配列と3’arm塩基配列に置換させたクローニングベクターを構築した。
【0082】
豚αS1カゼインプロモーター塩基配列5.5kb(配列番号3)と3’arm塩基配列4.3kb(配列番号5)をプライマー塩基配列(配列番号56〜配列番号59)を用いたPCR増幅(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の35サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合、72℃で5分間伸張反応)により産物を得た後、それぞれpGEM−Tベクター(Promega、米国)にクローニングした。
【0083】
【表3】

【0084】
豚のαS1カゼインプロモーター配列に存在するBamHI部位(GGATCC)2個所を下記のように反復的なポイントミューテーション(point mutation)を通じてBamHI制限酵素で切れないようにした。ポイントミューテーションのために、2個所のうち、先に1個所を定めてプライマーを製作した。豚αS1カゼイン5’プロモーター部位が含まれたpGEM−TベクターDNAを精製後、鋳型に使われるDNA20ngと一対のポイントミューテーションプライマーを使用して95℃で30秒(1反復)、95℃で30秒、55℃で1分、72℃で8分30秒(15反復)の条件でPCR増幅した。鋳型に使われた(ポイントミューテーションされていない)DNAを除去するために、Mutazyme酵素(商標)(iNtRON Biotechnology、大韓民国)を1ul添加後、37℃で1時間反応させた。上記反応物10ulをDH10Bコンピテント細胞(Invitrogen、米国)に形質転換(Transfomation)させ、LB+アンピシリン固体培地(sigma、米国)にプレーティング(plating)後、37℃で20時間培養させた。LB+アンピシリン固体培地で育ったコロニーをLB+アンピシリン液体培地に育てた後、DNAを精製して塩基配列分析方法によりBamHI部位がポイントミューテーション(GGATCC→GGACCC)されたか確認した。1個所にポイントミューテーションされたコロニーのDNAを使用して、残った1個所のBamHI部位も上記のような方法によりポイントミューテーションさせた。ここで使われたポイントミューテーション方法は、イントロン社の製品Site Direct Mutagenesis kitを使用した。
【0085】
ポイントミューテーションに使われたプライマー配列は、以下の表の通りである。
【0086】
【表4】

【0087】
pGEM−Tベクター中に存在する豚αS1カゼインプロモーターをBamHIとXhoIで切って8.5kbのベクターを用意した。また、3’armを含む配列部分をXhoIとNotIで切って4.3kbの挿入物(insert)(配列番号5)を用意した。それぞれの片をライゲーション(ligation)してpGEM−T−豚αS1カゼイン 5’+3’をクローニングした。
【0088】
pBC1ベクターをBamHIとNotIで切って10kbのベクターを用意し、pGEM−T−豚αS1カゼイン 5’+3’ベクターをBamHIとNotIで切って9.8kbの挿入物を用意した。それぞれの片をライゲーションしてpBC1−豚αS1カゼインクローニングベクターを構築した。
【0089】
完成されたpBC1−豚αS1カゼインクローニングベクターの構造は、図2の通りである。
【0090】
図2のP αS1カゼインはエクソン1(E1)を含む豚αS1カゼインプロモーター塩基配列(配列番号2)である。エクソン1は配列番号1の塩基配列のうち、5’−3’方向に一番先に配列されるエクソンを意味する。
【0091】
図2のαS1カゼイン 3’ゲノムDNAは、エクソン18(E18)、エクソン19(E19)、及びイントロン18(IVS 18)を含む3’armの塩基配列(配列番号5)である。エクソン18、エクソン19は、それぞれ配列番号1の塩基配列のうち、5’−3’方向に18番目と19番目のエクソンを意味し、イントロン18は18番目のイントロンを意味する。
【0092】
XhoI制限酵素部位を有するので、目的たんぱく質の遺伝子をベクターに挿入することができる。
【0093】
2Xβ−グロビンインシュレーター(globin insulator)及びpBR322はpBC1ベクターに起源するインシュレーターとベクター構成要素であり、ネオマイシン(Neomycin)はネオマイシン抵抗性遺伝子であって、pEGFP−N1ベクター(Clontech、米国)に由来する。
【0094】
上記の方法により製造されたpBC1−豚αS1カゼインベクターを韓国生命工学研究院遺伝子銀行(大田、大韓民国)に寄託番号KCTC 11324BPとして寄託した。
【0095】
<実施例3>pBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターの構築
pBC1ベクター(インビトロジェン、米国)のアンピシリン(Ampicillin)抵抗性を有する遺伝子をネオマイシン(Neomycin)抵抗性遺伝子に置換したベクター{G418 薬剤(drug)に抵抗することができるneo’遺伝子はpEGFP−N1ベクター(Clontech、米国)から正方向プライマー5’−GCGGCCGCGCGCGTCAGGTGGCAC−3’(配列番号81)と逆方向プライマーである5’−CGATCGGACGCTCAGTGGAACGAAAACTC−3’(配列番号82)を用いて1.9kb PCR産物(配列番号83)を増幅して得て、その後、pGEM T−easyベクターにクローニングした。T−ベクターにクローニングされた1.9kb neo遺伝子はNotIとPvuI制限酵素(New England Biolabs(NEB)、米国)で切断して挿入部位を用意した。また、pBC1ベクターのamp遺伝子(アンピシリン耐性遺伝子)部位をNotIとPvuI制限酵素で切断して除去した後、ベクター部位を用意した。このように用意した2挿入片及びベクター部位をライゲーションを通じて、neo遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子)が挿入されたpBC1ベクターを構築した。}にヒトエリスロポエチン(hEPO)をクローニングし、ベクターに存在する乳山羊(Goat)ベータカゼイン(ベータカゼイン)プロモーター(promoter)部位と3’ゲノムDNA部位を豚αS1カゼインプロモーター塩基配列(配列番号3)及び3’arm塩基配列(配列番号5)に置換させた。また、mRNAを安定化してたんぱく質発現を増大させると知られるWPRE(woodchuck hepatitus virus post−transcriptional regulatory element)をhEPOの3’側に追加することで、hEPOたんぱく質の発現を極大化させるようにした。
【0096】
hEPOとWPREのそれぞれをPCR増幅(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の35サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合、72℃でhEPOは2分30秒、WPREは30秒間伸張反応)により2.3kb(配列番号69)と0.6kb(配列番号70)の産物を得てpGEM−Tベクターにクローニングした後、塩基配列を確認した。hEPOが入っているpGEM−TベクターをEcoRVとNotI(New England Biolabs(NEB)、米国)で切り、WPREが入っているpGEM−TベクターはEcoRVとNotIで切って、それぞれの片をライゲーションした。
【0097】
hEPOとWPRE PCR増幅のために使用したプライマー塩基配列は、以下の表の通りである。
【0098】
【表5】

【0099】
pBC1ベクターをBamHIとNotIで切って乳山羊のベータカゼインプロモーターと3’ゲノム DAN部分をそれぞれ切り出してベクターを用意し、pGEM−TベクターにクローニングされたhEPO+WPREをBamHIとNotIで切って2.9kbの挿入物を用意した。用意したベクターと挿入物をライゲーションしてpBC1+hEPO−WPREを構築した。pBC1+hEPO−WPREに豚αS1カゼインのプロモーターと3’armをクローニングするためにPCR増幅により豚αS1プロモーター塩基配列5.4kb(配列番号3)と3’arm 塩基配列4.3kb(配列番号5)をそれぞれのpGEM−Tベクター(Promega、米国)にクローニングした。
【0100】
豚αS1カゼインプロモーターの塩基配列と3’armの塩基配列をPCR増幅させるために使用したプライマー塩基配列は、下記の表の通りである。
【0101】
【表6】

【0102】
豚のαS1カゼインプロモーター塩基配列に存在するBamHI部位(GGATCC)2個所をプライマー(配列番号60〜配列番号63)を用いてイントロン製品Site Direct Mutagenesisを用いてポイントミューテーションさせた。pBC1+hEPO−WPREベクターをBamHIで切り、アルカリフォスファターゼ(Alkaline Phosphatase)(CIP)を30分間処理してベクターを用意し、ポイントミューテーションされた豚αS1カゼイン5’プロモーターDNAが入っているpGEM−TベクターをBamHIで切って5.5kbの挿入物(配列番号3)を用意した。それぞれの片をライゲーションしてpBC1−豚αS1カゼイン 5’+hEPO−WPREベクターをクローニングした。pBC 豚αS1カゼイン 5’+hEPO−WPREベクターをNotIで切ってCIPを30分間処理してベクターを用意し、3’arm DNAが入っているpGEM−TベクターをNotIで切って4.3kbの挿入物(配列番号5)を用意した。それぞれの片をライゲーションしてpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターを構築した。
【0103】
完成されたpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターの構造は、図3の通りである。
【0104】
図3のP αS1カゼインは豚αS1カゼインプロモーター塩基配列(配列番号3)を意味し、αS1カゼイン 3’ゲノムDNAは3’arm塩基配列(配列番号6)を意味する。
【0105】
hEPOはヒトEPO遺伝子であり、WPREはウッドチャック・肝炎ウイルス転写後調節因子(woodchuck hepatitus virus post−transcriptional regulatory element)遺伝子である。
【0106】
2Xβ−グロビンインシュレーター及びpBR322はpBC1ベクターに起源するインシュレーターとベクター構成要素であり、Neomycinはネオマイシン抵抗性遺伝子であって、pEGFP−N1ベクター(Clontech、米国)に由来する。
【0107】
上記の方法により製造されたpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターを韓国生命工学研究院遺伝子銀行(大田、大韓民国)に寄託番号KCTC 11325BPとして寄託した。
【0108】
<実施例4>豚αS1カゼイン遺伝子を用いた豚αS1カゼインhEPOノックインベクターの構築
1)pGEM−T−hEPOベクターのクローニング
TK遺伝子選択方法を用いて特定部位に正しい遺伝子が導入されたか否かを確認することができる豚αS1カゼインhEPOノックインベクターの構築のために、まず、豚αS1カゼイン遺伝子にエクソン2番領域の開始から開始コドンまでを含み、開始コドン以後からはhEPO遺伝子の塩基配列が増幅できるようにする特異的なプライマー2対(配列番号74〜76)を用意した。上記で用意した豚αS1カゼインエクソン2番領域を含むプライマーを用いてヒトのゲノムDNA(ゾア製薬、大韓民国特許第10−0769291号のpBC1−hEPOベクター)から1次PCR増幅(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の30サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合、72℃で2分30秒間伸張反応)した後、これから出たPCR産物をまた鋳型にして2次PCR増幅(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の30サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、 56℃で30秒間プライマー結合、72℃で2分30秒間伸張反応)をした。豚αS1カゼインエクソン2番領域から開始コドンまでの塩基配列を含むPCR増幅産物2.3kb hEPO遺伝子(配列番号68)をpGEM−Tベクター(Promega、米国)にクローニング(pGEM−T−hEPO)した。
【0109】
hEPOのPCR増幅に使われたプライマー塩基配列は、次の表の通りである。
【表7】

【0110】
2)pGEM−T−豚αS1カゼイン5’arm, pGEM−T−豚αS1カゼイン3’armの構築
豚αS1カゼイン遺伝子のプロモーター塩基配列(5’arm)と3’arm塩基配列をクローニングするために、配列番号77〜配列番号80のプライマーを製作して豚ゲノムDNAからPCR増幅により産物5.0kb(配列番号4)と4.9kb(配列番号6)を得てpGEM−Tベクターにクローニング(pGEM−T−豚αS1カゼイン5’arm, pGEM−T−豚αS1カゼイン3’arm)した。
【0111】
【表8】

【0112】
3)Lox A neo−hEPOベクター構築
Lox A neoベクター(Gerard Karsenty’s, Department of Genetics and Development, College of Physicians and Surgeons, Columbia University, New York, New York 10032)をEcoRV、EcoRI制限酵素(New England Biolabs(NEB)、米国)で切ってベクターを用意し、クローニングされたpGEM−T−hEPOベクターをEcoR V、EcoR I制限酵素で切って2.3kbの挿入物(配列番号68)を用意した。それぞれの片をライゲーションしてLox A neo−hEPOベクターを構築した。
【0113】
4)Lox A neo−hEPO−ポリAベクターの構築
Lox A neo−hEPOベクター3’側にRNA安定化のためのポリA(polyA)塩基配列を挿入するためにLox A neo−hEPOベクターをEcoR I制限酵素で切り、アルカリフォスファターゼ(Alkaline phosphatase)(New England Biolabs(NEB)、米国)を30分間処理してベクターを用意した。また、pcDNA3ベクター(Invitrogen、米国)から由来したBGH(ウシ成長ホルモン、Bovine Growth Hormone)ポリAをEcoR I制限酵素で切って0.3kbの挿入物を用意した。それぞれの片をライゲーションしてLox A neo−hEPO−polyAベクターを構築した。
【0114】
5)Lox A neo−hEPO−polyA−5’armベクター構築
Lox A neo−hEPO−ポリAベクター5’側に豚αS1カゼイン5’armを挿入するためにLox A neo−hEPO−ポリAベクターをSal I、EcoR V制限酵素(New England Biolabs(NEB)、米国)で切ってベクターを用意し、クローニングされたpGEM−T−豚αS1 5’armベクターをSal I、EcoR V制限酵素で切って5.0kbの挿入物(配列番号4)を用意した。それぞれの片をライゲーションしてLox A neo−hEPO−ポリA−5’armベクターを構築した。
【0115】
6)Lox A neo−hEPO−ポリA−5’arm−3’armベクター構築
Lox A neo−hEPO−ポリA−5’armベクター3’側に3’armを挿入するためにLox A neo−hEPO−ポリA−5’armベクターをNotI制限酵素(New England Biolabs(NEB)、米国)で切り、アルカリフォスファターゼを30分間処理してベクターを用意した。クローニングされたpGEM−T−豚αS1 3’armベクターをNot I制限酵素で切って4.9kbの挿入物(配列番号6)を用意した。それぞれの片をライゲーションしてLox A neo−hEPO−ポリA−5’arm−3’armベクターを構築した。
【0116】
7)Lox A neo−hEPO−ポリA−5’arm−3’arm−TKベクター構築
Lox A neo−hEPO−ポリA−5’arm−3’armベクター3’側に細胞死滅遺伝子である単純ヘルペスウイルス−チミジンキナーゼ(Herpes simplex virus−thymidine kinase:HSV−tk)遺伝子を挿入するために、Lox A neo−hEPO−ポリA−5’arm−3’arm ベクターをSacII制限酵素(New England Biolabs(NEB)、米国)で切り、アルカリフォスファターゼを30分間処理してベクターを用意した。pBS−TKベクター(Gerard Karsenty’s, Department of Genetics and Development, College of Physicians and Surgeons, Columbia University, New York, New York 10032)をNot I制限酵素で切って、2.3kbの挿入物(単純ヘルペスウイルス−チミジンキナーゼ遺伝子暗号化部分)を用意した。それぞれの片をライゲーションしてLox A neo−hEPO−ポリA−5’arm−3’arm−TK ベクター(豚αS1カゼインhEPOノックインベクター)を構築した。
【0117】
完成された豚αS1カゼインhEPOノックインベクターの構造は、図4の通りである。
【0118】
図4の豚αS1カゼイン5’armは豚αS1カゼインプロモーター(配列番号4)を意味し、豚αS1カゼイン3’armは3’arm(配列番号6)を意味する。
【0119】
hEPOはヒトEPO遺伝子であり、ポリAはポリAシグナルをコーディングする遺伝子であり、Neoカセット(cassette)はネオマイシン抵抗性遺伝子であって、ポジティブ選択的標識遺伝子であり、PGKプロモーターはホスホグリセレートキナーゼ(phosphoglycerate kinase:PGK)プロモーターであり、TKは単純ヘルペスウイルス−チミジンキナーゼ(Herpes simplex virus−thymidine kinase:HSV−tk)遺伝子であって、ネガティブ選択的標識遺伝子であり、pBS−TKベクターに起源する。
【0120】
上記の方法により製造された豚αS1カゼインhEPOノックインベクターを韓国生命工学研究院遺伝子銀行(大田、大韓民国)に寄託番号KCTC 11326BPとして寄託した。
【0121】
<実施例5>形質転換細胞株製造及びhEPOの発現確認
1)外来遺伝子導入(Transfection)
マウス乳線細胞(HC11、国立畜産科学院、大韓民国)、マウス筋肉細胞(C2C12、ATCC、米国)、ヒト幹細胞(HepG2、ATCC、米国)、ヒト腎臓細胞(Caki、ATCC、米国)、ヒト血液細胞(U937、ATCC、米国)、ラット脳細胞(C6、ATCC、米国)などを下記のような培養条件で、インキュベーターで培養した。
【0122】
HC11 − RPMI 1640(Gibco、米国)、10%ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum)(FBS、HyClone、米国)、1% ペニシリンストレプトマイシン(penicillin streptomycin)(HyClone、米国)、インシュリン(sigma、米国)5ug/ml、39℃、CO5%
C2C12, HepG2− DMEM(Gibco、米国)、10%FBS、1% ペニシリンストレプトマイシン、37℃、CO5%
Caki − McCoy’s 5A(Gibco、米国)、10%FBS、1% ペニシリンストレプトマイシン、37℃、CO5%
U937 − RPMI 1640(Gibco、米国)、10%FBS、1% ペニシリンストレプトマイシン、37℃、CO5%
【0123】
80〜90%位育った細胞株をトリプシン(HyClone)を用いて細胞培養皿から分離した後、1500rpmで5分間遠心分離後、上層液を除去した。血球計(Hemocytometer)(Reichert、米国)を用いて細胞数を計数した後、60mm細胞培養皿に5x10細胞/皿で細胞を16時間〜20時間インキュベーターで培養した。外来遺伝子導入はリポフェクトアミン(lipofectamine)(invitrogen、米国)を使用し、60mm細胞培養皿当たり、実施例2及び3で製造したベクター4ugを導入することで、外来遺伝子を導入した。HC11細胞株は、外来遺伝子導入4時間後、インシュリン(sigma、米国)5ug/ml、プロラクチン(prolactin)(sigma、米国)5ug/ml、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)(sigma、米国)5ug/mlを添加した。
【0124】
2)逆転写(Reverse Transcription、RT)
外来遺伝子導入後、24時間後にeasy−BLUE total RNA Extraction Solution(iNtRON Biotechnology、大韓民国)を用いてRNAを精製した。精製されたRNA 4ugと逆転写酵素であるsuperscript III逆転写酵素(reverse transcriptase)(invitrogen、米国)を用いて逆転写(reverse transcription)を実施した。この際、外来遺伝子に導入したDNAの汚染を防ぐためにDNase I(invitrogen)処理を実施した。逆転写は10pM オリゴdT 1ulと10mM dNTP 1ulを入れた後、65℃で5分間反応後、氷中で1分間反応させた。次に、5X buffer 4ulと0.1M DTT 1ul、逆転写酵素 1ulを入れた後、50℃で60分反応後、70℃で15分間反応させてcDNAを合成した。
【0125】
3)リアルタイムPCR(Real Time−PCR)
高感受性リアルタイムPCRアッセイを用いて各細胞株に導入させたEPO発現を確認した。リアルタイムPCRは逆転写酵素を用いて作ったcDNAを鋳型にしてSYBR Green qPCR kit(FINNZYMES、フィンランド)とDNA engine Opticon 2(BIO−RAD、米国)を用いてリアルタイムPCR(94℃で5分間変性過程を経た後、次の50サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、56℃で30秒間プライマー結合、72℃で60秒間伸張反応後、蛍光値測定)を行った。蛍光値の補正のためにベクター内のNeo遺伝子と細胞内のベータアクチン遺伝子を基準として用いた。結果分析はGeneExMacro 3.0(BIO−RAD)プログラムを使用した。PCRに使用したプライマー(配列番号84〜91)は、下記の表の通りである。
【0126】
【表9】

【0127】
リアルタイムPCRの結果を図5に示す。
【0128】
図5は、pBC1−豚αS1カゼインベクターとpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターを導入させた乳腺細胞及び乳腺細胞以外の組織細胞でのhEPO発現結果を表し、同一の細胞株に対照群としてpBC1ベクター(invitrogen)とpBC1−hEPO−WPRE(ゾア製薬、大韓民国特許第10−0769291号)ベクターを導入した。x軸はそれぞれの細胞株を表し、y軸はpBC1−豚αS1カゼインベクターとpBC1ベクターの結果値を1にした場合、各細胞株で発現されるhEPOの相対的な割合を表す。図5において、pPACは実施例2のpBC1−豚αS1カゼインベクターを意味し、pPAC−hEPOは実施例3のpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREを意味する。pBC1は、ヤギプロモーターを持って乳線特異的に発現するように作って販売されるinvitrogen社のベクターであり、pBC1−hEPOはpBC1−hEPO−WPREを意味する。
【0129】
図5に示すように、hEPOはマウス乳腺細胞HC11細胞で最も多く発現し、ヒト幹細胞HepG2とマウス筋肉細胞C2C12細胞では弱く発現し、他の組織の細胞では発現されないことが確認された。
【0130】
したがって、本発明のベクターで形質転換された乳腺細胞で目的とするたんぱく質を生産できることが分かる。
【0131】
<実施例6>微量注入法による動物受精卵とそれを用いた形質転換動物の構築及びEPOの製造
1)遺伝子の精製
実施例3で製造したベクターをSal 1(NEB, R0138)を用いて線形にした後、Qiagen社のQIAquick Gel Extraction kit(Q−28706)を用いて精製して、注入用バッファー(10mM Tris−HCl、0.1mM EDTA、pH7.4)に溶離させて最終濃度を2ng/ulに5ulずつに分けて−20℃に保管した。
【0132】
2)過排卵雌マウスから受精卵の回収
8週齢のC57BL/6雌マウス(オリエントバイオ、大韓民国)に5 IUの妊馬血清性性腺刺激ホルモン(pregnantmare serum gonadotropin)(PMSG:Intervet、Netherlands)の注射後、46時間後に5 IUのヒト性腺刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin)(hCG、Intervet)を注射して過排卵を誘導した。12時間毎に光調節(午前7時から午後7時)され、PMSGは午前11時に、hCGは午前9時に腹腔投与方法により注入された。hCG注入後、同一種の雄マウスと交尾させて翌日雌マウスの膣入口(vaginal plugs)を確認して正常に交尾が行われたことを確認した後、卵管を摘出した。卵子−卵球細胞複合体を分離させるために摘出された卵管を0.1%ヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)(Sigma、H3884)が含まれたM2(Sigma、M7167)培養液に移した後、膨大部分を破った。暫くして、卵球細胞が分離された受精卵のみを回収して清潔なM2培養液で洗ってM16(Sigma、M7292)培養液に移して微量注入の実験前まで37℃、5%のCOインキュベーターで培養した。
【0133】
3)遺伝子の微量注入
チャンバースライド(Nunclon、Denmark)にM2培養液を少量垂らした後、蒸発を防ぐためにオイルで覆って微量注入用の皿を用意した後、回収した受精卵を設置した。受精卵の微量注入は、受精卵の微量操作のための装備であるOLYMPUS 1X71 TH4−200 inverted microscope(Narishige, Tokyo, Japan)で遂行した。Microloader(Eppendorf, Hamburg, Germany)を用いてfemtojet automatic injector (Eppendorf)に連結されたfemtotip注入用ピペット(injection pipette)(Eppendorf)に予め用意した1)の精製遺伝子をローディングした。保持用ピペット(holding pipette)で卵子を取り、受精卵の前核に顕微鏡の焦点を合せた後、femtotip injection pipetteを用いて卵子の透明帯を開けて前核まで入れた後、femtojet automatic injectorを用いて上記遺伝子を前核に注入して前核の膨脹を確認できた場合、卵からinjection pipetteを取り出した。微量注入後、生きている卵はM16培養液に移して37℃、5%のCOインキュベーターで培養した。
【0134】
4)受精卵移植
微量注入実験の一日前に6週齢のBDF−1雌マウス(オリエントバイオ、大韓民国)を同一種の去勢された雄と交尾させて擬似妊娠を誘導した。実験前に雌マウスの膣入口(vaginal plugs)を確認して正常に交尾が行われて擬似妊娠が誘導された雌マウスにavertin(Sigma)を腹腔注入して麻酔させた後、マウスの背の横腹と胸脚との間の中間部分を切開して卵巣脂肪を引っ張って卵巣及び卵管を取り出した。卵巣脂肪を手術用鉗子で固定させ、卵巣と卵管との間を囲んでいる包嚢を破いて卵管入口を確認した後、予め用意した移植用ピペットを卵管入口に挿入して卵を移植した。受精卵移植は、両側の卵管に行った。移植後、確認のためのマーカーバブル(marker bubble)4個と15個の微量注入受精卵及び最終マーカーバブル1つからなる移植用ピペットを用いた。
【0135】
5)遺伝子導入確認
受精卵移植3週後、子が生まれれば、子の尻尾を切ってDneasy Blood&Tissue kit(Qiagen, Q−69506)を用いてゲノムDNAを抽出した。豚αS1カゼイン遺伝子が導入された形質転換マウスの確認のために、抽出されたDNAでEPO−WPRE遺伝子部位とWPRE−3’arm遺伝子部位を増幅させるプライマーを用いてPCR増幅実験(PT−200、BIO−RAD、94℃で5分間変性過程を経た後、次の35サイクルを遂行した:94℃で30秒間変性後、55℃で30秒間プライマー結合、72℃で30秒間伸張反応)を実施して、豚αS1カゼイン遺伝子の導入を確認した。
【0136】
EPO−WPREのPCR増幅に使われたプライマー塩基配列は、次の表の通りである。
【0137】
【表10】

【0138】
その結果を図6に示す。図6は、実施例3の発現ベクターpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターに形質転換されたマウスを選別するためのPCR結果を表す。図6のEPO−WPREはEPO−WPRE遺伝子部位に対する結果であり、WPRE−3’armはEPO−αS1 3’arm遺伝子部位に対する結果である。Mはサイズマーカー(size marker)、VはpBC1−豚αS1カゼインEPO−WPREベクター、Nは陰性対照のための正常マウスゲノムDNA、数字はそれぞれの個体を意味する。
【0139】
その結果から遺伝子が導入されたか否かを確認して形質転換されたマウスを選択した。
【0140】
6)形質転換実験動物の繁殖及び遺伝子転移の確認
豚αS1カゼイン遺伝子導入が確認された形質転換マウスのうち、性成熟時期である6週齢が過ぎた後、雌を正常雄と交配して子を生産させた後、子に対して上記5)と同一方法により外来遺伝子の導入を確認した。
【0141】
図7は、実施例3の発現ベクターpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREベクターに形質転換されたマウスを選択するためのPCR結果を表す。図7のEPO−WPREはEPO−WPRE遺伝子部位に対する結果であり、WPRE−αS1はEPO−αS1 3’arm遺伝子部位に対する結果である。Mはサイズマーカー(size marker)、VはpBC1−豚αS1カゼインEPO−WPREベクター、Nは陰性対照のための正常マウスゲノムDNA、1−1〜1−6は形質転換マウスの子を意味する。
【0142】
7)形質転換親マウスの乳汁におけるEPOの存否、及び含有量の確認
親マウスを授乳7日後、子マウスを隔離させ、2時間後、オキシトシン10 IUを腹腔注射すると共に、乳線をマッサージしながら乳汁を採取した。乳汁を用いてウェスタンブロットアッセイ(Western blot assay)を遂行した。12%SDS−PAGEしたゲルをPVDF膜(millipore、米国)に移した後、5%のスキムミルクブロッキング溶液(skim milk blocking solution)で恒温処理した。膜に抗−ヒトEPO抗体(1:1,000、hEPO 抗ウサギ抗体(anti−rabbit antibody)、 R&D systems Cat. No. AB−286−NA, Lot No. HX01、米国)を製造社のプロトコルに従って添加して1時間、常温で恒温処理した。30分間TBSTバッファー(トリス緩衝食塩水(tris buffered saline buffer)、0.01% tween−20)で膜を洗った後、ペルオキシダーゼでラベルされた抗ウサギ抗体(1:3,000、peroxidase labeled anti−rabbit antibody, GE healthcare, Cat. No. NA9340V, Lot No. 348424、英国)を添加し、1時間常温で恒温処理した後、TBSTバッファーで洗浄後、フィルムに露出した。
【0143】
その結果を図8に示す。図8は、形質転換された親マウスの乳汁を用いてウェスタンブロットアッセイ(Western blot assay)した結果を表す。図8の1〜4はEPOの標準資料(standard)(calbiochem、米国)、5〜6は試料を表す。
【0144】
その結果、乳汁中に32KDa分子量を有するたんぱく質が発現されることを確認した。また、親マウスの乳汁内のhEPOの濃度を確認するためにELISA kit(Stem Cell Technology)を用いて使用説明書に従ってELISA(Enzyme−linked immunosorbent assay)を実施した。その結果、乳汁内のhEPOが50,000−200,000 IU/mlの濃度で発現されることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0145】
豚αS1カゼイン遺伝子は豚αS1カゼイン生産に利用可能性があり、また豚αS1カゼイン遺伝子プロモーターは目的たんぱく質の乳線特異的発現を促進するので、本発明のプロモーター、及びこれを用いた発現ベクターにより形質転換された動物は乳汁の中に目的たんぱく質を高濃度で分泌するようになって医薬学的に重要な価値を有する有用たんぱく質の生産分野に有利に使用できる。
【0146】
[微生物寄託証]




【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーター及び3’UTR領域を含む配列番号1の塩基配列を有することを特徴とする、豚αS1カゼイン遺伝子。
【請求項2】
配列番号2の塩基配列を含むことを特徴とする、豚αS1カゼイン遺伝子プロモーター。
【請求項3】
配列番号2の塩基配列、配列番号3の塩基配列、及び配列番号4の塩基配列のうちから選択される1つ以上の塩基配列を含むことを特徴とする、発現ベクター。
【請求項4】
前記ベクターは配列番号5または配列番号6のうちから選択される1つ以上の塩基配列をさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項5】
前記ベクターは、選択的標識遺伝子、インシュレーター、及びWPRE(ウッドチャック・肝炎ウイルス転写後調節因子)のうちから選択される1つ以上が追加されたものであることを特徴とする、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項6】
前記ベクターは、図2の開裂地図を有するものであることを特徴とする、請求項5に記載の発現ベクター。
【請求項7】
前記ベクターは、寄託番号KCTC 11324BPとして寄託されたpBC1−豚αS1カゼインであることを特徴とする、請求項6に記載の発現ベクター。
【請求項8】
プロモーター塩基配列の3’側に目的たんぱく質をコードする塩基配列をさらに有することを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項9】
前記目的たんぱく質はヒトEPO(エリスロポエチン)であることを特徴とする、請求項8に記載の発現ベクター。
【請求項10】
前記ベクターは図3の開裂地図を有するものであることを特徴とする、請求項9に記載の発現ベクター。
【請求項11】
前記ベクターは寄託番号KCTC 11325BPとして寄託されたpBC1−豚αS1カゼイン+hEPO−WPREであることを特徴とする、請求項10に記載の発現ベクター。
【請求項12】
前記発現ベクターはノックインベクターであることを特徴とする、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項13】
前記ノックインベクターは選択的標識遺伝子が追加されたものであることを特徴とする、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項14】
前記ノックインベクターは図4の開裂地図を有するものであることを特徴とする、請求項13に記載の発現ベクター。
【請求項15】
前記ノックインベクターは寄託番号KCTC 11326BPとして寄託された豚αS1カゼインhEPOノックインであることを特徴とする、請求項14に記載の発現ベクター。
【請求項16】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の発現ベクターを導入させて形質転換させたことを特徴とする、動物の体細胞。
【請求項17】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の発現ベクターが導入されたことを特徴とする、動物受精卵。
【請求項18】
前記導入が微量注入法によるものであることを特徴とする、請求項17に記載の動物受精卵。
【請求項19】
請求項17に記載の動物受精卵を移植させて得たことを特徴とする、形質転換動物。
【請求項20】
前記形質転換動物は、豚、マウス、牛、羊、及びヤギのうちから選択される1つであることを特徴とする、請求項19に記載の形質転換動物。
【請求項21】
請求項17に記載の動物受精卵を代理母の卵管内に移植した後、代理母から形質転換動物を得て、前記形質転換動物の乳汁から目的たんぱく質を製造することを特徴とする、たんぱく質の製造方法。
【請求項22】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の発現ベクターを導入させて形質転換させた動物の体細胞の核を脱核された卵子に核移植して作られたことを特徴とする、動物受精卵。
【請求項23】
請求項22に記載の受精卵を移植させて得たことを特徴とする、形質転換動物。
【請求項24】
前記形質転換動物は、豚、マウス、牛、羊、及びヤギのうちから選択される1つであることを特徴とする、請求項23に記載の形質転換動物。
【請求項25】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の発現ベクターを導入させて形質転換された動物の体細胞の核を脱核された卵子に核移植して作った動物受精卵を代理母動物に移植し、前記代理母動物から形質転換動物を得て、前記形質転換動物の乳汁から目的たんぱく質を製造する段階を含むことを特徴とする、たんぱく質の製造方法。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−526495(P2011−526495A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516140(P2011−516140)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003516
【国際公開番号】WO2010/002160
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(510035783)チョ−エー・ファーム・カンパニー・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】