説明

象嵌表示パネル及びその製造方法

【課題】接触干渉を防止すると共に、加飾性を得ながら、表示プレート片の形状変更要請に対し、コスト増や工数増を招くことなく直ちに対応することができる象嵌表示パネル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表示しようとする形状に象った表示プレート片1をパネル基材2に嵌め込み固定した象嵌表示パネルにおいて、パネル基材2を、被着パネル基材21と塗膜層22の組み合わせにより構成し、被着パネル基材21は、表示プレート片1の形状に沿った加工凹部を形成していないパネル表面21aを有し、表示プレート片1は、被着パネル基材21のパネル表面21aの表示位置に接着固定し、塗膜層22は、レーザー光線により一部を除去することで、被着パネル基材21のパネル表面21aのうち、表示プレート片1の設定領域以外の領域に形成し、表示プレート片1の表面1aと塗膜層22の表面22aが同一面となるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示しようとする形状に象った表示プレート片を基材に嵌め込み固定した象嵌表示パネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品等では、メーカー商標名や商品名等による表示部を立体的に突出させた表示プレート片を、パネル表面に貼り付けたものが一般的に知られている。しかし、表示部が立体的に突出しているため、人の手や物が接触干渉しやすく、負傷させるおそれがあるし、表示プレート片の摩耗・損傷・脱落が発生してしまう。特に、エッジが鋭い表示プレート片の場合、接触干渉の問題が顕著となる。
【0003】
この接触干渉対策としては、例えば、表示プレート片に対し、透明塗料によりトップコートを施したものが見受けられるが、表示プレート片のエッジを滑らかにするだけで、根本的な解決策とはならない。
【0004】
そこで、装飾プレートとして、被着体の表面に装飾パターンを収容する凹部を形成し、この凹部内に装飾パターンを、固着層を介して固定したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この装飾プレートは、被着体の表面と装飾パターンの表面を、ほぼ同一面に設定することができるため、表示部の立体的突出による接触干渉の問題を解消することができる。
【特許文献1】特開2006−281652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の装飾プレートにあっては、被着体の表面に装飾パターンを収容する凹部を形成するものであるため、装飾パターンにより表記する文字等が変更されると、変更される毎に外周形状が異なる凹部を有する被着体を用意する必要がある。
例えば、被着体が合成樹脂を素材とする場合は、樹脂成形金型を装飾パターンの種類だけ用意する必要があるし、被着体が金属を素材とする場合は、プレス金型を装飾パターンの種類だけ用意する必要がある。
この結果、装飾パターンの形状変更要請に対し、直ちに対応することができないばかりでなく、大幅なコスト増や工数増を招く、という問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、接触干渉を防止すると共に、工芸品的付加価値を与えることで加飾性を得ながら、表示プレート片の形状変更要請に対し、コスト増や工数増を招くことなく直ちに対応することができる象嵌表示パネル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、表示しようとする形状に象った表示プレート片を基材に嵌め込み固定した象嵌表示パネルにおいて、
前記基材を、被着パネル基材と塗膜層の組み合わせにより構成し、
前記被着パネル基材は、表示プレート片の形状に沿った加工凹部を形成していないパネル表面を有し、
前記表示プレート片は、前記被着パネル基材のパネル表面の表示位置に接着固定し、
前記塗膜層は、レーザー光線により一部を除去することで、前記被着パネル基材のパネル表面のうち、前記表示プレート片の設定領域以外の領域に形成し、
前記表示プレート片の表面と前記塗膜層の表面が同一面となるように設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明の象嵌表示パネルは、表示プレート片の表面と塗膜層の表面が同一面となるように設定されているため、基材を構成する塗膜層の表面からの表示プレート片の突出が抑えられ、人の手や物と表示プレート片との接触干渉が防止される。
塗膜層は、レーザー光線により一部を除去することで、被着パネル基材のパネル表面のうち表示プレート片の設定領域を除いた領域に形成され、表示プレート片の表面と塗膜層の表面が同一面となるようにされているため、表示しようとする形状に象った表示プレート片を塗膜層に嵌め込み固定した「象嵌」が構成される。このため、塗膜層の色や質感等と表示プレート片の色や質感等を異ならせ、「象嵌」としての工芸品的付加価値を与えることにより加飾性を得ることができる。
また、表示プレート片を嵌め込み固定する基材が、被着パネル基材と塗膜層の組み合わせにより構成され、被着パネル基材は、表示プレート片の形状に沿った加工凹部を形成していないパネル表面を有するため、表示プレート片の形状変更要請に対しては、被着パネル基材はそのままで、塗膜層の形状を変えるだけで直ちに対応できる。言い換えると、表示プレート片の形状変更要請に対しては、コントロール容易で自由度が高いレーザー光線による塗膜層の除去により対応し、被着パネル基材は、表示プレート片の形状にかかわらず共通化することができる。
この結果、接触干渉を防止すると共に、工芸品的付加価値を与えることで加飾性を得ながら、表示プレート片の形状変更要請に対し、コスト増や工数増を招くことなく直ちに対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の象嵌表示パネル及びその製造方法を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例3に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の象嵌表示パネルを適用した閉じた状態のノートパソコンを示す平面図である。図2は実施例1の象嵌表示パネルに表示した商品名のうち図1のX部分を示す一部拡大図である。図3は実施例1の象嵌表示パネルに表示した商品名のうち一部分を示す図2のY−Y線による拡大断面図である。
【0012】
実施例1の象嵌表示パネルPは、図1に示すように、ノートパソコンの液晶モニタ画面カバーパネルに適用したもので、表示しようとする商品名形状に象った4個の表示プレート片1(ここでは、「ABCD」を商品名とする。)を、カバーパネル基材2(基材)に嵌め込み固定している。
【0013】
前記象嵌表示パネルPは、図2及び図3に示すように、表示プレート片1と、カバーパネル基材2と、接着層3と、を備えている。そして、前記カバーパネル基材2は、図3に示すように、被着パネル基材21と塗膜層22の組み合わせにより構成している。
【0014】
前記被着パネル基材21は、図3に示すように、表示プレート片1の形状に沿った加工凹部を形成していないパネル表面21aを有する。実施例1では、被着パネル基材21として、不透明樹脂を素材とし、周知の射出成形法により作り出している。
【0015】
前記表示プレート片1は、図3に示すように、前記被着パネル基材21のパネル表面21aの表示位置に、接着層3を介して接着固定している。
この表示プレート片1としては、電気分解成形法により作成された金属メッキ層を表面に有し、シルバーメタリック調の金属質感を出した電着画像表示プレート片を用いている。ここで、表示プレート片1としては、電着画像表示プレート片に限らず、フォトエッチング法により作成されたフォトエッチング画像表示プレート片を用いても良いし、また、プレス法により作成された金属製表示プレート片を用いても良い。
【0016】
前記塗膜層22は、図3に示すように、レーザー光線により一部を除去することで、前記被着パネル基材21のパネル表面21aのうち前記表示プレート片1の設定領域を除いた領域に形成している。
この塗膜層22は、吹き付け塗装法等を用い、複数の塗布回数により、30μm〜50μm程度の厚みを持たせるようにする。
【0017】
そして、図3に示すように、前記表示プレート片1の表面1aと前記塗膜層22の表面22aが同一面となるように設定している。
この同一面管理は、表示プレート片1を基準にすると、表示プレート片1と接着層3による平均厚みを予め測定しておき、この平均厚みと一致するように、塗膜層22の厚みを管理する。また、塗膜層22を基準にすると、表示プレート片1と接着層3による厚みが、予め決められた塗膜層22の厚みと一致するように、表示プレート片1と接着層3の厚みの和を管理する。
ちなみに、表示プレート片1の表面1aと塗膜層22の表面22aは、完全な同一面とするのが好ましいが、部品や製造のバラツキ等により生じる誤差は許容されるもので、塗膜層22の表面22aから表示プレート片1の表面1aを差し引いた値としては、-2000μm〜+50μmの範囲で、好ましくは、-200μm〜+0μmの範囲による設定とする。
【0018】
次に、実施例1の象嵌表示パネルPの製造方法について説明する。
図4は実施例1の象嵌表示パネルPの製造方法を示す工程図であり、(a)は表示プレート片固定工程を示し、(b)は塗膜層形成工程を示し、(c)は塗膜層除去工程を示す。以下、各工程について説明する。
【0019】
表示プレート片固定工程は、図4(a)に示すように、カバーパネル基材2の構成要素である被着パネル基材21のパネル表面21aに、表示プレート片1を接着固定する工程である。
この表示プレート片固定工程では、複数の表示プレート片1の接着状態での厚みがほぼ一定となるようにする。
【0020】
塗膜層形成工程は、図4(b)に示すように、表示プレート片1を固定した被着パネル基材21の全体を、接着固定した表示プレート片1と同じ厚さに塗装して塗膜層22を形成する工程である。
実施例1の塗膜層22は、遮光性を有する塗料(例えば、黒色塗料)を被着パネル基材21の全体(表示プレート片1を含む)に塗布することで形成される。
【0021】
塗膜層除去工程は、図4(c)に示すように、塗料を塗布することで形成した塗膜層22を乾燥させた後、塗膜層22のうち表示プレート片1の上面部分を被覆する塗膜部分をレーザー光線により除去する工程である。
この塗膜層除去工程では、レーザー装置として、誘電放出を起こす媒体を炭酸ガスとし、加工に適する炭酸ガスレーザー装置を用いる。この炭酸ガスレーザー装置でのレーザー照射位置とレーザーパワーをコントロールすることにより、塗膜層22のみを除去する。除去する塗膜層22は、表示プレート片1の上面を覆う部分と、表示プレート片1の周りの設定厚を超える厚み部分である。
【0022】
次に、本発明に至る経緯を説明する。
現在、表示部の立体的突出による接触干渉の問題を解消するため、基材の表面に表示プレート片を収容する凹部を形成し、この凹部に表示プレート片を接着して象嵌表示プレートとするものが、高級家電品等に採用されている。
【0023】
しかし、表示プレート片により表記するメーカー商標名や商品名等が変更されると、変更される毎に、変更した表示プレート片と外周形状が異なる凹部を有する基材を用意する必要がある。このうち、表示プレート片の形状変更は容易であるが、外周形状が異なる凹部を有する基材については、例えば、基材が合成樹脂を素材とする場合は、高価な樹脂成形金型を表示プレート片の変更に合わせた数だけ、新たに用意する必要がある。
【0024】
一方、昨今、相手先ブランドで販売される製品を製造して供給するOEM(Original Equipment Manufacturing)が盛んに行われ、世界各国の家電メーカーや自動車メーカー等のデザイナーからは、ブランドやロゴが変わっても同一パネルを用いて対応できる技術開発が要請されている。
【0025】
この技術開発要請に対し、本発明者は、凹部加工に着目し、凹部を型成形ではなく、レーザー加工により得る案を先に提案した。この場合、ブランドが変わっても同一パネルを用いて対応できるものの、樹脂基材自体にレーザー加工を施すものであるため、レーザー光線の種類の選択やパワーのコントロールが難しく、例えば、レーザー加工時、マスキングを施して加工する必要があったり、加工凹部の底面にざらつきがあったり等、さらに解決すべき課題を残していた。
【0026】
そこで、本発明者はさらに研究を推し進めていった結果、レーザー光線による塗膜層の除去は、樹脂素材に対する加工に比べ、コントロール容易で自由度が高い点と、塗膜層はその表面を表示プレート片の表面と同じにすれば「象嵌」となり得る点に着目した。
そして、象嵌表示パネルの基材を、被着パネル基材と塗膜層の組み合わせにより構成し、レーザー光線により塗膜層の一部のみを除去することで、表示プレート片の表面と塗膜層の表面が同一面となるように設定する構成を採用した。
この構成を採用したことにより、象嵌表示パネルの製造時、容易なレーザー加工としながら、技術開発要請されている「ブランドやロゴが変わっても同一パネルを用いての対応」を達成することができる。
【0027】
次に、作用を説明する。
実施例1の象嵌表示パネルPにおける作用を、「接触干渉防止作用」、「加飾表示作用」、「被着パネル基材の共通化作用」に分けて説明する。
【0028】
[接触干渉防止作用]
実施例1の象嵌表示パネルPは、表示プレート片1の表面1aと塗膜層22の表面22aが同一面となるように設定されているため、基材を構成する塗膜層22の表面22aからの表示プレート片1の突出が抑えられ、人の手や物と表示プレート片1との接触干渉が防止される。
【0029】
この接触干渉防止作用により、手等の損傷を防止できるばかりでなく、表示プレート片1が摩耗したり、表示プレート片1の一部が損傷したり、表示プレート片1が脱落してしまうことを回避することができる。
【0030】
[加飾表示作用]
塗膜層22は、レーザー光線により一部を除去することで、被着パネル基材21のパネル表面21aのうち表示プレート片1の設定領域を除いた領域に形成され、表示プレート片1の表面1aと塗膜層22の表面22aが同一面となるようにされているため、表示しようとする形状に象った表示プレート片1を塗膜層22に嵌め込み固定した「象嵌」が構成される。
【0031】
そして、塗膜層22が黒っぽい塗装による色と塗膜質感であるのに対し、表示プレート片1が電着画像等によりシルバーメタリック色と金属質感であるというように、塗膜層22と表示プレート片1の色や質感を異ならせている。
【0032】
したがって、後退色で柔らかい質感による塗膜層22を背景とし、進出色で硬い質感による表示プレート片1を引き立てることで、「象嵌」としての工芸品的付加価値を与えることにより加飾性を得ることができる。
【0033】
ちなみに、通常、「象嵌(Inlaying)」の場合、A部品の中にB部品を嵌合する時には、A部品に彫り込み凹部を形成してB部品を嵌合するか、基材にA部品とB部品を貼り付ける。この基材にA部品とB部品を貼り付ける場合、両部品の厚みがいくら薄くても「象嵌」である。なぜなら、A部品とB部品の表面に出ている部分の高さが同じであれば、目に見える部分は表面のみで、厚さにはあまり関係ない。つまり、基材に貼り付けるA部品に代え、これを塗膜層22としても「象嵌」であることには全く変わりない。
【0034】
[被着パネル基材の共通化作用]
実施例1では、表示プレート片1を嵌め込み固定するパネル基材2が、被着パネル基材21と塗膜層22の組み合わせにより構成され、被着パネル基材21は、表示プレート片1の形状に沿った加工凹部を形成していないパネル表面21aを有するため、表示プレート片1の形状変更要請に対しては、被着パネル基材21はそのままで、塗膜層22の形状を変えるだけで直ちに対応できる。
【0035】
言い換えると、表示プレート片1の形状変更要請に対しては、コントロール容易で自由度が高いレーザー光線による塗膜層22の除去により対応し、被着パネル基材21は、表示プレート片1の形状にかかわらず共通化することができる。
【0036】
このように、表示プレート片1の形状変更にかかわらず、被着パネル基材21の共通化を達成できるため、相手先ブランドで販売される製品を製造して供給するOEM等で、メーカーのデザイナー等から出されているブランドやロゴが変わっても同一パネルを用いて対応してほしいという技術開発要請に対し、適切に対応することができる。
【0037】
次に、効果を説明する。
実施例1の象嵌表示パネルP及びその製造方法にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0038】
(1) 表示しようとする形状に象った表示プレート片1をパネル基材2に嵌め込み固定した象嵌表示パネルPにおいて、前記パネル基材2を、被着パネル基材21と塗膜層22の組み合わせにより構成し、前記被着パネル基材21は、表示プレート片1の形状に沿った加工凹部を形成していないパネル表面21aを有し、前記表示プレート片1は、前記被着パネル基材21のパネル表面21aの表示位置に接着固定し、前記塗膜層22は、レーザー光線により一部を除去することで、前記被着パネル基材21のパネル表面21aのうち、前記表示プレート片1の設定領域以外の領域に形成し、前記表示プレート片1の表面1aと前記塗膜層22の表面22aが同一面となるように設定したため、接触干渉を防止すると共に、工芸品的付加価値を与えることで加飾性を得ながら、表示プレート片1の形状変更要請に対し、コスト増や工数増を招くことなく直ちに対応することができる。
【0039】
(2) 前記表示プレート片1は、電気分解成形法により作成された電着画像表示プレート片であるため、象嵌表示パネルPの表示プレート片1として、金属質感を持たせることで、高い視認性と加飾性を得ることができる。
【0040】
(3) 前記表示プレート片1は、フォトエッチング法により作成されたフォトエッチング画像表示プレート片であるため、象嵌表示パネルPの表示プレート片1として、装飾性を有する金属質感を持たせることで、視認性と優れた加飾性を得ることができる。
【0041】
(4) 前記表示プレート片1は、プレス法により作成された金属製表示プレート片であるため、象嵌表示パネルPの表示プレート片1として、重厚な金属質感を持たせることで、高い視認性と加飾性を得ることができる。
【0042】
(5) 表示しようとする形状に象った表示プレート片1をパネル基材2に嵌め込み固定した象嵌表示パネルPの製造方法において、前記パネル基材2の構成要素である被着パネル基材21のパネル表面21aに、表示プレート片1を接着固定する表示プレート片固定工程と、前記表示プレート片1を固定した被着パネル基材21の全体を、接着固定した表示プレート片1と同じ厚さに塗装して塗膜層22を形成する塗膜層形成工程と、前記塗膜層22を乾燥させた後、塗膜層22のうち表示プレート片1の上面部分を被覆する塗膜部分をレーザー光線により除去する塗膜層除去工程と、を備えたため、接触干渉を防止すると共に、工芸品的付加価値を与えることで加飾性を得ながら、表示プレート片1の形状変更要請に対し、コスト増や工数増を招くことなく直ちに対応する象嵌表示パネルPの製造方法を提供することができる。加えて、この製造方法によれば、表示プレート片1と塗膜層22と間に全く隙間の無い象嵌表示パネルPを製造することができる。
【実施例2】
【0043】
実施例2は、実施例1とは異なる製造方法により、象嵌表示パネルPを製造するようにした例である。
【0044】
まず、構成を説明する。
表示しようとする形状に象った表示プレート片1をパネル基材2に嵌め込み固定した象嵌表示パネルPの構成については、図1〜図3に示す実施例1の象嵌表示パネルPと同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0045】
次に、実施例1の象嵌表示パネルPの製造方法について説明する。
図5は実施例2の象嵌表示パネルPの製造方法を示す工程図であり、(a)は塗膜層形成工程を示し、(b)は塗膜層除去工程を示し、(c)は表示プレート片固定工程を示す。以下、各工程について説明する。
【0046】
塗膜層形成工程は、図5(a)に示すように、前記パネル基材2の構成要素である被着パネル基材21のパネル表面21aの全体に、接着固定を予定している表示プレート片1と同じ厚さに塗装して塗膜層22を形成する工程である。
【0047】
塗膜層除去工程は、図5(b)に示すように、前記塗膜層22を乾燥させた後、接着固定を予定している表示プレート片1が占有する領域より広い領域の塗膜層22をレーザー光線により除去する工程である。
この塗膜層除去工程では、レーザー装置として、誘電放出を起こす媒体を炭酸ガスとし、加工に適する炭酸ガスレーザー装置を用いる。この炭酸ガスレーザー装置でのレーザー照射位置とレーザーパワーをコントロールすることにより、塗膜層22のみを除去する。除去する塗膜層22は、表示プレート片1が占有する領域より僅かに広い領域とする。例えば、表示プレート片1の外形線から外側へ+50μm〜+200μm程度(好ましくは、+30μm〜+100μmが良い。)離れた線で囲まれる領域を、塗膜層22の除去領域とする。
【0048】
表示プレート片固定工程は、図5(c)に示すように、前記レーザー光線により塗膜層22の一部を除去することで現れた被着パネル基材21のパネル表面21aに表示プレート片1を接着固定する工程である。
この表示プレート片固定工程では、複数の表示プレート片1の接着状態での厚みが、塗膜層22の厚みとほぼ同厚となるように、接着剤の塗布量を加減する。
【0049】
なお、実施例2の象嵌表示パネルPの作用は、実施例1と同様であり、「接触干渉防止作用」、「加飾表示作用」、「被着パネル基材の共通化作用」を奏するので、ここでは説明を省略する。
【0050】
次に、効果を説明する。
実施例2の象嵌表示パネルPの製造方法にあっては、実施例1の(1)〜(4)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0051】
(7) 表示しようとする形状に象った表示プレート片1をパネル基材2に嵌め込み固定した象嵌表示パネルPの製造方法において、前記パネル基材2の構成要素である被着パネル基材21のパネル表面21aの全体に、接着固定を予定している表示プレート片1と同じ厚さに塗装して塗膜層22を形成する塗膜層形成工程と、前記塗膜層22を乾燥させた後、接着固定を予定している表示プレート片1が占有する領域より広い領域の塗膜層22をレーザー光線により除去する塗膜層除去工程と、前記レーザー光線により塗膜層22の一部を除去することで現れた被着パネル基材21のパネル表面21aに表示プレート片1を接着固定する表示プレート片固定工程と、を備えたため、接触干渉を防止すると共に、工芸品的付加価値を与えることで加飾性を得ながら、表示プレート片1の形状変更要請に対し、コスト増や工数増を招くことなく直ちに対応する象嵌表示パネルPの製造方法を提供することができる。加えて、この製造方法によれば、表示プレート片1と塗膜層22の間に僅かな隙間が存在するため、この隙間を介して表示プレート片1の外周側面が垣間見え、表示プレート片1を立体的に視認できる象嵌表示パネルPを製造することができる。
【実施例3】
【0052】
実施例3は、光源からの光をパネルの一部分から表面側へ透過させて背光表示する背光表示機能を持たせた象嵌表示パネルとした例である。
【0053】
まず、構成を説明する。
図6は実施例3の背光表示機能付き象嵌表示パネルに表示した商品名のうち一部分を示す拡大断面図である。
【0054】
実施例3では、被着パネル基材として、光を透過する光透過性素材により形成した被着パネル基材21’を用いている。
【0055】
前記表示プレート片1としては、光の透過を遮る遮光性素材により形成している。すなわち、実施例1,2と同様に、電気分解成形法により作成された電着画像表示プレート片や、フォトエッチング法により作成されたフォトエッチング画像表示プレート片や、プレス法により作成された金属製表示プレート片を用いている。
【0056】
前記塗膜層は、光の透過を遮る遮光性塗膜層22としている。例えば、実施例1と同様に、黒色による遮光性塗膜層22としている。
【0057】
そして、前記表示プレート片1の外周形状に沿ってレーザー光線にて前記遮光性塗膜層22を取り除くことで、スリット状の光透過ギャップSを形成している。この光透過ギャップSのギャップ幅は、光による表示プレート片1の浮きだし演出効果を考慮し、100μm〜2000μm、好ましくは、200μm〜1000μmの範囲による設定とする。
【0058】
前記被着パネル基材21のパネル裏面側には、前記光透過ギャップSに向かって光を放つ発光ダイオード4(光源)を配置している。この発光ダイオード4は、LED(Light Emitting Diode)と呼ばれ、電流を流すと発光する半導体素子の一種である。
【0059】
実施例3の背光表示機能付き象嵌表示パネルは、図4または図5に示す象嵌表示パネルの製造方法によって製造される。
【0060】
すなわち、図4に示す象嵌表示パネルの製造方法によって製造する場合は、塗膜層除去工程において、表示プレート片1の上面を覆う部分等の除去に加え、表示プレート片1の周りの設定厚の塗膜層22をギャップ幅だけ除去し、表示プレート片1の周りにスリット状の光透過ギャップSを形成する。
【0061】
図5に示す象嵌表示パネルの製造方法によって製造する場合は、塗膜層除去工程において、除去する塗膜層22を、表示プレート片1が占有する領域に、スリット状の光透過ギャップSを形成する領域を加え、実施例2より広い領域とする。
【0062】
次に、作用を説明する。
実施例3の背光表示機能付き象嵌表示パネルにおける作用のうち、「接触干渉防止作用」及び「被着パネル基材の共通化作用」については、実施例1と同様であるので説明を省略する。そこで、「非背光時の加飾表示作用」と「背光時の加飾表示作用」について説明する。
【0063】
[非背光時の加飾表示作用]
実施例3の背光表示機能付き象嵌表示パネルは、表示プレート片1の外周形状に沿ってレーザー光線にて遮光性塗膜層22を取り除くことで、スリット状の光透過ギャップSを形成している。
【0064】
したがって、光源である発光ダイオード4からの背光が無い非背光時には、光透過ギャップSによる隙間部分を通して表示プレート片1の外周面が垣間見え、表示プレート片1を立体的に視認することができる。このため、非背光時には、象嵌表示パネルであることによる加飾性に加え、一見するだけで表示プレート片1に表示されている表示内容を認識できるという高い視認性が得られる。
【0065】
[背光時の加飾表示作用]
実施例3の背光表示機能付き象嵌表示パネルは、表示プレート片1の外周形状に沿ってレーザー光線にて遮光性塗膜層22を取り除くことで、スリット状の光透過ギャップSを形成している。
【0066】
したがって、光源である発光ダイオード4から光が照射される背光時には、表示プレート片1の外周形状に沿った光透過ギャップSを透過する光により、塗膜層22の黒っぽい色をバックにして表示プレート片1が、囲まれた光の中に浮き上がって見える。このため、背光時、表示プレート片1の輪郭を光らせるという浮き出し演出効果により視認性に優れる。
【0067】
例えば、パネル背面からのバックライトとして、青色の光を発する発光ダイオード4を用いた場合、光透過ギャップSを透過する光の色が強い青色光、塗膜層22が淡い青色反射光、表示プレート片1が輝く青色反射光、という光の色合いコントラストによる演出効果で、加飾性を得ることができる。
【0068】
次に、効果を説明する。
実施例3の背光表示機能付き象嵌表示パネルにあっては、実施例1,2の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0069】
(8) 前記被着パネル基材21’は、光を透過する光透過性素材により形成し、前記表示プレート片1は、光の透過を遮る遮光性素材により形成し、前記塗膜層は、光の透過を遮る遮光性塗膜層22とし、前記表示プレート片1の外周形状に沿ってレーザー光線にて前記遮光性塗膜層22を取り除くことで、スリット状の光透過ギャップSを形成し、前記被着パネル基材21’のパネル裏面側に、前記光透過ギャップSに向かって光を放つ発光ダイオード4を配置したため、非背光時に表示プレート片1の立体的に視認により高い視認性が得られ、背光時に表示プレート片1の輪郭を光らせるという浮き出し演出効果により視認性に優れる。
【0070】
以上、本発明の象嵌表示パネル及びその製造方法を実施例1〜実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成や工程については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0071】
実施例1〜3では、塗膜層除去するためのレーザー装置として、誘電放出を起こす媒体を炭酸ガスとし、加工に適する炭酸ガスレーザー装置を用いる例を示したが、レーザー装置としては、炭酸ガスレーザー装置に限られることはない。例えば、YAGレーザー等の媒体が固体である固体レーザー装置、色素分子を有機溶媒に溶かした色素レーザー等の媒体が液体である液体レーザー装置、ヘリウム・ネオンレーザーやエキシマレーザー等の媒体が気体であるガスレーザー装置等を用いることができる。
【0072】
実施例1,2では、被着パネル基材として光不透過性樹脂を用い、実施例3では、被着パネル基材として光透過性樹脂を用いた例を示した。しかし、例えば、アクリル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ABS樹脂等の合成樹脂ばかりでなく、被着パネル基材として金属素材を用いることもできる。なお、被着パネル基材が金属である場合には、素材性状の差が大きくなるので、被着パネル基材が樹脂の場合に比べ、さらにレーザー光線による塗膜層の除去が容易となる。
【0073】
実施例1〜3では、表示プレート片として電気分解成形法により作成された電着画像表示プレート片、フォトエッチング法(金属化学腐蝕法)により作成されたフォトエッチング画像表示プレート片、プレス法により作成された金属製表示プレート片の例を示した。しかし、表示プレート片としては、これらの方法により作成されたプレート片に限らず、樹脂成形により作成された樹脂プレート片等、これら以外の方法により作成された表示プレート片等を用いても良い。
【0074】
実施例1では、表示プレート片によりアルファベット文字を表示する例を示したが、表示プレート片としては、数字・文字・図形・記号・これらの組み合わせ、等を様々な表示形態のものに適用することができる。
【0075】
実施例3では、光源として、発光ダイオード(LED)の例を示したが、発光ダイオードに限らず、背光(バックライト)として採用できるものであれば、自然光や白熱球や液晶用蛍光管等であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0076】
実施例1では、本発明の象嵌表示パネルをノートパソコンの液晶モニタ画面カバーパネルに適用した例を示した。しかし、本発明の象嵌表示パネルは、ノートパソコン以外のビデオデッキ等の以外の家庭用電化製品や事業用電化製品へも適用できるし、車室内トリムやインストルメントパネル周りの自動車用内装材や自動車用外装材へも適用できる。さらに、家具や内外装建材や雑貨品(化粧品ケース)等の様々な用途にも適用できる。要するに、表示しようとする形状に象った表示プレート片を基材に嵌め込み固定した象嵌表示パネルであれば適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1の象嵌表示パネルを適用した閉じた状態のノートパソコンを示す平面図である。
【図2】実施例1の象嵌表示パネルに表示した商品名のうち図1のX部分を示す一部拡大図である。
【図3】実施例1の象嵌表示パネルに表示した商品名のうち一部分を示す図2のY−Y線による拡大断面図である。
【図4】実施例1の象嵌表示パネルPの製造方法を示す工程図であり、(a)は表示プレート片固定工程を示し、(b)は塗膜層形成工程を示し、(c)は塗膜層除去工程を示す。
【図5】実施例2の象嵌表示パネルPの製造方法を示す工程図であり、(a)は塗膜層形成工程を示し、(b)は塗膜層除去工程を示し、(c)は表示プレート片固定工程を示す。
【図6】実施例3の背光表示機能付き象嵌表示パネルに表示した商品名のうち一部分を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0078】
P 象嵌表示パネル
1 表示プレート片
1a 表面
2 カバーパネル基材(基材)
21 被着パネル基材
21a パネル表面
22 塗膜層
22a 表面
3 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示しようとする形状に象った表示プレート片を基材に嵌め込み固定した象嵌表示パネルにおいて、
前記基材を、被着パネル基材と塗膜層の組み合わせにより構成し、
前記被着パネル基材は、表示プレート片の形状に沿った加工凹部を形成していないパネル表面を有し、
前記表示プレート片は、前記被着パネル基材のパネル表面の表示位置に接着固定し、
前記塗膜層は、レーザー光線により一部を除去することで、前記被着パネル基材のパネル表面のうち、前記表示プレート片の設定領域以外の領域に形成し、
前記表示プレート片の表面と前記塗膜層の表面が同一面となるように設定したことを特徴とする象嵌表示パネル。
【請求項2】
請求項1に記載された象嵌表示パネルにおいて、
前記被着パネル基材は、光を透過する光透過性素材により形成し、
前記表示プレート片は、光の透過を遮る遮光性素材により形成し、
前記塗膜層は、光の透過を遮る遮光性塗膜層とし、
前記表示プレート片の外周形状に沿ってレーザー光線にて前記遮光性塗膜層を取り除くことでスリット状の光透過ギャップを形成し、
前記被着パネル基材のパネル裏面側に、前記光透過ギャップに向かって光を放つ光源を配置したことを特徴とする象嵌表示パネル。
【請求項3】
請求項1または請求項2の何れか1項に記載された象嵌表示パネルにおいて、
前記表示プレート片は、電気分解成形法により作成された電着画像表示プレート片であることを特徴とする象嵌表示パネル。
【請求項4】
請求項1または請求項2の何れか1項に記載された象嵌表示パネルにおいて、
前記表示プレート片は、フォトエッチング法により作成されたフォトエッチング画像表示プレート片であることを特徴とする象嵌表示パネル。
【請求項5】
請求項1または請求項2の何れか1項に記載された象嵌表示パネルにおいて、
前記表示プレート片は、プレス法により作成された金属製表示プレート片であることを特徴とする象嵌表示パネル。
【請求項6】
表示しようとする形状に象った表示プレート片を基材に嵌め込み固定した象嵌表示パネルの製造方法において、
前記基材の構成要素である被着パネル基材のパネル表面に、表示プレート片を接着固定する表示プレート片固定工程と、
前記表示プレート片を固定した被着パネル基材の全体を、接着固定した表示プレート片と同じ厚さに塗装して塗膜層を形成する塗膜層形成工程と、
前記塗膜層を乾燥させた後、塗膜層のうち表示プレート片の上面部分を被覆する塗膜部分をレーザー光線により除去する塗膜層除去工程と、
を備えたことを特徴とする象嵌表示パネルの製造方法。
【請求項7】
表示しようとする形状に象った表示プレート片を基材に嵌め込み固定した象嵌表示パネルの製造方法において、
前記基材の構成要素である被着パネル基材のパネル表面の全体に、接着固定を予定している表示プレート片と同じ厚さに塗装して塗膜層を形成する塗膜層形成工程と、
前記塗膜層を乾燥させた後、接着固定を予定している表示プレート片が占有する領域より広い領域の塗膜層をレーザー光線により除去する塗膜層除去工程と、
前記レーザー光線により塗膜層の一部を除去することで現れた被着パネル基材のパネル表面に表示プレート片を接着固定する表示プレート片固定工程と、
を備えたことを特徴とする象嵌表示パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−261982(P2008−261982A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103716(P2007−103716)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(505156891)ナガシマ工芸株式会社 (9)
【出願人】(594091927)テフコ青森株式会社 (6)
【Fターム(参考)】