説明

負極活物質、その製造方法及びそれを採用した負極とリチウム電池

【課題】充放電特性に優れた負極活物質、その製造方法及びそれを採用した負極とリチウム電池を提供する。
【解決手段】一般式SiO(0<x<0.8)で表示されるシリコン酸化物を含むシリコン酸化物系負極活物質である。該負極活物質は、酸素含量の少ないシリコン酸化物を含む負極活物質である。また、該負極活物質はリチウムと合金化可能な金属、リチウムと合金化可能な金属酸化物又は炭素を含んでもよく、更にシリコン酸化物上に炭素コティング層を備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、その製造方法及びそれを採用した負極とリチウム電池に係り、特に酸素含量の少ないシリコン酸化物を含む負極活物質、その製造方法及びそれを含めて充放電容量及び寿命特性が向上した負極とリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム化合物を負極として使用する非水電解質2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を有するので、これまで多くの研究の対象となってきた。そのうち、リチウム金属は、豊富な電池容量により、リチウムが負極の素材として注目された初期に多くの研究の対象となった。しかし、リチウム金属を負極として使用する場合、充電時にリチウムの表面に多くの樹枝状リチウムが析出して充放電効率が低下するか、または正極と短絡を起こし、また、リチウム自体の不安定性、すなわち高い反応性により熱や衝撃に敏感であり、爆発の危険性があるので、商用化に障害となった。かかる従来のリチウム金属の問題点を解決したものが炭素系負極である。炭素系負極は、リチウム金属を使用せず、電解液に存在するリチウムイオンが炭素電極の結晶面の間を充放電時に吸蔵放出しつつ酸化還元反応を行う、いわゆるロッキングチェア方式である。
【0003】
炭素系負極は、リチウム金属が有する各種の問題点を解決して、リチウム電池の大衆化に大きく寄与した。しかし、次第に各種の携帯用機器が小型化、軽量化及び高性能化されるにつれて、リチウム2次電池の高容量化が重要な問題となってきた。炭素系負極を使用するリチウム電池は、炭素の多孔性構造のために、本質的に低い電池容量を有する。例えば、最も結晶性の高い黒鉛の場合でも、理論的な容量は、LiCである組成であるとき、約372mAh/gである。これは、リチウム金属の理論的な容量が3860mAh/gであることに比べれば、わずか10%ほどに過ぎない。したがって、金属負極が有する既存の問題点にもかかわらず、再びリチウムなどの金属を負極に導入して、電池の容量を向上させようとする研究が活発に試みられている。代表的なものとして、Si,Sn,Alなどのリチウムと合金可能な物質を負極活物質として使用できる。しかし、Si,Snなどのリチウムと合金可能な物質は、リチウムとの合金反応時に体積膨脹を伴い、電極内で電気的に孤立した活物質を発生させ、比表面積の増加により電解質分解反応を促進させるなどの問題点を有している。
【0004】
かかる金属素材の使用による問題点を解決するために、金属に比べて体積膨張率が相対的に低い金属酸化物を負極活物質の素材として使用する従来の技術が提示された。
【0005】
非特許文献1では、非晶質Sn系酸化物を提案し、実際にSnのサイズを最小化し、充放電時に発生するSnの凝集を防止して優秀な容量維持特性を表した。しかし、Sn系酸化物は、リチウムと酸素原子との反応が必然的に発生して非可逆容量が存在するという問題点があった。また、特許文献1は、シリコン酸化物をリチウムイオン2次電池の負極材料として使用して高容量を有する電極を得た。しかし、この場合にも、初期充放電時の非可逆容量が高く、サイクル特性が実用化には不十分であった。
【0006】
したがって、従来の負極材料が有するかかる問題点を解決して、さらに優秀な充放電特性を表す負極材料の開発が依然として必要な状況である。
【特許文献1】日本特許登録第2997741号公報
【非特許文献1】Science,276,1395(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする第1の課題は、酸素含量の少ないシリコン酸化物を含むシリコン酸化物系負極活物質を提供するところにある。
【0008】
本発明が解決しようとする第2の課題は、前記負極活物質を含めて充放電容量及び容量維持率が向上した負極及びリチウム電池を提供するところにある。
【0009】
本発明が解決しようとする第3の課題は、前記負極活物質の製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の課題を解決するために、本発明は、一般式SiO(0<x<0.8)で表示されるシリコン酸化物を含むシリコン酸化物系負極活物質を提供する。
【0011】
前記第2の課題を解決するために、本発明は、前記負極活物質を採用した負極及びリチウム電池を提供する。
【0012】
前記第3の課題を解決するために、下記化学式1で表示されるシラン化合物をリチウム金属と反応させて、シリコン酸化物前駆体を製造するステップと、前記シリコン酸化物前駆体を不活性雰囲気下で、400ないし1300℃の温度範囲で焼成させるステップと、を含むことを特徴とするシリコン酸化物系負極活物質の製造方法を提供する:
【化1】

SiX4−n
前記式で、nは、2ないし4の整数であり、Xは、ハロゲンであり、Yは、水素、フェニル基またはC1−10のアルコキシ基である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による負極活物質は、従来の二酸化シリコン及び一酸化シリコンなどから得られるシリコン酸化物系負極活物質と異なり、酸素含量の少ないシリコン酸化物を含む負極活物質である。また、かかる負極活物質を含む負極及びリチウム電池は、充放電特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のシリコン酸化物系負極活物質は、一般式SiO(0<x<0.8)で表示されるシリコン酸化物を含む。
【0016】
さらに望ましくは、前記シリコン酸化物において、xが0<x<0.5範囲の値を有し、最も望ましくは、xが0<x<0.3範囲の値を有する。
【0017】
本発明の一具現例によるシリコン酸化物は、シリコン対酸素のモル比が1:0.8未満であるので、シリコン対酸素のモル比が1:1以上である従来の一般的なシリコン酸化物と異なり、高いシリコン原子含量による電気容量の増加が可能であり、シリコン−酸素の結合がシリコン原子の収縮/膨脹に対する支持体の役割を行ってシリコン原子の収縮/膨脹による電気的断絶などを防止するので、さらに向上した寿命特性を提供できる。
【0018】
前記シリコン酸化物は、液相または気相で反応させるため、炭素系材料との複合体を製造する場合より均一な炭素分布を有する複合体が得られる。
【0019】
本発明の他の具現例によれば、前記シリコン酸化物系負極活物質は、リチウムと合金可能な金属、リチウムと合金可能な金属酸化物または炭素をさらに含むことが望ましい。
【0020】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記リチウムと合金可能な金属またはリチウムと合金可能な金属酸化物は、Si,SiO(0.8<x≦2),Sn,SnO(0<x≦2),Ge,GeO(0<x≦2),Pb,PbO(0<x≦2),Ag,Mg,Zn,ZnO(0<x≦2),Ga,In,Sb,Bi及びそれらの合金などが望ましい。
【0021】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記炭素は、黒鉛、カーボンブラック、炭素ナノチューブ(CNT)及びそれらの混合物などが望ましい。
【0022】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記シリコン酸化物系負極活物質は、前記シリコン酸化物上に形成された炭素系コーティング層をさらに備えるか、または前記シリコン酸化物と炭素系物質とが互いに混合された複合化状態であることが望ましい。
【0023】
かかる炭素系コーティング層は、シリコン酸化物粒子を互いに結着させてシリコン酸化物と炭素との複合体を形成し、電子及びイオンの伝達経路として作用して、電池の効率及び容量を向上させる役割を行える。
【0024】
また、本発明は、前記第2の課題を解決するために、前記負極活物質を採用した負極及びリチウム電池を提供する。さらに具体的に、本発明の負極は、前記シリコン酸化物系負極活物質を含めて製造されることを特徴とする。
【0025】
前記電極は、例えば前記シリコン酸化物系負極活物質及び結着剤を含む負極混合材料を一定な形状に成形してもよく、前記負極混合材料を銅箔などの集電体に塗布させる方法で製造されてもよい。
【0026】
さらに具体的には、負極材料組成物を製造して、それを銅箔集電体に直接コーティングするか、または別途の支持体上にキャスティングし、その支持体から剥離させたシリコン酸化物系負極活物質フィルムを銅箔集電体にラミネーションして負極極板を得る。また、本発明の負極は、前記で列挙した形態に限定されるものではなく、列挙した形態以外の形態であってもよい。
【0027】
電池は、高容量化のために大量の電流を充放電することが必須的であり、このためには、電極の電気抵抗の低い材料が要求されている。したがって、電極の抵抗を低減させるために、各種の導電材の添加が一般的であり、主に使われる導電材としては、カーボンブラック、黒鉛微粒子などがある。
【0028】
本発明のリチウム電池は、前記負極を含めて製造されることを特徴とする。図6に示したように、リチウム電池3は、正極5、負極6及び前記正極5と負極6との間に配置されたセパレータ7を備える電極構造体4を含む。前記電極構造体は、電池ケース8に封入され、キャッププレート11及び密封ガスケット12で密封される。次いで、電池を完成するために電池ケースに電解液が注入される。
【0029】
本発明のリチウム電池は、次のように製造できる。
【0030】
まず、正極活物質、導電材、結合材及び溶媒を混合して正極活物質組成物を準備する。前記正極活物質組成物を金属集電体上に直接コーティング及び乾燥して、正極板を準備する。前記正極活物質組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、その支持体から剥離して得たフィルムを金属集電体上にラミネーションして、正極板を製造することも可能である。
【0031】
前記正極活物質としては、リチウム含有金属酸化物であって、当業界で通常的に使われるものであれば、いずれも使用可能であり、例えばLiCoO,LiMn2x,LiNix−1Mn2x(x=1,2),Li1−x−yCoMn(0≦x≦0.5,0≦y≦0.5)などが挙げられ、さらに具体的には、LiMn,LiCoO,LiNiO,LiFeO,V,TiS及びMoSなどのリチウムの酸化還元が可能な化合物である。導電材としては、カーボンブラックを使用し、結合材としては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びその混合物、スチレンブタジエンゴム系ポリマーを使用し、溶媒としては、N−メチルピロリドン、アセトン、水などを使用する。このとき、正極活物質、導電材、結合材及び溶媒の含量は、リチウム電池で通常的に使用するレベルである。
【0032】
セパレータとしては、リチウム電池で通常的に使われるものであれば、いずれも使用可能である。特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であり、かつ電解液の含湿能が優秀なものが望ましい。さらに具体的に説明すれば、ガラスファイバ、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、PTFE、その化合物のうち選択された材質であって、不織布または織布形態であってもよい。さらに詳細に説明すれば、リチウムイオン電池の場合には、ポリエチレン、ポリプロピレンのような材料からなる巻取可能なセパレータを使用し、リチウムイオンポリマー電池の場合には、有機電解液の含浸能が優秀なセパレータを使用するが、かかるセパレータは、下記方法によって製造可能である。
【0033】
すなわち、高分子樹脂、充填剤及び溶媒を混合してセパレータ組成物を準備した後、前記セパレータ組成物を電極の上部に直接コーティング及び乾燥してセパレータフィルムを形成するか、または前記セパレータ組成物を支持体上にキャスティング及び乾燥した後、前記支持体から剥離させたセパレータフィルムを電極の上部にラミネーションして形成できる。
【0034】
前記高分子樹脂は、特別に限定されず、電極板の結合材に使われる物質がいずれも使用可能である。例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート及びその混合物を使用できる。
【0035】
電解液としては、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、炭酸ブチレン、ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸メチルイソプロピル、炭酸エチルプロピル、炭酸ジプロピル、炭酸ジブチル、ジエチレングリコールまたはジメチルエーテルなどの溶媒またはそれらの混合溶媒に、LiPF,LiBF,LiSbF,LiAsF,LiClO,LiCFSO,Li(CFSON,LiCSO,LiSbF,LiAlO,LiAlCl,LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)(ただし、x,yは自然数),LiCl,LiIなどのリチウム塩からなる電解質のうち1種またはそれらを2種以上混合したものを溶解して使用できる。
【0036】
前述したような正極極板と負極極板との間にセパレータを配して、電池構造体を形成する。かかる電池構造体をワインディングするか、または折って円筒形の電池ケースや角形の電池ケースに入れた後、本発明の有機電解液を注入すれば、リチウムイオン電池が完成する。
【0037】
また、前記電池構造体をバイセル構造で積層した後、それを有機電解液に含浸させ、得られた結果物をポーチに入れて密封すれば、リチウムイオンポリマー電池が完成する。
【0038】
また、本発明は、前記第3の課題を解決するために、負極活物質の製造方法を提供する。
【0039】
本発明による負極活物質の製造方法の一具現例は、下記化学式1で表示されるシラン化合物をリチウム金属と反応させて、シリコン酸化物前駆体を製造するステップと、前記シリコン酸化物前駆体を不活性雰囲気下で400ないし1300℃の温度範囲で焼成させるステップと、を含む:
【化1】

SiX4−n
前記式で、nは、2ないし4の整数であり、Xは、ハロゲンであり、Yは、水素、フェニル基またはC1−10のアルコキシ基である。
【0040】
本発明による負極活物質の製造方法の他の具現例は、前記シリコン化合物前駆体をシラン化合物とリチウム金属との反応で製造する代わりに、シラン化合物を気相で還元させて製造するステップを含む。
【0041】
前記気相還元法は、当業界で一般的に使用する還元法であれば、いかなる方法も使用可能である。
【0042】
前記焼成ステップで、焼成温度が400℃未満である場合には、未反応のSiOHによる電極特性の低下という問題があり、1300℃超過である場合には、SiCの形成による電極容量の減少という問題がある。
【0043】
前記焼成温度は、さらに望ましくは、900ないし1300℃の範囲である。
【0044】
前記シリコン酸化物の製造方法のより具体的な具現例は、次のような反応式1ないし3で表示される。
【0045】
【化1】

【0046】
【化2】

【0047】
【化3】

【0048】
本発明の他の具現例によれば、前記焼成ステップで、シリコン酸化物前駆体と共に炭素系材料または炭素前駆体を、前記シリコン酸化物前駆体と炭素系材料または炭素前駆体との混合物の総量に対して、3ないし90重量%添加して焼成させることが望ましい。前記炭素系材料または炭素前駆体の含量が3重量%未満である場合には、電気伝導度の低下という問題があり、90重量%超過である場合には、容量の減少という問題がある。
【0049】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記炭素系材料は、黒鉛、カーボンブラック、CNT及びそれらの混合物などが望ましい。
【0050】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記炭素前駆体は、ピッチ、フルフリルアルコール、グルコース、スクロース、フェノール系樹脂、フェノール系オリゴマー、レゾルシノール系樹脂、レゾルシノール系オリゴマー、フロログルシノール系樹脂及びフロログルシノール系オリゴマーなどが望ましい。
【0051】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記焼成ステップで、シリコン酸化物前駆体と共にリチウムと合金可能な金属またはリチウムと合金可能な金属酸化物を添加して焼成させることが望ましい。
【0052】
さらに具体的に、前記リチウムと合金可能な金属またはリチウムと合金可能な金属酸化物は、Si,SiO(0.8<x≦2),Sn,SnO(0<x≦2),Ge,GeO(0<x≦2),Pb,PbO(0<x≦2),Ag,Mg,Zn,ZnO(0<x≦2),Ga,In,Sb,Bi及びそれらの合金からなる群から選択される一つ以上の化合物が望ましい。
【0053】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記シリコン酸化物前駆体は、酸素原子を含むことが望ましい。
【0054】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記焼成ステップ後に得られた焼成物に炭素前駆体を混合して、再焼成させるステップをさらに含むことが望ましい。
【0055】
また、本願発明の負極活物質は、シラン化合物から合成により製造が容易であり、リチウム金属に対するシラン化合物のモル比など合成条件を調節して、シリコン酸化物に含まれる酸素量を調節することが容易である。したがって、一般式SiOで表示されるシリコン酸化物で、xの値を0<x<0.8の範囲で調節することが容易である。
【0056】
以下の実施例及び比較例を通じて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、実施例は本発明を例示するためのものであり、それらのみで本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
シリコン酸化物の製造
実施例1
100mlのフラスコに、厚さ0.53mmのLiフィルム断片1.05g及びテトラヒドロフラン(THF)30mlを混合して氷バスに入れた後、前記フラスコにトリクロロシラン(HSiCl、Aldrich)5ccを滴加した後、24時間反応させた。前記反応物にエタノール10mlを徐々に滴加し、3時間の間反応させた。この反応物を気孔サイズ0.5μmであるフィルタで濾過し、エタノール、蒸溜水、アセトンの順で洗浄した後、60℃のオーブンで乾燥して部分的に酸化されたシリコン酸化物前駆体を得た。前記前駆体を窒素雰囲気で900℃で熱処理して、シリコン酸化物を得た。
【0058】
実施例2
実施例1で得られたシリコン酸化物前駆体0.2gとピッチ0.08gとをTHF10mlで混合した後、1時間超音波処理して攪拌しつつ溶媒を乾燥させた。得られた乾燥物を窒素雰囲気で900℃で熱処理して、炭素系物質でコーティングされたシリコン酸化物を得た。
【0059】
実施例3
100mlのフラスコに、厚さ0.08mmのLiフィルム断片1.05g及びTHF 30mlを混合して氷バスに入れた後、前記フラスコにトリクロロシラン(HSiCl,Aldrich)5ccを滴加した後、24時間反応させた。前記反応物にエタノール10mlを徐々に滴加し、3時間の間反応させた。この反応物を気孔サイズ0.5μmであるフィルタで濾過し、エタノール、蒸溜水、アセトンの順に洗浄した後、60℃のオーブンで乾燥して部分的に酸化されたシリコン酸化物前駆体を得た。
【0060】
前記シリコン酸化物前駆体0.2gとピッチ0.08gとをTHF 10mlで混合した後、1時間超音波処理して攪拌しつつ溶媒を乾燥させた。前記乾燥物を窒素雰囲気で900℃で熱処理して、炭素系物質でコーティングされたシリコン酸化物を得た。
【0061】
実施例4
100mlのフラスコに、厚さ0.08mmのLiフィルム断片1.07g及びTHF 30mlを混合して氷バスに入れた後、前記フラスコに四塩化ケイ素(SiCl,Aldrich)5.5ccを滴加した後、24時間反応させた。前記反応物にエタノール10mlを徐々に滴加し、3時間の間反応させた。この反応物を気孔サイズ0.5μmであるフィルタで濾過し、エタノール、蒸溜水、アセトンの順で洗浄した後、60℃のオーブンで乾燥して、部分的に酸化されたシリコン酸化物前駆体を得た。
【0062】
前記シリコン酸化物前駆体0.2gとピッチ0.08gとをTHF 10mlで混合した後、1時間超音波処理して攪拌しつつ溶媒を乾燥させた。前記乾燥物を窒素雰囲気で900℃で熱処理して、炭素系物質でコーティングされたシリコン酸化物を得た。
【0063】
比較例1
平均直径43μmのSi粒子(Aldrich社製)をそのまま入手して使用した。
【0064】
比較例2
平均直径100nmのSi粒子(米国、Nano&amorphous materials社製)をそのまま入手して使用した。
【0065】
比較例3
SiO(高純度化学社製)をそのまま入手して使用した。
【0066】
比較例4
平均直径2μmのSiO粒子(高純度化学社製)0.2gとピッチ0.08gとをTHF 10mlで混合した後、1時間の間超音波処理して攪拌しつつ溶媒を乾燥させた。前記乾燥物を窒素雰囲気で900℃で熱処理して、炭素系物質でコーティングされたSiOを得た。
【0067】
EDS(Energy Dispersive Spectrometer)測定
前記実施例1で製造されたシリコン酸化物及び比較例3のSiOのEDS実験を行った。実験結果は、図1A及び図1Bに示した。
【0068】
図1A及び図1Bに示したように、前記実施例1で製造されたシリコン酸化物は、比較例3のSiOに比べて増加したSi/O比率を表した。したがって、本願発明のシリコン酸化物は、SiOでxの値が1未満であるということが分かる。
【0069】
XRD(X−ray diffraction)測定
前記実施例1で製造されたシリコン酸化物及び比較例3のSiOのX線回折実験を行った。実験結果は、図2に示した。
【0070】
図2に示したように、前記実施例1で製造されたシリコン酸化物は、シリコンの結晶ピークを表すので、結晶性シリコン酸化物を含むということが分かる。
【0071】
ラマンスペクトル測定
前記実施例1のシリコン酸化物に対してラマンスペクトルを測定した。実験結果は、図3に示した。図3に示したように、前記実施例1で製造されたシリコン酸化物は、500cm−1付近でラマンシフトを表すので、非晶質シリコン酸化物を含むということが分かる。
【0072】
したがって、前記実施例1のシリコン酸化物は、結晶質と非晶質とをいずれも含むシリコン酸化物であるということが分かる。
【0073】
負極の製造
実施例5
前記実施例1で製造されたシリコン酸化物0.045gと黒鉛(SFG−6,Timcal,Inc.社製)0.045gとにPVDF(呉羽化学社製)5wt%のN−メチルピロリドン(NMP)溶液0.2gを入れて混合して、スラリを製造した。前記スラリを銅箔に塗布した後、ドクターブレードを使用して塗布厚さを50μmに製膜した。次いで、前記スラリが塗布された銅箔を120℃で2時間の間真空乾燥した後、圧延機で約30μmの厚さに圧延して負極を製造した。
【0074】
実施例6
前記実施例2で製造されたシリコン酸化物0.07gとカーボンブラック(SuperP,Timcal,Inc.社製)0.015gとにPVDF(呉羽化学社製)5wt%のNMP溶液0.3gを入れて混合して、スラリを製造した。以後の過程は、前記実施例5と同一である。
【0075】
実施例7
前記実施例3で製造されたシリコン酸化物0.0585gと黒鉛(SFG6,Timcal,Inc.社製)0.0315gとにPVDF(呉羽化学社製)5wt%のNMP溶液0.2gを入れて混合して、スラリを製造した。以後の過程は、前記実施例5と同一である。
【0076】
実施例8
前記実施例4で製造されたシリコン酸化物0.0585gと黒鉛(SFG6,Timcal,Inc.社製)0.0315gとにPVDF(呉羽化学社製)5wt%のNMP溶液0.2gを入れて混合して、スラリを製造した。以後の過程は、前記実施例5と同一である。
【0077】
比較例5
前記比較例1のシリコン粒子0.027gと黒鉛(SFG6,Timcal,Inc.社製)0.063gとにPVDF(呉羽化学社製)5wt%のNMP溶液0.2gを入れて混合して、スラリを製造した。以後の過程は、前記実施例5と同一である。
【0078】
比較例6
前記比較例2のシリコン粒子0.027gと黒鉛(SFG6,Timcal,Inc.社製)0.063gとにPVDF(呉羽化学社製)5wt%のNMP溶液0.2gを入れて混合して、スラリを製造した。以後の過程は、前記実施例5と同一である。
【0079】
比較例7
前記比較例4で製造されたコーティングされたSiO粒子0.07gとカーボンブラック(SuperP,Timcal,Inc.社製)0.015gとにPVDF(呉羽化学社製)5wt%のNMP溶液0.3gを入れて混合して、スラリを製造した。以後の過程は、前記実施例5と同一である。
【0080】
リチウム電池の製造
実施例9
前記実施例5で製造した前記負極板を利用して、リチウム金属を相対電極とし、ポリプロピレン隔離膜(Cellgard 3510)、1.3MのLiPFが炭酸エチレン(EC)+炭酸ジエチル(DEC)(3:7体積比)に溶けている溶液を電解質として、CR2016規格のコインセルを製造した。
【0081】
実施例10及び比較例8ないし10
前記実施例5で製造した負極板の代わりに、前記実施例6及び比較例5ないし7で製造した負極板をそれぞれ使用した点を除いては、同じ方法でコインセルを製造した。
【0082】
実施例11及び12
前記実施例7及び8で製造した前記負極板を利用して、リチウム金属を相対電極とし、ポリプロピレン隔離膜(Cellgard 3510)、1.3MのLiPFがEC+DEC+FEC(炭酸フルオロエチレン)(2:6:2体積比)に溶けている溶液を電解質として、CR2016規格のコインセルをそれぞれ製造した。
【0083】
充放電実験
前記実施例9、10及び比較例8ないし10でそれぞれ製造したコインセルを、活物質1g当たり100mAの電流でLi電極に対して0.001Vに達するまで定電流充電を実施した。充電が完了したセルは、約10分間の休止期間を経た後、活物質1g当たり100mAの電流で電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行って放電容量を得た。それを50回反復して測定した。
【0084】
一方、前記実施例11及び12でそれぞれ製造したコインセルは、活物質1g当たり100mAの電流でLi電極に対して0.001Vに達するまで定電流充電し、次いで、0.001Vの電圧を維持しつつ、電流が活物質1g当たり10mAに低くなるまで定電圧充電を実施した。充電が完了したセルは、約10分間の休止期間を経た後、活物質1g当たり100mAの電流で電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行って放電容量を得た。それを50回反復して測定した。
【0085】
前記放電容量をサイクル数によってそれぞれ測定した。これから、容量維持率を計算した。容量維持率は、下記数式1で表示され、1stサイクルの放電効率を数式2で表示する。
【0086】
[数1]
容量維持率(%)=50thサイクルでの放電容量/1stサイクルでの放電容量×100
【0087】
[数2]
stサイクル充放電効率=1stサイクルでの放電容量/1stサイクルでの充電容量×100
【0088】
前記実施例9及び比較例8、9のコインセルに対する充放電実験結果を下記図4に示し、前記実施例10ないし12及び比較例10のコインセルに対する充放電実験結果を表1及び図5に示した。
【0089】
【表1】

【0090】
前記表1及び図4、図5から分かるように、本願発明のシリコン酸化物である実施例9は、従来の一般的なシリコンである比較例8及び9に比べて向上した寿命特性を表した。そして、本願発明のシリコン酸化物である実施例10ないし12の場合にも、従来のSiO(比較例10)に比べて向上した初期放電容量が顕著に増加した。
【0091】
かかる結果は、電池の寿命が顕著に向上するという可能性を表す。かかる差は、前記EDAX実験などで示されるようにシリコン酸化物の酸素含量が低いため、高いシリコン原子の含量による電気容量の増加が可能であり、酸素原子がシリコン原子の収縮/膨脹に対する支持体の役割を行って、シリコン原子の収縮/膨脹による電気的断絶などを防止するためであると判断される。また、シリコン酸化物と複合化された炭素系材料が電気伝導性などをさらに向上させると判断される。
【0092】
また、本発明のシリコン酸化物は、1200℃以上の高温焼成や急冷過程が必要な従来の一般的なシリコン酸化物の製造方法と異なり、ウェット合成により得られた前駆体を単に不活性雰囲気で焼成することによって簡単に製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、リチウム電池関連の技術分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1A】実施例1のシリコン酸化物のEDS結果を示すグラフである。
【図1B】比較例3のシリコン酸化物のEDS結果を示すグラフである。
【図2】実施例1で製造されたシリコン酸化物及び比較例3のシリコン酸化物のX線回折実験結果を示すグラフである。
【図3】実施例1で製造されたシリコン酸化物のラマンスペクトル測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例9及び比較例8、9のリチウム電池に対する充放電実験結果を示すグラフである。
【図5】実施例10ないし12及び比較例10のリチウム電池の充放電実験結果を示すグラフである。
【図6】本発明の一具現例によるリチウム電池の断面図である。
【符号の説明】
【0095】
3 リチウム電池
4 電極構造体
5 正極
6 負極
7 セパレータ
8 電池ケース
11 キャッププレート
12 密封ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式SiO(0<x<0.8)で表示されるシリコン酸化物を含むことを特徴とするシリコン酸化物系負極活物質。
【請求項2】
前記xは、0<x<0.5の範囲の値を有することを特徴とする請求項1に記載のシリコン酸化物系負極活物質。
【請求項3】
前記シリコン酸化物系負極活物質は、リチウムと合金可能な金属、リチウムと合金可能な金属酸化物または炭素をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のシリコン酸化物系負極活物質。
【請求項4】
前記リチウムと合金可能な金属またはリチウムと合金可能な金属酸化物は、Si,SiO(0.8<x≦2),Sn,SnO(0<x≦2),Ge,GeO(0<x≦2),Pb,PbO(0<x≦2),Ag,Mg,Zn,ZnO(0<x≦2),Ga,In,Sb,Bi及びそれらの合金からなる群から選択される一つ以上の化合物であることを特徴とする請求項3に記載のシリコン酸化物系負極活物質。
【請求項5】
炭素は、黒鉛、カーボンブラック、炭素ナノチューブ及びそれらの混合物からなる群から選択される一つ以上の化合物であることを特徴とする請求項3に記載のシリコン酸化物系負極活物質。
【請求項6】
前記シリコン酸化物系負極活物質は、前記シリコン酸化物上に形成された炭素系コーティング層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のシリコン酸化物系負極活物質。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか一項に記載のシリコン酸化物系負極活物質を含むことを特徴とする負極。
【請求項8】
請求項1ないし6のうちいずれか一項に記載のシリコン酸化物系負極活物質を含む負極を採用したことを特徴とするリチウム電池。
【請求項9】
下記化学式1で表示されるシラン化合物をリチウム金属と反応させて、シリコン酸化物前駆体を製造するステップと、
前記シリコン酸化物前駆体を不活性雰囲気下で400ないし1300℃の温度範囲で焼成させるステップと、を含むことを特徴とするシリコン酸化物系負極活物質の製造方法:
【化1】

SiX4−n
前記式で、
nは、2ないし4の整数であり、
Xは、ハロゲンであり、Yは、水素、フェニル基またはC1−10のアルコキシ基である。
【請求項10】
前記焼成ステップで、シリコン酸化物前駆体と共に炭素系材料または炭素前駆体を前記シリコン酸化物前駆体と炭素系材料または炭素前駆体との混合物の総量に対して、3ないし90重量%さらに添加して焼成させることを特徴とする請求項9に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記炭素系材料は、黒鉛、カーボンブラック、炭素ナノチューブ及びそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記炭素前駆体は、ピッチ、フルフリルアルコール、グルコース、スクロース、フェノール系樹脂、フェノール系オリゴマー、レゾルシノール系樹脂、レゾルシノール系オリゴマー、フロログルシノール系樹脂及びフロログルシノール系オリゴマーからなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項11に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記焼成ステップで、シリコン酸化物前駆体と共にリチウムと合金可能な金属、リチウムと合金可能な金属酸化物及びそれらの混合物からなる群から選択される一つ以上の材料を添加して、焼成させることを特徴とする請求項9に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記リチウムと合金可能な金属またはリチウムと合金可能な金属酸化物は、Si,SiO(0.8<x≦2),Sn,SnO(0<x≦2),Ge,GeO(0<x≦2),Pb,PbO(0<x≦2),Ag,Mg,Zn,ZnO(0<x≦2),Ga,In,Sb,Bi及びそれらの合金からなる群から選択される一つ以上の化合物であることを特徴とする請求項13に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項15】
前記シリコン酸化物前駆体は、酸素原子を含むことを特徴とする請求項9に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項16】
前記焼成ステップ後に得られた焼成物に炭素前駆体を混合して、再焼成させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項9に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項17】
下記化学式1で表示されるシラン化合物を気相で還元させて、シリコン酸化物前駆体を製造するステップと、
前記シリコン酸化物前駆体を、不活性雰囲気下で400ないし1300℃の温度範囲で焼成させるステップと、を含むことを特徴とするシリコン酸化物系負極活物質の製造方法:
【化1】

SiX4−n
前記式で、
nは、2ないし4の整数であり、
Xは、ハロゲンであり、Yは、水素、フェニル基またはC1−10のアルコキシ基である。
【請求項18】
前記焼成ステップで、シリコン酸化物前駆体と共に炭素系材料または炭素前駆体を前記シリコン酸化物前駆体と炭素系材料または炭素前駆体との混合物の総量に対して、3ないし90重量%さらに添加して焼成させることを特徴とする請求項17に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項19】
前記焼成ステップで、シリコン酸化物前駆体と共にリチウムと合金可能な金属、リチウムと合金可能な金属酸化物及びそれらの混合物からなる群から選択される一つ以上の材料を添加して、焼成させることを特徴とする請求項17に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。
【請求項20】
前記焼成ステップ後に得られた焼成物に炭素前駆体を混合して、再焼成させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項17に記載のシリコン酸化物系負極活物質の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−198610(P2008−198610A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32262(P2008−32262)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】