説明

負荷感応型自動変速機を内蔵したチェーンブロック

【課題】
従来の自動変速機を内蔵したチェーンブロックは、クラッチを切替える伝達プレートを機械的にスライドさせる接触式の切替え方式であるため、切替え時の内部抵抗が大きく、操作性が悪いという課題を有していた。
【解決手段】
チェーンブロックの入力軸1と同速度で回転するトルク伝達外側ヨーク22と、前記外側ヨーク22の内側に、入力軸の回転を増速して回転する中間軸8に軸支され、前記外側ヨーク22と回転軸の軸線方向位置を異にして設けたトルク伝達内側ヨーク21と、前記外側ヨーク22と内側ヨーク21の中間に、出力軸9に軸線方向に移動可能に軸支された中間円板6に設けられ、前記外側ヨーク22及び内側ヨーク21と対向可能な中間ヨーク20と、出力軸9に軸支され、バネにより中間円板6と結合し、負荷トルクにより中間円板6を相対回転させ、中間円板6を軸線方向に移動させる出力円板を備えたチェーンブロック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機を内蔵したチェーンブロックに関するもので、詳しくは、無負荷時と低荷重時に高速早送り動作を行う負荷感応変速機を内蔵したチェーンブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンブロックは、後記するように、ロードチェーンの吊下げる最大荷重および作業者がハンドチェーンに加えることができる最大手引き力に基づき、減速比が決定されており、そのため無負荷時にハンドチェーンを引いても、上記の減速比でロードチェーンが移動するため、極めて作業効率が悪いという課題を有していた。
【0003】
この課題を解決するため、チェーンブロックのハンドチェーン(入力側)とロードチェーン(出力側)の間に変速装置を内蔵し、無負荷時にロードチェーンの巻取り速度を高速にするようにしたチェーンブロックが開発されている。
【0004】
上記変速装置を内蔵したチェーンブロックは、ハンドホイールからの回転トルクを1対1の回転比で駆動軸に伝達する第1クラッチ手段と、巻取り速度を高速とする増速変速装置に伝達する第2クラッチ手段と、前記、第1クラッチ手段と、第2クラッチ手段とを係脱するための伝達プレートとを備え、ロードシーブに負荷が掛かる場合にハンドホイールを回動すると、第1クラッチ手段が係合し、第2クラッチ手段を解放する方向に前記伝達プレートが移動し、巻取り速度を高速から低速に切り替え、無負荷時には第2クラッチが係合し、巻取り速度を高速にする自動変速装置を備えたものである。[特許文献1]
上記した特許文献1に記載されたチェーンブロックの自動変速装置は、ハンドホイールからの回転トルクを1対1の回転比で駆動軸に伝達する第1クラッチ手段と、増速変速装置に伝達する第2クラッチ手段と、第1、第2クラッチ手段の切換えを行う伝達プレートを備え、切換え時には伝達プレートをスライドさせ、機械的にクラッチ手段を切換えるようにしたものである。
【0005】
その他、チェーンブロックに設けた切替紐を引っ張ることにより、高速、低速の切替えを行う変速装置を備えたチェーンブロックも公知である。[特許文献2]
【特許文献1】特開2001-146391号公報
【特許文献2】特許第3727783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、チェーンブロックの設計においては、ロードチェーンに吊下げる最大荷重および作業者がハンドチェーンに加えることができる最大手引き力に基づき、それらの比から減速比が決定されている。

【0007】
上記の設計により、小さな手引力で重量物の吊上げが可能となる。例えばK=100の場合、250N(約25kgf)の手引力で25kN(約2.5tf)の荷重を吊上げることができる。
【0008】
しかしながらその代償として、ハンドチェーンに対するロードチェーンの速度は極めて低くなってしまう。

【0009】
上式で再びK=100の場合を考えると、ロードチェーンを1m移動するためには、たとえ空荷重状態でも作業者はハンドチェーンを100m引かなければならないことを意味し、空荷での位置合わせにおいてきわめて能率の低い作業を強いられるという課題を有していた。
【0010】
上記特許文献1に記載されたチェーンブロックの自動変速機は、この課題を解決するため、2つのクラッチ機構を備え、無負荷時には高速巻上げを可能にするものであるが、伝達プレートを機械的にスライドさせる接触式の切替え方式であるため、切替え時の内部抵抗が大きく、操作性が悪いという課題を有していた。
【0011】
また、特許文献2に記載されたチェーンブロックの変速装置は、切替紐等の操作部が巻上用ハンドチェーンと干渉したり、切替操作を誤ってトラブルが発生する等の課題を有していた。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するもので、チェーンブロックに内蔵する変速装置の切替えを非接触式とすることで、内部抵抗を減少し、操作性を改善するとともに、作業者が荷重の状態が変化する度に煩雑な変速操作を行う必要が無く、また、定格以上の荷重を巻上げようとした場合には、過負荷保護機能により安全操作が可能なチェーンブロックにおける自動変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するもので、チェーンブロックの入力軸と出力軸間に負荷感応型自動変速装置を内蔵したチェーンブロックであって、チェーンブロックの入力軸と同速度で回転するトルク伝達外側ヨークと、前記外側ヨークの内側に、入力軸の回転を予め算定された増速比により高速回転する中間軸に軸支され、前記外側ヨークと回転軸の軸線方向位置を異にして設けたトルク伝達内側ヨークと、前記外側ヨークと内側ヨークの中間に、出力軸の軸線方向に移動可能に軸支された中間円板に設けられ、前記外側ヨーク及び内側ヨークと対向可能な中間ヨークと、出力軸に軸支され、バネにより中間円板と結合し、負荷トルクにより、中間円板を相対回転させ、中間円板を軸線方向に移動させる出力円板を備え、負荷トルクにより中間ヨークを内側ヨークまたは外側ヨークに対向させ、出力軸を高速または低速に切り替えることを特徴とする。
【0014】
また、中間軸の増速比は、次式により算出される値であることを特徴とする。

【発明の効果】
【0015】
本発明の負荷感応変速装置を内蔵したチェーンブロックは、動力伝達の切替えを磁気を用いた非接触回転スラスト変換機構によって実現するので、変速機内部の機械的接触は歯車および軸受け部分のみに限定されるため、スムーズな切替え操作が可能となり、また、作業者は荷重の状態が変化する度に煩雑な変速操作を行う必要はなくなり、また、磁気クラッチを用いた負荷感応変速機は、過負荷に対してスリップするため、定格以上の荷重を巻き上げようとした場合には、スリップし過負荷保護機能を奏するので、安全操作が可能となる。
【0016】
また、本発明の負荷感応変速機は、安全装置を併設することが可能であるから、荷重の落下を防止でき、チェーンブロックの安全性をより向上することができる。
【0017】
また、中間軸の増速比を請求項2に記載した最適値に設定することにより、作業者の能力を最大限に利用した空荷での早送り動作を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1は本実施の形態のチェーンブロックに搭載される自動変速装置の概略図、図2(a)〜(c)はトルク伝達ヨークの概要図、図3は高速時のブロック図、図4は高速時のスケルトン図、図5は低速時のブロック図、図6は低速時のスケルトン図、図7は中間ヨークの動作説明図、図8はスラスト変換機構を示す説明図である。
【0020】
図1において、1はハンドホイールの入力軸、2は入力軸1のフランジ1aとリニアシャフト3により連結される遊星歯車、2aは遊星歯車2と噛合する内歯車、4は中間軸8に設けられ、遊星歯車2と噛合する太陽歯車、5はリニアシャフト3により入力軸1と連結する低速入力円板である。遊星歯車2は中間軸8の太陽歯車4と噛合し、中間軸8を高速回転する。22は低速入力円板5の外周面に周設されたトルク伝達外側ヨークで、内周面に図2(a)に示す2列の内歯22aが断面コ字状に列設されている。21は中間軸8に固定され、高速時には後記するトルク伝達中間ヨーク20に対向し、高速回転するトルク伝達内側ヨークで、図2(c)に示す2列の外歯21aが断面コ字状に列設されている。6は出力軸9に軸支された中間円板で、低速入力円板5側に延出するフランジ6aを備え、該フランジ6aの先端に内歯20a、外歯20bを有する2個のトルク伝達中間ヨーク20が列設されている。(図2(b)には1枚のヨーク20のみ記載)
前記トルク伝達外側ヨーク22は図2(a)に示すように、円周方向内側に開口し、入力軸1と同速度で回転する断面コ字型の磁性体からなり、また、トルク伝達外側ヨーク22の内周側には、前記外側ヨーク22に対向し、且つ互いに回転軸の軸線方向の位置を異にして設けられ、断面コ字型の磁性体からなるトルク伝達内側ヨーク21が配置されている。トルク伝達内側ヨーク21は入力軸1を増速して回転する。また、外側ヨーク22と内側ヨーク21間には、外側ヨーク22、内側ヨーク21の何れか一方と同速回転するトルク伝達中間ヨーク20が配置されており、中間ヨーク20には図7に示すように、ヨーク間に永久磁石10が配置され、外側ヨーク22及び内側ヨーク21の何れか一方に対向可能になっている。中間ヨーク20が軸線方向右側に移動すると、図4に示すように内側ヨーク21に対向し、軸線方向左側に移動すると、図6に示すように外側ヨーク22と対向するように構成されている。7は出力軸9に軸支された出力円板で、中間円板6に後記する磁気的な回転バネ(捩れが生ずると中立位置に戻そうとする磁気作用)で接続され、相対的に回転可能になっている。また、中間円板6及び出力円板7の表面には図8(a)(b)に示すように、互いに位相及び極性を異にする磁石が固定されており、負荷によるトルクが前記した出力円板7と中間円板6間に加わり、そのトルクが回転バネの戻し力よりも大きくなると、出力円板7が回転し、出力円板7の磁石の先端の部分が中間円板6の磁石の先端部分に移動し、両磁石の磁性は同極が対向するため、その反発力によって中間円板6は軸線方向にスライドして移動する。以上の通り、中間円板6と出力円板7間に所定のトルク以上の力が加わると、両円板の相対位置が移動し、そのトルクが低下すると元位置に復帰するように両者は結合されている。
【0021】
以下、上記したスラスト変換機構について詳細に説明する。図8に示すように、中間円板6には永久磁石M1を、出力円板7には中間円板6移動用磁石MOAと、この中間円板移動用磁石の両側に、中間円板6に戻し力を与える磁気バネ用磁石MOBをそれぞれ配置する。最初に負荷トルクが小さい場合は、中間円板6に配置した磁石M1及び出力円板7に配置した磁石MOAの異極同士が対向して吸引する。このため中間円板6を出力円板7に近づける方向にスラストが発生し、中間円板6は軸方向にスライドして内側ヨーク21側に接続する。その結果図4に示す変速機は高速モードで動作する。この時、中間円板6の永久磁石M1の磁力が作用する中間ヨーク20が内側ヨーク21とそれぞれ対向し、相互間に所定以上の軸線方向に移動する力が作用するまではこの位置を保持する。またこのとき、中間円板の磁石M1のS極は、磁気バネ用磁石MOBのS極に対向し、中間円板6の磁石M1のN極は磁気バネ用磁石MOB’のN極に対向するため、前記のような中間円板移動用磁石MOAと吸引している状態においては、磁石M1が両側から受ける反発力による磁気的バネ作用によって所定位置が保持される。なお、前記のように、両者間を実際に引っ張りバネ等のスプリングによって連結し、所定位置に保持するように構成してもよい。
【0022】
次に、負荷トルクが増大すると、中間円板6と出力円板7を結合する前記のバネ要素に捩れ力が生じ、その力が前記磁気バネやスプリングの保持力を超えると、両円板が相対回転する。その結果磁石の位置関係が変化し、中間円板の磁石M1が中間円板移動用磁石側MOA側に移動し、両磁石の同極が対向するため、相互に反発し、中間円板6に作用するスラスト方向が反転する。その結果、中間円板6の永久磁石M1で励磁されている中間ヨーク20は、低速入力円板5に設けられた外側ヨーク22と対向する位置にスライドし、中間ヨーク20に設けた磁石10により、両ヨークは磁気結合し、中間ヨーク20の外歯20bが外側ヨーク22の内側ヨーク22aと噛合するので変速機は低速モードに遷移して、高負荷に対応した回転を行う。
【0023】
上記した通り、本実施の形態の自動変速装置は、低負荷高速時には、図4に示すように、中間円板6の中間ヨーク20は内側ヨーク21に接続し、入力軸1の回転は、遊星歯車2と、遊星歯車2と噛合する太陽歯車4で増速され、中間軸8を増速回転し、中間軸8に軸支されたトルク伝達内側ヨーク21の歯21aとトルク伝達中間ヨーク20の内歯20aが噛合し、トルク伝達中間ヨーク20が高速回転し、中間円板6、出力円板7を介して出力軸9を高速回転する。
【0024】
次に、高負荷低速時には、図6に示すように、中間円板6の中間ヨーク20は外側ヨーク22に接続し、入力軸1と同速回転する低速側入力円板5に設けたトルク伝達外側ヨーク22の内歯22aとトルク伝達中間ヨーク20の外歯20bが噛合し、トルク伝達中間ヨーク20が入力軸と同速で回転し、中間円板6、出力円板7を介して出力軸9を低速回転する。
【0025】
本実施の形態のチェーンブロックは、大きな力による荷重の巻上げと空荷での高速な早送り動作を両立し、作業能率の高いチェーンブロックを実現することができる。
【0026】
次に、低負荷時の変速機増速比を適切に設定し,最大速度での早送りを実現する変速機の増速比の算定方法について説明する。
・ 作業者による手引き速度・力は,それぞれ最大値以下に制約される
・ チェーンブロック内部には安全装置のラチェットやグリース等,粘性要素で近似される摩擦が存在する
・ このため低負荷時の増速比を増してもロードチェーン速度は単調に増加するのではなく,ある増速比以上ではかえって減少に転じる.すなわち,増速比には最大ロードチェーン速度に対応する最適値がある
以上の条件から、
作業者の手引き能力

【0027】
変速機における増速

【0028】
ロードチェーンにおける増速
変速機を使用しないオリジナルのチェーンブロックのロードチェーン速度

に対する実際のロードチェーン速度

の比率

を以下のように定義する。

【0029】
チェーンブロック内部の粘性摩擦

【0030】
以上の準備を経て,まず式(5), (6), (8)より変速機入力軸に取付けたハンドチェーンに現われる粘性抵抗が,変速機における増速比の2乗に比例して増大することが導かれる。

【0031】
ここで式(9)-(10)に式(3)-(4)の制約を課すると,作業者がハンドチェーンを引く状態は変速機における増速比に応じて以下の2通りに場合分けされる.また式(2'), (7)より,各状態でのロードチェーンにおける増速比が導かれる。

【0032】
領域1ではロードチェーン増速比は変速機増速比に比例して増大する反面,領域2では反比例する減少に転じる.式(11)-(11')より,変速機およびロードチェーンにおける増速比の関係を以下の図表のように整理することができる。
【0033】

【0034】

【0035】
なお,変速機増速比の最適値

は領域1, 2の境界において次式のように定まる。

【0036】
変速機の増速比を式(12)で、算出される最適値に設定することにより,作業者の能力を最大限に利用した空荷での早送り動作を実現する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のチェーンブロックに搭載された自動変速機の概略図。
【図2】(a)〜(c)はトルク伝達ヨークの概要図。
【図3】高速時のブロック図。
【図4】高速時のスケルトン図。
【図5】低速時のブロック図。
【図6】低速時のスケルトン図。
【図7】中間ヨークの動作説明図。
【図8】スラスト変換機構の構成説明図。
【符号の説明】
【0038】
1 入力軸
2 遊星歯車
3 リニアシャフト
4 太陽歯車
5 低速入力円板
6 中間円板
7 出力円板
8 中間軸
9 出力軸
10 永久磁石
20 トルク伝達中間ヨーク
21 トルク伝達内側ヨーク
22 トルク伝達外側ヨーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンブロックの入力軸と出力軸間に負荷感応型自動変速装置を内蔵したチェーンブロックであって、チェーンブロックの入力軸と同速度で回転するトルク伝達外側ヨークと、前記外側ヨークの内側に、入力軸の回転を予め算定された増速比により高速回転する中間軸に軸支され、前記外側ヨークと回転軸の軸線方向位置を異にして設けたトルク伝達内側ヨークと、前記外側ヨークと内側ヨークの中間に、出力軸の軸線方向に移動可能に軸支された中間円板に設けられ、前記外側ヨーク及び内側ヨークと対向可能な中間ヨークと、出力軸に軸支され、バネにより中間円板と結合し、負荷トルクにより、中間円板を相対回転させ、中間円板を軸線方向に移動させる出力円板を備え、負荷トルクにより中間ヨークを内側ヨークまたは外側ヨークに対向させ、出力軸を高速または低速に切り替えることを特徴とする負荷感応型自動変速機を内蔵したチェーンブロック。
【請求項2】
中間軸の増速比は、次式により算出される値であることを特徴とする請求項1記載の負荷感応型自動変速機を内蔵したチェーンブロック。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−247548(P2008−247548A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90349(P2007−90349)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)