説明

負荷装置

【課題】発生音が小さく、回転負荷が任意に設定できる負荷装置を提供する。
【解決手段】回転機械2に接続される回転体3と、該回転体3を収容するハウジング4と、該ハウジング4内に満たされた流体5と、該流体5と上記回転体3との摩擦力を変化させることによって上記回転機械2に加わる回転負荷を変化させる摩擦力可変手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発生音が小さく、回転負荷が任意に設定できる負荷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、エンジン等の回転機械の性能を試験する際に、所望する回転負荷を加えた状態で回転機械を回転させることが必要になる。このための負荷装置として、発電機又は電動機からなるダイナモが知られている。また、電磁ブレーキやパウダーブレーキも負荷装置とすることができる。
【0003】
また、回転機械に接続されて回転される被回転部材の性能を試験する際には、その被回転部材を所望した条件で回転させるための試験用回転機械が必要になる。試験用回転機械については、所望の条件が厳密に設定できるよう、試験用回転機械自体の性能試験がより厳密になされなくてはならない。
【0004】
また、回転機械及び被回転部材が移動体のものである場合、移動体が移動してしまうと、試験がやりにくくなる。そこで、被回転部材を推力の発生しない負荷装置に置き換えて試験を行うことが望まれる。
【0005】
【非特許文献1】Schlichting,"Boundary-Layer Theory",Sixth Edition,XXI. Turbulent boundary layers at zero pressure gradient p606-611
【非特許文献2】水力機械工学便覧、コロナ社、p133、1962年出版
【非特許文献3】山内弘、機械工学ポケットブック、オーム社、1962年出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転機械や被回転部材について発生音を調べる試験を行うことがある。例えば、冷蔵庫を無響室に設置して運転し、コンプレッサ用のモータからの発生音を測定する。
【0007】
船舶のプロペラについて発生音を測定する場合、その発生音の測定の障害とならないよう十分に静謐な試験用モータを用意しなくてはならない。その試験用モータの発生音を調べるときには、試験用モータに負荷装置を接続することになる。
【0008】
ところが、前述したダイナモやパウダーブレーキ等の従来の負荷装置は、それ自体が発生する騒音が大きく、肝心の発生音測定対象である試験用モータより大きな音を発生してしまうので、発生音測定試験がうまくできない。
【0009】
なお、発生音測定試験であっても、所望する回転負荷を加えた状態で試験を行うためには、負荷装置において回転負荷が任意に設定できることが望まれる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、発生音が小さく、回転負荷が任意に設定できる負荷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、回転機械に接続される回転体と、該回転体を収容するハウジングと、該ハウジング内に満たされた流体と、該流体と上記回転体との摩擦力を変化させることによって上記回転機械に加わる回転負荷を変化させる摩擦力可変手段とを備えたものである。
【0012】
上記摩擦力可変手段として、上記回転体の上記流体に接する面積を変化させる接触面積可変手段を備えてもよい。
【0013】
上記ハウジング内に気相部を有し、上記接触面積可変手段は、上記ハウジング内における上記回転体の位置を変化させることにより、上記回転体の上記流体に接する面積を変化させてもよい。
【0014】
上記回転体が伸縮自在に形成され、上記接触面積可変手段は、上記回転体の伸縮長さを変更することにより、上記回転体の上記流体に接する面積を変化させてもよい。
【0015】
上記回転体が複数の回転円板からなり、上記摩擦力可変手段として、上記回転円板間の距離を変化させる距離可変手段を備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0017】
(1)発生音が小さくできる。
【0018】
(2)回転負荷が任意に設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1に示されるように、本発明に係る負荷装置1は、回転機械2に接続される回転体3と、該回転体3を収容するハウジング4と、該ハウジング4内に満たされた流体5と、該流体5と上記回転体3との摩擦力を変化させることによって上記回転機械2に加わる回転負荷を変化させる摩擦力可変手段(図示せず)とを備えたものである。
【0021】
負荷装置1は、回転機械2に所望の回転負荷が加わった状態における回転機械2からの発生音測定試験のために用いられるものとする。回転機械2と回転体3との間には、回転負荷であるトルクを測定する動力計6が設けられる。また、図示しないが回転機械2の発生音を測定する発生音測定計が設けられる。
【0022】
ここで、回転体3について説明しておく。本出願人は、船舶のプロペラの試験に用いる試験用モータについて試験を行おうとしていた。負荷部材としてプロペラを用いると推力が発生してしまい、試験がやりにくいので、推力が発生しない負荷部材を試験用モータに接続した。推力が発生しない負荷部材は、例えば、回転円板で実現できる。
【0023】
回転円板は、水との摩擦により大きな回転負荷を生じ、その回転負荷の大きさは同径のプロペラにより生じる回転負荷と遜色がない。そして、回転円板は、推力が発生しないので、水中で使用する負荷部材として好適である。
【0024】
非特許文献1によれば、回転円板が浸漬される媒質の密度をρ、回転円板が回転される角周波数をω、回転円板の半径をr、トルク係数をCM、媒質の動粘性係数をν、回転円板に発生するトルクをQとすると、
【0025】
【数1】

【0026】
の関係がある。
【0027】
そこで、半径の異なる複数の回転円板を作製し、水槽内で回転数を変えて回転させてみたところ、発生したトルクは、図2に示されるようになった。すなわち、水中で半径が88mm,98mm,106mmの回転円板を約400〜3600rpmで回転させると、ほぼ0〜0.7kg・mの範囲で回転負荷の大きさを変化させることができる。
【0028】
しかしながら、これらの回転円板からなる負荷部材をそのまま所望の回転負荷を得るための負荷装置として採用するには問題がある。まず、回転数を変えることは、試験対象である試験用モータの条件を変えてしまうことになるので、不可である。よって、回転負荷を変えるには回転円板の径を変えるしかない。
【0029】
しかし、回転負荷の大きさを変えるために、その都度、水中にある回転円板を径の違うものと取り替えるのは、大変な労力であり、時間も大きく費やしてしまう。また、回転円板の径を大きくすると、外周付近では周速度が大きいため減圧によって水中溶解空気が気化し、気泡が形成される。気泡は音の原因となるので、回転円板の径はあまり大きくできない。すると、回転負荷があまり大きく設定できないことになる。
【0030】
そこで、本出願人は、回転円板の径は変えず、流体と回転円板との摩擦力を変化させることに思い至った。摩擦力を変化させれば、回転円板の径を変えなくても、回転負荷の大きさを変えられるので、回転円板を取り替える作業がなくせる。流体の性状などによる摩擦の度合い(単位面積に生じる摩擦の率)に変化を与えずに摩擦力を変化させるには、回転円板の流体に接する面積を変化させるか、あるいは後述するように、複数枚の回転円板の間隔を変化させる方法がある。
【0031】
さらに、従来は、大規模な水槽内に試験用モータと回転円板を設置して試験を行ったが、そのような大規模水槽では流体を入れ替えたり、温度を変えたりするのに不便である。そこで、本出願人は、回転円板を小型のハウジングに収容し、ハウジング内に流体を満たすようにした。
【0032】
すなわち、図1の負荷装置1は、回転体3をハウジング4に収容し、そのハウジング4内に流体5を満たし、流体5と回転体3との摩擦力を変化させるものであり、摩擦力可変手段として、回転体3の流体5に接する面積を変化させる接触面積可変手段(図示せず)を備えたものである。
【0033】
回転体3は、前述した周速度の制約があるため径を一定以上大きくできないので、円板状ではなく円筒状にした。回転体3は、円錐、円錐台でもよい。
【0034】
この実施形態では、ハウジング4内に気相部を有する。すなわち、ハウジング4の容積一杯に流体5を満たすのではなく、容積より少な目に満たすことで気相部を形成してある。接触面積可変手段は、ハウジング4内における回転体3の位置を変化させるようになっている。すなわち、回転体3をハウジング4に対して相対的に軸方向に移動させ、流体5に浸漬される部分の割合を増減させることで、回転体3の流体5に接する面積を変化させるようになっている。具体的な移動機構は示さないが、回転体3かハウジング4のいずれかを昇降させるものがあればよい。また、接触面積可変手段として流体の液量を変化させてもよい。
【0035】
図3に示されるように、回転体3の回転に伴い、回転体3の外周表面近傍においては流体5が回転体3とほぼ同一速度で移動する。一方、ハウジング4の内壁近傍においては流体5は静止しており、回転体3の外周表面からハウジング4の内壁までの間には、速度分布31が形成される。このとき、回転数(回転速度)が一定、摩擦の度合い(単位面積に生じる摩擦の率)が一定とすると、回転体3の流体5に接する面積が大きければ、摩擦力が大きくなるので、回転負荷が大きいことになる。
【0036】
従って、図1の負荷装置1において、回転体3の流体5に接する面積に対する回転負荷の大きさをあらかじめ測定しておくことにより、その後は、面積制御をすることによって、所望した回転負荷を再現性よく得ることができる。すなわち、回転負荷を大きくしたいときは回転体3を下降させて流体5に浸漬される部分の割合を増すことにより、回転体3の流体5に接する面積を大きくし、回転負荷を小さくしたいときは回転体3を上昇させて流体5に浸漬される部分の割合を減らすことにより、回転体3の流体5に接する面積を小さくする。
【0037】
以上のように、図1の負荷装置1は、ハウジング4内における回転体3の位置を変化させることにより、流体5と回転体3との摩擦力を変化させることができるので、従来のように回転円板を取り替える必要がなく、回転円板の径を増大させる必要もない。これにより、発生音が小さく、回転負荷が任意に設定できる負荷装置1が実現される。
【0038】
次に、図4に示した負荷装置41は、図1のものと同様に、回転機械2に接続される回転体3と、該回転体3を収容するハウジング4と、該ハウジング4内に満たされた流体5と、該流体5と上記回転体3との摩擦力を変化させることによって上記回転機械2に加わる回転負荷を変化させる摩擦力可変手段(図示せず)とを備えたものである。
【0039】
負荷装置41は、図1のものと異なり、ハウジング4内には空隙なく流体5が満たされると共に、回転体3が伸縮自在に形成され、摩擦力可変手段として、回転体3の伸縮長さを変更することにより、回転体3の流体5に接する面積を変化させる接触面積可変手段(図示せず)を備える。
【0040】
回転体3は、前述した周速度の制約があるため径を一定以上大きくできないので、軸方向に変形させることにより、接触面積を変化させるものである。このために、回転体3を多段伸縮円筒により構成するとよい。回転体3の軸方向端部は、開放されていてもよいし、閉じられていてもよい。軸方向端部が開放されている場合、回転体3の内面も流体5に接触することになる。軸方向端部が閉じられている場合、回転体3の端面が流体5に接触することになる。回転体3は、推力が発生しなければ円筒以外の形状でもよい。回転体3の最大径は、周速度があまり高速にならない適宜な大きさとする。
【0041】
原理は図3で説明した通りであり、回転体3の流体5に接する面積が大きければ、摩擦力が大きくなるので、回転負荷が大きいことになる。
【0042】
負荷装置41において、回転体3の流体5に接する面積に対する回転負荷の大きさをあらかじめ測定しておくことにより、その後は、面積制御をすることによって、所望した回転負荷を再現性よく得ることができる。すなわち、回転負荷を大きくしたいときは回転体3を伸張させて流体5に浸漬される部分の割合を増すことにより、回転体3の流体5に接する面積を大きくし、回転負荷を小さくしたいときは回転体3を短縮させて流体5に浸漬される部分の割合を減らすことにより、回転体3の流体5に接する面積を小さくする。
【0043】
以上のように、図4の負荷装置41は、回転体3の伸縮長さを変更することにより、流体5と回転体3との摩擦力を変化させることができるので、従来のように回転円板を取り替える必要がなく、回転円板の径を増大させる必要もない。これにより、発生音が小さく、回転負荷が任意に設定できる負荷装置41が実現される。
【0044】
次に、図5に示した負荷装置51は、図1のものと同様に、回転機械2に接続される回転体3と、該回転体3を収容するハウジング4と、該ハウジング4内に満たされた流体5と、該流体5と上記回転体3との摩擦力を変化させることによって上記回転機械2に加わる回転負荷を変化させる摩擦力可変手段(図示せず)とを備えたものである。
【0045】
負荷装置51は、図1のものと異なり、ハウジング4内には空隙なく流体5が満たされると共に、回転体3が複数の回転円板52からなり、摩擦力可変手段として、回転円板52間の距離を変化させる距離可変手段を備える。具体的には、回転機械2と各回転円板52を繋ぐ回転軸53を多重管で構成し、公知の伸縮機構により多重管53を伸縮させることで各々の回転円板52間の距離を変化させるようにする。
【0046】
図6に示されるように、回転体3を構成する複数の回転円板52のうち、いちばん端の回転円板52の端面表面近傍においては流体5が回転円板52とほぼ同一速度で移動する。一方、ハウジング4の内壁近傍においては流体5は静止しており、回転円板52の端面表面からハウジング4の内壁までの間には、速度分布61が形成される。
【0047】
回転円板52間では、回転円板52の端面表面近傍においては流体5が回転円板52とほぼ同一速度で移動し、回転円板52から離れるほど流体5の速度は低いが、静止するとは限らない。回転円板52間の距離が短いと、回転円板52間における流体5の速度があまり低くはならない。逆に、回転円板52間の距離が長いと、回転円板52間における流体5の速度が低くなる。このように、回転円板52間には、回転円板52間の距離によって異なる速度分布62が形成される。
【0048】
回転体3全体の流体5に接する面積は回転円板52間の距離によらず一定(ただし、回転円板52同士が接するときは別)である。また、いちばん端の回転円板52のハウジング4に臨む面がもたらす摩擦力は一定である。しかし、回転円板52同士が向き合う面がもたらす摩擦力は回転円板52間の距離に左右される。回転円板52間の距離が短いと、回転円板52間における回転円板52と流体5の摩擦力は小さい。回転円板52間の距離が長いと、回転円板52間における回転円板52と流体5の摩擦力は大きい。よって、距離可変手段が回転円板52間の距離を変化させると、摩擦力が変化し、回転負荷が変化する。
【0049】
以上のように、図5の負荷装置51は、複数の回転円板52間の距離を変化させることにより、流体5と回転体3との摩擦力を変化させることができるので、従来のように回転円板を取り替える必要がなく、回転円板の径を増大させる必要もない。これにより、発生音が小さく、回転負荷が任意に設定できる負荷装置51が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態を示す負荷装置の構成図である。
【図2】水中で回転円板を回転させたときに得られる回転数対回転負荷特性図である。
【図3】回転体の回転により生じる流体の速度分布を軸方向から見た速度分布図である。
【図4】本発明の一実施形態を示す負荷装置の構成図である。
【図5】本発明の一実施形態を示す負荷装置の構成図である。
【図6】回転体の回転により生じる流体の速度分布を径方向から見た速度分布図である。
【符号の説明】
【0051】
1、41、51 負荷装置
2 回転機械
3 回転体
4 ハウジング
5 流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械に接続される回転体と、該回転体を収容するハウジングと、該ハウジング内に満たされた流体と、該流体と上記回転体との摩擦力を変化させることによって上記回転機械に加わる回転負荷を変化させる摩擦力可変手段とを備えたことを特徴とする負荷装置。
【請求項2】
上記摩擦力可変手段として、上記回転体の上記流体に接する面積を変化させる接触面積可変手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の負荷装置。
【請求項3】
上記ハウジング内に気相部を有し、上記接触面積可変手段は、上記ハウジング内における上記回転体の位置を変化させることにより、上記回転体の上記流体に接する面積を変化させることを特徴とする請求項2記載の負荷装置。
【請求項4】
上記回転体が伸縮自在に形成され、上記接触面積可変手段は、上記回転体の伸縮長さを変更することにより、上記回転体の上記流体に接する面積を変化させることを特徴とする請求項2記載の負荷装置。
【請求項5】
上記回転体が複数の回転円板からなり、上記摩擦力可変手段として、上記回転円板間の距離を変化させる距離可変手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の負荷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−215849(P2008−215849A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49761(P2007−49761)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】