説明

貨物船

【課題】貨物船の重量をあまり大きくすることなく、船側部のタンク内の構造部材へ検査員が接近するPMA(Permanent Means of Access)であって、堅固なPMAを貨物船に備える。
【解決手段】船側部にビルジホッパータンク4を備える貨物船において、ビルジホッパータンク4内部にサイドストリンガー13を備えるとともに、サイドストリンガー13の幅を交差するトランスウェブ12の幅より450mm以上大きくする。また、サイドストリンガー13の内舷側にハンドレール16を立設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貨物船、特に船体構造部材の検査の為の恒久的な接近手段(PMA:Permanent Means of Access)を備える貨物船に関する。
【背景技術】
【0002】
海難事故は人命、積み荷及び船体の喪失等の直接的な損害を船主等に与えるだけでなく、燃料油の流出による環境汚染等の間接的な損害を沿岸国等に与えるので、可能な限りこれを防止する必要がある。そこで、各国の管海官庁および船級協会等は海難事故防止の観点から、商船構造規則等を定め、これを満足する船舶だけに商業航海を許している。
【0003】
しかしながら、新造時に商船構造規則等を満足していたとしても、経年劣化により新造時に備えていた構造の健全性は減少し、これを放置すれば海上において致命的な破壊に至る場合がある。そこで、船体を定期的に検査して、経年劣化による異常(腐食・亀裂等)を発見し、適切な修理を施す必要がある。
【0004】
国際航海に従事する船舶においては、船体幅が40m、船体深さが20mを超えるような大型船舶は珍しくない。このような大型船舶の船体内の高所にある構造部材を検査するのは容易ではない。例えば、上甲板裏の構造部材を目視で点検するためには、特殊な高所作業車を船倉内に入れるか、船倉内の上甲板裏近くまで漲水して、ゴムボートを浮かべるなどの方法をとっている。このようなコストのかかる検査の実施は船主に歓迎されない。また、限られた修繕工期のなかでこのような時間のかかる検査を実施することは困難である。
【0005】
また、前述したような大型船舶においては、船側部に備えるバラストタンク等も大型になる。タンクの底から頂部までの高さが6メートル以上あるものも珍しくない。また、バラストタンク等は水密性が要求されるので大きな開口部は設けられない。点検・修理のためのマンホールがあるだけである。したがって、高所作業車や昇降機のような機材を使用することはできない。また、仮設足場をマンホールから搬入するのも、コストと時間の点から見て実用的ではない。結局、マンホールから容易に搬入できる簡易な梯子等を使用してタンク内の高所の構造部材を点検することになる。しかし、このような梯子は墜落・転倒等の危険が大きい。また、簡易な梯子であっても、狭隘なタンク内での取り回しには困難が伴う。
【0006】
そこで、SOLAS(海上人命安全)条約は、船体内部の構造部材への検査員の接近を容易にするための恒久的な接近手段(PMA: Permanent Means of Access)を船体に設置することを要求している。またタンクについては、タンクの底から頂部までの高さが6メートルを超える場合にタンク内部の高所の構造部材に容易に接近できるPMAの設置を求めている。
【0007】
上甲板裏の構造部材に接近するためのPMAについては、特許文献1,2等の発明が提案されている。しかしながら、タンク内に設置するPMAの構成を示唆する発明は見あたらない。
【0008】
【特許文献1】特開2004−299457号公報
【特許文献2】特開2005−219677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
SOLAS(海上人命安全)条約の前記規定を満足させるだけならば、形鋼等で骨組みを作り、その上にグレーチングあるいはエキスパンドメタル等の歩板を載せ、前記骨組みの基部から前記歩板に昇降するための梯子を備えた物をPMAとしてタンク内に設置すればよい。
【0010】
しかしながら、このようなPMAにはつぎのような問題がある。
(1)十分な強度と耐久性を備えようとすれば、重量が大きくなる。
(2)重量軽減のために簡易な構造を選択すれば、検査対象の構造部材より先に腐食等が進行し、本来の目的を達成できないおそれがある。
(3)タンク内にこのような付加物を備えると、タンクの洗浄、塗装等の保守作業の邪魔になる。
【0011】
そこで本発明は、船側部のタンク内の構造部材へ検査員が接近するPMA(Permanent Means of Access)であって堅牢なPMAを、船体重量をあまり増やすことなく貨物船に設置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による貨物船の第1の構成は、船側部にタンクを備える貨物船において、前記タンク内部にサイドストリンガーを備えるとともに、前記サイドストリンガーの幅を交差するトランスウェブより大きくすることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、タンク内部にサイドストリンガーを備えるので、このサイドストリンガーをPMAとして利用することができる。つまり、検査員が前記サイドストリンガーに載って、タンク内部の高所に配材された構造部材を検査することができる。また、前記サイドストリンガーの幅を交差するトランスウェブより大きくしたので、前記サイドストリンガー上の検査員が前記トランスウェブの横を通って、船体長さ方向に移動することができる。そのため、船体長さ方向に配置されたタンクの検査の能率が向上する。
【0014】
また、グレーチングやエキスパンドメタル等を使用して軽量簡易なPMAを装置した場合、検査対象の構造部材より先に、PMAの方が腐食して使用に耐えなくなる事態が危惧されるが、サイドストリンガーは本来構造部材であるから、堅牢な構造と十分な腐食予備厚を備えているので、検査対象の構造部材と同等以上の耐久性が期待できる。
【0015】
なお、ここでサイドストリンガーとは船側外板の内側に固着されて船体長さ方向に延びる内構材であって、ウェブプレートを略水平に配置したものをいう。
【0016】
本発明による貨物船の第2の構成は、前記第1の構成において、前記サイドストリンガーの幅は交差するトランスウェブより450mm以上大きいことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、サイドストリンガーの幅は交差するトランスウェブより450mm以上大きいので、検査員が安全にトランスウェブを迂回して移動することができる。またSOLAS条約の規定によるPMAの要件を満たすことができる。
【0018】
本発明による貨物船の第3の構成は、前記第1または第2の構成において、前記サイドストリンガーの内舷側に立設されたハンドレールを備えることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、サイドストリンガーの内舷側にハンドレールを備えるので、検査員の転落を防止して、検査員の安全を図ることができる。
【0020】
本発明による貨物船の第4の構成は、前記第1ないし第3の構成において、前記タンクはビルジホッパータンクであることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、ビルジホッパータンクタンク内部の高所に配材された構造部材の検査が容易になる。
【0022】
本発明による貨物船の第5の構成は、前記第1ないし第3の構成において、前記タンクはトップサイドタンクであることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、トップサイドタンク内部の高所に配材された構造部材の検査が容易になる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、船側部のタンク内の構造部材へ検査員が容易に接近できるPMA(Permanent Means of Access)であって、堅牢な構造を備えたPMAを、船体重量をあまり増やさずに設置できるので、船舶の保全整備作業の合理化に資するところが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0026】
図1及び図2は、本発明の実施例に係る貨物船1の概略中央横断面図であり、図1は、トランスウェブとトランスウェブの中間で切断した断面、図2(A)はトランスウェブを有する断面を示している。また図2(B)は図2(A)のビルジ部分を拡大した拡大図である。貨物船1は、載荷重量約85,000トンのいわゆるダブルハル型のバルクキャリアーであり、船体幅は43m、船体深さは約18.5mである。なお、図1及び図2は貨物船1の左半分の断面を示している。
【0027】
図1及び図2において、2は船倉であり、3は二重底、4はビルジホッパータンク、5はトップサイドタンク、6はハッチオープニングである。また、図2において、7はクロスデッキ、すなわち前後に隣接する2つのハッチオープニング6の間にあって、左右のトップサイドタンク5の間に架け渡された上甲板である。また、8はクロスデッキ7に懸垂支持されて、クロスデッキ7下の船倉2内に垂下するプラットフォームである。また、4はビルジホッパータンク4とトップサイドタンク5の間の船側外板9の内舷側には船側隔壁10が配置されている。
【0028】
二重底3、ビルジホッパータンク4およびトップサイドタンク5は縦式構造が採用され、多数のロンジ11が約800mm乃至840mmの間隔で配材されるとともに、トランスウェブ12が船体長さ方向に約3m間隔で配置されている。船倉2の長さは約38mであるので、船倉2の長さに12枚のトランスウェブ12が配置される。
【0029】
ビルジホッパータンク4は、船底の船側の湾曲部(ビルジ部)と船倉2の底部の傾斜板(ホッパー)で閉囲されたタンクであり、船倉2と同じ長さを持ち、水バラストタンクとして利用される。本実施例のビルジホッパータンク4の底から頂部までの高さHは約6.4mであり、6.0mを超えるので、SOLAS条約の規定によってPMAの設置が要求される。そこで、ビルジホッパータンク4内部の船側外板9にサイドストリンガー13を固着している。なお、従来の貨物船では、ビルジホッパータンク4内にサイドストリンガー13を設けた例はなく、サイドストリンガー13の位置には、ロンジ11が配材される。
【0030】
サイドストリンガー13は船側外板9に固着されて船体長さ方向に延びる強度部材であり、横断面図において水平に配置されたウェブプレート14とウェブプレート14の自由端に固着されるフェイスプレート15とからなる。ウェブプレート14の幅B(構造強度を論じる場合は「深さ」を使うのが一般的だが、ここではウェブプレート14はPMAの「歩路」として機能しているので「幅」を使う。)は、1540mmあるので、検査員が、ビルジホッパータンク4内の高所にある構造部材の検査をする際の足場代わりに使用することができる。また、ウェブプレート14上に小型の脚立等を載置して使用することもできる。
【0031】
また、ウェブプレート14の幅Bはトランスウェブ12のサイドストリンガー13と交差する部分、つまりサイドウェブの幅B(=1090mm)より、450mmだけ大きい。これは、NK(日本海事協会)の鋼船規則2005のC編35章の35.2.5(点検設備及びはしごの仕様)の「固定点検設備の一部として設けられる歩路は、少なくとも600mmのクリア幅を有するものでなければならない。ただし垂直桁部材のウェブを迂回する必要のある部分においては、クリア幅を450mmとして差し支えない。」の規定を満足するために選ばれたものである。ウェブプレート14の幅Bをトランスウェブ12より450mm以上大きく取ることにより、トランスウェブ12の横を通って、船体長さ方向に移動する検査員の安全を確保している。なお、前記NK規則はSOLAS条約の規定に準拠したものであり、他の船級協会(LR、ABなど)も同様の規則を規定している。つまり、本実施例のサイドストリンガー13は各国の船級協会の規則を満足している。
【0032】
また、サイドストリンガー13の内舷側の端部にはハンドレール16を立設して、検査員の安全を図っている。図示を省略したが、ビルジホッパータンク4内の適宜の場所にビルジホッパータンク4の底部からサイドストリンガー13に昇る梯子を配置している。
【0033】
また、本実施例のトップサイドタンク5の底から頂部までの高さHは約5.6mであり、SOLAS条約の規定によってPMAの設置が要求される6.0mに満たないので、トップサイドタンク5内にはPMAとして使用できるサイドストリンガーを配置しなかったが、トップサイドタンク5内にPMAとして使用できるサイドストリンガーを配置してもよい。
【0034】
なお、プラットフォーム8の直上のクロスデッキ7には図示しないマンホールが設けられ、前記マンホールを通って、検査員がプラットフォーム8に降りて、クロスデッキ7下の構造部材を検査することができる。つまり、プラットフォーム8はクロスデッキ7下の構造部材を検査するためのPMAである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例に係る貨物船の概略中央横断面図である。
【図2】図1の貨物船を別の位置で切断した概略横断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 貨物船
2 船倉
3 二重底
4 ビルジホッパータンク
5 トップサイドタンク
6 ハッチオープニング
7 クロスデッキ
8 プラットフォーム
9 船側外板
10 船側隔壁
11 ロンジ
12 トランスウェブ
13 サイドストリンガー
14 ウェブプレート
15 フェイスプレート
16 ハンドレール。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
船側部にタンクを備える貨物船において、
前記タンク内部にサイドストリンガーを備えるとともに、
前記サイドストリンガーの幅は交差するトランスウェブより大きいこと
を特徴とする貨物船。
【請求項2】
前記サイドストリンガーの幅は交差するトランスウェブより450mm以上大きいことを特徴とする請求項1に記載の貨物船。
【請求項3】
前記サイドストリンガーの内舷側に立設されたハンドレールを備えること
を特徴とする請求項1または2に記載の貨物船。
【請求項4】
前記タンクはビルジホッパータンクであること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の貨物船。
【請求項5】
前記タンクはトップサイドタンクであること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の貨物船。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−261339(P2007−261339A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86697(P2006−86697)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(592250540)株式会社大島造船所 (32)