責任冠動脈の自動識別
診断用ECGシステムは、リード信号におけるST上昇の証拠についてリードトレースを分析する。心臓の電気的活動に対する所定のパンデージポイントを有するリードにおけるST上昇のパターンと、幾つかの例における或る特定の他のリードにおけるST低下の存在とは、特定の冠動脈又は枝路を、急性虚血イベントに対する責任冠動脈と識別する。責任冠動脈又は枝路の識別情報は、介入の心臓専門医に提示され、正しい冠動脈が評価され障害が取り除かれるようにする。この技術は、標準の12リードECGシステムの他、これより少ない数又は多い数のリードを用いたECGシステムとともに用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、心電図記録法システムに関し、特に、急性心筋梗塞を生じさせている責任冠動脈を自動的に識別する心電計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心電図記録法(ECG;electrocardiography)は、人の体の表面上において心臓により生じる電圧から得られる記録情報を生成するために広く使用されている。このようにして生成される記録情報は、文字による図式的なものとされ、その結果として得られる情報を当該患者の心臓の状態に関係づけるために専門的な解釈及び分析を必要とする。歴史的に、このような記録情報は、被検体から記録装置まで延びる有線接続部から視認可能なグラフィック記録情報として直接生成されている。コンピュータテクノロジの進歩とともに、後の再現及び分析のためにディジタル記憶された情報の形態で、このような記録情報を生成することができるようになってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ECG記録が非常に重要となる緊急臨床用途は、一般に心筋発作と称される急性冠状動脈疾病の症状の分析である。胸痛又は胸部不快感及び息切れのような急性冠症候群(ACS;acute coronary syndrome)の患者は、しばしば、心電図で診断される。心筋梗塞症を最近経験した患者のECGトレースは、完全な障害物により生じるトレースのST部分の上昇、ST上昇の無い異常Q波及び/又はT波、又は部分的障害物により生じるST低下のような既知の特性を示す可能性がある。これらの状態は、2つの主たる冠動脈のうちの一方、すなわち右冠動脈(RCA;right coronary artery)か又は左主(LM;left main)冠動脈、或いは当該LMの2つの主要な枝路のうちの一方、すなわち左前下降枝(LAD(left anterior descending))の冠動脈又は左回旋枝(LCx(left circumflex))の冠動脈における狭窄症の特徴を示す。血液の心筋に対するこれら主な管路のうちの1つに係る障害物は、心臓筋肉に対する永続的な損傷を回避するために可及的速やかに取り除かれるべきである。カテーテル装置による経皮冠動脈インターベンション(PCI;Percutaneous coronary intervention)は、心筋潅流を回復するために迅速に梗塞関連動脈を開くことができ、多くのケースにおいて血栓溶解療法よりも優れている。この良好に確立された処置方法は、救命及び生活の質の向上の点で良好な長期間の成果を提供している。
【0004】
心筋潅流が回復するのが早いほど、心臓へのダメージは少なく、心不全又は心臓死のリスクが低い。心筋は、梗塞の始まりから最初の数時間内に損傷する可能性があるので、患者が病院のドアから入った時点から患者の心筋潅流が回復する時までの時間(「ドア・ツー・パーフュージョン」時間と定義される)は、ACS患者の効果的治療の主要な尺度である。しかし、激しい胸痛の患者が病院のカテーテル検査室における手術台に横たわり、心臓専門医がアドミッションECGを掌握しているときには、心臓専門医には、どの冠動脈が閉塞され直ちに開かせるべきであるかについての情報がない。そして心臓専門医は、責任動脈を識別するよう全体の冠動脈ツリーを探し始めなければならない。これは、こうした状態の下での管理し難い骨の折れる探索であるだけでなく、この探索は、「ドア・ツー・パーフュージョン」時間のさらなる遅延を生じさせ、心臓への回復不可能な損傷及び/又は死をもたらしうる患者のリスクを高める。多くの患者は、現在のイベントを起こしている閉塞の探索が続行させられるので認識されかつ除外されなければならない部分的障害物のより早い虚血イベントから異常を呈する。多動脈疾病の患者においては、しばしば、3つの全ての冠動脈が高度(70%超)の障害を有し、当該瞬時的イベントの梗塞領域に関連した責任動脈を識別することは、さらに一層困難なものである。完全な障害物を破裂させかつ起動することのできる不安定プラークの絶えず存在する可能性によって、直近のイベントの責任動脈を識別することは、なおさら臨床的に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の原理によれば、自動化された分析は、責任冠動脈を識別するための、心電図のような診断用ECG機能を持つ装置、診断用ECG機能を持つ除細動器、さらには、診断用ECG機能を持つモニタ、並びに診断用ECG機能を持つ家庭用ECGモニタについて説明される。ACSの患者がECG検査を受けているとき、この自動化された技術は、ST上昇、ST低下の存在及び特定のECGリードにおける他のECG測定値について当該ECG信号を分析し、責任動脈を自動的に識別する。この識別は、視覚的なもの、聴覚的なものとすることができ、或いは印刷されるECGレポートに示すことができる。本発明の実施例によって、心臓専門医は、責任冠動脈を迅速かつ確実に識別し、時間の付加的ロスを伴うことなく心筋潅流を速やかに回復させることができるようにしている。本発明は、2つの主要な冠状動脈、RCAとLMのうちの一方、又はLMの2つの主要な枝路、LAD及びLCxのうちの一方における障害物を検出することができ、当該心臓専門医の参照用のセカンドオピニオンとしてECGレポート上に責任冠動脈識別情報を印刷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】心臓及びその主要な冠動脈の極めて概略的な図。
【図2】心臓及び冠動脈の解剖学的図。
【図3】心臓の周りをまとう冠動脈を示す、心臓の半透明な解剖学的図。
【図4a】ECG検査のための標準的電極配置を示す図。
【図4b】ECG検査のための標準的電極配置を示す図。
【図5】診断用ECGシステムの主要なサブシステムのブロック図。
【図6】ECGシステムのフロントエンドのブロック図。
【図7】代表的な診断用ECGシステムの処理モジュールのブロック図。
【図8】心拍及びそのリズムに関する情報を供給するためのECGトレースデータの処理を示す図。
【図9a】ECGトレースの種々のパラメータの測定値を示す図。
【図9b】ECGトレースの種々のパラメータの測定値を示す図。
【図10】代表的ECGレポートを示す図。
【図11a】12リードシステムのリードと冠状動脈の解剖学的構造との関係を示す図。
【図11b】12リードシステムのリードと冠状動脈の解剖学的構造との関係を示す図。
【図11c】本発明による分析に用いることのできるECGレポートにおける12リード信号及び3つの付加的リードの標準的代表例を示す図。
【図12a】正常なECG信号の各部分を示す図。
【図12b】本発明の原理による責任冠動脈識別に用いることのできる上昇したST部分を伴うECGトレースを示す図。
【図12c】本発明の原理による責任冠動脈識別に用いることのできる上昇したST部分を伴うECGトレースを示す図。
【図12d】本発明の原理による責任冠動脈識別に用いることのできる上昇したST部分を伴うECGトレースを示す図。
【図12e】本発明の原理による責任冠動脈識別に用いることのできる上昇したST部分を伴うECGトレースを示す図。
【図13a】本発明の原理による責任冠動脈としてLADを識別するECGレポートを示す図。
【図13b】本発明の原理による心臓の特定の領域に対して図13aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図13c】本発明の原理による心臓の特定の領域に対して図13aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図14a】本発明の原理による責任冠動脈としてLCxを識別するECGレポートを示す図。
【図14b】本発明の原理による心臓の特定領域に対して図14aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図14c】本発明の原理による心臓の特定領域に対して図14aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図15a】本発明の原理による責任冠動脈としてRCAを識別するECGレポートを示す図。
【図15b】本発明の原理による、心臓の特定領域に図15aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図15c】本発明の原理による、心臓の特定領域に図15aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図16】本発明の原理による、責任冠動脈として左主冠動脈を識別するECGレポートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1ないし図3は、閉塞したときに心臓に重大なダメージを起こすことになると目される冠動脈の位置を示す心臓の種々の図である。図1は、大動脈12から心臓10の右側に沿って下降する右冠動脈(RCA)を示す非常に概略的な図である。また、この大動脈から心臓の左側に沿って降りるのは、左主(LM)冠動脈であり、これは、心臓の前側(前部)にある左前下行枝(LAD)と心臓の後側(後部)の周りを包む形の左冠動脈回旋枝(LCx)とを形成するよう直ちに分岐する。3つの全ての主要な血管は、特徴的な曲がりくねった経路において心臓10の周りを最終的には包むものとなっており、新鮮な血液の心筋への一定した供給をなすようにしていることが分かる。
【0008】
図2は、この心臓10の前方側からの同じ動脈及び枝路を、当該心臓のより解剖学的に正確な描写で示している。図3において、心臓10は、心臓の前部及び後部側両方における冠動脈の曲がりくねった経路が容易に視覚化されることができるように半透明の分枝として描かれている。
【0009】
本発明の目的は、標準又は非標準のECG検査のトレースの分析からこれら冠動脈及び枝路のどれが閉塞されているかを自動的に識別することを可能にすることである。ECGの正しい解釈は、多大な経験を必要とする。何故なら、それは色々なリードのトレーシングにおける広い範囲のパターンの熟知に絡むからである。リードの慣例的でないシステムを用いたECGは、慣例的ECGの解釈において培われた多数の経験から必然的に外れ、これにより、概して望ましくないものとみなされる場合もある。発生したトレーシングは、当該慣例的でないシステムを熟知した比較的少数の者によってのみ理解可能なものとなる。したがって、本発明は、慣例的な電極配置による標準のECG検査において実現可能であることが重要である。図4aは、10個のリード電極を持つ慣例的な12リードECG検査のために患者の胴に位置づけられたV1〜V6の6つの電極の配置を示している。各電極は、1つ以上の他の電極と組み合わせで機能し、個々の心臓筋肉細胞の消極及び再分極により生成される電圧を検出する。検出された電圧は、合成され処理されて、時間的に変化する電圧の12個のトレーシングを生成する。こうして生成されたトレーシングは、次のようになる。
【表1】
【0010】
ここで、背臥位の被検体の短期心電図記録をなす最も広く使用されている標準のシステムでは、上記電位、及びこれらの関連の電極位置は、次の如くである。
VL 左腕上の電極の電位
VR 右腕上の電極の電位
VF 左脚上の電極の電位
V1 胸部正面上の電極の電位(第4肋骨間空における胸骨の右)
V2 胸部正面上の電極の電位(第4肋骨間空における胸骨の左)
V4 第5肋骨間空における左鎖骨中央線における電極の電位
V3 V2とV4の電極間の電極中間部の電位
V6 第5肋骨間空における左中腋窩線における電極の電位
V5 V4とV6の電極間の電極中間部の電位
G (上に示してはいないが)電位VL,VR,VF及びV1ないしV6が相対的に測定されるところの接地又は基準電位(大抵は(必然的ではないが)、右脚上にこの接地又は基準電極が配置される)。
【0011】
本発明は、慣例的な12リードECGシステム及び13,14,15,16,17又は18リードシステム又はこれを上回る56リード及び128リード体表マッピングシステムとともに用いられるのに適している。3リード(EASI及びその他)、5リード及び8リードシステムも、当該技術において知られているように、精度を低くして12リードから派生するように用いることができる。例えば、米国特許第5,377,687号(Evans氏ら)及び米国特許第6,217,525号(Medema氏ら)を参照されたい。要するに、本発明の実現形態は、任意の数のリード及び電極を使うことができる。図4a及び図4bは、高度なリードシステムにより用いられる電極のうちの幾つかを示している。V7,V8及びV9の電極は、V6電極から当該胴部の周りをまとい続けることが分かる。V3R,V4R,V5R及び付加的電極は、体の右側周辺から始まり、V3,V4,V5及びその他の電極の位置を体の左側に鏡で映した形とする。
【0012】
図5は、本発明を用いるのに適した診断用ECGシステムをブロック図の形で示している。複数の電極20は、患者の皮膚に付けるために設けられている。大抵は、これら電極は、皮膚に貼り付く導電性粘着ゲル表面を持つ使い捨ての導電体である。各導電体は、ECGシステムの電極線に嵌るか又は留まるスナップ又はクリップを有する。電極20は、電極により受信される信号の条件を整えるECG取込モジュール22に結合される。これら電極信号は、概して、衝撃危険性から患者を保護しまた患者が例えば除細動を受けているときにECGシステムを保護する電気的絶縁装置24により、ECG処理モジュール26に結合される。光学的絶縁は、概して電気的絶縁のために用いられる。そして、処理されたECG情報は、画像ディスプレイに表示され、又は出力装置28によりECGレポートに印刷される。
【0013】
図6は、より詳細に取込モジュール22を示している。大抵は振幅がちょうど数ミリボルトの電極信号は、これも大抵は除細動パルスからの高電圧保護を有する増幅器により増幅される。これら増幅された信号は、フィルタリングにより調整され、その後にアナログ/ディジタル変換器によりディジタル式に標本化された信号に変換される。そして、これら信号は、12リードシステムのための上記のもののような組み合わせでリード信号を得るように、様々な電極信号を差動で合成することによってフォーマット化される。これらディジタルリード信号は、CPU34の制御の下でECG処理のために転送される。取込モジュールの特定の電子回路構成部の多くは、しばしば、特定用途向け集積回路(ASIC)の形態で実現される。
【0014】
図7は、代表的な診断用ECGシステムの分析部のブロック図である。ペースパルス検出器42は、電気的スパイク及び1台装着している患者のペースメーカにより生じるその他の電気的異常性を識別し除外する。QRS検出器44は、電気的トレースの主要なパルスを検出する。図12aは、代表的な正常なECGトレースを示しており、Q−R−Sセグメントは、左心室の収縮をシミュレートするパルスである、当該トレースの主たる電気的パルスを描く。QRS合成の描写は、波形分割器46により行われる当該トレースの比較的小さい動揺を検出するための基礎を形成する。この波形分割器は、P波を含むトレースセグメント及びECGトレースのQないしUセグメントの全シーケンスを描く。ここで全部が描かれる各波形により、心拍分類器48は、新しい心拍の各々を以前の心拍と比較し、心拍を当該個人の正常(規則的)なものとして又は異常(不規則)なものとして分類する。心拍の分類によって、平均心拍分析器52は、正常心拍の特性を規定することができ、平均心拍の振幅及び部分(セグメント)持続長が54で測定される。心拍分類は、56で心調律を測定するために用いられる。図8,図9a及び図9bは、このECGトレース処理の機能的な図である。図8の左側には、リードI,II,V1,V2,V5及びV6からのECGトレースのシリーズ60がある。この心拍分類器48は、様々な心拍特性を比較し、正常なもの(N*,0)として当該心拍のうちのいくつかを分類している。例えば、リードV5及びV6からの心拍の全ては、正常なものとして分類されている。他の4つのリードは、早熟な心室収縮の特性(PVC,1)を示す心拍を含む。62では、ECGシステムは、正常な心拍の特性を集約し、異常な心拍の特性を排除し、平均的心拍を生成するように、時間的に当該各心拍を位置合わせしかつそれらの平均をとる。64でのトレースは、この例において示される6つのリードに対する平均心拍のトレースを示している。図9aにおいて、66に示される様々な特性、例えば、Q波、R波及びT波の振幅及び持続長、並びにQRSやQTのような波間間隔について測定される。これらの測定値は、この例の6つのリードに対する測定テーブル68において記録されるものとして示されている。12リードシステムのための完全な測定テーブルの例は、図9bに示される。
【0015】
ECG波及びそれらの測定値は、患者のECG波形についてのレポートの生成のためのレポート発生パッケージを伴うオフラインワークステーションに送ることができる。但し、心電計のPhilips Pagewriter(R)ラインやPhilips TraceMaster(R)ECG管理システムのような多くの診断用ECGシステムは、オンボードECGレポーティングパッケージを有する。図10は、これらシステムにより生成可能なレポートのタイプを示している。70に示される12個のリードの波形の特性及び図9bの測定値から、臨床医は、或る特定の心臓症状を臨床的に規定する方法で様々な特性を識別し、論理的に合成し、含有させ又は排除するためのレポーティングソフトウェアをプログラムすることができる。このタイプの代表的プログラムは、図10における72に示され、74に示されるような治療担当心臓専門医のためのECGレポートをもたらすことになる。急性心筋梗塞を患っている患者にとっては、このレポートは、心臓の中の急性心筋虚血の存在と、時として、心臓の領域の或る種の領域特定及び梗塞により影響を受ける領域のサイズを、大抵は示すこととなる。但し、当該障害物を除去するためにカテーテルを手に持って待機している介入の心臓専門医には、より多くの情報が必要である。心臓専門医は、閉鎖した動脈又は枝路にカテーテルを入れ、心臓の影響受けている領域に血液潅流を戻すように、即座に取り掛かることができるようにどの主要な冠動脈及び冠状動脈のどの枝路が閉鎖されているのかが知りたい。
【0016】
本発明の原理により、本発明者らは、ECGデータベースの統計学的分析及びこれらの種々の冠動脈の幾何学的構造との関係性を検討し、急性虚血イベントの責任動脈を識別するための自動化された技術を開発した。本発明の技術は、2つの主たる冠動脈、RC及びLMのうちの1つ、又はLMの2つの主要な枝路のうちの1つ、LDA又はLCxを、責任動脈として識別することができる。そして心臓専門医は、責任動脈の識別(情報)を、ECGレポートにおいて、スクリーン上に視覚的に、ECGトレースのディスプレイにおいて、聞こえる形で、又は他の出力手段によって、知らされる。本発明者らは、ST部分上昇を伴う場合及び伴わない場合の状況における、結果として得られるECGにおけるST偏差及び他のECG測定値(例えば、Q波、R波、T波の振幅及び持続長、並びにQRS及びQTのような波間間隔)及び急性心虚血は、種々の冠動脈においてそして動脈の種々のレベルにおいて障害が生じている場合に、種々のパターンを有することを認識した。冠状動脈は、或る特定のパターン及び偏りを有することを考えると、これらST偏差は、患者の冠動脈の幾何学的構造に密接に関連する。本発明の技術は、ST偏差及び標準のECGリード構成の他の測定値を検査することを可能にし、それらの分類は、特定の冠動脈又は枝路が急性虚血イベントの原因であるという結論を下すことを規定する。
【0017】
例えば、LADが閉鎖されると、心臓の前部壁への血液の流れは減ることになる。この状況において、当該前部壁に面するECGリードV2,V3,V4,V5の幾つかは、ST上昇を示すことになる。これに対応して、心臓の反対の壁部に面するECGリードは、ST低下を示すことになる。この原理を用いることによって、心臓壁部の急激に閉塞した領域に供給する責任冠動脈又は枝路を識別することができる。
【0018】
この原理は、さらに、図11a及び図11bに示されるように、ECGリードを冠動脈の幾何学的構造に関係づけることによって理解することができる。図11a及び図11bは、図3に示されるようなRCA、LCA、LCx及びLADを伴う心臓10の前面図である。血管の経路は、vG電極と一緒に12リードシステムの6つの肢リードI,II,III,aVR,aVL及びaVFを生成するために、上に示したように組み合わせられる3つの肢電極に関係づけられる。下部リードII,III及びaVFは、当該下部又は左心室の横隔膜壁のパンデージポイントから心臓の電気的活動を見せる。横のリードI,aVL,V5(図11bにおける5として示される)及びV6(図11bにおける6として示される)は、左心室の横の壁部のパンデージポイントからの電気的活動を示す。V1及びV2リード(図11bにおいて1及び2として示される)は、胸骨(図4a参照)の両側の電極から出されるものであり、心臓の隔壁のパンデージポイントからの電気的活動を示すものである。前部リードV3及びV4は、心臓の前部壁のパンデージポイントからの電気的活動を示す。本発明は、リード信号及び心臓に対するそれらの対応するパンデージポイントを考慮に入れて、狭窄症の冠動脈を識別するようにしている。
【0019】
図11cは、ECGレポートに通常用いられる種々のリードに対するECGトレースの位置付けを示している。12リードレポートは、図11cにおける第1の4つの列によって示されるように3×4行列でリード信号を配列するものである。下部電極II,III及びaVFの信号は、第1及び第2列に位置づけられ、横リード信号は、第1の列(I)の上部、第2の列(aVL)の中央、及び第4の列(V5及びV6)、…に位置づけられる。本発明の実施例は、その分析を行い当該結果を臨床医に提示するよう当該リードのこの標準の方向づけを有利に用いることができる。図11cの例では、第5の列が、以下の例に示されるように高次リードに対して付加される。
【0020】
本発明の他の態様によれば、ECGリード信号は、特定の冠動脈及び枝路の狭窄症に関係する上昇及び低下ST部分の特定のパターンに対して分析される。図12aの正常なECGトレースでは、ST部分80の信号レベルは、ECGトレースの公称のベースラインにあるか又はこれに非常に近いところにある。冠動脈が全部塞がれるようになるとき、当該動脈に近接したリードのST部分82は、図12bに示されるように高く上昇することになり、当該点線は、当該トレースの公称のベースラインを示す。ST部分は、100μボルト以上上昇する可能性がある。心臓の他方の側に隣接したECGリードは、対応の下降を示すこととなり、これが検出され、ST上昇の正の識別のために当該上昇したトレースと相関づけられることができる。さらに、ST上昇の量は、時間及び狭窄症の程度の関数として変化することになる。例えば、閉塞を生じさせるイベントの時間の直後に、リードのST部分は、図12cに示されるように比較的に大きな上昇84を示すことになる。時間の経過とともに、当該上昇は低下することになり、ST上昇86は、図12dに示されるように出現することができる。時間のかなり長い期間の後、心臓はその新しい生理学的状態に適合し始める頃、又は動脈が部分的にのみ閉鎖させられるときに、ST部分は、図12eにおける88で示されるように少しだけ上昇させられることになる。したがって、胸痛の開始の時間について患者に質問することによって、当該イベントの時間を記録することができ、期待される上昇の程度を評価することができる。また、上昇の程度は、古い血餅が時間とともに固化しているものの如き部分的にのみ閉鎖した血管を認識するために用いられることができる。これらの兆候は、応急手当を必要としない血管を無視するために用いることができるとともに、介入処置は、正に重大な閉鎖を被る血管に差し向けられる。
【0021】
図13a,図14a及び図15aは、責任冠動脈が臨床医のために識別されるとしたECGレポートの例を示している。図13aにおいて、12リードトレースは、上述した3×4パターンにおいて配列される。ここでも示されるのは、3つの付加的リード、心臓の後部側における2つ(V8及びV9)を伴う胴体の右側における2つ(V4R及びV5R)である。丸のついたリードトレースは、V3及びV4並びに隣接のリードV2及びV5の前部リードグループにおける大なるST部分上昇を示している。ST上昇はまた、横リードV6、I及びaVLにおいても確認される。リードV6、I及びaVLにおけるST上昇と同時に生じうるリードグループV2,V3,V4,V5におけるST上昇の存在は、左前下降(LAD)枝の閉鎖を示しており、この結論は、印刷され図13aのレポートの上部において強調されるように示される。
【0022】
図13b及び図13cは、何故これら前部及び横のリードグループがLAD閉鎖を示すかを示している。図13bは、心臓の左側を示す横リードaVL及びIを示し、これにより、右冠動脈症状よりも左冠動脈症状に敏感なものとなっている。横リードグループのリードV6は、図13cに示されるのと同様に方向づけられている。図13cはまた、LADに関係した前部リードV3及びV4並びに隣接の前部リードV2及びV5を示している。これらリードは、心臓の前部表面を示しているので、LCx症状よりもLAD症状に敏感である。より高次のリードセットが12リードセットに代えて用いられる場合、ST上昇リードは、心臓の反対の壁部に向くリードにおけるST低下により鏡面反射された形となる。この例は、図13aにおいて確認され、心臓の右側を示すV4Rリードが或る程度のST低下を示している。したがって、2つの左側リードグループにおける大幅なST上昇は、責任動脈としてのLAD冠動脈を指示するものである。
【0023】
図14aのECGレポートは、下部リードII,III及びaVFにおけるST上昇を示している。ST上昇はまた、後部リードV8にも存在する。この後部リードのST上昇は、前部リードV1,V2及びV3においてST低下により鏡面反射された形となる。さらに、前部胸部リードV1〜V3のST低下のレベルは、下部肢リードII,III及びaVFのST上昇より大きい。測定値のこのセットは、図14aのレポートの上部においてレポートされ強調されるように、左冠動脈回旋枝(LCx)の閉鎖を示している。隣接の後部リードV7及びV9は、用いられると、リードV8のものと同様のST上昇を示すことになる。
【0024】
図14b及び図14cは、この兆候の解剖学的な図を提供するものである。図14bに示される下部リードII,III及びaVFは、下から心臓を見ており、これにより、左右の冠動脈の上部の症状に対して感度が低く、心臓の周囲及び下側を取り巻くので左回旋枝の閉鎖にはより感度が高いものとなっている。後部リードV7,V8及びV9は、LCxの後部箇所に対向しており、これにより、より前方にあるRCA及びLAD冠動脈よりもLCx症状に感度が高い。これら後部リードの感度は、前部リードV1,V2及びV3のST低下により鏡面反射される形となる。したがって、ST低下との整合を伴うST上昇のこのセットは、LCx冠動脈の閉鎖の兆候である。
【0025】
図15aは、下部リードグループII,III及びaVFにおけるST上昇を伴うECGレポートを示している。リードIIIにおけるST上昇は、リードIIのものよりも大きい。ST上昇はまた、右の胸部リードV4R及びV5Rにおいても確認される。このセットの測定値は、ECGレポートにおいて記述され強調されているように右の冠動脈(RCA)閉鎖を示している。下部リードグループ若しくは右胸部リードグループ又はこれら双方のST上昇は、RCA閉鎖を示している。リードaVRにおけるST上昇も存在しうる。ここでも存在しうる他の兆候は、右側リードにおけるST上昇を鏡面反射した形態を採る、前部(V3,V4)及び横(I,aVL,V5)リードグループにおける潜在的ST低下を含む。ST低下のレベルは、図15aにおいて確認されるように、下部リードにおけるST上昇よりも概して低い。
【0026】
図15b及び図15cは、これら兆候の解剖学的関係を示している。下部リードII,III及びaVFは、RCA及びLADの双方が血液を供給するところの心臓の底部における症状に敏感であるが、IIIリードは、左側のLADに近いIIリードよりも、右側RCAにより近接している。図15cに示されるものを含む右胸部リードも、右側の症状に対する感度がより高い。また、aVRリードは、右心室の領域における症状に敏感であり、これにより、右側にも感度が高い。このST上昇を鏡面反射する形のST低下は、心臓の左側に関連した前部及び横リードにおいて期待される。したがって、このセットの兆候は、RCAを責任冠動脈と識別することになることが分かる。
【0027】
左主(LM)冠動脈の閉鎖は、その上部位置が心臓の上部にあるものであり、同様に示すことができる。図16のECGレポートを参照すると、LM閉鎖は、心臓の上方室(右心室)に関連づけられているaVRリードにおけるST上昇により示される。これは、時として、リードV1におけるST上昇と同時に起こるものであるが、この場合、V1リードはST低下を示す。他のリードに示される程度の異常なSTレベルは、殆どのリードにおいてST低下を示すことになる。この場合、当該他のリードの全ての丸付きのトレースは、心臓の右側におけるリードaVRに隣接していることによりリードV4R以外はST低下を示す。V4Rリードの少しのST上昇は、心臓の他方の側のリードにおいて確認されるST低下を鏡面反射した形をとる。このセットの測定値は、LMが責任冠動脈であることを示す。LM閉鎖において確認される代表的な拡散ST低下は、急性虚血イベントとして通常認識されるものではなく、他の急性虚血イベントと同じか又はそれよりも悪い意味を有するものである。
【0028】
患者が心臓発作の症状を伴うもののECG測定値がリードにおける有意なST上昇を呈しないとき、リードは、上記ST低下の例のいずれかのために上昇させられるべきできる。ST上昇の無い特定の閉鎖の特徴を示しているST低下兆候の存在は、被検体の冠動脈の部分的閉鎖又は切迫した完全な閉鎖を示し、医師により見つけられる他の兆候とともに検討するために治療担当介入心臓専門医に示されるべきである。
【0029】
上述したST上昇及び低下特性に加えて、Q波、R波、T波の振幅及び持続長及びQRS及びQTのような波間間隔などの他のECG測定値も、責任冠動脈の識別において適用可能なものとして用いることができる。13〜18リードECGシステム及び64及び128リードECG体表マップを含む高次のリードセットの使用は、責任冠動脈識別の精度を高めるために付加的な追加情報を提供することができる。12リードよりも少ないシステムの場合、恐らくは低下する精度で本発明の技術を実現するために、付加的なリード信号を導くことができる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、心電図記録法システムに関し、特に、急性心筋梗塞を生じさせている責任冠動脈を自動的に識別する心電計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心電図記録法(ECG;electrocardiography)は、人の体の表面上において心臓により生じる電圧から得られる記録情報を生成するために広く使用されている。このようにして生成される記録情報は、文字による図式的なものとされ、その結果として得られる情報を当該患者の心臓の状態に関係づけるために専門的な解釈及び分析を必要とする。歴史的に、このような記録情報は、被検体から記録装置まで延びる有線接続部から視認可能なグラフィック記録情報として直接生成されている。コンピュータテクノロジの進歩とともに、後の再現及び分析のためにディジタル記憶された情報の形態で、このような記録情報を生成することができるようになってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ECG記録が非常に重要となる緊急臨床用途は、一般に心筋発作と称される急性冠状動脈疾病の症状の分析である。胸痛又は胸部不快感及び息切れのような急性冠症候群(ACS;acute coronary syndrome)の患者は、しばしば、心電図で診断される。心筋梗塞症を最近経験した患者のECGトレースは、完全な障害物により生じるトレースのST部分の上昇、ST上昇の無い異常Q波及び/又はT波、又は部分的障害物により生じるST低下のような既知の特性を示す可能性がある。これらの状態は、2つの主たる冠動脈のうちの一方、すなわち右冠動脈(RCA;right coronary artery)か又は左主(LM;left main)冠動脈、或いは当該LMの2つの主要な枝路のうちの一方、すなわち左前下降枝(LAD(left anterior descending))の冠動脈又は左回旋枝(LCx(left circumflex))の冠動脈における狭窄症の特徴を示す。血液の心筋に対するこれら主な管路のうちの1つに係る障害物は、心臓筋肉に対する永続的な損傷を回避するために可及的速やかに取り除かれるべきである。カテーテル装置による経皮冠動脈インターベンション(PCI;Percutaneous coronary intervention)は、心筋潅流を回復するために迅速に梗塞関連動脈を開くことができ、多くのケースにおいて血栓溶解療法よりも優れている。この良好に確立された処置方法は、救命及び生活の質の向上の点で良好な長期間の成果を提供している。
【0004】
心筋潅流が回復するのが早いほど、心臓へのダメージは少なく、心不全又は心臓死のリスクが低い。心筋は、梗塞の始まりから最初の数時間内に損傷する可能性があるので、患者が病院のドアから入った時点から患者の心筋潅流が回復する時までの時間(「ドア・ツー・パーフュージョン」時間と定義される)は、ACS患者の効果的治療の主要な尺度である。しかし、激しい胸痛の患者が病院のカテーテル検査室における手術台に横たわり、心臓専門医がアドミッションECGを掌握しているときには、心臓専門医には、どの冠動脈が閉塞され直ちに開かせるべきであるかについての情報がない。そして心臓専門医は、責任動脈を識別するよう全体の冠動脈ツリーを探し始めなければならない。これは、こうした状態の下での管理し難い骨の折れる探索であるだけでなく、この探索は、「ドア・ツー・パーフュージョン」時間のさらなる遅延を生じさせ、心臓への回復不可能な損傷及び/又は死をもたらしうる患者のリスクを高める。多くの患者は、現在のイベントを起こしている閉塞の探索が続行させられるので認識されかつ除外されなければならない部分的障害物のより早い虚血イベントから異常を呈する。多動脈疾病の患者においては、しばしば、3つの全ての冠動脈が高度(70%超)の障害を有し、当該瞬時的イベントの梗塞領域に関連した責任動脈を識別することは、さらに一層困難なものである。完全な障害物を破裂させかつ起動することのできる不安定プラークの絶えず存在する可能性によって、直近のイベントの責任動脈を識別することは、なおさら臨床的に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の原理によれば、自動化された分析は、責任冠動脈を識別するための、心電図のような診断用ECG機能を持つ装置、診断用ECG機能を持つ除細動器、さらには、診断用ECG機能を持つモニタ、並びに診断用ECG機能を持つ家庭用ECGモニタについて説明される。ACSの患者がECG検査を受けているとき、この自動化された技術は、ST上昇、ST低下の存在及び特定のECGリードにおける他のECG測定値について当該ECG信号を分析し、責任動脈を自動的に識別する。この識別は、視覚的なもの、聴覚的なものとすることができ、或いは印刷されるECGレポートに示すことができる。本発明の実施例によって、心臓専門医は、責任冠動脈を迅速かつ確実に識別し、時間の付加的ロスを伴うことなく心筋潅流を速やかに回復させることができるようにしている。本発明は、2つの主要な冠状動脈、RCAとLMのうちの一方、又はLMの2つの主要な枝路、LAD及びLCxのうちの一方における障害物を検出することができ、当該心臓専門医の参照用のセカンドオピニオンとしてECGレポート上に責任冠動脈識別情報を印刷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】心臓及びその主要な冠動脈の極めて概略的な図。
【図2】心臓及び冠動脈の解剖学的図。
【図3】心臓の周りをまとう冠動脈を示す、心臓の半透明な解剖学的図。
【図4a】ECG検査のための標準的電極配置を示す図。
【図4b】ECG検査のための標準的電極配置を示す図。
【図5】診断用ECGシステムの主要なサブシステムのブロック図。
【図6】ECGシステムのフロントエンドのブロック図。
【図7】代表的な診断用ECGシステムの処理モジュールのブロック図。
【図8】心拍及びそのリズムに関する情報を供給するためのECGトレースデータの処理を示す図。
【図9a】ECGトレースの種々のパラメータの測定値を示す図。
【図9b】ECGトレースの種々のパラメータの測定値を示す図。
【図10】代表的ECGレポートを示す図。
【図11a】12リードシステムのリードと冠状動脈の解剖学的構造との関係を示す図。
【図11b】12リードシステムのリードと冠状動脈の解剖学的構造との関係を示す図。
【図11c】本発明による分析に用いることのできるECGレポートにおける12リード信号及び3つの付加的リードの標準的代表例を示す図。
【図12a】正常なECG信号の各部分を示す図。
【図12b】本発明の原理による責任冠動脈識別に用いることのできる上昇したST部分を伴うECGトレースを示す図。
【図12c】本発明の原理による責任冠動脈識別に用いることのできる上昇したST部分を伴うECGトレースを示す図。
【図12d】本発明の原理による責任冠動脈識別に用いることのできる上昇したST部分を伴うECGトレースを示す図。
【図12e】本発明の原理による責任冠動脈識別に用いることのできる上昇したST部分を伴うECGトレースを示す図。
【図13a】本発明の原理による責任冠動脈としてLADを識別するECGレポートを示す図。
【図13b】本発明の原理による心臓の特定の領域に対して図13aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図13c】本発明の原理による心臓の特定の領域に対して図13aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図14a】本発明の原理による責任冠動脈としてLCxを識別するECGレポートを示す図。
【図14b】本発明の原理による心臓の特定領域に対して図14aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図14c】本発明の原理による心臓の特定領域に対して図14aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図15a】本発明の原理による責任冠動脈としてRCAを識別するECGレポートを示す図。
【図15b】本発明の原理による、心臓の特定領域に図15aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図15c】本発明の原理による、心臓の特定領域に図15aのECGレポートの当該上昇したST部分を関連づける図。
【図16】本発明の原理による、責任冠動脈として左主冠動脈を識別するECGレポートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1ないし図3は、閉塞したときに心臓に重大なダメージを起こすことになると目される冠動脈の位置を示す心臓の種々の図である。図1は、大動脈12から心臓10の右側に沿って下降する右冠動脈(RCA)を示す非常に概略的な図である。また、この大動脈から心臓の左側に沿って降りるのは、左主(LM)冠動脈であり、これは、心臓の前側(前部)にある左前下行枝(LAD)と心臓の後側(後部)の周りを包む形の左冠動脈回旋枝(LCx)とを形成するよう直ちに分岐する。3つの全ての主要な血管は、特徴的な曲がりくねった経路において心臓10の周りを最終的には包むものとなっており、新鮮な血液の心筋への一定した供給をなすようにしていることが分かる。
【0008】
図2は、この心臓10の前方側からの同じ動脈及び枝路を、当該心臓のより解剖学的に正確な描写で示している。図3において、心臓10は、心臓の前部及び後部側両方における冠動脈の曲がりくねった経路が容易に視覚化されることができるように半透明の分枝として描かれている。
【0009】
本発明の目的は、標準又は非標準のECG検査のトレースの分析からこれら冠動脈及び枝路のどれが閉塞されているかを自動的に識別することを可能にすることである。ECGの正しい解釈は、多大な経験を必要とする。何故なら、それは色々なリードのトレーシングにおける広い範囲のパターンの熟知に絡むからである。リードの慣例的でないシステムを用いたECGは、慣例的ECGの解釈において培われた多数の経験から必然的に外れ、これにより、概して望ましくないものとみなされる場合もある。発生したトレーシングは、当該慣例的でないシステムを熟知した比較的少数の者によってのみ理解可能なものとなる。したがって、本発明は、慣例的な電極配置による標準のECG検査において実現可能であることが重要である。図4aは、10個のリード電極を持つ慣例的な12リードECG検査のために患者の胴に位置づけられたV1〜V6の6つの電極の配置を示している。各電極は、1つ以上の他の電極と組み合わせで機能し、個々の心臓筋肉細胞の消極及び再分極により生成される電圧を検出する。検出された電圧は、合成され処理されて、時間的に変化する電圧の12個のトレーシングを生成する。こうして生成されたトレーシングは、次のようになる。
【表1】
【0010】
ここで、背臥位の被検体の短期心電図記録をなす最も広く使用されている標準のシステムでは、上記電位、及びこれらの関連の電極位置は、次の如くである。
VL 左腕上の電極の電位
VR 右腕上の電極の電位
VF 左脚上の電極の電位
V1 胸部正面上の電極の電位(第4肋骨間空における胸骨の右)
V2 胸部正面上の電極の電位(第4肋骨間空における胸骨の左)
V4 第5肋骨間空における左鎖骨中央線における電極の電位
V3 V2とV4の電極間の電極中間部の電位
V6 第5肋骨間空における左中腋窩線における電極の電位
V5 V4とV6の電極間の電極中間部の電位
G (上に示してはいないが)電位VL,VR,VF及びV1ないしV6が相対的に測定されるところの接地又は基準電位(大抵は(必然的ではないが)、右脚上にこの接地又は基準電極が配置される)。
【0011】
本発明は、慣例的な12リードECGシステム及び13,14,15,16,17又は18リードシステム又はこれを上回る56リード及び128リード体表マッピングシステムとともに用いられるのに適している。3リード(EASI及びその他)、5リード及び8リードシステムも、当該技術において知られているように、精度を低くして12リードから派生するように用いることができる。例えば、米国特許第5,377,687号(Evans氏ら)及び米国特許第6,217,525号(Medema氏ら)を参照されたい。要するに、本発明の実現形態は、任意の数のリード及び電極を使うことができる。図4a及び図4bは、高度なリードシステムにより用いられる電極のうちの幾つかを示している。V7,V8及びV9の電極は、V6電極から当該胴部の周りをまとい続けることが分かる。V3R,V4R,V5R及び付加的電極は、体の右側周辺から始まり、V3,V4,V5及びその他の電極の位置を体の左側に鏡で映した形とする。
【0012】
図5は、本発明を用いるのに適した診断用ECGシステムをブロック図の形で示している。複数の電極20は、患者の皮膚に付けるために設けられている。大抵は、これら電極は、皮膚に貼り付く導電性粘着ゲル表面を持つ使い捨ての導電体である。各導電体は、ECGシステムの電極線に嵌るか又は留まるスナップ又はクリップを有する。電極20は、電極により受信される信号の条件を整えるECG取込モジュール22に結合される。これら電極信号は、概して、衝撃危険性から患者を保護しまた患者が例えば除細動を受けているときにECGシステムを保護する電気的絶縁装置24により、ECG処理モジュール26に結合される。光学的絶縁は、概して電気的絶縁のために用いられる。そして、処理されたECG情報は、画像ディスプレイに表示され、又は出力装置28によりECGレポートに印刷される。
【0013】
図6は、より詳細に取込モジュール22を示している。大抵は振幅がちょうど数ミリボルトの電極信号は、これも大抵は除細動パルスからの高電圧保護を有する増幅器により増幅される。これら増幅された信号は、フィルタリングにより調整され、その後にアナログ/ディジタル変換器によりディジタル式に標本化された信号に変換される。そして、これら信号は、12リードシステムのための上記のもののような組み合わせでリード信号を得るように、様々な電極信号を差動で合成することによってフォーマット化される。これらディジタルリード信号は、CPU34の制御の下でECG処理のために転送される。取込モジュールの特定の電子回路構成部の多くは、しばしば、特定用途向け集積回路(ASIC)の形態で実現される。
【0014】
図7は、代表的な診断用ECGシステムの分析部のブロック図である。ペースパルス検出器42は、電気的スパイク及び1台装着している患者のペースメーカにより生じるその他の電気的異常性を識別し除外する。QRS検出器44は、電気的トレースの主要なパルスを検出する。図12aは、代表的な正常なECGトレースを示しており、Q−R−Sセグメントは、左心室の収縮をシミュレートするパルスである、当該トレースの主たる電気的パルスを描く。QRS合成の描写は、波形分割器46により行われる当該トレースの比較的小さい動揺を検出するための基礎を形成する。この波形分割器は、P波を含むトレースセグメント及びECGトレースのQないしUセグメントの全シーケンスを描く。ここで全部が描かれる各波形により、心拍分類器48は、新しい心拍の各々を以前の心拍と比較し、心拍を当該個人の正常(規則的)なものとして又は異常(不規則)なものとして分類する。心拍の分類によって、平均心拍分析器52は、正常心拍の特性を規定することができ、平均心拍の振幅及び部分(セグメント)持続長が54で測定される。心拍分類は、56で心調律を測定するために用いられる。図8,図9a及び図9bは、このECGトレース処理の機能的な図である。図8の左側には、リードI,II,V1,V2,V5及びV6からのECGトレースのシリーズ60がある。この心拍分類器48は、様々な心拍特性を比較し、正常なもの(N*,0)として当該心拍のうちのいくつかを分類している。例えば、リードV5及びV6からの心拍の全ては、正常なものとして分類されている。他の4つのリードは、早熟な心室収縮の特性(PVC,1)を示す心拍を含む。62では、ECGシステムは、正常な心拍の特性を集約し、異常な心拍の特性を排除し、平均的心拍を生成するように、時間的に当該各心拍を位置合わせしかつそれらの平均をとる。64でのトレースは、この例において示される6つのリードに対する平均心拍のトレースを示している。図9aにおいて、66に示される様々な特性、例えば、Q波、R波及びT波の振幅及び持続長、並びにQRSやQTのような波間間隔について測定される。これらの測定値は、この例の6つのリードに対する測定テーブル68において記録されるものとして示されている。12リードシステムのための完全な測定テーブルの例は、図9bに示される。
【0015】
ECG波及びそれらの測定値は、患者のECG波形についてのレポートの生成のためのレポート発生パッケージを伴うオフラインワークステーションに送ることができる。但し、心電計のPhilips Pagewriter(R)ラインやPhilips TraceMaster(R)ECG管理システムのような多くの診断用ECGシステムは、オンボードECGレポーティングパッケージを有する。図10は、これらシステムにより生成可能なレポートのタイプを示している。70に示される12個のリードの波形の特性及び図9bの測定値から、臨床医は、或る特定の心臓症状を臨床的に規定する方法で様々な特性を識別し、論理的に合成し、含有させ又は排除するためのレポーティングソフトウェアをプログラムすることができる。このタイプの代表的プログラムは、図10における72に示され、74に示されるような治療担当心臓専門医のためのECGレポートをもたらすことになる。急性心筋梗塞を患っている患者にとっては、このレポートは、心臓の中の急性心筋虚血の存在と、時として、心臓の領域の或る種の領域特定及び梗塞により影響を受ける領域のサイズを、大抵は示すこととなる。但し、当該障害物を除去するためにカテーテルを手に持って待機している介入の心臓専門医には、より多くの情報が必要である。心臓専門医は、閉鎖した動脈又は枝路にカテーテルを入れ、心臓の影響受けている領域に血液潅流を戻すように、即座に取り掛かることができるようにどの主要な冠動脈及び冠状動脈のどの枝路が閉鎖されているのかが知りたい。
【0016】
本発明の原理により、本発明者らは、ECGデータベースの統計学的分析及びこれらの種々の冠動脈の幾何学的構造との関係性を検討し、急性虚血イベントの責任動脈を識別するための自動化された技術を開発した。本発明の技術は、2つの主たる冠動脈、RC及びLMのうちの1つ、又はLMの2つの主要な枝路のうちの1つ、LDA又はLCxを、責任動脈として識別することができる。そして心臓専門医は、責任動脈の識別(情報)を、ECGレポートにおいて、スクリーン上に視覚的に、ECGトレースのディスプレイにおいて、聞こえる形で、又は他の出力手段によって、知らされる。本発明者らは、ST部分上昇を伴う場合及び伴わない場合の状況における、結果として得られるECGにおけるST偏差及び他のECG測定値(例えば、Q波、R波、T波の振幅及び持続長、並びにQRS及びQTのような波間間隔)及び急性心虚血は、種々の冠動脈においてそして動脈の種々のレベルにおいて障害が生じている場合に、種々のパターンを有することを認識した。冠状動脈は、或る特定のパターン及び偏りを有することを考えると、これらST偏差は、患者の冠動脈の幾何学的構造に密接に関連する。本発明の技術は、ST偏差及び標準のECGリード構成の他の測定値を検査することを可能にし、それらの分類は、特定の冠動脈又は枝路が急性虚血イベントの原因であるという結論を下すことを規定する。
【0017】
例えば、LADが閉鎖されると、心臓の前部壁への血液の流れは減ることになる。この状況において、当該前部壁に面するECGリードV2,V3,V4,V5の幾つかは、ST上昇を示すことになる。これに対応して、心臓の反対の壁部に面するECGリードは、ST低下を示すことになる。この原理を用いることによって、心臓壁部の急激に閉塞した領域に供給する責任冠動脈又は枝路を識別することができる。
【0018】
この原理は、さらに、図11a及び図11bに示されるように、ECGリードを冠動脈の幾何学的構造に関係づけることによって理解することができる。図11a及び図11bは、図3に示されるようなRCA、LCA、LCx及びLADを伴う心臓10の前面図である。血管の経路は、vG電極と一緒に12リードシステムの6つの肢リードI,II,III,aVR,aVL及びaVFを生成するために、上に示したように組み合わせられる3つの肢電極に関係づけられる。下部リードII,III及びaVFは、当該下部又は左心室の横隔膜壁のパンデージポイントから心臓の電気的活動を見せる。横のリードI,aVL,V5(図11bにおける5として示される)及びV6(図11bにおける6として示される)は、左心室の横の壁部のパンデージポイントからの電気的活動を示す。V1及びV2リード(図11bにおいて1及び2として示される)は、胸骨(図4a参照)の両側の電極から出されるものであり、心臓の隔壁のパンデージポイントからの電気的活動を示すものである。前部リードV3及びV4は、心臓の前部壁のパンデージポイントからの電気的活動を示す。本発明は、リード信号及び心臓に対するそれらの対応するパンデージポイントを考慮に入れて、狭窄症の冠動脈を識別するようにしている。
【0019】
図11cは、ECGレポートに通常用いられる種々のリードに対するECGトレースの位置付けを示している。12リードレポートは、図11cにおける第1の4つの列によって示されるように3×4行列でリード信号を配列するものである。下部電極II,III及びaVFの信号は、第1及び第2列に位置づけられ、横リード信号は、第1の列(I)の上部、第2の列(aVL)の中央、及び第4の列(V5及びV6)、…に位置づけられる。本発明の実施例は、その分析を行い当該結果を臨床医に提示するよう当該リードのこの標準の方向づけを有利に用いることができる。図11cの例では、第5の列が、以下の例に示されるように高次リードに対して付加される。
【0020】
本発明の他の態様によれば、ECGリード信号は、特定の冠動脈及び枝路の狭窄症に関係する上昇及び低下ST部分の特定のパターンに対して分析される。図12aの正常なECGトレースでは、ST部分80の信号レベルは、ECGトレースの公称のベースラインにあるか又はこれに非常に近いところにある。冠動脈が全部塞がれるようになるとき、当該動脈に近接したリードのST部分82は、図12bに示されるように高く上昇することになり、当該点線は、当該トレースの公称のベースラインを示す。ST部分は、100μボルト以上上昇する可能性がある。心臓の他方の側に隣接したECGリードは、対応の下降を示すこととなり、これが検出され、ST上昇の正の識別のために当該上昇したトレースと相関づけられることができる。さらに、ST上昇の量は、時間及び狭窄症の程度の関数として変化することになる。例えば、閉塞を生じさせるイベントの時間の直後に、リードのST部分は、図12cに示されるように比較的に大きな上昇84を示すことになる。時間の経過とともに、当該上昇は低下することになり、ST上昇86は、図12dに示されるように出現することができる。時間のかなり長い期間の後、心臓はその新しい生理学的状態に適合し始める頃、又は動脈が部分的にのみ閉鎖させられるときに、ST部分は、図12eにおける88で示されるように少しだけ上昇させられることになる。したがって、胸痛の開始の時間について患者に質問することによって、当該イベントの時間を記録することができ、期待される上昇の程度を評価することができる。また、上昇の程度は、古い血餅が時間とともに固化しているものの如き部分的にのみ閉鎖した血管を認識するために用いられることができる。これらの兆候は、応急手当を必要としない血管を無視するために用いることができるとともに、介入処置は、正に重大な閉鎖を被る血管に差し向けられる。
【0021】
図13a,図14a及び図15aは、責任冠動脈が臨床医のために識別されるとしたECGレポートの例を示している。図13aにおいて、12リードトレースは、上述した3×4パターンにおいて配列される。ここでも示されるのは、3つの付加的リード、心臓の後部側における2つ(V8及びV9)を伴う胴体の右側における2つ(V4R及びV5R)である。丸のついたリードトレースは、V3及びV4並びに隣接のリードV2及びV5の前部リードグループにおける大なるST部分上昇を示している。ST上昇はまた、横リードV6、I及びaVLにおいても確認される。リードV6、I及びaVLにおけるST上昇と同時に生じうるリードグループV2,V3,V4,V5におけるST上昇の存在は、左前下降(LAD)枝の閉鎖を示しており、この結論は、印刷され図13aのレポートの上部において強調されるように示される。
【0022】
図13b及び図13cは、何故これら前部及び横のリードグループがLAD閉鎖を示すかを示している。図13bは、心臓の左側を示す横リードaVL及びIを示し、これにより、右冠動脈症状よりも左冠動脈症状に敏感なものとなっている。横リードグループのリードV6は、図13cに示されるのと同様に方向づけられている。図13cはまた、LADに関係した前部リードV3及びV4並びに隣接の前部リードV2及びV5を示している。これらリードは、心臓の前部表面を示しているので、LCx症状よりもLAD症状に敏感である。より高次のリードセットが12リードセットに代えて用いられる場合、ST上昇リードは、心臓の反対の壁部に向くリードにおけるST低下により鏡面反射された形となる。この例は、図13aにおいて確認され、心臓の右側を示すV4Rリードが或る程度のST低下を示している。したがって、2つの左側リードグループにおける大幅なST上昇は、責任動脈としてのLAD冠動脈を指示するものである。
【0023】
図14aのECGレポートは、下部リードII,III及びaVFにおけるST上昇を示している。ST上昇はまた、後部リードV8にも存在する。この後部リードのST上昇は、前部リードV1,V2及びV3においてST低下により鏡面反射された形となる。さらに、前部胸部リードV1〜V3のST低下のレベルは、下部肢リードII,III及びaVFのST上昇より大きい。測定値のこのセットは、図14aのレポートの上部においてレポートされ強調されるように、左冠動脈回旋枝(LCx)の閉鎖を示している。隣接の後部リードV7及びV9は、用いられると、リードV8のものと同様のST上昇を示すことになる。
【0024】
図14b及び図14cは、この兆候の解剖学的な図を提供するものである。図14bに示される下部リードII,III及びaVFは、下から心臓を見ており、これにより、左右の冠動脈の上部の症状に対して感度が低く、心臓の周囲及び下側を取り巻くので左回旋枝の閉鎖にはより感度が高いものとなっている。後部リードV7,V8及びV9は、LCxの後部箇所に対向しており、これにより、より前方にあるRCA及びLAD冠動脈よりもLCx症状に感度が高い。これら後部リードの感度は、前部リードV1,V2及びV3のST低下により鏡面反射される形となる。したがって、ST低下との整合を伴うST上昇のこのセットは、LCx冠動脈の閉鎖の兆候である。
【0025】
図15aは、下部リードグループII,III及びaVFにおけるST上昇を伴うECGレポートを示している。リードIIIにおけるST上昇は、リードIIのものよりも大きい。ST上昇はまた、右の胸部リードV4R及びV5Rにおいても確認される。このセットの測定値は、ECGレポートにおいて記述され強調されているように右の冠動脈(RCA)閉鎖を示している。下部リードグループ若しくは右胸部リードグループ又はこれら双方のST上昇は、RCA閉鎖を示している。リードaVRにおけるST上昇も存在しうる。ここでも存在しうる他の兆候は、右側リードにおけるST上昇を鏡面反射した形態を採る、前部(V3,V4)及び横(I,aVL,V5)リードグループにおける潜在的ST低下を含む。ST低下のレベルは、図15aにおいて確認されるように、下部リードにおけるST上昇よりも概して低い。
【0026】
図15b及び図15cは、これら兆候の解剖学的関係を示している。下部リードII,III及びaVFは、RCA及びLADの双方が血液を供給するところの心臓の底部における症状に敏感であるが、IIIリードは、左側のLADに近いIIリードよりも、右側RCAにより近接している。図15cに示されるものを含む右胸部リードも、右側の症状に対する感度がより高い。また、aVRリードは、右心室の領域における症状に敏感であり、これにより、右側にも感度が高い。このST上昇を鏡面反射する形のST低下は、心臓の左側に関連した前部及び横リードにおいて期待される。したがって、このセットの兆候は、RCAを責任冠動脈と識別することになることが分かる。
【0027】
左主(LM)冠動脈の閉鎖は、その上部位置が心臓の上部にあるものであり、同様に示すことができる。図16のECGレポートを参照すると、LM閉鎖は、心臓の上方室(右心室)に関連づけられているaVRリードにおけるST上昇により示される。これは、時として、リードV1におけるST上昇と同時に起こるものであるが、この場合、V1リードはST低下を示す。他のリードに示される程度の異常なSTレベルは、殆どのリードにおいてST低下を示すことになる。この場合、当該他のリードの全ての丸付きのトレースは、心臓の右側におけるリードaVRに隣接していることによりリードV4R以外はST低下を示す。V4Rリードの少しのST上昇は、心臓の他方の側のリードにおいて確認されるST低下を鏡面反射した形をとる。このセットの測定値は、LMが責任冠動脈であることを示す。LM閉鎖において確認される代表的な拡散ST低下は、急性虚血イベントとして通常認識されるものではなく、他の急性虚血イベントと同じか又はそれよりも悪い意味を有するものである。
【0028】
患者が心臓発作の症状を伴うもののECG測定値がリードにおける有意なST上昇を呈しないとき、リードは、上記ST低下の例のいずれかのために上昇させられるべきできる。ST上昇の無い特定の閉鎖の特徴を示しているST低下兆候の存在は、被検体の冠動脈の部分的閉鎖又は切迫した完全な閉鎖を示し、医師により見つけられる他の兆候とともに検討するために治療担当介入心臓専門医に示されるべきである。
【0029】
上述したST上昇及び低下特性に加えて、Q波、R波、T波の振幅及び持続長及びQRS及びQTのような波間間隔などの他のECG測定値も、責任冠動脈の識別において適用可能なものとして用いることができる。13〜18リードECGシステム及び64及び128リードECG体表マップを含む高次のリードセットの使用は、責任冠動脈識別の精度を高めるために付加的な追加情報を提供することができる。12リードよりも少ないシステムの場合、恐らくは低下する精度で本発明の技術を実現するために、付加的なリード信号を導くことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性心筋梗塞に関連した責任冠動脈を識別する診断用ECGシステムであって、
当該心臓に関係した種々のバンテージポイントから当該心臓の電気的活動を取得するように適合された1組の電極と、
前記電極に結合され、増強された電極信号を生成するよう動作するECG取込モジュールと、
前記電極信号に応答して、種々のバンテージポイントから当該心臓の電気的活動を測定する複数のリードトレースの生成をなすために電極信号を合成するように動作するECGプロセッサであって、リードトレースにおけるST上昇を検出し、冠動脈又は枝路の閉鎖を示すST上昇パターンを識別するプロセッサと、
急性虚血イベントに関連した責任冠動脈又は枝路を識別する出力装置と、
を有するシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記電極信号に応答して、リードV2,V3,V4,V5のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループ及びリードV6,I,aVLのうちの1つ又は複数を含む横リードグループの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサはさらに、LAD冠動脈の閉鎖を示唆するものとして前記横リードグループにおけるST上昇と同時に起きうる前記前部リードグループにおけるST上昇を識別し、
前記出力装置は、当該示唆に応答して責任冠動脈としてLAD冠動脈を識別する、
システム。
【請求項3】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記電極信号に応答して、リードII,III,aVFのうちの1つ又は複数を含む下部リードグループ、リードV7,V8,V9のうちの1つ又は複数を含む後部リードグループ、及びリードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに前記前部リードグループにおけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサは、さらに、前記下部リードグループ及び前記後部リードグループにおけるST上昇、及び前部リードグループにおけるST低下を、当該LCx冠動脈の閉鎖を示唆するものとして識別し、
前記出力装置は、当該示唆に応答して、前記LCx冠動脈を責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項4】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記電極信号に応答して、リードII,III,aVFのうちの1つ又は複数、リードV3R〜V5Rのうちの1つ又は複数を含む右胸部リード、及びリードaVRの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに、リードaVRにおけるST上昇と同時に起きうる前記下部リードグループ及び/又は右胸部リードにおけるST上昇を、右冠動脈(RCA)の閉鎖を示唆するものとして識別し、
前記出力装置は、当該示唆に応答して、前記RCAを責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項5】
請求項4に記載の診断用ECGシステムであって、リードII及びIIIの双方は、ST上昇を示し、
当該リードIIIにおけるST上昇は、リードIIのものよりも大きい、
システム。
【請求項6】
請求項5に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、さらに、前記電極信号に応答して、リードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに前記前部リードグループにおけるST低下を識別し、
前記前部リードグループにおけるST低下のレベルは、前記下部リードグループにおけるST上昇よりも小さい、
システム。
【請求項7】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記電極信号に応答して、リードaVRの信号及びリードV1を含む複数の他のリードの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに前記他のリードのうちの大部分におけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサは、さらに、リードV1におけるST上昇と同時に起こりうるリードaVRにおけるST上昇を、当該左主(LM)冠動脈の閉鎖を示唆するものとして識別し、
前記出力装置は、当該示唆に応答して、前記LM冠動脈を責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項8】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記リードトレースに応答して有意なST上昇の無い状態を検出し、
前記ECGプロセッサはさらに、前記リードトレースのうちの1つ又は複数におけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサは、さらに、リードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードのうちの1つ又は複数におけるST低下の検出に応答して、前記左冠動脈回旋枝(LCx)を部分的に閉塞した責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項9】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記リードトレースに応答して、有意なST上昇の無い状態を検出し、
前記ECGプロセッサは、さらに前記リードトレースのうちの1つ又は複数におけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサはさらに、リードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードのうちの1つ又は複数、及び横リードI,aVL,V5,V6のうちの1つ又は複数におけるST低下の検出に応答して、当該右冠動脈(RCA)を部分的に閉塞した責任冠動脈として識別するようにしている、
システム。
【請求項10】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記リードトレースに応答して、リードaVRにおける有意なST上昇の無い状態の検出をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに当該複数の他のリードトレースにおけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサはさらに、前記複数の他のリードトレースにおけるST低下の検出に応答して、当該左主(LM)冠動脈を部分的に閉塞した責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項11】
nリードECGシステムにより虚血イベントに関連した責任冠動脈を識別する方法であって、
当該nリードのトレースを受けること、
ST上昇のために前記トレースを分析すること、
特定の冠動脈又は枝路の閉鎖の示唆のためのST上昇のパターンを分析すること、及び
ユーザに対して特定の冠動脈又は枝路を責任冠動脈として識別すること、
を有する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することは、さらに、リードV6,I,aVLのうちの1つ又は複数を含む横リードグループ
におけるST上昇と同時に起こりうるリードV2,V3,V4,V5のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループにおけるST上昇を、左前下降(LAD)枝の閉鎖を示唆するものとして識別することを有し、
当該識別はさらに、前記LAD冠動脈を責任冠動脈として識別することを有する、
方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することは、さらに、
リードII,III,aVFのうちの1つ又は複数を含む下部リードグループ、及びリードV7,V8,V9のうちの1つ又は複数を含む後部リードグループのST上昇を識別すること、及び
ST低下についてリードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループのトレースを分析し前記リードグループにおけるST低下を識別すること、
を有し、当該識別することはさらに、当該左冠動脈回旋(LCx)枝を責任冠動脈として識別することを有する、
方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記前部リードグループにおいて判明されるST低下のレベルは、前記下部リードグループにおけるST上昇のレベルよりも大きい、方法。
【請求項15】
請求項11に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することは、さらに、リードII,III,aVFのうちの1つ又は複数を含む下部リードグループ及び/又はリードV3R〜V5Rのうちの1つ又は複数を含む右胸部リードのST上昇を識別することを有し、リードIIIにおけるST上昇のレベルは、リードIIにおけるST上昇のレベルよりも大きく、
当該識別することは、さらに、当該右冠動脈(RCA)を責任冠動脈として識別することを有する、
方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、リードaVRにおけるST上昇を識別することをさらに有する方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法であって、リードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループ、及びリードV6,I,aVLのうちの1つ又は複数を含む横リードグループを、ST低下について分析することをさらに有し、前記前部リードグループにおいて判明されるST低下のレベルは、前記下部リードグループにおいて判明されるST上昇のレベルよりも小さい、方法。
【請求項18】
請求項11に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することは、さらに、リードaVRにおけるST上昇を識別すること有し、
当該方法はさらに、複数の他のリードにおけるST低下を識別することを有し、
当該識別することは、さらに、左主(LM)冠動脈を責任冠動脈として識別することを有する、
方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することはさらに、リードV1におけるST上昇を識別することを有する、方法。
【請求項20】
請求項11に記載の方法であって、nは12である、方法。
【請求項21】
請求項11に記載の方法であって、nは12を超える数である、方法。
【請求項22】
請求項11に記載の方法であって、nは12を下回る、方法。
【請求項23】
nリードECGシステムにより虚血イベントに関連した責任冠動脈を識別する方法であって、
当該nリードのトレースを受けること、
ST上昇及びST低下について前記トレースを分析すること、
有意のST上昇を持つトレースの無い状態を見つけること、
特定の冠動脈又は枝路の閉塞の兆候について前記ST低下のパターンを分析すること、及び
ユーザに対し特定の冠動脈又は枝路を部分的に閉鎖した責任冠動脈として識別すること、
を有する方法。
【請求項24】
急性心筋梗塞に関連した責任冠動脈を識別する診断用ECGシステムであって、
当該心臓に関係している種々のバンテージポイントから当該心臓の電気的活動の取り込みをなすように適合させられた1組の電極と、
前記電極に結合され、増強された電極信号を生成するように動作するECG取込モジュールと、
前記電極信号に応答して、種々のバンテージポイントから当該心臓の電気的活動を測定する複数のリードトレースの生成をなすために電極信号を合成するよう動作するECGプロセッサであって、リードトレースにおけるST低下を検出し、左主冠動脈閉鎖を示唆する拡大したST低下を識別するECGプロセッサと、
急性虚血イベントに関連した責任冠動脈又は枝路を識別する出力装置と、
を有するシステム。
【請求項1】
急性心筋梗塞に関連した責任冠動脈を識別する診断用ECGシステムであって、
当該心臓に関係した種々のバンテージポイントから当該心臓の電気的活動を取得するように適合された1組の電極と、
前記電極に結合され、増強された電極信号を生成するよう動作するECG取込モジュールと、
前記電極信号に応答して、種々のバンテージポイントから当該心臓の電気的活動を測定する複数のリードトレースの生成をなすために電極信号を合成するように動作するECGプロセッサであって、リードトレースにおけるST上昇を検出し、冠動脈又は枝路の閉鎖を示すST上昇パターンを識別するプロセッサと、
急性虚血イベントに関連した責任冠動脈又は枝路を識別する出力装置と、
を有するシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記電極信号に応答して、リードV2,V3,V4,V5のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループ及びリードV6,I,aVLのうちの1つ又は複数を含む横リードグループの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサはさらに、LAD冠動脈の閉鎖を示唆するものとして前記横リードグループにおけるST上昇と同時に起きうる前記前部リードグループにおけるST上昇を識別し、
前記出力装置は、当該示唆に応答して責任冠動脈としてLAD冠動脈を識別する、
システム。
【請求項3】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記電極信号に応答して、リードII,III,aVFのうちの1つ又は複数を含む下部リードグループ、リードV7,V8,V9のうちの1つ又は複数を含む後部リードグループ、及びリードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに前記前部リードグループにおけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサは、さらに、前記下部リードグループ及び前記後部リードグループにおけるST上昇、及び前部リードグループにおけるST低下を、当該LCx冠動脈の閉鎖を示唆するものとして識別し、
前記出力装置は、当該示唆に応答して、前記LCx冠動脈を責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項4】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記電極信号に応答して、リードII,III,aVFのうちの1つ又は複数、リードV3R〜V5Rのうちの1つ又は複数を含む右胸部リード、及びリードaVRの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに、リードaVRにおけるST上昇と同時に起きうる前記下部リードグループ及び/又は右胸部リードにおけるST上昇を、右冠動脈(RCA)の閉鎖を示唆するものとして識別し、
前記出力装置は、当該示唆に応答して、前記RCAを責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項5】
請求項4に記載の診断用ECGシステムであって、リードII及びIIIの双方は、ST上昇を示し、
当該リードIIIにおけるST上昇は、リードIIのものよりも大きい、
システム。
【請求項6】
請求項5に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、さらに、前記電極信号に応答して、リードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに前記前部リードグループにおけるST低下を識別し、
前記前部リードグループにおけるST低下のレベルは、前記下部リードグループにおけるST上昇よりも小さい、
システム。
【請求項7】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記電極信号に応答して、リードaVRの信号及びリードV1を含む複数の他のリードの信号の生成をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに前記他のリードのうちの大部分におけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサは、さらに、リードV1におけるST上昇と同時に起こりうるリードaVRにおけるST上昇を、当該左主(LM)冠動脈の閉鎖を示唆するものとして識別し、
前記出力装置は、当該示唆に応答して、前記LM冠動脈を責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項8】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記リードトレースに応答して有意なST上昇の無い状態を検出し、
前記ECGプロセッサはさらに、前記リードトレースのうちの1つ又は複数におけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサは、さらに、リードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードのうちの1つ又は複数におけるST低下の検出に応答して、前記左冠動脈回旋枝(LCx)を部分的に閉塞した責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項9】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記リードトレースに応答して、有意なST上昇の無い状態を検出し、
前記ECGプロセッサは、さらに前記リードトレースのうちの1つ又は複数におけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサはさらに、リードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードのうちの1つ又は複数、及び横リードI,aVL,V5,V6のうちの1つ又は複数におけるST低下の検出に応答して、当該右冠動脈(RCA)を部分的に閉塞した責任冠動脈として識別するようにしている、
システム。
【請求項10】
請求項1に記載の診断用ECGシステムであって、前記ECGプロセッサは、前記リードトレースに応答して、リードaVRにおける有意なST上昇の無い状態の検出をなし、
前記ECGプロセッサは、さらに当該複数の他のリードトレースにおけるST低下を識別し、
前記ECGプロセッサはさらに、前記複数の他のリードトレースにおけるST低下の検出に応答して、当該左主(LM)冠動脈を部分的に閉塞した責任冠動脈として識別する、
システム。
【請求項11】
nリードECGシステムにより虚血イベントに関連した責任冠動脈を識別する方法であって、
当該nリードのトレースを受けること、
ST上昇のために前記トレースを分析すること、
特定の冠動脈又は枝路の閉鎖の示唆のためのST上昇のパターンを分析すること、及び
ユーザに対して特定の冠動脈又は枝路を責任冠動脈として識別すること、
を有する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することは、さらに、リードV6,I,aVLのうちの1つ又は複数を含む横リードグループ
におけるST上昇と同時に起こりうるリードV2,V3,V4,V5のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループにおけるST上昇を、左前下降(LAD)枝の閉鎖を示唆するものとして識別することを有し、
当該識別はさらに、前記LAD冠動脈を責任冠動脈として識別することを有する、
方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することは、さらに、
リードII,III,aVFのうちの1つ又は複数を含む下部リードグループ、及びリードV7,V8,V9のうちの1つ又は複数を含む後部リードグループのST上昇を識別すること、及び
ST低下についてリードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループのトレースを分析し前記リードグループにおけるST低下を識別すること、
を有し、当該識別することはさらに、当該左冠動脈回旋(LCx)枝を責任冠動脈として識別することを有する、
方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記前部リードグループにおいて判明されるST低下のレベルは、前記下部リードグループにおけるST上昇のレベルよりも大きい、方法。
【請求項15】
請求項11に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することは、さらに、リードII,III,aVFのうちの1つ又は複数を含む下部リードグループ及び/又はリードV3R〜V5Rのうちの1つ又は複数を含む右胸部リードのST上昇を識別することを有し、リードIIIにおけるST上昇のレベルは、リードIIにおけるST上昇のレベルよりも大きく、
当該識別することは、さらに、当該右冠動脈(RCA)を責任冠動脈として識別することを有する、
方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、リードaVRにおけるST上昇を識別することをさらに有する方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法であって、リードV1,V2,V3のうちの1つ又は複数を含む前部リードグループ、及びリードV6,I,aVLのうちの1つ又は複数を含む横リードグループを、ST低下について分析することをさらに有し、前記前部リードグループにおいて判明されるST低下のレベルは、前記下部リードグループにおいて判明されるST上昇のレベルよりも小さい、方法。
【請求項18】
請求項11に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することは、さらに、リードaVRにおけるST上昇を識別すること有し、
当該方法はさらに、複数の他のリードにおけるST低下を識別することを有し、
当該識別することは、さらに、左主(LM)冠動脈を責任冠動脈として識別することを有する、
方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、当該ST上昇のパターンを分析することはさらに、リードV1におけるST上昇を識別することを有する、方法。
【請求項20】
請求項11に記載の方法であって、nは12である、方法。
【請求項21】
請求項11に記載の方法であって、nは12を超える数である、方法。
【請求項22】
請求項11に記載の方法であって、nは12を下回る、方法。
【請求項23】
nリードECGシステムにより虚血イベントに関連した責任冠動脈を識別する方法であって、
当該nリードのトレースを受けること、
ST上昇及びST低下について前記トレースを分析すること、
有意のST上昇を持つトレースの無い状態を見つけること、
特定の冠動脈又は枝路の閉塞の兆候について前記ST低下のパターンを分析すること、及び
ユーザに対し特定の冠動脈又は枝路を部分的に閉鎖した責任冠動脈として識別すること、
を有する方法。
【請求項24】
急性心筋梗塞に関連した責任冠動脈を識別する診断用ECGシステムであって、
当該心臓に関係している種々のバンテージポイントから当該心臓の電気的活動の取り込みをなすように適合させられた1組の電極と、
前記電極に結合され、増強された電極信号を生成するように動作するECG取込モジュールと、
前記電極信号に応答して、種々のバンテージポイントから当該心臓の電気的活動を測定する複数のリードトレースの生成をなすために電極信号を合成するよう動作するECGプロセッサであって、リードトレースにおけるST低下を検出し、左主冠動脈閉鎖を示唆する拡大したST低下を識別するECGプロセッサと、
急性虚血イベントに関連した責任冠動脈又は枝路を識別する出力装置と、
を有するシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図12e】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図12e】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図16】
【公表番号】特表2010−535570(P2010−535570A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519556(P2010−519556)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/IB2008/053114
【国際公開番号】WO2009/019649
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/IB2008/053114
【国際公開番号】WO2009/019649
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]