説明

貯血槽

【課題】 貯血槽のカーディオトミー部における薬液注入の際に、注入する薬液の種類や注入速度、方法等を変えても、液溜まりを生じ難い貯血槽を提供する。
【解決手段】 ハウジング内に、導管で連絡されたカーディオトミー部を有する貯血槽であって、前記導管内に、前記血液が流れる血液流路と前記薬液が流れる薬液流路とが互いに独立して形成されており、上下方向において、前記血液流路を形成する血液導管部の下端は、前記薬液流路を形成する薬液導管部の下端よりも下側に位置しており、薬液導管部の水平方向の断面は下方向に向かうにつれて、徐々に減少し、且つ薬液導管部の下端の開口面は、対応する部位の血液導管部の水平方向での断面よりも大きく形成されていることを特徴とする貯血槽。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心肺手術等を行う際に使用される体外血液循環回路において、体外循環中の血液を一時的に貯留する貯血槽に関する。特に、心内血を櫨過するカーデイオトミー部を内蔵した貯血槽に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓手術等を行う場合、患者の心臓や肺の機能を代替するための血液ポンプや人工肺を備えた体外血液循環回路が用いられる。体外血液循環回路には、患者の静脈から脱血された静脈血を一時的に貯留して循環回路血液量を調整するための貯血槽(「静脈血貯血槽」と呼ばれることがある)や、術野に溢れた血液(心内血)を吸引して回収して一時的に貯留するための貯血槽(「心内血貯血槽」と呼ばれることがある)が設けられる。心内血は、静脈血に比べて、肉片、脂肪、凝血塊などの異物や気泡を多く含むので、心内血貯血槽には、異物を除去するためのフィルタと気泡を消泡するための消泡材とからなるカーデイオトミー部が設けられる。静脈血と心内血とを共通する貯血槽に貯留することも広く行われている。
【0003】
図3は、従来のカーデイオトミー部30の一例の概略構成を示した断面図である。このカーデイオトミー部30は、全体として略円筒形状を有するフィルタ31と、フィルタ31の内側に配置され、略円筒形状を有する消泡材32とを備える。フィルタ31の上下の端縁には、略円板形状を有する樹脂板33,34が接着されている。消泡材32は、上側の樹脂板33に接着されて保持されている。上側の樹脂板33の中央には貫通孔35が形成されている。貫通孔35には、心内血をカーディオトミー部30内に導入する導管36が挿入されている(例えば特許文献1参照)
導管36の上流に混合容器37が接続されている。混合容器37内の空間は、隔壁38により、血液が流れる血液流路39と、薬液が流れる薬液流路40とに分割されている。混合容器37の下面に形成された開口41に導管36が接続される。隔壁38は開口41をほぼ2分割している。
【0004】
術野から吸引された血液(心内血)42は、心内血流入ポート43、混合容器37内の血液流路39及び開口41、及び導管36を順に通過してカーデイオトミー部30内に流入する。
【0005】
また、カーデイオトミー部30内の血液に薬液を投与する場合には、薬液44は、薬液注入ポート45に注入され、混合容器37内の薬液流路40及び開口41、及び導管36を順に通過してカーデイオトミー部30内に流入する。
【0006】
一般に、血液42の流量は薬液44に比べて大きいので、開口41の近傍の血液42の流れによって、導管36がいわゆるアスピレータを構成し、薬液流路40内が負圧となる。薬液流路40内が負圧になると、薬液44の流量などの制御が困難になるなどの問題が生じる。また、薬液44のカーディオトミー部30に対する流入抵抗は小さい方が望まれる。
【0007】
そこで、本発明者らは以前に、上記貯血槽において、血液の流れによって、薬液流路に生じる負圧が抑制され、且つ薬液のカーディオトミ一部に対する流入抵抗が小さくなるような構造を発明し、特許文献2に開示した。即ち、図4に示されるように、導管36において、血液が流れる血液流路と、薬液が流れる薬液流路とが互いに独立して形成された貯血槽である。この貯血槽では、上下方向において、前記血液流路を形成する血液導管部36aの下端は、前記薬液流路を形成する薬液導管部36bの下端よりも下側に位置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−165878号公報
【特許文献2】WO2009/028397A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のように改良した貯血槽においても、投与する薬液(液体)の種類、物性(粘性)や投与速度、投与方法によっては、導管に液溜まりが生じる場合があることが判明した。例えば、シリンジ等で薬液(薬液)をワンショットで注入する場合、注入速度が速いとき、或いは注入する液体の粘性が高いときには、液溜まりが生じ易い。連続で薬液を注入する場合も、液体の粘性が高い、或いは泡立ち易いものであるときには、液溜まりが生じ易い傾向にあった。
【0010】
本発明の目的は既述したように、投与する薬液の種類、物性、投与速度、投与方法などを変更しても、導管に液溜まりの生じ難い貯血槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような構成とする。即ち、本発明は、上部に心内血流入ポート及び薬液注入ポートを備え、下端に血液流出ポートを備えたハウジングと、前記ハウジング内に配置されたカーディオトミー部と、前記心内血流入ポート及び前記薬液注入ポートと連通し、前記心内血流入ポートからの血液及び前記薬液注入ポートからの薬液を前記カーデイオトミ一部内に流入させる導管とを有し、前記導管が、前記カーデイオトミ一部内に上方から下方に向かって挿入された貯血槽であって、前記導管内に、前記血液が流れる血液流路と前記薬液が流れる薬液流路とが互いに独立して形成されており、上下方向において、前記血液流路を形成する血液導管部の下端は、前記薬液流路を形成する薬液導管部の下端よりも下側に位置しており、薬液導管部の水平方向の断面は上から下方向に向かうにつれて、徐々に減少し、且つ薬液導管部の下端の開口面は、対応する部位の血液導管部の水平方向での断面よりも大きく形成されていることを特徴とする貯血槽である。前記対応する部位とは、上下方向において、薬液導管部の下端と同じ部位にあるものをいう。
【0012】
また、前記薬液導管部下端の開口面と、対応する部位の血液導管部断面の面積比率が1.5〜2.5の範囲である前記の貯血槽である。
【0013】
或いは、前記薬液導管部下端の開口面積が、120〜150mm2である前記貯血槽である。
さらに、前記薬液導管部下端の開口面における導管内径が、17mm以上である前記のいずれかの貯血槽である。前記導管内径の寸法を規定した導管とは、薬液導管部と血液導管部とを併せた導管のことをいう。以後、単に導管という場合、両者(薬液導管部と血液導管部)を併せたものを指す。
【発明の効果】
【0014】
本発明の貯血槽では、薬液導管部の下端開口面が、対応する部位の(水平方向における同部位にある)血液導管部の断面に比べ、大きくなるように形成されているので、導管の管径自体をさほど大きくしなくても、薬液導管部下端の開口面(面積)を大きく取ることが可能となる。その結果、薬液導管部の下端開口面を増大することができ、投与する薬液(液体)の種類、物性(粘性)や投与速度、投与方法に影響されることなく、液溜まりの抑止が可能となり、薬液(液体)のスムースな注入が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る貯血槽において、カーディオトミー部に流入する血液及び薬液の流路を示した概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る貯血槽において、薬液導管部下端開口面とそれに対応する部位の血液導管部の水平的な断面を示す概略断面図である。
【図3】従来のカーデイオトミー部の一例における概略構成を示した断面図である。
【図4】従来のカーデイオトミー部の別の例における導管部の概略構成を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、心内血流入ポート50及び薬液注入ポート72からカーディオトミー部2に至
る血液211及び薬液212の流路を示した概略断面図である。血液と薬液が別々に流れる混合容器200内の空間は、隔壁91により、血液(心内血)が流れる血液流路201と、薬液が流れる薬液流路202とに分割されている。心内血流入ポート50は血液流路201と連通し、薬液流入ポート72は薬液流路202と連通している。容器200の下面に導管90が接続されている。隔壁91は導管90内にも延設されている。この結果、導管90内に、隔壁91を隔てて、血液(心内血)が流れる血液流路93と、薬液が流れる薬液流路95とが互いに独立して形成されている。導管90のうち、血液流路93を形成する部分を血液導管部94と呼び、薬液流路95を形成する部分を薬液導管部96と呼ぶ。血液導管部94及び薬液導管部96はいずれも半円筒形状を有し、これらが一体化された導管90は全体として円筒形状を有する。血液211は、心内血流入ポート50、容器200内の血液流路201、及び導管90内の血液流路95を順に通過してカーディオトミー部2内に流入する。また、薬液212は、薬液注入ポート72、混合容器200内の薬
液流路202、及び導管90内の薬液流路95を順に通過してカーデイオトミー部2内に
流入する。
【0017】
本実施の形態では、血液流路201、93と薬液流路202、95とが隔壁91を隔てて完全に分離され独立しているので、血液の流れ及び薬液の流れは互いに相手方に影響を及ぼさない。従って、従来の貯血槽において、アスピレータ効果によって、薬液流路が負圧になるとしち問題は、本実施の形態では発生しない。
【0018】
また、上下方向において、血液流路93を形成する血液導管部94の下端は、薬液流路95を形成する薬液導管部96の下端よりも下側に位置している。これは、以下の理由による。
【0019】
上述したように、心内血は多くの気泡を含むので、カーディオトミ一部2内において
、気泡が血液面上に浮上する。浮上した気泡の多くは消泡材20に接触して破泡するが、一部は消泡材20で固まれた空間内に盛り上がるように成長することがある。薬液導管部96の下端の開口がこのような気泡で覆われ塞がれると、薬液のカーディオトミー部2に対する流入抵抗が増加する。そこで、本実施の形態では、薬液導管部96の下端の上下方向位置は、なるべく気泡に接することがないように、高い位置に設定されている。
【0020】
また、薬液導管部96の下端の開口が気泡で塞がれるか否かにかかわらず、薬液導管部96の長さが長くなるほど、薬液のカーデイオトミ一部2に対する流入抵抗が増加する。そこで、本実施の形態では、薬液導管部96の長さは、なるべく短く設定されている。但し、血液導管部の方は、流出する血液と泡を消泡材に近づけ、迅速に破泡、消泡するために、長く設計されている。
【0021】
図示は省略するが、薬液導管部は水平方向の断面が上から下方向に向かうにつれて、徐々に減少するように形成されている。また、薬液導管部下端の断面は、図2に示すように、対応する(水平方向における同一)部位の血液導管部断面よりも大きくなるように、形成されている。それによって、導管の内径が同じ場合でも、薬液導管部の下端開口面97を大きく取ることができる。また、前記下端開口面97と、対応する部位の血液導管部の断面98との面積比は1.5〜2.5の範囲となるように設定することで、血液導管部の機能を損なわずに、薬液導管部の薬液溜まりを改善することが可能となる。
【0022】
さらに、薬液導管部96の前記下端開口面97の面積は、120〜150mm2に設定するのが、液溜まりの改善に望ましい。同様に、前記下端開口面97を形成する部位における導管内径が、17mm以上となるように設定することも、液溜まり改善に効果がある。上記のように、導管の内径を大きくすることで、液溜まりは抑止できるが、必要以上に大きくしても、無駄であり、デメリットになる。また、導管の大きさが同じ場合には、薬液導管部下端の開口面の大きさが、液溜まりの改善に影響するため、薬液導管部下端の開口面97と、それに対応する部位における血液導管部の水平断面98が、それぞれ半円となるように形成するのではなく、前者(薬液導管部の下端開口面97)の断面積が、後者(血液導管部の対応部位の断面98)の断面積よりも大きくなるように、隔壁を導管の軸からずらして形成するのが好ましい。(図2を参照)
導管90の材料は、特に制限はなく、従来の導管と同じ材料、例えばポリカーボネートを使用することができる。導管の厚みについて、特に制限はないが、1.0mm〜2.0mmのものが一般的に使用される。隔壁91の材料や肉厚についても、特に制限はなく、例えば導管90と同じ材料や寸法を使用することができる。
【実施例1】
【0023】
以下に示す本発明の実験モデルを使用して、In Vitroの実験を行い、その効果を確認した。図1に示すカーディオトミー2を有する貯血槽において、薬液導管部下端の開口面97に対応する部位の導管90の内径を9mm〜22mmまで変更したものを使用し、複数設けた薬液注入ポート72a、72bから、牛血と各種薬液をそれぞれ注入した。牛血の注入は、臨床における血液濃縮ラインを模擬したものであり、500ml/minの速度で、薬液注入ポート72aから、行った。薬液は、シリンジで生食液、ヘスパンダー、アルブミン溶液、牛血の4種類の液を各20mlずつ、薬液注入ポート72bからワンショットで注入した。心内血流入ポート50からの血液の注入は、今回の実験系に影響しないことが確認できたため、省略した。表1に示すように、導管90の内径によって、各薬液ともに液溜まりが改善されることが判る。
【0024】
【表1】

(○:液溜まり無し、×:液溜まり発生)
【0025】
この表から、導管90の内径が20mm以上に設定することが確認できたため、薬液導管の下端開口面積は、内径20mmの導管断面の1/2の面積が必要になると想定し、隔壁91を中心からずらし、薬液導管側が広くなるように設計すると共に、血液導管部の断面を機能を損なわないように調整した結果、導管部の内径は17mm以上、必要であることが確認された。また、その際の隔壁は図2に示されるように、中心軸から2mmほど、血液導管部側にずれた構成となった。
【実施例2】
【0026】
上記で液溜まりが解消されたカーディオトミー、即ち導管部内径が17mmで、且つ隔壁91が中心軸から、2mmほど血液導管部側にずらして形成された導管部を設けたものを使用し、薬液注入ポート72aから、注入する牛血の速度を100ml/min〜500ml/minの範囲で変更させ、液溜まりの効果を調べた結果を表2に示す。薬液注入ポート72bから、注入するワンショットの薬液は、実施例1と同様に、生食液、ヘスパンダー、アルブミン、牛血の4種類で、それぞれ20mlずつ、注入した。また、薬液注入ポート72bからの各種薬液の注入方法を、ワンショット、落差、ポンプによる送液の3種類に変更し、液溜まりの効果に影響が無いかを確認した。この場合、薬液注入ポート72aから、注入する牛血の速度は100ml/minに固定した。
【0027】
【表2】

〔但し、表中の注入速度(薬液)は、薬液注入ポート72aからの注入速度を表す。〕
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、人工心肺分野に使用される貯血槽において、有用な技術である。
【符号の説明】
【0029】
2. カーディオトミー
10. フィルタ
20. 消泡材
30. カーディオトミー部
31. フィルタ
32. 消泡材
33. (上部)樹脂盤
34. (下部)樹脂盤
35. 貫通孔
36. 導管
36a. 血液導管部
36b. 薬液導管部
37. 混合容器
38. 混合容器
39. 血液流路
40. 薬液流路
41. 開口
42. 血液(心内血)
43. 心内血流入ポート
44. 薬液
45. 薬液注入ポート
50. 心内血流入ポート
60. 樹脂盤
61. 貫通孔
72. 薬液流入ポート
72a. 薬液流入ポート1
72b. 薬液流入ポート2
90. 導管
91. 隔壁
92.
93. 血液流路
94. 血液導管部
95. 薬液流路
96. 薬液導管部
97. (薬液導管部の)下端開口面97
98. 血液導管部の(薬液導管部下端の開口面)に対応する部位の水平断面
200.容器
201. 血液流路
202. 薬液流路
211. 血液
212. 薬液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に心内血流入ポート及び薬液注入ポートを備え、下端に血液流出ポートを備えたハウジングと、前記ハウジング内に配置されたカーディオトミー部と、前記心内血流入ポート及び前記薬液注入ポートと連通し、前記心内血流入ポートからの血液及び前記薬液注入ポートからの薬液を前記カーデイオトミー部内に流入させる導管とを有し、前記導管が、前記カーデイオトミー部内に上方から下方に向かって挿入された貯血槽であって、前記導管内に、前記血液が流れる血液流路と前記薬液が流れる薬液流路とが互いに独立して形成されており、上下方向において、前記血液流路を形成する血液導管部の下端は、前記薬液流路を形成する薬液導管部の下端よりも下側に位置しており、薬液導管部の水平方向の断面は上から下方向に向かうにつれて、徐々に減少し、且つ薬液導管部の下端の開口面は、対応する部位の血液導管部の水平方向での断面よりも大きく形成されていることを特徴とする貯血槽である。
【請求項2】
前記薬液導管部下端の開口面と、対応する部位の血液導管部断面の面積比率が1.5〜2.5の範囲にある請求項1記載の貯血槽。
【請求項3】
前記薬液導管部下端の開口面積が、120〜150mm2である請求項1記載の貯血槽。
【請求項4】
前記薬液導管部下端の開口面における導管内径が、17mm以上である請求項1〜3のいずれかの項に記載の貯血槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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