説明

貯血槽

【課題】第1のポートおよび第2のポートにそれぞれチューブを接続して引き回す際に、その引き回しを容易に行なうことができるとともに、使用する各チューブの長さをできる限り短く抑えることができる貯血槽を提供すること。
【解決手段】貯血槽1は、上部に板状の天板21を有し、血液が一時的に貯留されるハウジング2と、天板21に配置され、ハウジング2内に連通し、ハウジング2内に向かって大静脈からの血液が流入する第1のポート3と、天板21の第1のポート3と異なる位置に配置され、ハウジング2内に連通し、ハウジング内に向かって大静脈以外の血管からの血液が流入する第2のポート4a〜4cと、第1のポート3を天板21に対しその面方向に移動可能に支持する第1の支持機構6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯血槽に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば心臓外科手術においては、送血ポンプを作動して患者の大静脈より脱血し、人工肺によりガス交換を行なった後、この血液を再び患者の動脈に戻すという体外血液循環が行なわれる。
【0003】
体外血液循環を行なう回路としては、大静脈からの血液が通過する脱血ラインと、脱血ラインを通過した血液に対しガス交換を行なう人工肺と、人工肺でガス交換された血液を動脈へ移送する送血ラインとを有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の回路は、さらに、術野(心臓外)に溜まった血液を吸引する吸引ラインと心臓の内部に溜まった血液を吸引するベントラインとが設けられている。
【0004】
このような構成の回路には、脱血ライン、吸引ライン、ベントラインが接続され、各ラインを通過した血液を一時的に貯留しておく貯血槽が設けられている。さらに、この貯血槽には、例えば、プライミングライン、輸液ライン等も接続される場合もある。従って、貯血槽には、各ラインが接続される接続ポートが設けられているが、これらの接続ポートは、固定的に設けられているものであるため、接続されるライン、すなわち、チューブの接続方向や位置も1つに定まってしまう。そのため、チューブを引き回した際に当該チューブ同士が絡み合ったりして、所望のチューブへの操作(例えばクランプや鉗子による圧閉)を確実に行なうのが困難となり、操作が煩雑となるおそれがあった。
【0005】
また、チューブ同士の絡み合いをできる限り抑制するのに、当該チューブ同士が離間し合うことができるように、各チューブの長さを比較的長めに確保する場合がある。この場合、各チューブの長さが長くなった分、回路内での血液の総量、すなわち、患者から脱血される血液の総量が増大してしまい、患者への負担も増大するおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−165878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、第1のポートおよび第2のポートにそれぞれチューブを接続して引き回す際に、その引き回しを容易に行なうことができるとともに、使用する各チューブの長さをできる限り短く抑えることができる貯血槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(10)の本発明により達成される。
(1) 上部に板状の天板を有し、血液が一時的に貯留されるハウジングと、
前記天板に配置され、前記ハウジング内に連通し、該ハウジング内に向かって大静脈からの血液が流入する第1のポートと、
前記天板の前記第1のポートと異なる位置に配置され、前記ハウジング内に連通し、該ハウジング内に向かって大静脈以外の血管からの血液が流入する少なくとも1つの第2のポートと、
前記第1のポートを前記天板に対しその面方向に移動可能に支持する支持機構とを備えることを特徴とする貯血槽。
【0009】
(2) 前記支持機構は、前記天板に形成された溝を有し、
前記第1のポートは、前記溝に挿入される管状をなす部材で構成され、前記溝の形成方向に沿って移動し得る上記(1)に記載の貯血槽。
【0010】
(3) 前記支持機構は、前記第1のポートが前記溝を移動する際に、その移動を補助する補助部を有する上記(1)または(2)に記載の貯血槽。
【0011】
(4) 前記補助部は、前記天板の裏面側に該天板と対向して配置された裏板と、該裏板に設けられ、前記第1のポートの下端部が摺動し得るレール部とを有する上記(3)に記載の貯血槽。
【0012】
(5) 前記補助部は、前記天板の裏面側に該天板と対向して配置され、前記第1のポートの下端部を回動可能に支持する裏板を有する上記(3)に記載の貯血槽。
【0013】
(6) 前記溝は、平面視で円弧状をなし、その円弧の中心は、前記第2のポート側に位置する上記(2)ないし(5)のいずれかに記載の貯血槽。
【0014】
(7) 前記天板は、その長手方向の長さと幅方向との長さが異なるものであり、
前記溝は、その一端と他端とが前記天板の幅方向の両側にそれぞれ位置する上記(2)ないし(6)のいずれかに記載の貯血槽。
【0015】
(8) 前記支持機構は、前記溝を気密的に封止し、前記第1のポートが移動する際に伸縮自在なシャッタ部材を有する上記(2)ないし(7)のいずれかに記載の貯血槽。
【0016】
(9) 前記第2のポートを前記第1のポートと独立して回動支持する回動支持機構をさらに備える上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の貯血槽。
【0017】
(10) 前記第1のポートは、管状をなす部材で構成され、その中心軸回りに回動可能に構成されている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の貯血槽。
【0018】
また、本発明の貯血槽では、前記溝は、平面視で直線状をなすのが好ましい。
また、本発明の貯血槽では、前記第1のポートは、管状をなす部材で構成され、その長手方向の途中が前記第2のポート側に向かって屈曲しているのが好ましい。
【0019】
また、本発明の貯血槽では、前記第2のポートは、複数配置されており、該複数の第2のポートは、前記回動支持機構により一括して同じ方向に回動し得るのが好ましい。
【0020】
また、本発明の貯血槽では、前記ハウジングの側面の一部には、該ハウジング内に貯留された血液の液量を示す目盛りが付されており、
前記目盛りを正面にして見たとき、前記第1のポートは、その前記天板に対する位置に関わらず前記第2のポートよりも手前側に位置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1のポートおよび第2のポートにそれぞれチューブを接続して引き回すことができる。その際に、接続されるチューブの本数や、チューブがどのポートに接続されるか等の使用条件に応じて、第1のポートの第2のポートに対する位置を適宜変更することができる。これにより、各チューブに対する前記引き回しを容易に行なうことができる。
【0022】
また、各チューブが整然と配置されることとなり、当該チューブの長さをできる限り短く抑えることもできる。これにより、例えば貯血槽を体外循環回路に組み込んだ場合、当該回路内を循環する血液の総量、すなわち、患者から脱血される血液の総量もできる限り抑制することができ、結果、患者への負担も減少する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の貯血槽を用いた体外循環回路の構成例を示す図である。
【図2】本発明の貯血槽の第1実施形態を示す部分縦断面図である。
【図3】図2中の矢印A方向から見た図(平面図)である。
【図4】図2中の矢印A方向から見た図(平面図)である。
【図5】図1に示す貯血槽における支持機構の一部を示す斜視図面図である。
【図6】本発明の貯血槽(第2実施形態)の平面図である。
【図7】図6に示す貯血槽における第1のポートおよび支持機構を示す縦断面図である。
【図8】本発明の貯血槽(第3実施形態)の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の貯血槽を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の貯血槽を用いた体外循環回路の構成例を示す図、図2は、本発明の貯血槽の第1実施形態を示す部分縦断面図、図3および図4は、それぞれ、図2中の矢印A方向から見た図(平面図)、図5は、図1に示す貯血槽における支持機構の一部を示す斜視図面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1、図2および図5中(図7についても同様)の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。また、図1〜図4(図6および図7についても同様)の左側を「左」、右側を「右」と言う。
【0025】
図1に示すように、貯血槽1は、例えば心臓外科手術で用いられる体外循環回路100に組み込むことができ、患者H1の大静脈から脱血した血液を一時的に貯留しておく貯血槽と、大静脈以外の血管、すなわち、心臓外からの吸引血および心臓内からのベント血を一時的に貯留しておく貯血槽(カーディオトミーリザーバ)が一体になったものである。
【0026】
体外循環回路100は、貯血槽1の他に、チューブ80、81、84、88および89と、ポンプ82、83および85と、人工肺86と、動脈フィルタ87とを備えている。そして、心臓外科手術においては、患者H1から血液を脱血し、人工肺86によりガス交換を行なった後、この血液を再び患者H1の動脈に戻すという体外血液循環が行なわれる。
【0027】
チューブ84は、貯血槽1と患者H1の大静脈とを接続する脱血ラインとして機能し、大静脈から脱血された血液が通過する。
【0028】
チューブ80は、貯血槽1と患者H1の心臓の内部(特に左心房、左心室)とを接続するベント吸引ラインとして機能し、ポンプ83によって吸引された血液(以下、「ベント血」と言う)が通過する。このベント血は、血液以外の脂肪球、組織片、変性蛋白、凝集塊等の異物の含有量が少なく、比較的損傷の少ない血液である。また、ベント血は、気泡の含まれる量も比較的少ない。なお、チューブ80の途中には、例えばローラポンプで構成されたポンプ83が設置されている。このポンプ83の作動により、チューブ80内にベント血を確実に吸引することができる。
【0029】
チューブ81は、貯血槽1と患者H1の心腔(胸腔)内等の術野(心臓の外部)とを接続する心腔(胸腔)内吸引ラインとして機能し、ポンプ82によって吸引された血液(以下、「吸引血」と言う)が通過する。この吸引血は、前述したような異物の含有量が比較的多い。また、吸引血は、気泡の含まれる量も比較的多い。なお、チューブ81の途中には、例えばローラポンプで構成されたポンプ82が設置されている。このポンプ82の作動により、チューブ81内に吸引血を確実に吸引することができる。
【0030】
チューブ88は、人工肺86と患者H1の動脈とを接続する送血ラインとして機能し、人工肺86で酸素付加された血液が通過して、動脈内に送られる。なお、人工肺86は、例えば多数本の中空糸膜を有し、各中空糸膜を介して血液とガスとの間でガス交換、すなわち酸素加、脱炭酸ガスが行なうよう構成されている。また、チューブ88の途中には、動脈フィルタ87が設置されている。
【0031】
チューブ89は、貯血槽1と人工肺86とを接続する中継ラインとして機能し、ポンプ85によって貯血槽1から吸引された血液が通過する。なお、チューブ89の途中には、例えばローラポンプで構成されたポンプ85が設置されている。このポンプ85の作動により、チューブ89内の血液を確実に送血することができる。
【0032】
図2〜図4に示すように、貯血槽1は、ハウジング2と、第1のポート3と、第2のポート4a、4b、4cと、第3のポート5と、第1のポート3をハウジング2に対して移動可能に支持する第1の支持機構(支持機構)6と、第2のポート4a〜4cをハウジング2に対して回動可能に支持する第2の支持機構(回動支持機構)7と、濾過消泡装置9aと、濾過消泡装置9bとを備えている。以下、各部の構成について説明する。
【0033】
図2に示すように、ハウジング2は、上部に設けられた板状をなす天板21と、下部に設けられ、互いに高さが異なる2枚の板状をなす底板22aおよび22bと、天板21と底板22a、22bとを連結する側板23とを有する箱状をなす部材である。天板21と底板22a、22bと側板23とで囲まれた空間は、血液を一時的に貯留する貯留空間24となっている。
【0034】
図3、図4に示すように、天板21は、平面視で小判状をなす、すなわち、長手方向(図中の左右方向)の長さと幅方向(図中の上下方向)との長さが異なるものである。
【0035】
図1に示すように、側板23(側面)の右側の部分には、貯留空間24(ハウジング4)内に貯留された血液の液量を示す目盛り25が付されている。体外循環回路100を操作する操作者H2は、目盛り25で貯血量を確認することができる。
【0036】
なお、貯血槽1は、操作者H2が目盛り25を正面にして見たとき、貯血槽1のさらに奥側に患者H1が見えるように、配置される(図1参照)。以下、この配置を「使用配置」と言う。
【0037】
底板22aは、底板22bの左側で、底板22bよりも下方に位置している。また、底板22bは、底板22a側に向かって傾斜している。これにより、底板22b上に血液が残留した場合、その血液を底板22a側に向かって確実に流下させることができる。そして、その流下した血液は、第3のポート5から排出されることとなる。
【0038】
ハウジング2、第1のポート3、第2のポート4a〜4c、第3のポート5の構成材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル−スチレン共重合体、アクリル−ブタジエン−スチレン共重合体等を挙げることができ、このなかでも特に、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0039】
また、ハウジング2は、貯血量や内部の血液の状態を目視で確認することができるように、実質的に透明であるのが好ましい。
【0040】
ハウジング2の天板21の底板22aが対向する部分には、第1のポート3が配置されている。そして、この第1のポート3は、第1の支持機構6により、天板21に対しその面方向に移動可能に支持されている。一方、ハウジング2の天板21の第1のポート3と異なる位置、すなわち、底板22bが対向する部分には、第2のポート4a〜4cが配置されている。これらの第2のポート4a〜4cは、第2の支持機構7により、天板21に対しその面方向と平行に回動可能に支持されている。
【0041】
図2に示すように、第1のポート3は、管状をなす部材で構成されている。また、第1の支持機構6は、天板21に当該天板21を貫通して形成された溝(カム溝)211を有している。そして、第1のポート3は、その下端部33が溝211に挿入されて、当該溝211の形成方向に沿って移動することができる(図3参照)。
【0042】
第1のポート3の上端部31には、チューブ84の一端部が接続される。また、第1のポート3は、その下端開口32がハウジング2の貯留空間24に臨んで(開口して)おり、当該貯留空間24に連通した状態となっている。これにより、患者H1の大静脈からの血液は、チューブ84、第1のポート3を順に通過して、貯留空間24内に流入することができる。
【0043】
第1のポート3は、その長手方向の途中に第2のポート4a〜4c側に向かって屈曲した屈曲部34を有している。これにより、図1に示す使用配置では、第1のポート3の上端部31が患者H1側に向かって傾斜することとなり、第1のポート3に接続されたチューブ84を患者H1に容易に向かわせることができる。また、第1のポート3と患者H1とを、できる限り短い長さのチューブ84で接続することができる。
【0044】
図3、図4に示すように、第1の支持機構6を構成する溝211は、平面視で円弧状をなし、その一端212と他端213とが天板21の幅方向の両側にそれぞれ位置するよう形成されている。また、円弧状をなす溝211は、その円弧の中心が第2のポート4a〜4c側に位置する。このように形成された溝211に沿って第1のポート3が移動することができる。これにより、第1のポート3と第2のポート4a〜4cとの位置関係を変更することができる。以下、これについて、図3を参照しつつ説明する。なお、第2のポート4a〜4cは、第2の支持機構7により回動可能であるが、図3では、代表的に右側(患者H1側)を向いた状態となっている。
【0045】
図3(a)に示す状態では、第1のポート3は、溝211の最も一端212側に来ており、貯血槽1を矢印B方向から見て(目盛り25を正面にして見たとき)、第2のポート4a〜4cのうちの第2のポート4a側に位置している。
【0046】
図3(b)に示す状態では、第1のポート3は、溝211の長手方向の中央部に来ており、貯血槽1を矢印B方向から見て、第2のポート4a〜4cのうちの第2のポート4bと重なっている。
【0047】
図3(c)に示す状態では、第1のポート3は、溝211の最も他端213側に来ており、貯血槽1を矢印B方向から見て、第2のポート4a〜4cのうちの第2のポート4c側に位置している。
【0048】
体外循環回路100を構成するには、第1のポート3にチューブ84を接続し、第2のポート4a〜4cのうちの1つのポート(図1に示す構成では第2のポート4a)にチューブ81を接続し、他の1つのポート(図1に示す構成では第2のポート4c)にチューブ80を接続する。そして、チューブ80、81、84同士が絡み合わない(交差しない)ように引き回す。その際に、体外循環回路100では、接続されるチューブの本数や、チューブがどのポートに接続されるか、患者H1の位置等の使用条件に応じて、前述したようにポート同士の位置関係を適宜変更することができる。これにより、操作者H2がチューブ80、81、84に対する前記引き回しを容易に行なうことができる。なお、第2のポート4bには、プラグ(図示せず)が挿入されており、第2のポート4bを液密に封止している。
【0049】
また、チューブ80、81、84も整然と配置されることとなり、チューブ80、81、84の長さをできる限り短く抑えることもできる。これにより、体外循環回路100内を循環する血液の総量、すなわち、患者H1から脱血される血液の総量もできる限り抑制することができ、結果、患者への負担も減少する。
【0050】
また、操作者H2は、貯血槽1の目盛り25を見ながら、当該貯血槽1に流入する血液量を調整する場合がある。この場合、例えばチューブ84をクランプや鉗子等で圧閉することがある。前述したようにチューブ80、81、84同士が絡み合わないように引き回されているため、圧閉すべきチューブ84を確実に選択することができ、よって、その圧閉操作を行なうことができる。
【0051】
さらに、貯血槽1では、図3(a)〜(c)に示すいずれの状態でも、すなわち、第1のポート3の溝211(天板21)に対する位置に関わらず、第1のポート3は、貯血槽1を矢印B方向から見て、第2のポート4a〜4cよりも手前側に位置する。チューブ80、81、84のうち、最も圧閉操作が行われるのは、チューブ84である。そして、当然に、第1のポート3に接続されるチューブ84も、第2のポート4a〜4cに接続される他のチューブ80、81よりも手前側に位置することとなる。これにより、チューブ84に対する圧閉操作またはその圧閉を解除する操作を迅速に行なうことができる。
【0052】
図2に示すように、溝211の縁部には、壁部214が上方に向かって立設している。また、第1のポート3の下端部33には、その外側からリング状のパッキン(封止部材)35が液密に嵌合している。そして、第1のポート3が溝211に沿って移動する際に、パッキン35が壁部214に密着して、適度な摺動性を保つことができる。パッキン35の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種エラストマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料で構成される。
【0053】
図3、図4に示すように、第1の支持機構6は、溝211を気密的に封止するシャッタ部材61を有している。シャッタ部材61は、多数枚の小片611を重ねて構成されたものであり、隣接する小片611同士が溝211の形成方向に沿ってズレることができる。これにより、シャッタ部材61は、伸縮自在となり、第1のポート3が移動しても、溝211を気密的に封止することができる。よって、例えば埃などの異物が溝211を介して貯留空間24内に侵入するのを確実に防止することができ、当該異物から血液を保護することができる。
【0054】
図2、図5に示すように、第1の支持機構6は、第1のポート3が溝211を移動する際に、その移動を補助する補助部62を有している。補助部62は、ハウジング2の天板21の下側(裏面215側)に配置された裏板621と、裏板621と天板21とを連結する連結部622と、裏板621に設けられたレール部623とで構成されている。
【0055】
裏板621は、天板21と対向して配置されている。この裏板621の第1のポート3の下端開口32が臨む部分には、貫通孔624が形成されている。第1のポート3の下端開口32からの血液は、貫通孔624を介して、貯留空間24内に流下することができる。
【0056】
連結部622は、裏板621の縁部と天板21の裏面215とを連結している。
レール部623は、長尺状をなす板片625、626で構成されている。板片625と板片626とは、第1のポート3の下端部33を介して対向配置されている、すなわち、第1のポート3の下端部33を挟持するように対向配置されている。これにより、第1のポート3が溝211に沿って移動する際に、第1のポート3の下端部33が。板片625と板片626と間で支持されつつ、当該板片625、626を摺動することができ、よって、その移動が安定して行なわれる。
【0057】
前述したように、ハウジング2の天板21には、第2のポート4a〜4cと、第2のポート4a〜4cを回動可能に支持する第2の支持機構7とが配置されている。
【0058】
図2〜図4に示すように、第2のポート4a〜4cは、それぞれ、管状をなす部材で構成され、同じ方向を向いている。また、第2のポート4a〜4cは、それぞれ、同じ高さに配置されている。そして、第2の支持機構7により、第2のポート4a〜4cが一括して同じ方向に回動することができる。
【0059】
第2の支持機構7は、天板21に当該天板21を貫通して円形状に形成された貫通孔216と、貫通孔216に液密に嵌合し、第2のポート4a〜4cの根元部を支持する支持部71とを有している。
【0060】
支持部71は、外形形状が円板状をなし、その外周部に第2のポート4a〜4cが支持されている。図4に示すように、支持部71がその軸回りに貫通孔216内で回動することにより、その回転方向に第2のポート4a〜4cを第1のポート3と独立して一括回動させることができる。なお、第2の支持機構7は、支持部71(第2のポート4a〜4c)の回動限界を規制する回転限界規制手段(図示せず)を有しており、支持部71の回動可能角度は、図4に示す構成では180度である。図4(a)に示す状態では、第2のポート4a〜4cは、図中の上方を向いている。図4(b)に示す状態では、第2のポート4a〜4cは、図中の右側を向いている。図4(c)に示す状態では、第2のポート4a〜4cは、図中の下方を向いている。
【0061】
このように第2のポート4a〜4cが回動可能であることと、前述した第1のポート3が移動可能であることとの相乗効果により、チューブ80、81、84を引き回す際に、前述した第1のポート3と第2のポート4a〜4cとの位置関係を変更することができる。ポート同士の位置関係は、例えば、図3(a)〜(c)に示す各状態と、図4(a)〜(c)に示す各状態との組み合わせの中から適宜選択される。
【0062】
これにより、第1のポート3に接続されるチューブ84と、第2のポート4aに接続されるチューブ81との絡み合いを確実に防止することができるとともに、チューブ84と、第2のポート4cに接続されるチューブ80との絡み合いも確実に防止することができる。その結果、操作者H2がチューブ80、81、84に対する前記引き回しをより容易に行なうことができる。
【0063】
また、支持部71は、中空体で構成され、その中空部711と第2のポート4a〜4cが連通している。これにより、第2のポート4a〜4cは、中空部711を介して、ハウジング2の貯留空間24と連通した状態となる。これにより、患者H1からの吸引血は、チューブ81、第2のポート4a、中空部711を順に通過して、貯留空間24内に流入することができ、ベント血は、チューブ80、第2のポート4c、中空部711を順に通過して、貯留空間24内に流入することができる。
【0064】
支持部71の外周部には、リング状のパッキン(封止部材)712が装着されている。支持部71では、このパッキン712が天板21に形成された貫通孔216の縁部(内周部)に液密に嵌合することができる。これにより、第2のポート4a〜4が支持部71ごと回転する際に、パッキン712が貫通孔216の縁部に密着して、貯留空間24内の気密性、液密性を良好に維持するとともに、適度な摺動性を保つこともできる。パッキン712の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、パッキン35の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0065】
また、支持部71の外周部には、パッキン712と異なる位置に、外径が拡径したフランジ部72が形成されている。フランジ部72は、天板21に突出形成された突部26に係合している。これにより、支持部71が天板21から離脱するのを防止することができる。
【0066】
支持部71の上部には、複数(本実施形態では4つ)の輸液ポート73a、73b、73c、73dが上方に向かって突出形成されている。輸液ポート73〜73dは、支持部71の軸回り(回転中心回り)に等角度間隔に配置されている。輸液ポート73〜73dは、それぞれ、管状をなし、支持部71の中空部711と連通している。これにより、輸液ポート73〜73dのうちの任意のポートから輸液やプライミング液を貯留空間24内に供給することができる。
【0067】
図2に示すように、ハウジング2の底板22aには、下方に向かって第3のポート5が突出形成されている。第3のポート5は、管状をなし、ハウジング2の貯留空間24に連通している。これにより、貯留空間24内の血液を第3のポート5から排出することができる。
【0068】
また、貯血槽1には、貯留空間24に流入した血液中に含まれる異物および気泡を除去する2つの濾過消泡装置9aおよび9bが設置されている。濾過消泡装置9aは、大静脈から脱血した血液に含まれる気泡や異物を除去するものである。また、濾過消泡装置9bは、ベント血や吸引血に含まれる気泡や異物を除去するものである。
【0069】
濾過消泡装置9a、9bは、それぞれ、袋状をなすフィルタ部材91と、フィルタ部材91内に収納された消泡部材92とを有している。
【0070】
濾過消泡装置9aのフィルタ部材91は、その上端部(開口部)が裏板621に支持されている。一方、濾過消泡装置9bのフィルタ部材91は、その上端部が支持部材27を介して天板21に支持されている。
【0071】
また、各フィルタ部材91の素材は、十分な血液の透過性を有する多孔質材料で構成される。このような多孔質材料としては、メッシュ状のもの、織布、不織布等が挙げられ、これらを単独でまたは任意に組み合わせて(特に積層して)用いることができる。特に、フィルタ部材91としては、不織布を含んでいるのが好ましく、その構成材料としては、PET、PBTのようなポリエステル、ポリアミド、テトロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の高分子材料、あるいはこれらのうちの2以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0072】
各消泡部材92は、それぞれ、消泡剤(例えばシリコーン)を担持した発泡体(例えば発泡ポリウレタン)であり、気泡が接触すると破泡するような機能を有する。
【0073】
<第2実施形態>
図6は、本発明の貯血槽(第2実施形態)の平面図、図7は、図6に示す貯血槽における第1のポートおよび支持機構を示す縦断面図である。
【0074】
以下、これらの図を参照して本発明の貯血槽の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0075】
本実施形態は、第1のポートおよび第1の支持機構の構成が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0076】
図7に示すように、貯血槽1では、第1のポート3は、パッキン35の直下付近を境界部として、それよりも上方に位置する上側部材37と、下方に位置する下側部材38とに分けることができる。上側部材37と下側部材38とは、互いに回動可能に連結されている。
【0077】
下側部材38(下端部33)には、パッキン(封止部材)36が装着されている。このパッキン36は、下側部材38にその外側から液密に嵌合している。また、第1の支持機構6を構成する裏板621には、パッキン36が液密に嵌合する貫通孔627が形成されている。これにより、下側部材38は、裏板621で回動可能に支持される。
【0078】
以上のような構成により、上側部材37が溝211に沿って移動した際、その移動に連動して下側部材38が回動する(図6参照)。これにより、溝211を覆うシャッタ部材61を省略することができる。
【0079】
また、第1のポート3も、それ自体が独立して回動する、すなわち、下端部33の中心軸回りに回動可能に構成されている。これにより、図6に示すように、第1のポート3が溝211に沿って移動した際、その位置によらず、上端部31の方向を規定する、すなわち、上端部31が患者H1側(右側)を向くよう構成することができる。これにより、例えば、上端部31に接続されたチューブ84が患者H1に容易かつ確実に向かうこととなり、よって、チューブ84の長さをできる限り短く抑えることができる。
【0080】
<第3実施形態>
図8は、本発明の貯血槽(第3実施形態)の平面図である。
【0081】
以下、この図を参照して本発明の貯血槽の第3実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0082】
本実施形態は、第1の支持機構の構成が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0083】
図8に示す貯血槽1では、第1の支持機構6の溝211は、平面視で直線状をなしている。この構成は、第1のポート3を直線的に移動させたい場合に有効な構成となる。また、操作者H2から3つのポートが遠ざからず、操作し易いと言う利点もある。
【0084】
以上、本発明の貯血槽を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、貯血槽を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0085】
また、本発明の貯血槽は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0086】
また、第1の支持機構のシャッタ部材は、前記各実施形態では多数枚の板片を重ねて構成されたものであるが、これに限定されず、蛇腹状をなす部材で構成されていてもよい。
【0087】
また、第2のポートの設置数は、前記各実施形態では3つであるが、これに限定されず、例えば、1つ、2つまたは4つ以上であってもよい。
【0088】
また、第2の支持機構は、前記各実施形態では3つの第2のポートを一括して回動支持するよう構成されているが、これに限定されず、例えば、各第2のポートをそれぞれ独立して回動支持するよう構成されていてもよい。
【0089】
また、第2の支持機構での第2のポートに対する回動可能角度は、前記各実施形態では180度であるが、これに限定されず、例えば、90度、270度、360度であってもよい。
【0090】
また、第2の支持機構は、第2のポートの水平方向に対する傾斜角度を変更することができるよう構成されていたり、斜め上方を向いていてもよい。
【0091】
また、第1の支持機構と第2の支持機構とは、前記各実施形態では互いに独立して作動するよう構成されているが、これに限定されず、例えば、互いに連動して作動するよう構成されていてもよい。
【0092】
また、貯血槽では、第2の支持機構を省略することもできる。この場合、第2のポートは、ハウジングに対し固定された状態となる。
【符号の説明】
【0093】
1 貯血槽
2 ハウジング
21 天板
211 溝(カム溝)
212 一端
213 他端
214 壁部
215 裏面
216 貫通孔
22a、22b 底板
23 側板
24 貯留空間
25 目盛り
26 突部
27 支持部材
3 第1のポート
31 上端部
32 下端開口
33 下端部
34 屈曲部
35、36 パッキン(封止部材)
37 上側部材
38 下側部材
4a、4b、4c 第2のポート
5 第3のポート
6 第1の支持機構(支持機構)
61 シャッタ部材
611 小片
62 補助部
621 裏板
622 連結部
623 レール部
624 貫通孔
625、626 板片
627 貫通孔
7 第2の支持機構(回動支持機構)
71 支持部
711 中空部
712 パッキン(封止部材)
72 フランジ部
73a、73b、73c、73d 輸液ポート
80 チューブ
81 チューブ
82 ポンプ
83 ポンプ
84 チューブ
85 ポンプ
86 人工肺
87 動脈フィルタ
88 チューブ
89 チューブ
9a、9b 濾過消泡装置
91 フィルタ部材
92 消泡部材
100 体外循環回路
H1 患者
H2 操作者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に板状の天板を有し、血液が一時的に貯留されるハウジングと、
前記天板に配置され、前記ハウジング内に連通し、該ハウジング内に向かって大静脈からの血液が流入する第1のポートと、
前記天板の前記第1のポートと異なる位置に配置され、前記ハウジング内に連通し、該ハウジング内に向かって大静脈以外の血管からの血液が流入する少なくとも1つの第2のポートと、
前記第1のポートを前記天板に対しその面方向に移動可能に支持する支持機構とを備えることを特徴とする貯血槽。
【請求項2】
前記支持機構は、前記天板に形成された溝を有し、
前記第1のポートは、前記溝に挿入される管状をなす部材で構成され、前記溝の形成方向に沿って移動し得る請求項1に記載の貯血槽。
【請求項3】
前記支持機構は、前記第1のポートが前記溝を移動する際に、その移動を補助する補助部を有する請求項1または2に記載の貯血槽。
【請求項4】
前記補助部は、前記天板の裏面側に該天板と対向して配置された裏板と、該裏板に設けられ、前記第1のポートの下端部が摺動し得るレール部とを有する請求項3に記載の貯血槽。
【請求項5】
前記補助部は、前記天板の裏面側に該天板と対向して配置され、前記第1のポートの下端部を回動可能に支持する裏板を有する請求項3に記載の貯血槽。
【請求項6】
前記溝は、平面視で円弧状をなし、その円弧の中心は、前記第2のポート側に位置する請求項2ないし5のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項7】
前記天板は、その長手方向の長さと幅方向との長さが異なるものであり、
前記溝は、その一端と他端とが前記天板の幅方向の両側にそれぞれ位置する請求項2ないし6のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項8】
前記支持機構は、前記溝を気密的に封止し、前記第1のポートが移動する際に伸縮自在なシャッタ部材を有する請求項2ないし7のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項9】
前記第2のポートを前記第1のポートと独立して回動支持する回動支持機構をさらに備える請求項1ないし8のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項10】
前記第1のポートは、管状をなす部材で構成され、その中心軸回りに回動可能に構成されている請求項1ないし9のいずれかに記載の貯血槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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